暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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さてかなり展開が早いですが、サルドニカに向かう事になります。

原作におけるロテスヴァッサ王国の第二都市ですが、その歴史は浅く、発展しているのはここ百年程度しかありません。街としての歴史はかなり浅い方かと思います。

原作においてもこの街の状況や存在が、ロテスヴァッサという国が如何に惰弱で実質的な力などないかを示しているんですが……まあそれについては、おいおいと作中で見ていただきます。


3、サルドニカへ

翌朝。二隻の船に分乗して、港を出る。

 

一応、昨晩はあたしも実家に泊まった。もう、実家には泊まる、という感じだ。

 

既にそこで暮らしていない。

 

両親に、軽く話はしたが。

 

莫大なお金が動いたことや、他の話はしていない。

 

政治に関わらせるのも馬鹿馬鹿しいし。

 

何よりも。二人はあたしが出来る事にはあまり関係しないからだ。

 

幸い、二人とも自衛出来る程度の戦力は有してある。

 

あのザムエルさんと、一緒に旅をしていた時期があるのだ。

 

その時に、戦闘経験を積んでいるのである。

 

父さんに至っては、昔と今でかなり性格が違っているらしく。

 

昔はザムエルさんと肩を並べて、最前衛で魔物とバリバリに戦っていたらしい。すっかり性格が丸くなった今は、農夫としてクーケン島に貢献しているが。

 

ブルネン家や古老達が父さんに一目置いているのは。

 

多分その時代の戦士としての力量を、知っているからなのだろう。

 

翌朝、皆で集まり。船に荷車四台を乗せる。荷車は、サルドニカの船の方だ。かなり大きな船だが。

 

それでも、外洋の魔物とやりあうと、分が悪いだろう。

 

錬金釜は、昨日のうちに調合したものを持っていく。

 

念の為に、トラベルボトルを二つ。

 

フィー用のものと。

 

セプトリエン用のものだ。

 

セプトリエンは、当面新しく手に入れられる様子がない。だとしたら、こうして持っていくしかない。

 

話を聞く限り、どうせサルドニカにはしばらく駐留することになるだろう。

 

だとしたら、向こうにアトリエを建てる必要がある。

 

物資は途中で集めれば良いが。

 

釜とか荷車とか装備とか。

 

簡単に揃えられないものは、こうやって持っていくしかないのである。

 

かなり荷物が多いのを見て、フェデリーカさんは驚いたようだが。それでも、船には乗せてくれる。

 

二隻が出港。少し遅れて、タオとボオスが乗っている方の船も出る。

 

そっちは交易船だが。

 

魔物に襲われることや事故も考慮して、こういう商船は複数で船団を組み、艦隊というものを作るのが常だそうだ。

 

船には用心棒らしいのも何人か乗っていたが。

 

どれも、強そうには見えなかった。

 

クリフォードさんが知り合いを見つけたらしく、話しかけている。あまり好意的な口調ではなかった。

 

クーケン島が遠くに見えていく。

 

まあ、王都に出向いてからも、二度門の関係で船旅をして、遠出している。

 

別に今更である。

 

父さんと母さんも、港まで送りには来たが。

 

それ以上でも以下でもない。

 

もう農婦にすることは諦めてくれたようだが。

 

それでも、あたしが自分達が知らない事をやっている事については。特に母さんは良く思っていない。

 

これは、多分ずっとそうだろう。

 

この件では、恐らくわかり合う事は不可能だと判断していた。

 

やがて水平線だけが見えるようになり、あたしが使っていたのとは違う……方向確認用の羅針盤を用いて、船が進み始める。

 

帆船だが、それでも舵と帆の扱いによって移動方向はコントロール出来る。場合によっては、オールで船を進ませる。

 

サルドニカで時間があったら、エアドロップの推進装置をこういった船に取り付けてみてもいいか。

 

そう思いながら、船に揺られる。

 

ボオスは船酔いが酷く。

 

基本的に気合で耐えていると言う事だが。

 

まあ、船が違うから、声を掛ける必要もないか。

 

二日ほど船に揺られて。

 

前に、王都に行く時に使った港に着く。

 

そこで、ボオスとタオと、一度別れる。此処から迂回して、サルドニカにこの船は向かう事になる。

 

二人とも後から合流して貰う事になるが。

 

ボオスは今回の件で、サルドニカとコネを作ってきて欲しいとモリッツさんに言われているらしいこともある。

 

卒業式を終えたら、速攻でまた船旅という事もあって、色々忙しそうだ。

 

あたしは二人に必要事項だけ再確認して、すぐに船に乗る。補給だけ済ませて、船がまた海に。

 

淡々と、揺られながら海を行く。

 

途中で、大きなサメを見た。

 

レントが警戒して大剣に手を掛けていたが。

 

あたしが熱魔術を海面に叩き込むと、サメはすぐに潜って逃げていった。

 

「今の爆発は?」

 

「ああ、あたしです」

 

「そ、そうですか……」

 

船室からあわてて出て来たフェデリーカさんが、胸をなで下ろしている。

 

この船も、クーケン島にあたしの事だけ聞きに来たわけではなく。幾つかの商会とやりとりをして、それで戻る途中なのだ。

 

色々荷物は積んでいるし。

 

魔物なんかは避けたいと考えているのだろう。

 

「ライザリン様は、本当に凄まじい魔術の使い手なんですね」

 

「錬金術師です」

 

「錬金術……ですか」

 

「そうです。 いずれお見せします。 魔術については余技ですよ」

 

肩をすくめるレント。

 

フェデリーカさんは、一礼すると、そのまま船室に戻る。

 

レントが呆れながら言う。

 

「なんだか、萎縮しているなあの娘」

 

「そうだね。 あっちからもこっちからも監視されていて、居心地が悪いんだと思う」

 

「しばらく俺たちと一緒に行動して貰ったらどうだ。 タオとボオスがいなくなると、手数が減るだろ」

 

「それは良いんだけれど、責任がある立場だし、難しいんじゃ無いのかな」

 

ただ、レントの言う事も分かる。

 

このままだと、多分あの子は潰れてしまうと思う。

 

さて、どうしたものか。

 

それから更に、船が揺れる。

 

壊血病を防ぐために、果物が出される。冷気の魔術で保存されていたものだが。必要なので、皆で食べておく。

 

更に二日が過ぎたか。

 

やっぱりこの船は遅いな。推進力をつけるべきだろうなとあたしは判断。それについて、考え始めていた。

 

多分タオとボオスは、もう王都についた筈だ。

 

此処からは、タオとボオスも、別行動だろう。

 

二人とも忙しいだろうなと思いながら。それでも王都で紋章を調べてきて欲しいと頼んだので。

 

ちょっと悪い事をしたかなと、あたしは思ったが。

 

しかし、場合によってはまた世界滅亡に関連しかねない案件だ。

 

それを考えると。

 

あまり、個人の事情を優先もできなかった。

 

 

 

タオはボオスと旅をすることが全く苦にならない事で、懐かしく思う。いじけたボオスが自分をターゲットにして辛く当たっていたことが、昔の事のようだ。今ではボオスもそれを反省している。

 

だから、それを蒸し返すつもりもない。

 

街道は前よりは魔物が減っているが、それでも出る。だから二人で蹴散らしながら進む。幾つかの集落では、しばらく滞在してくれないかと頼まれた。だから、二人で魔物を多めに蹴散らして。

 

それで手が開くようにしてから進む。

 

そうして、王都に辿り着く。

 

もう走った方が馬車より速い。

 

途中で何度か戦闘があったけれども。

 

それでも、タオと同じくらいまで腕を上げているボオスの事もある。

 

殆ど、手間にはならなかった。

 

この辺りの大物は、ライザがあらかた片付けてしまったというのも大きいだろう。

 

王都が見えてくる。

 

ボオスが、頭を掻いた。

 

「俺は俺で、正式に寮を引き払わないとならん。 それに父さんにねちねちと言われていてな」

 

「例の貴族の令嬢のこと?」

 

「そうだ。 ライザが聞いたら、ブチ切れていただろうな」

 

「分からないでもない」

 

ボオスは言われたらしいのだ。

 

貴族の令嬢との婚約について、断ったときに。

 

まさか、あの猪ではないだろうな、と。

 

勿論ライザの事だ。

 

元々が婚約者候補だったのだ。少なくとも先代のブルネン家当主は、そうしようとしていた。

 

先代のブルネン家当主のことは、もうほとんど覚えていないが。

 

女傑と言うに相応しい人物で。それでライザの事を見抜いていたことは、タオにもよく分かる。

 

だがモリッツさんとしては、ライザが。既に豪傑と言っていい存在に成長しているライザが。

 

ボオスとくっついたら。

 

あっさりブルネン家を乗っ取られて。島を完全に私物化されるという恐怖があるのだろう。

 

だから、ライザに対する苦手意識は増す一方。

 

しかも人工島であるクーケン島の生命線はライザが握っており。

 

バレンツやアーベルハイムとの強力なパイプをライザが持っている事。更に資産という観点でも、既にライザがブルネン家を上回っていること。

 

これらからも、ライザが天井知らずに成長するだろう事を考えると。

 

恐怖の対象になることは、まあわからないでもない。

 

特に近年は、ライザの武力は明らかにアガーテ姉さんを凌いでいるし。

 

ライザがその気になったら、クーケン島なんて一日で灰燼と帰す。

 

それを考えると、苦手意識はどうしても膨らむのかも知れなかった。

 

「ありえん……」

 

ボオスが呻く。

 

ボオスはボオスで、キロさんに夢を見過ぎである。

 

キロさんも、ライザに話を聞く限り、ボオスの事を悪くは思っていないようなのだが。既にタオも聞いている。

 

オーレン族と人が子供を作った場合。

 

母胎に大きな悪影響が出る可能性が高い、と言う事について。

 

ボオスも聞いている筈だ。

 

ライザは今。

 

将来、人間とオーレン族が仲良くやっていくために、研究を進めているそうなのだが。

 

それでも、この件はライザ頼みになる。

 

それに、キロさんだって、ボオスの事を悪く思っていないといっても。

 

キロさんと一緒になるとして、どうするのか。

 

キロさんは、多分グリムドルを当面離れられない。

 

ライザの話によると、グリムドルの周辺には最低でも四つのフィルフサの群れが存在する事が確認できていて。

 

それらを潰しても、また新しいのが来る可能性が高いそうだ。

 

数十人規模にまでグリムドルは復興してきているのだが。

 

それでもちょっとまだまだキロさんは離れる事は出来ないだろう。

 

水とオーレン族の守りがあったとしても。

 

「ともかくだ。 俺は卒業式を済ませて、荷物を実家に配達したら、すぐにサルドニカに向かう」

 

「分かった。 僕も論文の結果を聞いて、それで」

 

「お前はゆっくりしていけよ」

 

「そうもいかない。 今回の群島、多分去年の王都近郊の遺跡の比じゃない規模だよ。 だとすると、僕も全力を尽くす必要がある」

 

恐らくパティの事で気を遣ってくれているのだろうが。

 

それは正直、困る。

 

タオも既に自覚している。

 

タオの年代は、頭より下半身で考える男子の方が多い。周囲の男子生徒が、ずっと猥談をしているのを何度も目にしたし。

 

それについては、クーケン島の頃から知っている。そもそも、人間は十代半ばが一番子供を作るのに適していて。他の生物で言う繁殖期であることも。

 

だが、タオの場合はどうもその辺りが違うらしい。

 

女の裸や性行為よりも、新しい知識を知る事により強い興味を覚えるのだ。

 

なお一応レントに言われて試すだけ性風俗を試してもみたのだが。

 

相手はタオの事を長身だ学者先生だと褒めてくれて喜んでいたが。

 

タオ自身は、高い技術を持っている筈の相手との性行為も全く面白くも何ともなかったので。こんなものかと思っただけだった。

 

ただ、パティと婚約すると言う事は。

 

今後はパティを女性として扱わなければならない訳で。

 

結婚したときには、子供も作ることになる。

 

そうなると、この性に関してほぼ興味が無い体質については、色々とマイナスになるかも知れない。

 

今のうちに、パティと色々話はしておかなければならないのかも知れなかった。

 

寮に行くと、荷物の整理と、アーベルハイムへの郵送を行う。

 

殆どの荷物は、今後アーベルハイムの用意してくれたちいさな家屋に。

 

此処で、正式に結婚するまで保存する事になる。

 

後は、アーベルハイムに顔を出す。

 

パティはさっき戻ったばかりらしくて。タオを見て、喜んでくれた。

 

一年で少し大人っぽくなったけれど、背はあまり伸びていなくて。

 

それで、戦場以外ではやたら高いヒールを履くことが多く。

 

それがコンプレックス由来なのが分かって、タオとしては気分が複雑だ。そんなの履いていたら、足を悪くするだろうに。

 

「タオさん。 ライザさんからの手紙を見ました。 かなり大変な遺跡だと言う事ですが……」

 

「うん。 王都近郊の遺跡とはレベル違いだね。 神代が直接関与してきている、かなり危険なものだと思う」

 

「ごめんなさい。 わざわざ戻って貰って」

 

「僕としても、今後学者としてやっていくためには必要な事だから、気にしないで。 それよりも、忙しくてあまり一緒にはいられない。 先に謝っておくよ」

 

これは一応、こういう風にしろと言われて覚えた社交辞令だが。

 

パティもそれは分かっているらしく、寂しそうに笑うのだった。

 

ヴォルカーさんとも挨拶をして。

 

それで、打ち合わせをしておく。

 

明日論文についての発表だが。ほぼ確定で通るそうだ。特に遺跡の方は。

 

それで正式に学術院のメンバーになる。

 

もっとずっと大きな規模の国家だったら、それはとても名誉な事なのだろうが。

 

どうせ貴族なんかの名誉職だ。

 

タオの目的は、禁書などの閲覧である。

 

図書館の奧にしまわれている、埃を被るだけの禁書を見る事が出来る。それだけのために、論文を採ったのである。

 

ただ、女としてどうこうというのはともかく。

 

パティの事は、人間としては頑張っていて偉いとも思う。

 

だから、婚約をするにしても、相手がパティだったのは良かったなとは思うのだった。

 

「実は婚約の件だが」

 

執務室で、早速その話になる。

 

ヴォルカーさんは咳払いして、そしてすまぬと言った。

 

「まだ調整が続いている段階だ。 論文が通って、学術院に入った後、しばらく間を開けることになるが、良いだろうか」

 

「大丈夫です、問題ありません」

 

「そうか。 それで、パティはしばらくは王都にいて貰う。 アリバイ作りという奴だ」

 

「……」

 

これからタオは、調査のために遺跡に向かうという体裁にする。

 

学術院はこのちいさな規模の都市国家で、「権威ある」身。仕事をしているという体裁が必要なのだ。

 

それで、タオには調査に向かって貰い。

 

学者として、仕事をしているという風にするそうだ。

 

全ては体裁である。

 

本当に申し訳なさそうに謝るので。タオは。それについて逆に恐縮してしまった。

 

「別に僕は大丈夫ですよ」

 

「明日の学術院での学者就任式の一月後に、婚約を発表する。 その場に君はいなくても大丈夫だ」

 

「そうですか」

 

「その後、パティを君達に合流させる。 かなり危険な遺跡の調査だと聞いている。 あの子も腕を上げているし、いた方が良いだろう」

 

頷く。

 

それについては、全くその通りだ。

 

多分、もうパティはタオより強いだろう。

 

戦闘では、とても頼りになると言えた。

 

そして今回の調査では、遺跡で戦闘は避けられない。

 

あの宮殿にいた大型の幽霊鎧なんて序の口。今後、もっと凶悪なのがわんさか湧いて出てくるだろう。

 

ヴォルカーさんは咳払いする。

 

「それで、すまないが。 婚約後も、結婚までは手を出さないで欲しい」

 

「ええと、確か結婚までは妊娠していると問題なんですよね」

 

「そうだ。 馬鹿馬鹿しい体面の話だ。 抑えが効かない年頃だという事は分かっているが、頼む」

 

「問題ありません」

 

まあ、パティの方が抑えられれば大丈夫だろう。

 

実の所、パティを抱きたいと思った事はただの一度もない。

 

それはそれで、タオにも問題があるのだが。

 

「それでは、授賞式について等は……」

 

打ち合わせをして、それで今日は宿に泊まる。

 

今後、アーベルハイムが実家になる。

 

アーベルハイムには入り婿という形になるので、当主はパティになるそうだが。

 

それはそれで、別にどうでもいい。

 

タオとしては、理想的な学者としてのパトロンと研究用の地盤があればいい。

 

その考えも問題がある事は分かってはいるが。

 

それをヴォルカーさんもパティも承知しているのだから。

 

それでいいのだった。

 

 

 

翌日。

 

卒業式に、ボオスは出席する。

 

学生は他の都市から来ているものもいて、全てが一度に出られる訳でもない。何回かやる卒業式の一つに参加するだけだ。

 

あくびをかみ殺すのを必死に堪えながら。

 

顔しか知らない学園長がなんだかよく分からない演説するのを見送る。

 

同期の学生の中で、ボオスの成績は中の上程度だった。

 

学問は得意な印象があったのだが。

 

学校で教える学問が、それで身に付けやすいかというと話は全く別であったらしい。

 

更に、である。

 

ボオスはライザ達に追いつこうと、必死に努力をしていたこと。

 

特に生活費のために、魔物退治などを頻繁に引き受けていたこと。

 

何よりも、コネ作りの為に交流をして、必死に人脈の網を拡げていたことなども要因となる。

 

学生としては、あまり学業に専念する事はできなかった。

 

ともかく卒業証書も貰ったので、学園を出る。

 

そうすると、何人か顔と名前しか知らない女子生徒が群がってきたので、困惑した。

 

「ボオスさん!」

 

「王都には留まらないんですか!」

 

「あ、ああそうだが」

 

「私達の気持ち、受け取ってください!」

 

困る。

 

なんか色々押しつけられて、それで本当に困り果てたが。女子生徒はキャーキャー言いながら嵐のように去って行ったので、それもまた困り果てた。

 

ともかく、タオを見かけたので、先にサルドニカに行くと告げる。

 

タオの様子はいつも通りというか。

 

多分あの様子だと、パティを本当の意味で異性として見た事なんて一度もないだろう。

 

ボオスだってその辺りは、好きな相手の事を考えて色々折り合いをつけているのだが。まあ脳の構造が違っているとしかいえない。

 

荷物を宅配でクーケン島に送る。一応女子生徒達に貰ったものは確認して、傷むようなものは分けておいた。うんざりするほど甘い菓子があったので、胸焼けしながら食べておく。

 

クーケン島で金持ちで、周囲に比べて豊かな生活をしていたと言っても、それでも食べ物は大事にする。

 

先代が口を酸っぱくして言ったことだ。

 

バルバトスとかいう例の盗人当主のおかげでブルネン家は豊かになったが。その前は、他と変わらなかった。つまりは貧しかったのである。

 

そういう時代の家訓こそ、多分先代は大事にしていたのだ。

 

今なら、その意味がわかる。

 

悲惨な生活をしている集落を散々見て来たし。

 

クーケン島も、一歩間違えばそうなるのだから。

 

卒業証書も、その中に乱暴に放り込んでしまった。

 

宅配はバレンツの商隊がやってくれるので、安心感がある。あの例のメイドの一族が護衛についているし、余程の事がない限り大丈夫だろう。

 

あの一族は強い。

 

力がついてきて、やっと連中の恐ろしさが分かってきた。

 

今でこそ、なんとか戦えるくらいの力はついてきたが。

 

それでもそもそも、あの連中は連携が凄まじく。同じ一族内で造反している様子もまったくない。

 

個々の強さもそうだが。

 

あの連携こそ、本当の恐ろしさだ。

 

事前に調査しているが、サルドニカにも相当数が入り込んでいるらしい。

 

なんだか不可解な一族で。

 

下手をすると、この世界の人間は。あの一族に乗っ取られる……いや既に乗っ取られているのでは無いのか。

 

そんな恐怖すら、たまに感じるのだった。

 

後は身支度をして、王都を出る。

 

丁度港の方に出る商会があったので、護衛を買って出る。そうすると、相手も喜んでくれた。

 

港からサルドニカ方面の船は、それなりに数があるので、そんなに待たなくても良い筈だ。

 

商会の護衛の戦士は、他はゴロツキ同然のが数人。

 

だが、一人、例のメイドの一族のがいる。

 

此奴らの事はゴロツキでも知っているようで、明らかに距離を置いていた。ボオスも、これは楽が出来そうだなと、道行きながら思う。

 

途中、魔物が出る。

 

ラプトルの群れだ。数体が派手に攻撃を仕掛けてきて、残りが馬を狙い、背後からも来る。

 

連携が取れている攻撃だが、狙いが分かっているから対応は普通に出来る。

 

馬を襲おうとした一体を両断している間に、後方に回り込んできたのを。例のメイドの一族の戦士が。手にしている巨大な長剣……パティが使っている大太刀に近いもので、なっさばっさと斬り倒していた。

 

戦い、利あらず。

 

そう判断したのだろう。数体を倒された時点で、ラプトルの群れは逃げに入るが。メイドの一族の戦士が踏み込むと、剣を投擲。

 

鋭い断末魔が上がり、大きなラプトルが、茂みから出てくる。

 

群れのボスだったのだろう。

 

それを見て、ラプトルの群れは散り散りに逃げ散っていった。

 

「捌くぞ。 手伝え」

 

「……」

 

ゴロツキ共は震え上がって、手元も怪しい。

 

やれやれと思いながら、ボオスは仕留めたラプトルを解体して、皮やら肉やら切り分けて行く。

 

ボスの死体の血抜きをしていると、燻製にてきぱきと商人のまだ幼い娘が肉を仕上げている。

 

商人の方が余程たくましいな。

 

ボオスはそう思って、苦笑いしていた。

 

「以前見た事がある。 確かボオスと言ったな」

 

「すまん。 あんたたちの一族は俺たちには見分けがつかない」

 

「そうだろうな。 私は以前、遺跡で防衛線をお前達と展開したものの一人だ」

 

「ああ、そうだったか。 その時は助かった」

 

あの中の一人か。

 

まあ、みんな強いが。それでも強いのは納得が行った。

 

魔物の死体の片付けが終わると、商会はてくてくと行く。護衛の戦士共は、役に立ちそうにないが。

 

ボオスとこのメイドの一族の戦士だけで充分である。

 

港までは問題なくつく。

 

タオはうまくやれているかなとちょっとだけ心配したが、まあ上手くやれているだろう。商会から護衛の謝礼をはずんで貰う。

 

そして、そのまま船に乗って、サルドニカに向かう。

 

船酔いが酷いのでちょっと辛いのだが、今更だ。三隻の艦隊でサルドニカに向かうが、本当に景気が良いんだなと感心してしまう。どの船にも色々な商品を積んでいるのだ。百年程度の都市が、五百年の繁栄(笑い話だが)を誇る王都を超える日は、そう遠くないだろう。

 

だがそのサルドニカも、あのフェデリーカという娘を見るだけで、闇が色々と深い事は容易に分かる。

 

結局のところ、人間がダメなんだろうな。

 

それが結論として出てしまい。

 

ボオスも、大きな溜息が出た。

 

ボオスだって、古代クリント王国のやらかした悪逆非道には正直色々と思い知らされるものがあった。

 

そして古代クリント王国は模倣者であり。

 

五百年前の国は、どれも似たようなものであったというろくでもない事実も知った。古代クリント王国が勝たなければ、他の国が似たような事をしていただけだったのだろう。悲しい話である。

 

船酔いを気合で耐える。

 

ともかく、サルドニカで後から合流するためにも。

 

船旅で消耗しすぎる訳にはいかなかった。

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