暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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東の地を旅立ち、再度フォウレの里に。

此処でも神代の遺跡と神代の根拠地への手がかりを探していくことになります。

そして現地の人で解決できない問題にも対処します。

手の届く範囲で出来る事をするのが力持つ者の責務です。


1、フォウレの里へふたたび

話に聞いていた通り、クーケン島からの航路よりもだいぶフォウレの里は短い時間で辿り着く事が出来た。

 

途中で船団を組まなかったくらいである。

 

長距離の航行だと、安全のために船団を編成したりするのだが、今回はそれすらもなかった。

 

懐かしい港町に上陸する。

 

クラウディアはちょっと行ってくると言って、すぐにバレンツの支部に行く。

 

ディアンは知り合いらしい子供に手を振って、何か話をしていた。あたしにも用事がある。

 

港町の西側の調査だ。

 

魔物とやりあうほど気合いを入れて調査をするつもりはない。

 

こっちには橋を作り、インフラを復旧したが。それがどのくらい維持できているか、見ておく必要がある。

 

今回は調査のために、其方に足を運ぶ必要があるからである。

 

ざっと見て回った感じでは問題はない。

 

一度解散して、一刻後に集合。

 

軽く話をした。

 

「フォウレの方では、引っ越しの準備を始めているそうだ。 木材を買い取っているらしい。 それもかなりまとまった量をだ」

 

「験者様も本格的に動いてくれているんだな」

 

「そうだね。 魔物とかはどうなってる?」

 

「ネメドの森の方は特に問題は無いらしいぞ。 今までは迂闊に足を踏み入れたら確定で生きて戻れないくらい危険な場所だったらしいが、今は静かなもんだとよ」

 

レントがそういう。

 

だったらそうなのだろう。

 

ボオスが咳払いしていた。

 

「引っ越しといっても時間が掛かるそうでな。 移動先は前にライザが見繕った場所にするつもりらしいが、やっぱり移動に反対している老人が、時々酒場なんかで文句を言っているそうだ」

 

「はー。 あれだけ説明したのにね」

 

「なんでだよ。 験者様からも説明があった筈なのに」

 

「年を取ると考えを変えるのは難しくなる。 そうはなりたくはないと思っていてもね」

 

不満そうなディアンに、あたしはそうとだけ言っておく。

 

カラさんが、時間を見てウィンドルに戻りたいというので、それについても心得た。ただ、フォウレの里近辺の用事が終わった後だ。

 

「じゃ、フォウレの里に戻ろうか。 アトリエに久しぶりに足を運ばないといけないからね」

 

「誰か悪戯してたら、俺がとっちめる」

 

ディアンもすっかりあたし達の仲間だな。

 

まあ実際、アトリエに悪さをしようとした奴はいたのだ。

 

まずは魔物の気配を探りながら、フォウレの里に向かう。そのまま、しばらくは警戒態勢を取りながら進む。

 

此処は危険度が今までとは段違いで、集落周辺の魔物を駆逐するだけでも随分と苦労したっけ。

 

腕を上げたつもりだったのに。

 

世界は広いという事を思い知らされて。

 

腕を磨き直さなければならないと、悟らされた場所だった。

 

そのまま移動を続ける。

 

途中で、フォウレの里の引っ越し予定地を確認。竜脈からずれているが、水もあるし悪くは無い場所だ。

 

この辺りはちょっと掘れば水が出てくるくらいで、かなり大きな川も流れている事もある。

 

多少川から遠くても、生活していくのはそれほど難しくは無い。

 

「整備は思った以上にしっかりやってるみたいだね」

 

「デアドラは良い腕の戦士だ。 統率にも長けている。 真面目に引っ越しの準備を進めていると見て良さそうだ」

 

リラさんが、そう褒めるが。

 

セリさんは腰を落として、植物の様子をじっと見ている。

 

とんでもない植物に対する知識量を持つセリさんだ。あたしが声を掛けても、邪魔になるだけだろう。

 

途中で魔物に襲撃は受けるが、以前来た時とは比べものにならないほどの雑魚だ。

 

前は駆除が追いついていなくて、大物が育ちまくっていた感触だが。

 

大物はあたし達があらかた片付けてしまったこともある。

 

今ではフォウレの里の種拾いが、充分対応できる程の相手しかいない、ということなのだろう。

 

てきぱきと片付けて、先に進む。

 

ディアンが物足りなさそうな顔をしていたが。

 

これからどうせ手が入っていない場所に散々足を運ぶのだ。

 

嫌になる程戦う事になる。

 

フォウレの里には、夕方少し前につく。

 

歓迎する視線が多かったが。

 

老人にはあたし達を見ると、そそくさと身を隠す者もいた。

 

まあ、あの年では考えを変えられないだろうが。

 

かといってお気持ちに沿ってこっちが媚態を尽くしてやる理由もない。

 

アトリエの周囲を確認。

 

鍵もこじ開けられたりはしていない。

 

内部を確認して、荒らされていないことを確認すると。門を開ける。

 

小妖精の森のあたしのアトリエと、此処もつないだ。

 

門を開ける実験も順調だ。

 

ただ、門を開ける度に鍵が粉砕されるのも同じである。

 

これではやはり、まだまだダメだろう。神代の錬金術師どもの住処には、たどり着けない。

 

あたしのアトリエに一度戻る。

 

タオとアンペルさんが、凄まじい勢いで本を読み崩していた。クリフォードさんは寝台で寝ている。

 

交代しながら、どんどん資料の解析をしているようである。

 

「早かったなライザ」

 

「船が想像以上に早く進んでくれましたので。 それで、解析はどうですか」

 

「幾つか分かってきた事があるよ」

 

そうか、流石だ。

 

ただ、この場であたしに言われても困る。咳払いして、念押しに言っておく。

 

一段落してから、フォウレの里のアトリエの方に来て欲しいと。

 

それから皆で集まって、進捗を確認する。

 

あたしはそのまま門を潜って、フォウレに戻る。

 

まずは、験者さんに、成長したディアンを見せなければならなかった。

 

 

 

験者さんは相変わらず物静かで、どっしりと構えていた。ディアンが成長したのは、一目で分かったようだった。

 

情報交換をする。

 

ディアンの武勇伝は後で聞かせてくれと、験者さんは最初に言った。

 

まあ感覚的に喋るディアンの武勇伝をいちいち聞いていたら夜になってしまうのは分かる。

 

咳払いすると、あたしは順番に話す。

 

この里の先祖を襲った連中が各地でやってきた凶行の証拠を見つけ。

 

今、順番にその根拠地に攻め入る準備をしていると説明。

 

頷くと、験者もフォウレの里の状況を説明してくれた。

 

「現在竜風の到来に備えて、木材を集めている所だ。 何しろ湿気が多い土地で、木材を乾かすのに時間が掛かる。 少しずつ家屋を建てるべく部材を揃えている所だが、実際に建築するのは来年になりそうだ」

 

「分かりました。 特に魔物からみで問題は起きていませんね」

 

「一つ強いていうのであれば、ドラゴンが目撃されている」

 

「!」

 

ディアンが言っていた奴か。

 

ただ、遠くを飛んでいるそれらしいものが目撃されただけで、実害は受けていないと験者は言うのだった。

 

やはりこの土地でもドラゴンは神聖視されていて。

 

自然の力の象徴であり。

 

強力な存在として、畏怖もされているそうだった。

 

「竜風の件もある。 我等の戦力ではとても調査は無理だ。 ライザ殿、調べに行って貰えるだろうか」

 

「喜んで。 場所は古城の辺りですか」

 

「いや、真逆だ。 此処から言うと北西にあたる。 北にある鉱山から、西を見て見つけたという報告が複数上がっている。 禁足地になっている城の辺りにいるのだろうということなのだが」

 

験者さんは、周囲を見る。

 

側についていたデアドラさんが頷くと、外を確認してくれた。

 

禁足地絡みだ。

 

神経質になるのは分かる。

 

特に今、引っ越しでぴりついている状態である。里の人間を刺激する訳にはいかないのだろう。

 

「竜風の前後に目撃された竜の話は、里にも伝わっているのだが。 いずれもが山のように大きく、嵐とともに飛び去ったとされている。 目撃されたドラゴンは体が血のように赤く、形もおかしかったらしい」

 

「ふむ?」

 

「翼に加えて手足があったそうだ」

 

それは、妙だな。

 

ドラゴンはワイバーンの成体というのがほぼ暗黙の了解となっている。ワイバーンは前足が翼になっていて、ドラゴンもそれは同じだ。

 

亜種のバシリスクのように多足の者もいるが、少なくとも各地で「ドラゴン」と言われているのは前足が翼になっているタイプである。エンシェントドラゴンでもそれは同じで、前に王都の近郊にある北の里で、実物の残留思念としがいを見ている。

 

生物的な亜種として、翼と足四本があるタイプがいるかも知れないが。

 

空を飛ぶ事が可能なタイプとしては、それは六本足になる。翼は足が変化したものだからだ。

 

普通のドラゴンとはかなり違うものとして、考える方が自然だろう。

 

そうあたしは判断した。

 

タオとずっとつるんでいると、こういう知識は増える。

 

ましてやその手の知識で命を拾うことも多いし。

 

魔物や人間に敵対する可能性がある存在については、どれだけ知っていても足りないのである。

 

「ただでさえまだ里には不満を持つ人間がいて、引っ越しの際に問題が起きるのは避けたい。 頼んでばかりで悪いが、調査と場合によっては撃破をお願いしたい。 その代わり、験者の権限で、貴殿らには禁足地へ入る事を正式に許可する」

 

「調査を正々堂々としていい、ということですね」

 

「ああ、そうなる。 そもそも機具を改良して貰った大恩がある。 この程度は此方も譲歩するのが当たり前なのでな」

 

「いえ、感謝します」

 

これでだいぶ動きやすくなった。

 

ディアンを験者屋敷に残して、アトリエに戻る。うずうずしているディアンに、旅の土産話をさせてやるためだ。

 

ディアンもそれを理解して、嬉しそうにしている。

 

なんだかんだで、ディアンは験者を親として慕っているのだ。

 

それがよく分かる。

 

まあ、験者もそれを悪くは思っていないのだろう。

 

あたしが一度だけ振り返ると、ディアンの話を目を細めて聞いているのが見えた。

 

 

 

さて、此処からだ。

 

皆を集めて、アトリエで話す。

 

丁度ディアンが戻って来たので、全員揃ったか。夕食を完璧なタイミングでクラウディアが仕上げてくれたので、ありがたくいただく。

 

そして食べ終えてから、タオが話し始めた。

 

資料を解析していて、分かった事からだ。

 

「どうやら冬については、神代の更に旧時代の文明が起こした事で間違いが無さそうだよ」

 

「神代よりも更に古い文明があったんだな」

 

「うん。 神代の時代では、それを「混沌の時代」って呼んでる。 人間が今の比じゃないくらいに多くて、今足を踏み入れられない荒野にも、たくさん人がいたみたいだね」

 

「一体そんな世界で何が起きたんだ」

 

レントが代表して聞いてくれる。

 

レントは皆の盾として振る舞ってくれるが。

 

敢えて知識が足りない人間側から、「聞き役」をしてくれている側面も有る。

 

ディアンが戻ってくると、本格的にタオが話し始めた。

 

ディアンもとても大事な話をしていると分かって、すぐに背筋を伸ばしていた。

 

「ライザが溶けた硝子や建物の分析をしてくれただろ。 年代は4100から4150年前だって。 残されていた資料によると、今は考える事も出来ない兵器が使われたらしいんだ。 うーん、単語でしか分からないし、原理もよく分からないんだけれども、世界にある最小単位を、そのまま熱量に変える代物らしい。 それで世界中の人間が殺し合ったんだって」

 

「バカじゃねえのか……」

 

レントがぼやく。

 

あたしも同意だ。

 

今と比べものにならないほどの人間がいたのなら、タオだってそこではそれほど賢くなんかなかった筈だ。もっと賢い奴が幾らでもいただろう。

 

それなのになんでそんな事をした。

 

自分の利権だけを独占したかったのか。

 

それとも、口減らしのつもりか。

 

いずれにしてもそれが行われた結果、地上の半分は今も誰も住めない土地になり。何が起きたかはよく分からないが、却って冬の時代を招いてしまったと言う事か。

 

「「冬」と言われる陽も差さない時代は百年続き、その後にやっと人類は地上に戻ってきたんだ。 それぞれが原始的な文明からやり直し始めて、それで千年くらいが経過したみたいだね」

 

「千年も無駄にしたんだな……」

 

「無駄にしたのはそれだけじゃないよレント。 あっちこっちにあった鉱山とかも、あらかた駄目になった。 この世界は、もう「冬」の前と同じような数の人間を支える事が出来ないくらいのダメージを受けたんだ。 強力な魔物も、「冬」の後から多数が出現して行ったらしい。 神代の作り出した魔物以外にも、そうして繁殖した魔物はたくさんいるそうだ」

 

「聞けば聞くほど頭痛がする」

 

ボオスが嘆く。

 

まあ、そうだろうな。

 

神代は千年くらい前に終わっているが、二千年くらいは続いたという説がある。つまり、「冬」が起きる切っ掛けになったのが、あたしが見つけて来た溶けた硝子の要因。世界の最小構成要素を、そのまま熱変換する兵器が世界中で使われた事件だった、ということなのだろう。

 

「冬」が終わって千年くらいしてから神代が始まったとすると。

 

確かに話はあう。

 

ただ、どうして神代が始まったのか。

 

「神代の錬金術師達の書き残した手記を分析すると、隠そうとはしているけれど、一人の偉大な存在が浮かび上がってくるんだ。 どうもその人物が、この世界に錬金術師を広めたらしい。 その名は「旅の人」。 ただ、どうしてか執拗にこの人の事を隠しているんだよ」

 

「ろくでもない外道だったら、祀り上げていてもおかしくなさそうなんだがな」

 

「うん。 それが神代の錬金術師は腫れ物として扱っているんだ。 信仰とかだと、偉大な思想を持った開祖とかを祀り上げて人間ではない扱いにしたり、後の時代でしてしまう事があるらしいんだよ」

 

そういって、タオが資料を出してくる。

 

今は失われた信仰の一つ。

 

それは神は唯一絶対とするもの。

 

三つの流派に別れていたらしいが、いずれの開祖も人間ではない存在とされ。後の時代に権力を得るために思想をねじ曲げられたそうだ。

 

その過程が記されていたとタオが言うので。

 

あたしは大きな溜息が出た。

 

ただ、それはそれとして。そういうことさえしなかったというのは、一体どういう理由からなのだろう。

 

レントが疑念を呈する。

 

聞き役を自身に課しているが、レントは頭は悪くは無い。

 

少なくとも今はもう。

 

「その「旅の人」ってのが錬金術を広めて神代が始まったとしてだ。 たしかオーリムへの侵攻があったのって、千三百年くらい前だって話だよな」

 

「そうじゃ。 わしが証言する」

 

カラさんが証言してくれる。

 

生き証人の言葉だ。それは間違いないとみて良いだろう。

 

オーリムとこっちで時間の流れが変わらないことは、あたしが何度も足を運んでそれで検証している。

 

つまり千三百年前に致命的なオーリムでの蛮行が起きたのは確定だ。

 

「旅の人ってのは、一体何者だ。 神代は三千年くらい前に始まっているって話だったよな」

 

「うん。 どうもそう考えるべきみたいだね。 その技術をもたらした存在が「旅の人」だったとすると。 旅の人は何人もいたのか、それとも」

 

「寿命を超越した存在だったのか」

 

皆があたしを見る。

 

あたしが老化をストップしてしまったことは既に告げてある。人間として今後生きるつもりはないことも。

 

その気になれば「永遠」なんて難しくは無い。

 

ただ不死は無理だ。

 

どんな存在だって、欠片も残さず消し飛ばせば死ぬ。あたしだって、連戦の中で何度も死に瀕した。

 

「どうして神代の錬金術師どもは「旅の人」の痕跡をこうも隠したがる? 腫れ物として扱いたがる?」

 

「分からない。 ただ、もう一つ分かった事がある」

 

「聞かせて」

 

「神代の錬金術師にとって、幾つかの中核技術はブラックボックスだったんだ。 恐らく旅の人がもたらした技術は、彼等にとっても解析が出来なかったと見て良いだろうね」

 

なるほどな。

 

あたしの仮説がこれで一つ正しい事が分かった。

 

神代のカス共が、どうしてそこまでエネルギッシュに様々なものを開発していくことが出来たのか。

 

答えは、出来なかったのだ。

 

別に開祖が存在していた。

 

神代のカス共は、色々な証拠から分かっているが。血統を絶対視し、自分達以外のものは何一つ認めていなかった。

 

そんな連中が陥るのは視野狭窄なんて言葉では生ぬるいほどの閉鎖性だ。

 

そんなところから、新しい技術なんて作り出されないし。

 

身内で評価されるものだけが尊ばれる。

 

神代の錬金術師の模倣をした古代クリント王国ですらそうだったのだ。劣化コピーですら、邪悪な奴隷制をしいて、自分達以外の全てから搾取をした。

 

ましてや古代クリント王国のゴミカス共が神と信仰する神代の錬金術師が直に作ったあの悪魔もどき達は。

 

劣等血統なんて言葉を使い。

 

錬金術師以外の人間を、人間だとみていなかった。

 

現在の世界でも、価値観が上か下かしかない奴は幾らでもいるが。それが正当化された世界の住人であり。

 

そんな連中が、エネルギッシュに世界を改革するのは不可能だ。

 

謎は解けた。

 

やっぱり借り物の技術でイキリ散らしているだけだったんだな。

 

確かにおかしな事は幾つもあったのだ。

 

オーレン族と神代の錬金術師の戦いで、連中は性能だけ凄い武器は持ちだしたが、自分達も凄いと思い込んでいた。

 

だからオーレン族は戦えた。

 

それどころかオーレン族は奴らの本拠にまで乗り込み、敗走にまで追い込んでいる。

 

もしも我を知っている類の相手だったら、そんな醜態はさらさなかっただろう。

 

どんなに優れた兵器を持っていても。

 

使い手がへっぽこでは、勝てる相手も限定されてくるのだから。

 

そうとさえ気付くことが出来なかったということは。

 

自分達さえ神格化して。

 

誰かから受け継いだだけの技術を振りかざしている、哀れな猿以下の群れというのが。神代の真相だったのだろう。

 

そうあたしが丁寧に述べると。

 

タオがそうだと思うと、悲しそうに言った。

 

学問は必ずしも誰もを幸せにするわけじゃない。

 

フェデリーカも悔しそうだ。

 

技術についても同じである。

 

あたしが暴威をサルドニカで振るわなかったら。今頃硝子と魔石の二大ギルドの衝突が激発して、血を見ていてもおかしくなかったのだから。

 

アンペルさんが咳払いする。

 

「確かにおかしいと思っていた。 自分が盲目的に優れているとでも思わなければ、あのような群島の宮殿の扉の謎かけはできまい。 技術についても劣化する一方だったのも納得出来る」

 

「それにしても、そんな奴らが本当に今もいるのかなあ」

 

ディアンがぼそりと言う。

 

皆の注目が集まると、ディアンは背筋を伸ばして。

 

それで恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「い、いや、俺難しい事分からないんだけど。 そんな自分は偉いなんて思い込めるアホな連中が、千三百年もそんな技術を維持していたら、絶対に仕返しに来ると思うんだ。 オーリムとかには特に。 それがフィルフサだけばらまいてそれっきりってのは、おかしくないかな」

 

「……何とも言えない。 実際に見てみないと。 あたしが自分で試してみて分かったけれど、人間を止めるのって実はそれほど難しく無いんだ」

 

少なくともあたしと同格の才能があれば、それはなんでもない。実際あたしも二十歳そこそこでそれを出来たし、しかもそれは錬金術を勉強し始めてたった四年弱でだ。

 

才能依存の学問というのはそういうものなのである。

 

あたしと同格の才能を持った人間が神代に一人でも出ていたら、そいつは不老は最低でも実現していたはずである。

 

たしかに、そいつを基点にこの世界に舞い戻ってきたり、オーリムを再侵略にいかないのはおかしいのだ。

 

ただし、別の世界に移り住んでやりたい放題をしている可能性もある。

 

だから、なんともいえないのである。

 

「人間を止めることが簡単かはともかくとして、今はあの扉を開けて、奴らの本拠に乗り込むのが先だ。 明日からは、順番に動こう」

 

アンペルさんがそうフォローを入れてくれる。

 

頷くと、あたしは皆に話を振っていた。

 

「よし、タオとレントとディアンで組んで、この辺りの座標を集めて回って。 クラウディアとボオスは、引っ越しについての資材集めと状況の整理、後は反対派の説得を頼めるかな」

 

「分かった」

 

「分かったわ」

 

引っ越しが出来る事は、以前の滞在であたしも示している。

 

ただいきなり一昼夜でできる事では無いので、どうしても音頭を取って少しずつやっていかなければならない。

 

まだ反対派の老人もいる。

 

それらへの説得もしなければならない。

 

「アンペルさんとクリフォードさんはそのまま解読を続行。 セリさんは薬草を出来るだけ栽培して」

 

「よし、任せておけ」

 

「薬草についても、かなりの量が集まって来たわ。 このままオーリムで一気に浄化を進める事が出来るかもしれないわね」

 

それについては喜ばしい。

 

ただし、フィルフサも無策でやられてくれるとはどうにも思えない。フィルフサを潰すには、あの狂気の源泉をどうにかしないといけないのではないかと、あたしは考えているのだが。

 

それについては、まだ資料がいる。

 

現物についても、古代クリント王国が作った劣化コピーを解析しただけだ。出来れば神代のものを手に入れたい。

 

それはあのフィルフサ王種を、狂気の源泉を破壊しないように条件付きで倒すか。もしくはフィルフサ王種を開発して狂気の源泉を取り付けていたような施設を見つけ出すしかないだろう。

 

後者の方が現実的だ。

 

なんとか苦労して倒しても、倒した時点で狂気の源泉は爆発してしまう可能性が高いのだから。

 

「パティとフェデリーカは、クラウディアの支援に回って。 あたしはカラさんとリラさんと一緒に、彼方此方見て来るよ。 禁足地に出るにしても、この辺りの密林にまた魔物が出ているようだと厄介だしね。 それに周辺の集落の状況も見てきたい」

 

「よし、それでいいな。 後は解散でかまわないか」

 

「ん? 長旅で疲れたのボオス?」

 

「長旅と言うより船酔いがな。 悪いがさっさと眠らせてくれ」

 

まあこればっかりは体質の問題だ。

 

方針が決まったので、後はそれで解散とする。

 

あたしも伸びをすると、軽くカラさんとリラさんと話をしておく。

 

カラさんに、一度ウィンドルに戻りたいと言われたので、それについても考えておくと答えておいた。

 

さて、まずは周辺の座標を集める。

 

それから、この辺りに侵攻した神代の拠点を探し出したい。

 

古城以外にもある筈だ。

 

禁足地。フォウレの里の北西にある巨大な城なんかは、かなり怪しいとみて良いだろう。

 

少しずつ、奴らの本丸が近付いている。

 

奴らを塵芥に帰す日が近付いているのは、好ましい事だった。

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