暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
例え正体が分かっていたとしても、現時点ではフィルフサとは戦わなければなりません。
ウィンドルに再度訪れたライザがするのは、フィルフサの撃破による安全確保でした。
フォウレの里を後にする。
手を振って送ってくれる種拾いの戦士達。前よりも、明らかに対応が良くなって来ている。
これは色々あったことも理由なのだろう。
ともかく、フォウレの里はこれで竜風が起きても吹き飛ぶこともないし。
魔物の内厄介なのはあらかた片付けたし。
先祖の墓に、命がけで行く事もなくなる。
後はフォウレの里の問題だ。
あたし達で対応できる事はやりつくした。だから、フォウレの里で残りは解決して欲しい。
クーケン島だって今はまだ問題だらけだが。
因習の正体が分かった以上、今の老人達がいなくなる頃には島もずっと暮らしやすくなる筈だ。
ただ、それも永遠ではないだろう。
あたしでも、出来る事は都度やっていかなければならない。
「ようやくウィンドルに戻れるのう」
「そういえばカラさん、ウィンドルとグリムドルはどれくらい距離があるんですか」
「此方の世界と殆ど変わらぬよ」
そっか。
キロさんはもうウィンドルに来ているかも知れないな。
ボオスもそれは悟ったようで。ちょっとバツが悪そうにしている。まあ、周知の事実だし。
子供じゃないのだ。
茶化すつもりもない。
あたしの生き方を他人にまで強要するつもりはないのだ。
ただ、オーレン族との交配には大きなリスクがある。
それは説明をしてあるし。
ボオスもそれはしっかり覚えていると思いたいが。
古城に着く。
前はここに来るのも命がけ判定だったな。
城の中もある程度綺麗にされていて、住み着いている魔物もいなくなっていた。その内、此処は種も尽きるだろう。
そうなった場合は。
この城は、観光地にでもなるかも知れない。
「扉は無事だね。 これは都度開けるようにしようね」
「フィッ!」
「二人とも相変わらずだね。 門への扉、開けるよ。 一応気を付けて」
タオが操作して、門を封じている扉を開ける。
奧には相変わらずの門。
気配でわかっていたが、フィルフサが出て来ていないということは、ウィンドルは無事である。
まずはこれで大丈夫。
門を潜る。
よし、無事だ。オーレン族の戦士達がわらわらと来るが。カラさんが顔を出して、安心したようだった。
「総長老」
側近の二人が来る。
カラさんが、分かっておると先に言った。
「ライザよ、わしは溜まっている仕事を片付けてくる。 その後この辺りの情勢を再確認して、それで合流しようぞ」
「分かりました。 おつとめ頑張って来てください」
「うむ? ま、まあ行ってくるぞ」
カラさんが、側近に連れられて行く。
相変わらず巨大な木が林立している場所だ。アトリエもしっかり無事で残してある。まずは、アトリエに入り。
試すことがある。
鍵を使う。
更に強化した鍵は、今まで以上の魔力に耐えられる。凄まじい魔力が迸るが、程なく。壁の一角に、門が出現していた。
「おおっ!」
「古代クリント王国の錬金術師が国を挙げて取り組み、それでいながら巨大な装置を使わなければ制御も出来なかった門を、いとも簡単に」
アンペルさんがぼやく。
錬金術は危険な学問だなと思う。
才能依存だというのが、こう言うときに嫌と言うほど分かってしまうからだ。
そして才能がある人間が人格的に優れている訳でも何でもない。
だからこそ、やはり監視者が必要なのだ。
門を潜って、小妖精の森のアトリエに出る。
勿論他の門も稼働していて、東の地にもサルドニカにも、それにフォウレにも即座にいけるようになった。
だが、門を増やすのは後一回。
神代の本丸に殴り込みに行く時だけだ。
すぐにそれぞれ散って作業を開始する。あたしはアトリエから出ると、クラウディアと一緒に探索開始。
クラウディアの音魔術は、そろそろ上昇が打ち止めか。
それでも探知範囲はこれ以上拡がらなくても、精度は更に上がっている。戦闘技術の向上に、力を注いでいるようだからこれで良いのかも知れない。
「どう?」
「いるわ。 王種は確認できないけれど、やはりウィンドルに向けて集まって来ている。 以前の逗留では三つの群れを潰したと思ったけれど、一つの群れが新たに出現しているみたいだね」
「方向は?」
「西だね」
西か。
東は北東にある遺跡のフィルフサを始末すれば終わりだが、西側に今四つだかの群れが存在している訳だ。
それらが一斉に攻めこんできたら、歴戦のオーレン族が集うこのウィンドルでも危ないかも知れない。
巨木に登る。
はしごと通路が縦横無尽に入り組んでいる木の上では、射手が何人かいた。
空を飛ぶフィルフサは珍しくもない。
それらを撃墜しているのだろう。
手にしている弓は大きくて、東の地の侍達が使っていたものに近いサイズだ。東の地の侍も、身の丈大もある大弓を使う戦士がいて。だからこそ、魔物に有効打の射撃を入れられていた。
もっと高くまで上がる。
巨木の背丈は、あたしの百倍はある。
かなり高い所まではしごは上がっていて、見張り台も相応の高さだ。
以前は此処は入れて貰えなかったが。
カラさんが許可を出したらしい。
何より複数のフィルフサの群れを始末したあたし達は、既にオーレン族からは敵視されていない。
この辺りは戦闘民族だ。
侍達と同じで、むしろ接しやすいのだとも言えた。力と実績さえあれば、だが。
手をかざして遠くを見る。
やはり遠くの空は濁っている。フィルフサの群れが蠢いているのが見える。魔術では有効打は与えにくい。
だが。
「此処からなら、もっと遠くまで探知ができると思う」
「よし、よろしく」
「うん。 ちょっと集中するから、守ってね」
「任せて」
空からの強襲は充分にありうるのだ。
あたしは周囲を警戒。クラウディアは手を拡げて、音魔術での探索を全力で行い始める。
集中した魔力が、背中に白い翼を作る。それはより神々しく大きくなっていて。魔力の成長がよく分かる。
クラウディアに渡している装備や、この間新調した服の効果もあるだろう。
もの凄い魔力量だ。
あたしでも感心させられる。
「……一つの群れは特定したよ。 あの辺り」
「ふむ、覚えた」
「もう一つの群れは、強い隠蔽魔術で隠れているみたい。 多分神代の遺跡なのだと思う」
「西側で? そうか……」
北東以外に遺跡があると。
それはまた、調査する意味がありそうだ。
狂気の源泉のオリジナルは是非手に入れておきたい。実際問題、今もフィルフサは執拗にウィンドルに迫っているが。それは狂気の源泉が今でも働いているからだろうし。
古代クリント王国が作った劣化品ではない。
オリジナルを手に入れられれば、更に研究も進むはずで。
この辺りに隠された研究所があれば。
其処にオリジナルがある可能性は否定出来なかった。
やはり西側のフィルフサの群れが分厚いようだ。クラウディアが探知を一旦停止。かなり疲れたようである。
一度はしごを下りて、ゆっくりと休憩する。
オーレン族の戦士達と、ボオスが話をしていた。
「まだキロ=シャイナスは来ていないんだな」
「ああ。 途中で他のオーレン族を救援できるようならそうしてから来ると、風羽の伝令は言っていた。 各地でまだまだフィルフサは跋扈している。 生き残りを見つけて、保護しながら来ているのかも知れない」
「そうだな。 あの人らしい」
ボオスが懐かしそうに言う。
五百年間、聖地を一人で守った希代の戦士であるキロさんは。ボオスにとっての命の恩人であるし、人生の目標でもある。
そしてわざわざ言わないが、異性として好きな相手でもあるだろう。
ボオスに先にオーレン族との交配のリスクを話しておいたのもそれが故だ。まあ、それでもというならあたしがどうにかするが。
正直、オーレン族との合いの子が、現在の社会で受け入れられるのは難しいと思う。
少なくとも人間の……あたし達の世界では無理だろう。
養子でもとるか、それともあたしが子供を調合してもいいが。
そういうことはボオスが決める事だ。
依頼を受けたらやるけれど、それ以上の事をするつもりはない。
「ボオス、状況を確認してきたよ」
「ライザか。 話は聞いていたか」
「キロさんだよね。 あの人ならそう簡単にフィルフサに遅れは取らないだろうし、まあ大丈夫だと思うよ」
「そうだな。 今此処にいる面子でも勝てるか怪しい程強いしな」
これについては客観的に見てそう。
伊達に一人でグリムドルを守り続けていなかった。カラさんが経験の蓄積で強いタイプだとすると、キロさんは単純に天才だ。
一通り調査が終わったので、アトリエに集まる。
カラさんについては、今日一日は執務だなんだで戻れないらしい。
まあ、あの人の立場からして仕方ないことではあるが。
フィルフサの群れの配置などについては話をしておく。
集落の西側にも遺跡がある。
ただしそれは巧妙に隠蔽もされている。
あのオプティカルカモフラージュやらかも知れない。
油断は出来ない相手だ。
レントがいつものように聞き役をしてくれる。
集団でいる時に聞き役の存在はありがたいのだと、レントが率先してやってくれるおかげで分かってきた。
聞き役の質問に答えられるくらいでないと、集団をまとめるのは無理だからだ。
「それでライザ、どうするんだ。 まずは東側の遺跡から片付けるのか」
「そうだね。 規模的にも東の地やフォウレにあった城と同等以上だし、しかもフィルフサが守りについてる。 攻略する価値はあると思うけれど……その前に」
地図を拡げて。
あたしは西側に指を向ける。
そっちで、新しく出現したフィルフサの群れがいる。
それを最初に始末する。
「あれから改良を進めて、雨を更に降らせやすくなってる。 戦闘時は、奏波氏族の戦士達と一緒に戦えば、かなりやりやすいはずだよ。 この辺りの入り組んだ地形もあって、フィルフサ得意の物量戦も取りにくい」
「賛成だな。 ともかく、フィルフサが神代の者どもに体を弄られた生物とは言え、できる限り減らさなければ、ふみにじられる者が増えるばかりだ」
リラさんの言葉はほろ苦い。
リラさんが生まれる前の神代で起きた凶事により、ただの寄生生物だったフィルフサが、最悪の侵略性外来生物と化したなんて、思ってもいなかったのだろう。強力だが在来の魔物、くらいに思っていたようだし。
ある意味最悪の侵略性外来生物は神代の錬金術師だった訳で。
それを駆除しない限り、この惨禍は終わらないわけだが。
「戦場はこの辺りを想定する。 敵を誘引するのはパティ、タオ、クリフォードさん、お願いね」
「任せておきな。 ただ来たばかりの群れとなると、かなりの激戦になるんじゃねえか」
「うん。 だから最初に叩いておく。 それと……」
義手義足の技術が上がってきている。
サルドニカで完全に実用化、運用に成功した後。
東の地でもフォウレでもたくさんの手足を失った戦士を救った。
もう現在では、前の手足と大差ないものを作れる。本人が使っていて、だ。強度なら前のものより上だ。
今後は内臓でも同じ事をしたいのだが。
それでだ。
「まずはウィンドルにいる奏波氏族の人達の手足を失った戦士に、義手義足を供給しようと思う。 抵抗はあるかも知れないけれど」
「オーレン族も手指くらいまでしか再生しないんだよなリラさん」
「ああ、その通りだ。 これから声を掛けて来る。 図面などはライザでやってくれ」
「頼まれました」
リラさんとセリさんが、これから手分けして対応してくれると言う。
そしてもう一つ。
問題がある。
「アンペルさん、そろそろ古式秘具の性能を、あたしの義手が上回ります」
「む、そうか」
「作りますよ。 全盛期とまったく変わらない調合が出来る筈です」
「……そうだな。 現在の義手も悪くは無いんだが」
アンペルさんの場合、腕が台無しにされているだけで、腕を付け替えるわけではないのが問題だ。
だが、それもたくさんの義手義足を作り。
人間の腕の構造を調べて行くうちに出来るようになってきた。
今では半端に残っている腕に苦労している人なども助けられるような義手を作れる。
アンペルさんの場合は神経がやられてしまっているので、それをどうにかする形になるのだが。
大丈夫。
痛みも殆どなく、再生出来る。
「どうしますか。 新しくすると、もうメンテナンスも必要なくなります」
「それはすげえな……」
ボオスが呟く。
手足を失った戦士は、クーケン島の守人にもいた。あたしがこの間帰省したときに義手を作って渡すと、泣いて喜んでくれた。
あたしが今作っている義手は、もとの手と基本的には変わらないのだ。
血も通うし痛みだってある。
それでいながらもとのものより性能だって上がる。強度という点ではまさにそれだ。
ただし、人によって作り分けないといけないのが問題だが。
それくらいは、仕方がない事である。
「一晩考えさせてくれ」
「では、御髪だけいただけますか」
「ああ、それぞれの体のパーツがいるんだったな」
アンペルさんが、髪の毛を一本切ってくれる。
頷くとあたしは受け取って、それを調べて見る事にする。
その間に、リラさんとセリさんはアトリエを出て、ウィンドルの奏波氏族に聞き込みに行く。
まだ決める事が幾つかあるので、決めておく。
西に来ている新しいほぼ無傷の群れを撃破した後は、敵の戦力を更に削って行くべきだろうとあたしは考えている。
ウィンドル北東に構えられている居城は、神代の錬金術師の拠点だった可能性が極めて高い。
オーレン族はああいうものを作らないからだ。
城に篭もったフィルフサとなると、数が限られている神代鎧よりも厄介な上に、水を流し込むにしてもそれに城の構造次第では耐えてくる。
最悪の場合、神代鎧と連携して迎撃してくるだろう。
神代鎧を作っていた技術者は、神代の錬金術師の中では地位が低かったようだが。オーリムから神代がたたき出されるような戦役の中、その成果物が持ち込まれた可能性は否定出来ない。
対人戦に特化している上に、それぞれが達人並み。
どれだけ戦っても苦戦する相手だ。
それも此処は、神代を退けた土地。
同じように侵攻をはねのけた東の地同様に、それこそ意味がわからないほどの過剰戦力を配置している可能性は否定出来ないのだ。
「あの城を攻めるのは非常に厳しいだろうね。 だから、背後を突かれないように、まずは遊撃をしているフィルフサの群れはあらかた片付ける。 これだけで一週間以上は余裕で時間を食われそうだけれど、やる価値はある」
「今の俺たちなら、雨の状態なら王種相手でも何とかなるよな」
「油断したらダメだよレント。 確かに多数の王種を屠ってきたけれど、弱体化が掛かってもまだあれだけ強いんだから」
タオが釘を刺す。
その通りだ。
生物兵器として、文字通り全てを踏みにじるために作られたフィルフサは、単体の強さを追求した超ド級には劣るかも知れない。だがそれは単体の強さの話であって、魔術が効かない特性もある。
群れになられた場合の脅威度は次元違いだ。
「よし、方針も決まったね。 じゃあ解散」
手を叩いて、それで解散する。
料理を作り始めるクラウディアを横目に、あたしはアンペルさんの髪をエーテルに溶かして、解析。
そして、えっと思わず声が出ていた。
そうか、これが。
これがアンペルさんが百年も生きている秘密だったのか。
勿論、本人が良いと言うまでは黙っておこう。あたしは、黙々と義手の作成を開始する。
程なくして、リラさんとセリさんが戻ってくる。
二人が連れて来た戦士は合計八人。
足を失った事は特に致命的だ。すぐに図面を取って、御髪ももらって、義手義足の作成に入る。
長い間此処でフィルフサとやりあっているのだ。
それは手足を失う戦士だって出てくる。
役立たずはいらないとか言って、勇敢に戦った戦士を放り出すような場所ではなかったことだけが幸いか。
そういう集落なんて、人間世界ではいくらでもある。
しかもそれを現実的とか考えているのだから、頭が痛い話だ。
義手義足を作れる話をして。
あたしに対してある程度好意的な一人が、それではまず自分のをと言ってくる。右手が肘の先から食い千切られている。左手だけで戦って来たベテランだが、やはり苦労が絶えないそうだ。
頷くと、早速右手を調合する。
何、東の地では百人以上の手足を調合したのだ。
このくらい、なんでもない。
調合が終わると、恐れを知らぬ奏波氏族の戦士達がどよめく。幻視痛がある事を告げて、義手を装着。
傷口にくっついた義手は、固定すると。
ほどなくして、動き始めていた。
「お、おおっ!」
「ミリどの! ほ、本当に右手が!」
「つ、使って見ても大丈夫か!」
「はい、普通の右手と同じように動くはずです。 強度も前の右手と同じかそれ以上はあるはずですよ」
喜び勇んで外に出るミリと呼ばれた戦士。
大きな槍を手にすると、ひゅうひゅうと風を切って振るい始める。稲妻のような突きを連続で繰り出す。
パティが言う。
「凄い。 個人で練り上げた武芸だと思いますけれど、一つの流派になっているレベルの完成度です。 達人の技を、あの身体能力で繰り出すのであれば、強いのも納得ですね」
「うん。 本当にオーレン族は凄い。 こんな人達を見下していた神代の連中は、どれだけ自分を偉いと錯覚していたんだろうね」
ミリさんが、涙を拭っているのが分かった。
右手は失う前と全く同じに動いているそうである。
他の戦士も、作って欲しいと言ってくる。
あたしは頷くと、順番に作ると約束して、今日は一度引き上げて貰った。
明日の昼くらいには全員の義手義足ができる。アンペルさんの答えについては、後で聞けば良い。
ちょっと難しい義手になるし。
結論を急ぐつもりもない。
さて、今日は一旦休む。
明日は戦いがいつ始まるにしても、忙しくなるのは確定なのだから。