暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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さてサルドニカです。原作でも二度にわたって来る事になる第二都市。本作では二回に分けて問題を解決していく事になります。

なお本作から登場するあのわんこも、勿論姿を見せる事になります。


硝子と魔石と暗闘と
序、第二都市サルドニカ


街道の掃除をあたしは続ける。ここで言う掃除とは勿論魔物の駆逐の事だ。

 

街道に魔物が出て、人間を狙う。

 

今、勢いがあるサルドニカでもそれは同じ。

 

要するに魔物の方が人間より戦力が高いから、魔物が人間を舐めて掛かっているのだ。街道は完全にエサ場になっている。昔は人間の方が強くて、魔物は虐げられていたのも。魔物がこれだけ人間に敵意を剥き出しにする理由なのかも知れないが。あたしにはちょっとなんとも判断材料がない。

 

そして街道で様子を見て、対応力が完全になくなったと判断すると。

 

魔物は集落に攻めかかり。

 

そして滅ぼす。

 

滅ぼされた集落にいた人間は、大半が殺される事になる。

 

そうやって滅びた集落は、たくさん見て来た。

 

タチが悪い魔物になると、人間が逃げられるようにわざと隙をつくって、逃げた所を背中から強襲する。

 

そうすることで、より抵抗なく殺せる事を知っているからだ。

 

古代クリント王国が滅びてから、この傾向はずっと続いていて。人類の版図は狭くなる一方で。

 

それはサルドニカでも変わらないのだ。

 

だから、少しでもあたし達が改善する。

 

セリさんの植物魔術の拘束を受けて、吠え猛る大きな熊の魔物。凄まじいパワーであり、その爪が多くの血を吸ってきたのは確定だろうが。

 

だが、蔓を突っ切って無理矢理後ろ足で立ち上がった瞬間。

 

レントが肩から斬り下げ。更に傷口に、クラウディアが速射で大量の矢を浴びせる。

 

集落を一つ潰した人食い熊だ。

 

後ろ足で立つと、背丈だけであたしの六倍はある。

 

此処で殺さなければならない。

 

クリフォードさんのブーメランが、奴の口に直撃。蹈鞴を踏んで、体勢を立て直そうとするが。

 

既に側面に回っていたあたしが、詠唱を終えていた。

 

こっちを見る熊。

 

だがその時には、あたしは踏み込みつつ。

 

熱槍千を収束して。

 

投擲していた。

 

こいつの毛皮は、大概の魔術も武器も跳ね返してきた。だから、防御には自信もあったのだろう。

 

だが、次の瞬間。

 

赤黒い毛皮が、爆発的に炎上。

 

あたしの熱槍が貫通して、体内から一気に焼き尽くしたのだ。

 

巨大なトーチになった熊が、数歩歩いて。

 

それで炭クズになって倒れる。

 

しまった。

 

毛皮は。回収したかったな。

 

ただ此奴のパワーは侮れなかったので、ちょっと手は抜けなかったのだが。

 

「終わりましたよ。 炭クズになっちゃいましたけど」

 

「は、はい……」

 

商隊を下げさせて、守りを固めていたフェデリーカさんは、生唾を飲み込んでいるようだった。

 

こいつが、相当危険な魔物として、周囲に暴威を振るっていたのは聞いている。

 

出るかも知れないと、警戒していたのだ。

 

此奴が出た場合は、近辺の特産品である銀の蜂の巣を放り投げて逃げる。それが鉄則であったらしい。

 

熊は肉食性が強いが。

 

それでも、一番好きなのは、実は甘いものだ。

 

これは大型の熊でも大して差は無い。

 

エサに対して執着する性質があって、それが非常に危険ではあるのだが。

 

同時に甘いものが一番好物という習性もある。

 

クーケン島の近くでも熊が食害を起こす事はあったので。

 

あたしも、それは知っていた。

 

「血染めのヴァーケン、処理完了と伝えてください」

 

「は……」

 

フェデリーカさんのつれ。

 

というか監視役の二人が、言葉少なく答える。

 

そして、商隊がそのまま行く。

 

商隊の中には、かなりの距離を逃げていたものもいたので、そっちをむしろ急いで迎えに行く。

 

はぐれた人間を、魔物は容赦なく襲うのだ。

 

すぐに点呼をして、欠けた人間がいないことを確認。

 

幸い、戦闘が短時間で終わった事もある。

 

魔物に誰かが囓られていることもなかった。

 

「まだしばらくサルドニカには掛かりそうですか?」

 

「上手く行けば後丸二日から三日ほどですね」

 

「途中には街とかがある感じで?」

 

「幾つか小規模な集落はあります。 そうだ、その集落で水車が動かなくなっていて……」

 

水車と言っても、木造のものではなくて。

 

やはり神代の技術を取り込んだものだそうだ。

 

百年以上前に、サルドニカを作るのに尽力してくれた人が作りあげたそうだが。今はロストテクノロジー化していて、直せないらしい。

 

百年前というと、古代クリント王国の技術にも劣るだろう。そうなると、ロストテクノロジーをそのまま持ち込んだとみていい。持ち込んだのは錬金術師だろう。

 

百年前か。

 

そうなると、あのアンペルさんの言っていた事件が気になる。或いは。王宮にあつめられた錬金術師の一人だったのかも知れない。

 

まあ、見てからだな。

 

そう思いながら、街道を行く。

 

やはり魔物のエサ場になっている。

 

途中何度も魔物の襲撃がある。

 

かなり大きな鼬の群れも出た。相当に手強いが。

 

いずれにしても、あたし達の足を止めるほどじゃない。手強いと言っても、フィルフサに比べれば与しやすい相手だ。

 

蹴散らしながら先に。

 

かなり大きな走鳥が、街道で睨みを利かしている。

 

この辺りの主気取りか。

 

レントが前に出る。

 

「レント、あんた一人でいける?」

 

「任せろ」

 

鋭い雄叫び。

 

同時に、体勢を低くして、走鳥が突っ込んでくる。かなり大きな相手だ。それに対して、レントは地面に根が生えたようにどっしりと構え。

 

相手が突貫してきた瞬間。

 

すれ違っていた。

 

走鳥の首がすっとぶ。

 

走鳥はそれでも数歩走って、地面に倒れる。

 

鶏は頭がなくなっても長時間生きる事があるのだが。走鳥は無理か。

 

あたしはすぐに皆を急かして、血抜きを始める。これだけ大きい魔物だと、倒すのに戦死者を覚悟しなければならない。

 

それを瞬殺出来たのは僥倖だ。

 

商隊は、魔物が出る度に足が止まる。

 

どの馬車も藁を積んでいて、荷物が壊れないようにしているが。それでもやはりどうあっても荷物全てを守るのは無理だ。

 

クラウディアの話によると、大きめの商隊になると、魔物のエサになる為の荷を敢えて積んでいる場合もあるそうだ。

 

護衛に雇った戦士達が対応できない場合は、その荷を捨てて。魔物が貪り喰っている間に逃げると。

 

勿論追撃してくる魔物の数を減らせるだけだろうし。

 

何より、肉の味を覚えた魔物が後続を襲う事になるが。全滅するよりはましと考えているのだろう。

 

王都周辺の惨状を知っているから、そういった事をする人を責める気にはあたしにはなれない。

 

まあぶん殴るが。

 

考えは分からないでもないのだ。

 

血抜きと肉や皮の切り分けが終わる。すぐにその場を離れる。

 

あたしが最後尾で様子を見ながら歩いていると、フェデリーカさんが来る。護衛の二人も、無表情なままついてきていた。

 

「噂以上の手練れですね。 王都周辺の大物をあらかた片付けたというのは噂ではないようで安心します」

 

「フェデリーカさんは身を守る術は」

 

「一応戦えますが、私の魔術は支援専門で……」

 

「一応、戦闘時の為に聞かせてください」

 

いつ、総力戦になってもおかしくないのだ。

 

クリフォードさんが前衛に。中衛にクラウディアがいて。それぞれ勘と音魔術で、周囲は警戒してくれている。

 

それでも絶対は無い。

 

ワイバーン辺りが複数奇襲を仕掛けて来た場合、全員を守りきる自信はあたしにはないのだから。

 

「ええと、私の固有魔術は舞いです」

 

「工房長」

 

「いえ、ライザリンさんには話しておくべきだと思います。 今から信頼関係を構築するべきだと思いますので」

 

話が早くて助かる。ちなみに「さん」でいいとも告げてあるので、少しずつそう呼んでくれるようになってきている。もう少し信頼関係が構築できたら、ライザと呼んで欲しいものだが。

 

それにしても舞いとは。

 

フェデリーカさんが、何やら棒のようなものを手元から出す。それをぱっと開く。そうすると、そこには折りたたまれていたゼッテル……それもかなりいいゼッテルが、開かれていた。

 

絵も書かれている。

 

これはとても高いものだなと、あたしは即座に判断した。

 

「これは東方から伝わった扇というものです。 普通は風を仰ぐだけに用いるのですが、これを用いた舞踊があります。 私はその舞踊を固有魔術にしています」

 

「サルドニカには東方からの技術が多いんですか?」

 

「創設メンバーの中に東方からきた人がいたのです。 彼等は優れた剣術をはじめとする武術を修めた戦士で、何人かは王都にもその後向かったそうです。 うち一人が、私の先祖です」

 

なるほどね。

 

それでそういう固有魔術が伝わっているのか。

 

具体的には、周囲の人間の能力を強化したり、或いは敵の動きを阻害したりするものであるらしい。

 

足下なんかもしっかり固めているのは、いざという時に舞えなくなるのを避ける為か。なるほどね。

 

頷くと、あたしは扇を見せてもらう。

 

いいゼッテルだが、家宝だとしても相当使い込まれている。造りは確認できた。これは恐らく、竹を用いているとみて良い。

 

竹を骨状に使って、そこにゼッテルを張っている訳か。

 

ゼッテルも、かなりの品質でなければ追いつかないだろう。

 

「ライザリンさん、再現はできそうですか?」

 

「うん。 やってやれないことは無さそう」

 

「凄いですね……。 このゼッテルだけで、再現はサルドニカでも出来ないんです。 百年以上前のゼッテルを、どうにか補修しながら使っていて」

 

「……」

 

確かに脂か何かの液体で表面を固めているのが分かる。

 

それでも絵が少しずつ崩れてきていることから。

 

工業都市の筈のサルドニカも、相当厳しい状態にあるのが分かるのだった。

 

ぴいと、音がする。

 

クラウディアの合図だ。魔物である。

 

即座に戦士達が展開して、魔物を迎え撃つ。

 

かなりの数だ。

 

どれも鼬だが、群れの規模が大きい。

 

体も藍色で、足の形状から陸上に特化している種とみた。

 

あたしが詠唱している間に、レントが突貫して、敵を蹴散らす。クリフォードさんが投擲したブーメランが、鼬を横薙ぎにへし砕く。セリさんが植物の魔術で、鼬を空に放り上げる。

 

クラウディアの矢が相当数を仕留めるが、それでも突貫してくる鼬の群れ。

 

大きいのがいる。

 

あれが最初に此方の出方を見る為に、小さいのをけしかけた。

 

マザーと呼ばれるメス個体が仕切る鼬があたし達のいる辺りでは普通だが、鼬は彼方此方に適応している魔物で、生態もかなり違う。

 

この辺りでは、大型種が小型種を使役するのか。

 

いずれにしても、詠唱は完了。

 

あたしは、空に二万の熱槍を出現させていた。

 

度肝を抜かれた魔物も戦士も、空を見上げ。

 

それが、鼬たちには致命打になった。

 

「今日の天気は……曇りのち隕石!」

 

一発一発が、石造りの家屋数軒を融解させる熱槍が、文字通り驟雨となって降り注ぐ。詠唱の時間を作ってくれたおかげで、レントが前衛で押し切られることもなく、敵をこうして食い止められた。

 

文字通り烈火の灼熱地獄が目の前に出現する。熱風が上昇気流を作り出し、悲鳴を空に押し上げた。

 

それが収まったときには。

 

大型の鼬も。

 

小型の鼬も。

 

群れごとロストしていた。

 

制圧完了だ。

 

毛皮などは惜しかったが、あの規模の群れとなるとそうも言っていられない。もしも前線を喰い破られていたら、死者が出ていた。それを考えると、殲滅は当然。しかもあの様子だと、人間の血の味も知っていただろう。

 

殺す以外に、選択肢は無い。

 

「点呼。 負傷者を確認」

 

「は、はいっ! 点呼をしてください! 負傷者は!」

 

あたしが促すと、あわててフェデリーカさんが呼びかける。

 

経験が浅いな。

 

あたしは、あたふたしているその様子を見て。やはりこの子はお飾りの首長なんだなと、理解していた。

 

 

 

夕方近くに、言われていた集落による。

 

それなりにものものしく外壁を石壁で固めている集落だが、中央にある水車は、無理に川を引き込んでいることもあるのだろうか。

 

いびつで、更には錆びだらけで。

 

厳重に警備しているのに、それで何か役に立てているかというと、そうとは思えなかった。

 

家屋の一つを借りたので、レントとクリフォードさんに釜を運び込んでもらう。あたしはというと。

 

水車の中身を見に行った。

 

警備の戦士は、フェデリーカさんが声を掛けると、通してくれる。内部はひんやりしていて。

 

まだかろうじて動いている歯車が、ぎしりぎしりと異音を立て続けている。

 

なるほど。これだけで、この水車が寿命寸前だと言う事がわかる。

 

水車というのは、普通は水が流れる力を利用して、水車を回し。それで色々な事をする。これが意外に難しく、水車を回す仕組みも色々な工夫がいるし。更に歯車を回した力をどう利用するかも色々と工夫がいるのだ。複数の歯車を用いて、回転の力を縦にし。それを利用して、臼などを動かすケースも多い。そうすることで、小麦を粉とかに変えたりするのだ。

 

東方にあるライスというものを、これである程度脱穀という作業をすると聞いたこともある。

 

風を利用した風車でも同じような事が出来るのだが。水車の場合は風の機嫌しだいな風車と違って。

 

安定して回し、力を得られるところが違う。

 

あたしが今見ているのは、歯車の回転の仕組みを、大気中の魔力を取り込んで何倍にも増幅する水車だ。

 

ゼロから力を生み出す訳ではないのだが。

 

生み出した力を何倍にも増幅している。

 

それも、どうやってそれをやっているのか分かっていない。フェデリーカさんが不安そうに見ている中で、釜を運び終えたレントを呼ぶと。

 

光学式のコントロールパネルを呼び出して、一旦水車をとめる。

 

元々止まり掛かっていたのだ。

 

とめてから、歯車を順番に外し。内側にあったコアとなっているエネルギー源を取りだす。

 

フィルフサのコアではないが。

 

これは多分、魔石を圧縮したものだな。

 

「魔石ギルドなんてものがあるってことは、この辺りでは魔石がたくさん採れるんですか?」

 

「はい。 硝子の材料と同じで、鉱山から採れます。 鉱山も多くて、簡単には枯渇しないと思います」

 

「……だから魔石にしたんだろうな」

 

「ライザリンさん?」

 

フェデリーカさんには、ライザでいいよとはまだ言えない。

 

相手は形だけとはいえ、今人間の世界で珍しく勢いがあり発展しているサルドニカの首長だ。もう少し様子見をしてからである。

 

すぐに調整に入る。

 

歯車も傷んでいる。歯車を回すための柱もである。これらを、全て調整し直す。

 

エーテルに放り込んで、全部要素を分解し、組み立てを再開する。釜にエーテルを満たし、放り込んだものを再構築していく様子を見て、フェデリーカさんは度肝を抜かれているようだった。

 

ゴルドテリオンは相応の品質のものがあるので、これを惜しみなく使う。

 

ただし表面はコーティングする。

 

これは盗難を避ける為だ。

 

それに加えて、持ち込んでいる粗悪品とはいえセプトリエンを用いて、コアを使う。

 

まだセプトリエンは、最初に手に入れて一年が経過する今も、研究の途上だけれども。

 

こうやってエネルギー源にする事は、難しく無くなっている。

 

とにかく細かい世界を調査している今。

 

セプトリエンが、超圧縮された魔石の一種である事は、なんとなく分かってきている。ただし、その超圧縮のプロセスが分からない。

 

魔力を圧縮しすぎると普通は爆発する。

 

それが起きずに魔石になり。更に圧縮が進んでセプトリエンになるプロセスが、まだ未解明なのだ。

 

ともかく、セプトリエンを使って動力源を用い。

 

てきぱきと組み立て直す。

 

レントとクリフォードさんに力仕事を頼んで、水車を直していく。

 

やがて組み立てが終わると、光学式コントロールパネルを起動。再起動させた。

 

水車が、ぐんと動き出す。

 

今までダラダラ動いていただろう臼が、一気に元気になる。

 

驚いたのは、フェデリーカさんだけではない。護衛の二人が、思わず目を見張っていたほどだ。

 

「すぐに水車での作業待ちの物資を!」

 

「は、はい!」

 

フェデリーカさんが声を掛けると、下っ端の職人らしいのが走っていく。そして、生き返った水車を見て喜んでいた。

 

物資が。多分小麦が投入されている。

 

ガンガンそれらが回されて、粉にされているのが分かった。

 

後は、誰でも分解できるものだろう。

 

クラウディアを呼んで、口述でマニュアルを作ってもらう。そして、フェデリーカさんに手渡して。

 

更には自分で実演して。フェデリーカさんにも実施して貰った。

 

「誰にもどうにもできなかったのに、こ、こんな簡単に……」

 

「これはそもそも、錬金術によってテクノロジーの中核が組まれていたので仕方が無いです。 錬金術は、既に失われて久しいので」

 

「……やはり貴方を呼びに行ったのは正解でした。 最初は殆どダメ元のつもりだったんですが。 最悪、魔物の退治だけでもと思っていた事は詫びさせてください」

 

「いえ、そうだろうとは思っていましたので、大丈夫ですよ。 それにあたしの方でも、色々利がある話ですので」

 

フェデリーカさんが頭を下げるで、ちょっと恐縮する。

 

相手の方が年少とは言え、そもそも立場的に首長。それがきちんと頭を下げられるのは偉い。

 

一晩、集落で休んで、サルドニカに向かう。

 

後二日、というところだった。

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