暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
アインは言われたまま、その地を行く。
此処の事は知っている。
奥の方は、あまり良い思い出がない。
だけれども、やりたいのだ。
だからお母さんに言われた通りに行く。まだまだセキュリティだらけだけれども、きっとできる。
同胞の人達では入れない。
人間の要素が多くあるアインでないと、すぐに攻撃されてしまう。
そういう意味では、肉体は同胞と同じパミラさんも無理だ。
あの人はとても強いけれど、それでも此処のガーディアン達には勝てないと、お母さんは言っていた。
見えた。
ちいさな建物の中。
鎖がたくさん伸びている。その全てが、強力な魔術による警報装置だ。
その奧には、本来ケースがあったのだが。そのケースを、お母さんが移動させる事に成功した。それだけハッキングが進んだのだ。
厳重に封じられているそれは。
杖に見えた。
手を伸ばす。
封印は、解除されているという話だ。ただし、物理的に取ってくることがまだできない。これこそ、「旅の人」が最適化して使っていた魔術媒体。
「旅の人」には、お母さんも余り良くは分かっていないそうだ。
そういう存在がいた、という事しか知らないそうである。
ただし、そもそも神代の錬金術師が執拗に封印していること。あからさまに腫れ物として存在を抹消していること。
それでいながら、一区画は丸ごと封鎖していること。
それらから、まるで今もその存在が幽霊として恨んでいるようだと。
そして神代の錬金術師に取って、隠さなければならない歴史になっているのだと。
お母さんは認識しているようだった。
杖を手に取る。
心臓が痛い。
体の調整がまだ上手く行っていないのだ。
だけれども、やってみせる。
走り回るのが夢だ。
同胞のみんなが教えてくれる。外にはどんな世界があるのか。
この世界とどう違うのか。
外の子供達はどうなのか。
アインとどう違うのか。
それを聞くだけで、わくわくする。いつかいってみたいと思う。だから、今この最初の冒険をこなす。
杖を取って、呼吸を整えながら戻る。
前はちょっと培養槽から出るだけで、体が壊死したり、崩壊したりで、散々だったけれど。
今はふらつきながらも歩いて、安全圏まで出られる。
其処で、待っていたパミラさんに抱き留められる。
「よくやったわー」
「えへへ……はじめて何か役に立てたと思います」
「うん。 だから今は休んで」
培養槽に抱えて運んで貰う。
そして、培養槽の中で、ゆっくり体を休めながら、話を聞く。
「恐らくライザリンが来るまでに、必要なセキュリティの掌握はできると思います。 今まで此処で殺戮された錬金術師のようにライザリンは倒されはしないでしょうが、それでも万が一に備えましょう」
「それがいいわー。 それで……貴方の事は? ライザの説得が上手く行かなかったら恐らく……」
「最悪、私は消滅してもかまいません。 私には最初から実体などありませんから」
「ダメよ。 アインちゃんがどれだけ悲しむと思うの? 貴方が自我を得たのは、理不尽に対する憤りと哀しみが発端だったのでしょう? それを忘れてはいけないわー」
「そうですね……。 すみません盟友よ。 それをつい忘れていました」
難しい話だけれども。
アインはお母さんが好きだ。
姿はなくても。
アインに酷い事をしないし、いつも優しい言葉を掛けてくれる。そして今回、一番の仕事を任せてくれた。
「それで、その杖はどうするの?」
「解析後、処置は任せます。 砕くもよし、同胞の誰かに渡すのも。 盟友よ、あなたが信じる相手に託すのも」
「ライザに渡して良いかしら?」
お母さんが珍しく黙る。
体の調整が始まって、少しずつ意識が薄れてくる。
体の調整はとてもいたいので、眠っている内にしてしまうのだ。いつも。
ただ、動けるようになってきて、だからこそ思い出す。
鬼みたいな形相で怒鳴っている人。
髪を掴んで、アインを引っ張って行く人。
お前みたいな出来損ないは必要ない。
そう吠えて、そして。
強制的に意識が落とされた。
これ以上は体に悪影響が出るとお母さんが思ったのだろうなと、アインは消えていく意識の中で思った。
体の再調整が終わるまで、あとは眠って待つ。
大丈夫。
お母さんはアインにとっての全て。
絶対に、悪いようにはしない。
最初、肉体さえなくして漂っていたアインを拾い上げてくれた、ただ一つの存在。
人間の母親ではないかも知れないけれど。
肉体すらないかも知れないけれど。
アインにとってのお母さんは。
お母さんだけだ。
(続)
アインと「母」の関係はとても強いものとなっています。
其処にはなんら物理的なものはないとしても。