暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
巨大な培養槽。ベヒィモスだけではなく、明らかに大きすぎて規格外の超ド級達が入っていた。
多分、生きているだけで辛かったはずだ。
動力炉が桁外れでも、それぞれには生命維持しか出来ない程度の力しか供給できなかったようだし。
タオが動力を切った今。
もはや、これらは眠りながら死んで行くだけだ。
あたしはそれでも、とどめは刺しておく。この培養槽だけでも、桁外れのテクノロジーの産物なのだ。
子鬼の培養施設も同様に処置する。
何を考えてこんなものを作れたのか。底知れない悪意が其処にあった。
幼体の状態だと、材料の一つが人間だというのがどうしても分かってしまう。
恐らく神代の錬金術師だけでは無い。
神代の前の「冬」の時代を引き起こしたのが人間だったとしたら。こんな調子で底知れない悪意を持っていたのでは無いのか。
だから滅びた。
今の人間は、出がらしで生きているに過ぎない。
先に進むには、三度同じ過ちを繰り返す事があってはならないだろう。
全てにとどめを刺して、楽にしてやる。
フィーが悲しそうに鳴く。
分かっている。
こんなことを繰り返させないために、あたしは技術を得る。そしてその技術は、人間が変わるまでは使わせない。
あたしは魔王になる。
人間が怖れる存在がいなければ、こんな事は何度でも繰り返される。だからこそ、繰り返させない抑止力として。
あたしは世界に恐怖の存在を作らなければならないのだ。
書庫を見つける。
すぐに全て回収する。
此処にいた研究者の手記もある。
アンペルさんが解読していたが、即座に眉間に皺が寄っていくのが分かった。
「ろくでもない事でも書かれていたようですね」
「此処には技術書もあるが、大半は思想書のようだな」
「思想書?」
「今の時代は失われてしまったものだ。 人間に余裕があった時代には、色々な思想を発表して、人間の規範にしようとするものがあった。 今残っているのは、各地にある伝承や信仰を記したものが近い。 文明が爛熟した時代には、そういった信仰ですら飽き足らず、人間は自分が如何に優れているか、その思想を書き殴った本を作り出していたようでな」
馬鹿馬鹿しい事だと、アンペルさんは吐き捨てていた。
思想書ねえ。
一つ、手に取ってみる。
もっとも読み込まれているらしいものだ。
作者は不詳らしいが、ざっと目を通して見て、なんだこれはとぼやきたくなった。
簡単に要約すると、全ての人間の思考は性欲に起因している。であるから、性欲は抑えるべきでは無いというものだ。
もっともらしい理屈でそれを正当化しているが、最初の出発点がおかしい。
どの本もこんな調子なのか。
まて。これが読み込まれていたと言う事は。
神代の連中は、欲を最優先にして他者を踏みにじる思想を、こういった本から得ていたのか。
可能性はある。
或いは、自分を正当化してくれるものだったら、何でも良かったのかも知れない。
「燃やしてやりたい所ですけど、何かの手がかりがあるかも知れないですね」
「ああ、後で解析する。 それとライザ。 私とタオ、クリフォードは次の船旅は同席しない。 此処の本の解析と、コントロールルームで得られた情報の解析に全力で挑みたいのだ」
「此処の本、書いてある内容が正気じゃないと思いますよ。 大丈夫ですか?」
「深淵を覗くとき、深淵もまた此方を覗いている」
それも、見つけた本の内容か。
どうも、以前見つけた本の内容であるらしい。
本来は違う意味であったらしいが。
神代の錬金術師達は、深淵にある知識を求めれば求めるほど、深淵の知識は招いてくれると解釈していたようだった。
「この言葉の出所の本の著者も伝わっていない。 「冬」とやらが起きた原因で、よほど世界は凄まじい破壊に見舞われたようだな」
「……」
「だからこそ危険を承知で解析をしなければならないんだ。 此処でやるべき事はもう終わった。 故に、私達にしかできない事を総力でやる。 門を使い、一番設備が充実している小妖精の森のアトリエで調査を続ける。 ネメドのフォウレの里にあるアトリエに門を作ったら、呼びに来てくれ」
「分かりました。 お願いします」
そもそも、神代の錬金術師連中みたいなのが台頭したのが色々おかしいのだ。人治主義の極みといえるし、それは案の場腐敗の極致に達した。
何故そうなったのか。
それに、だ。
気になる事もある。
最初の征夷大将軍について見た感応夢。タームラさんの記憶。
あの人は、恐らく神代の錬金術師の実態を、誰よりも良く知っていたはずだ。だとしたら、その言葉。
世襲は絶対にするなと言うその言葉は。
神代に対する強烈なアンチテーゼだったのではあるまいか。
いずれにしても、全て遺跡の機能は黙らせた。後は淡々と、成果物を回収して持ち帰るだけだ。
借りているものも含め。五つある荷車をフル活用すれば、二往復でいけるだろうか。
ただ、まだかなりの魔物がいる。
途中で油断する訳にもいかないだろうなとは思う。
生産は止めたとは言え、まだ東の地にはたくさんの子鬼がいるし。それらはやがて超ド級に成長するのだ。
それについても、説明が必要になるだろう。
東の地の人々は、まだ戦わなければならない。
その苦労は緩和したけれども。
あたしには、まだまだやるべき事があるし。
それを完遂するまでは、先には進めないのだった。
(続)
文字通りの鬼の住処を叩き潰して凱旋するライザ。
東の地は、まだまだばらまかれた鬼が闊歩する魔郷ではありますが。
それでも新しく鬼が追加されることはなくなったのです。
悲しい戦いの末に徹底抗戦の気風を作った初代征夷大将軍と並ぶ功績をライザは打ち立てました。
東の地でもライザは隔世の英傑となったのです。