暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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鍵の強化に使える可能性が高い金属の話。

しかしそれを得られるからといって、優先順度を間違ってはいけません。

人命に関わるもの。

危険度が大きいもの。

それらから順に解決していくのが、多数の問題が重なった時の鉄則です。

近年では医療現場のトリアージなどが有名になっていますが、それと基本的には同じですね。

本作のライザはそれを修羅場を潜り続けた結果、本能として身に付けています。


3、一番危険なもの

たくさんのタスクが積み重なることは、あたしは四年前のクーケン島から、何度も経験してきた。

 

それ以来あたしが心がけているのは、優先順位をタスクに設ける事。

 

難度が高い、危険度が高いものから潰す事。

 

これを守る事で、あたしは今まで最高率で問題解決をこなせてきたと思う。今回は、フォウレの里に直接の危機は迫っていない。

 

墓には近寄らなければ危険は現時点ではない。

 

問題は、姿を見せびらかしているドラゴンらしき存在だ。

 

まずは港に出て、軽く聞き込みをする。やはりドラゴンらしい存在の目撃情報はあった。

 

こういう目撃情報はかなり大きさが盛られる傾向があり、話半分に聞くのが鉄則なのだけれども。

 

三手に別れて聞き込みをして戻ると。既にタオがクリフォードさんと話をまとめて、イラストまで作ってくれていた。

 

流石である。

 

それによると、全身は真っ赤。

 

禁足地の城周辺で目撃されており、あたし達が以前古城でやりあった洗脳されたドラゴンよりもだいぶ大きいようである。

 

様々な情報を集めて、それで総合的に概ねの大きさを導き出してくれたタオは流石である。

 

まあクリフォードさんが正確性が高い情報をまとめてくれたから、というのもあるのだろうが。

 

「前には目撃されていないんだよね其奴」

 

「ああ、それは間違いねえ。 そもそも俺たちがこの辺りの大物を倒し尽くすまでは、この辺りは超危険地帯だっただろ。 ドラゴンなんか出たら、それだけで港を逃げ出す奴も出ていただろうって話だ」

 

クリフォードさんが言うが。

 

この人は、ロマン狂ではあるが、探索については本職も本職だ。聞き込みに関しても非常にプロフェッショナルな手腕を見せてくれる。

 

今回はタオとクリフォードさんにフェデリーカを同行させたのだが、ずっと頷くばかりだったと言われた。

 

フェデリーカだって色々腹に一物も二物も抱えた大人とやりとりはしてきているはずなのに。

 

会話術のレベルが違うと言うわけだ。

 

「ちょっと自信なくします」

 

「できない事を自覚するのは良い事なんだよ。 凄い技を見たら、嫉妬するんじゃなくて、少しでも其処に近付こうと思えるようになれば、更に先に行ける。 逆に優れている人間を引きずり降ろすことを考え始めると、人間はもう駄目だね」

 

「そうですね……」

 

「ま、あたしもあからさまに凄い人を見て全部素直に褒められるかは自信がないかな。 クリフォードさんほどは喋れないし」

 

苦笑いされる。まあ、フェデリーカは大事な預かり娘だ。しっかり経験はあらゆる点で積んで貰いたい。

 

とりあえず、集まって方針を決める。

 

まずは禁足地に入って様子を見る。

 

ドラゴンらしき存在は、禁足地の内部を見回るようにして飛び回っていたという証言が出て来ている。

 

禁足地に異変が起きているのかも知れないし。

 

或いはドラゴンらしき存在が何かしらをして、それが今後まずい事につながろうとしている可能性もある。

 

最前列にレントとパティに入って貰い、最後尾はリラさんに固めて貰って、魚鱗で進む。

 

クリフォードさんには主に上空を警戒して貰い、クラウディアには音魔術で異変を調べて貰う。あたしも熱魔術を展開。カラさんも、同じように探知用の魔術を複数同時に展開しているようだ。

 

東の地で貰った最高品質の絹は、今調べているのだが。

 

これを使って、更に服を強化出来そうだ。

 

グランツオルゲンも最高品質のセプトリエンのサンプルが手に入ったから、それで強化は出来ると思うが。

 

今までおざなりだった防御の方を重点的に強化していきたい。

 

確かに思想として、重装鎧が廃れた時代にあたしもいて。

 

その影響はあったのだと思う。

 

そういう影響を越えてこそ、この神代の負債まみれの時代を変えられると言える。

 

固定観念を捨てろ。

 

あたしはそう言い聞かせながら、全てを調整する。

 

魔物だ。

 

たいした相手では無い。ただ、こっちを綺麗に包囲してきた。鼬の群れで、かなり大きな相手に率いられているが。

 

東の地で散々やりあった鼬に比べると、子供みたいなサイズだ。

 

小賢しいことに退路を開けていて、追撃を仕掛けて効率よく狩るつもりらしい。

 

ふっと鼻で笑うと、レントが進み出る。

 

獰猛な殺気を(殺気なんてのは感覚の誤認だが)感じたのか、びくりと鼬の群れが後ずさる。

 

シャッと鋭い音を立てて、ボスらしい鼬が鳴くと。

 

それで部下達が引き締まるのだから面白い。

 

ディアンも前に出た。

 

「レントさん、俺もやるぜ」

 

「しばらくは船旅とトラベルボトルの中ばっかりだったしな。 全部はやらないぞ」

 

「分かってる!」

 

二人が鼬の群れに襲いかかる。

 

パワーも戦闘技術も、既にこのくらいの雑魚が相手だったら問題にもならない。

 

あたし達が手を出すまでもない。

 

大きいのは逃げだそうとして、ディアンに頭を叩き割られた。全部あっさり片付いたが、東の地で苦戦した連中に比べれば、こんなのは文字通り雑魚も雑魚だ。

 

死骸は綺麗に残っていたので、全部捌く。毛皮は燻して寄生虫を落として、売り物に出来るようにしておく。

 

肉はちょっと独特の臭みがあるが、これはエサが原因だろう。燻製にして、無駄にしないようにする。

 

この辺りの魔物も、やはり人間を舐めているので、綺麗に片付けてしまった方が良いだろう。

 

人間と魔物が適切な距離を保つには、魔物が人間を舐めない事が最低条件となる。

 

魔物は所詮動物なので、畜生の理屈で生きている。

 

だから、荒っぽくてもこうやってやっていくしかない。

 

死体の処理を終えたら進む。

 

今度はラプトルが群れで現れる。

 

かなり大きなラプトルだが、これも東の地のと比べるとだいぶ楽だな。パティが前に出て、ボオスも。

 

フェデリーカも、頷くと前に出ていた。

 

「私も戦います。 少し私に廻してください」

 

「危なくなったら介入するからね」

 

「お願いします」

 

フェデリーカも、接近戦を学び始めているところだ。

 

しばらくは、見ているだけ。

 

そして危なげなく戦いが終わったら、全て捌いて肉なども無駄にしない。それだけの余裕があると言えた。

 

ただ、気付く。

 

禁足地に入って、少しずつ魔物が強くなっている。この先、少し急ぐことになるだろうけれども。

 

そうなると、見えている城に辿りついた頃には、とんでもない強敵が姿を見せるかも知れない。

 

ネメドの森の魔物の強さは、初めて見たときは衝撃的だった。

 

こんなに危険な魔物が大量にいる土地があるのかと、驚かされた。

 

だけれども、東の地は更に凄まじかったし。

 

もし超ド級がいたら、今度も総力戦を覚悟しなければいけない。油断すれば一瞬で死ねる相手だ。

 

それにドラゴン。

 

何者かしっかり確認しない限り、安心してこの辺りの人は暮らせないだろう。文字通り飛んでくるのだから。

 

しばし進んで、廃村に出た。

 

酷く荒らされている。

 

この辺りに入植はしたが、魔物に駆逐されたというのが一目で分かる有様だ。すぐにタオとクリフォードさんが散って調べ始める。あたし達は警戒を開始。どこから何が出て来てもおかしくは無いからだ。

 

タオが声を掛けて来る。

 

「かなり新しい集落だよ。 たぶん二百年以上前だろうね」

 

「二百年も前で新しい集落なんですねタオさん」

 

「ちょっと感覚が麻痺しているかな。 ……建物は石造りだけれども、開放的な構造で、この地の暑さに対応している。 港町にも似たものがあるけれども、こっちはより文明的である事を意識しているみたいだ」

 

「おい、こっちだ」

 

クリフォードさんが手を振って来るので、すぐに様子を見に行く。

 

倒壊した家屋。

 

レントとあたしで石材を崩してみると、何やら出てくる。宝では無い。骨だ。数人分が、まとめて潰されていた。

 

すぐに死体を調べる。

 

これは圧死している。魔物に追い込まれて潰されたというのではなくて、どちらかというと崩れた家に為す術なくという感じだ。

 

クリフォードさんが石材を調べていて、ほうと呟く。

 

「これを見てくれ」

 

「うーむ、ちょっとあたしにはなんとも」

 

「これはな、不自然に力が掛かってる。 最初は地震による倒壊かと思ったんだが、これは違う。 ばかでかい奴に踏みつぶされたんだ」

 

「超ド級ですかね」

 

なんともとクリフォードさんは言う。

 

いずれにしても、この集落はとんでもない化け物に蹂躙されたと言う事だろう。

 

この地に住んでいたという事は、少なくとも鼬やラプトルくらいなら自衛出来ていたと見て良い。

 

そういうレベルではない相手に強襲されて滅びた。

 

それが何か分からない以上、警戒する必要がある。

 

検分を終えたので、遺体は荼毘に付して葬る。

 

墓場らしいものがあったので、それを整備して、一緒に埋めておいた。埋葬が終わると、更に先に進む。

 

仇を討つという感覚は無い。

 

ただ、この地を潰した魔物の存在を、身を以て教えてくれたわけだから感謝するし。

 

これ以上似たような犠牲者は出させない。

 

そうして、しばらく行くと、崩された見張り台を見つけた。かなり立派な石造りだが、真横からなぎ倒されている。

 

内部はある程度形が残っている遺物があって、それをディアンが見てあっと声を上げていた。

 

「それ、祭の時に飾る供物に似てる!」

 

「見せてご覧」

 

タオがすぐに確認する。

 

頷くと、タオは説明してくれた。

 

お守りの一種だと。

 

フォウレの里ではボディペイントなどの独自の風習があり、種拾いの戦士はディアンもそうだが複数のお守りを身に付けている。

 

それらは必ずしも威圧的なものばかりではなく、守護者に愛されるためのものという側面もあるらしい。

 

まあ素朴な信仰という奴だ。

 

調査中に奇襲されるのが非常に危ないので、皆には見張りについて貰うが。

 

タオは丁寧な検分の後、順番に解説してくれる。

 

「フォウレの里にあったものと傾向は同じだろうね。 そうなると、多分此処は、フォウレの里の先祖が一時的に……今の里に移る前に使っていた場所なんだろうと思う」

 

「でも、二百年前くらいだったら、もう今の里に人はいたみたいだぜ」

 

「いい質問だね。 フォウレの里の人達は神代に散り散りになって、各地に一度散ったんだ。 それらの人達は時間を掛けて戻って来たんだけれども、いきなり住んでいた場所を捨てて戻って来たわけじゃない。 段階を踏んで、故郷の地に近付いて行ったんだよ」

 

「そうなると、ここに住んでいた人達は」

 

全滅したわけではないのだろう。

 

フォウレの里の先祖達が住んでいた城は、この地に住んでいたのならもう知っていた可能性が高い。

 

だが、それでも一度住んでしまうと、その地に愛着も湧くし。

 

何より今の時代は魔物が人間よりも明確に強い。

 

それもあって、安定した土地に住めるのであったら。腰が重くなるのも、仕方が無い事だろう。

 

「何かしらに襲撃されて、それを切っ掛けにあの集落を捨てたんだろうね。 生き残りはフォウレの里に合流できたと思おう」

 

「……なんだかみんな、大変な人生を送っているんだな」

 

「今の時代はみんなそうだね。 安全な場所に引きこもっているとどうしても腐敗してしまうけれど。 勇気を出して外に出ても、魔物に殺されてしまう事もある。 悲しい話だよ」

 

フォウレの里の先祖達は、各地に散って、それぞれが迫害を受けていたとも聞く。

 

故郷に戻ることは悲願だったのだろうが。

 

その過程で、色々あったのだろう。

 

別の地に根付いたケースもあり。

 

この集落も、そういう過程での悲劇だった訳だ。

 

とりあえず、そろそろ一旦引き上げるとする。

 

何かしらヤバイのがいるのは間違いないだろう。結構大きめの見張り台が為す術なくなぎ倒されていたのだ。

 

それを考慮すると、集落を潰したのは超ド級でもおかしくない。

 

夜になる前に戻り、アトリエで地図の確認をする。

 

今日到達した地点から更に進むと、一気に勾配が急になるようである。

 

今の時点では強力な魔物には遭遇していないが、それも相手の縄張り次第ではどうなるかも分からない。

 

帰路で、港町で一度別れたクラウディアがとボオスとディアンが遅れて戻ってくる。

 

ディアンは、この辺りの子供達にかなり人気がある。

 

強いが弱い者いじめをしないということで、ヒーローとしての人気があるようだ。

 

それで調子に乗らないのだから、大したものだと思う。

 

港町や農村であたし達の事を超強いと広めているようなので、ちょっと恥ずかしいのだが。

 

それで子供達が聞いた話を全て正直に話してくれるので、情報収集は結果として楽になっている。

 

「何か収穫はあった?」

 

「うん。 またドラゴンだって。 私達が帰った後に、くるくる飛んでいたみたいだよ」

 

「妙じゃな。 もう想定される縄張りに入っているのだとすれば、仕掛けて来るのが普通だが」

 

「……やはり普通のドラゴンではないのかも知れませんね」

 

カラさんが小首を傾げている。

 

カラさんのいた奏波氏族は、ドラゴンとの関わりが深い氏族だ。ドラゴンについて知識も深いだろう。

 

だったらどうつきあえば良いのかも分かっている筈だ。

 

その常識が通じないとすると。

 

確かに、警戒すべきだろう。

 

「接触を急ごう。 どうも嫌な予感がする」

 

「俺もだ。 禁足地では、ずっとひりつく感触があった。 超ド級か、それに近い相手がいるかもしれねえ」

 

「ネメドの森には好戦的では無いフェンリルがいました。 こっちには好戦的なフェンリルがいてもおかしくはないですね」

 

パティが嫌な予想をするが。

 

フェンリルが神代の産物だろう事はほぼ疑いないとして。

 

まあ、何が出ても不思議では無いだろう。

 

「ライザ姉、一応この辺りにいるガイアさんとかのお仲間に声は掛けておいた。 最悪の場合も、避難誘導はしてくれると思う」

 

「お、気が利くね。 ありがとうディアン」

 

「俺たちのためでもあるからな。 あの人達、強くなれば強くなるほどすごさが分かるし」

 

「違いない」

 

他にも幾つか話をした後、解散とする。

 

さて、明日は更に城に近付く。

 

夜にデアドラさんが来て、何人か来て欲しいと言われたので、ついていく。

 

子供が行方不明になったという事で、急いで調べる。熱魔術を駆使し、クラウディアの音魔術も行使して、足跡を追跡。

 

幸い、くさむらに隠れている子供を無事に発見できた。

 

わっとディアンに抱きつく子供。

 

そして、それを見届けるように、周囲に魔物が現れる。

 

知恵が回る奴だ。

 

敢えてエサを放置しておいて、もっとたくさんの人間を釣るつもりだったというわけだ。

 

生憎だったな。

 

釣りをしている腕ごと食い千切ってくれる。

 

魔物は走鳥で、かなり巨大だが。怖れる理由は無い。

 

「ディアン、その子を死んでも守って!」

 

「おう!」

 

「寝る前の運動だ。 まとめてぶっ潰してやる!」

 

やり口が不愉快だからだろう。

 

レントも吠えると、襲いかかってきた走鳥に、容赦なく猛威を振るう。またたくまに数羽が叩き潰されると、明らかに怯む走鳥だが。

 

逃げようとした退路には、既にパティが回り込んでいて。文字通り一閃していた。

 

足をそのまま切りおとされて、地面に倒れた走鳥を、種拾いの戦士達が容赦なく仕留めていく。

 

あたしは後ろから襲いかかってきた走鳥に、後ろ回し蹴りを浴びせる。

 

太くて頑強な足を持つ走鳥だが、あたしの蹴り技は生半可な倍率を筋肉に掛けていない。元々鍛えている上に、錬金術の装備で極限まで強化している。

 

もう、こいつ程度に遅れを取らない。

 

ぼぎりと音がして、体内を砕かれた走鳥が真横に吹っ飛ぶ。勿論致命傷だ。

 

すぐに戦場は静かになっていた。

 

デアドラさんが、ディアンに子供を里に連れて戻るように指示。

 

灯りで周囲を照らし警戒しながら、走鳥の死骸を運んで行く。

 

飛ぶ鳥よりも頭が悪い事が多い走鳥だが、魔術は普通に使ってくるし、こういう狡猾な狩りもする。

 

まあ、人間を殺すためなのだろう。

 

或いは知恵と言うよりも、本能の可能性もある。

 

畜産をやっていると分かるのだが、人間は学んで出来るようになることを、動物はどの個体も出来る場合が多い。

 

それは本能として、体に刻まれている事だからだ。

 

死体の処理を終えて、里に凱旋。

 

デアドラさんが、不安そうにしている里の皆に、声を張り上げていた。

 

「ライザ殿達が的確に子供を見つけ、救ってくれた! その働き比類なし!」

 

「おお……」

 

「流石にあのマンドレイクを倒してくれた事だけはある!」

 

「ただ、まだ何かの襲撃があっても不思議でない! 今晩は警戒を密にし、外出は控えて欲しい!」

 

ふと気付く。

 

里の一角に、かなりの量の木材が積まれている。

 

そうか、今日はあの木材を確保してきていたのか。

 

だから森にいる魔物が、目をつけてきたのかも知れなかった。

 

一風呂浴びて寝るか。

 

そう思ったところで、デアドラさんに言われる。

 

「ライザ殿、相変わらずの手並みで感心する。 それに……」

 

デアドラさんは、泣いている子供を慰めているディアンを見る。

 

まだ幼い子だ。

 

怒るよりも、まずは無事を喜ぶべきだと、分かっているのだろう。

 

「昔のディアンだったら、あの子を守れと言われても、魔物を倒す事を優先して、被害者を出していたかも知れない。 あの子がしっかり成長しているのは貴方のおかげだ」

 

「ディアンは凄い速度で成長しています。 あたしの影響だけじゃないですよ」

 

「謙遜だな。 とにかく感謝する」

 

敬礼を受けたので、敬礼で返す。

 

まだこっちに嫌悪の目を向けている老人もいる。

 

だが、里の人達は、概ねあたし達を好意的に見てくれている。それが追い風になると信じたかった。

 

 

 

翌日。地図を作り、座標を集めながら、更に城へと向かう。

 

勾配が急になってきて、今まであった道らしいものも消えて失せる。あのデカイ城は、ネメドの森の中にあったフォウレの里の先祖達が作ったものよりも大きいかも知れない。それなら人の出入りがあった筈だが。

 

この辺りは、とてもそうだとは思えなかった。

 

勾配が急なだけではない。

 

狭い道が、山肌近くにあって、滑り落ちたら死を覚悟しなければならないような場所もある。

 

こんな所に限って珍しい薬草があったりする。

 

セリさんが、植物魔術で崖に階段を作り、それを取りに行くのを護衛する。

 

セリさんが薬草を集めているのが、オーリムを救うためだというのは分かっているので、その行動は止められない。

 

ましてやあたし達に、とめる資格は無いだろう。

 

こっちを伺っているアードラ。

 

かなり距離があるが、隙があれば仕掛けて来るだろう。

 

セリさんが、ある程度の収穫を済ませて上がってくる。

 

崖の下は川になっていて、サメがこっちを数体見ている。水鉄砲を使ってくる種類もいるので、この距離でも安心は出来ない。

 

落ちてくれば美味しい獲物にありつけるのだ。

 

まあ、待ち構えるのは、わからないでもない。

 

植物魔術を使って、足場を片付けるセリさん。

 

アンペルさんが提案する。

 

「崖際に手すりか何かを作って貰えないだろうか。 戦闘の時にいちいち作ると危ないだろう」

 

「提案は悪くないのだけれど、この状態だとむしろ地盤が弱くなって危ないわね。 ライザが戦うと、いつも地盤が粉々になるし」

 

「あはは、すみません……」

 

そっか、あれのこと、あまりよく思っていなかったのか。

 

確かに地盤まで砕くような蹴り技を使うと、植物にも影響はある。怒るのはもっともだし、仕方がない。

 

とにかく崖は急いで抜ける。

 

この崖、なんというか。

 

王都近くの地形を思い出す。

 

「パティ、懐かしいねこれ」

 

「えっ? ……ああ、確かにそうですね。 私はちょっと、怖いのであまり思い出したくはないですが……」

 

「あの頃はまだ初々しかったもんね」

 

「今だって図太くはないです」

 

パティもちょっとまだこういう所は可愛いな。すっかり歴戦の戦士になったが、あたしよりもだいぶ人間らしいと思う。

 

崖を抜けたが、勾配の急さは変わらない。

 

魔物も複数がこっちを見ているが。安易に仕掛けては来ない。これは、先の集落にいた連中よりも、ずっと練度も戦闘力も高いからだろう。

 

こっちの実力を測れるから、仕掛けてこないのだ。

 

より手強い相手だと言える。

 

また集落だ。

 

急勾配に貼り付くような集落の跡地。

 

此処も滅ぼされたんだろうけれども、ちょっと雰囲気が違うな。

 

タオが調べて、これはと声を上げる。

 

「ライザ、周囲を警戒して。 ちょっと本気で調べる」

 

「分かった!」

 

見ると、急勾配の一部を崩して、段々の畑を作った形跡が彼方此方に残されている。これはここに住んでいた人達がやったとみて良いだろう。

 

ちょっとおかしいのは、残されている建物だ。

 

これは石材か。

 

いや、ちょっと違うな。

 

神代の遺跡に見られるようなものともまた違っている。それよりも洗練されていないというか。

 

程なくして、タオが結論を出していた。

 

「700年ほど前のものだね」

 

「下の方の集落と全然年代が違うな!」

 

「うん。 古代クリント王国が全土を支配する前の時代のものだよ。 しかも、これらは家と言うよりも駐屯地だ」

 

古代クリント王国はたまたま全土を支配しただけで、その時代は錬金術師が他の国にも存在していた。

 

それは王都近郊の遺跡でも知った。

 

またその時代は人間も多く、アーミーも存在していた。

 

駐屯地というのは、アーミーが拠点にしていた場所だ。つまりこの先の城は、その時代より前にあったとみて良い。

 

ネメドの森の城は、密林の内部だから気付けなかったかも知れないが。

 

こっちは古代クリント王国以前には、存在を知られていても不思議では無い。錬金術師が、アーミーと一緒に来てもおかしくは無いだろう。

 

ボオスが警戒しながらタオに聞く。

 

「此処はどうして潰れたんだ」

 

「調べているけれど、あわてて逃げ出したような様子はないね。 引き払ったんだと思う」

 

「この先が神代の遺跡だとしても?」

 

「可能性は幾つかあるけれど、手に負えない相手だったのか、それとも興味を持てなかったのか。 でも、後者の可能性は低いだろうね。 段々の畑は長期的に居着くためにつくったんだ。 アーミーはこういうのをやっていたって記録がある」

 

それは同感だ。

 

あたしも何度か神代の遺跡にあたったが、オーバーテクノロジーの塊だらけだった。

 

古代クリント王国はたまたま勝ち残ったが、恐らく何処かしらの神代の遺跡の発掘に成功したからだとみて良いだろう。

 

他の国も倫理観では大して変わらなかったようだし。

 

遺跡については喉から手が出る程欲しかったはずだ。

 

アーミーまで繰り出して調査に来ていて撤退したのだとすれば。

 

それは、やはり神代鎧や超ド級に手も足も出なかったのだろう。

 

もしもそれらを駆逐出来ていたのだとすれば、あの城そのものが既に残っていないだろう。

 

それくらい、根こそぎしゃぶり尽くしているはずだ。

 

「気を付けてライザ。 何が出るか分からない。 更にドラゴンがいる懸念まである」

 

「分かってる。 それよりも……」

 

この駐屯地そのものは、そういった化け物級の魔物に荒らされた気配がない。それもまた、不可解だ。

 

神代の連中は傲慢極まりなく、他の人間を劣等血族とまで言っていた。そんな連中が、遺跡荒らしを許すだろうか。

 

ともかく、警戒する必要がある。

 

更に先に。

 

そして、丘を越えたところで、見えてきた。

 

前にこの光景を、これほどの規模では無いが見たことがある。クーケン島近くの谷で、である。

 

塔に続いていた谷は、古代クリント王国のアーミーが、何万という単位でフィルフサに踏みにじられた土地だった。

 

あれほど悲惨ではなかったとしても。

 

此処では、似たような事が起きたのだと、一目で分かる。

 

彼方此方に戦闘の痕跡がある。

 

あの駐屯地にいたアーミーは、錬金術師もろとも踏みにじられてしまったのだろう。

 

大型のゴーレムの残骸。

 

苔むしているそれには、抉り取られたような跡。

 

幽霊鎧の残骸も彼方此方に散らばっている。

 

どれもねじ切られていたり、ひねり潰されていたり。

 

やはりここに来た何処かしらの国のアーミーは。可能な限りの戦力を持ち込んでいたのだとみていい。

 

そして返り討ちにされたのだ。

 

東の地の侍や忍び達でさえ、神代の魔物相手には防戦で手一杯だったのだ。

 

数だけ揃えても、とてもではないが神代の遺跡の攻略なんて無理だ。ガーディアンには、フィルフサの将軍級の相手だって珍しく無いのだから。それどころか、空間や時間に関する魔術だって使ってくるものがいる。

 

戦慄しているフェデリーカに咳払いすると、とりあえず今日は偵察だけにする。

 

此処で戦闘が行われたのは確実。

 

千単位のアーミーの人達が踏み砕かれ、ほぼ全滅したのだろう。

 

そもそも誰も生き残らなかったから、駐屯地は残っていた。それどころか、城のガーディアンは蠅でも払う感覚だったのだろう。だから追い払うだけで満足して、追撃はしなかった。

 

それだけのことだ。

 

見えてきた。

 

城だ。

 

城には傷一つついていない。それどころか、この地点からは分かった。気配がびりびりする。

 

それは本当に気配を感じているのでは無く、五感が危険を察知しているのだというのは分かるが。

 

この先には、千人単位のアーミーを苦もなく蹂躙した魔物がいる。

 

それも現在の戦士達よりも進んだ兵器を持っていた上に、戦闘用の幽霊鎧やゴーレムも使役していたのにだ。

 

「ライザ姉、多分フェンリルがいる。 それも凄く強い奴だ」

 

「ふむ、フェンリルか……」

 

「どうするライザ。 そろそろ夕方になるけれど」

 

「論ずるまでもなし。 一度戻ろうか」

 

此処までの調査だけで今日は充分である。それよりも、あたし達の視界からドラゴンが確認できていない事が気になる。

 

既に禁足地のかなり奧にまで踏み込んでいるのだが。

 

やはり嫌な予感は消えてくれない。

 

この様子だと、フェンリルだけでは無い。もっと色々と、ろくでもない相手とやり合うことになるだろう。

 

空間操作使いが弱かった試しが無い。

 

それもディアンが強いとまでいうのなら、以前サルドニカで交戦した二個体のどっちよりも強いだろう。

 

かなりしんどい戦いになりそうだ。

 

あたしは、既に腹をくくっていた。

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