暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ついに空間の壁を直にぶち破りにいくライザ。

その奧に隠蔽された神代の遺跡の厚化粧を引きはがします。


3、閉じられた遺跡の中で

ひけらかされていた超高度テクノロジーを一つずつ破っていくのは。過剰な厚化粧を剥がしていくのに似ているかも知れない。

 

あたしは爆弾を完成させ、現地に出向く。

 

周囲には泥濘の中にフィルフサの残骸が散らばっている。

 

かなりの規模の戦闘があったようだ。

 

空間の壁を一時的に破られたことに気付かれたのだろう。フィルフサがかなり来たようだが。

 

雷神の石による大雨。

 

それに奏波氏族の精鋭の支援。

 

それもあって、敵の撃退には成功していた。

 

よし、順調である。

 

まずは、此処まではいい。だが、空間の壁を破ってからが本番だといっても良い。

 

作って見て分かったが、空間固定化の爆弾は、片手間に作れるようなものではない。それこそ空間に干渉して固定するほどのパワーがいる。

 

今のあたしでも当然難しい。

 

恐らくこれは旅の人でないと確実には作れなかったのではあるまいか。

 

空間操作魔術は魔物でも使える。

 

ドラゴンに至っては独力で世界を渡る。

 

ただしそれをテクノロジーで再現出来る者は限られていて。だから神代の錬金術師は、フォウレの里にまで目をつけて。自分のモノにしたがったのだろう。

 

あたしは空間の歪みの側まで行く。

 

まだ雨は降っているが、熱魔術で弾いてしまう。クラウディアが来る。戦闘で、相応に消耗したようだった。

 

「ライザ、できたの?」

 

「うん。 ばっちりかは試さないと何ともいえないけれどね」

 

「そう。 一度休憩を取ってからにしよう。 みんなそれなりに消耗しているから」

 

「勿論そのつもりだよ」

 

一度戻って、負傷者の手当てをする。

 

奏波氏族の戦士達がかなり活躍してくれたそうだが、やはり負傷者も出ている。ただあたしが提供した薬は既に行き渡っていて、大事になった戦士はいなかったようだ。フィルフサも攻撃は散発的で、戦いは小規模なものが延々と続いたらしい。

 

王種も将軍もでてこなかったから、死者は出なかった。

 

そう此処で戦っていた、以前あたしに次の奏波氏族の長老の座について話しに来た戦士にいわれる。

 

頷くとあたしは、まずは野戦病院まで戻り、其処で手当てを済ませる。

 

恐らくだけれども、この空間の壁に神代の錬金術師は相当な自信を持っていたとみて良い。

 

それにオーリムに持ち込める物資にも限度があったはずだ。

 

多分だが、こっちが本命。

 

空間操作魔術で作った壁で守った研究所。

 

ならば、内部に煩わしい守りの兵などおかないだろう。

 

そもそもエンシェントドラゴンでも連れてこないと破れないのだから。

 

ただ、それでも万が一の可能性はある。

 

皆のコンディションを確認。

 

万全である事を確認すると、まずはクラウディアとカラさんと話して、空間の壁の境界を確認。

 

壁は完全に境界があるわけではなく、もや状に拡がっていて、範囲についてはある程度はわかっているようだ。

 

外から見ていると違和感がないので、まあ持ち出した旅の人のテクノロジーか、或いは偶然できた傑作なのだろう。

 

タオが地図を起こす。

 

この作業も懐かしいな。迷いの森を抜けるときにも随分と苦労したけれども。それに近い作業だ。

 

あの時とは知識量も錬金術の技量も違っている。

 

だから、さっさとこなして先に進むだけだが。

 

「よし、だいたい想定通りだね。 谷は元々こういう風だったんだよねカラさん」

 

「元々我等にとっても禁足地だったから、あまり詳しくは知らぬぞ」

 

「分かっています。 いずれにしても、此処から此処の空間を安定させれば奧に行けると思います」

 

あたしはすっと地図上で指を走らせる。

 

ただ、空間に穴を頑張って開けて調べたときも、奧にどんな建物があるかは確認できなかったとアンペルさんとクラウディアがいっているので。

 

まずは空間の壁に穴を開けて。

 

その奥に行って、そこでも調査をしなければならないだろう。

 

フィルフサは断続的に来ていたものの、王種直属の指示でもないし、何よりもこの大雨である。

 

動きたくないのだろう。

 

既に増援は絶えているようだった。

 

「仕掛けるよ。 空間操作魔術は非常に危険だから、みんな此処までさがって! 巻き込まれたら絶対に助からないよ!」

 

「危ないぞ、さがれ!」

 

「ライザ殿が何かやるらしい! さがれ!」

 

奏波氏族も声を掛けてさがってくれる。あたしは箱状の爆弾を地面にセット。

 

これも他の爆弾と同じで、何段階かを踏んで起爆する。

 

起爆する方向も箱に分かりやすく矢印で記載しており、爆破範囲に当たる空間操作範囲についても箱に記載するようにしている。

 

分厚いマニュアルも作りたい所だが。

 

道具というのは、使いやすければ使いやすいほど使われる。

 

これは槍などが良い例で。

 

同じ時間訓練すれば槍の方が早く戦力になれるように。どうしても槍の方が利便性は高いのだ。

 

あたしは武器も爆弾も利便性を重視する。

 

これも同じだ。

 

手を振って、起爆する旨を伝える。

 

ワードを唱え、あたし自身も離れる。

 

充分に距離を取ってから、起爆。

 

起爆と同時に、ぐにゃりと空間が歪むのが分かった。

 

「おおっ!」

 

「凄まじい!」

 

「エンシェントドラゴンのようだ!」

 

まあ、道具ありきだけれど。

 

確かに己の力と魔術だけで空間に穴を開け、あまつさえ隣の世界に飛ぶエンシェントドラゴンは、こんな風にするのかも知れない。

 

空間の歪みが安定する。

 

空間ごと何もかも削り取っている訳ではなく、空間にある物質にどうこうしているわけでもない。

 

少なくともこの爆弾はそうである。

 

空間ごとねじ切るような爆弾も作れそうではあるのだが。今の時点ではどうにも食指が動かない。

 

ともかく、あたしが先頭に立って歩く。

 

空間の歪みは問題ないが。

 

空間の歪みに作ったトンネルを通るとき、上も横も凄まじい勢いで景色が流れていて、ちょっと驚く。

 

「足を踏み外したら死ぬよ!」

 

「あ、頭がおかしくなりそうです!」

 

「フェデリーカ!」

 

パティがフェデリーカの手をつなぐと、自分で率先して歩く。

 

いやはや、実に男前な行動だな。

 

ディアンはわりと平気で、あたしの後ろを素直についてきている。不意に、周囲の景色の歪みが止まった。

 

終わったのだ。

 

トンネルが。

 

辺りは水に濡れてはいるが、土砂降りの直撃を受けた外ほどではない。この辺りで展開と指示を出して、後続には急いで貰う。

 

空間も物質と同じで、元に戻ろうという効果があることは、理論を見て理解出来た。

 

もしもあの歪んだ空間が、何かしらの力で作られているとすると。その歪みは誘発されているのであって。自然なものではないだろう。

 

遺跡らしきものは。

 

辺りを探る。

 

クラウディアが音魔術を全力で展開。クリフォードさんが、ずかずかと前に出た。

 

「臭うな。 こっちだ」

 

「分かるんですか!?」

 

「今更驚く事か?」

 

「い、いえ……」

 

フェデリーカは驚きっぱなしで面白い。クリフォードさんの人間離れした勘なんて見慣れているだろうに。

 

ちいさな虫がいて、おっと声が出る。

 

これは、この空間の歪みの内側、フィルフサはいないな恐らく。土もこれ、腐葉土だ。辺りにある木は涸れてしまっているが、それはこの空間に閉じ込められて長い年月が経ったからではあるまいか。

 

要は手入れしないと枯れるような木か。

 

もしくは寿命だと言う事だ。

 

「虫……」

 

「この世界で生き延びている貴重な虫だというのは分かりますが、近寄りたくはないです……」

 

タオとパティが口々にいう。

 

まあ、別に苦手なら仕方がない。距離を取れば良いだけだ。

 

クリフォードさんが足を止める。この辺りだなと、周囲を見回す。辺りには雑木林程度しかない。それも枯れて果てている。

 

谷の中にあるちいさな枯れた林。

 

それが空間の壁で守られている筈がない。

 

神代にとって貴重な植物だったら、あの蘭みたいに厳重に保護しているはずだ。ガーディアンも置いているだろう。

 

だとすると、地下の可能性がある。

 

とんとんと足下を叩いていたクリフォードさんが、皆を呼ぶ。

 

レントがスコップを持ちだし、掘り始める。ディアンも手伝う。カラさんは、どけた土を、魔術で浮かせて更に避けていた。

 

「この辺り、歩いていて音が違う。 下に何か硬い物があるぜ。 それも丸い石なんかじゃねえな」

 

「遺跡なのに埋まっているんですかね」

 

「違う。 千三百年掛かって埋まったんだ」

 

周囲の林は今でこそ枯れ果てているが、研究所があった頃はきちんと生きていたはずだとクリフォードさんはいい、自身でもスコップを手にとる。

 

リラさんに周囲を警戒して貰って、あたしも穴掘りに加わる。

 

まあ、それほど時間は掛からない。

 

やがて腐葉土の下に、扉ができていた。扉といっても真円形だが。

 

なるほど。

 

元はこれ、声でも掛ければ開く仕組みだったのだろう。それが千三百年も放置されて、こうして腐葉土の下か。

 

しかも作った林も雑だったから、手入れもその後しなかったから、こうして枯れてしまい。

 

何より空間で隔離してしまったから、フィルフサに踏み荒らされはしなかったものの外とも隔離され。

 

最終的に生態系も破綻してしまったわけだ。

 

それでも木が残っていると言うことは、比較的最近まで頑張っていたのか。

 

こんなオーリムの環境の中で、と思うと。言葉もない。

 

植物に罪は無い。

 

ただ、此処は明らかに一度地面を全部剥がされている。元いた生物の事や、何より此処が墓所だった事を思うと、何とも胸くその悪い話だった。

 

コンソールがあったので、タオが操作。

 

簡単に開いたようだが、扉が劣化しているのか、そのままでは動かない。此処も、パスワードは掛かっていなかった。

 

ウィンドル北東の遺跡の内部だけが異常だったのだ。

 

本来は、神代の錬金術師に取っては他の存在は猿同然であったから、まさか遺跡に肉薄されるなんて考えてもいなかったのだろう。その思想は古代クリント王国まで続いていたようだし。

 

ボオスがぼやく。

 

「……此処までは特に反撃はなしか。 だが空間に穴を開けられたことは、遺跡の方では勘付いているかもな」

 

「開けるのは俺とディアンがやる。 パティ、リラさん、何か出てきた時、前衛で対応を頼む」

 

「任せてください」

 

「ああ、問題は無い」

 

セリさんも覇王樹を何時でも展開出来るようにする。あたしもちょっと距離を取って、何か出てきた時に備える。

 

あの神代鎧のカスタムタイプが飛び出してきたら、はっきりいってあたしのインファイトの技量だと首を飛ばされる可能性がある。あたしは大火力による戦闘は得意だが、レントやパティ、リラさんほど最前衛での緻密なつばぜり合いは出来ない。魔物相手なら兎も角、対人戦を極めている神代鎧は相性が最悪である。

 

倒せると近接戦で圧倒できるとは、話が全く違うのだ。

 

扉が開く。

 

流石のレントのパワー。ディアンも凄まじい。

 

千年分以上の腐葉土が積もった扉が、軋みながら開く。全員が戦闘に備えて構えている中。

 

それは、静かに開かれて。固定された。

 

タオがまたコンソールを弄る。

 

エラーは出ていないそうである。

 

「システムは壊れていない。 そうなると、色々と機械の方に不具合が生じていると見て良さそうだね」

 

「軟弱な腐れ錬金術師共に、これを力で開ける事ができたとは思えねえ。 閉じたら開かなくなる可能性もあるな」

 

「私が固定するわ」

 

セリさんが多数の植物を展開して、一気に扉を固定してしまう。それでこの扉は静かになった。

 

よし、此処からは内部での調査だ。

 

空間の歪みは、案の場ふさがり始めている。まだ塞がりきっていないので、先に外に声を掛けておく。

 

「調査が終わり次第、内側から空間の歪みに穴を開けます! 巻き込まれると助からないので、一度ウィンドルまで戻ってください!」

 

「分かった! 頼んだぞ!」

 

「先にどこからどこまで影響があるか、爆弾を仕掛ける位置をどうするか、印をつけておこう」

 

タオが早速、幾つかの枯れ木を使って、矢印と目印を作ってくれる。

 

ありがたし。

 

これで帰りも遠慮なく起爆を仕掛ける事ができる。

 

では、遺跡に入り込む。

 

どうせ此処でも散々胸くそなものを見る事になるだろう。とっくに覚悟はできているが。

 

それにしても暗い遺跡だな。

 

カンテラを使う。

 

礼にといって渡された魔石と硝子のカンテラを、フェデリーカがつける。それもいいのだが、極限環境で使えるカンテラをあたしは使っている。これは生活には向いていないが、水中だろうが空気がなかろうが魔力がなかろうが使える優れものだ。ただし作るのが難しい。

 

腰に付けているそれのつまみを捻ると、薄暗い遺跡が一気に明るくなる。前衛のレントとパティも同じようにする。

 

クリフォードさんが呟く。

 

「敵性勢力の気配もトラップの気配もない。 さっきのコンソールのログは見たが、特に何も出ていなかったな」

 

「扉のシステムは完全にバカになっていますね」

 

「神代の技術にしては妙にお粗末だな……」

 

アンペルさんがぼやく。

 

此処でのぼやきは懸念だ。

 

今までの神代の遺跡の強力な守りと、既に劣化している古代クリント王国時代の遺跡と違う頑強さ。

 

それを思うと、如何に地下であったとしても妙だ。

 

実際同時期の北東の遺跡はあれだけ内部がしっかりしていたのである。

 

壁なんかは全く劣化していない。天井もだ。

 

だが、これは。

 

ひょっとして、動力が死にかけているのか。

 

それとも供給が止まっているのだろうか。

 

資料室を見つけた。

 

足を運んでみるが、本の類は残されていない。すっからかんである。このような事例ははじめてだ。

 

「記録が全く残されていないね」

 

「ひょっとするとだけど」

 

あたしのぼやきに、タオが返す。

 

皆が注目する中、タオが仮説を述べた。

 

「この遺跡、もう役割を終えたから、放棄されたんじゃないのかな。 あの空間の壁も、ただの実験だったのかも」

 

「だとすると、他の遺跡も空間の壁で守っていないとおかしくない?」

 

「それはそう。 なんなんだろうねこれ」

 

「とにかくまだ地下がある。 規模的には北東の遺跡と大して変わらんと思う。 動力炉はどうせ一番下だ。 其処を目指そう」

 

クリフォードさんが促す。

 

確かに此処で仮説を元に話をしていても始まらない。

 

薄暗い地下を行く。

 

フィーは居心地が悪そうだが、特に危険も感じないようで、ずっと静かにしていた。

 

通路を歩いて行くと、幾つか部屋がある。

 

寝台が並んでいる。休憩用のスペースだろう。寝台に使っている素材は全く劣化していないが、この布は。触ってみて確認すると、どうやら植物由来のものではないらしい。千三百年、こういう空気さえよどんだ地下にあったとは言え劣化しないのか。一つサンプルを回収しておく。

 

彼方此方に照明はあるが、動力が来ている様子はない。多分供給を切られている。

 

階段があったので、警戒しながら進む。

 

レントが最前衛で、声を掛けて来る。

 

すぐに階段を下りて展開。

 

左右にずらっと並んでいるのは神代鎧だ。ただし、どれも作りかけのように見える。それもいい加減に作ったようである。

 

念の為に全て破壊しておく。後で溶かして、ハイチタニウムだけ利用させて貰う事にする。

 

「やはり守りはあったんだ。 だけれども、どうしてこんな半端にして、しかも放置したんだろう」

 

「動力炉を確認してからだね。 遺跡そのものは傷んでいる様子も無いし。 扉もあれは、動力が来ていないから人力で開けなければならない雰囲気だった」

 

「わしにはこれは、子供が何も考えずに散らかした後、帰ってしまったように見えるのう」

 

カラさんが呟く。

 

確かに言われて見るとその通りだ。

 

通路を歩く。

 

左右にあるのは、これは作りかけの培養槽か。資材を持ち出す必要もないから、作りかけで放棄したという印象だ。

 

此処でフィルフサを弄くるか。

 

それとも超ド級でも培養するつもりだったのか。

 

どっちにしても、これは動かなかった。

 

左右には小部屋もある。

 

それらには、小道具らしいものがあった。多分神代の錬金術師に取っては、どうでもいいものだったのだろう。

 

機具や工具がたくさんあるが、いずれもが今普及しているものよりも完成度が高い。

 

複雑な顔をフェデリーカがしている。

 

「これは恐らくねじ回しだと思いますが、何もかもが今のサルドニカで普及しているものとはレベル違いですね。 千三百年も放置されているのに、このまま千年でも使えそうです」

 

「譲るよ。 持って帰って解析して」

 

「あ、はい。 分かりました」

 

「解析が終わったら王都にも普及させたいので、是非売り込みに来てください」

 

パティも興味があるようだ。

 

まあそれはそうだろうな。

 

王都の生活を少しでも向上させられるのなら。

 

それにテクノロジーそのものには罪は無いのだから。

 

特にこういった基礎部分のテクノロジーは、悪用する方がおかしい。発展型のテクノロジーには悪用しかできないようなものもあるのだが。

 

小物は全て持ち出しておく。

 

荷車には余裕がある。

 

先に遺跡を一旦出て、回収すべきものは外に積んでおく。

 

遺跡が崩落する可能性はあるのだ。最悪に備えておくべきである。

 

再び少しずつ進む。

 

鍵が掛かった扉もないし、隠し扉もない。物語に出てくるダンジョンにあるような、悪辣なトラップもない。

 

本当に作るだけ作って放置したという印象だ。

 

途中にプレートを見つける。

 

神代の遺跡によくある奴だ。タオがもう慣れたもので、すらすら読む。既に専門用語も苦にしていないようである。

 

「この先、二階層下が動力炉だね」

 

「やれやれ、もう少し先か」

 

「研究室は今まで見た部屋がそうだったみたいだ。 恐らく持ち出したものは、洞窟の研究施設や、北東の遺跡に持ち込んだんだ。 或いは本拠地に持って帰ったのかも」

 

「いずれにしても、此処は用済みになって廃棄された可能性が高そうだね」

 

外れかも知れないな。

 

そう思っても、一応は調べる。

 

此処が外れだったら、今まで回収したデータから、一か八かの勝負を賭けるしかなくなるのだが。

 

それもあたしは其処までは心配していない。

 

まだ幾つも手はある。

 

それにだ。

 

神代の錬金術師の底はもう見えている。その尻尾は、それほど苦労せずに掴めるとあたしは判断していた。

 

地下に降りる。

 

今まででもっとも広い空間に出た。

 

たくさん大型の作業機械らしいものがあるが、それらは稼働していない。

 

此処も半ば廃棄されているが、違うのはゴミがたくさんあることだ。なんだこれ。無造作に積まれているが。有機物の残骸に見える。

 

「フィー!」

 

フィーが警告の声を上げる。

 

それに、リラさんが目を細めていた。

 

「ライザ、これは恐らく実験段階のフィルフサだ」

 

「!」

 

なるほど、これが。

 

左右を見回す。

 

フィルフサは元々冬虫夏草のようなただの寄生生物で、動物ですらなかった。無害なそれを、殺戮生物兵器とする過程があった筈だ。

 

これがそうか。

 

だとすると。

 

「気持ち悪いかも知れないけれど、後で調べよう。 ひょっとするとだけれど……此処にあるかも知れない」

 

「何の話だ」

 

「狂気の源泉のオリジナルですよ」

 

アンペルさんが、あっと答えた。

 

今までのガバガバ管理から考えると、フィルフサのしがいに紛れて、狂気の源泉があっても不思議では無いだろう。

 

一瞬躊躇はしたが、まずは動力炉を探すのが先だ。

 

動力炉を調べれば、空間歪曲場の仕組みが分かるかも知れない。

 

分かれば、解除も可能になる。

 

枯れ果てて、僅かに虫が少しだけしかいない森だ。一度解除しなければ、ダメなのは確定事項である。

 

無言で進む。

 

構造は全くというほど素直というか、とにかく攻めこまれる事何て一切考えていない造りだ。

 

一応動力炉に通じる階段には、警告だの、この先重要施設だのの説明が書かれたプレートがあったが。

 

あくまで身内への警告であって。

 

トラップがあるわけではなかった。

 

階段を下りると、動力炉だ。

 

ウィンドル北東の遺跡にあったものと同型だろう。早速タオとクリフォードさん、アンペルさんが三人で調べ始める。

 

「動力炉でやはり空間を歪曲させているみたいだ。 動力炉の力を殆どそれにつぎ込んでいるみたいだね」

 

「何か残っていない?」

 

「……あったぞ」

 

研究録らしい書物。

 

一冊だけだ。クリフォードさんがめざとく見つけて来た。

 

とりあえずそれは後で解析する。

 

「自爆装置の類は無いよね」

 

「ないけれど、竜脈からえげつない量の魔力を吸い上げてる。 このまま続けると、ウィンドルはいずれ枯れ果てるよ」

 

「なんじゃと……!」

 

「多分これが此処の役割なんだ。 此処は放棄された遺跡だと思うけれど、それはそれとして神代の錬金術師は空間歪曲を行うようにタイマーを仕込んで、自分達だけ脱出した。 そういうログが残ってる。 空間歪曲で守られたこの遺跡は、竜脈から過剰な魔力を吸い上げて、それが空間歪曲を維持する。 最悪のシステムで、ウィンドルを兵糧攻めするつもりだったんだ」

 

タオの告発に、カラさんが激怒したようだが。

 

静かにブチ切れただけで。

 

大きく息を吐いて、それで落ち着いたようだった。これができるのは、立派な大人だと言えるだろう。

 

「酷い策を考えるね。 タオくん、そのシステム、止められるの?」

 

「ああ、簡単だよ。 案の場管理者権限にもパスワードも掛けていない。 ちょっと待っていてね……」

 

「よし、じゃああたし達は、今のうちに上の階を漁ろう。 狂気の源泉のオリジナルを見つければ、フィルフサを一気に全滅させるヒントが見つかるかも知れない」

 

正確にはちょっと違うのだが。

 

原理的には似たようなものだ。

 

少なくとも各地で爆発的に繁殖して、自分達以外を根こそぎ蹂躙し尽くす環境の破壊者を全て黙らせることができる。

 

それはフィルフサをただの寄生生物に戻す事を意味していて。

 

フィルフサを根こそぎに殺す事ではないのだが、まあともかく悪辣な改造をされたフィルフサという生物を救う事になるし。全滅させる事にもなる。

 

下はブレイン三人組に任せて、フィルフサの残骸を調べに掛かる。

 

雑な事をやる神代の錬金術師達だ。

 

あたしもずぼらではあるが、こういう作ったものに責任を持たなかったり。作る過程で出る犠牲を何とも思わないのとは違う。

 

調査を続けて。丁寧に調べて行くが。

 

やはり中途の過程の残骸らしいものが見つかっていく。

 

「これは小型種に似ているが、最初の頃は随分とシンプルな形状だったんだな」

 

「白牙の者よ。 最初神代の錬金術師が繰り出したフィルフサは、こういう形であったぞ。 どんどん複雑化していったがな」

 

「様々な生物を根こそぎにしながら、その特徴を取り込んでいったんですね」

 

「こっちの世界に来られたら、更に凶悪化した可能性も高そうですね」

 

パティとフェデリーカが恐ろしいと顔に書く。

 

あたしは大型の残骸を漁る。

 

これらは多分実験体の王種だ。

 

やはりそうだ。

 

今までの記録にもあったが、王種そのものは全てカスタムなんだ。姿が似ているものも多かったが、基本的に全て王種は手作りなのだ。そうなってくると、王種の数は限られている筈。

 

王都近郊にいた奴はドラゴンに近い姿をしていたが、あれほど強力な奴はそれほどいないだろう。

 

カスタムタイプのフィルフサの究極だとしても、作り出すのにコストが掛かる。

 

奏波氏族と激突して追い出された神代の錬金術師だ。

 

そうなると、王種を作り出すのにも数に限りがあった筈だ。

 

100……200は越えないだろう。

 

王種は放てば、後は雑魚が勝手に増えていく。王種そのものは増えないが、それでも充分だ。将軍は簡単には作れないだろうが、それでも千三百年の年月が解決する。

 

雑魚を大量に侍らせるだけで脅威だし。

 

雨さえ降らなければ、王種の戦闘力はほとんど無敵だ。

 

遺跡の中で交戦した、雨による弱体化を受けていない将軍は、今のあたし達でも大苦戦する相手だった。

 

本来の王種は、最低でも超ド級と互角かそれ以上。

 

そんな化け物、オーリムにもそうそういないだろう。

 

「これは恐らく大型化をさせる過程なんだろうね。 無理矢理形がねじ曲げられているみたい」

 

「これは多分、人の要素が取り込まれた形状ですね。 ひどい……」

 

「文字通り何でもやったんだな……それもただ自分達の主観で美しいとかいう世界のためにだ」

 

ボオスが嫌悪を吐き出す。

 

レントが大型の残骸を崩していたが。何も見つからずに嘆息する。

 

そんな中、ディアンがあっと声を上げていた。

 

「ライザ姉!」

 

すぐに駆け寄る。

 

あった。

 

狂気の源泉だ。前に古代クリント王国の連中が作った劣化コピーと形状は似ているし。今まで王種が身に付けていたものとも形状は一致している。

 

これを調べれば、根こそぎフィルフサをどうにかできる可能性がある。

 

「ディアン、お手柄だよ。 ただサンプルが一つだけだとちょっと心許ない。 他にもあるかも知れないから、探そう」

 

「へへ。 これでウィンドルも少しはマシになるかな」

 

「お手柄ぞ小僧、いやディアン。 必ずマシになる筈じゃ」

 

カラさんがそう素直に賛辞を述べる。

 

それからも、調査を淡々と続ける。

 

クラウディアが見つける。

 

二つ目の狂気の源泉だ。隅っこの方にあまりにも粗雑に放置されていた。できれば十個くらいほしい。

 

此処にあるのは、まだ試作品の可能性が高いからである。

 

あたしも見つけた。

 

大型の機械の隅にうち捨てられている。レントに万が一に備えて貰って、機械の奧にあるものを取りだす。

 

落ちたからいいやと放置した。

 

そんな風情である。

 

雑すぎる管理に、パティが呆れる。

 

「こんな危険物を、こんなに粗雑に扱うなんて」

 

「文字通り火遊びをする子供だったんだよ。 最悪の意味でのね」

 

荷車に狂気の源泉を放り込んでおく。

 

この様子だと、まだまだありそうだ。

 

全てこの世から葬り去るために、できるだけ無事な状態の狂気の源泉を、見つけておきたかった。

 

ボオスが声を掛けて来る。

 

一際巨大な残骸。その隅に、二つまとめて落ちていたという。

 

「これは巨大な残骸だな。 こんなサイズの王種がいたら、どれだけ凶悪だったか想像もできない」

 

「恐らく最強の王種として作るつもりだったんだろうね。 でも、ベヒィモスみたいな失敗作になったのかも」

 

「でかければいいって訳でもないか」

 

レントは複雑そうだ。

 

未だにザムエルさんについてたくさん思うところもあるのだろうし。あたしは何もいわなかった。







ついに手に入れた狂気の源泉の現物。

神代に兵器化されたフィルフサという世界レベルの脅威が、この時終わりを迎えようとしていました。
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