暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
フォウレの里の遺跡に巣くっていた観測者を倒し、そして接触した「フェンリル」の祖紅蓮。
神代の生き証人との接触です。
そして紅蓮は、神代の祖である「旅の人」との直接の面識まで持っています。
古文書よりもその言葉にどれだけ価値があるかわかりません。
序、赤狼と白狼
巨大化神代鎧と交戦して、それで一度戻って体勢を立て直す。
あの紅蓮と言う名前の狼……彼は喋る事も出来るし何よりも神代の生き証人だ。そしてフェンリルと言うのは、やはり神代の錬金術師がつけた識別名で、いにしえの神話の魔物から名前を取った事もはっきりした。
本人というよりも、本狼というべきか。ともかく、紅蓮に話を聞いてみたが、フェンリルと呼ばれたいと思わないそうである。
それはそうだろうな。旅の人を慕っていたわけだし。
半ば旅の人を人質に取られる形で従っていたわけだし。
兎も角、話は聞き出さないといけないし。
城についても調べなければならない。
それで、体勢を立て直して、それで一晩をおいてまた禁足地の城に戻る。まだ一体フェンリルがいる。
そっちは紅蓮みたいに話が分かるとは限らないのだから。
現地に到着すると、紅蓮が待っていた。こっちを遠くから見ていたらしい。まあ麓の人間の会話を拾えるくらいだ。
今まで交戦したフェンリル二体は、本当に劣化コピーだったのだなと苦笑させられる。
ただ、それだけとも思えない。
神代の錬金術師のやり口は散々見た。
連中はとにかくどうやって相手を屈服させるかを念頭に置いて、配下を作りあげていた。
感応夢で見たホムンクルスには寿命という枷をつけ。
あたし達に立ちはだかった原材料が人間だろう悪魔もどきは、脳みそをいじる事で。
それで屈服させ、逆らえないようにしていた。
神代のホムンクルスは失敗したのだろう。
だけれども、そっくりな例の一族が今いるのはちょっと分からない。それに、あの人達の話を聞く限り、神代と連携しているとはとても思えないのだ。
ともかく、まだ分からない事が多すぎる、
一つずつ、解明していかないとダメだ。
分からない事があるまま先に突っ込むと、だいたい碌な事にはならないのだから。
「ライザリンと言ったな。 今日も来たのだな」
「城の解析と、錬金術師が残した資料の解析をさせて貰えますか。 勿論、貴方が困らない範囲で」
「随分と紳士的だな。 我が知る錬金術師では、旅の人以外にそんな態度を我には取らなかった」
「まあ、下手な人間より話が通じる相手ですし」
あたしが肩をすくめると。
紅蓮はそんなものかと、鼻を鳴らすのだった。
ともかくだ。
まずは、紅蓮について城の中を歩く。
流石に犬科のしなやかな体だけあって、狭い所もすんなり通る。その奥は空中回廊になっているのだが。
まるで体重を感じさせない動きである。
「空中回廊ですね……」
「どうしたライザリンの仲間。 貴殿の技を見る限り、達人の中でも上澄みとみるが」
「いえ、前に転落したことがあって」
「そうか」
まあ、あれはトラウマにもなる。
パティはあれ以来、どうしてもこう言う場所は苦手らしいし、それについて克服しろとかいうつもりもない。
無理に克服しようとしても更に苦手になるだけだ。
「これは、山の間を城が渡っているのか!?」
「一体どうやってこんなものを作ったんだ……」
「旅の人によると、グラビ石という浮かぶものを使うそうだ。 ガスなどで浮かせるよりも余程強力に重力に逆らえるらしい。 それで石材などを運んで、魔術で固定するのだとか」
「随分詳しいですね」
紅蓮は、旅の人がこういうのを作るのを見ていて。
それで色々と聞かされたらしい。
旅の人は兎に角無邪気な人で、他人が笑ってくれれば嬉しいし、腹芸の類もしなかったそうである。
誰かを助ければきっとそれが帰って来る。
そんな風に信じていたとか。
勿論それができる人間もいるだろう。
だけれども、残念だけれども。
旅の人は。話を聞いただけのあたしから見ても、あまりにも巨大な力の持ち主だ。そんな存在が無償の愛を振りまけば、どうなるか。
それは悪党が群がってくるだろう。
どれだけ恩があろうが、どれだけ助けられようが。
何とも考えずに相手を陥れる輩は幾らでもいる。
残念ながら人間はそういう生き物だ。
混沌の時代に世界を滅ぼして、破滅の中で何とか僅かな生き残りが百年の冬を乗り切って。
それでどうにかして世界に戻ってきても。
その性根は、まったく変わらなかったし。
多分神様に最も近い慈愛の権化がいても、ありがたいありがたいと拝むだけか。バカな相手として搾取だけするか。
そういう生物なのだ人間は。
だから一定数はどうしても殺さなければならない。
クーケン島に来る破落戸や与太者を斬る時、アガーテ姉さんは全く躊躇はしていなかった。
殺さないと駄目な人間がいる事をアガーテ姉さんは知っていたし。
あたし達も、目の前で幾つも実例は見てきたのだから。
「この奧に、我の眷属がいる」
「紅蓮さんが頂点と言う形で纏まっているんですか?」
「いや、基本的に我を元に作り出された一族と言うだけだ。 ただ我より強い個体はどうしても出なかった。 いずれもが命令を受けてそれぞれ配置されていったが、たまに顔を合わせると、基本的に我に対しては低姿勢になる。 それだけだ」
「狼の習性が残っているのかな」
タオが首を捻る。
狼は農業をする人間や、特に牧畜をする人間には蛇蝎の如く嫌われているが。実際には犬の先祖なだけあり、柔軟な群れを作りつがいを大事にする生物である。つがいを作る生物には浮気をする生物が珍しくもないのだが、狼はそれもない。
それが元になっているとすると、一体ずつ各地に配置されるのはあるだろうけれども。
それはそれとして、祖である紅蓮さんにはそれぞれが敬意を払うのか。
ちょっと興味深い。
ちなみに、紅蓮さんみたいに人間の言葉を話したり、高度に理解する個体はいないそうである。
これもまた、神代の錬金術師がそういう風に作ったのだろう。
逆らわれると困るからだ。
強力で勇敢な友よりも、使い捨てにできて妄信的な部下。
まあ、そういう連中だよなという言葉しかない。
空中回廊の途中で、かなり珍しいキノコが幾つかあった。セリさんが鑑定してくれるが、何とかクラウンとかいう極めて高級な代物らしい。なるほど、後で解析してみるか。ずっしりと重くて、確かに身が詰まっているし、魔力も強力だ。色々な素材に活用出来るだろうこれは。
紅蓮は採取する様子をじっと見ていたが。
やがて空中回廊が終わると、洞窟の中に窮屈そうに入ってきた。
「神代の錬金術師共がフェンリル型と呼んでいた我の眷属には、完成型と成長型が用意された。 完成型は最初から完成されていて、各地で門番を務めた。 成長型は敢えて子供の状態からどう成長するかを見るべく、特殊な薬剤で必要なだけ成長させていたようだ」
「……ひょっとして」
「覚えがあるのか」
「サルドニカで交戦した二回目のフェンリルが、やけに未熟でしたので」
そうかと、紅蓮さんは呟く。
まあ同胞を殺されたのだ。気分は良くないだろう。
ただしこっちも手加減できる相手では無かった。それも理解はして欲しいものではあるのだが。
洞窟らしい場所はすぐに終わって、やはり何かしらの石材らしいもので作られた研究所の内部に出る。
「この奧が縦穴になっていて、廃棄孔として使われていた」
「毒でも捨てていたんですか?」
「いや違う。 この城ではドラゴンを捕まえて、実験をしていたようなのだ。 その結果出たしがいなどを捨てていたようだな」
「……」
なるほど、ありうる話だ。
神代の錬金術師は、門を開く技術を探していた。
この辺りにある自然門では、エンシェントドラゴンが奏波氏族の助けを得て、生の最後を過ごすために世界を渡る。
それを何かしらの方法で知ったのだろう。
神代の錬金術師はテクノロジーだけは持っていたから、ドラゴンを捕獲するのは難しく無かったとみて良い。
その程度なら、後の劣化コピーである古代クリント王国にさえできていたのだから。
研究所を一旦抜ける。
紅蓮が、皆にさがるように促す。
「少し下がっていろ。 眷属を呼ぶ」
「分かりました。 お願いします」
「しかしどうして敬語になったのだ」
「それは貴方の方がずっと年上ですし。 歴史の生き証人ですし」
此奴がやった事には色々許せない事もある。
だから此処で朽ちるまでいて貰うつもりだ。
それで罰としては充分だろう。
旅の人がもし生きていたとして。救助しても、此処の事は告げる気はない。それが最大の罰になるからだ。
意地が悪いことをしている訳ではない。
ただそれくらいの罰を受けるのは当然だから、そうする。
何の関係もない人を大勢此奴が殺したのは、理由があったとしても事実であり。消せないことだ。しかもそれを、此奴は神代のカスどもの言うままにやったのである。
だったら罪を償うのが当然。
人だろうが狼だろうがそれは同じ。
人間の理屈が通じて、人間の言葉も通じるのだから。人間の理屈によって罰を受けて貰う。
ただ、それだけである。
あたしは敢えて、死より重い罰を与えているかも知れない。
そもそも罰なんてものは、与えて意味がある存在にしか効果がない。何をやっても反省しない輩は殺処分が妥当だ。
それをしないということが、あたしの判断。
紅蓮が遠吠えをする。
たぶんだけれども。
紅蓮も、自分がやったこと。そして、ようやく飲み込めたのだろう。
旅の人はもういないことを。
その鳴き声は、何処か悲しげだった。
白銀の毛並みのフェンリルが姿を見せる。見るからに狼で、紅蓮のような高い知能は持っていない。
紅蓮の前にてお座りをするフェンリルは、非常に強い事が分かるが。
紅蓮の遠吠えで状況を察したか、敵意はないようだった。
「……よし、これで無力化はした。 しかしこの施設は、旅の人が根本的な設計は手がけたのだ。 無茶はしてくれるなよ」
「分かりました。 ただし錬金術師達が持ち込んだ資料は回収します」
「ああ、そうしてくれ。 それと、ガーディアンの操作パネルは彼方の部屋だ」
「ありがとう」
早速様子を見に行く。
なる程な、此処も配置してある自動兵器の守りで充分と判断したのだろう。数日かけて叩き潰した神代鎧がいなくなった今。
既に守りはがらあきということだ。
すぐにコンソールを発見。やはりパスワードも掛かっていない。たまに扉はあったが、それも全部鍵一つ掛かっていない。
やはり使う奴次第だなセキュリティは。
そしてこの様子を見る限り。
神代の人間は、テクノロジーだけ持った普通の人間。間違っても優れて等いないと、何度でも思い知らされる。
タオがすぐにコンソールを操作して、ガーディアンの無力化を実施。
神代鎧の無事なのはないかと聞いてみるが、首を横に振られた。
「在庫は尽きているよ。 みんなでやっつけた分で終わりだったって事だね」
「よかった。 一体一体があんなに強くて、もう生きた心地がしなかったんです」
「フィルフサの群れと真正面からやり合う時に比べたらマシだよ」
フェデリーカは、フィルフサともやりあってはいるが。ウィンドルで交戦した幾つかの群れは、奏波氏族との戦いで数を減らしていたし。何よりオーレン族による支援もあったし。
それに地形的な有利もあった。
今でも、グリムドルに陣取っていた群れと真正面から水なしでやり合えと言われたら、相当に厳しいと思う。
フィルフサの武器は魔術が通じないこともコアを砕かないと停止しないこともあるが、何より数と恐れを知らない事にある。
はっきりいって、現在でもまともにやりあうのは避けたい相手だ。
「よし、セキュリティシステムは全部停止させた」
「後は此処で行われていた研究の全てだね」
「うん。 ちょっと調べるのに時間が掛かるよ。 その間に、この遺跡の調査を進めてくれる?」
「分かった。 レント、この場でタオの護衛をお願いね」
此処は奥まった部屋で、レント一人いればタオを守りきれるだろう。コントロールルームをこんな所に配置して、本当に周りを舐めきっていたし。なんだったら攻めこまれる可能性なんて考えてもいなかったのだ。
まずは書類を探す。
彼方此方ちょっと崩れている場所もあるが、それは恐らく後から付け足した構造だ。露骨に構造が雑である。
しばらく歩いて見つけたのは、大きめの部屋だ。
これは、なんだか不自然だな。
フィーが、警戒の声を上げた。
「フィー!」
「!」
あの時と。
ウィンドルで、フィーの同族が殺戮されていた施設を見つけた時と同じ反応だ。この部屋、ちょっと様子がおかしい。
今の時点では何もない。
此処が何かしらの目的で使われていたとしたら、それは千数百年も前の話だっただろう。骨くらいしか残らないだろうが。
それもないということは。
「なんだこの部屋。 あれは……刃物か?」
「何人がかりで運んだんでしょうか。 人間が使うものではなさそうですね」
ボオスの見つけたのは、部屋の隅で置かれていた刃物。これはハイチタニウムで作られている。
それの大きさを見て、フェデリーカが不思議そうに言うが。
パティは、大きさを見て、それで頷いていた。
「恐らくこれは、あの巨大な神代鎧が使った刃物だと思います。 大きさが一致していますので」
「なるほどね。 しかし此処で……そうか」
なるほど、納得が行った。
此処で行われていたのは、ドラゴンの研究。だとすると。
彼方此方を見るが、資料は残されていない。多分廃棄されたのだろう。成果はあったと判断し、部屋は綺麗に引き払ったと言う事か。
フィーの反応からして、だいたい何があったのかは分かる。
隣に格納室があった。
クリフォードさんが、先にフェデリーカに言う。
「おっと、此処はまずいかもな。 入る勇気はあるかい?」
「だ、大丈夫です!」
「そうか。 止めはしたからな。 自己責任で見るんだぞ」
あたしは足を先に踏み入れる。
アンペルさんが、呻いていた。
其処にあったのは、大きな硝子ケース。円筒形の。それに大量の液体が満たされている。たくさん並んでいる。
構造で言うと、東の地で見たベヒィモス達の充電施設に似ている。
あれとは段違いに小さいが。
中には、骨がたくさん入っていた。
カラさんが、声を低くする。
「これはドラゴンのものだな。 それも生きたまま体を切断して、どれくらい生きているかを試したのだろう」
「えっ……」
「こっちはオーレン族のものだな。 何らかの理由で捕まえて、此処で尊厳を極限まで踏みにじったのだ」
リラさんが言う。
其処には、殆ど人と代わらない骨が浮かんでいた。
他にも骨が幾つも浮かんでいる。
オーレン族が実験素材にされていたのは、既に分かっていた。あの「蝕みの女王」は、明らかに対オーレン族を想定したフィルフサ王種だったし。内部から出て来た人型形態は、あからさま過ぎるくらいに人間かそれの類種が元になっていた。
神代の連中が生物兵器として人間を利用しているのは、悪魔もどきの事で分かっていたが。
これで証拠が出て来た。
神代の連中はオーレン族も人間と同じように実験材料にしていたのだ。彼奴らに倫理観念なんてない。なぜなら、自分達以外は人間ではなかったのだから。
フェデリーカが絶句して、口を手で押さえている。
あたしはさっとゼッテルに字を書くと、フェデリーカに渡していた。
「タオに届けてきてくれる。 これを見ているのはつらいでしょ」
「は、はい」
「私も着いていくわ」
セリさんが護衛をかってでてくれる。有り難い。頼むとする。
此処にある「資料」は、全て荼毘に付す必要があるだろう。だけれども、これだけだろうか。
ディアンが、真っ青になっている。
本気で怒っているのだ。
「ライザ姉、俺もライザ姉の怒りがよく分かってきた。 今までは、どうして此処までキレてるんだろうって時々不思議だったんだ。 漸く分かってきたよ。 これをやった連中は、もう何を言っても無駄な連中なんだな」
「そういうことだよ。 そんな連中が不釣り合いな力を持ってしまったのが神代って時代だったんだ」
「此処は正気の人間が入る場所じゃねえ。 気分が悪い奴は出た方が良いだろう」
クリフォードさんが見つけて来る。
研究資料だ。
他にもたくさんあるという。
奧が資料庫になっていたらしい。
ただ、どうしてこれを放棄した。ハイチタニウム製の神代鎧とフェンリル、それに紅蓮の守りがあるから平気だと判断したのか。
分からないが。調べて見るしかない。
奥にある書庫は、かなりの規模だが、数回の往復で資料を運び出せそうである。
本を取りだしていると、タオが来た。
「ライザ、余り良くないことが分かった」
「こっちもだよ。 まずは聞かせてくれる?」
「うん。 奥にある大穴の処置がまず最初にするべきだと思う。 きっとそれが、人としてやるべき事だから」
「分かった」
さっきの研究室の有様はもう見ているだろう。
タオだって怒る。
そして今、タオは明確に怒っていた。