暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

153 / 200



ディアンに試練が訪れます。

フォウレの里の最後の問題の一つ、墓。

それに対応しなければならなくなったのです。


2、墓守は眠る

ネメドの森の暑さは相変わらずで、足を踏み入れるとじんわりと来る。ただ、それがかなり緩和されているのも事実だ。

 

皆に配布した装飾品で、適温に体の周りの空気を管理している。

 

それは戦闘に役立てるためである。

 

体温が適切に保たれる方が、戦闘では高いパフォーマンスを保ちやすいのが現実としてある。

 

あたしも精神論で勝てるとは微塵も思っていない。

 

精神論であがる力は確かにあるが。

 

何倍も力が増すわけではないのだ。

 

鋭い獣の声。

 

樹上で猿が威嚇の声を上げている。次の瞬間、それが悲鳴に変わった。巨大な蛇が、猿を締め上げているのが見えた。

 

時々この辺りで見かける大蛇だ。

 

人間に興味は見せないが、食事はちゃんとする。

 

それだけの話である。

 

「行くよ」

 

「は、はい」

 

自然のダイナミックな営みに圧倒されているフェデリーカに声を掛ける。あの大蛇は人間を襲うでもなく、むしろ距離を取る。

 

無害である以上、戦う理由は無い。

 

襲ってきたらその時はその時。叩き殺す。

 

今はその時では無いと言うだけだ。

 

ディアンが前に出ると、あっちだと言って、今まで通ったことがない道を示してくれる。この辺りは魔物狩りで散々出向いたはずなのだが。

 

流石は地元民というところか。

 

ブッシュも多いが、密林の中は案外歩きやすい場所も多い。ただ気を付けないと、魔物と正面から出くわすこともある。

 

足下も注意だ。

 

クレバスなんかもあるし、腐敗している死骸や糞も。そういうのには例外なく蛆も湧いているし、足を突っ込むと酷い事になる。

 

歩き慣れているディアンは流石で、気を付けてといいながら、そういうのを的確に避けている。

 

ほどなくして、湿地帯に出た。

 

かなり早い。

 

いつもはもうちょっと迂回してから、此処に出るのだが。

 

「こっからだな」

 

ボオスが言う。

 

ボオスが集めてくれた情報によると、この先を突っ切るようにしていくのだ。その結果、墓に到達する。

 

湿地はいうまでもなく、下手に足を突っ込むと死に直結する。

 

それどころか、魔物だって潜んでいる。

 

湿地に適応する魔物なんて、それこそ幾らでもいるのだ。そういう魔物は待ち伏せ型で、獲物に対してはだいたい見境なしである。

 

クラウディアの音魔術は、ちょっと泥濘地には不向きだが、泥濘の箇所を探るのは得意だ。

 

カラさんも、色々な探知魔術を展開してくれる。

 

タオが、地図を手に指さす。

 

前にもこの辺りは何度も来ている。それに、今回の湿地の地図が加わっていると言う事だ。

 

この湿地の中に、狭い道のように足場があり。

 

それを通る事で、墓にたどり着ける。

 

巨大マンドレイクなどが出て種拾いの戦士が大きな被害を出す前は、戦士達総出で墓に向かい。

 

少なくとも道中の護衛では験者の仕事を補助したそうだ。

 

それくらい危険な場所であったということである。

 

当時ですら、だ。

 

向こうの大河では、相変わらず超ド級が水浴びをしている。

 

手さえ出さなければあれは襲ってこない。

 

超ド級に寿命があるのかは分からないが、紅蓮が四千年の時を越えているのは話から確実だ。

 

そう考えると、技術的な劣化コピーだとしても数千年は生きても不思議ではないし。

 

何より巨大な生物は長寿な事が多い。

 

あれも、フォウレの里が滅びた後も、彼処で穏やかに過ごしている可能性が高そうである。

 

沼地の中の、細い道を慎重にいく。

 

あたしが即座に熱槍を叩き込んだのは、待ち伏せしていた巨大なサメがいたからである。

 

先手を打って熱槍をぶち込んだことで、沼地から飛び出して巨体が文字通り跳ね上がる。凄まじい迫力だが。そんな事を言っていられるのは、奇襲を防いだからだ。

 

即応したクラウディアが、明らかに致命傷になる巨大矢を多数叩き込み、更にはセリさんが展開した植物魔術が、サメを拘束。

 

ディアンが躍りかかると、頭から腹の辺りまで、手斧で斬り下げていた。

 

最初の熱槍が入らなければ、もう少し苦戦したかも知れないが、まあそれで防御魔術の展開も防いだ。

 

浮島に出る。

 

あまり重いものは引きずり上げられないが。このサメくらいは大丈夫だろう。

 

捌いて、回収出来そうな部位は回収しておく。

 

肉も燻製にしておく。

 

サメの肉はちょっと独特な臭みがあるのだけれども、燻製のやり方次第では美味しく食べられる。

 

一度引き上げて、肉などはフォウレの里にお裾分けする。

 

今後墓に里の人間が出向く場合には、あの待ち伏せは致命的だ。倒しておかなければならなかったのである。

 

荷物をそうして整理すると、再び湿地に。

 

同じ地点まで出向いて、すぐに先に。

 

一見すると、とても道が続いているとはみえない場所を行く。その結果、足首くらいまで水には浸かるが、ちゃんと道になっている。

 

地盤の関係なのだろう。

 

土というのは不思議なものだ。

 

ただ、これは雨が降ってくると危ないな。

 

警戒を最大にしながら進む。

 

案の場、途中で何度か水棲の魔物が仕掛けて来たが。幸い、それほどの大物はいなかった。

 

小型の魚でも、肉をむしりにくるようなタチが悪いのもいるし。

 

なんならヒルとかも伝染病を媒介したりするのだが。

 

それらについては対策はしてある。

 

三つ目の浮島に辿りつく。鼬の群れが休んでいたが、あたし達を見ると、さっと逃げ散る。

 

利口な判断だ。

 

まあ、それで片付くなら問題は無い。

 

あたしは鼬が嫌う臭いが出るものを辺りに撒いておく。別に変なものではない。天敵であるサメの臭いが染みついた、歯を砕いた粉だ。

 

これで鼬は此処には当面近寄らない。

 

フォウレの里の種拾いでも、アレ程度は始末できるだろう。特に問題は無い筈だが。それでも念の為である。

 

空が一気に曇ってくる。

 

この辺りでは仕方がない。スコールだ。

 

この浮島は結構大きいので、此処で雨を凌ぐことにする。最悪の場合は、エアドロップに分乗して避難することになるだろう。

 

セリさんが植物魔術で、大きめの木をいきなり生やして、その下で雨宿りする。雨は降り出すと、滝のようだ。

 

懐かしいな、この苛烈な雨。

 

しばしその雨が通り過ぎるのを待つと。

 

嘘のように雨が引く。

 

毎日毎日これだから、この辺りでの生活はクーケン島とは全く違ってくると言う訳である。

 

幸い、雨で川が増水することも、この辺りがさらにひたひたになることもなかった。

 

墓に向かう。

 

今日中に、墓までのルートは確保しておきたい。

 

墓の規模は、それほど巨大ではないそうだが。

 

ここ最近、此処に出向いた人間が多数命を落としているのも事実だ。墓の調査には。万全を期す。

 

程なく見えてきた。

 

ディアンがあれだと叫んだ。

 

墓の辺りは、沼地が終わって、またしっかりした土になっている。随分な沼の果てだなとあたしは思ったが。

 

あれと思って、この地点から見えている城と見比べる。

 

恐らくだが。神代の錬金術師どもはフォウレの里の先祖が篭もる城を、こっちから攻めた筈だ。

 

連中の事だから、フォウレの里の先祖の文化なんか笑いながら踏みにじったはず。

 

あるいは悪辣なトラップでも仕込んだか。

 

「ライザ、一旦戻ろうぜ。 嫌な予感がする」

 

「分かりました」

 

「クリフォードの旦那の予感、当たるからな……」

 

「俺もこれがなければ何度でも死んでいたからな。 今後も予感には磨きを掛けていくつもりだぜ」

 

クリフォードさんの提案は、こう言うとき本当に頼りになる。

 

墓の位置はしっかり確認した。後は沼地に浮き橋でも作りたいところだが、そこまではいいか。

 

フォウレの里も、近々引っ越しするのだ。

 

沼地を抜けて、対岸からチェック。やはりこっちからは全く見える様子がない。

 

カラさんがぼやく。

 

「なるほどのう。 わかった」

 

「どうしたんですか、カラさん」

 

「この湿地帯の違和感よ。 これは恐らく、自然にできたものではない」

 

カラさんの話によると、恐らくこの辺り全域が何かしらの攻撃で吹き飛ばされたものなのだという。

 

そもそも地形的に、此処だけ水がひたひたになっているのはおかしいのだそうだ。

 

なるほど、それは確かに説明がつく。

 

フォウレの里の先祖が篭もる城を攻める攻撃は、想像以上に荒っぽかったということなのだろう。

 

神代の錬金術師どもに、自然を大事にする等という思考回路は存在していなかった筈だし。

 

下手をすると、一度森を丸ごと焼き払った可能性もある。

 

無言で、手をかざす。

 

のんびりと水浴びをしている超ド級が、背中に乗ってきた鳥を意に介せず、ゆっくりと動いている。

 

多数の目と触手を持つ異形だが。

 

使い物にならないとここに廃棄されたとしても。

 

この辺りを破壊し尽くした錬金術師の所業が、未だに牙を剥いているのが分かると。どうしても、あれは憎めなかった。

 

その後、夜にも作業がある。

 

進捗については、タオにレポートをまとめて貰って、あたしが験者に説明をしておいた。

 

デアドラさんも交えて話をしたが。

 

住み着いていたサメについては、やはりかと験者はぼやくのだった。

 

「沼地は危険な生物が前から住み着きやすかった。 多くの精鋭種拾いを失った事で、魔物の駆除が追いつかなくなった以上、当然そういった魔物も住み着いている事は想定しなければならなかったな」

 

「退治はしましたが、今後定期的に駆除はしてください」

 

「分かっている。 いつもすまないな」

 

験者さんは少し考えてから、言う。

 

ディアンは役に立てているかと。

 

役に立てていると即答する。

 

実際誰よりも勇敢だし、手傷を受けることも怖れない。今後は防御を覚える事が課題だが。それも背が伸びきる頃には解決しているだろう。

 

フォウレの里に戻った後は。

 

きっとこの里の新しい希望の星になる。

 

そう告げると、験者は目を細めていた。

 

「依頼するものがある。 この設計図の通り作ってくれるか」

 

「……おやすい御用ですが、これだったらすぐ作りますよ」

 

「そうか。 指定したらすぐに渡せるように頼みたい」

 

「ええ、楽勝です」

 

何だか分からないが、まあ良いだろう。

 

アトリエに戻ると、既に夕食ができていた。あたしも皆に交じって、海から水揚げされたばかりの大きな魚の各種料理に舌鼓を打つ。

 

ディアンは食べ終わると、フェデリーカと一緒に、パティと訓練をするようだった。

 

実に若々しくてみずみずしい。

 

その様子を見守りながら、レントは呟く。

 

「俺らも四年前はあんなだったのかな」

 

「油断するとすぐダメだった時期のザムエルさんになるよ」

 

「分かってる。 そうならないためにも、鍛錬を欠かしてはならないな」

 

今だからこそ、ザムエルさんを引き合いに出せる。昔だったら、それは逆鱗に触れることだっただろう。

 

風呂に入って、それで今日はここまでにする。

 

明日が、本番だ。

 

 

 

朝一番にアトリエを出て、全速力で現地に。

 

雨に邪魔されるのも面倒だし、途中で魔物の駆除で時間も取られたくは無い。だから無言で走る。

 

フェデリーカもかなり着いてきている。

 

パティに回避技だけではなくて、効率が良い走り方も指導を受けているらしい。パティは快足が売りだから、とにかくその辺りはコツを知っているのだろう。あたしも一応教えられるが。

 

まああたしのは、パワーと魔術増幅と体力の合わせ技なので。

 

あまり当てにはならないと思う。

 

朝二に現地に到着。

 

雲が出始めている。

 

これは一雨来るだろうな。

 

沼地の端にある岩山に開いた穴。それが墓所だ。この中に入る事になる。辺りの地盤はしっかりしている。

 

一応、全力で踏みしめながら戦えそうだ。

 

「いるぞ」

 

クリフォードさんが、穴を見て舌打ち。

 

この内部はそれなりの広さがあるが。それでも全力で戦うのは厳しそうだ。

 

カラさんが魔術を展開して内部を探る。クラウディアも。

 

「内部はそれなりに広いけれど、ライザが全力で暴れたら崩落しそう」

 

「何が潜んでいるか特定はできそう?」

 

「……よく分からんが、廃棄されたらしいものが山積みになっておるな。 もしも何かしらが潜んでいるなら、その中であろう。 つまりそれほど大きい輩ではない」

 

「それでも弱いとは限らないのが厄介でしてね……」

 

実際問題、「蝕みの女王」の最終形態は人間とそれほどサイズが変わらなかったが、それでもかなり強かった。

 

同時に不愉快極まりない奴だった。

 

あの被害者面は、今でもはっきりいって殺意がにえたぎる。

 

いずれにしても、行く。

 

レントを先頭に、穴の中に入る。ひんやりした空気。蒸し暑い外とは対称的だ。どういう仕組みだとボオスがぼやくが、あたしには分かった。

 

奧に何か冷気を出しているものがある。

 

ディアンが言う。

 

「験者様に昔聞いたんだ。 長い年月掛けて此処に戻って来たフォウレの里の民は、此処も調べ上げた。 その時から此処は墓所だったって」

 

「墓所か」

 

確かに辺りには、フォウレの里にたくさんあった機具の残骸が散らばっている。それらはフォウレの里の生命線だったものだ。

 

技術が信仰の対象になる。

 

それは別におかしな事でもなんでもないだろう。

 

東の地でも、ものを大事に使って行く思想や。ものに魂が宿るという思想があるらしいのだけれども。

 

フォウレの里でも、それと似た考えが生じたのは、決して不思議な事では無い。

 

ましてやフォウレの里の先祖は、負けたとは言え神代の錬金術師とやりあったのである。それを思うと、不思議な事ではないはずだ。

 

過去の技術は、文字通り神代のものと渡り合えるほどのものだったのだから。

 

さて、どこから来るか。

 

周囲を警戒。

 

最大限の注意を払う。

 

此処に機具を捨てに来た存在だけを襲っていたわけではないだろう。

 

或いは、神代鎧みたいな兵器だったら話は分からないでもないが。そういう存在が、わざわざ墓に潜んで、最近(あくまで歴史的な意味で)になって人を襲いはじめるだろうか。

 

どうにもそうとは思えない。

 

全員で円陣を組んで、奇襲に備える。

 

上だ。

 

クリフォードさんが叫ぶと同時に、レントがそれを弾き返していた。

 

触手か。

 

同時に、前後左右、全ての方向から殺気。

 

一度出て。

 

あたしが叫ぶと、全員で後退する。凄まじい数の触手が、後方にも。熱槍でまとめて焼き払う。悲鳴が上がるが、それは墓そのものを揺らしているかのようだった。

 

レントが殿軍になって、墓を飛び出す。

 

これは、まさかとは思うが。

 

墓があるちいさな丘が、激しく揺れる。

 

クーケン島をたびたび襲った地震どころじゃない。丘が、文字通り崩壊していく。その凄まじい有様に、フェデリーカが息を呑んでいた。

 

目。

 

岩肌から露出したそれには、触手に目がついていた。

 

それだけじゃない。

 

多数ある触手が、口を持っている。

 

こいつが墓場の襲撃者の正体か。さっきの状態からして、墓を包むようにしてエサ場にしていたんだ。

 

墓に入った人間は、もれなく此奴のエサだった訳だ。

 

凄まじい雄叫びが上がったが、あたしはむしろ気が楽だ。

 

幽霊の正体見たりただの草。

 

確かに強い魔力を感じるが、襲った相手があたし達だったのが運の尽きだ。これは勝てない相手では無い。

 

擬態型の捕食者の極北。

 

多分正体は、沼に住む魔物の極大個体だ。それが駆除をできない間に巨大化して、こうなったのだろう。

 

多数の触手が襲いかかってくるが、パティが前に出ると、全部まとめて一刀両断する。

 

魔術でシールドを張っていたようだが、この程度のシールド。今のパティの武技の前ではなんの盾にもならない。

 

ディアンが前に出る。

 

「許せねえ……里の墓を……エサ場にしやがって!」

 

ここは、ディアンにやらせてやるべきだと思う。

 

勿論、この魔物は生物として生きていただけだ。人間の墓なんて魔物にはなんの意味も関係もないのだから。

 

だけれども、此奴が此処まで無作為に巨大化するのを放置した人間にも責任があると言える。

 

だから、ディアンが始末をつけるのは、それはそれで良い事だ。

 

雄叫びを上げながら、突貫するディアン。

 

あたしは手を横に。

 

これはディアンの戦いだ。

 

皆、それを見て頷いていた。

 

多数の触手が、まだまだディアンに襲いかかる。その全てを、手斧で激しく乱撃して弾く。

 

それでも、ディアンの全身を何度も触手が叩く。

 

だが、抉るまでにはいたらない。

 

あたしが渡した装備を、上手く使って受け流している。ハイチタニウムの斬撃ですら受け流す装備なのだ。

 

上手く使えば、こんな三下の一撃なんて。

 

叫ぶと同時に、目が生えている触手を、ディアンが切りおとす。体液をばらまきながら、巨大な魔物が明かな悲鳴を上げる。逃げだそうとするが。その上にディアンは跨がると、手斧で触手を片っ端から刈り取る。

 

凄まじい怒りとともに振るわれる手斧は。

 

今まで多数のフォウレの里の戦士を殺戮し、喰らってきた魔物を容赦なく解体して行く。

 

全身が露わになる。

 

それはやはり、触手の塊のような魔物だ。

 

ちいさな生物なら似たようなヒドラというのがいるが、それに近いかも知れない。王都近郊の遺跡で交戦した似たような魔物とはまた生物的に別種だろうが。

 

ヒドラがこんなに巨大化するのも妙だから、これは神代の錬金術師がそうデザインした魔物か。

 

或いはまき散らした毒か何かの影響か。

 

いずれにしても、普通の生物ではないだろう。

 

ディアンの後ろ。

 

一際大きな触手が、大口を開けて襲いかかるが。ディアンは残像を抉らせて、跳躍。上に。そして渾身の一撃で、その触手を叩き割っていた。

 

弱りながらも、泥沼に戻ろうとする魔物。

 

普段は土の中に潜っているが、やはり本当の居場所は泥沼の中か。だったら泥沼の中にずっといれば良かったのに。

 

あたしが前に立ちふさがる。

 

それだけで、魔物は絶望の悲鳴を上げた。

 

全身が怒りで真っ赤に燃え上がっているディアン。

 

身体強化の魔力が暴発して、極限以上まで全身の性能を引き上げているのだ。

 

魔物の中枢に手斧の一撃が入る。

 

それで、ついに単純な構造の魔物も限界が来たのだろう。

 

触手を痙攣させていたが、それで動かなくなった。

 

「終わったよ。 もういい」

 

そう声を掛けると、ディアンは止まる。

 

全身から煙が上がっている。それだけ苛烈な倍率が掛かっていたということだ。

 

レントがディアンを抱えて降りてくる。

 

その間に、あたしが魔物はこんがりと焼いておく。単純構造の魔物は、こうしておかないと危ないのだ。

 

完全に魔物は始末した。

 

クリフォードさんも、大丈夫そうだと、墓の中をみて言う。

 

ただ、これは。

 

一度作り直さないといけないレベルで、損傷してしまっているが。

 

「ライザ姉」

 

「どうしたの」

 

限界が来たのか、倒れてしまったディアンを横にして。手当をしていると、悲しそうにディアンが言う。

 

やっぱり、フォウレの里が好きだったみたいだって。

 

あんなに反発していたのに。

 

いざフォウレの里の大事な墓所を荒らされているのを見たら、こんなに怒りがわき上がったって。

 

いつもと違う怒りで。

 

魔物を殺すまで止まらなかったし。多分あたしが声を掛けなければ、人間に戻れなかったかも知れないとも。

 

「大丈夫。 その狂戦士形態とでもいうべきものは、今後の戦いの切り札になる」

 

「そうなのかな」

 

「練習して、それを制御出来るようになったら、ディアンは戦士として更に一皮剥けると思う」

 

「そうか、ライザ姉がそういうなら……この力、前向きに考えて見るよ」

 

それでいい。

 

あたしは頷くと、魔物の死体をぶつ切りにして、荷車に分乗する。巨大な魔物だが、数回に分ければフォウレの里に持ち帰れるだろう。

 

体内からは骨だって見つかるかも知れない。

 

験者の骨であれば、フォウレの里でも回収して葬りたいはずだ。あたしとしても、持ち帰っておきたい。

 

まあ骨はまとめて吐き出して捨てているかも知れないが。この魔物が原始的な生物が巨大化している場合、食べたものを消化した後吐き出して処理する場合がある。口と肛門が一緒になっているパターンだ。まあそれは調べなければ分からない。

 

それに。墓をフォウレの里の人間以外が、整備する訳にもいかないだろう。魔物が破壊したことを、ディアンが証言するとして。

 

あたしもこの墓の修復は手伝いたい。

 

そこまでやって仕事だ。

 

あたしは、そういう意味で。仕事の手を抜くつもりはなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。