暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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フォウレ近辺で目撃されるドラゴンの情報を集める過程で、それがあまりにも不可解な事にライザは気付きます。

ともかく誘引作戦開始です。

もしも本当にドラゴンがいて、それが人間の集落を襲ったら、秒で集落が消し炭になる。それくらいこの世界の人間はドラゴンと力の差があるのです。

だから「万が一」に備えなければなりません。


失われた祖
序、誘引作戦


あたし達には存在が感じ取れないのに、港やフォウレの里では騒ぎになっている謎のドラゴン。

 

勿論集団幻覚の可能性や、幻覚を誘引する術に依るものの可能性も否定出来ない。人間の脳というのはいい加減で、簡単に幻覚を見る。匪賊なんかの死体をエーテルで分解してそれをあたしは知っている。

 

あたしだって、脳をもっとコントロール出来ればといつも思うくらいだ。

 

それはそうとして、まずは情報をもっと集めておくべきだろう。

 

というのも、クリフォードさんに説明されたのだ。

 

人間の記憶というのは、非常にいい加減なものなのだと。

 

余程の出来事があった場合でもない限り、自分に都合良く記憶をねつ造してしまうのが人間なのだと。

 

まあ、分からないでもない。

 

あたしの場合、おぼれかけた幼少時の出来事はよく覚えているが。その時だって、アガーテ姉さんを呼びに行ったボオスの事をしっかり覚えていれば、あんなに関係を何年も拗らせる事はなかっただろう。

 

あたしは死にそうになってそれで記憶がパンクして、ボオスが救援に行ったことを覚えていなかったし。

 

レントやタオもそれは同じだったのだ。

 

要するに、あたしは身を以てクリフォードさんの言葉が理解出来る。

 

だとしたら、そのいい加減な人間のオツムを、データを集めてどうにか補っていくしかない。

 

タオがよくやっている統計と同じである。

 

まずは、どこでなにがいつどうしたのか。これを集めていく。

 

具体的には、いつどこでドラゴンが飛んでいるのを見たか、を情報として集めて回る。

 

フォウレでは、今回はドラゴン絡みということもある。

 

デアドラさんが協力してくれて、とても助かる。デアドラさんが見ている前では、あたしを良く思っていない老人達もあまりああだこうだは言えないようだ。

 

港町は、バレンツの副頭取であるクラウディアを中心に聞き込みをする。更にレントやパティには、鉱山や農村にも出向いて情報を集めて貰う。

 

三刻ほど掛けて情報を精査して。

 

それで集まって、それぞれに聞いたものをまとめてみると。

 

いやはや、こうまでばらつくのか。

 

まず、ドラゴンが出現し始めたのは、あたしが東の地でベヒィモスとやりあった直後くらいだ。

 

サマエルがパティに倒されたタイミングである。

 

これは偶然だろうか。

 

どうにも偶然とは思えない。

 

神代の直接の手下である事は、あの悪魔もどき達が自白している。もしそうだとすると、今回の件も。

 

それはともかくとして、農村、鉱山、フォウレの里、港町。いずれもが。同じ日付でドラゴンが目撃され始めているのだが。

 

いずれもが、目撃された地点が違うのである。

 

農村では、主に鉱山方面で。

 

鉱山では、主にフォウレの方向。ネメドの密林上空の、古城がある辺りを。

 

港町からは禁足地の辺り。

 

そしてフォウレでは港町から海に掛けて、飛んでいるのが目撃されているのである。

 

この過程で、まだ危険な魔物が闊歩していないかもついでに聴取した。密林はあたし達が大物を片付けた結果かなり安全になったが、農村の先にある平野は、まだまだ強めの魔物が出るらしい。

 

調査のついでに片付けるとして、次だ。

 

このドラゴンの目撃例が、徐々に目撃地点に近付いているかというとそうでもないのである。

 

農村では、三日前くらいからもう目撃されていない。

 

なんと鉱山の更に先に行ってしまったようで、目が良い人や遠隔視の魔術持ちの人が、たまに見るくらいだとか。

 

フォウレの里ではどんどんドラゴンが海の方に行き。

 

鉱山では、密林の上をぐるぐる回っているのが目撃され。その高度が下がってきているらしい。

 

そして港では、ドラゴンが連日近付いて来ていると。

 

ただし決まって、あたし達がいる時は誰も見ていないのである。

 

アンペルさんが情報を集めたあと、しぶい顔になった。

 

「いっそ自白剤か自白させる魔術でも使うか」

 

「やめてください」

 

「分かってはいるが、これははっきり言って意味がわからん。 嘘をついている様子はないんだな」

 

「嘘にしては嫌に具体的で、しかも情報が一致しているんです。 示しあわせたりしないように、一人ずつ話を聞いて回っているんですが」

 

あたしも正直訳が分からない。

 

ただし、善意で話してくれる人も多いのだ。正直なことをディアンが証言してくれた女の子は、もの凄く丁寧に話してくれた。

 

嘘をついているとは思えない。

 

かといって、クリフォードさんが言ったことも気になるのだ。

 

嘘をついていないのと、記憶が正しいのには大きな差がある。

 

ましてや、何かしらの幻術などが使われた可能性も否定出来ないとなると、ちょっと困りものである。

 

「厄介な事に、禁足地にはフェンリルがいるようですし、もっと強いガーディアンの存在も想定しないといけないでしょうね。 古代クリント王国が総力で集めた兵ほどではないでしょうが、数千の兵士が蹴散らされたあの跡を考える限り。 戦力を残していくのは具の骨頂です」

 

「それはその通りではある。 一つ気になっていることがあってな」

 

アンペルさんは咳払いして、話してくれる。

 

あの悪魔もどき達は、あたしに何かさせたいようだというのだ。

 

確かにサタンも、鍵の研究に集中させるために、親しい人間を皆殺しとか言う巫山戯た事を言っていた。

 

まあブチ殺してやったからそれについてはもういい。

 

あたしに鍵の研究に集中させ、そして扉を開けさせたいのか。それに何のメリットがある。

 

神代の人間を、あたしが崇めているようにあれらには見えるのか。

 

いや、あれらの思考を弄くったのは神代だ。

 

神代は、後から来る錬金術師が自分達を神のように崇めてくれるとでも考えていたのだろうか。

 

可能性は否定出来ないが。

 

もしもそれが正しいとすると。

 

赤いドラゴンなんて存在せずに、あの悪魔もどきの四体目がそれをやっているのか。

 

しかし、離れた地点にいる人間に、如何にして幻覚なんて見せているのか。

 

ボオスがデータを出してくる。

 

鉱山、農村、フォウレの里、港町。

 

このいずれにもいない状態で、ドラゴンを見た人のデータがないか。聞き取って、それであったらしい。

 

港町に所属する漁師が、帰り際に海でドラゴンを見たそうだ。

 

ただし、海で見た時には、禁足地の城の上空辺りを不自然な飛び方をしていた、というのだ。

 

不自然な飛び方って何だよとレントが聞くと。

 

ボオスは頭を掻きながら、気むずかしそうに答える。

 

「俺に言うな。 なんでも、後ろに下がっているように見えたらしくてな」

 

「えっ……」

 

「確かにドラゴンはその場に羽ばたいて留まることが出来るらしいけれど、わざわざ後ろに飛んでいたの?」

 

「それだけじゃない。 水平な体勢で、まっすぐ進むように後ろに進んでいたっていう話でな……」

 

訳が分からないのは俺も同じだと、ボオスは締めた。

 

まああたしもそれを聞いたら、ちょっと本当かそれはと締めに行くかも知れないが。貴重な証言をくれた相手にそんな事はしてはいけない。

 

気になったので、他にも妙な目撃情報がないか調べたら、あったという。

 

農村にいる戦士の一人が。

 

港町に魚を仕入れに行き、戻る最中にドラゴンを見たらしい。

 

ただしそのドラゴンは、なんと空から地面に真っ逆さまという雰囲気で、禁足地で奇行を繰り返していたそうである。

 

何がしたいんだそれは。

 

あたしも額に指を当てて考え込んでしまう。

 

「俺に文句は言うなよ」

 

「ああ、分かってるよ。 これは、ドラゴンに実体なんかないんじゃないか」

 

「その可能性は高いね。 クラウディアの音魔術に引っ掛からなかったし、カラさんの魔術でも探知出来ていない。 フィーもドラゴンの魔力は感知していないみたいだし」

 

「ただのう。 奏波氏族の伝承をひもとくと、竜族はそもそもとして侮れぬ力を持っていてな」

 

カラさんが話す。

 

ドラゴンのスペシャリストの言葉だ。

 

聞いておくべきだろう。

 

「世界を渡る力を持つドラゴンは相当に年老いているものだが、そうなる前の一番力が充溢している頃のドラゴンは、実に多彩な芸を持っているのが普通でな。 わしも色々な凶暴竜を見てきたが、中にはわしらにも接近を悟らせない者もいた」

 

「それは厄介ですね……」

 

「わしら奏波氏族は竜を送る者。 だから竜とは関わらなければならないが、竜からして見れば我等など路傍の小石に過ぎぬからのう。 刺激してしまうと、とんでもない目に会う事がたびたびあったものよ」

 

そうか。

 

だとすると、ドラゴンの可能性も捨てきれないと言う訳だ。

 

ただ、とカラさんは言う。

 

「ドラゴンが知恵を得るのはかなり遅くなってからで、そうなる前は力が場違いに強い獣に過ぎぬ。 何故に今回に限って人間「なんぞ」を惑わすのか、わしにも分からん」

 

「獣であったら、餌を採るために集落を襲ったりするかもしれませんが、人間に訳が分からないものを見せて楽しむ可能性は低いですね」

 

例えば猫なんかは、狩りの練習をするためにねずみを嬲ったりする。似たような行動は、ある程度知能がある生物はどれもやる。

 

鳥なんかでもやるのを見た事があるし、イルカなんかもやる事があるそうだ。

 

だがそれにしても、ドラゴンからすれば普通の人間なんかは路傍の小石で、惑わす必要なんかがあるとは思えない。

 

集落を襲って人々を喰らうならまだ話は理解出来るのだが。

 

今回はただ人々の恐怖を煽っているとしか思えないのだ。

 

それも、あたし達からは姿を隠して。

 

本当に何がしたいのか。

 

ともかく、「何か見落としていては遅い」のだ。話に聞いているドラゴンは普通と容子が違っているし、単騎で強力な魔物多数に匹敵するとみて良い。

 

何を目的としているのか、先に突き止めない限り、フォウレの里を離れるわけには行かないだろう。

 

とにかく、今日はまず戦力を分散する。

 

本来はやってはいけないことだが、ドラゴンを見極めなければならない。

 

後手に回るのは良くない事だが。

 

こればかりは、敵に隙を突かれたら。

 

サルドニカの鉱山での惨事のようなことが簡単に起きる。

 

あれは繰り返させてはならないのだ。

 

ただ、見張りをするだけでは意味がないだろう。

 

まずディアンにひとっ走りしてもらい。例のメイドの……ホムンクルスと思われる一族に声を掛けて貰う。

 

ディアンの話によると数名がこの辺りにいるそうなので、全面的に協力して貰う事になるが。

 

今回は緊急事態だ。

 

向こうもそれは認識しているだろう。

 

ドラゴンが来た場合の戦闘はあたし達が担当する。それはそれとして、避難誘導はして貰わなければならない。

 

そして避難誘導だけだったら良いのだが、この辺りは人食いの魔物がまだまだわんさかいる。

 

この辺りの戦士でも対応できるくらいにはなっているが、それでも避難民を抱えたまま戦うのは酷だろう。

 

だから優れた戦士の護衛がいる。

 

ドラゴンは現れた時間もまちまちであり、いつ出るかも見当がつかない。あたし達がいない時間をどうにかして狙って来ているとしたら、対策もいるだろう。

 

探知用の術をフル活用するだけではダメとみた。

 

或いはだけれども、空間操作系の術の可能性もある。そのタイプの術だった場合は、それこそ何が起きても不思議では無いのだ。

 

「アンペルさん、空間操作系の魔術をドラゴンが使っていた場合、何かしらの痕跡は見つけられますか」

 

「厳しい事を言ってくれるな。 空間操作魔術は、私ではあんな線程度、詠唱を練り上げてようやく箱状に削り取るのがやっとだ」

 

アンペルさんはあたしがいうのも何だが、かなり魔力がある方だ。そんなアンペルさんが、そういうか。

 

あたしの場合は、才能云々以前にそもそも出来ないし。

 

だから、話は丁寧に聞くしかない。

 

「強いていうのであれば、ドラゴンを見かけた場合、其奴に向けて空間切断の術を放って、それで反応を見る事は可能だが。 そんな程度の甘い相手だとは、私には思えないな」

 

「それは同感ですが、やることはやってみてください」

 

「ああ、分かった」

 

「後は……」

 

皆にも、見張りの方針を伝える。

 

姿を見せない。

 

それだけじゃない。

 

あたしはパティとリラさんだけつれて、禁足地に向かう。恐らくだが、あたしの事を相手は警戒しているとみて良い。

 

それで皆はそれぞれ、港町、農村、フォウレの里、鉱山に散って貰い。それで隠れて様子を見るのだ。

 

これで引っ張り出せなければ。

 

ともかく、方針は決まった。まずは散って、それぞれが分散する。

 

その後は、あたしはデアドラさんに声を掛けて、種拾いの戦士を十人ほど借りる。禁足地の入口辺りであれば、多分問題は無い筈だ。

 

先に全員に出て貰う。

 

そして、あたしはしばらくしてから、悠々とアトリエを出る。

 

ドラゴンはかなり知恵が回ると判断したので、種拾いの戦士達には用意したフードを被って貰う。

 

そして、禁足地に向かって調査するフリをしながら、様子を見るのだ。

 

既に験者からは、それぞれの集落に話を回して貰ってある。

 

ディアンもしっかり役割を果たしてくれた。

 

後は、姿を見せないドラゴンを、引きずり出すだけだ。それがもしいるのであれば、だが。

 

 

 

東の地に出向いて戻って来たらライザリンを監視していたロミィは、後ろから肩を叩かれる。肩を叩いたのはコマンダーだった。

 

「お疲れ様ー。 どうかしら」

 

「ライザは相変わらず動きが的確ですね。 よく分からないドラゴン騒ぎにも、きちんと先を読みながら対応していますよ」

 

「ふふ、貴方は他の子とちょっとしゃべり方が違うわねー」

 

「まあ、商人だとこういう口調が親しみやすいもので」

 

ロミィは同胞として人間より長くは生きている。ただし同胞としては新参だ。

 

だが、各地で商人として集落に潜り込む仕事をしている内に、人格を偽装する技術を覚えた。

 

いわゆるペルソナという奴だ。

 

人格につけている仮面を切り替える事で、相手への対応を柔らかくする。

 

これについては、もとは他の同胞と同じだったのだが。

 

商人をしていて、どうしても距離を置かれることに気付いて。それで身に付けた技能である。

 

ロミィの行動を見て、他の同胞は薄い感情ながらも、うらやましがる。

 

皆個性が欲しいとは思っているのだ。

 

多様性の獲得は同胞の悲願なのだから。

 

「それで貴方たちは例のドラゴンは見ているのかしらー?」

 

「いえ、それが全く。 周りが騒いでいるので、すわ大事と出て見ても、何も見つけられなくて困惑しているんですよ」

 

「……ふむ。 多分そうなると、幻覚を誘発させる魔術の可能性が高いわね。 薬物の類は出回っていないし」

 

「それにしても魔術発動の気配もありませんが……」

 

何人かこの地にいる同胞とも連携しているのだが。

 

それでまったく尻尾が掴めない。

 

話に聞く分には、通常より大きなドラゴンだというのだから、油断などしてはいけないのだ。

 

その点は、ライザの様子と一致している。

 

あの様子では、ライザはまずドラゴン騒ぎをどうにかすることを優先した。優先事項に、より弱き者を守る事があるのは正しい。

 

神代の錬金術師には。

 

それが出来なかったのだ。

 

「いざという時はライザと協力してドラゴンに対応をしてね」

 

「はっ。  それでコマンダーはどうなさいますか」

 

「私はちょっと引いたところから様子見かな。 エンシェントじゃないドラゴンとなると、神代に兵器として弄られていない限りは、強くても獣の王。 著しく獣を逸脱した行動を取らない限りは、手出しをするつもりはないわー」

 

まあ、そうだろうな。

 

いつの間にかふわりと消えてしまうコマンダー。

 

この辺り、技量の差を思い知らされる。

 

さて、やるか。

 

ドラゴンがいるかいないかはまだ分からないが。

 

いる時に備えなければならない。

 

ライザが十数人をつれて、港町を突っ切って禁足地に行くのを確認。同時にライザの仲間が、数人ずつ集落に潜伏したようだ。

 

正しい判断だと思う。

 

問題は。ドラゴンがそれに気付くかどうかだが。

 

本当にドラゴンだった場合は備えなければならないし。

 

そうで無かった場合は、ライザが対応しやすいように、手伝いくらいはしなければならなかった。

 

これも同胞の仕事だ。

 

母が望むこと。

 

希望たるアインを人として生きられるようにする。

 

それが第一としても。

 

母はエゴを優先して、弱者を醜い笑顔で虐げ続けた……今も世界に大きな悪影響を与えている神代の錬金術師を心の底から憎んでいる。

 

同胞も人間なんかは別に好きでも何でもないが。

 

それでも人間との交配が多様性獲得の可能性の一つであり。

 

更には文明の保全がある程度は重要であること。

 

何より弱者を蹂躙させないこと。

 

それらを方針としてあげられている以上は、ロミィも同胞として、それに従わなければならなかった。

 

それはそれとして、今日は商売どころではないな。

 

港町は完全にパニック寸前だ。

 

最悪の場合は、騒ぎ出した連中を黙らせなければならない可能性もある。

 

色々と気が重いなと、ロミィは思うのだった。







何気に超重要な情報も開示しています。

そろそろ今まで伏線を撒いてきたホムンクルス集団「同胞」の全貌が見えてきたのではないでしょうか。
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