暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
難攻不落を誇った神代の遺跡を陥落させ、其処に巣くっていた「悪魔の王」を撃ち倒したライザ。
神代の深奥に迫ります。
まだウィンドル近辺には手つかずの神代の遺跡がある。
それを調べ上げたとき。
ついに相手の喉国に手が掛かるのです。
それはそれとして、サルドニカの百年祭がそろそろ始まる時期です。
フェデリーカのためにも、足を運ぶ必要があります。
序、戦後処理と
遺跡から持ち出して来た資料などをアンペルさんとクリフォードさんが解析し、タオが座標を集めてくれている。
あたしは消耗した爆弾や薬を補充しながら、結果を待つ。
アンペルさんが後でまとめて報告すると言っていたので、色々分かったと言うことなのだろう。
キロさんは旅だった。
ボオスはそれについても何も言わない。
分かっている。
キロさんは指輪の文化を聞いて、躊躇なく身に付けた。それだけで、充分だということだ。
あの人も嘘なんかつくようには見えなかった。
ボオスの思いは報われたのである。
ただし、キロさんも霊祈氏族の精鋭として、やらなければならないことが残っている。それを片付ける。
それぞれにやる事がある。
オーリムは神代の錬金術師と、更にその被害を拡大させた古代クリント王国のせいで、今も殆どの地域が地獄絵図なのだから。
これがオーレン族ではなく人間だったらとっくに滅んでいただろう。
「ライザよ、よいか」
ひょいとカラさんが顔を覗いてくる。
あたしもそろそろ休憩と思っていたのでかまわない。調合を一段落すると、言われたままついていく。
話を途中でされる。
「わしの後継の話があったそうじゃのう」
「ええ。 でも良く知っていますね」
「後継の話そのものは二百年も前から出ておったからな。 わしも年だし、何よりもいつ死んでもおかしくない」
それはそう。
この環境だと、ウィンドルの守りとして、奏波氏族の族長を常に指名しておかないといけないだろう。
本当にいつフィルフサに殺されてもおかしくないのだから。
「実際の所、わしの跡継ぎはおらん。 オーレン族はあんまり血縁での相続を行わないし、血縁がものをいうとしてもわしの子らはもうこの世にはおらんしな」
「……」
「ライザよ、そなたの言いたいことは分かっておる。 そなたは誰かしらの勢力に荷担するつもりは無い、のであるな」
「そういう事です」
カラさんの言う通りだ。
ウィンドルの集落の縁に来る。
深い溝が掘られていて、水もゆったりと流れている。多少のフィルフサくらいは、飛び込んでも押し流されるだけだ。
オーリムの海にも、大きな魚はいるらしい。
海の生態系もダメージを受けているそうだ。
陸の生物の破滅が、海にも大きな影響を与えることはある。
川と海を行き来する生物は、栄養を海から川へと運んでくる。一部の魚なんかがそうだ。そういう魚を人間や他の動物が食べて。その栄養は自然へと行き渡りもする。
それだけではない。
逆に陸から海へと流れる栄養もある。
陸がフィルフサに更地にされている現状は、決して海にとっても良い事ではないのである。
「神代の錬金術師と同じにならないために、真逆の道を行くのだな」
「そのつもりです。 あたしはある程度時間が経過したら、この世界を去るつもりです。 人間としては、ですが」
「人として生きるつもりはないが、人が好き勝手をするのを許すつもりもないと言う訳であるな」
「はい。 都合が良いときだけ弱肉強食論を振りかざすような阿呆と一緒になるつもりはありません。 責任を果たせない人間には都度消えて貰います」
それは何も人間だけの話では無い。
今でこそオーレン族は自然と融和した温和な種族だが、社会が爛熟したらどうなるか分からない。
オーレン族だって、その対象になる。
何となくだけれども、あたしには混沌の時代というのがどういう世界だったのか分かるのだ。
それは恐らく、色々な価値観があって。
社会は豊かだけれども行き詰まっていて。
巨大な利権が社会を動かしていて。
きっと世界が滅んだのも、ただ利害の調整が上手く行かなかったとか、そんなくだらない事。
ただ一つの良心が旅の人を作り出さなければ、世界はそのまま滅びていた。
旅の人は生きているにしても死んでいるにしても、何とか足跡を辿って見つけ出したいと思っている。
あたしは人間を信用しない。
種としての人間を、だ。
旅の人は種としての人間を信じるという、最大のミスを犯した。人間は恩義など殆どの場合では感じない。自分より上か下かで相手を判断している場合は、恩を受けたら逆に激高する。
そんな程度の生物であることを忘れ、素晴らしい霊長か何かと考えていた。
その考えがまずかったのだ。
だから場合によっては、どこからでも確実に殺しに行く存在が必要だ。
あたしはそれになる。
王だろうが最強の戦士だろうが、許されざる行為に手を出した瞬間、首を刈り取る。
それこそ、魔王とでも呼ぶべきだろう存在。
それがあたしの目標点である。
「相変わらず苛烈よのう。 そなたの熱魔術とその性格、相互に影響し合っているようだわ」
「そうですね。 あたしも今では、この熱魔術以外はあまりぴんと来ません」
「……神代の錬金術師どもまでの道は、恐らく間近であろう。 奴らを滅ぼしたあと、そなたが人間でいられる時間は恐らく長くは無いぞ」
「もう人間ではないかも知れないですね」
苦笑する。
そしてあたしは。
別に人間であることに、今更価値など見いだしていない。
人間は混沌の時代に世界を滅ぼし。世界を復興させた人を裏切り。他の世界まで巻き込んで滅ぼしかけ。
それだけやらかして全てを忘れた挙げ句、当然今でも反省など全くしていない程度のさもしい生物だ。
その程度の生物が万物の霊長などと言うのは片腹痛い。もしもそう名乗るなら、それ相応の事をやってのけてからだろう。
それができない以上。
誰かが監視しなければいけないのだ。
それには欲や贔屓は必要ない。
それだけだ。
「はあ。 わしもそなたがそんな風なところまでいってしまわなければ、後を押しつけて楽隠居といけたかもしれんのだがのう」
「諦めてください。 まだカラさんの力は、奏波氏族に必要です」
「そうか。 そうじゃな……」
遠くを見る。
雨がまだじとじとと降っているが、フィルフサの活動を鈍らせるには必要な事である。
パティが呼びに来る。
たまたま手が開いていたから、呼びに来てくれた。それだけだ。
カラさんも一緒に、アトリエに戻る。
数日かけての解析だ。アンペルさんの様子からして、色々分かってきたというところなのだろう。
まず、成果について聞かせて貰う。
皆で話を聞く。
咳払いすると、タオが説明してくれた。
「幾つかの資料で分かったけれど、どうやら紅蓮がいっていたことは本当だったと判断して良さそうだね」
「あの赤いフェンリルですね」
「そう。 紅蓮自身はそう呼ばれるのを嫌がっていたけれど、まあ話が分かりづらくなるからこの場ではそれでいい。 神代の錬金術師達は、およそ3000年ほど前から旅の人に付き従っていた錬金術師の子孫であるらしいんだ。 当初からあまり良くない人間達が旅の人の事は狙っていたらしくてね。 そのもたらす力を求めて、水面下でおぞましい殺し合いまでしていたらしい。 そうして、旅の人が弟子にした錬金術を使える一部の人間が、善人面をして旅の人に取り入ることに成功した。 それがおよそ2500年ほど前。 世界を復興する過程で、ゆっくり彼等は旅の人の持つテクノロジーをそのまま盗んで、自分のものとして振る舞うようになりはじめたんだ」
まあ、そんなところだったんだろうなとあたしも思う。
紅蓮は確か1800年前に旅の人と最後にあったのが最後だったといっていた。その頃には、旅の人の笑顔もすっかり消えていたそうだ。
恩知らずという言葉では足りないほどのクズだが。
そもそも倫理観念なんて持っていない人間が社会的に成功するケースが多いように、人間そのものがそういう生物だと言うだけである。
世界もろとも救われても。それを何の恩にも感じなかった。それどころか、破綻からやっと立ち直りつつある世界で、連中は我欲を優先した。
別に過酷な世界でも、人間は情なんて持たないのである。
それはあたしも、フォウレの里やクーケン島の閉鎖性を見ているから、まあそうだろうなとしか言えない。
「彼等は旅の人を金のなる木とそのまま呼んでいた。 幾つかの資料で、旅の人を直にそう呼んで、場合によってははしためとか呼んでる」
「はしため?」
「奴隷のような扱いをしている女性の事だね」
「や、野郎……っ!」
ディアンが怒りの声を上げるが、タオに怒っても仕方がない。
タオも、悲しそうにしていた。
「旅の人は長い年月を掛けて少しずつ弱みを握られていったようなんだ。 女性だった旅の人に最初は阿っていた神代の錬金術師は、色々な手段を試したけれど。 旅の人はそもそも性にも宝物にも権力にも興味を見せず、何かが好きと言うことも嫌いと言うこともなかった」
「そうだよな。 紅蓮の話から聞くと、作られた人だって言うことだし」
「うん。 だからつけいる隙はあまりなかったらしかったんだけれども、しかし旅の人は弱者を助け寄り添う思想だった。 それが弱点になった」
旅の人が救った人々。
街やら村やら。集落やら。
それそのものが人質になる。そう、神代の錬金術師は思いついた。外道の思考だが、人間には権力や金を得るためになんでもやっていいと考える奴が一定の割合でいる。我欲で他人をどれだけ殺してもなんとも思わないような輩だ。神代の錬金術師はそれだったというだけだ。
そうして人質を取ることで、神代の錬金術師は旅の人と立場を逆転させた。
世界が滅ぼうが神代の錬金術師にはどうでも良かった。
自分達だけが豊かに暮らせればそれで良かったのだ。
まるで賊だな。
たまに頭が良い賊が、街などを裏側から乗っ取って、やりたい放題をする事があったりする。
そういう連中が、旅の人の周囲に集まったということである。
「旅の人を拘束まではできなかったようだけれど。 神代の錬金術師は籠と言われる場所に旅の人を閉じ込めて、それで情報を少しずつ引き出していったらしい。 なかなか神代の錬金術師に旅の人は口を割らなかった。 何より旅の人が自棄になって暴れたら、神代の錬金術師では勝ち目がなかったということもある。 千八百年くらい前くらいに拘束を完成させたと記録にあるから、紅蓮の証言とも一致しているね」
「ライザさんが皆殺しって言い出したときはちょっと怖くなったんです。 でも……私ももう正直擁護しようがありません」
フェデリーカが悲しそうにいう。
まあ、それでいい。
それでも神代の錬金術師を擁護するような連中がいるなら、あたしが首を蹴り砕くだけだ。
エゴの化け物は、世界が滅びても治らなかった。
そういう話だったのだ。
「奴らは五百年掛けて、旅の人がいずれは世界を効率的に再生させるための基点とした場所を乗っ取り、自分達のための楽園に変えた。 だけれども、問題があった。 もっと色々と好き勝手にしたくなったんだ」
「化け物かよ」
レントが呻く。
文字通り何でも好きにできただろうに、それでさえ満足出来なかった。
しかもあたし達の世界だって支配していただろうに。
それでもまだ足りなかったと。
それは完全に化け物の領域だ。
手を上げたのは、パティだった。
「自浄作用は働かなかったんですか? 流石に全員が全員そうだったとは思えないんですけど……」
「いい質問だね。 たまに不適格者が出たって記録にある。 神代の錬金術師が我欲を最優先し、自分達を最高の存在として自己神格化していた事は今までの資料からも記録があったけれども。 それに反発する者は希にいたらしいんだ。 多少寿命を延ばすことはできたらしいけれども、それでも不老不死は手に入れられなかったから、どうしても神代の錬金術師も世代を交代しなければならなかった。 その過程でクズ以外が出る事もあったんだろうね
「続けてください」
「不適格者の烙印を押された人間は、地上に放逐されたらしい。 焼き印まで押されてね」
焼き印か。
まあいい。
生きている奴がいたら、全部焼き殺す。それだけなのだから。
「あまり仮説を述べるのは好きでは無いんだけれども、そういった人が、後に古代クリント王国などに伝わっていった錬金術をもたらしたのかも知れない。 旅の人が教えた救うための錬金術は、神代の錬金術師が片っ端から潰して異端の烙印を押して殺して回ったらしいからね。 其方の子孫も或いは生き残りがいたかも知れないけれど」
「まずいな、それ擁護の余地がねえな」
「うん。 神代は栄えていたように今では伝わっているけれど、単に神代の錬金術師が自分達に都合がいい場所を作って、其処に奴隷が集っていただけというのが真相みたいだ。 ともかく、更に何もかも好きにしたくなった神代の錬金術師は、旅の人の使っていた竜脈の制御と、門の制御を好きにしたくなった」
「それでオーリムに来よったのか」
そういう事ですと、タオがカラさんに答える。
溜息が出る。
その後に何が起きたかは分からない。
千三百年前にカラさん含むオーレン族に返り討ちにされた神代の錬金術師は、オーリムにフィルフサをばらまいた後は逃げ去った。
ただ、その後此方の世界で何かしていたようにも思えないのだ。
実際神代は千年前には終わっている。
これは神気取りの神代の錬金術師共がいなくなった結果、残りの土地の奪いあいが始まり、千年くらい前には多数の国家が分裂する状態が生じたからではないのだろうか。
そうタオがまた仮説を述べる。
いずれにしても、だ。
ひょっとしてどうしようもない事情があったのかも知れないとか。
或いは滅びに瀕していて仕方がなかったのではないかとか。
そういった説は、消えてなくなった。
混沌の時代というのを終わらせ、冬を到来させた連中以来のカスの集まり。それが神代の錬金術師の真相だと、これではっきり分かった。
欲のまま動くのが人間だと肯定する理屈は、世界そのものを焼き滅ぼすし。
なんなら他の世界にまで迷惑を掛ける。
それもよく分かった。
人間には、文明なんて与えるべきでは無かったのかも知れない。
最初に火を発見し制御した存在は、それは偉大だったのかも知れないが。
それがいずれ何をもたらすか迄は、考えが及ばなかったのだろう。
ボオスが咳払い。
流石に皆かっかしている状態だが。
それでも誰かが冷静でいなければならないと判断したのだろう。
「とりあえず連中の腐りきった思想と歴史は分かった。 それでだが」
「うん。 拠点のことだよね。 奴らは自分達の拠点をこう呼んでいたよ。 万象の大典とね」
「……たまに聞く言葉だよね」
「恐らくこれが語源なんだ」
万象の大典。
全ての知識の根元みたいな意味だ。今では比較的一般的な言葉として浸透しているが。神代の錬金術師が己の住んでいる邪悪な拠点をそう呼んで自己神格化する一助としていたのだとすれば。
正直そんな言葉は消し去りたくなる。
だが、まあそれはいい。
ともかく其処に攻めこむのが先である。
「場所のヒントは分かりそう?」
「……まだそれはちょっと資料が足りない。 五分五分で、あの群島の奧の石碑の座標だと思うんだけれども、あれがトラップの可能性は否定出来ないんだ」
「そうだね。 今までの事を思うとそうだと思う」
「だから、もう少し資料を集めたい」
タオが地図を拡げる。
一番の収穫を、それで示していた。
「ウィンドルの近くに、もう一つ神代の遺跡がある。 今回の資料を探していて、それがはっきりした。 位置はこの辺りだ」
「ウィンドルの西であるな」
「多分、位置がよく分からない群れの拠点だね」
「む、ここは……」
カラさんが身を乗り出す。
地図に記載された西のある地点をじっと見ていたが、やはりと呟いていた。
「此処は枯れ果ての地よ」
「知っている場所なんですね」
「既にフィルフサに食い尽くされてしまったが、「王胴」と呼ばれる巨大な動物がおってな」
なんでも大きいがとても大人しい生物で、オーレン族とも関係は悪くなかったそうである。
草食のその動物は、とにかく穏やかな生態を持っていて、栄養価の高い乳をオーレン族に提供し。
代わりに覇王樹などを提供され、理想的な共栄関係にあったとか。
彼等は年を取ると墓場に出向き、其処で果てたらしいのだが。そこが枯れ果ての地であるらしい。
そうか。
そんな神聖な場所を汚したのか。
いや、神代の錬金術師には、自分達の価値こそ、主観こそ絶対だったのだ。他人の価値なんぞどうでもよかったのだろう。墓だろうが宝だろうが、笑いながら踏みにじった。それだけだ。
今までと同じである。もう怒りも沸いてこない。あたしは顔を上げていた。
「次は此処だね。 ルシファーの末路の言葉を聞く限り、もう悪魔もどきはいない。 ただこの遺跡で何が見つかるかはちょっと未知数ではあるかな。 準備がいるね」
「あの、提案ですが」
フェデリーカが挙手。
しばし口をつぐんだあと、いった。
「そろそろサルドニカで百年祭が始まると思います。 ここのところ激しい戦い続きでしたから、その」
「気分転換か。 まあ悪くは無いだろう」
一番厳しそうなリラさんがそう真っ先にいったので、それで空気が許容に傾くが。まああたしはそんな空気なんてどうでもいい。
今は確かに気晴らしも必要だ。
それに、足を運ぶのも即座にできるのだし。
「分かった、フェデリーカも長としての仕事が色々あるだろうし、先にそっちに足を運んで気晴らしをしよう」
「ありがとうございます」
「祭か。 フォウレのとはどう違うのかな」
「暴れたりしたらダメですよ」
ディアンに、フェデリーカが釘を刺す。
まあ、しばらく戦い続きだったのだ。少しは気晴らしも良いのかも知れなかった。