暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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神代の生き証人。また姿を見せる。

それはフェンリルと名付けられた存在達の……


3、赤狼

呼吸を整えながら、最後に掛かって来た神代鎧を踏み砕く。これで、再生も不可能な筈だ。

 

城に入って、敵を引きずり出して、叩いて。

 

回復して、そしてまた敵を誘引する。

 

城そのものには、分厚い扉や罠はない。これは今までの遺跡にも共通している事だ。

 

或いはだけれども、用意してある防備だけで充分と神代の者達は考えていたのかも知れない。

 

複雑な城というのは、攻めこまれる事が前提になっているのだとタオに聞いた。

 

大きく育った国家の中枢にある都市は、要塞としての機能は一旦廃棄して、生活をしやすいように建築しなおす例もあるとか。

 

また、首都を一から作る場合もあるらしい。

 

いずれも古代クリント王国以前に割拠していた様々な国の記録らしい。ここ一年で更に読める本が増えたので、それらを読んで片っ端から知識にしていたのだそうだ。

 

もうタオは下手な図書館よりも頭の中身が凄いのだろうな。

 

ただ、神代以前の時代は、それもまだニワカの部類に入ってしまうかも知れない。

 

技術に罪は無い。

 

失われた技術を作り直すには、長い年月が掛かる。

 

そしてこの世界は、もうもたついている余裕もないのかも知れないし。

 

散々弄んだ挙げ句に廃棄するようでは、人間に今度こそこれ以上ない罰が降るだろうとも思う。

 

点呼をかける。

 

流石に疲弊が酷い。フェデリーカが寝かされて、治療されている。神代鎧に接近されて、間一髪で首を刎ねられかけたのだ。

 

まだフェデリーカの技量で神代鎧相手の接近戦は無謀だ。ただ、フェデリーカは死ななかった。元々皆に強力な強化効果を入れるための支援役だ。近接戦闘で必ずしも強い必要は無い。それでも弱点を克服しようとしているのだから、責めるつもりもない。

 

粗い呼吸と、周囲に飛び散った大量の血。傷が如何に深かったのかが分かる。

 

今日は一旦切り上げるか。

 

そう判断して、城から距離を取ることにするが。

 

あたしが城から飛び退くのと、凄まじい雄叫びが聞こえたのは殆ど同時だった。

 

びりびり来る。

 

「ライザ姉! やべえのがこっちを認識してる!」

 

「……一旦離れよう。 フェデリーカを担いで」

 

やり合うにしても、ちょっとコンディションが悪い。ただし、追撃してくるようだったらむしろ好機だ。

 

一度離れて、治療に専念。

 

クラウディアもその辺りは理解しているようで、早期警戒に当たってくれる。皆の治療をしてから、まだ強烈な気配が威圧しているのを肌で感じて。あたしは舌なめずりしていた。

 

やるなら、まあやるしかないだろう。

 

だけれども、相手が引いた。

 

外に引きずり出されると不利と判断したのだろう。縄張りでの戦闘を選んだ、と言う訳か。

 

かなり賢い相手だ。

 

フェンリルは、どうやら古い神話だと神殺しの狼らしいし。そういう意味では、凡百の魔物ではないし。生物兵器としても特別に強力に作られている。

 

無言で帰路につく。

 

まだまだ力が足りないな。

 

分かってはいる事だが。

 

それでも、どうしても力を求めてしまう。

 

途中から、フェデリーカは自分で歩く。

 

パティが慰めていた。

 

「フェデリーカ、流石にあれを相手に接近戦は挑まなくても大丈夫です。 少しずつ技量は上がっているのだから、無理をせずに。 貴方は皆を強化して、役に立ってくれています」

 

「そうだぜ。 いつもより俺も軽く早く動ける!」

 

ディアンの言葉にも偽りは無い。

 

分かっていますと、力無く返すフェデリーカ。

 

うん。

 

やっぱり嗜虐心がそそられる。

 

でも、何もしてはいけない。

 

フェデリーカ自身が更に試行錯誤して、自分なりの強さに自信をもったときこそ。

 

この可憐な舞いの花は開くのだ。

 

それをつぼみの段階で手折ってはいけないのだ。

 

アトリエに戻り、軽く話をする。

 

かなり神代鎧は減らしたが、フェンリルがいる。あの気配はフェンリルとみて良さそうである。

 

そして相手のテリトリでの戦闘は避けられないだろう。

 

しかも城には二体のフェンリルがいる。同時戦闘は絶対に避けなければならない。

 

そう考えると、明日の戦いは全力で、なおかつ万全でいく必要があると見て良さそうである。

 

皆の装備の調整をさせて貰う。

 

クリフォードさんのブーメランも見せてもらった。かなり使い込んでいて、手入れもいい。

 

ただ、エーテルに溶かしてみると、傷んでいる事が分かる。

 

あれだけアクロバティックに戦って、縦横無尽に振るわれているのである。それは傷んで当然だ。

 

「強化しますよ」

 

「頼むぜ。 ただ、ちょっと試運転がいるけどな」

 

「勿論、気が済むまで調整します」

 

補填だけではない。

 

重さ、重量のバランス、変わらない様にして。木の成分は木の成分で。要所に入っている金属を置換して重さを変えず。更に強化魔術も色々と追加で刻んでおく。

 

手入れを終えてから、クリフォードさんに渡して、外で使って貰う。すぐに細かい注文が飛んできたので、微調整。

 

やっぱりブーメランの操作が固有魔術なだけあって、本当に細かい所までこだわっている。

 

だからこそ、ブーメランを用いて自在な空中殺法が繰り出せるのだとも言える。

 

レントの大剣も、久しぶりに手入れする。

 

とにかく前衛で猛烈な攻勢を支えるいわゆるタンクだ。大剣は大威力の斬撃を繰り出すと同時に、多数の敵の猛攻を捌くための盾にもなる。

 

その過程で、グランツオルゲンを主体にしていても傷む。

 

手を入れて、グランツオルゲンの成分も、現状で最適化しているものと切り替えておく。グランツオルゲンは、これだけ色々なサンプルとしてのセプトリエンを得て、それで調整を続けても、まだ先があるように思う。

 

特に今手に入れている最高品質の、ベヒィモスの体内から出て来たセプトリエンは、まだ持て余し気味だ。

 

これをベースにともいかないのが難しい所で、更に研究を進めないと、この超魔力の結晶体はまだまだ解明が遠い。

 

それに、思うのだ。

 

最適なセプトリエンを神代で作れていたとは思えない。

 

これも他と同じ、ブラックボックス技術だったのではあるまいか。

 

大剣の調整終わり。

 

レントもすぐに外に出て、素振りを始める。

 

あの城には、巨大な神代鎧の気配もあることがわかっている。いずれにしても、油断は出来ない。

 

彼処は神代鎧が出て、更には七百年前のアーミーが一蹴されたことからも確定だが、神代の前線基地とみて良い。

 

恐らくフォウレの里の人間を追い出すために作られたものだったのだろう。

 

超ド級の精製施設は東の地にしかないという資料もあった。神代はそれなりに続いたから、後に他でも作られた可能性はあるが。ただフォウレの里を攻撃するために作られた拠点だとすると、恐らく超ド級の精製施設はない。神代鎧の精製施設はある可能性があるが。だとすると、むしろ其処が狙い目になるかも知れない。

 

神代の錬金術師は、階級が明確にあって。神代鎧を作っていた錬金術師は、位階が明確に下だった。

 

更に言うと、血統絶対主義を敷いていた以上、どれだけ仕事をしても下剋上はできなかっただろう。

 

これらが既に分かっている以上。

 

もしもそれが隙になるなら、突いていきたい所だ。

 

他の皆の装備も調整する。

 

それが終わった頃には、夜も更けていたので。夕食と風呂を済ませて、寝ることにする。

 

ディアンとフェデリーカは、パティに回避の技術をずっと習っていたようだった。リラさんはアドバイスだけして終わり。リラさんはそういう教育の仕方をする。

 

あたし達の時もそうだった。勿論具体的にどうすれば良いかのアドバイスをしてくれるから、「努力しろ」とだけ抜かして突き放すような輩とは違うが。

 

それに対して、パティは実践派だ。

 

とにかく基本的に、実戦形式の訓練で技術を叩き込む。

 

これは恐らくだけれども、パティがあのメイド長に散々技術を叩き込まれて、血反吐を吐くレベルのトレーニングをして技術を磨いてきたからなのだろう。

 

更に王都近郊でのあれこれで、実戦でパティはその技量を著しく短期間で挙げたという事もある。

 

実戦こそ力をつけるのに最高。

 

パティの中では、そういう結論が出ていることは、ほぼ疑いがない。

 

風呂から上がると、みんなもうそれぞれ眠りに入ったり、明日の準備をしていた。外でまだ訓練をしている三人に、そろそろ上がるようにと声を掛けて、後は寝ることにする。

 

フィーがパティを引っ張って。

 

それでまだ続けたそうにしていたパティも頷く。

 

パティはフィーに助けられた事もあって、特にフィーとは仲が良い。種族が違うだけで友達と思っているし、なんなら意思疎通もできているようだし。

 

寝る。

 

夢は、見なかった。

 

 

 

翌朝は、起きてから体を動かして。軽くミーティングをして。それからは、全力で禁足地の城に向かう。

 

別のドラゴンがいて。それが友好的とは限らないのだ。

 

まだドラゴン騒ぎが収まっていないし、この状態でまたドラゴンが出たらえらい騒ぎになる。

 

早々に問題は片付けておかないとまずいだろう。

 

「ライザさん、早い早い!」

 

「フェデリーカも着いてこれてるよ! きついなら荷車に乗る?」

 

ぐっと歯を食いしばって、渋面のまま全力で走るフェデリーカ。

 

それでいい。

 

走るときの必死な表情は凝視するものでもない。それに皆がついてこられるレベルで、あたしは速度を出している。

 

単独行動時だったら、もっと速度を出せるのだけれども。

 

あたしもフェンリル級の魔物に、単騎で勝てる自信はまだない。

 

崖に来たので、速度を落とす。

 

此処だけは要注意だ。

 

滑落に気を付けて、じっくり進む。

 

そして崖を抜けると、もう駐屯地跡は間近だ。そういえば、此処では資料は見つからなかったな。

 

多分戦いが一方的すぎて、長期戦をする事もできず。

 

錬金術師も早々に戦死して。

 

それで研究資料だのが残る事もなかったのだろう。

 

城門が見えてきたので、止まる。

 

息を整えているフェデリーカを横目に、まずは探知魔術を展開。多分待ち伏せはいないが。

 

カラさんが、ふむと呟く。

 

「いるぞ。 こっちにもう気付いておる」

 

「神代鎧と連携されると厄介ですが……」

 

「神代鎧の格納されているものについては、昨日音魔術で確認したよ。 多分もう、少なくとも城門近くに伏兵はいないかな」

 

「よし、じゃあやるかな」

 

所詮は神代の生物兵器だ。

 

話が通じる奴でさえ、悪魔もどきみたいな感じなのである。たまに野生化してしまうものもいるようだが。

 

基本的には人間の敵である。

 

此処からはハンドサインだ。

 

さっとハンドサインを出して、城に入り込む。

 

フェンリルは二度の戦闘で、どっちも空間魔術を、しかも超ド級に近いレベルで使いこなした。

 

超ド級ほどの凶悪さではなかったのは。フェンリルの体が小さめで、あれほどの物理的な破壊力を繰り出せなかったからだろう。

 

だがそれでも、しなやかな狼の体と。

 

俊敏な動きは侮れるものではない。

 

空間魔術は文字通り一撃必殺。密集するのは悪手だ。ある程度散開して、城の中に踏み込む。

 

この辺りには、回収出来ていない神代鎧の残骸が散らばっている。

 

まだ再生を試みているのがいたので、問答無用で踏みつぶした。

 

さて、来たな。

 

顔を上げると、いきなり其処に巨大な紅蓮の毛並みを持つ狼がいた。歯をむき出しに威嚇しているが。

 

あたしは、まずは話しかけてみる。

 

「話は通じる? タオ、神代の言葉、分かる範囲で呼びかけてみて」

 

「無理をいうなあ……」

 

こういうのも理由はある。

 

いきなり仕掛けてこなかったからだ。

 

タオが咳払いすると、神代の言葉で挨拶と、敵意はないと伝えるが。それに対して、帰ってきたのは意外にも現代の言葉だった。

 

喋れるのか此奴。

 

「この城は主のつくりしものだ。 早々に出ていけ。 これだけ散々荒らしておいて、それほど財宝が欲しいか」

 

「主ねえ。 世界を好き放題に無茶苦茶にして、それでもまだ欲望のまま全てを手に入れようとしている主に何の価値があるの?」

 

「黙れ。 混沌の時代を経て、世界を復興為されたのは主達の主だ」

 

「旅の人の事?」

 

赤いフェンリルが黙り込む。

 

そこまで知っているのか、という風情だ。

 

狼の戦闘体勢を取ったまま、ゆっくりと動くフェンリル。今まで倒した二体も、そういう余裕がある動きを見せていたが。

 

今までのは白銀色だったのに対して、此奴の毛並みは真っ赤だ。

 

まるで血でも浴びたかのよう。

 

そういう威圧的なデザインであるのだろうが。

 

「旅の人と他の神代の錬金術師の間には謎が深い。 旅の人は、ひょっとして邪魔になって始末されたんじゃないのかな」

 

「なんだと……」

 

「一度でも旅の人を貴方は見た?」

 

「見た! 我の主こそ、旅の人だからだ!」

 

ハンドサイン。

 

手を出すなと言う指示だ。

 

これは、話をできるだけ聞き出さないとまずい。あたしは咳払いすると、両手を拡げて見せる。

 

「無手を示すよ。 こっちも旅の人については調査中なんだ。 話を聞かせてくれるかな」

 

「この城を荒らすな!」

 

「この城を作ったのは旅の人? その弟子か、その子孫じゃないの?」

 

図星か。

 

そもそも百年続いた「冬」のあと、人間は文明を実質的に失っていたようだ。それから千年程度で、滅茶苦茶になった世界で復興できるとも思えない。

 

旅の人と言う存在は、余程の特異点だったのだ。

 

或いは神様だった可能性さえある。

 

そんな神様がいたとして。

 

世界を焼き滅ぼしたような人間とか言う存在に、慈悲を注ぐのは溺愛もいいところだろうと思うが。

 

「旅の人は何者? 神代が始まったのは、三千年ほど前と認識してる。 それから千三百年前にオーリムに侵略を開始するまでに、何があったの?」

 

「教えてやる必要などは無い!」

 

「居丈高にいうけれど、旅の人の安否は心配じゃないの?」

 

「……」

 

やはりな。

 

此奴は神代の錬金術師に屈してはいるが、旅の人の事そのものが大事なのだ。だとすれば、話をしてみる価値はある。

 

それと、喋るときにやはり口を動かしていない。

 

空気を操作する魔術で、現在の言葉を放っている。

 

恐らくだけれども、この魔術で麓の人間の言葉を聞き取り、解析して覚えたのだろう。つまり知能も高いと言う事だ。

 

「まず、あたし達は城から出るよ。 あたし達は神代の錬金術師が世界中に残した爪痕から、世界をどうにかするために戦ってる。 もしも生き証人に話を聞けるなら、意図的な嘘が混ぜ込まれている資料百冊にも勝る。 話してくれないかな、何があったのか」

 

「……良いだろう。 だが、まずは城を出ろ。 この城のガーディアンを悉く滅ぼした様子を、我はよく思っておらぬ」

 

「そうしないと斬られていた」

 

「盗賊としか思えなかったから防衛機構を発動させただけだ」

 

皆にハンドサインを出して、城の外まで戻る。

 

赤い巨狼はゆったりと歩いて、それについてきたが。兎に角大きいので、一歩ずつがとても歩幅が大きくて。急ぎ目に歩いているのと、相手のゆっくり歩くので。相手の方が早いくらいだ。

 

城の外に出ると、あたしは座る。

 

それで敵意がないことを示す。

 

他の皆には、もう少しさがって貰う。

 

赤い巨狼は、じっとあたしを見ていたが、やがて自身も座る。とりあえず、これで落ち着いて話が出来そうだった。

 

「では話を聞かせて。 貴方の名前は?」

 

「後の錬金術師達は我とその複製体をフェンリル型テラフォーミング用生物兵器と呼んでいたが、我の名前は紅蓮。 死にかけていたところを、強く生きる力を旅の人にいただいたものだ」

 

「了解紅蓮。 旅の人は何千年も生きていたの?」

 

「我と直接旅をともにしたのは千二百年ほどだ。 それからも千年ほどは時々姿を見せてくださった。 あの御方はその間、ずっと年を取らず、美しいままだった」

 

やはりな。

 

加齢を克服している人だったわけだ。

 

そのまま続けて話を聞かせて貰う。

 

まず紅蓮が言うには、旅の人は冬の終わりと同時に出会ったという。紅蓮の一族はただの狼で、冬で壊滅して紅蓮だけしか残らなかった。其処に手をさしのべ。救ってくれたのだという。

 

それから旅の人は、錬金術と言う不思議な力を使い。

 

荒れ果てている世界を見る間に緑で包んでいった。

 

穴蔵で暮らすしかなかった人々を助け出し。

 

悩みを共有し。

 

錬金術で惜しみなく救っていった。

 

そうか、やっぱりそういうことか。

 

神代の錬金術師とはあり方が真逆だ。旅の人は恐らく、世界を救うために寿命を捨てたのだ。

 

だがそうなると、どうして今はいないのか。

 

それが気になる所ではあるのだが。

 

今の紅蓮の言葉が事実だとすると。冬からの復興の時代を、旅の人とともに過ごした紅蓮は。神代が始まってからも二百年くらいは旅の人とともにいたことになる。

 

「神代はどうして始まったの?」

 

「一定の人間が揃って、世界の復興が旅の人の手を離れたからだ。 以降は与えるだけではなく、ともに歩くべきだと旅の人は仰られた。 そして皆が共に歩けるようにと、多くの力と知恵を授けて。 そして笑顔を作られた」

 

「それ、本当なのか。 俺たちが見てきた神代は……」

 

「しっ。 レント、黙って」

 

この紅蓮にとってもそれらは地雷の筈だ。

 

でなければ、旅の人という名前を出してこうも反応しない。

 

しばし話を聞く。

 

彼方此方で、守護を任された。

 

世界には多数の魔物が湧き出していて、人々を脅かすこと甚だしかったからだ。だから守って欲しいと紅蓮は旅の人に言われ。言われるままに、彼方此方の拠点を守ったと言う。そして、新しく会う度に。

 

弟子という人間を連れていたとか。

 

やがて、どんどん旅の人の顔からは笑顔が減り。

 

周りにいる人間は、逆に悪意の篭もった顔でにやついているようになったという。

 

「最後に出会ったのは、我が任されていた都市の守備から外されたときだ。 その時、旅の人は悲しんでおられた。 みんなを信じていたのに。 どうしてこんなことになったのだろうと言われていた。 我は許せなかった」

 

不快だったが。旅の人の弟子だという錬金術師に以降は使われる事になった。

 

「世界を豊かにするため」と称して、様々な事をさせられた。働かないなら、旅の人がお悲しみになる。

 

そう言われると、逆らう事は出来なかった。例えそれが人間を殺すような仕事であってもだ。場合によっては都市単位の人間を殲滅する仕事にもかり出された。必要な犠牲だと、錬金術師は笑っていた。

 

此奴らに何かしらの弱みを握られている。

 

そう紅蓮は考えていた。

 

そうか。

 

旅の人と言う存在は、慈愛をもって人に接したんだな。しかしながら、与えて人は感謝するだろうか。

 

否。

 

する人もいる。

 

実際あたしも、多くの窮地にいる人を救った。

 

だが、無邪気に感謝してくれたのは東の地の素朴な侍や忍びなどの戦士達くらいだ。

 

因習に縛られたフォウレでは未だにあたし達を白眼視する老人がいるし。

 

クーケン島でも、古老は今でもあたしを毛嫌いしている。

 

母さんだって、あたしを認めていない。

 

そんなものである。

 

旅の人と言う存在は、或いは人間を信じていたのかも知れない。それは致命的な間違いだと思う。

 

人間に期待していたのかも知れない。

 

それはもっと致命的な間違いだったのだろう。

 

だから、カス共につけ込まれた。

 

紅蓮の言葉を聞く限り、もう千八百年前には、旅の人は実権を奪われていた。弟子と称する悪人共に技術も何もかも搾取されていたとみて良いだろう。

 

善良な旅の人は、悲しむ事は出来た。だがそれら君側の奸は除けなかった。

 

誰一人として、旅の人を人間とは見なかった。

 

恐らく神か。

 

或いはただの金の卵を産む鶏くらいにしか思わなかったのだ。

 

なるほど、分かった。

 

紅蓮の言葉で納得が行った。

 

旅の人がアンタッチャブル化しているわけだ。

 

欲望こそ全て。欲望のまま奪いさるのが人間。欲望が強い人間の方が優れている。そんな思想で世界を蹂躙した神代の錬金術師に取って。文字通り善意で世界に接していた旅の人は、思想的に許しがたいし。

 

そんな思想から錬金術が始まった事など、知られる訳にはいかなかったのだ。

 

自分達の正当性を、全て奪われてしまうのだから。

 

「旅の人の、人間としての名前は聞いていないの?」

 

「ないと言っておられた」

 

「……」

 

「そもそも旅の人と言う方は、世界に生じた魔法を全て使えるように、人間が冬の時代の前に最後の力を振り絞って作った自動で稼働する施設で作り出された存在であったのだそうだ。 世界を悪意が滅ぼし「冬」が来た事から、その施設では旅の人を善意の存在として作りあげた。 旅の人も優しい施設に感謝して、世界を笑顔と慈愛で満たそうと努力為されたのだ。 我は旅の人のためにありたい。 だからこの城を……」

 

吐き出しきって、自分でも悟ったのだろう。

 

もういい。

 

あんたはよくやった。

 

千三百年前、此処に兵器として配置されて。それで此処にいた住民を追い出すのに荷担した。

 

それは許せない。

 

多くの人だって殺しただろう。

 

それも許せない。

 

だが、それ以上に、ずっと罰を受け続けている。あたしは、大きくため息をついていた。

 

「もう分かってるんだよね。 旅の人は、神代の錬金術師達に殺されてる。 確率は限りなく全に近い」

 

「分かっている! だがあの御方は、不老の身だった! 僅かな可能性に……」

 

「神代の錬金術師を、あれから見た?」

 

不意にそう言われて、紅蓮は黙る。

 

そうだろうな。

 

黙り込んだ紅蓮に、咳払いする。

 

「神代が終わって今に至るまで、神代の錬金術師は姿を見せていないんだ。 別の世界に行った可能性はあるだろうけれども、少なくとももうこの世界に奴らは興味を持っていない。 あたしは奴らに呼ばれて、その本丸に来いとそそのかされてる。 何を目論んでいるかは知らないけれど、好機だから奴らをぶっ潰すつもりだよ。 構成要素の最後の一欠片までね」

 

「そうか……旅の人と真逆であるな」

 

「通してくれる? 旅の人を救えるなら救うよ。 それには、まだ情報が足りないんだ」

 

「貴様のその力、旅の人を思わせる凄まじさだ。 理論的に最大値に近い人間。 ……あの神にもっとも近いとうそぶいていた嘘つきどもとはまるで違う。 貴様になら……」

 

レントとリラさんが動く。

 

出現したそれが、いきなり巨大な刃を振り下ろしていたからだ。狙ったのは、紅蓮の首である。

 

レントとリラさんが、猛烈な一撃で刃を弾き、逸らす。

 

剣が火花を挙げながら、紅蓮の至近に着弾。城の床を砕いていた。

 

巨大な神代鎧。

 

其奴は全身から煙を上げながら、目に当たる部分を光らせていた。

 

威圧感は、今までどの遺跡で見たガーディアンよりも上だ。魔術なんか、これには通らないだろう。

 

「フェンリル型の致命的バグを確認。 殺処分」

 

「おのれ……!」

 

「ライザ!」

 

「おっけい。 ぶっ潰す」

 

丁度むしゃくしゃしていた所だ。

 

クズが寄って集って、世界を再生させようと世界中を回った善意の人を滅茶苦茶にした。それが生き証人の口から語られた。

 

それどころかクズ共は世界を己の私物と化し、オーリムにまで迷惑を掛け、こっちの世界が破滅しかける切っ掛けまで作った。

 

元々ぶっ潰すつもりだったが、更に殺意のボルテージが上がった。

 

紅蓮が嘘をついている気配はなかった。

 

嘘をついていたら、此処にいる何人かが気付いていた筈だ。事実適当を述べているようだったらタオがすぐに矛盾点に気付いていただろう。

 

それにしてもだ。

 

旅の人は恐らく、作られた人間だったのだろう。

 

混沌の時代最後の技術で。

 

だとしたら皮肉だ。

 

ありのままの人間が美しいとか言う寝言が、どれだけ滑稽なのかよく分かる。

 

作られた人が善意で世界を救おうとして。

 

ありのままの人間が欲望のまま世界を何度も焼き滅ぼしたのだから。

 

「我は此奴に手出しをできぬ……」

 

「良いから其処にいろ! 此奴は俺たちで始末する!」

 

「行くよみんなぁっ!」

 

「おおっ!」

 

空間操作の魔術を使って、跳躍して移動を繰り返す巨大神代鎧。

 

だからなんだ。

 

それくらい、東の地でなんぼでも超ド級との戦いで見たわ。子鬼ですらやってくる奴がいたほどだ。

 

超ド級が相手でも、随伴歩兵がいないなら、もはや。

 

完璧なタイミングで、あたしの熱槍がはいる。

 

魔術は通じなくても、それが入ったのは奴の足下だ。体勢を崩す巨大神代鎧に、アンペルさんの空間切断の魔術が入る。

 

レントとリラさんが、それぞれの一撃を叩き込み。

 

パティが膝を一刀両断。

 

体勢を崩しながらも、巨大神代鎧も空間転移して逃れるが。その先にはクリフォードさんが、調整完璧のブーメランを叩き込んでいた。

 

直撃。

 

其処に、セリさんの植物魔術が全身を包む。

 

空間魔術で、それを全部吹っ飛ばす巨大神代鎧だが、既にその上にはあたしが。

 

熱魔術で爆破して空中機動。

 

剣を振るおうとするが、ディアンが跳躍して、剣を弾く。巨大な剣が、ディアンのパワーで嘘みたいにぐるんと回った。

 

がっと、ももで巨大神代鎧の頭を掴む。

 

フェデリーカの神楽舞が、更にあたしのパワーを上げてくれている。

 

抵抗しようと手を伸ばすが、ボオスとタオが肘を左右から砕く。

 

あたしに掴まれている以上。

 

もう空間操作で逃げられない。

 

「フォトン……」

 

連続して爆発を引き起こし、あたしは最大加速。

 

そして、この中身のないからくり野郎を、フルパワーで一回転させ、頭から地面に叩き込んでいた。

 

「パイルブレイク!」

 

あたしの最大最強の体術。必殺技としての蹴り技。足技の奥義を全て凝縮した一撃は、相手がでかかろうと通じる。

 

巨大神代鎧が、一瞬で全身の構造を粉砕され、粉々になって飛び散る。

 

その破片の資産を、カラさんの冷気魔術が抑え込んでくれる。

 

着地。

 

地盤をまた砕いちゃったか。

 

でも、これは仕方がないことだ。セリさんに、テヘペロとするが。セリさんも、少し呆れていた。

 

「さて、邪魔は消えた。 話の続き、聞かせてくれるかな」

 

紅蓮はあたしをみて、ちょっと引いた。

 

前二体のフェンリルより強い此奴が、いやそもそも全てのフェンリル型生物兵器の祖であろう存在が。

 

あたしも、どうやら腕を上げているらしい。

 

それで、今は満足するべきだった。







原作だとこの城のスキップトラベルポイント、ボス級の敵がいきなりいて面倒なんですよね。

しかしそれは即座に狩る事ができる事も意味します。

相応に稀少素材も落とすので。此処で狩をした人も多いのではないでしょうか。

自分もその一人ですので、敬意を込めて特別な存在にしています。
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