暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
フォウレの里での色々も片がつきました。
調査も大詰め。
ついにウィンドルに向かう事になります。その前に、フォウレでの最後にやるべき事を片付ける必要がありますが。
序、受勲
今日は一日それぞれ好きに過ごす。まあ調整が上手く行かなかったのだし、何よりも皆それぞれに事情もある。
リラさんはゆっくり寝て過ごすと言ってソファで猫になっているし。
セリさんは例の植物の改良をアトリエの側でひたすらに進めている。なんだかうねうね動いている植物に囲まれているから、まんま魔女だ。
クラウディアはフェデリーカをつれて港町に。
バレンツで用事があると言っていた。朝聞いたところ、東の地で大口の仕事が取れそうなのだとか。
かなりの量の絹が仕入れられそうということで。
商売の中間点になるらしいサルドニカ代表のフェデリーカも一緒に行っている様子だ。
ボオスは今日は鉱山街に出向いて、其方で調整。
レントは鍛錬をずっとパティとするつもりらしい。ただ、朝一だけはダメだとパティは断っていた。理由はディアンの用事があるからである。
アンペルさんたちはずっと本とにらめっこ。一秒でも無駄にできないという勢いで、資料を読みふけっている。今日はそれにカラさんも協力。回復魔術での支援を行うようである。
目もずっと使いっぱなしになる。
妥当な行動だ。
ただし、小妖精の森のアトリエでだ。
彼処のアトリエは、近々守りを固めるつもりだ。
下手な守りだと、彼処に保管した様々な資料を守りきれない可能性がある。今後、あたしも長期間留守にする可能性があるし。
破落戸や与太者が万が一侵入に成功した場合。
とんでもない災禍が起きる可能性があるからだ。
さて、あたしはというと。
以前験者に頼まれたものを持って、験者屋敷に。ディアンと一緒に出向く。
パティも来てくれるので心強い。
あたしだって、心臓にだいぶ毛が生えているとは思うけれども。それでも人の晴れ舞台を台無しにしたりはできないのだ。
フォウレの里は活気づいている。
改良された機具を持ち出す里の民。港町に売りに行くのだ。
港町では、それを古い機具と取り替える。
持ち帰った古い機具は、以前アンペルさんとあたしで開発したやり方に沿って改良する。こうすることで、信頼を更に高めて。今まで使い捨てだった機具をそうさせないという意味もある。
今後は機具は、ずっと長持ちするし。
捨てに行く事もないのである。
験者屋敷では、デアドラさんが待っていた。
付き添いかと聞かれたので、そうですと答えると。そうかと、少しだけ嬉しそうにしていた。
こういう仲の人間が、しかも里の外で。ディアンにできるとは、思っていなかったのかも知れない。
奥の部屋で、験者様が待っていると言われる。
ディアンは頷くと、今日も元気が良い。
「験者様、入って良いか」
「ああ、入ってくれ。 ライザ殿とパティ殿も」
「ではお邪魔します」
ディアンはもう用事は分かっているようだが。
デアドラさんも部屋に入った所で、本題に入る。
まずあたしから、験者に渡すのは、首飾りだ。
ただしハイチタニウムとグランツオルゲンを要所に用いている。一方、ネックレスで吊しているのは獣の爪だ。
大きな獣の爪。
ディアンが倒した獣のものだと言われて、験者に渡された。
それを加工した。
今のあたしには、そう難しいものではない。
「ディアン、ライザ殿らの助けがあったとは言え、ここしばらくの活躍は実に見事だった。 特に先祖の墓を荒らしていた魔物を撃ち倒し、先祖の尊厳を守った活躍は特記に値する」
「お、おう」
「これよりディアン。 お前を次代の種拾いの長に任命する。 ライザ殿の用事が終わってフォウレの里に戻り次第、種拾いの二番槍として活躍するように」
種拾いの長は。
普通、次の験者になる。
今の験者は状況が特殊だったから、そうはならなかった。世界を旅してきて、人材がいないところで験者になった。
苦労の時代を過ごしたと聞かされている。
まだベテランの戦士達が多く生きていたとは言え、魔郷と言って良いネメドの森の側で暮らしていたのだ。
それは大変だっただろう。
しかも竜風の時期が近付いていたのだ。
ああでもこうでもないと堂々巡りの愚かしい議論を続けている老人達をどうにか調整して。
フォウレの里が生きていくために、外と交流だってしなければならない。
フォウレの里に住まうのは迫害されて世界を放浪した民だ。
どうしても排他的になる皆を、説得だってしなければならなかっただろう。その苦労は、想像以上だった筈だ。
恰幅が良い験者は体格がいいが、見た目以上に老けているのも、苦労が体を痛めつけたからだろう。
それを敢えて此処で言うつもりは無い。
「デアドラ、次の験者として指名する。 私の仕事を今日より教える。 忙しくなるが、できるだけ早く学び終えて欲しい」
「はっ」
「やったなデアドラ姉!」
「お前もだディアン」
あたしの手から、ネックレスを掛けてあげる。
これは、強力な魔術を掛けてある。魔術の内容は制御だ。
例の狂戦士状態を制御しやすくするためのもの。それに、ハイチタニウムとグランツオルゲンだから簡単に壊れる事もない。
ディアンはネックレスを身に付けると、外に出て歓喜を爆発させていた。
誰もディアンの次期種拾いの長就任を、批難はしないだろう。
ディアンが倒した墓荒らしの魔物の巨大さは、誰もが認めるものなのだ。あいつは実の所そこまで強い相手ではなかったが。それもあくまで比較しての話。
今のフォウレの里の種拾いの戦士達では。
倒すのまでに、大きな被害を出して。それでも倒し切れるかは分からなかっただろう。
「ライザ殿」
ディアンが出て行ってから、験者が居住まいを立たす。
あたしも立ち会いのパティも敬礼する。
「暴れるばかりだったあの子が、今では里の希望になっている。 他人への敬意を覚え、貪欲に学ぶ事も出来る様になり、それどころか里を大事にも思ってくれるようになった。 全ては貴方たちのおかげだ」
「ありがとうございます。 あたしもディアンには随分と助けられています」
「そうか。 ライザ殿の敵が、悪鬼にも劣る畜生だと言う事は聞いている。 くれぐれも、生きて帰ってくれ」
そうだな。
最低でも、皆は生かして返さないといけない。
あたしと行動を共にしているのは、人類の中でも最強の戦士達だ。皆が倒れると、後がないのである。
今までも強敵との戦闘が続いたが、ウィンドルに渡るとフィルフサとの全面戦闘になるだろう。
それも複数の群れと連戦する可能性もある。
今の時点で分かっているだけでも、ウィンドルの周囲にはまだフィルフサの群れが複数健在なのだ。
ウィンドルを離れてから、また数が増えている可能性だって否定出来ない。
つまり、油断は一切出来ない、ということだ。
験者屋敷を出る。
フォウレの里は、典型的な因習の地だったと思う。
だけれども、験者もデアドラさんも、何よりその後を継ぐディアンも。因習に飲まれることを可としない。
竜風で吹き飛ぶこともこれからはない。
それを思うと、きっとフォウレの里の未来は明るい。
何かのボタンが掛け違わない限りは。
フォウレの里は大丈夫だとみて良いだろう。
アトリエの前で、二人と一旦別れる。二人とも、レントと乱取りをして鍛えるつもりであるらしい。
あたしはこれから、装備の再調整だ。
薬は充分にあるが、それでもいざという時になると足りない。東の地では幾らでも必要になったように。
今後、バレンツが販路を管理するとなると、それこそなんぼでも売れるだろう。
バカみたいな値段で横流しとかされないように、しっかり管理もしないといけない。届くべき人の場所に薬がいかなければ意味がないのだ。
その辺りは、バレンツにしっかりやってもらう必要がある。
クラウディアがまとめている間は大丈夫だろうと思うが。
クラウディアの子孫にまでは、あたしは期待していない。
その辺りはシビアに考えなければいけない。そうでなければ、神代と同じになる。
「ライザ、ちょっといい?」
「どうしたの?」
声を掛けて来たのはタオだ。
幾つかの資料を見ていて、気になる記述を見つけたそうだ。それによると、そもそも座標を集める「星図」は、門の位置を正確に知るために作り出したもので。
ドラゴンがこの世界に渡る時に作り出した自然門の位置を割り出すために作り出されたものなのだとか。
今までも自然門は幾つか見つかっていたらしいがいずれも短時間で消えてしまっていたため。
安定した強力な自然門を探すために、星図は作られたのだという。
「そっか、因果関係が逆なのか。 この星図を使って、神代は門を……ウィンドルの側にある、もっともドラゴンが利用する竜脈と門のある場所を探し出したんだね」
「そうなるね。 此処に神代が来たのは、偶然では無かったって事だよ」
「その話を聞く限り、奴らは最初から来るべくして来たのじゃな」
「そうなりますね。 ですが、二度は同じ事を起こさせないようにしましょう」
カラさんに、そう答えておく。
神代を叩き潰した後は、監視者が必要になる。
まだ神代が扱ったような技術を使うには、人間はあらゆる意味で未熟すぎるのだ。だから混沌の時代とやらは、「冬」を起こしたのだろうし。
人間だった神代の錬金術師は、徹底的に堕落した。
人間はきっと成長できるなんて無責任な言葉は、あたしは許さない。
何より、この世界はもう「冬」を引き起こした惨禍や、神代の錬金術師や古代クリント王国がやらかした破綻に耐えられないだろう。
古代クリント王国にしても、資源がなくなっているから余所に奪いに行った事情もあるかも知れないが。
そんなものは自分で解決するべき問題であって。
他人から奪うべきでは無い。
ましてや自業自得でこの世界はこうなっているのだから。
幾つか話をしながら、星図に調整を加えていく。
タオが見つけてくれた図面で、それだけで分かる。今まで座標を回収するシステムだった星図だが。
確かにこれの機能は、座標回収よりも発見用の探知装置だったのだと分かる。こういう技術はどうにもならない部分が多いが。
理解できれば、なる程となる。
そうすれば後は簡単だ。
調整を行っておく。
今日はせっかくだから、有意義に使うべきだろうとあたしは思った。
パティがレントさんと一緒に、ディアンとフェデリーカを相手に乱取りをする。フェデリーカはクラウディアさんと戻って来てから、すぐに乱取りに参加した。
パティとしても、ディアンは戦士として充分に強いと思うのだが。確かに防御と回避が下手だ。
人間レベルの相手なら、それでいいだろう。
対人戦が極めて優先度が低くなっている今の時代は、そこまで対人戦は必要ないのだと思う。
タオさんに資料を見せてもらったが、古代クリント王国までは如何に人を殺すかの武術が山のようにあった。
ライザさんのフォトンパイルブレイクを見てぞっとしたのだが。
ああいうレベルの殺意全開の武術は、古代クリント王国まではたくさんあったのだ。何しろ需要があったのだから。
それは人間が共食いをしているのと何が違うのだろう。
パティとしては、外敵と戦うための武術は欲しいけれど。人間を如何に効率よく殺すか追求した武術なんて欲しく無い。
レントさんが、ディアンの猛攻を余裕を持って凌いでいる。多分レントさんのパワーとディアンのパワーはもうそれほど変わらない筈だ。
特にディアンは一時的に全身のリミッターを外す狂戦士モードとライザさんが呼んでいる状態を、短時間だが制御出来るようになってきている。
パワーだけならもうレントさんより上かも知れない。
だけれども、レントさんが余裕を持って攻撃を凌いでいる手腕は凄い。
パティは今日は大太刀ではなくて、魔物がよく使うような触手を想定して、長柄の武器を持ってきている。
それでフェデリーカを攻める。
しなりを入れながら、鉄扇二枚で守りを固めるフェデリーカに何度も打ち込む。打ち込んで打撲になっては意味がないからインパクトの瞬間は力を抜くが、それにしても。
フェデリーカはどうしても最低でも防御だけはしっかりしたいと言っているが。
常識的な範疇では充分だ。
王都にいる軟弱な騎士では、これより劣るケースがなんぼでもある。パティの攻撃をある程度防げているだけで充分だろう。
周囲から視線を感じる。
種拾いの戦士達も、覚えたいのだろう。
「よし、一度休憩」
レントさんが声を掛ける。
ディアンはちょっと不満そうだったが。狂戦士モードの負担が大きいことは理解出来ているのだろう。
素直に従って、煮沸済の水を飲む。
パティも一度切り上げる。へたり込んだフェデリーカは、真っ青になっていた。
時々ごちそうでも見るような目でフェデリーカを見ているライザさんの視線にぞくりとさせられることがある。
だが、一生懸命なフェデリーカを見ていると。
何となく、その理由がわかる気がする。
ディアンは一撃の打撃力では皆の中でトップになりつつある。レントさんは防御よりだから、余計にだ。
フェデリーカは全員を的確に強化する神楽舞の存在が、戦略的に極めて強力だし、なんなら遠距離での大技も持っている。
弱点強化よりも、長所を伸ばせば良いのにとパティは思うのだが。
移動などで音を上げたり。
防御の判断が甘くて首を飛ばされかけた例が何度かあったので。
フェデリーカも気にしているのだろう。
少し休んでから、軽く話をする。レントさんはディアンに色々とアドバイスをしていて。ディアンも大まじめに聞いている。
クソガキだったディアンはもうおらず。
何事にも大まじめな一人前の戦士になりつつある、ということだ。
デアドラさんが験者を引退する頃には、立派な験者になれる戦士になっているだろう。そうパティも思う。
その時は改革を終えて多分国名も変わるロテスヴァッサから正式に使者を出して。
もっと交友を強化したいところである。
フェデリーカは、休むので精一杯で、話を聞く余裕も無さそうだ。
遠出、遠距離での旅は慣れていても。
流石にライザさんに着いていくのは厳しい。
それはパティも分かっているので。
へたばっているフェデリーカを責めるつもりはない。
しばし休んでから、軽くアドバイスをする。
「フェデリーカ、周りを良く確認して、とにかく敵の間合いに入るのを避けるようにしてください」
「私の目、二つしかないんですけど……」
「私だってそうです」
後ろにも目をつけろとか良く言うけれど。
パティの場合は、メイド長が徹底的に鍛えてくれたせいで、五感を磨いてそれに近いことが出来るようになった。
今だったら。
王都を出る前は三本に一本だった乱取りでの勝利が。
五分を超える可能性がある。
あの人も、良く考えて見れば例の一族の中でも上澄みで、ガイアさんに迫る使い手なのかも知れない。
パティの事実上の母だが。
全く年を取らない様子からして、いずれ見た目が逆転するのだろうなと思うと、ちょっと寂しくなる。
「フェデリーカは充分に一人前だと思います。 レントさんとかはもう世代に出るか出ないかの剣士なので、比較対象がおかしいだけです」
「でも、戦闘では役に立てずにいます」
「役に立てています。 神楽舞での力の増強、はっきりいって充分です」
ただ、乱戦だと舞いに集中しているフェデリーカが、敵の間合いに入ってしまうことがままあり。
それで接近攻撃を許すケースがある。
それは確かにいただけないとは言えるが。
しかし、今の時点で充分過ぎる程やれているとパティは思う。
休憩終わり。
乱取り開始。
技術が上がるのがかなり早い。パティもある程度手を抜いてはいるが、使いやすい訳では無い鉄扇で、確実に攻撃を防げるようにはなっている。
ただし、魔物の中には空間攻撃ができる奴もいるし。
そういう奴に当たった時は、もう勘で相手の攻撃を避けていくしかない。
勘という点では、パティもクリフォードさんの絶技には何度も驚かされるばかりで、教わりたいくらいだ。
今教えているのが、申し訳なく思う程に。
「良いですよ。 受ける時はもっと全身で。 左足を引いて、次の動作に備えてみてください」
「ええと」
「今の攻防をゆっくりやりましょう。 この打撃の後、私だったら何手かありますが、フェデリーカを仕留めに行きます。 フェデリーカは次を防御することよりも、間合いから逃れる準備動作をしながら受けてください」
「なるほど、分かりやすいです」
何度かやってみて分かってきた。
そうか、型稽古の経験が違うのか。パティは色々な状態に対する動きを、型稽古で徹底的に叩き込んできた。
型稽古というのは、この時はこうするという見本の集大成で、武術の基礎だ。
フェデリーカはある程度習ってはいるようだが、まだ経験が足りない。そこで、やり方を変える。
こうしたらこうする。その説明を、徹底的に仕込む。
そうすると、フェデリーカの動きが、途端によくなりはじめた。
ディアンもそれを見て、俺も教えてくれというけれど。ディアンのは空中殺法が入ったりするので、ちょっとパティの武術とは系統が違い過ぎる。
何でもありの環境で揉まれたレントさんの方が教えるのは適しているはずだ。
夕方に、一通りやってみる。別に早くなった訳では無いが、フェデリーカは抜群に動きが良くなった。
これは、眠っていた才能を起こしたのか。
いや違う。
今まで戦闘に次ぐ戦闘で、蓄積されていたものが。しっかりした器を得て、一気に膨らんだのだ。
これはうかうかしていられないな。
凄いですと褒めて、それで今日は終わりにする。
次は型稽古は多分いらないだろうな。
そうパティは思った。
ディアンも防御と回避がどんどん上手くなっているようだ。最終決戦が近いと思うのだけれども。
二人とも、まるで力負けしない戦士にその頃はなれているのだろうなと、パティは思った。