暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
城攻めで一定の戦果を上げましたが、フィルフサもやはり戦略的に機動してきます。
此処からがまだまだ本番だといえます。
しかし其処に、オーレン最強の戦士が来るのです。
薬を補充すること。クリフォードさんが察知した、ウィンドルへの襲撃を防ぐためにも。一度ウィンドルへ戻る。
城は内部をセリさんが植物塗れにして、少しでも入り込むと水が大量に溢れるようにしてくれた。
これで少なくともフィルフサは動けない。
激しい戦いの後だ。
全員疲労も激しいが。
ここに来て、フェデリーカの神楽舞が大きな意味を持ってくる。
あの戦いの中、フェデリーカは立ち位置を工夫し続けて、ほぼ無傷で乗り切った。やっと防御と回避でも芽が出てきたというところか。
その結果、神楽舞が全員の力を上げ続け、勝利につながったし。
何よりも今も走る余力ができている。
途中で、手をかざしてみる。
大きな堀を挟んで、フィルフサとウィンドルの里で戦闘が起きている。規模はそれほど激しくは無いが、雨の中でもフィルフサは戦意が旺盛だ。
やはりこれは、何かが裏で操作しているだろう。
その時。
敵の中で、竜巻が巻き起こる。
ボオスが、足を止めていた。
間違いない。
あたしにもあれは一発で分かる。
オーレン族最強の戦士であるキロさんが、大暴れしているのだ。フィルフサが吹っ飛ぶ。砕けて飛び散る。
やがて、フィルフサは攻勢を諦めて、後退していく。
どうやら、支援は必要ないようだった。
ただ、此処でも負傷者の救出がいる。
すぐに野戦病院に出向く。
薬は使い切るつもりでいかないとダメだな。そう思いながら。
そして野戦病院に行くと、子供や老人のオーレン族が、それなりの数いた。やはりキロさん、道中で孤立していたオーレン族を救出して回っていたのだ。みんな手酷い傷を受けていたり、弱り切っていたが。
「クラウディア、粥を作って。 水の煮沸はあたしがやるよ。 薬はアトリエから出すだけ出して、全部使ってかまわない」
「よし、誰も死なせない!」
「おおっ!」
皆が手慣れた様子で散る。
フェデリーカももうあわてていない。ディアンは力仕事を受けて立つ。ボオスもあれだけ失血した後だが、それでも的確に動く。
あたしは大釜で煮沸をどんどん済ませる。
まずは自分の手足から綺麗にしなければならないが。これは治療の際に、清潔を保つためだ。汚れから怪我人に病気でもうつったら笑い話にもならない。
あの戦いで、手傷をたくさん受け。血も流し、汚れもした。血は病気の要因になりうるものだ。
こういうことは、エドワード先生に散々仕込まれた。あたしの技は、多くの人に起因している。神代の連中のような、自分が偉いから技が凄いとか思い込みはしない。あたしに教えてくれた人達が凄いのだ。
怪我人が運ばれてくる。
腹に大穴を開けられている戦士がいる。瀕死だ。他にも酷い手傷を受けている戦士が多かった。
キロさんが来る。
あたしを見て、頷いた。
頼むというのだろう。
キロさんは相変わらず寡黙で、必要な事以外は喋らない。煮沸した湯をどんどん配って欲しいとだけ頼む。
後は、それぞれ慣れた人間がやる。
あたしはまず丁寧に薬を使って指先まで完全に動くようにすると、怪我が重い人から処置を始める。
腹に大穴を開けている人は意識もかなり薄れていて危険な状態だ。
というか、人間だったら死んでいるだろう。
オーレン族のタフネスには舌を巻かされる。
ただ感心するより先に、助けなければならないが。
薬を複数種類ねじ込んで、まずは傷を塞ぎ、内臓を修復する。修復するか少し心配だったが、大丈夫そうだ。
流石はオーレン族。
そのまま、一つずつ手当をしていく。
この人は右手も肘から先を失っていたが、それは一旦止血のみ。右手は回収出来なかったそうだし、どうしようもない。
後で義手を作るが、それは後だ。
命をまずはつぎとめるのだ。
呼吸安定。
心音も。
意識は戻らないが、命の危機は脱した。次。
順番に手当をしていく。その間に、カラさんが何があったのか聴取をしていた。
それによると、キロさんが三十名ほどの孤立していたオーレン族を連れてウィンドルに到着。
だがそれを追ってきたフィルフサの群れが、襲いかかってきたそうである。
なるほど、ここに来て増援か。
ただそれが、あの城に潜んでいる可能性が高い悪魔もどきの手によるものなのか、或いはフィルフサの王種がそういうしつこい奴だったからかは分からない。
今は手当てを順番に済ませていくしかない。
夜中まで手当てが終わり、そして終わった後は風呂に入って、大量に作った粥の残りをがっつく。
ずっと生命力強化のために神楽舞を続けていたフェデリーカも疲れ果てて、完全に死んでる。まあベッドの中で死んだように眠っている。
あたしも寝ることにする。
こういう疲労が限界に来ているときは、夢なんかみない。
起きだすと、もう朝だった。
軽く体を動かしていると、キロさんが来る。
久しぶりだ。
グリムドルには時々足を運んでいたから、顔を合わせてはいたのだが。今回の一件が始まってからは、なかなか。
体操をしながら、話を聞く。
「リヴドルにも足を運んだの」
「リラさんの故郷でしたね」
「ええ。 フィルフサに踏み荒らされてもうなにも残っていなかったわ。 他の聖地も殆どダメよ」
「……」
それでも、各地で孤立して生き延びていたオーレン族を助けて回ったのだ。
キロさんは立派だ。
既にキロさんには、人間との交配に関する危険性の話はしてある。後は、こっちが此処での戦況を話す版。
それと、門を開けてあるから。
帰りは一瞬でいけると言う事も。
「なんなら今戻る事だって出来ます」
「そうね、グリムドルも心配だし、それもいいわ。 でも、今はちょっとウィンドルを守らないとね」
「キロさんほどの手練れがいれば心強い。 問題は……」
追撃してきた群れだ。
あれを蹴散らさない限り、ウィンドルから再び動けない。東側から来た群れだが、動き次第では城のフィルフサに合流しかねない。
戻る前に、城の地上部分は調べて、神代鎧は全て破壊し尽くしてきた。
だから敵の戦力は地下部分だけ。
クリフォードさんによると、恐らく地下に王種がいるということだから、それを倒さない限りは勝ちにはならないし。
あの神代鎧のカスタムタイプがまだ地下にいる可能性も高いのだ。
しかもみんな疲弊が激しくて、ちょっと動けないだろう。
今日一日は、残念だが様子見しかなかった。
さて、あたしは席を外す。
珍しく早く起きてきたボオスが、キロさんと話したそうにしていたからだ。
二人の間を邪魔するつもりは無い。
アトリエに入ると、疲れた肩を揉みながら、薬を補給する。またレントの大剣を含めて、痛んだ武器の手入れも進めた。
黙々と作業を進めていると。
パティが口を押さえて、真っ赤になっていた。
まあなんかあったのだろうと思ったので、引き戻しておく。
「ゆ、指輪渡してました」
「へー。 あたしは頼まれなかったし、自分で買ったんだろうね」
「素敵ですね……」
「ボオスは結構即断即決だね。 キロさんと一緒になったら、とにかく後が大変だって分かってるだろうに」
まあ、その辺りをどうするかは聞かない。
ボオスが話すつもりになったら聞くだけだ。
あと、キロさんのために薬も作る必要があるか。以前キロさんには髪を貰っているので、体質に合わせた薬は作れる。ボオスの分もあるから、より危険度は減らせるだろう。
即座に二人が婚姻するかは分からないが。
それはあたしが口出しすることではない。
戻って来たボオスが、パティの様子を見て呆れていた。
「まあ見られたのだろう事は分かるが、あんただってタオと帰ったら結婚するんだろう」
「ま、まあそうなんですけれど、素敵だなって」
「すぐには結婚出来んよ。 あれは婚約指輪だ」
「……」
真っ赤になって口をつぐむパティ。
かわいいもんだな。
ボオスは頭を掻くと、あたしに順番に話をしてくれる。
やはり結婚はボオスがまずブルネンの家を継いでからになる。更には、結婚してもキロさんにクーケン島に来て貰うわけにもいかない。
ボオスがグリムドルに住む訳にもいかないので、通い婚になるだろうと。
そういう意味では子育てとか色々と負荷が増える事もある。
クーケン島とグリムドルで交友をするプロジェクトを、ブルネンを継いでから立ち上げて。
それが軌道に乗ってから結婚。
まあ、最低でも十年はかかるそうである。
「キロさん、話は受けてくれたの?」
「ああ。 今の俺が相手ならかまわないそうだ」
「そう、良かったね」
「相変わらず蛋白だなお前……お前くらいの年だと、大喜びしそうな話題なんだが」
そう言われてもな。
女が全部恋愛脳だと思われても困る。あたしの場合は最初から興味が薄かったし、今は性欲が綺麗になくなったこともあって他人の結婚はそれこそどうでもいい。
幸せになるのならそれは祝福するが。
それに対して自分はどうとも思わない。
ただそれだけの話だ。
「分かってると思うけれど、子供を作るときには連絡してよ。 母胎に与えるダメージの件は話したよね」
「分かってる。 俺にとってキロさんは何よりも大事な存在だ。 早死になんてさせてたまるかよ」
きゃっと黄色い声をパティが上げて、咳払いして視線を背ける。
この子だって帰ったらタオと結婚するのに。
ボオスとこの辺りはちょっと意見が一致するか。
怠いから寝る。
そう言って、ボオスはベッドに戻る。
まあ、幸せなら良い事だ。
問題はまだまだ苛烈な戦いが控えていると言う事だ。それに、相手がという点では、フィーも。
フィーについては、最後の一体だった場合はどうするか。
今まで、フィーの同族の遺骨は見つけて、それについてはエーテルに溶かして幾分か分析した。
今後ドラゴンが世界を渡る時、フィーの同族がいないと竜風が巻き起こるし。それはどこで起きるかしれたものでもない。
ウィンドルだけでドラゴンが世界を渡らないのは、王都近郊の自然門の存在で明らかであるし。
それを考えると、フィルフサを駆逐したあと。世界を元に戻す過程で、フィーの同族は再生しないといけないのだ。
卵とかどっかにあっても、つがいが一つだけでは増えるのは無理だろうしな。
やはりある程度まとまった数を調合するしかないだろうな。
生物の調合は禁忌になるかも知れないが、こればかりはやむを得ない。
もう生物関係の錬金術は、あたしは色々手を染めているし。道を誤らなければいいのである。
これに関しては、シビアに考えて行くしかない。
間違っても、神代の錬金術師どもと一緒になってはいけない。
自分にそう言い聞かせることで、自制をしていくしかなかった。
薬を調合しながら、そんな事を考える。
今日は起きだすのもみんな遅くて、昨日の激戦と、その後始末の疲弊がよく分かる。フェデリーカは、あたしを見て呆れていた。
「遺跡を貫くような蹴り技を放って、その後大暴れして、その後も野戦病院で腕が八本あるような活躍して、なんで朝一番からがっつり起きてるんですか……」
「なんだかあたしが化け物みたいな言いぐさだね」
「い、いえっ……」
「流石にあたしも昨晩は疲れてぐっすりだったよ。 それに太鼓持ちよりも、いいたいことは言える方がいいと思うから、気にしないから大丈夫」
少し遅めの朝ご飯を食べる。
茶化すつもりもないので、ボオスとキロさんの話はしない。
あたしからは、だ。
ボオスが。ぼそりとキロさんにプロポーズして、その後の具体的な話をしたことを告げると。
主にリラさんが驚いていたが。
セリさんは、そうとだけ流していた。
セリさんは王都でも畑を作ったりで、人間と交流している時間が長い。勿論人間を良く思ってはいないだろうが。
あたし達と一緒に冒険をするうちに。
まあそういう事もあるだろうと受け入れてくれたのかもしれなかった。
食事を終えると、明日に向けて、皆調整をしてもらう。
まずは、キロさんらを追ってきた群れを駆逐する。
その後、再び城への挑戦だ。
セリさんは植物魔術で、生やした植物の事をある程度把握できる。城の地上部分に、敵が再浸透している形跡はないという。
敵の被害も想定以上に大きかったのかも知れない。
楽観は危険だが。
客観は大事だ。
雷神の石を投入して、大雨を降らせる。
キロさんを追撃してきた群れは、幸い王種もいない。将軍数体がいたようだが、それも大半が昨日の戦いで倒れ。最後の一体が、ウィンドル周辺で屯していただけだった。
妙な動きだ。
フィルフサがこんな、将軍数体だけ突出させることは考えにくい。
大侵攻でも、こう言う動きは無い。
そうカラさんは断言。
あたしも知っている限りでは、フィルフサは群体としての動きをする。それはつまり役割をもった個体がそれぞれの仕事をするという事で。こんな雑多な追撃戦なんて、人間の群れみたいな動きをするのはおかしいと言う事だ。
それも雨の中を。
まだ今までの戦闘による雷神の石の効果は残っていて、それで雨は降っていたのに、追撃してきていた。
それだけでおかしい。
フィルフサに取っては猛毒だ。
連中は見境なしに殺戮をするが、それは文字通り地ならしであり。地面を更地にするためのものだ。
それを考えると、フィルフサの行動はおかしすぎる。
ともかく、将軍を囲んで倒す。
それほど強い将軍ではなかったが、それ以上に雨に依る弱体化が大きい。あたし達はほとんど見ているだけで、ウィンドルの戦士達が片付けてしまった。
「雨があると、フィルフサもこうも弱体化するか」
「助かったぞライザ殿。 負傷者も最小限だ。 いただいた薬だけでどうにか対応できるだろう」
「分かりました。 では、後は任せます」
「行ってらっしゃい。 此処は守っておくわ」
キロさんが軽く手を振って来る。
相変わらずだ。
ボオスに対してはにかむようなこともない。まあこの辺り、キロさんの実年齢がよく分からない事もある。
リラさんと同年代だったら適齢期なのだろうが。
それにしたって、調査はしたものの、まだまだオーレン族がどれくらいの周期で子供を作るのかも、何歳くらいで性成熟するのかもよく分からないし。
獣みたいに発情期だけ子供を作る可能性もある。
もうちょっと資料と研究時間が欲しいのだが。今はそれに時間を割いている余裕がないのだ。
だとすると、ボオスが生きている間に子供ができない可能性もあるが。まあ、それもボオスが選んだ人生である。
最悪、養子でもとるか。
頼まれたら、あたしが二人の子供を調合しないこともない。
さて、此処からだ。
城に出向いた後は、まずは各部屋を確認。地上部分の安全は既に確認してあるのだが。問題はその先だ。
やはり資料などがある部屋は、全て鍵が掛かっている。
強引に扉を蹴り砕くことは可能だが、内部で何かセキュリティが発動して、全部焼き尽くしたりとかしかねない。
「扉で封じられた奧に神代鎧とか隠されていない? 地下に踏み込んだタイミングで背後を強襲されると厄介だよ」
「それもそうだけれど、例えば毒液とかがたくさん蓄えられていて、それを一気に流されたりしたら……」
クラウディアがもっともな懸念を口にするが。
多分それはなさそうだ。
一昨日の戦いで、勝機がなくなったタイミングでそれをやってきている筈である。
そうしなかったということは。
恐らく、封じられた先には武器や危険物はないし、指向性をもってあたし達にぶつける手もない。
とりあえず、地上部分は問題なし。
セリさんに植物をどけて貰って、地下に。
レントとクリフォードさんが先頭になって進む。クリフォードさんは、溜息をついていた。
「やっぱりロマンの欠片もねえ。 技術力を見せびらかすみたいな造りだ」
「此処は多分旅の人が関わっていないし、それも仕方がないと思いますね」
「そうだな……」
フォウレにあったあの城。
空中回廊とかには、クリフォードさんが興味を示していた。
紅蓮の話によると、あれは作成に旅の人が関わったようだし。多分作るだけ作ったもので、後から神代の錬金術師どもが好き放題したということなのだろう。
階段を下りると、地下にしては妙に明るい空間が拡がっている。フィルフサの気配もない。
音魔術で探査するクラウディアが、妙ねと呟いていた。
「神代鎧もいないわ」
「確かにおかしいな。 一昨日の時点では、かなり旺盛に地下から仕掛けようとしてきていたのにな」
「フィー!」
懐でフィーが鳴く。
全員が緊張するが、これは警告の声じゃない。
むしろ恐怖の声だ。
あたしは大股で歩いて行くと、そこには部屋があった。また硝子の円筒形のケースだ。たくさん、フィーの同族の骨だと一目で分かるものが浮かんでいる。
他にも色々。
恐らくはオーリムの生物だっただろう骨が、無数に浮かんでいた。
「フィー、ごめんね。 弔いは、この下にいる王種と……いる可能性が高い悪魔もどきを仕留めてからね」
「フィー……」
この辺りでも、フィーの同族の骨はたくさん見つけたが。
まあ、門の技術を完成させるためであったら、それは確かにやりたい放題をしただろうなと分かる。
そもそもだ。
フィーの力はそれなりに優れているが、一体や二体で、エンシェントドラゴンが門を開ける時のパワーを流しきれる訳がない。
エンシェントドラゴンの魔力は、今のあたしの。錬金術の装飾品で強化に強化を重ねたものを更に凌ぐ可能性さえある。
多分彼等は技術なんて必要とせず、魔術だけで門を開けているのだ。そう考えると、人間がどれだけ背伸びしても及ばないだろう。
最低でもフィーの同族が数百体は「竜風」を食い止めるには必要だし。
種を保つための個体数としても、それくらいはいる。
それが殺し尽くされたとすれば、この惨状は納得もいく。
あたしは気持ちを切り替える。
怒りは後だ。
それに此処、扉がついていない。それほど重視されていなかったと言う事だ。奴らは解析したものには興味を持たなかったのだろう。
テラフォーミングだとかいって、自分が気に入らないものは全て駆除する事を本気で考えたような連中だ。
今は、ともかく。
そんな事を考えたゴミカス共を、駆除する事を先にしなければらない。