暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

145 / 200
4、赤竜は見えず

日暮れから少し経った頃、港町に到着。カンテラで周囲を照らしながら、帰路を急いでいる途中。

 

騒ぎが聞こえた。

 

確認しにいく。

 

海の側だ。強力な魔物が出てもおかしくは無い。密林に、今まであたし達とかち合わなかっただけの強力な奴がいても不思議では無い。

 

しかし、それは予想外の話だった。

 

「ドラゴンだ! 今までに無い程近かった!」

 

「とんでもない大きさだったぞ! あれは本当にこの街に攻めてこないのか!?」

 

泣いている子供の声。

 

これは尋常じゃないな。

 

あたしが顔を出すと、すぐに皆黙る。何人か、人脈を作っている相手と話をしてみると、話は共通だった。

 

ドラゴンが飛んでいた。

 

今までになく港町に近かった。

 

大きさは確認した感じでは、あたしの歩幅で四十歩から五十歩くらい。かなりの巨大さだ。

 

エンシェントドラゴンには山ほど大きい個体がいるらしいが、そういうのは以前オーリムで聞いた死のために此方の世界にわたって来る者だろう。

 

だが、竜風が起きていない以上。

 

この世界で育ったドラゴンとみて良い。

 

ただし、気になるのは。

 

あたし達が誰もそれを見ていない、ということだ。

 

「妙だな。 やっぱり俺たちは何も見ていないぞ」

 

「それだけじゃねえ。 気配もなかった」

 

「音魔術でも飛行音は捕らえていないよ」

 

「フィー!」

 

フィーが自己主張。

 

そうだ。フィーはドラゴンと極めて生態が近い存在。ドラゴンの魔力を吸収して生命に変える。

 

だったらそんなばかでかいドラゴンがいたら、気付かないはずがない。

 

「集団幻覚か何かか? でもそんな薬物とかの蔓延は聞いてもいないぞ」

 

「ないわ」

 

セリさんが即答。

 

セリさんは植物魔術のエキスパート。そういった幻覚作用などがある植物にも知識が豊富だ。

 

幻覚を見せて獲物を補食する植物の魔物は存在しているらしく。

 

そういうのを知っているから言えるという。

 

少なくとも、集団に存在を錯覚させるような強烈な毒物の気配はないと。

 

念の為、クラウディアとボオスとディアンには、聞き取りのために港町に残って貰う。あたしたちは、フォウレの里のアトリエに戻る。

 

アトリエで荷物を置いた後、手分けして話を聞く。

 

そうすると、妙な話が聞けた。

 

ドラゴンについて目撃した人が何人かいたのだが、いずれもが海の方を飛んでいたというのだ。

 

港町近辺どころか、突き抜けて海だ。

 

これはどうにもおかしいな。

 

験者にも一応話は共有しておく。

 

そもそもフォウレの里は、何度も竜風に見舞われており、その度にドラゴンを見ている。いま生きている人はともかく、ドラゴンへの信仰が存在していて。知識もある程度はあるはずだ。

 

見間違えるとは思わないが。

 

こう矛盾が生じると、今後何かしらの事が起きてもおかしくは無い。

 

既に何かの強力な魔術が展開されている可能性もある。

 

ドラゴンだったら、どれだけの強力な魔術を使ってもおかしくない。空間操作にしても、時間操作にしてもだ。

 

クラウディア達が戻って来たので、夕食にしながら話をする。

 

やはりドラゴンが見えていた座標が違う。

 

ただ、はっきりしてきたことがある。

 

このままだとパニックになる。

 

最悪、ドラゴンが出てもいないのにパニックが起きて大勢の死者が出たり。それであたし達は此処での調査を続けられなくなる可能性すらある。

 

それは問題だ。

 

それに、集団ヒステリーが起きるにしても、薬物の気配は無い。だとすると魔術の可能性が高いが。

 

これほどの広範囲の人間に影響を出し。

 

それでいて、あたし達には影響を与えないなんて事があるだろうか。

 

港町から長老が来たらしい。

 

験者が対応に当たっているようだ。

 

しばらく話をしていたが、当然アトリエに験者がデアドラさんと一緒に来た。かなり深刻な顔をしている。

 

調査の進捗を聞かれたので、見てきたものを話す。

 

古代クリント王国以前の古戦場。

 

それも蹂躙された跡。

 

その話をすると、験者は流石に青ざめていた。

 

「この地にそれだけの規模のアーミーが来て、しかも返り討ちに会っていたのか」

 

「ほぼ間違いなく相手は神代の遺跡とガーディアンですね。 ディアンはフェンリルの気配を感じたと言っています。 しかもネメドの森にいる個体と違って、敵意剥き出しの相手です」

 

「そうか。 だとすると、ライザどの以外の誰でも相手は無理であろうな」

 

「あたしだけでは勝てる自信はあまりないです」

 

あたしの周囲にいるスペシャリスト達が、勝利の確率を上げる。ただそれだけだ。

 

咳払いすると、験者は続ける。

 

「港町の方では、恐怖が拡がっている。 ドラゴンが、禁足地にライザどのが入ったために怒っているのではないか、というのだ」

 

「時系列が矛盾していますが」

 

「ああ、分かっている」

 

そもそもだ。

 

あたしがフォウレに再度上陸する前から、ドラゴンの目撃例は出ていたという話なのに。どうしてあたし達の禁足地への侵入が原因になっているのか。

 

験者は苦々しく言う。

 

「恐怖に狂うと人間はそんな事も分からなくなる。 実際我等フォウレの里の民だって、それは人の事を言えぬ」

 

「この里の人々と、港の人々でドラゴンの見えている座標が違っていたことは話していただけましたか?」

 

「うむ。 それを聞いて、ようやく帰ってもらったのだ」

 

「なるほど、まだ最低限の理性は残っているようですね」

 

ただ、これ以上はまずい。それはあたしもはっきり断言できる。

 

対応は考えなければならない。

 

ドラゴンは決して侮れる相手では無い。あたし達にすら気配を感じさせない、とんでもない奴かも知れない。

 

それにだ。

 

神代に改造されたようなやつだったら、更に凶悪な可能性だってある。

 

幻覚の一言で片付けるほど、あたしも楽観的では無い。

 

ましてや神代の遺跡が禁足地にあるのはほぼ確定なのだ。フェンリルだけがガーディアンとは思えない。

 

まあフェンリルが一体いるだけで、生半可な戦力では手も足も出ないだろうけれども。

 

「分かりました。 どうにか対応を試みます」

 

「ありがたい。 何から何まで迷惑を掛ける!」

 

「いえ。 それにもしもドラゴンなら、人間に害を為すなら駆除しないといけませんし。 この辺りが全て灰燼に帰す可能性もありますから」

 

「そうだな。 ともかく我等には対応の手段が見当もつかん。 頼むぞ」

 

験者が頭を下げて戻っていく。

 

胃が痛いだろうな。そう思って、あたしは同情した。

 

ともかく、色々と足踏みしているが。それでもどうにかしなければならないだろう。

 

あたしは、皆に意見を募る。

 

そして、これは出来るだけ急いで、遺跡を攻略しないとダメだろうなとも思った。

 

 

 

(続)






エンシェントドラゴンの情報です。

もしも本当にエンシェントドラゴンで、しかも人間と敵対的な場合はコトです。

そもそもドラゴンですら強いのに、エンシェントドラゴンは自力で空間を渡って世界を越える程の存在。生物の領域を逸脱しており、現時点でのライザでも必勝とはいかない相手です。

その上自在に空を飛ぶ事ができるエンシェントドラゴンは、もしも人間に敵対的だった場合は、集落なんか瞬く間に滅ぼします。街だって数時間ももたないでしょう。

最悪の場合に備えて、動かなければならないのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。