暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ついに発見された悪夢の根元。

東の地を苦しめ続けた最悪の遺跡。

其処にライザは踏み込み、暴きます。

まさに悪鬼の所業を。


3、東の地の遺跡へ

激烈な死闘の末、集まっていた魔物はあらかた片付いた。だけれども、侍衆も忍び衆も限界だ。

 

全員手酷く負傷し、傷を治した今もしばらくは動かない方が良いだろう。

 

というわけで、あたし達で超ド級と神代鎧を潰さなければならないわけだが。これは前にも経験がある。

 

だからこそ、やりたくはなかったのだが。

 

ちなみに、今遺跡の前に居座っている超ド級は、侍衆も知らないそうである。大鬼として知られていないと言う事は、此処を守る事をずっと続けて来た個体とみて良いだろう。それに、彼奴一体とは限らない。

 

フェデリーカはばて気味だし。

 

何より以前神代鎧に串刺しにされた事がある。

 

かといって、神代鎧と超ド級を同時に相手にするのは自殺行為だ。さてどうするものかと考えていたが。

 

安東さんが来る。

 

昨日までの死闘で、二体の子鬼を新たに討ち取った。確かに未来を熱望される技の冴えである。

 

例のぼーっとしている侍は三体を倒したが。あの人はなんというか、人を指導するとかそういうのに興味が無さそうだし、戦いに対する取り組みもやれることだけをやっているだけに見える。

 

だから安東さんが将来を期待されているのだろう。

 

若いうちから将来有望な侍は、昔からこうやって経験を積むように周囲の大人達が仕向けてきたらしいし。

 

少しずつ、安東さんも修羅場を潜った成果が出ているようでもある。

 

「ライザリンどの。 あの神代鎧というあやかしの放つ遠距離攻撃が厄介だと聞き申した」

 

「はい。 近接戦闘もかなり厳しい相手なのですが。 日を置くと、また魔物が集まってくる可能性もありますし」

 

「ならばこれを使いたい」

 

竹を束ねたものを安東さんは見せてくる。

 

この地では置き盾以外にも、これを使う事があるらしい。

 

勿論竹を束ねただけでは、ハイチタニウムの投擲槍は防げないだろう。そこで、竹には防御強化の魔術を掛けられるだけ掛け。

 

ついでに攻撃を受けると、意図的に自分から爆ぜるようにもしてあるのだとか。

 

なるほど、一回だけなら受けられる盾か。

 

それを幾つか用意してあると。

 

「分かりました。 侍衆が十五人、一人あたり二回くらいは受けられるとすれば、フェデリーカを守るのは難しく無さそうですね」

 

「最悪の場合は、我等を盾になされよ」

 

「いえ、この竹盾がもっている間に勝負を決めます」

 

敵の数は見えている範囲だけでも相当に危険な水準だ。もたついている訳にはいかないのである。

 

ついでにあの遺跡、内部に超ド級が全部格納されている可能性が高い。この地では奴らが帰ったときに「封印した」という名目にしていたらしいが、ベヒィモスと戦って分かった。

 

単に力尽きて戻っただけだ。

 

あのサマエルという悪魔もどきは、この土地に何年いて、いつから超ド級の面倒を見ていたのか分からないが。

 

はっきりしているのは、順番に力の充填が終わった超ド級を繰り出して、この地の人々を消耗させていた。

 

焦って総攻撃でも仕掛けて来てくれれば、一気に勝機が得られる。

 

だからずっと強力な魔物を繰り出し続けて、圧力を加え続けていた。

 

例の一族の人達が加わっても、それを続けるだけで充分にこの地に圧力は与えられていたのだろう。

 

だが、それも今日までだ。

 

恐怖に怯える人々を指さして、劣等血統だのとほざき嘲笑う輩に、なんら正当性などない。お前が地獄に落ちろとだけあたしは心中で呟く。

 

あの遺跡も潰す。

 

さて、殺意を確認した所で。次は具体的な攻略作戦だ。

 

遺跡の前にいる超ド級と神代鎧は、既にこっちに気付いている。まああれだけ派手にやり合ったのだから当然だ。

 

警戒態勢に入っている敵を、どう分断するか。

 

侍の中には、少し回復するのを待ってから、一斉に仕掛けてはどうかと提案してくる者もいたが。

 

敢えて被害が増える戦い方を選択する理由は無い。

 

此処にいる侍達の戦いぶりは、三度の遠征で見せてもらった。いずれもが、東の地の未来に必要な人達だ。

 

無為に死なせることがあってはならないのだ。

 

「地形が悪くて、敵を分断できそうにないね」

 

「確かに前と違って隘路がないな。 ただ隘路があったとしても、敵のあの投げ槍を想定するとかなり厳しいが」

 

手をかざして観察する。

 

敵の神代鎧は、剣だけではなくてやはり槍も装備している。槍は投擲用のもので、本来は畳まれて格納されているようだ。

 

ハイチタニウムは千数百年程度では錆びないので、弱体化や劣化も期待できない。

 

超ド級はとっくに臨戦態勢。

 

あれも基本的にあたし達が総力で懸かるレベルの相手だ。侍衆でも勝てるかも知れないが、最善でも半数以上が死ぬだろう。

 

とにかく、神代鎧の遠距離攻撃を防ぐには、山を盾にするしかない。

 

どうやって神代鎧をまとめて、更には超ド級をうまいこと孤立させるか。

 

遺跡の前は荒野になっていて。

 

こっちは山からそれを見下ろしている状態。

 

前回の戦闘からして、神代鎧による投擲槍の射程は、此処を軽く捕らえており、殺傷力を考えなければもっと遠くまで届くだろう。

 

しばし考えた後、あやめさんが提案をしてきた。

 

「あの者どもは、あの入口を固めているとみた。 それならば手はある」

 

「しかし脱出の手段が……」

 

「いや、俺とパティお嬢様が連携すれば可能だぜ」

 

「お嬢様呼ばわりは止めてください。 それはそれと、確かにそれは有りかも知れないですね」

 

相手は賢くても所詮はからくり。

 

問題は敵の全戦力が見えているだけとは限らないと言う事。

 

更に複数箇所の戦線に負担が掛かることだが。

 

よし、やるしかないか。

 

あたしは、提案されたあやめさんの策にのる。

 

これだったら、恐らく。

 

一番危険が少ないはずだ。

 

 

 

パティはあやめさんとクリフォードさんと一緒に、山を静かに下りる。この三人で行くのには当然理由がある。

 

タオさんも加わってくれると助かったのだけれども、相手は超ド級だ。こっちでいう大鬼である。

 

この鬼と言う言葉も、元々は意味が違っていたらしく。

 

この地の土着信仰における地獄の獄卒だったらしいのだけれども。そもそもそれすらも本来とは意味が違っているそうで。

 

まあ、やはりタオさんがいうように、神代の前に何かしらの破綻した 文明が存在した証拠なのかも知れない。

 

此処はフォウレより更に古い文化が残されている、地上で数少ない楽園なのである。あくまで文化的な意味でだ。

 

そんな場所を、踏みにじらせるわけにはいかない。

 

クラウディアさんが、音魔術で声を届けてくる。

 

「此方配置についたよ」

 

「私達も問題ありません。 あやめさん、体力は問題ありませんか」

 

「あまり侮らないでいただこう」

 

「分かりました。 無理だけはなさらないでください」

 

この策での要はあやめさんだ。

 

パティも、あの強力な神代鎧を複数同時に相手にして、しかも斬り倒す自信はまったくない。

 

ある程度動きは分かってきているから、単騎でなら勝てるが。相手が複数になると話は全く別。

 

武器の扱いも知らないド素人が相手ならともかく。ここまで力量が接近している敵を、一人で同時に複数相手にするのは無理だ。

 

始まった。

 

パティ達は、山裾に身を潜める。

 

此処まであらゆる方法で隠行してきた。アヤメさんの気配の消し方は流石で、多数の魔物を相手に斥候偵察してきた実力がよく分かる。文字通り、練り上げられた技という奴である。

 

だから、敵はパティ達に気付いていない。

 

クラウディアさんが、敵に狙撃開始。

 

超ド級が即応して、飛んできたバリスタみたいな巨大矢を、空中でねじ曲げた。途中で軌道を変えられるクラウディアさんの矢が。明らかに変な方向に飛んだ。

 

これだけだと、魔術による干渉で狂わせたのか。空間や時間の操作なのかは、なんとも判断がつかない。

 

そのまま連続して矢が超ド級魔物に迫る。

 

まず第一段階として、敵に脅威を認定させないと意味がない。

 

連続して、多数の方向から超ド級に襲いかかる矢。

 

その連射は凄まじく、一人で放っているとは思えない。

 

面倒くさくなってきたのか、超ド級が分厚いシールドを張るが。

 

続いて、第二矢。

 

アンペルさんの空間切断が、超ド級を襲う。やはりそれが、変な方向に飛んで外れる。

 

アンペルさんの空間切断は、まっすぐしか飛ばない。というか、制御が難しくて、大技で放っているような箱状に相手を抉る技にしても。そもそも最初に決めた座標にしか放てないようだ。

 

それを考えると、あの軌道を歪める技。

 

空間操作でも時間操作でもないな。

 

魔術に対する干渉だとみて良い。

 

そうなってくると、かなり高度な魔術の筈だ。途中からシールドで防ぎに行ったのも納得である。

 

超ド級が面倒くさそうに動き始める。

 

神代鎧もそれに続く

 

威圧的に動き始める超ド級。その周りを固める神代鎧は、数はおよそ三十。更に、予想通り遺跡の中から、更に神代鎧が現れる。

 

多分それだけじゃない。

 

ライザさんは、最悪ベヒィモス級が出てくると言っていたが。

 

それより小さい超ド級は普通に中に何体かいてもおかしくは無いのである。

 

超ド級が、威圧的に歩く。

 

多数ある足と、体中にある触手を揺らし。多数ある目で、周囲を睥睨しながら。

 

多数の獣を融合させたその姿はおぞましく、生物への冒涜以外の何者でもないが。それでも、強い事だけは確かだ。

 

気配を消して、通り過ぎるのを待つ。

 

ライザさんたちは山を壁にして、クラウディアさんの矢による曲射を敵に続ける。それに対して、既に遺跡の入口に出て来た十体ほどの遠距離戦闘型の神代鎧が、投擲槍で射撃を続け始めている。

 

間近で投げるのを見ると、凄まじい。

 

投げるとき、ドシュッと恐ろしい音がしている。また投擲の瞬間、神代鎧の彼方此方からガスを噴出しているようだ。

 

多分熱をああやって排気しているのだろう。

 

それくらいの熱が、瞬間的に奴らの体内に溢れていると言う事だ。

 

あの凄まじい槍の破壊力も納得出来る。

 

精密性も。

 

神代の錬金術師はカスだが、その技術力は侮れない。

 

そうライザさんは何度も言っていたが。間近で見ると、その凄まじさは、確かに驚嘆させられる。

 

まだだ。

 

うるさがりながらも、徐々に遺跡から離れる超ド級。山の半ばまで来ると、其処で足を止める。

 

大型の魔術を撃とうと言うのか、詠唱を開始。

 

超ド級の必殺魔術というと、隕石のように降り注ぐ火球があるが。アレは実際にとても厄介だ。

 

仕掛けるのは、今か。

 

パティはアヤメさんとともに飛び出す。

 

全力で加速し、一気に遺跡入口まで到達。そして、投擲槍を手にしていた神代鎧を、すれ違い様に二体斬り伏せ。

 

更にこっちに気付いて迎撃に掛かろうとしてきた神代鎧が、剣を手に取ろうとする前に、立て続けに斬り伏せた。

 

この程度では機能停止しないことは分かっている。動きを少しだけ止められるだけ。下手するとすぐに再生してくるが。

 

とにかく、今は一時的に無力化すれば良い。

 

超ド級に随伴していた連中が気付く。

 

しばし戦況を見ていたが、パティが投擲槍の神代鎧をあやめさんとともにあらかた黙らせたのを見て、こっちに戻り始める。超ド級は一度詠唱を止め、こっちに戻ろうと向きを変えるが。

 

その背中にアンペルさんの空間切断が突き刺さりそうになり。

 

五月蠅そうに向きをまた変え直す。

 

そうこうしている間に、あやめさんが準備を終える。それを見て、神代鎧達が殺到してくる。

 

斬り伏せて無力化した神代鎧も、復元しようとやっきになっている状態。更に、遺跡の中から増援の気配もある。

 

この気配、足音からして神代鎧三十以上。いや、もっと増えているとみて良い。

 

あやめさんが設置を終えた。

 

もう少し粘る。

 

わっと、凄まじい勢いで神代鎧が、前後から殺到してくる。

 

「クリフォードさん!」

 

パティが、限界のタイミングで声を掛けると。

 

飛来したブーメラン。

 

あやめさんとともにブーメランに掴まり、殺到してくる神代鎧の恐るべき勢いから逃れる。

 

アレに巻き込まれていたら、秒も持たなかっただろう。

 

そして、ブーメランで離れながら、パティは起爆ワードを唱えていた。

 

ライザさんが最初に完成させた、氷の究極爆弾ラヴィネージュが、次の瞬間炸裂。一瞬にして遺跡の入口を氷漬けにし。

 

そして、殺到していた神代鎧を全部巻き込んでいた。

 

巨大な氷柱がその場に出来るのを見て、あやめさんが呻く。

 

「恐ろしき神域の技だ」

 

「そうですね。 ライザさんは本人の強さもそうですが、あの道具の凄まじさはちょっと底が見えないです」

 

既に神代の技術すら、上回り始めていると聞いている。

 

もはやライザさんが人間の敵ではないことを、今は喜ぶしかないのかもしれなかった。

 

猛烈な冷気が吹き付けてくる。

 

安全な距離まで離れてから起爆したのだが、それでも凄まじい冷気で体が凍りそうになるが。

 

ともかく、ブーメランから飛び降りる。

 

一秒でも早く、皆と合流する必要がある。

 

超ド級が猛り狂って、ライザさん達と交戦を開始していた。彼奴は今まで倒して来たのと同じかそれ以上の実力者だ。

 

「あの鎧の者ども、全ては倒せていないようだが」

 

「それでも動きは止まります。 速攻で大鬼を仕留めます!」

 

「分かった! 私も残りの力を掛けて、速やかに奴を倒す!」

 

速度だけなら、あやめさんもパティに迫る程だ。流石にこの地で次代の忍び衆の長とみられているだけのことはある。

 

超ド級にレントさんが接近戦を挑んでいるのが見えた。

 

あのねじ曲げる魔術をどうにかしないと危ないが。

 

それ以外は、他の超ド級と同じ筈。

 

速攻で仕留める。

 

ライザさんの熱槍と、カラさんの雷撃が、立て続けに超ド級を襲う。それらをシールドで防ぎつつ、地面から襲いかかるセリさんの植物魔術を超ド級は触手で薙ぎ払って見せる。

 

それどころか、跳躍して空から襲いに来る。

 

大質量が着地と同時に周囲を蹂躙。

 

吹っ飛ばされるボオスさんだが、ちゃんと受け身はとっている。だが、追撃に、辺りの地面が薙ぎ払われるのが見えた。

 

レントさんが、避けろと叫ぶ。

 

破壊範囲が凄まじく、山肌の半分ほどが一瞬で壊滅していた。

 

パティが破壊跡を縫って突貫。

 

「遅くなりました!」

 

「いや見事! 全方位から攻撃して、とにかく大技を使わせるな!」

 

「はい!」

 

リラさんは、皆の中で最強の接近戦専門の戦士だ。そんな人に褒めて貰えれば、光栄の極み。

 

フェデリーカの神楽舞の範囲に入ったようで、力がわき上がってくる。

 

地面を踏むと、加速。

 

超ド級はリラさんの猛攻をシールドと触手で防ぎつつ、レントさんとタオさんの攻撃に対して、体から針を突きだして追い払う。

 

更にはライザさんの収束熱槍を、シールドで防いで見せる。

 

かなり強い。

 

それでいながら、あの凄まじい身のこなし。

 

あの攻撃をねじる技と、関係があるのかも知れない。

 

殺気。

 

侍衆が前に出て、飛来した投擲槍を、例の竹盾で防ぐ。盾が爆発して、槍と相討ちになる。

 

もう動き始めている神代鎧がいるのか。

 

パティはすり足で斜め移動を繰り返しながら超ド級に近接。足に抜き打ちを叩き込んでやるが。

 

それは、残像を抉った。

 

いや、違う。

 

何か、陽炎みたいに歪んだみたいな。

 

上。

 

また、真上から超ド級がボディプレスを叩き込んでくる。あわてて飛び離れるが、また周囲に凄まじい破壊が迸り、吹っ飛ばされる。流れに逆らわずに後ろに飛ぶが、侍衆が必死に立ち上がって、竹盾を手にしている。

 

見ると、なんとか動いている神代鎧は三体か四体のようだ。

 

これがすぐに増えていくのが容易に想像できる。六十体くらいはいたのを、一瞬で彼処まで減らせたのだ。

 

それを可とするべきなのか。

 

再び仕掛ける。

 

だが、ライザさんが上空に出たのを見て、即座に後退。ライザさんが、フォトンクエーサーを打ち込みに行くのが分かる。

 

あれに巻き込まれたら、欠片も残らないだろう。

 

投擲されるフォトンクエーサー。いや、違う。だが、それでも超ド級は防御しにいく。あの歪ませる奴だ。

 

わっと、ライザさんが投擲した収束熱槍が、あらぬ方向に飛ぶ。

 

次の瞬間、レントさんが、渾身の一撃を超ド級に叩き込んでいた。

 

大剣の一撃が、超ド級の体の半ばまで食い込み、派手に鮮血が噴き出す。完全に有効打だ。

 

其処にタオさんが追い打ちを掛けて、触手数本を斬り飛ばす。

 

二度の広域攻撃でかなり傷が酷いのに、誰も闘志が衰えていない。

 

また来る投擲槍。

 

侍衆が、必死の防御。

 

悲鳴を上げながらも、超ド級はさがろうとするが。パティは加速。

 

やっぱりだ。

 

どういう原理かは分からないが、真後ろにかなりの距離をいきなり移動している。

 

フェンリルが以前見せた空間跳躍に少し似ているが、原理としては違うのだと思う。しいていうなら、バネみたいに空間を圧縮して、それを攻防に利用しているのか。それにしても、超ド級が切り札として用いているほどの技だ。子鬼が用いるのとは、段違いの高度なものなのだろう。

 

いずれにしても、いち早くパティは超ド級に追いつく。それだけじゃない。

 

超ド級の背中にパティと同じように追いついていたあやめさんが飛びつくと、ライザさんに渡されていた爆弾をくくりつけた小刀を突き刺し、飛び離れる。

 

悲鳴を上げた超ド級が、その爆弾を空間魔術で体ごと抉り取りに行く。おぞましい程の執念だけれども、それはパティに対して完全に無防備になることを意味していた。

 

侍衆が走り、パティに飛んできた投擲槍を防御。

 

感謝。

 

奥義に入る。踏み込んでからの抜刀抜き打ち。

 

跳躍してからの叩き落としての連続斬りに移行する。

 

「ルミナイト……」

 

複数の超ド級の触手が吹っ飛び、展開されるシールドが弱体化の極限に達する。

 

更に、ライザさんが、収束熱槍を投擲する体勢に入っているのが見えた。

 

超ド級はライザさんに向け、総力を挙げたシールドを張るが、それが判断ミス。

 

パティは、渾身の切り下げを叩き込む。

 

「イグニス!」

 

入る。

 

致命打だ。

 

それだけじゃない。

 

上空から、凄まじい雷撃とともに、クラウディアさんのとんでもない巨大矢が炸裂する。

 

カラさんの大魔術とのあわせ技か。

 

パティが逃れるのと同時に炸裂する辺り、連携も完璧。

 

一撃が、悲鳴を上げる超ド級の全身を貫き、内側から破裂させていた。

 

ひくひくと痙攣している超ド級の上を飛び越して、ライザさんの収束熱槍が、やりたい放題に投擲槍を投げてきていた神代鎧に向けて放たれ。そして吹っ飛ばしていた。極限の冷気の後に、超火力に晒されたのだ。

 

流石の神代のからくりも、ひとたまりもなかった。

 

呼吸を整えながら、侍衆が運んできた荷車から薬を取りだして使う。

 

あの範囲攻撃に巻き込まれたのだ。無傷とは行かない。栄養剤だって飲む。急がないとまずい。

 

神代鎧が動き出したら、とんでもない数の投擲槍がこっちに飛来する。そうしたら、全滅の可能性もある。

 

それどころか、遺跡の内部にはまだ超ド級や、無数の子鬼がいてもおかしくはないのだ。一秒でも早く体勢を立て直す必要がある。

 

「よし、行くぜっ!」

 

一足早く立ち直ったディアンが、猛烈な勢いで遺跡に向かう。

 

カラさんが絨毯みたいなのに乗って、それを追う。

 

あやめさんは、流石にへたり込んでいる。

 

力を使い果たしたのだろう。元々負傷をおして、最重要作戦を成功させてくれたのだ。

 

「後は任せてください。 侍衆と一緒に陣地までさがって、そこで回復を」

 

「いや、私は遺跡を見届けさせて貰う。 足だけは引っ張らぬ」

 

「多分何も分からないと思いますよ。 いつもついて行っている私も、説明を聞いても分からないことだらけですから」

 

「それでも役割だ」

 

顔を覆面で隠しているから分からないが。苦笑いしたのかも知れない。

 

仕方ない。

 

パティは、走って山を駆け下りる。

 

荷車は、レントさんが引いて走ってきているのが見えた。

 

ディアンが、動き始めた神代鎧と戦いはじめている。カラさんも。

 

パティもそれに加わり。

 

冷気で全身が凍り付くような状態の中。

 

ひたすら、神代鎧の処理を続けた。

 

 

 

神代鎧を全て片付けたあと、あたしは熱槍で辺りの氷を溶かし尽くす。地面が沼のようだが。なんとか戦えるか。

 

奧から増援の気配はなし。

 

ただし、内部にトラップや神代鎧の存在する可能性は低くない。

 

体勢を立て直すと、内部に。

 

侍衆は、安東さんだけがついてきた。後はあやめさんも忍び衆代表として来る。

 

二人とも、鬼の本拠地。夷の邪悪な拠点は見届けなければならないと判断したのだろう。

 

内部は、やはり恐ろしい程に規則的だ。

 

神代の遺跡で見たように、もの凄く丁寧に整備されている。ただ、今までの遺跡とは段違いに背が高い。

 

壁にプレートが掛かっている。

 

「タオ、読める?」

 

「うん。 テラフォーミング用生物兵器培養施設、だって。 大当たりだね。 この先は何階層かに別れているようだけれど……コントロールルームを抑えよう。 超ド級に出くわしたら危ないからね」

 

「それが賢明だ」

 

長いトンネルの奧には、生臭い風を発している何かの気配。呼吸だけで、風が起きている程だ。

 

ベヒィモス級が、十数体力を充填しているとみて良い。

 

下手に近付くのは、止めた方が良いだろう。

 

トンネルの脇に階段があるので、それを利用する。

 

かなり地下に深い施設で、階段を下りていくが。十数階は高さがあるのではないだろうか。

 

本当に地下の深くまで続いているんだ。

 

どうしてこんなに地下深くに作るのか。

 

そういえば王都近郊の「工房」も理由はあれど地下深くに作っていたな。

 

あれは神代が終わった時代の産物ではあるが。

 

時代が戻るほど、縦に積むのが流行りになって行くのかも知れない。

 

最下層に出る。

 

此処にコントロールルームがある筈だが。拍子抜けなほど何もない。クリフォードさんも罠の気配はないというし。

 

あらゆる魔術に、何も引っ掛からない。

 

「警備がありませぬな」

 

「さっきのが全部だったと言う事でしょうね」

 

「解せぬ。 どうして全ての戦力を入口で消耗させたのか」

 

「よく分かりませんが、以前もそういう遺跡はありました。 あの人型のからくりを生産していた遺跡では、状態が違ったんですが……」

 

安東さんが不審がるので、あたしは一応フォローしておく。

 

ただ、仮説はある。

 

この遺跡、超ド級に守られている事もあって、まさか内部に入られるとは思っていなかったのではあるまいか。

 

保有していた神代鎧の数も多かったし、何より周辺に展開していた魔物の数だって桁外れだった。

 

だから、遺跡そのものの守りは必要ない。

 

そういう驕りがあった可能性はある。

 

最下層の部屋の扉も、あっさり開いた。光学式コンソールでの操作をタオがちょっとやったら、すぐにである。

 

「またパスワードも掛かっていない」

 

「よくあるなそういう場所」

 

「パスワードを掛ける機能はあるんだよ。 でもこれは、多分技術を少数の人間だけで特権的に独占しているからなんだと思う。 圧倒的な戦力があるし、警備も強力無比だから、入られる必要もない。 ログを見ると、最初はパスワードを設定はしていたみたいだね。 でも、やがて面倒になってやめたみたいだ」

 

「どんな堅固な守りも、使う人間によっては紙になると言う事だな」

 

アンペルさんが呆れた。

 

コントロールルームの戸はあっさり開き、内部に。複数の装置が動いていて、タオとアンペルさん、クリフォードさんが調査を始める。

 

一応警備に立つが、神代鎧が駆けつけてくる様子もない。

 

ただ、調査には時間が掛かると言われた。

 

 

 

一旦レントがカラさんと戻って、物資を補給してくる。

 

コントロールルームの側にはトイレや浴槽もあって、普通に稼働していたので、使わせて貰う。

 

交代で休憩をしているうちに、タオが遺跡内部の構造をどんどん明らかにしていく。

 

この遺跡、今までで発見したもので最大級だ。

 

風呂から上がってさっぱりしたあたしに、タオが説明をしてくれた。

 

「この遺跡は、竜脈から直接魔力を吸い上げ続けているんだ。 それが動力どころか、やはり強力な魔物達の動力源、それに培養装置の動力源にもなってる」

 

「まずいね。 止められそう?」

 

「もう止めた。 調べて見て分かったよ。 テラフォーミング用生物兵器として作られた超ド級が完成形だったのに、それ以上のものを作ったら全部失敗作になったんだ。 エネルギーを食い過ぎて、短時間しか戦えないし。 内臓なんかも大型に作れなくて、どうしても長時間は稼働させるのもそれどころか生存さえさせられない。 ベヒィモス達は、そういう存在だったんだ」

 

「一種の巨人症か」

 

レントが言うと、タオは頷いていた。

 

巨人症。

 

異常に体が巨大化する病気だ。人間で言うならザムエルさんなんて問題にもならないくらい大きくなってしまう病気である。

 

体が巨大化しても内臓は常人と同じなので、体はむしろ弱くなってしまう。あのベヒィモスらは、それを意図的に引き起こされていたのか。

 

それどころか、命すら維持できない程に。

 

もう魔力の供給は切られた。

 

それは、気の毒だが。

 

ある意味、救済なのかも知れなかった。

 

「他は何があったの」

 

「やはり完成型のテラフォーミング用生物兵器。 ここでは「天使」と呼んでいたみたいだね。 それの培養を行っていたようだよ。 幼体も、予想通り此処で培養していたみたいだね」

 

「天使ねえ……」

 

そういえば、タオに貰った資料でみたっけ。

 

古い信仰では、天使は世界の終末に神が気にくわない人間を皆殺しにして回る思想があるのだとか。

 

今の時代は信仰はとても弱くなっていて、少なくとも世界中の人間がそれに縛られているようなことはない。

 

ただ、古くは違って。

 

信仰は支配の道具として、多くの人を殺したようだった。

 

天使による世界の最後の皆殺しも、恐らく宗教の恐怖で人間を縛るための道具だったのだろう。

 

反吐が出る話だが。

 

それでも、神代の連中が天使とかあの超ド級を呼んでいたのも、納得は出来る。

 

「幼体は複数のパターンが存在していたけれども……ログを見る限り、サマエルがずっとここにアクセスをしていたみたいだね。 神代に作られた成功例だけを、順番に作り続けていたログが残っているよ」

 

「何それ。 戦歴を見て成果を上げている個体を増やしたり、新型を研究とかしていなかったのかな」

 

「その様子はないよ。 前例を尊んで、それ以外は拒否していた感じだ」

 

なるほどな。

 

そう作られたとは言え、サタナエルもそうだったが。狂信者だった訳だ。

 

神が言う事は絶対。

 

その言葉だけを遂行する。

 

サタナエルは神への愛以外何もないようだったが。サマエルは神の忠実な代行者だったわけだ。

 

いずれにしても、人間をベースに弄くって、そんなものを作り出して。代行者としていたとは。

 

神代の連中は、調べれば調べるほど怒りしか沸かない。

 

「その幼体の培養ももう止めたんだね」

 

「うん。 今三十体ほどの幼体が培養槽にいるけれど、これらはこれ以上成長もしないよ。 元々無理がある合成をして、外で動けるようになるまでは培養槽で色々調整するみたいなんだけれども。 それが止まった以上は……もう何もできないね」

 

「ベヒィモス級もろとも、楽にしてあげられる?」

 

「今調べて見る。 ……出来そうだ。 やってみる」

 

話はほとんど分からなかったようだが。長年この地を苦しめ続けた鬼の眷属が。これ以上は生まれない。それは理解出来たのだろう。

 

安東さんもあやめさんも、おおと声を上げていた。

 

更に、神代鎧についても調査をしておく。

 

この遺跡には、メンテナンス装置はあったが、生産設備はなかったらしい。ならば、此処にこれ以上神代鎧を増やされる恐れはない、ということか。

 

蓋を開けてみれば、幕切れはあっけなかった。

 

だが、まだ懸念はある。

 

「問題は、ここ一箇所だけか、だね」

 

「僕もそれは懸念していた。 でも、問題は無さそうだよ」

 

「うん?」

 

「地上にある研究施設のリストがあったんだ。 それによると、超ド級の生産施設は、地上はここだけ。 他にもあったらしいけれど、全て廃止されたみたいだ。 残りの特に研究施設に関しては、稼働中のもの、稼働可能なものは地上にはないってある。 多分……あるのはあの扉の先、奴らの本拠地だよ。 技術の流出を怖れたのか、或いは」

 

そうか。

 

いずれにしても、もうタオに任せて大丈夫だろう。

 

あたしは皆に声を掛けて、この遺跡の最後の大掃除に掛かる。

 

まだ神代鎧がいるようなら潰しておく。

 

そして、もうこれから死んで行く超ド級の幼体や。それにベヒィモス級には、とどめをさして回る。

 

施設自体の動力も壊す。

 

それで、この遺跡は死ぬ。

 

後は入口を完全破壊して、埋めてしまうのが良いだろう。

 

こんなもの、後から発見されても悪用されるだけだ。

 

嘆息一つ。

 

情報は多数得られた。また奴らの本拠に乗り込む準備が整ったと言える。

 

タオによると、ログはあらかた時間を掛けて引き抜けるし。内部にある書庫の存在も分かったらしい、

 

それらは回収して、解析に回してしまって良いだろう。

 

では、手分けして作業を開始だ。

 

まだまだ、東の地の各地に散っている子鬼や超ド級はいる。それらは、少しずつ時間を掛けて駆除して行くしかない。

 

だが、これにより、東の地がいつ滅んでもおかしくない状況は終わりを告げた。

 

また一つ。

 

神代の悪しき影響は、世界から撃ち払われたのだ。

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