暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
本格的にドラゴンを探しに出向くライザ。
翻弄されっぱなしではありません。具体的な策を練って、撃退に向かいます。
……そしてその判断は間違っていなかったのです。
さてこの辺りで良いかな。
あたしは借りてきた種拾いの戦士達には、まだ姿を隠しておいてくれと頼んだ上で、手を叩く。
パティとリラさんを選んだのは。戦闘向きの人員だからだ。
特にパティは成長著しく、インファイト限定だったらあたしより既に強い可能性も高い。まだまだ伸び盛りであるから、対人戦という限定的条件だったら、世界最強の可能性もあるだろう。
リラさんはいうまでもない。
リラさんは普段は猫になっていたりもするが、戦闘での頭の回転はとても速いし、何より経験に裏打ちされた実力は確かだ。
この二人が一緒ならば、ドラゴンに奇襲されても対応できるだろう。
照明弾は全員が用意している。
ただし、実際にドラゴンを確認しない場合は打ち上げるな。
そうも告げてある。
ドラゴン騒ぎがあった場合は。、別の方法で知らせるように。
それも告げてあるので、あたしも皆を信じて、この辺りで行動するだけだ。
「錬金術師殿」
手を上げたのは、種拾いの女性戦士の一人。まだ若くて、顔には幼さも残っている程だ。
ディアンほどではないが、かなりの有望株であるらしい。
一時期デアドラさんは、ディアンの嫁にとも考えたらしいのだが。この人はこの人で別に好きな相手がいるらしく。
今は婚約者から外しているそうだった。
「今回の戦略的な目標は、ドラゴンの誘引だと聞く。 しかしこんなに人員を分けてしまった場合、襲われて対応できるのだろうか」
「……まあ、みていてください」
「巨大マンドレイクも丘ほどもある巨大な魔物も倒した貴方を疑う者は少なくとも種拾いにはいない。 だがそれでも、相手がドラゴンでは不安なのだ」
「ドラゴンとは限らないですよ。 ドラゴンにしては行動が不可解すぎますのでね」
ただ、ドラゴンだった場合も勿論対策は考えてある。
あたしは更に進む。
潰された集落を見て、種拾いの戦士達はおののく。
禁足地の内部に、こんなものがあるとはと驚いているのかと思ったら違った。
「神の怒りを受けて滅ぼされた集落だ。 本当にあったのか!」
「こ、ここにいて大丈夫なのか」
「静かに。 浮き足立っていたら、格下の魔物を相手でも遅れを取ります」
パティが言い聞かせると、すっと動揺が収まる。
パティの声は静かで落ち着いていて、それでいて威圧感がある。
既に人心掌握のやり方を学んでいると言う事だ。
十人程度の人間だったら、掌で転がせると。
まあ大したものだなと思う。
「ライザさん。 それでまだ進みますか。 この先はまだまだ強力な魔物がいると思いますよ」
「進む」
「……分かりました」
進むのは当然考えあっての事だ。
青ざめている種拾いの戦士達には、いざという時には逃げ散らないようにと告げる。そうしたら、まず助からないからだ。
種拾いの戦士達も訓練を受けているし、密林で修羅場を潜り続けているのだから、そう簡単にパニックになって魔物の好餌にされたりはしないだろうが。
それでも、相手がドラゴンだという事実は。ここまで歴戦の戦士達を怖れさせるのかと、あたしも驚いてしまう。
ともかくだ。
集落を越えて、先に。
途中何度か魔物の群れに襲撃を受けるが、あたしとパティとリラさんだけでほぼ片付く。この辺りの魔物だったら、余程油断しない限りはもうやられることはない。
あたしの蹴りが鱗に覆われた巨大な獣を、正面から蹴り砕いたのを見て、戦士達がおおとどよめく。
相当に頑強な奴らしいが。
まあざっとこんなものだ。
「流石だ……」
「誰も手に負えなかった巨大マンドレイクをあっさり倒してくれただけの事はある」
「皆、負けてはいられないぞ! 怯えてばかりでは、フォウレの恥だ!」
最年長の戦士がそう声を掛けて、やっと戦士達は普段の気迫を取り戻したようだった。
先に進む。
ドラゴンにしても、それを偽装している何者かにしても。
こっちを見ていても不思議ではない。
だとすれば、もう少し進めば仕掛けて来る可能性が。
そう思っていたら、来た。
ひゅっと、クラウディアの放った矢が空に。その瞬間、あたしは全員に向けて叫んでいた。
「その場で警戒! 港町にドラゴンが出た!」
「え……?」
「何もいませんが??」
種拾いの戦士達の困惑も当然だ。
港町はこの辺りからは一望できる。しかし、ドラゴンの姿なんか、誰にも見えていないのである。
悲鳴も聞こえる。
今度は相当に近くに見えているのだろう。
「ライザさん、これは……」
「間違いない。 幻術かは分からないけれど、幻を見せられてる。 クラウディアの今の矢、騒ぎにはなっているけれど自分には見えない、だよ」
続けて農村、フォウレからも順番に狼煙が上がる。
内容は、それぞれがドラゴン騒ぎになっているが、実物の姿はなし。それどころか、更に遠くなっている。
そういう内容だ。
さて、それではやるべき事をするか。
まず空間操作関連の魔術で、ドラゴンが姿を偽装している場合だが。
あたしはバレンツの交易品の中にあった遠めがねを使う。
あたしもなんでも出来る訳では無いので、視力拡張の魔術とかはそんなに使える訳でもない。
熱を利用してレンズを作って、少し遠くを見るくらいは出来るのだけれども。
そんなんするくらいだったら、それこそからくりの遠めがねを使う方がなんぼもマシである。
それで、港町の方を確認する。
まだ騒ぎは起きている。この様子だと、港町の真上でも飛んでいるように見えているのだろうか。
だが、その辺りを見ても、空間に異常が生じてはいない。
例えばドラゴンが空間を歪めて、近場にいる人間にだけ異常を見せているとする。だとしても、空間を歪めた場合。こんな風に遠くから見れば、なんかおかしい部分がある筈である。
「異常なし。 港町にも被害が出ている様子なし」
「しかしまだ悲鳴が聞こえていますが……」
「人々はパニック寸前だけれど、実質的な被害は出ていない。 やっぱりあれは幻覚か何かだよ」
種拾いの人達にも見てもらう。
遠めがねはこう言うときに便利だ。
その間にも、パティにもリラさんにも周囲を警戒して貰う。今の時点では、特に異常は見られない。
続いて、鉱山と農村から違う狼煙が上がる。
内容は簡単で、ドラゴンの姿が消えた、だ。
フォウレの里からも、程なく同じ狼煙が上がった。
種拾いの戦士達が困惑する。
「確かに何もいないのに港町の皆は混乱してる……」
「でも俺は、フォウレの里で確かにドラゴンを見たぞ。 遠くにいたけれど、見間違う筈が……」
「ドラゴンがいるとしても、それはあの場所ではないのかも知れないですね」
「訳が分からん!」
困惑する種拾いの戦士達。
それでいい。
あたしは手を叩いて、皆の注目を集める。
そして、フードを脱いで貰った。
同時に、何か感じ取る。
これは明らかに動揺だ。何か隠密していた奴が、動揺したのが分かった。地面を蹴って、跳ぶ。
地面スレスレに跳びながら、何度か加速。
気配が生じた其処に、あたしは蹴りを叩き込んでいた。
手応えあり。
吹っ飛んだ其奴が、地面に叩き付けられ、バウンドして吹っ飛ぶ。
うめき声を上げながらそいつは、半身を起こしていた。
「き、貴様……っ! はかりおったな! 劣等血統の分際で!」
「悪魔もどき……」
「私の名前はテリオンだ。 お、おのれ……!」
立ち上がった其奴は、他の悪魔もどきと殆ど姿も変わらない。
あたしは、勿論逃がすつもりは無い。
だが、テリオンが叫ぶと、どっと魔物が湧いて出る。パティとリラさんに其奴らは任せる。
それに、種拾いの戦士達も、それぞれ槍を取っていた。
「何だか知らないが、騙されていたのは分かった!」
「あの人間に近い姿の魔物の仕業だな!」
「ぶっ潰す!」
元々凶猛なフォウレの里の戦士達だ。
殺到する鼬やラプトル、走鳥に一歩も引かない。パティとリラさんが先頭に立って魔物を千切っては投げているのも、勇気を更に燃やしているのだろう。
あたしはゆっくり悪魔もどきに歩み寄る。
立ち上がった悪魔もどきは、何か術を使おうとしたが、させるか。
地面を踏み込んで、最大加速。
術発動の前に間合いを詰めて、全力で蹴りを叩き込む。文字通り横薙ぎに振るった蹴りが、テリオンとかいう奴の顔面を穿ち抜く。
思ったより手応えがあるな。
衝撃波が奴の頭から後方にブチ抜けるが、それでも体勢を立て直してくる。爪を振るい上げて反撃してくるが、さっと回避。
爪に何かしらの毒が混じっているのが見える。
「カアッ!」
更に連撃を掛けてくる。全て紙一重で回避するが、なるほど。
このまき散らされている毒にも、幻覚作用があるわけか。
「それで貴方の目的は? 今までの三体は全部違っていたけど」
「貴様は迷いが多すぎる! 偉大なる神に最も近しい御方方に招いていただいているにもかかわらず、何故路傍の小石などにかまう! そんなものにかまわなくて良いように、連中が貴様を避けるようにしてやっているというのに、どうしてその大いなる慈悲が分からぬのか!」
なるほど、この毒。
それにこの論法。
こいつの特化しているものは幻惑か。
蹴り上げて、奴の両手を跳ね上げつつ、熱槍を叩き込む。
熱槍を避けて跳び上がったテリオンだが。その先には、既にあたしがいて、踵落としを叩き込む。
地面にぶち込まれて、クレーターに突き刺さるテリオンだが、想像以上に頑強だ。さてはこの姿も幻惑か。
姿が見る間に膨れあがっていく。
全身の筋肉が盛り上がり、悪魔もどきの姿から、巨大に変わっていく。それは、真っ赤な姿。
翼と四つ足を持つ、異形のドラゴンだ。
「我は黙示録の赤き竜! 敵対者の名を持つ一人だ! その目的は、偉大なる御方の望みを叶えること! 劣等血統は、大人しく従っていればいいのだ!」
「何だかしらないけれど、劣ってない血族とやらだったら、なんで負けに負けて敗走を続けてるのかな」
「黙れっ! 偉大なる血統はその存在そのものが偉大なのだ!」
循環論法か。
ドラゴンが吐息に火を混じらせるのを見て、種拾いの戦士達がひっと小さく息を漏らすけれど。
問題ない。
こいつはただ脳を弄られているだけの、哀れな生物兵器。
今のも、明らかにおかしい。
実際、即座に熱槍を叩き込むと、巨大な赤い竜の後方で爆発。つまり、すり抜けたということだ。
息を吐き出すと、熱槍を連射連射連射。弾幕として、竜に叩き込んでやる。普通だったら効き目が薄いかも知れないが、此奴は見かけ倒しだ。赤い竜がそのまま歪んで、姿が薄れる。
やはり竜の姿は幻覚。
だとすると、本体が別にいる。
そしてこの手の輩がやることは決まっている。
踏み込むと同時に、跳躍。
あたしの背中を、えぐい形をした刃がついた槍が、一瞬遅れればえぐっていただろう。奴は完全な姿隠蔽をしているが、その瞬間。さっきと同じく気配が漏れていた。即座に熱槍を叩き込むが、手応えが浅い。
というか、なるほど。
そういうことか。
「熱までもかき消して姿を隠蔽するか。 面白い魔術だね」
「……」
いや、魔術では無くて技術かも知れない。
着地すると、だけれどもあたしは全速力で突貫する。もう位置は分かった。驚愕したように、奴は槍を繰り出してくるが。
槍そのものの破壊力は、別にどうって事もない。東の地で見た侍衆の技の方が、なんぼでも優れている。
勿論毒くらい塗っているだろうが。
残像を抉らせて。
あたしはドロップキックを叩き込んでいた。
吹っ飛ぶそれ。
どうやら、姿の隠蔽を維持できなくなったようだった。
全身に分厚い装甲みたいなのを貼り付けている。
それが幾つか砕けていた。
熱槍と、今の蹴りによるダメージの結果だ。
あたしは息を吐き出すと、前に出る。
他と殆ど変わらない悪魔もどきの姿をさらしたテリオンとやらが、バカなと叫び続けている。
とっくにドラゴンの姿は、消え去っていた。
「こ、このオプティカルカモフラージュは現在の神々であられる御方方が作りあげたものだぞ! いくら招かれしものといえども、こんな短時間で見破れる筈がない!」
「どんなにテクノロジーが優れていても使い手がへっぽこだったら破りようはいくらでもあるんだよ。 優れた武器防具は使い手を選ぶ。 貴方は選ばれていないって事だね」
「ば、ばかな! あり得ぬ!」
種を明かすと。
最初の動揺で姿をさらしたときと同じだ。
こいつは戦士としてはそこまで力を練れていない。
だから攻撃時に隙が出来るし。
殺ったと考えると、それで露骨に気が緩む。
気配を察するというのは感覚で相手のことを察知するだけの事で、実際に気なんてものは漏れてはいないのだが。
要するに五感で察知できるレベルで、此奴がポカをやらかしていると言うだけの事である。
「貴方のご主人達も同じ。 へっぽこだから使いこなせなかった。 技術についても、本当は教わったものを代々回りくどいやり方で伝えて、それで劣化させていったんでしょうに」
「わ、我らが主を冒涜するか! 劣等血統の分際で!」
「「劣等血統」に今敗れようとしている貴方たちの方が、よっぽど劣等なんじゃないのかな。 このエセドラゴンもどき」
「フィー!」
フィーが怒っているのが分かる。
ドラゴンなんて気配もない。
それなのに。
そういう怒りだろう。
最悪の事態と言える、ドラゴンの生物兵器が出てくる事態は避けられたと言えるが。それでもまずは此奴を倒さないと危ない。
彼方此方で目撃されていたドラゴンは、此奴による何かしらの幻術だったのは確かだろうし。
それが人心を惑わすことこの上ない。
しかしどうしてあたし達には効かなかった。
それも解析しなければならなかった。
「こ、こうなったら!」
「させるか」
何かしようとしたテリオンが、あたしに気付く。
恐怖に顔が歪む。
こいつ、他の三体に比べて随分と人間っぽいな。悪い意味で。
洗脳が浅いのだろうか。
いずれにしても、材料が人間であろうが容赦はしない。
ゼロ距離から、拳を叩き込む。熱槍に転換していない熱ごとだ。
ふっとぶテリオンが、悲鳴を上げて転がる。
熱い熱いと喚いているが。
此奴が今までもてあそんで来た人達は、もっと苦しみながら死んだだろうと思うと、同情など微塵も湧かない。
はいずって逃げようとするテリオンの背中を踏みつけると。
踏んだ状態のまま、全力の蹴りを叩き込む。
辺りの地盤が砕ける。
そういう技だ。
密着状態から筋肉と骨だけ利用して、全パワーを相手に叩き込む。勿論ゼロ距離だから防ぎようがない。
断末魔の絶叫を挙げるテリオン。
それでも、まだ動いているので、あたしは容赦なくもう一撃を叩き込み。
とどめを刺した。
周囲では乱戦が続いている。
種拾いの戦士達が心配だからである。
絶命したテリオンの首を念の為に熱の刃で刎ねる。死んだふりをして逃げるような事をされても困るからだ。
テリオンが倒れると、殺到してきていた魔物が、不意に統制を失った。
もともとパティとリラさんが大車輪の活躍をしていたが、それが決定打になる。
あとは不利を悟った魔物が逃げだそうとする所を。
種拾いの戦士達と一緒に、背中から追い討ち、殲滅するだけだった。
港町に凱旋する。
種拾いの戦士達が、見たと叫んでいた。
ドラゴンはまやかしだった。
悪魔みたいな姿をした魔物が、ドラゴンの幻覚を作り出していただけだったんだ。
そう叫ぶ戦士達が、港の人々に熱弁している。
そして、あたしが回収してきたテリオンの首が泣き別れになった死骸を見て、港町の人々がおののく。
こんなイメージにある悪魔そのものの姿を見れば、それは怖いに決まっている。
このネメド近辺は、兎に角因習が濃い土地なのだ。
信仰はまだまだ現役だし。
それは皆が怖れるのも、無理がない話だと言えるだろう。
パティもリラさんも、殆ど怪我はしていない。
テリオンが直衛として大した奴を連れて来ていなかったのが救いだった。或いはテリオンは、戦闘向きでは無い個体だったのかも知れない。
今まで倒して来た三体は、相応の戦闘力を有していたが。
此奴は幻惑を主体にする支援型だったのだろう。
皆に声を掛けて、一旦アトリエに戻る。
アトリエでテリオンのしがいを見せて、それで皆に説明すると、タオが挙手していた。
「確かにそのテリオンという悪魔に似た魔物が、幻惑のスペシャリストだったのは事実だと思う。 でも、幾つか説明できない事があるよ」
「うん。 フォウレの里他で目撃されたドラゴンだよね」
「そう。 同時間帯に目撃されているし。 このテリオンが、彼方此方の里に出向いてきていたとは思えないんだ」
「恐らく……あの城が何か仕掛けがあるんだろうと思う」
皆が一気に緊張する。
あたしだけで倒せる程度の悪魔もどきなんて、別に大した脅威では無い。少なくともこの面子にとってはだ。
だが、超ド級やフェンリルなどの強力な魔物は話が別だ。
空間操作や時間操作までする奴がいたし、何よりも連中は生物兵器。思考は必要ないから、ただ番犬などとして、要地を守れば良い。
たまにそれらのルールから外れた個体もいるようだが。
神代のテクノロジーで御しきれなかった、ということだと判断して良いだろう。
つまり微塵も油断は出来ないと言う事だ。
それに、ドラゴンは幻覚だったようだが、本当だろうか。
テリオンが幻惑していたのと別のドラゴンがいないだろうか。
実は、聴取の段階で情報が出ている。
今回目撃されているのは、禁足地にいると言われる奴とは違うと。
年老いた元種拾いの老人の話なのだが。
前に禁足地上空を飛んでいるドラゴンを見たが、それは翼と前足が一体化している、一般的なドラゴンだったというのだ。
この地でも信仰と畏怖の対象であるドラゴンは、基本的にその姿である。
だったらやはりテリオンは、何かしらのいにしえの信仰に沿って、あの幻覚を作り出した可能性があるし。
何より奴が根城にしていただろう神代の遺跡には、その幻覚を広範囲に展開する仕掛けがあっても不思議では無い。
よく淫祠邪教などというが。
そういった幻覚を用いれば、だませる人間は簡単にやれる。
実際今回も、近辺の集落の人達は、簡単にパニックを起こしかけたのだから。
「俺、験者様に悪魔もどきの話と、多分禁足地にある城の仕掛けが利用されたってライザ姉の説は話してくるよ」
「まだ仮説だよ」
「分かってる! 確定させるために調べるんだよな!」
ディアンはどんどん賢くなってるな。
とても好ましい事だと思う。
ともかく、これで少しだけ問題は片付いたが、本番はこれからだ。
あんな勘違い悪魔もどきなんて大した事じゃない。
まずは、奴の死体をエーテルに溶かして、分析。オプティカルカモフラージュとやらをやっていたらしい装置も解析する。
ディアンが戻ってくる前に、まず死体の解析は終わった。
やはり人間をベースにして、複数の魔物を素材にしているようだ。反吐が出る。
今回はかなり綺麗な死体を持ち帰れたので、溶かしてみるとよりよく分かる。
脳を弄って、洗脳していた事が。
とにかく主君に対する忠義を絶対と仕込んでいる。
これは恐らくだが、あの東の地で感応夢に出て来たタームラさんの事件があったからなのだろう。
寿命で縛れないなら、頭を縛って言う事を聞かせる。
そういう思考にゲスどもが行き着いたのは、別に不思議な話だとはあたしには思えなかった。
オプティカルカモフラージュの装甲も調べる。
あたしの攻撃に再三耐えたのだ。とどめになったのもゼロ距離からの蹴りだったし、装甲そのものだけなら耐えていた。あたしは内部の肉を砕いたのであって、装甲を砕いた訳ではない。
調べて見ると、実に十層にも達する複雑な装甲で、衝撃だけでは無く、熱も魔術も、毒なども全て吸収する仕組みだ。これを貫通して攻撃が通ったのは、あたしも腕を上げて来たということか。
それだけじゃない。
どうも光も音も吸収する仕組みになっているようだ。
なるほど、それで。
光も音も出さなければ、奴の動きは分からない。ただ非常に複雑な素材を用いている。これは簡単には作れなかっただろう。
実際他の悪魔もどきは装備していなかったのだから。
「これはかなりの高級装備だね。 魔術も熱も音も毒も、光さえ吸収する仕組みになってる」
「そんなものを良く撃ち破れたな」
「此奴がへっぽこだったからだよ」
あたしはしがいを一瞥する。
テリオンの末路は、此奴に自分達を神だと洗脳して思い込ませた奴らと同じだ。連中は自分の力を過信してオーレン族に一敗地にまみれた。
結局、カス野郎はどこまでいってもカスか。そもそも技術の根幹点だって神代の錬金術師ではなかったようだし。
そう考えてみると、この先には、更におぞましい事実があるのかも知れない。
だが、確かめなければならない。
確かめないと、この世界は。何度でも神代を迎え。そして冬の時代だって、何度でも来てもおかしくない。
その時には人間が滅びるだけでは済まないだろう。
手を叩いて、皆の注目を集める。
明日から、本格的に城の攻略に入る。
そう告げると、皆が緊張するのが分かった。数千のアーミーを壊滅させた相手だ。油断なんて、出来ようもなかった。