暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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激戦の末に周囲の状況を整理する事に成功。

此処からはウィンドルにもある神代の遺跡の調査。其処を守る戦力の排除。

そして情報収集です。


3、屍の野

巨大な黒光りする蟷螂のような姿をしていた王種が、短いが激しい戦いの末に崩れ落ちる。決して楽な相手ではなかったが、あたしと仲間達の前には何度も戦ったレベルの相手である。それが例え、空間系の魔術を使うとしても同じ事。雨による弱体化はあったものの、それは準備の末のこと。卑怯と言われる筋合いは無い。

 

あたしは終わったなと呟きながら、それでも気は抜かない。

 

逃げ散るフィルフサの群れ。

 

戦闘開始から二日目の事だった。

 

流石に一度戻って回復は入れたものの、断続的に襲ってくる群れは、まるで急かされているよう。

 

そもそもフィルフサの王種には、狂気の源泉が仕込まれている。

 

古代クリント王国は操作に失敗しても。

 

神代の力をある程度操作できるのであれば、あの悪魔もどきに操作はできるのかも知れなかった。

 

振り返り様に、ふりあげられた鎌を蹴り砕く。

 

やはり王種を倒した隙を突こうと来たか。その腐った性根、バレバレである。崩れ落ちるフィルフサ。

 

これで、この群れは終わりだ。

 

クラウディアが気付いてこっちに来る。

 

「ライザ、今のは」

 

「多分だけど、悪魔もどきがいる。 フィルフサの動きがずっとおかしくてね。 あたしに対応を集中させてた」

 

「それで単騎で突貫してたんだね」

 

「そういうこと。 おかげで被害は軽微で済んだね」

 

負傷者はわんさか出たけれど、それでも死者はゼロ。後方の野戦病院がかなり悲惨な事になっているが。すぐに立て直す。

 

戻ってトリアージ開始。

 

万全状態の群れ一つだと流石に手強い。元々堀と水を上手に使って守りながら隙を突いて削るのが奏波氏族の戦いだ。

 

それで千三百年掛けて、少しずつフィルフサを倒して来たのだ。だが、それを加速させる。

 

できれば今回の一件が解決すると同時に、オーリムのフィルフサを全滅……いや違う。改造されたフィルフサを、もとのそれほど害がないただの寄生生物に戻してやる。それだけだ。

 

フィルフサにはそもそも意思すらあったかも怪しい。

 

植え付けられた悪意。

 

身勝手な欲望の末の暴虐。

 

それらを反映させられたような行動。

 

その全てが、あたしからすれば苛立ちの対象だ。

 

ともかく病院に。

 

あたし達も手傷は受けている。何よりあたし自身がそうだ。泥濘の中で走り回って戦っていたから、浅い傷でもちゃんと確認はするべきだろう。丁寧にチェックして、毒消しを練り込んでもおく。

 

まあ痛いけれど許容範囲内。

 

自身の手当てが終わったら、すぐに他の人の手当てを手伝う。あたしが惜しみなく投入する薬は、皆の傷を回復させていく。もうウィンドルでのフィルフサ戦は最初でもないし、ちゃんと治療を受け入れてくれるのは話が早くて助かる。

 

一番状態が悪い人の治療をする。

 

おなかに風穴を開けられていて。右手も半ば食い千切られている。

 

戦術的な撤退時に落後しかけて、なぶり殺しの目にあったのだ。すぐに薬を投入して命は取り留めたが。

 

容体を見て、幾つかの薬を入れる。

 

如何にタフなオーレン族とはいえども、死ぬときは簡単に死ぬ。すぐに処置をしていく。

 

義手の用意は後だ。

 

まずは命を継ぎ止めて、それからである。

 

内臓のダメージが大きいが、あたしの作った薬でどうにか復旧させる。そろそろ内臓版の義手を作るか。

 

だが、今回はいい。

 

オーレン族と言う事もあり、快復力を極限まで引き上げた結果、内臓まで修復している。この辺りは流石である。

 

増血剤も入れて、とにかく状態を安定させ。

 

どうにか命に不安はなくなった。

 

まだ雨は降っていて、野戦病院も湿度が高い。痛い痛いと言う声は、どうしても聞こえてきていた。

 

汗を拭う。

 

カラさんが、魔術でリネンを消毒し、一気に乾かしながら片手間に聞いてくる。

 

「後は任せても良いのでは無いか。 それだけ活躍してくれれば充分であるぞ」

 

「いえ、最後までやっておきます」

 

「分かった。 だが、無理なときはそういえ」

 

「ありがとうございます」

 

カラさんも、薬の使い方は既に覚えている。更に元々の豊富な知識もあって、怪我人への手当ては極めて的確だ。

 

側近の片方、男性の方が、左腕を大きく抉られて骨が露出していたが。それもカラさんがあたしが何もしなくても薬と的確な処置でどうにかする。

 

あれは任せておいて大丈夫か。

 

淡々と手当てを終えて、真夜中に一段落。

 

明日義手とか作ってそれでおしまいだ。

 

戦士達に話を聞くが、義手の評判は最高である。もとの手足とまったく変わらないと太鼓判を押して貰って、思わず笑顔が零れる。

 

これくらいの役得はあっても良いだろう。

 

アトリエに戻ると、風呂に先に入っていたらしいクラウディアが、桶を用意してくれていた。

 

これで手を洗ってからだ。

 

散々色々血とか汚れを浴びていたのである。

 

そうしないと、体にどんな影響が出るか分かったものではないのだ。

 

「ふー、疲れた。 クラウディア、大丈夫だった?」

 

「こっちは平気。 忙しかったけれどね」

 

「まあ、そうだろうね」

 

流石は奏波氏族。

 

強力な狙撃手であるクラウディアをしっかり守りきってくれた。全員が侍達と同格以上の使い手である。

 

しかもフィルフサと千年以上も交戦してきたのだ。

 

それは強いに決まっている。

 

「後はレントくんかな。 点呼をして、それで力仕事も手伝っているんだって」

 

「まあレントだったら不意を打たれても遅れは取らないでしょ」

 

夕食が出てくる。

 

今日は結構良い肉が出て来た。

 

サルドニカにひとっ走り門経由で行ってきたようだ。其処で牛肉の良いのがあったので、まとめて仕入れてきたらしい。

 

後始末についてはかなり大変かと思ったが、この状態では専門のお手伝いを雇うわけにもいかない。

 

いっそ作る手もあるが。

 

まあ、それは今はやらない方が良い。できるのと、やった後どうなるかわからないのは、並行する。

 

あたしは神代の錬金術師みたいに作った存在の頭を弄るつもりは無い。

 

そうなると、作られた存在が、必ずしもあたしに友好的になるとは限らない。一人でいる時に検証するべき事だろう。

 

レントが戻って来た。

 

かなり疲れているようなので、早々に夕食にする。

 

皆揃っているが、カラさんはこっちで大丈夫なのだろうか。まあ飄々としている様子からは、ダメとは言いづらいものもあるか。

 

使った分の栄養は補給する。

 

そういうつもりで食べていると、おいしさなんてどうでも良くなる。

 

多分だけれども、アンペルさんがドーナッツを食べているときが似た感じなのではないだろうか。

 

糖分補給のために甘味を取る。

 

あたしも栄養補給のためにご飯を食べている。

 

みんな無言なのは、それだけ今日の戦いと、その後の医療が大変だったからだ。かなり遅くなってから、アトリエの戸が叩かれる。

 

戦闘に参加したオーレン族の戦士の一人だった。

 

義手を作ったから覚えている。話を聞く限りかなりのベテランであり、カラさんの側近も敬意を払っているのを見ている。

 

礼を言われた後、改まって言われた。

 

「貴殿は周囲の人間と違う。 寿命を超越しているのではあるまいか」

 

「んー、どうして分かったのかは分かりませんが、そうです」

 

「そうか。 実はカラ総長老は、恐らくそう長くは無い。 とはいっても後数百年は生きられるだろうが」

 

カラさんはそうは見えないが、ご老体だと聞いている。歴史の生き証人なんだから、確かにそれはそうだろう。

 

とても元気に跳ね回って戦っているが、老人は衰え始めると死まであっと言う間だ。

 

何人も衰え始めたら、瞬く間に動けなくなった人を見ている。そう思うと、子供みたいに見えるカラさんも、それは他人事ではないのだろう。

 

「貴殿が後任の奏波氏族の長となってくれまいか。 カラ総長老も、それについては悪くはいわないのだが」

 

「ああ……とても有り難い話ではありますが、すみません。 此処と似たような場所である東の地でも、同じ事を言われました。 残念ですが、そういう話はお受けできません」

 

「そうか。 残念だ。 貴殿なら末永くこの地を守れると思ったのだが」

 

「そう……ですね」

 

あたしが何処かしら特定の勢力に肩入れする。

 

そうすれば、確かにその勢力は安泰になるだろう。

 

だが、それ以外はどうなるか。

 

あたしはそれが問題だと思っている。だから、東の地でも征夷大将軍の話は断らせて貰ったのだ。

 

あたしが魔王となるとして。

 

それはあまねく贔屓なく、全ての存在に対する抑止とならなければならないのだ。

 

今でこそ善良な存在が目立つオーレン族だが。

 

それも、いずれはどうなるかはわからないのだから。

 

末永くこの地を守れるか。

 

その通りだろう。

 

だけれども、この地しか守れなくなる。それでは、意味がない。

 

もう一度丁寧に礼を言って、そしてアトリエに戻る。カラさんは、今でも時々あたしを値踏みする視線を向けてきている。

 

それでいい。

 

あたしとしても、周りをイエスマンだけで固めるつもりなんかない。そんな事をしていれば、堕落は加速する。

 

神代の錬金術師は実際問題、作り出す存在を全てイエスマンにしようとしていた節がある。

 

きっと阿諛追従する連中がいたとしたら、それをそそのかしていたのだろう。

 

そうして彼処まで堕落したのだ。

 

同じになってはいけないのだ。

 

ベッドに潜り込むと、眠る事にする。この地では、とにかくフィルフサが最大の問題であり。

 

何処に行くにしても、縄張りを作っている群れを片付けてからが先になる。

 

それにだ。

 

悪魔もどきの力が知れていると言っても、あれだけフィルフサの群れに介入してきたのである。

 

急がないと、次、また次が来てもおかしくは無い。

 

明日は薬の補充と休憩に一日を使うとして。

 

次の日に、東側にある例の要塞。神代のものがこしらえた現在はフィルフサが巣にしているもの。

 

それを攻略開始する。

 

多分一日や二日で攻略はできないだろうが。

 

それでも始めないといけないのだ。

 

 

 

薬を補充して、ウィンドルの戦士達が落ち着きを取り戻すのを確認してから、まずは北東の城までのルートを見ておく。

 

近場に見張り台があって、其処に戦士が一人詰めていた。

 

少しずつだが、ちいさな動物が戻って来ているようだ。

 

こういう地獄みたいな環境だと、大型生物は真っ先に滅びる。そして環境が戻り始めると、ちいさな生物から少しずつ帰って来るのだ。

 

タオの受け売りだが。

 

畜産業の経験者だから、納得が行く話だった。

 

軽く常駐の戦士と話しておく。

 

何交代かで見張っているそうだが、やはりこの城にはかなりの数のフィルフサがいるらしく、下手に近付くとすぐに押し出してくるそうだ。

 

城も地下に深い構造になっているらしく。

 

見えている以上に大きな構造体らしいということだった。

 

なんでもこの人も音魔術の使い手らしく。

 

地下の深くから振動を察知できるという。

 

つまり、地下深くにフィルフサが活動している、ということである。

 

「カラさん、この城もやっぱり」

 

「ああ、いつの間にか作られておったな。 神代の錬金術師どもが来る前にはなかったものだ」

 

「なら決まりですね。 構造の性質上内部でフィルフサが増える可能性は恐らくないとみて良いかと思います」

 

神代の錬金術師は、古代クリント王国と違ってフィルフサのコントロールに成功していた。

 

だったら、自分達の拠点を守らせるフィルフサに、拠点を荒らさせる訳がない。

 

フィルフサは土に殺した生物を混ぜ込んで、そこから増える……土を母胎と呼ぶが。そういう性質を持っている。

 

つまるところ、此処にいるフィルフサはずっと古い時代のままで。

 

それから新しい性質を取り込んでいない可能性が高い。

 

数にしても、幾ら複層構造だったとしても、そこまでは詰め込めないだろう。

 

しかしながら、攻城戦というものをまともにやれば、如何にオーレン族の勇敢な戦士達でも。

 

どれだけの被害を出すか知れたものでは無い。

 

「少しずつ釣り出して片付けて行くしかないだろうね。 一斉に出て来たらむしろ好都合」

 

「西に来ていた群れをたった二日で殲滅した話は聞いている。 それに、此処のフィルフサを潰せば、北東も安全圏になる」

 

「ええ。 協力を願います」

 

「任せてくれ」

 

カラさんが、奏波氏族の戦士達を集めてくる。

 

あたしも雨を降らせるための準備を行う。

 

面倒な事に、この城の中にある手がかりを潰すと、奴らの本丸に乗り込めなくなる可能性が出てくる。

 

ある程度無事にこの城を残さないといけないのだ。

 

そうでないなら、まとめて城ごと吹っ飛ばしても良いのだけれども。

 

厄介な話である。

 

準備が整う。

 

西に来ていた群れの掃討戦と違って、今度は精鋭に絞った戦士達だけがいる。

 

それに加えて、あたし達も距離を一旦取り。

 

敵を引き出すのは、パティとタオ、クリフォードさんがそれぞれ順番にやることになる。

 

クラウディアが雷神の石を打ち上げて、雨が降り出す。

 

土砂降りではないが、確実に相手を弱らせることができる。あまり雨を激しくすると、釣り役が事故る可能性も上がる。

 

だからこれくらいでいい。

 

まずはパティが城に近付く。

 

城はかなり巨大で、四階建てくらいはありそうだ。見た感じ石造に見えるが、今までの神代の遺跡を見る限りそうであるはずがない。

 

狙撃。

 

パティが抜き打ちで叩き落としながらさがる。

 

クラウディアが即応。

 

二階にある窓からの狙撃だ。狙撃専門のフィルフサは何度も見ているが、それによるものだろう。

 

連続して攻撃を叩き込んでいるうちに、反撃が止む。

 

パティはじっと様子を窺っていたが、やがてまた前進。

 

そうすると、どっとフィルフサが出て来た。中型以上のものばかりだ。これは。

 

質が高いな。

 

あの王都近郊でやりあった群れみたいだ。

 

パティは上手に戦いながら、敵を引きつけつつさがる。釣れた数はそれほど多くはないが、この質だ。

 

城の中にいるフィルフサ、想像よりもずっと少ないかも知れない。

 

まあ、楽観は後回しだ。

 

とにかく、敵を分断する。

 

タイミングを見てセリさんが植物魔術発動。覇王樹を出現させて、フィルフサどもの退路を断ち、なおかつ狙撃を封じる。

 

狙撃を完全に封じられるわけではないが、少なくとも視界は防ぐ事が可能だ。

 

セリさんが呼び出す覇王樹は内部に魔力を有していて、しかもかなり流れている水の温度が高い。頑強さにしても、生半可な魔物では即座に壊せないほどのものだ。

 

温度感知でも魔力感知でも、狙撃はこれを通してする事が極めて厳しいのだ。

 

「よし、懸かれ!」

 

カラさんが指示を出すと、わっと奏波氏族の精鋭達が襲いかかる。

 

雨で弱体化している上に、退路も塞がれたフィルフサの群れは、むしろ数で凌駕された上に、袋だたきにあってあっと言う間に壊滅する。

 

あたしが手を出す必要さえなかった。

 

全滅させたあと、コアをしっかり全部砕いておく。

 

こっちが本体だと、ずっと思っていたな。

 

苦笑いすると、あたしは一度さがって態勢を立て直す。多少の負傷者はいるが、許容範囲内だ。

 

覇王樹を引っ込めた後、今度はクリフォードさんが出る。

 

城に近付くと、さっきよりも近付いた地点で、かなり足が速そうなフィルフサの群れが押し出してきた。

 

クリフォードさんが跳び下がり、一気に戻ってくる。

 

足が速そうなフィルフサの群れはゲジに似ていて、多数の足をせわしなく動かしてこっちに来るが。

 

泥に足を取られて、速度が露骨に落ちる。

 

同じように覇王樹で囲い込んで、集中攻撃を開始。

 

今度はあたしも出る。

 

あの足、かなり危険な武器だ。

 

頭上から脳天に突き刺すように振り下ろしてくる。普通の人間の戦士だったら、ひとたまりもないだろう。

 

だが、それもこの面子なら。

 

覇王樹を蹴って加速したあたしが、二体まとめて蹴りでブチ抜く。

 

大穴を開けられたフィルフサが、どうと倒れて。あたしは歩み寄ると、コアを引っこ抜いて握りつぶした。

 

周りも概ね苦戦はしていない。

 

ずっとウィンドルを包囲していたフィルフサとやりあってきた戦士達だ。

 

それはこの程度の相手なら、どうにでもなるだろう。

 

片付いた。終わり。

 

セリさんが覇王樹を引っ込める。

 

皆の疲弊を見る限り、余裕だ。

 

今度はタオに誘引に出て貰う。これで、フィルフサが出てこなくなるまでやる。

 

かなり早いタイミングで出て来た。盾みたいな構造をした大型種を数体戦闘に、わっと押し出してくる。

 

数もかなり多い。

 

更に、今まで沈黙していた狙撃手も参加しているようだ。タオが苦戦しているのを見て、クラウディアが支援開始。

 

狙撃手にも、そいつが放った錐状の甲殻にも対応して、乱射を続ける。その間にタオは逃れてきたが、幾らか手傷を受けているようだ。

 

敵もわっと殺到してくる。

 

今まで油断させておいて、一気に屠る風情だが。

 

まあ、そう簡単にやられてやるつもりはない。

 

そのまま引きつけて、やはり覇王樹で隔離。そのまま総力戦に入る。

 

「タオ、さがれ! よくやってくれた!」

 

「ごめん、後は任せた!」

 

レントが突貫して、タオがそれに答えて後ろに。

 

あたしも前に出ると、盾を構えて突進してくるフィルフサに、渾身の蹴りを叩き込む。

 

あたしの三倍近い巨体が、文字通りまくられる。

 

大雨による弱体化もあるし、何よりもあたしも更に力を増しているからだ。まくられた所に、パティが突っ込んで、柔らかい甲殻を抜き打ちで一閃。更に返す刀で、一気に切り裂いた。

 

露出するコアを、クラウディアが撃ち抜き。

 

倒れ伏すフィルフサ。そこで壁が崩れる。

 

其処から浸透して、内側に入ってあたしが猛然と暴れる。盾を構えているフィルフサ……正確には盾のような分厚い装甲をかざしてこっちに迫ってくる百足みたいなフィルフサだが。

 

それらが右往左往している間に、囲み、空中殺法をしかけ、次々に葬る。

 

雑多なフィルフサも決して弱くは無いが、この面子の前ではどうにもならない。さがろうとする奴は、リラさんが率先して仕留めていく。

 

今までは狩る側だったフィルフサが。

 

狩られる側に転じている。

 

ただ、そもそもフィルフサは狩るような生物ではなかったのだ。

 

倒されたとしても、その甲殻に再編制された体が、散って行くだけ。それこそ、解放なのかも知れない。

 

殲滅完了。

 

少し負傷者が多い。さがって手当てをする。

 

タオもざっくり抉られた傷があったようだが、自分で手当てを終えていた。

 

一部の奏波氏族の戦士はウィンドルまでさがらせる。

 

代わりの戦士達が来る間に、もう一当てしておく。

 

そうして、丸一日戦い。

 

次の日も戦いを続けた。

 

 

 

十六回目の誘引が終わって、戦闘が終わった時点で、手をかざして城を見る。

 

音魔術の使い手であるクラウディアも、探知魔術を使えるオーレン族の戦士も揃って言っているが。

 

まだ敵は中にいる。

 

王種は確定でいるし、狭い中での戦闘だから、水による弱体化も期待できない。

 

しかも要所の守りを任されている王種だ。

 

簡単には勝たせては貰えないだろう。

 

ただ、八回目くらいの誘引から、フィルフサは簡単に外に出てこなくなった。クリフォードさんが基本的にバディを組んで、城の中に入り込んで引きずり出すようになりはじめていた。

 

内部はまだあたしも足を踏み入れていない。

 

まだまだ狙撃が飛んでくると言う事もある。

 

地下に踏み込むよりも、まずは地上部分の制圧が優先事項かも知れない。狙撃手の撃破は急務だ。

 

問題なのは、誘引されるフィルフサが減らない事で。

 

いつまでもこの遺跡に貼り付いての攻城戦に、オーレン族の戦士の手を借りられないと言う事だ。

 

他にもまだまだ弱体化しているとはいえフィルフサの群れはいる。

 

事実今日も、そういう群れが仕掛けて来て。

 

殲滅中に伝令が来て、あわてて一部の戦士がウィンドルに戻ったのだ。

 

とりあえず昼食を取りながら、次の方針について話す。クリフォードさんが説明をする。

 

「やっぱり内部は色々別物だったぜ。 石造りに見える外と違って、今まで見てきた遺跡と大差ないな。 問題なのは、扉にパスワードがちゃんとかかってるって事だ」

 

「此処は流石に、神代の錬金術師もセキュリティを考えていたんですね」

 

「恐らくな。 奴らからしたらまともな戦闘になった初めての相手だったし、警戒はしていたんだろう。 他の遺跡みたいに、相手を舐めきっていられるような場所でもなかったんだろうな」

 

敗走にまで追い込まれたのだ。

 

神代の錬金術師も、苦戦の中でこれはまずいと察したのかも知れない。

 

タオが提案する。

 

「扉だけだったらライザやレントが破るのは難しく無いと思うんだけれどね。 ただ……」

 

「ただ、どうしたの」

 

「僕が予想するに、恐らくパスワードは一つだけだと思う。 複雑なパスワードを使っている余裕なんかなかっただろうしね。 しかも、神代の錬金術師はそれまで苦戦した経験さえなかった。 だから、かなりいい加減なものだと思うよ。 問題なのは、強引に扉を開けた場合、何かしらのトラップで、資料が全部焼かれたりする可能性があることだけれど」

 

「やれやれ、面倒じゃな」

 

ともかくだ。

 

フィルフサをまずどうにかしなければならない。

 

休憩を挟んでから、城に攻め入る。

 

内部は確かに静かで、構造物も石ではない。

 

ただオーレン族も驚く様子はない。

 

南東にある研究施設は既に潰しているし、奴らの研究施設はオーリムにそれなりに残っているからだ。

 

まずは一階を制圧する。

 

フィルフサは恐らくだが、施設内の破壊を行えない。

 

神代の錬金術師にしてみれば、ガーディアンが自分達の邪魔をしたりしたら、本末転倒だからだ。

 

地下への階段をまず確保。

 

その周囲で相応数のフィルフサと激しいが短い戦闘を終え。片付けた後は、一度セリさんが植物魔術で塞ぐ。

 

その後は、上の階を始末する。

 

神代鎧が懸念点なのだが。

 

今の時点では、姿を見せない。

 

それにしても、今まで見た中で最大級の施設だ。よく分からない用途の部屋も、一階の時点でかなり多い。

 

散発的に戦闘をこなしながら二階に。

 

そこで、出会い頭に斬り込んできた。

 

神代鎧だ。

 

パティが即応して、刃を受け止める。大太刀を振るって押し返すが、左右からわっと神代鎧が殺到してくる。

 

「手強いぞ! 皆、一度さがれ!」

 

カラさんが叫び、オーレン族の戦士がさっと階段を下りる。

 

あたし達も階段に敵を引きずり込み、さがりながら戦い、一階に誘引する。

 

神代鎧がいるかも知れない。

 

そう思って、姿と対処法については話をしてある。

 

やはりというか、フィルフサと連携して城を守っていたか。数もかなり多い。此奴ら一体一体が、今でも全く油断ならない相手だ。

 

階段を下りてもまだ追撃してくる神代鎧を、半包囲して確実に始末に掛かる。

 

凄まじい剣の冴えは相変わらずだが、後衛が槍を投じてこないだけでもマシかも知れない。

 

ちょっと壊したくらいでは再生するし、人体急所は全く関係ない。

 

それに奴らの頭脳であるちいさな部品は、今までの撃破録を考えるに、多分埋め込まれている位置がまちまちだ。

 

つまり徹底的に破壊するしかないのである。

 

ぎゃっと悲鳴が上がって、オーレン族の戦士が右腕を斬り飛ばされるのが見えた。首を刎ねに懸かる神代鎧を、あたしが天井へ跳躍。

 

天井から猛襲して、地面に叩き付けながら蹴り砕く。

 

さっと腕を拾って、放り投げる。

 

後でくっつけるから、さがって。

 

叫びつつ、あたしに殺到してきた神代鎧を、レントが引き受ける。それでも数回、斬撃を貰う。

 

手足を飛ばされるようなことはなかったが、それでも手傷ができる。

 

「まずいな。 数が今までになく多いぞ」

 

「それだけじゃないわ。 地下からも来そうよ」

 

セリさんが、覇王樹が攻撃されているという。

 

フィルフサもいるとなると、恐らく長くはもたないだろう。

 

決めた。

 

これは一度撤退だ。

 

「セリさん、階段を覇王樹で潰して。 一旦撤退する!」

 

「よし、皆撤退じゃ! 負傷者を庇いつつ、城から出る時には狙撃に備えよ!」

 

「撤退! てったーい!」

 

流石に統率されていて、わっとオーレン族が引き下がり始める。

 

今度はこっちが誘引された訳だが、簡単にやられてやるつもりは最初からない。

 

城の構造は見ている。

 

適当な所にラヴィネージュを落として、そのままさがる。脱落しそうになった戦士を、さっとレントが抱えてさがる。

 

フェデリーカは案外要領よく逃げていて、問題なく外に出ていた。

 

クラウディアが外で狙撃手と苛烈な打ち合いをやっている。クラウディアもかなり手傷を受けているようだ。

 

厳しい戦いだが。

 

大丈夫。敵だって無傷じゃない。

 

殺到してくる神代鎧どもに対して、ラヴィネージュを発動。

 

範囲が決まっているから、それでいい。

 

文字通り空間を抉り取るようにして、一切合切冷気が全てを粉砕する。密集して追ってきていた神代鎧が、それにまとめて巻き込まれていた。

 

さがる。

 

城からは、神代鎧も追ってこない。

 

狙撃を繰り返している奴は、次回の攻撃で片付ければ良い。

 

戦死者は出していないが、これは手痛い敗北だ。

 

だが、敵の被害は大きく、補填もできないのだ。それで充分とみるべきだろう。

 

ウィンドルまで戻る。

 

そして、負傷者の手当てをする。

 

負けだな。

 

だが、次はこっちが更に有利に戦える。神代鎧がいた以上、厳しい戦いになるのは明らかだが。

 

それでも、威力偵察の意味は大いにあった。

 

後は負傷者の回復で、この日は終わった。

 

だが、一戦場での戦術的敗北なんぞどうでもいい。

 

最終的に戦略的に勝てば良いのだ。

 

神代鎧も、無事なのは修復をするだろうが。フィルフサはそうもいかない。更に言えば。ハイチタニウムの備蓄にも限界があるはずだ。

 

次は更に押し込める。

 

それが分かっているだけで、充分だった。

 

夕刻までに、手当ては終わる。

 

手を切り飛ばされた戦士も、ちゃんとつなげる事が出来た。全員生還だけでも、充分過ぎる成果だろう。

 

ただし疲弊が酷い戦士も多くて、次に同じ戦力は連れて行けない。

 

フィルフサはともかく、神代鎧の数はちょっと尋常では無い。

 

対策はしなければならない。

 

カラさんは、ウィンドルの首脳部と話をするとかで、今夜は戻って来ないそうである。

 

あたしも、アトリエで軽く方針について話をしておく。

 

「厄介だぞ今度の遺跡は。 地上部分の制圧にしても、神代鎧があんなにいるとはな」

 

「今までの遺跡で最大級だね」

 

ぼやくボオスに、タオが補足する。まったくもってその通りだ。

 

東の地にいた神代鎧よりも多いかも知れない。

 

それはつまり、此処に攻め寄せていた神代の錬金術師が焦っていた事を意味する。明確に序列を下にしていた存在の成果物を、運び込んでいたのだから。

 

「あの狙撃が厄介だ。 とにかく地上部分を早々に制圧しないと」

 

「そうだよね。 本当に鋭くて困るの」

 

クラウディアも悲しそうである。

 

確かに名手であるクラウディアも、あれだけ苦戦していた。ひょっとすると、何かしら特殊な狙撃兵なのかも知れない。

 

「準備はしっかりしておけ」

 

「分かっていますリラさん。 今日は早めに解散。 あたしはこれから、ちょっと調合と研究をするので、寝るまでは話しかけないようにね」

 

さて。

 

ちょっとばかり本気で調合をしておくか。

 

敵の戦力回復を考えると、あまり時間は開けられない。

 

次の攻撃であの城を落としきるのは難しそうだが。

 

少なくとも、その次くらいには、城を落としたかった。

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