暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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硝子と魔石という新しいものと古いものに対する技術が対立し。

街の人間関係もそれで理不尽に真っ二つに割れている。

街をでてすぐの大橋すらまともに守れていないのに。

サルドニカとは、そんな街です。


1、工芸の都市

サルドニカの寸前で、ボオスが追いついてきた。大急ぎで来たらしく、かなりへばっていたが。

 

卒業式はかっつり終わったらしい。

 

それはそれで良かった。

 

「お疲れボオス。 タオはやっぱりまだ掛かりそう?」

 

「ああ。 ちらっとだけ聞いたが、論文は二つとも通ったとかで、結局両方とも博士号をもらうことにしたらしい」

 

「ふうん……」

 

「もっと驚けよ。 貴族以外の、しかも学生の論文が通るなんて、何十年に一度らしいぞ」

 

馬鹿馬鹿しい話だ。

 

たかが三十万程度しかいない街で貴族を気取っている連中の、それも箔を付ける為だけのものだろうに。

 

要するに井戸の中のカエルであり。

 

そこにいきなり外から魔物サイズの存在が来たのである。

 

タオは普通に世界でも最上位に食い込む知謀の持ち主と聞いている。

 

通るのは当然だし。

 

もし通らなかったら、それは王都の連中がゴミカスなだけだ。五百年井戸に篭もってゲコゲコ鳴いていただけの哀れなカエル。

 

論文が通ったのも、ヴォルカーさんの尽力があっての事だろうな。

 

そう思って、あたしはボオスに薬を渡す。

 

ただの栄養剤だが。ボオスも無言で受け取り、飲み下していた。

 

ボオスがフェデリーカさんに挨拶をする。ボオスもまだ距離を測っているようで、丁寧に応じているが。

 

よそ行きの顔なのだろう。

 

笑顔なんて作って、ちょっと怖いと思った。

 

笑顔を見て嬉しくなるのではなく、裏が露骨にあるのでちょっと怖い。

 

まあ今のあたしは。

 

大概のものは真正面から粉砕できるので、ちょっと怖い程度だが。

 

「それはそうと、この街道の魔物結構手強いよ。 ボオスはよく無事だったね」

 

「お前らが片っ端から駆除してくれていたからな」

 

「まあ、それもそうか」

 

見えてくる。

 

巨大な都市だ。

 

王都ほどでは無い。規模は十万少しだと聞いている。それに、都市そのものもいびつな印象だ。

 

王都は元々、古代クリント王国以前の、神代の都市だった。

 

古代クリント王国は征服した国の人間を全部奴隷化し、文化を悉く焼き払っていた事を去年の調査で知ったが。

 

たまたまそう言った蹂躙の中でガワだけ生き残った都市が、古代クリント王国の崩壊後に使われたのが王都だ。

 

だから殆どがロストテクノロジー化していて。

 

それについて、誰も疑問にすら思っていなかった。

 

五百年も前の事だ。

 

歴史の生き証人になれる人間はいないのである。

 

それだけの時を生きられるオーレン族は、当然この件に噛んでいない。

 

そうなれば、一度全部潰してしまったのだから、何も残らないのは必然だっただろう。

 

「見えてきました。 サルドニカです」

 

「なんだか少し形がいびつだね」

 

「今も発展し続けていますので、城壁を何度も崩しては立て直しているんです。 また城壁を崩して、立て直す予定です」

 

「へえ……」

 

大きな歯車がゆっくり回っている。

 

何かガスを出している煙突がある。

 

歯車は確かに錆びだらけだ。これは恐らくだが、そもそも百年前だかに此処が作られたときには。

 

既に劣化は、どうしようもない状態だったのだろう。

 

余所から持ってきたにしても、どこからだろう。

 

いや、分かっている。

 

魔物に蹂躙された都市は幾らでもある。

 

そういった遺跡化した廃墟から持って来たのだろう。それでありながら、一から都市を造ったのだとすると。

 

余程の豪傑がいたのか。

 

いや、錬金術師が基礎を主導したとしか思えない。

 

百年前にそれが出来た錬金術師か。

 

どうにも、フェデリーカさんのネックレスの件もある。

 

あの扉と、無関係とは思えなかった。

 

サルドニカの至近に来ると、流石に魔物も減ってくる。幾つかの見張り所があって、フェデリーカさんが挨拶すると、貫禄のある戦士が敬礼を返していた。例のメイドの一族も何人か詰めている。

 

というか、王都より多いくらいだ。

 

こっちに重点を置いているのか。

 

いや、顔とかに向かい傷が目立つ戦士が何人もいる。

 

例のメイドの一族の戦士の実力を知っているあたしとしては驚嘆せざるを得ないのだけれども。

 

この辺りの魔物が強いのか。

 

それとも、何か別に事情があるのかも知れない。

 

門を潜る。王都のものほどではないが。それでも攻城戦を意識した造りだ。もっとも、これも外から持ち込んだものだろう。

 

彼方此方が傷んでいる。

 

これは恐らく。一度街を守れなかったものなのだろう。そう思うと、血なまぐさく感じるのだった。

 

フェデリーカさんが、手を叩く。さっと、職人らしいのが来る。まだ若い男性だ。

 

「たれかある」

 

「は」

 

「ギルド長に声を掛けて来てください。 硝子ギルド、魔石ギルド、両方です。 ライザリン様をお連れした。 それだけで充分です」

 

「分かりました」

 

すぐに行く職人。

 

街は概ねに四つの区画に別れているようで、北東と南西が活気がある。

 

恐らく雰囲気からして、南西が魔石ギルドか。強い魔力を感じる。これに対して、北東には若い活力を感じた。

 

面白い事に、ぴたっと人が別れているのが分かる。

 

見張りについていたらしいフェデリーカさんの護衛も、無言のまま戻っていく。多分それぞれのボスであるギルド長に、進捗を報告するつもりなのだろう。

 

街は王都に比べると小さいが、人の活気は此方の方が上とみた。

 

井戸などの仕組みも、新しいものが使われている。煉瓦なども、新しいように見える。要するに、百年前に作ったものなのだろう。

 

フェデリーカさんが、淡々と説明してくれる。

 

「サルドニカはおもに四つの区画に別れていて、北東に硝子ギルド、南西に魔石ギルドの関係者が集まるそれぞれの区画。 南東は居住区で、北西はその他のギルドが密集しています」

 

「魔石と硝子だけは特別扱いなんですね」

 

「はい。 出来れば他のギルドも伸ばしていきたいんですが、時には魔石ギルドや硝子ギルドから圧力が掛かる事もあって……」

 

「たった百年でそれか……」

 

あたしは呆れた。

 

百年というと、此処が作られてから生きている人間は流石にいないか、いたとしてもごく少数だろうが。

 

それにしても、まだ新しい都市なのに、そんな派閥争いをしているのか。

 

クラウディアが、嬉しそうに周囲を見ている。

 

彼方此方に露天があるのだ。

 

「バレンツはここにまだ進出していないの?」

 

「ううん、そんなことはないよ。 ただ、来る度に色々な店が増えているの」

 

「そっか。 そうなると、商機があるかも知れないね」

 

「分かってきたねライザ。 お金を貯めることにはあまり興味は無いのだけれども、お金を動かす事は楽しいの。 これも商人の血なのかも知れないね」

 

そういえば、宝石も大好きらしいが。一度手に入れた後は、すぐに流通に乗せると言っていたっけ。

 

クラウディアは、お金を手に入れるのは好きだが。

 

お金を手元で保持し続ける事には、あまり興味は無いらしい。

 

まあ、それは人それぞれだ。

 

ともかく、中央にある工房長の館に出向く。

 

「宿については……」

 

「んー、今の時間だとまだ明るいかな」

 

「はい……?」

 

「後で話します。 それはそうと、先に使っても良い広場を、街の内外どこでもいいので、指定して貰えますか?」

 

困惑するフェデリーカさん。

 

ともかく、工房長の館に出向く。

 

それを見上げて、あたしはなる程ねと呟く。

 

この構造。

 

普通の石造り、煉瓦造りの家とは根本的に違う。

 

多分これは。錬金術師が作ったものだ。

 

この工房長の館というのは、錬金術師が住んでいたものか、或いはアトリエだったものを勝手に改装したものなのだろう。

 

その話は、後で聞く事にする。

 

「硝子のぶつかり合う音がすげえな」

 

「独特の臭いが私にはきついわ」

 

「すみません、セリさん。 後でマスクを用意します」

 

「ええ、頼むわね」

 

セリさんが、珍しくぼやく。

 

あたしとしても、オーレン族の感覚の違いを揶揄するつもりは無い。こういう場合は、当然譲歩すべきである。

 

そのまま、屋敷の中に。

 

釜が置かれていたらしい場所があるが、そこは執務のためのデスクが置かれていた。奧のコンテナだったらしい場所は、倉庫になっている。

 

だいたい錬金術師のアトリエであることは分かる。

 

あたしも錬金術師だからだ。

 

そして、錬金術師としては、かなりの熟練者である事。

 

何よりも。この屋敷、一度攻撃を受けただろう事も理解出来た。窓などの一部が、不自然に違っているからだ。

 

此処にいた錬金術師は、多分追い出されたんだ。

 

どういう奴だったのかは分からないが、アンペルさんの話に出てくるロテスヴァッサが百年前に集めた輩の一人だったとしたら、エゴの塊だったとみて良いだろう。

 

だとすると、権力闘争に敗れて追い出されたのか。

 

この街を作っただろうに。

 

レントを一瞥する。

 

レントを見るまでもない。レントに助けて貰ったのに、大きくて圧があるという理由でレントを勝手に恐れ。

 

そして遠ざけた恥知らずは、別に珍しい連中でもない。

 

去年。三年の一人旅を経たすっかりレントが凹んでしまっているのを見て。それを確信できた。

 

この街の創設メンバーも、そういう連中だったのだろう。

 

フェデリーカさんには悪いが。

 

此処も同じなんだなと言う感想しか出てこない。

 

ただ、錬金術師が極悪非道の輩だったという可能性もあるが。

 

まあ、どう考えても。

 

どっちもどっち、だったのだろうが。

 

「すぐにギルド長は来ると思います。 ライザリンさん達は、其方で待機していてください」

 

「ちょっと俺にはソファが小さいかな」

 

「レントさんはとても背が高いですね。 どこでも傭兵としても戦士としてもやっていけそうです」

 

「そう言ってくれると嬉しいな」

 

レントもさっと流したが。

 

レントよりさらにでっかいザムエルさんが。レント以上の迫害を受けたことは、想像に難くない。

 

ちなみにクーケン島で話したのかちょっと聞いてみたが。

 

レントはザムエルさんと話す事もなかったそうだ。

 

それはそうだろう。

 

ストレスでおかしくなったザムエルさんに、事あるごとに殴られながら育ったのである。

 

良く想っている筈がない。

 

多分力の差は既に逆転している筈で。

 

それを思うと、殺し合いになっていないだけマシだし。

 

殺し合いになったら、ザムエルさんが殺されるだろうなと、あたしは推測してはいたが。

 

やがて、ギルド長が来る。

 

数人の取り巻きをそれぞれ連れていた。いずれも、明らかに荒事を前提とした護衛だった。

 

この様子だと、街中での喧嘩沙汰も絶えないのかも知れない。

 

ライバルが存在する事は、とても発展のために良いことだというのはあたしも知っているけれども。

 

この場合は、ちょっとやり過ぎだ。

 

戦争になるような関係は、発展どころか無駄な人的資源の消耗を生む。

 

これ以上関係が悪化すると、サルドニカは街を二つに割っての殺し合いになりかねないなと、あたしは思った。

 

ただ。ギルド長の側に控えているのは、双子以上にそっくりな例のメイドの一族だ。

 

やっぱりというか何というか。

 

それなりの数がいるのだ。

 

この街を実質上支配している二人に、ついていないわけがないか。

 

王都でも、王族の側にも貴族の側にもいたのだから。

 

「戻りましたかギルド長」

 

そう最初に声を発したのは、どうやら魔石ギルドの長らしい女性だ。フェデリーカ以上に肌の色が浅黒く、女狐という言葉が最初に出てくる。とにかく老獪そうな中年女性である。

 

それでいて美しさを担保するために、計算し尽くされた化粧をしている。

 

「それで其方の女性が?」

 

そう話したのは、多分硝子ギルドの長らしい男性だ。

 

もう少しで壮年という年齢で、手にも肌にも大きな傷を幾つも持っている。やはり職人はこうなるものなのだろう。一方肌は白い。これは恐らく、日に当たっている云々の話ではなく、多分そういう血筋と言う事だ。

 

それなりに甘いマスクだが。目つきはとても鋭い。

 

これは、生ぬるい王都の権力関係より、よほど厳しい環境で揉まれているんだな。

 

そう思って、あたしは両者を丁寧に観察する。

 

フェデリーカさんが、咳払いして。あたしを二人に紹介する。

 

「錬金術師ライザリン=シュタウト様です。 道中で確認しましたが、魔物の群れを瞬殺するほどの凄まじい魔術を使いこなし、更にはあのカテラ村の水車を、殆ど即時に直しました」

 

「何ッ!」

 

「あの水車をだと」

 

「はい。 手際は凄まじく、何も口出しどころか、手を出す暇もありませんでした。 動かすためのマニュアルまで整備してくださいました」

 

まあ、そう紹介してくれると嬉しい。

 

ギルド長二人が、あたしに胸に手を当てて挨拶する。

 

硝子ギルドの長である女性はアルベルタさん。

 

魔石ギルドの長である男性はサヴェリオさん。

 

なんでもこのサルドニカでは、職人としてバランスが一番取れている若い世代の人間を長に据える風習があるらしく。

 

アルベルタさんはもう少しで引退するそうだ。

 

アルベルタさんは見た感じ、子供を二人か三人産んでいるか。どれだけよそ行きに体を調整していてもそれは分かる。

 

あたしも散々田舎で産婆の手伝いはしているし。

 

十代半ばには結婚して、今のあたしくらいの年には二三人子供を持っている友達は何人も知っている。

 

どうしても子供を産むと体型は変わる。

 

その程度は、あたしも一目で分かる。

 

ギルド長二人は牽制し合っていたので、あたしから話しかける。

 

「ライザリンです。 ライザとお呼びください。 あたしは錬金術師として、自身の力を常に人々の為に役立てようと思っています。 サルドニカは一瞥したところ、多くの機械が傷んでいるようですね。 あたしの手で、どうにか出来ると思います」

 

「う、うむ……」

 

「それはありがたい話だが」

 

「どこから直すかで、ギルドの権力関係が噛んでくる、ですか。 それならば、まずはお二人の関与している機械からではなく、中小のギルドの管理している機械から直して行きましょう。 クラウディア、ボオス」

 

二人を呼ぶ。

 

二人とも、既に控えてくれていた。

 

「貴方はバレンツの」

 

「クラウディアです。 ライザの友人をしております。 此方はボオス。 クーケン島の代表をしているブルネン家の名代です」

 

クラウディアがてきぱきと自己紹介。

 

すっかりよそ行きの顔になっている。

 

あたしは、そのまま任せる。

 

「ライザに関する仕事依頼は、私が管理させていただきます。 恐らく、その方が混乱も無いでしょうから。 ライザの手際は、王都の機械全てを短時間で修理するほどのものです。 心配せずとも全ての機械は直りますので、一つずつ順番に私が手配させていただきます」

 

「バレンツの方でそう保証してくれるのなら有り難いが……」

 

「サルドニカは現在も魔物に脅かされている状況です。 ここでマンパワーを裂くわけにはいきません。 アルベルタもサヴェリオも、それぞれ自重してください」

 

舌打ちしそうになったサヴェリオさん。

 

精悍な若者らしい光が目に宿ったが。まあ、良いだろう。

 

この人はかなりの野心家だ。

 

場合によっては、ダーティな手を使う事も考えないと危ないだろう。

 

ボオスが咳払いする。

 

「俺は王都で経理学を学んできています。 機械の価値を査定し、どれから直すべきか判断しましょう。 外部の人間が、客観的に判断した方が、恐らく効率的に機械を直していけると思いますが」

 

「……」

 

「……分かった。 我々で言い争っていても仕方が無い。 一度引き上げる。 それと……祭の件だが。 工房長も、早めに判断をしてほしい」

 

「分かりました」

 

一礼すると、ギルド長二人は工房長の館を出て行く。

 

はあと大きく嘆息するフェデリーカさん。

 

さて、幾つか聞きたいことはあるが。

 

場所は、変えるべきだな。

 

そうあたしは判断していた。

 

此処は多分、フェデリーカさんの腹心で固めているのだろうが。それでも間諜は当然いる筈だ。

 

「さっきの空き地の話、覚えていますか?」

 

「はい、すぐに手配しますが……空き地なんかどうするんですか?」

 

「拠点を作るんですよ。 途中で少し錬金術を見せましたが、錬金術をやるには、アトリエがあると何倍も効率が上がるんです。 サルドニカからクーケン島に戻るのは時間が掛かりすぎますし、いっそここにあたしのアトリエ第四号を作ります」

 

「三つもアトリエがあるんですか!?」

 

フェデリーカさんは頭がパンク寸前のようだが。

 

クラウディアが、お茶を淹れましょうかと提案すると、流石にその笑顔を見て思うところがあったらしい。

 

手を叩いて、部下を呼ぶ。

 

「アンナ」

 

「はい」

 

例のメイド一族の人。

 

此処にもいるのか。

 

まあ、当然だろう。フェデリーカさんの側にいないと、この状況だと暗殺事件とか起きかねないのだ。

 

土地の権利書を確認し、すぐに好きに使える場所を指定してくれるフェデリーカさん。

 

相当に背伸びをしているのは分かるが。

 

それでも、この人は若いながら、出来る人なのだなと。あたしは感心していた。

 

ただまだ経験が足りない。

 

色々荒事を経験して、それで肝が据わったら。話は変わってくるはずだ。

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