暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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原作だとリッチっぽかった墓のボス。

本作では考えた末にこういう形に変更しております。


3、墓と尊厳

験者の所に、死体を持っていく。

 

巨大な魔物の焼き殺された死体。フォウレの里の民がおののく中、ディアンが何があったのか説明する。

 

墓は此奴の口の中も同然になっていたこと。

 

入るや否や、四方八方から触手を伸ばして襲いかかってきたこと。

 

これでは正体が分からないのも当然だったことも。

 

墓は滅茶苦茶に荒らされていた事も。

 

全ての説明を聞くと、験者はそうかと、悲しげにため息をついていた。

 

そもそも先祖が使っていた場所だ。里から離れるのも仕方がない。そう考えて、あんな危険な墓所を使っていたのだと験者は言う。

 

だが、それは人を殺して良い理由にはならない。

 

あたしはそう言いたい。

 

だが、験者自身が、そう言った。

 

「良い機会だ。 今後、墓の位置は移動する。 魔物が全て壊してしまったのだ。 機具を返す場所は、別の場所にして、手入れもこまめに行う事にしよう」

 

「そもそも不信心だから魔物なんかが出るのだ!」

 

「魔物が出るとしても、エサになるのも運命の一つ! それ以上に信仰を大切にせねばならないのだ!」

 

「黙れ分からず屋!」

 

ディアンが好き放題言う老人に反論するが。

 

当然相手も引かない。

 

一触即発の空気になった瞬間、ドカンと里の真ん中で炸裂音がしていた。

 

デアドラさんが。身の丈ほどもある大斧で、地面をブチ割ったのである。

 

この人、こんなパワーファイターだったのか。何回か戦う所は見たが、初めてこれは見た。

 

恐らく普段は使わない戦闘スタイルなのだろうが。

 

デアドラさんは、完全に目が据わっていた。

 

「ディアン、続けろ」

 

「……分かった」

 

ディアンも若干青ざめている。

 

デアドラさんの怖さを知り尽くしているのはディアンだろう。まさかこういう意味で怖いとはあたしもちょっと想定外だったが。

 

この人、パワーに関しては多分レント以上だ。

 

アガーテ姉さんみたいな緻密な戦闘技術は持っていないだろうが、充分に互角にやりあえるだろう。

 

感心していると、ディアンは言う。

 

「験者様。 種拾いの戦士達とライザ姉と一緒に、お墓を移す作業をしたい。 許可を貰えないか」

 

「分かった。 好きにせよ。 ライザ殿、護衛を頼めるか」

 

「承りました。 それより、良いんですか」

 

苦笑い。

 

老人達が完全に萎縮している。

 

これはデアドラさんが、この村を実質上裏から仕切っているから、とみて良いのだろうか。良いのだろう。

 

いずれにしても、これは怖さを見せつける方法の一つだ。

 

それに、デアドラさんもいい加減腹に据えかねていたのだろう。カチキレるのもよく分かる。

 

「じゃあ、種拾いのみんな、来てくれ。 墓までの道は、魔物に待ち伏せもされて安全じゃなかった。 そもそも、彼処を墓にするのはもう無理だったんだ」

 

「確かにこんな……巨大マンドレイクに勝るとも劣らない奴が住み着いていたんじゃ、死にに行くようなものだ」

 

「俺の兄弟も此奴に……」

 

「何処かに亡骸の一部くらいあるかも知れない。 後で調べて見よう」

 

あたしは引率を担当。

 

死体は残った里の人間が捌いて調べるそうだ。

 

沼地を護衛しながら行く。戦闘経験はある種拾いの戦士達だが、度重なる凶事でベテランが多く戦死して、力は落ちている。

 

いずれあの墓場には、死ぬために行く事になっていたのだろう。

 

それは論外だ。

 

墓は人の行き着く先ではあるけれど。

 

それは死にに行く場所ではない。

 

人を弔う場所ではあるけれども。

 

そこで死ぬための場所では無いのだ。どんな立派な信仰でも、命を捨てさせるのはそれは明快に悪習である。

 

現地に到着。

 

あの魔物はほとんどディアン一人で倒したという話をすると、戦闘跡を見て誰もが青ざめる。これほどの戦士に成長していたのかと、驚いているのだろう。この世界には、図抜けた力を持つ戦士がいるが、ディアンもそうなりつつある。

 

一方で、触手をなで切りにしたとパティをディアンが褒めて。パティはそのくらいしか手伝っていませんと謙遜。

 

素直に自分だけが戦ったんじゃないと口に出来るディアンは素直だし、立派だ。何があっても非を認められないような輩より余程優れている。

 

ともかく、雨が来ると面倒だ。

 

荷車に分乗して、墓の跡地を運び出していく。

 

移設先は新しく里を作る空き地の側だ。これについては以前見つけた場所で、墓を作るのにも丁度良い。

 

先祖だって、こんな有様で放置されるよりも。

 

運び出して貰った方が嬉しいはずだ。ましてや、里の側だったら、子孫を見守る事も出来るだろう。

 

少なくともあたしだったら、その方が嬉しい。

 

何往復かいるな。

 

そう思いながら、淡々と作業。雨が来るとカラさんが予告して、さっさと森に逃げ込む。滝のようなスコールをやり過ごしてから、森を抜ける。凄まじい雨には、魔物さえ閉口して、動こうとしない。

 

里の側で、運び出したよく分からないものを引き渡す。

 

老人達ももう流石に文句を言う気にはなれないのだろう。

 

験者も決めたことだ。

 

後は淡々と作業をする。捨てられた機具も、直せば使えそうなのだが。これらは、ここで眠らせてしまう方が良いのかも知れない。

 

新しい墓は、空き地の側に塚を作って、その中にするようだ。新しい里のすぐ側だし、流石に魔物が入り込まないようにしっかり見張ることができるだろう。墓を作るのは、あたしも協力する。

 

土木作業の類は得意だ。

 

セリさんも、辺りの地盤を固めるために、適した植物を出して生やしてくれる。

 

あたしは道路用の建築用接着剤を使い、土木作業の後は墓に入る入口周りを丁寧に固めて置く。

 

ある程度作業が一段落した所で、もとの墓に戻る。

 

まだまだ回収しなければならないものはたくさんあるのだから。

 

往復しながら、ディアンが言う。

 

「験者様にさっき許可を貰ってる。 機具の一つの金属は、ライザ姉に提供しても良いって話だ」

 

「でも、あれって祖先の魂が篭もった物扱いじゃないの」

 

「験者様に聞いたんだけれど、秘伝として作り方を伝えているうちに、一部の技術は失われてしまったんだ」

 

「ああ、そういう」

 

つまりその後、工夫を重ねて何から何までやったというわけだ。それは確かに、先祖の魂なんか入っていない。

 

というか、それが優れた金属になっているのだとすると。

 

先祖以上のものを、偶然作り出せたことになる。

 

ただ、製法は教えられないという。

 

別にかまわない。

 

それはフォウレにとっての中核技術だ。解析すれば分かってしまうだろうが、それについてどうこういうつもりもない。

 

古い墓から、遺物を運び出していく。

 

骨を見つけた。

 

此処で力尽きた人らしい。かなり古いものだ。

 

あの魔物に食われた訳では無いな。骨の状態を見る限り、もっとずっと古い骨である。フォウレの里にある普通の墓所に葬ると種拾いの戦士達は言う。それがいいと思う。家の近くで眠る方が、この骨の人も嬉しいだろう。

 

墓が崩れかけているので、セリさんが植物魔術で補強。

 

暗くても平気な覇王樹で柱を、枝を張り巡らせて天井を。外にも多数の植物を生やして地盤を補強。

 

崩落が起きないようにする。

 

ただし、その過程でセリさんは手一杯になる。

 

凄い植物魔術を見て、種拾いの戦士達も息を呑み。そそくさと作業を進めていく。レントが言われた通り、大きな遺物を運んで行くのを横目に、あたしは墓を観察して行く。

 

魔物のエサ場にされていただけあって、酷い有様だけれども。

 

ただ、何もかもが荒らされ尽くしていた訳でもない。

 

奥の方には祭壇がある。

 

元は此処で何かしらの儀式を行っていたんだろう。

 

タオを呼んで見てもらう。

 

タオも同じように墓を見て分析していたのだが。祭壇を見て、書かれている文字が知らないものだと即答していた。

 

「城で見た文字とも違うねこれは」

 

「ああ、それは儀式の時なんかに使われる文字なんだよ。 神々の言葉なんて言われてるが、それ以上は分からない」

 

「混沌の時代のものかな」

 

「そうかも知れないね。 神代の前の「冬」で、多分人間の文化はあらかた失われてしまったのだと思う。 旅の人が復興を進める中で、僅かだけ文化が残ったのだとすると……」

 

多分この文字の意味は。

 

フォウレの里の人にも、分からないのだろう。

 

祭壇も土台ごと取り外して持ち帰る。新しい墓の前で、験者さんの許可を得て、祭壇は綺麗に作り直す。

 

石造りの祭壇だから、錬金釜に入れて、再構築がてらに補修してしまえばそれでおしまいである。

 

文字はすり減っているが、そのまま残しておく。

 

なお、作業前にちゃっかりタオが写しを取っていた。この辺りは、本当に色々ちゃっかりしている。

 

大きめの長い石と、丸い石を二つ重ねて作った素朴な祭壇だ。

 

直すのは難しく無く、ぴかぴかになったのを見て験者も喜んでいた。

 

「やはり神の御技だな」

 

「いいえ、錬金術です。 壊れにくくなるように手を入れましょうか」

 

「いや、これで充分だ。 これで寿命も延びたのだ。 この後壊れるようであったら、それは後の世代のフォウレの里の民の責任だ」

 

「魔物に壊されなくて良かった。 俺は里の因習は大嫌いだったけど、これはなんか、そういう言葉でひとくくりにされていいものじゃないと思う」

 

ディアンが呟く。

 

確かにそれはそうだ。

 

神代の錬金術師の侵攻から命がけで守ったものなのだ。

 

刻まれている文字には、意味がある可能性が高い。

 

何かしら、重要な言葉などは伝わっていないかと聞くタオ。験者は、少しだけ考え込んでから、小声で伝えていた。

 

タオは頷くと、それもメモを取る。

 

祭壇に刻まれているのと、同じ意味である可能性が高いからだろう。解読を行う時に、役立つかも知れない。

 

この様子だと、世界で共通している言葉は、旅の人が広めたものだと考えて良さそうである。

 

ただしそれも一旦共通言語が広まったあと、何かしらの理由で派生の言葉ができていったのだろう。

 

それが神代の言葉と今の言葉。

 

それまでにもあった言葉。

 

それで、会話が難しく無いのも説明できる。

 

そういう観点だと、この祭壇に書かれていた言葉が、「冬」以前のものだとすれば。これ以上もないほどの、考古学的価値があることになる。

 

コレ一つで論文を書けそうだと、タオは嬉しそうにしていた。

 

また古い墓に出向く。

 

雑多なものも、全て回収する。

 

隅々まで調べると、やはり魔物に破壊された痕跡がどうしてもある。そして。

 

あっと、種拾いの一人が声を上げた。

 

其処にあったのは、間違いない。

 

魔物の糞だ。

 

此処をエサ場にしていたあの魔物が、食った物を吐き出すタイプの原始的生物が巨大化したものだったらという仮説を立てたが。

 

それは当たっていたことになる。

 

糞は巨大で、四抱えもあり。

 

明らかに、人骨を多数含んでいるのが分かった。

 

黙祷する。

 

それから崩して、まとめて持ち帰る。

 

髪の毛や、装飾品の残骸などの遺品も明らかにあったし。骨もかなり綺麗な形で残っていた。

 

ある程度死を覚悟してここに来ていただろうけれども。

 

それはそれで悲しい。

 

ディアンが、あっと汚れきった髪飾りを見て叫ぶ。

 

そして、拳を固めて俯いていた。

 

以前、口にしていた此処で死んだ人のものかもしれない。

 

だとすれば、あたしには何も言う事は出来ない。

 

カラさんが、外に運ぶように指示。あたしも頷くと、外に糞の山を運び出して、戦場の魔術を使う。

 

カラさんが水魔術を用い。

 

あたしが消毒する。

 

その過程で汚物は全て落としてしまう。運ぶ際には、大きめのシートを用いて、それでまとめて運び出した。

 

一気に洗浄しきると、其処には多量の骨と遺品が残った。

 

これは、里に連れて帰ろう。

 

あの魔物だって、ただエサを食べていただけに過ぎない。神代の錬金術師のような悪意を持って全てを奪っていたわけじゃない。

 

原始的な生物ならなおさらだ。

 

わかり合えない相手だが、ただそれだけ。

 

あたしは、憎む気にはもうなれなかった。

 

殺されて、殺して。それでおしまいだ。

 

大量の遺骨と遺品を、フォウレに持ち帰る。他の魔物のものらしい骨もあったが、それをわざわざ分けるのも難しい。

 

途中でクリフォードさんが奇襲を察知。

 

大人数で動いているのを見て、仕掛ける好機と判断したのかも知れない。沼地から、巨大なワニが躍りかかってきたが。

 

ディアンが無言で口を掴むと、鋭い叫び声とともに放り投げていた。

 

これは、腕力という観点でも一皮剥けたか。

 

レントと同等くらいまで、腕力を上げてきたかも知れない。

 

色々あって吹っ切れたのもあるが、それ以上に魔術での身体強化のコツを掴んだのかも知れない。

 

あの狂戦士形態の部分的な使用というか。

 

コツを掴んだのなら、今後とても頼りになりそうだ。

 

「一昨日来いドアホ!」

 

遠くでドボンと水に落ちたワニは、大慌てで逃げていく。種拾いの戦士達は、みんな感心していた。

 

これは次の験者はデアドラではなくてディアンか。

 

そんな声もあった。

 

だけれども、ディアンは何も言わない。

 

旅をすればするほど、ディアンは成長している。そんな考えは、持ちたくないのかも知れなかった。

 

 

 

大量の遺骨を荼毘に付す。

 

何代ぶんかの験者や、その護衛として墓に出向いた種拾いの戦士のものもある。フォウレの里の最大級の葬儀を行い、一晩中何かしらの儀式をしていた。

 

あたしは基本的に加わるつもりは無い。

 

ディアンは加わるらしいので、好きにさせる。

 

タオとクリフォードさん、アンペルさんには資料の解読を進めてもらい。あたしは約束通り貰った金属を調査に掛かっていた。

 

クラウディアが黙々と料理を作り、パティとフェデリーカが手伝っている。

 

流石に人の死は見慣れたけれど。

 

それでも、あの末路は色々思うところもあった。

 

密林で、強大な魔物がたくさんいて。その中で暮らしているのだ。

 

どんだけ悲惨な死に方をしても不思議では無い。

 

それでも、人間としての尊厳を微塵も感じさせない死に方を見てしまうと。やはり考えてしまう。

 

「ライザ、分かりそうか」

 

「うん。 これは本当に偶然で生じた金属なんだ」

 

ボオスに答える。

 

解析してみて分かったのは、こんな組み合わせもあるんだなという驚きの結果だった。

 

使っている金属は、どれもその辺にあるものばかりだ。

 

それが比率をこの金属のようにして混ぜ合わせ。

 

更に一定の熱で焼成すると、とんでもない硬度と何より柔軟性を持つ。これこそ、求めていた素材だ。

 

古い機具に使われていた中核部品も硬度が高かったようだが、それとは別方向で優れた金属だ。

 

それの発展型と言うべきか。

 

いずれにしても、フォウレの里の民は。この点だけは先祖を超えたのである。

 

それについては、ディアンには話しておくつもりだ。

 

後にディアンが験者になった時に、それを里の皆に話せば良い。

 

見た所、恐らくはディアンは次の種拾いの長だ。次の験者はデアドラさんとみて良いだろう。

 

実際デアドラさんの手腕は凄まじく。

 

あれだけ五月蠅く騒いでいた老人共が。デアドラさんが怒った瞬間ぴたりと黙り込んだほどだ。

 

験者の適性は、今の験者より上かも知れない。

 

ちょっと私生活がだらしないらしいが、そんなものは周囲の人が支えれば良いだけの事である。

 

いずれにしても、この金属は素晴らしい。

 

明日には実験ができるとみて良いだろう。

 

鍵の更なる強化。

 

それによって、恐らく空間を渡ることだけではない。世界を渡ることが可能になるはずである。

 

最後に必要なのは座標。

 

奴らの、神代の本拠地に関する座標だ。

 

何処かしらにそれを残していないとは思えない。オーリムで敗れ去った神代の連中は、当然あの自然門からいけないように本拠の座標を変えたはずだが。

 

それでも、何処かしらにヒントを残しているはず。

 

或いはだが。

 

ウィンドルに、フィルフサに占拠されている遺跡があったということだが、其処が有望かも知れない。

 

幸いなことに、此処からウィンドルはすぐに向かう事が可能である。

 

調査ついでに、ウィンドルからこっちへ門を開いてみて。

 

それで全てのアトリエを、自在に行き来できるように出来るかもしれなかった。

 

自分でも、機具の金属を再現する。

 

知ってしまえば再現は難しくは無い。

 

ディアンが戻って来た。あたしが早速金属を再現して、それをインゴットにして加工しているのを見て。だが驚かなかった。

 

「ライザ姉は流石だなあ。 もう再現してる」

 

「技術ってものは、殆どの場合理解してしまえば再現は難しく無いんだよ。 難しいのは、新しく作り出す事なんだ」

 

「だからどこでも秘伝は隠すんだ」

 

「そうか。 タオさんも凄いな。 俺みたいに感覚でしかわからない事を、ちゃんと分かりやすく説明してくれる」

 

ディアンは座ると、夕食に混ざる。

 

あたしもそろそろ混ざるか。

 

ただ、鍵のコーティングまでやるのが先だ。

 

その作業は、別に難しくもない。これで粘性を持った上に、強度まで持った鍵が完成である。

 

素晴らしい。

 

試すのは、ウィンドルのアトリエでだ。

 

夕食に混ざる。

 

今日はごちそうということで、羊の肉を贅沢に使っている。がつがつと食べていると、クラウディアが嬉しそうである。

 

美味しく食べてくれれば、それで満足と言う奴だ。

 

「ライザ、それで上手く行きそう?」

 

「うん、問題なし。 次はウィンドルで、鍵の実験をする。 後は座標だけれど……」

 

「座標についてはやっぱりまだデータが欲しい。 一つの数字は解明できた。 あと一つがまだ不確定なんだ」

 

「確かに、海底とかに門ができたら、とんでもないことになるからな」

 

クリフォードさんが言う。

 

その通りだ。

 

こればかりは、慎重を期さないといけない。

 

順番に、残りの課題を説明する。

 

ウィンドルで門の試験。世界を渡ることが可能になったか、確認をする。

 

続いて座標の収集。ウィンドル周辺のフィルフサの群れはだいぶ減らしたが、それでもまだまだいる。

 

それらを一度駆逐し尽くしたい。

 

幸い長年の奏波氏族との戦いで、どのフィルフサの群れも弱体化している。その上、ウィンドルは自然に雨も降る。

 

フィルフサが全力でパフォーマンスを発揮できない理由だ。

 

そして駆逐した後、各地の座標を収集する。

 

グリムドルでも座標は集めたが、ウィンドルでも集める事で、更に有用なデータになるだろう。

 

最後の目標は、奴らの根拠地の場所についての確認だ。

 

クーケン島近郊の群島の奧の宮殿。彼処にある門に鍵を差せば解決、くらいの問題であれば楽だったのだが。

 

そうも行かないだろうな。

 

神代が終わってから何度も何度も彼処には錬金術師が来た。直近ではアンペルさんと因縁のあるエミルだが。

 

そのエミルにしても、恐らく奴らの根拠地には到達出来なかったはずだ。

 

だが、全員が到達出来なかったのだろうか。

 

神代から古代クリント王国が統一を果たすまでの戦乱で、多くの知識や技術が失われていった。

 

これは神代鎧の劣化コピーである幽霊鎧が、時代を降る度に性能が落ちていくのを見ても明らかだ。

 

だから古代クリント王国の錬金術師共は模倣に躍起になったようだし。

 

群島にも来た。

 

笑止なことに攻略はできなかったようだが。

 

逆に言うと割拠の時代を勝ち残った集団であっても、既に攻略が出来ない程に、知識が失われていたと言うことだ。

 

「恐らく、神代の連中は研究施設をまだまだ残してる。 それらから情報を集めたい。 一つはフィルフサが住み着いているらしい遺跡。 何の理由もなく、フィルフサが占拠しているとは思えない」

 

「それはその通りだな」

 

「確か蝕みの女王も、古代クリント王国の研究施設を占拠していたよね。 あれは古代クリント王国の錬金術師達が命令したことが、歪んで伝わった結果かも知れない。 劣化品の狂気の源泉は上手く働かなかったみたいだし」

 

「神代の錬金術師が同じ事をしたとすれば、フィルフサは重要施設の番犬となっている可能性が高い。 それも遺跡に篭もっていると言う事は攻城戦だ。 厄介だよ」

 

当然だが、神代鎧が出てくる可能性もある。

 

神代鎧を作る錬金術師達は格下扱いされていたようだが、だから逆に使い捨ての雑兵として神代鎧の配備が進んでいた可能性もある。

 

非常にそれはまずい。

 

今でも彼奴らは極めて手強い。

 

世界を更地にするのには適していないかも知れないが。あの神代鎧は、兵器としては傑作である。間違いなく。

 

今のあたし達でも、毎度手傷を負わされるのだから。

 

レントがばんと、胸の前で手を合わせる。

 

「いずれにしても、ウィンドルでの戦いが山場になりそうだな」

 

「少しは楽に行くと良いんだが」

 

「今更だ、腹くくれ」

 

「分かっている」

 

ぼやくボオスに、レントがそう言う。

 

フェデリーカが挙手。

 

一つ、確認したい事があるという。

 

「ええと、それで。 もしも神代の錬金術師が生きていたとして、そのいる場所に辿りついたら……」

 

「皆殺し」

 

「は、はい」

 

「錬金術師はね」

 

千年姿を見せていない連中だが、この様子だと性根なんて変わっているはずがない。全員蹴り砕いて塵芥に帰す。

 

ただ、錬金術師以外の子供やらは別に手を出す気はない。

 

「奴らの作った腐った宮殿も全て焼き払う。 以上」

 

「私も、正直許せないとはずっと思っています。 でも、ライザさん、凄くこの件になると怖いですね」

 

「そうだね。 あたしもまだまだ正義感は強いらしい。 実際連中の凶行には、ハラワタが煮えくりかえる」

 

「それは僕も同じかな。 学者として神代のあり方は絶対に許せない」

 

タオも同意か。

 

まあ、全員に同意して貰わなくても別に良い。

 

ただ、許さないのは許さない。

 

二つの世界を滅茶苦茶にしたけじめは、取って貰う。ただそれだけの話である。

 

「正直な。 俺はロマンを求めて各地の遺跡を冒険しているんだが、神代の遺跡には色々と思うところが多いんだ。 本当に彼奴ら、自分達以外の存在を人間と思っていないし、命を弄ぶ事をなんともおもわねえ。 だから、俺は積極的に皆殺しにしようとは思わないが、それでもライザを止める気はねえな」

 

クリフォードさんもそんな風に言う。

 

パティは、咳払いする。

 

「神代のやり方は統治者としてはやってはいけないことの見本ですね。 私は反面教師にさせて貰うだけです。 今後アーベルハイムが主軸になってロテスヴァッサを統治していく以上、この旅で見た神代の悪行の限りとその結果は、末代まで語り継ぐつもりです」

 

「……」

 

フェデリーカが黙り込む。

 

クラウディアが、助け船を出した。

 

「何かしら言いたいことがあるならいってみて。 此処にいるみなは、わいわい囃し立てたりはしないわ」

 

「……。 私は、単純に技術だけは興味があります。 それを作り出した人達が、極悪人というのも生やさしい存在だったとしても」

 

「それはあたしも同じだよ」

 

そうですかと、フェデリーカはちょっとだけ安心したように言った。

 

とりあえず、これで方針の確認は終わりだ。

 

皆、早めに休んで貰う。

 

フォウレの里は、これで一段落がついた。後は、ウィンドルでの調査をする。

 

そしてそれでもどうにもならなかったら、最終的にクーケン島の群島で調査をして。それで活路を探す。

 

それでもダメだったら、資料の見直しかな。

 

いずれにしても、奴らは「正解」を絶対に残しているはずだ。

 

そういう連中だからだ。

 

そして「正解」に辿りついた錬金術師が。「奴らの仲間に加えていただいた」可能性は極めて低いとあたしは考えている。

 

そもそも自分達以外は劣等血統なんて言って、人間と見なしていないような連中である。

 

神代鎧があれだけ優れた兵器であるのに、地位が低い錬金術師が作ったという理由で、その価値を低く見積もっていたようなやつばらだ。

 

それが、今更野から出て来た錬金術師を厚遇したり、まさか自分達の席に加える筈がない。

 

良くて新しい技術を持っていたら搾取して殺す。

 

悪ければ、余計な可能性を秘めている相手は早めに芽を摘むためにその場で殺す。

 

要するに、招かれた錬金術師は鏖殺されてしまっているだろう。神と崇拝していた相手に。

 

悲しい話だが。

 

いや、そうともいえないが。

 

クーケン島で残されていた手記を見る限り、どいつもこいつも神代の錬金術師と大差ない連中だった。

 

ああなっては、いけないのだ。

 

ベッドで横になって、明日からの具体的な行動案を幾つか考えておく。ウィンドルの奏波氏族との連携は必須だ。

 

フィルフサの群れは相互連携しない。

 

勿論その存在目的が目的だから、互いにつぶし合うようなこともないだろうが。

 

いずれにしても、総力を挙げて王種を一体ずつ討ち取り、その戦力を削って行くことが肝要だ。

 

最初に遺跡を攻めるか。

 

いや。まずは安全確保からだろう。ウィンドル周辺のフィルフサの群れの内、居場所がわかりやすい連中から叩き潰し。

 

それが終わってから、強力な群れを粉砕しに行く。

 

確か遺跡にいる奴らの他、西にちょっと所在が分からない群れがあると聞く。研究所があって、それを守っている群れかも知れない。

 

まあいい。

 

全て叩き潰せばいいだけのことだ。

 

寝る事にする。

 

夢は、見なかった。







状況証拠が揃っていきます。

神代に招かれた錬金術師の末路も。

既にライザには分かってしまっていました。
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