暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
千三百年ほど前。
ネメドの自然門からウィンドルに侵入した神代の錬金術師達が、此処で何をしていたか。実験の記録が残されていた。
タオは淡々と読み進め、それをメモに書き加えていく。
反吐が出る話も多いが。
できるだけ冷静を保つ。そうしないと、客観的な情報など得られないからである。
客観は大事だ。
人間は油断すると、すぐに主観で判断する。立場がある人間が、感情でものごとを決めるようになるとおしまいだ。
バカみたいな理由で命を奪う。それもたくさん。
タオはその真似はしない。それらの行動を肯定もしない。立場が上だから何をしてもいい。
そう考える人間が出ると、その社会は終わりだ。その場で終わらなくても、いずれ確実に終わる。
ロテスヴァッサだって、ライザが直接王都に訪れなければ、いずれ腐敗の末に壊死していただろう。
今の時代、あれほどの規模の都市が潰れていたら、人類に再起の芽があったとはとても思えない。
だからこそ。主観で判断するようにならなければならないのだ。判断に感情を持ち込んではいけない。
ライザですら、ルシファーを殺す判断は、恐らくあれが有害なだけだと判断したからだろう。
それについては、幼い頃から悪ガキとして一緒にライザと行動していたタオだ。良く理解出来ている。
ライザはとにかく恐ろしい所も増えてきているが、根底では変わっていない。変わっていないからこそ分かる。
ライザは神なんかになるつもりはない。
強いていうなら、なるのは魔王にだろう。
全てのものにあまねく罰を下す存在。全ての者に怖れられる存在。
今は弱者にあまねく手をさしのべている。
だが、それもいずれは行動方針が変わるのかも知れない。だが、それで神代が再度繰り返されないのであれば。
そもありだろうと、タオは思う。
「おっ。 これは……」
「クリフォードさん、何か見つけたんですか」
「ああ。 ちょっと面白いぞ。 神代の錬金術師共は、奴らなりに四苦八苦していたらしい。 その過程の一つで、竜脈からの効率的な魔力の回収方法って論文を書いてやがる」
「なるほど、それは決定的ですね」
つまりだ。
やはりこんな論文があると言う事は、旅の人が持っていた竜脈からの力の回収技術は、神代の錬金術師には再現できなかったのだ。
旅の人を殺したか幽閉したか。
テクノロジーを略奪して実権も奪った神代の錬金術師は。
自分達が万能だと思い込んでいたが、いざ調べて見ると、中核のテクノロジーを幾つも取りこぼしていることを知ってしまった。
それで彼方此方であわてて試行錯誤した。
それも手持ちのテクノロジーを組み合わせて、それでどうにかできないかやってみたのだろう。
オーリムに手を出したのも、恐らくはその一環。
考えて見れば、竜脈をオーリムで自在に操れるようになったと言うのも怪しい話である。フィルフサはその技術を用いて狂気の源泉を装着して操れるようにしたようだが。それにしてはさっきの遺跡では。古代クリント王国と大差ない程度の装置を用いていたではないか。
他にも物的証拠がボロボロ出てくる。
幾つかの難しい公式を解こうと四苦八苦している様子。タオは少し考えて見て解き方が分かったが。神代の錬金術師は解けなかったようだ。
普段はからくりに解かせていたようで。
つまり旅の人が作ったからくりは、神代の錬金術師よりも頭が良かったことになる。
この公式だって、もとは誰かが考えて解いたのだろう。多分混沌の時代の人なのだろうが。タオだってその頃は別に天才でもなんでもなかった可能性が高い。逆に言うと、混沌の時代には幾らでもいた程度の人間にすら、神代の錬金術師は及ばなかったのだ。
内心では、自分達が神に等しいどころか、遠く及ばない事を彼等も理解していたのだろう。
だからこそ焦った。
そんな理由でと思うと、激しい怒りもこみ上げてくるが。まあ、それについては今はいい。
解読を進める。
アンペルさんが来たので、交代。座標を集めに回る。とにかくデータを増やしておいた方が良いだろう。
あと少しで、解析できそうな数値がある。レントとボオス、リラさんの護衛なら、フィルフサが減っている今はもう問題がない。ただそれでも油断は禁物だ。座標集めに集中できる。
「やっぱりこの最後の数値、竜脈からの距離の可能性が高いな……」
「タオ、分かりそうなのか」
「うん。 ただ、分かっても問題なのは、神代の本拠地の座標なんだよね。 何かしらの方法で隠蔽されているのか、それとも」
あの群島の奧の宮殿の石碑には、座標らしい数値が刻まれていたが。あれが正解と考えて良いかまだ結論が出ない。
徹底的に調査をして、判断はそれからだ。
丘を上がりきる。
此処はドラゴンが時々足を運び、それで羽を休める場所であるらしい。フィルフサに荒らされ放題だったが。
この間の遺跡に向かっていた群れが崩壊した事で、此処がついに解放されたと言う事だ。
此処からの景色は、元は素晴らしかったんだろうな。
ウィンドルの周囲はまだ緑がある。
だが遠くは空も濁っているし、地面もウィンドルから離れるほど茶色になっていく。フィルフサは植物の存在も許さない。水ですら、あらゆる手段で無くそうとする。
全てを更地にした後、自分達すら滅ぶ。
そんな生態を作り出すのは、狂っているとしかいえない。
嘆息すると、座標集めに戻る。
ライザはきっと情報さえ集めれば何とかしてくれる。そうタオは信じる。ライザの頭は空間把握という観点ではタオを遙かに凌いでいて、それが錬金術の深奥に近付いている理由なのだと思う。
ただ、ライザが錬金術の深奥に到達したら。
今でさえ人間離れしているのが、もう完全に人間ではなくなるだろうな。
そういう予感も、あるのだった。
(続)
既に人間離れが始まっているライザですが、その加速が酷くなっています。
これも錬金術を極める存在に必ず訪れる業です。
そもそも才能依存の学問である錬金術を正しく使うには。
使い手が人間であるままでは、不可能でしょう。
必ず我欲に基づいて悪事を働きます。
故に。
超越錬金術師は、「人」であってはならないのです。世界そのもののためにも。