暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
動力炉を止めると、嘘のように空間の歪みは消えた。後は、隅々まで調査して、引き上げる事にする。
此処は漁られると困るようなものはなにもない。ログを吸い出した後、動力炉は破壊しておく。
それだけで良かった。
外に出ると、雨が降っている。ずっとロクな雨も降らなかっただろう土地に。これで、此処にも生命が戻るはずだ。
フィルフサも減っている。ウィンドル周辺には確かまだ一つ王種が率いる群れがある筈だから、解析の後実験したい。
ついでに潰してしまう。
ただ、それは解放を意味する。
意識もなく動物ですらないフィルフサだ。それに擬似的な悪意と殺意を植え付け、何もかもを踏み砕く生物にしたてた。それは呪いといっていい所業。だから、呪いから解放しなければならない。
外に出て、雨を浴びながら、カラさんが大きく嘆く。あたしは荷車に布を被せながら聞く。
「ウィンドルを兵糧攻めか。 フィルフサ共に好きにされていて気付けなかったが、此処まで荒れ果てたのにはそんな理由もあったのじゃな」
「戦術という観点では、対人用のものが幾らでも発達していたんだと思います。 それだけ人間同士での殺し合いが多かったんでしょうね」
「今の時代は魔物に押されていて人間ははっきりいって苦しい生活をしている。 だけれども、人間同士で殺し合い奪い合いをしているのとどっちがマシなんだろうな」
ボオスが嘆く。
ともかくだ。遺跡を後にする。空間の歪みはもうないが。その影響は如実に出ていて、彼方此方にねじ切られたような歪みがあった。一部の土も、露骨に色が違っている。腐葉土でさえない。
空間の歪みにさらされていた地点だ。
それこそ、摂理から外されてしまっていた地点だったのだろう。
ウィンドルに戻る。
カラさんは、目撃したものを奏波氏族に共有するといって、ウィンドルの集落の入口で別れた。
他の皆も解散とする。
クラウディアはバレンツ商会の副頭取として、ウィンドルの復興を何かできないか考えているようである。
カラさんについていく。
ボオスは寂しそうにじっと集落を見ていたが、キロさんは今頃フィルフサと戦って孤立しているオーレン族達を救助して廻っている筈だ。
ボオス一人では足手まといになるだけ。
ボオスがいるべき場所はこっちで、キロさんの側では無い。
だが、寂しいのは分からないでもなかった。
アトリエに入ると、早速調査を始める。
一冊だけ持ち帰った資料は、タオが確認開始。あたしは狂気の源泉を順番に調べ始める。これを調べ終えれば、大きな進展になる。それこそ、世界にとってのだ。
フィルフサを全滅させる。
それはオーリムには絶対に必要な事だ。
だがその具体策は、今まで思いつかなかった。
しかし狂気の源泉のオリジナルが手に入った今。
或いはそれも、過去になるかも知れない。
これで問題は片付いたが、一つ懸念がある。
あの遺跡の辺りにフィルフサの群れがいた。だが、王種を倒したという報告がない。
それも調べておかなければならないかも知れない。ただ、やるのはまず一つずつ。偵察は、風羽の戦士達に任せるしかなかった。
ガイアが一度本拠に戻る。更に母による掌握が進んでいるようで、彼方此方に光が点っていた。
空も地面も何もない、虚空。
其処に浮かんだ虚飾の宮殿。
それがこの場所。
古くは万象の大典といわれた地。
アイン様は睡眠中か。母に呼ばれたのもあるのだが、東の地の戦況が完全に片付いた事もある。
今、各地に東の地に集めていた同胞を戻し、状況の整理を行っている。案の場同胞が外れた隙を突いて悪さをしていたカス共が少なからずいて。
それらは駆除しなければならなかった。
人間に対する禁忌を同胞は持たない。
それは母が外してくれた。
同胞……ホムンクルスが逆らえないように神代の錬金術師は色々と策を弄したのだが、それは原初のホムンクルスであるタームラの反逆もあって失敗。結局神代は、ホムンクルスを封じた。
今いるガイア達は、母により復活を遂げた新しいホムンクルス。
復活の際に、色々かけられていた枷は外れた。短く設定されてた寿命もその一つ。今では時々メンテナンスをするだけで、半永久的に生きられる。別に永久の命なんてものに興味は無いが。
同胞として仕事をずっとできるのは、良い事だ。
「ガイアよ、よく来てくれましたね」
「はっ。 それで如何いたしましたか」
「現在此処のシステムの掌握を進めており、62%に達しました。 しかしながら例の……収集用のシステムは極めて堅牢。 下手に手を出すと、一気に形勢が逆転しかねません」
「確かに物理的にも電子的にも掌握が難しいと聞いています」
「そこで、ライザリンと冷静な話し合いがしたいと思っています。 立ち会いをお願い出来ますか」
無論、とガイアは答えた。
不動明王の権化と東の地でいわれたライザは、どちらかというと熱の荒神であって。慈悲の要素は小さいように思う。
不動明王は弱者の守護者でもある。
ライザは勿論弱者に手をさしのべるが。
敵に対して容赦がなさすぎる。
ここに来た瞬間、全てを破壊し始めかねない。それくらい、神代への怒りを燃やしている。
それはガイアも観察していて、結論せざるをえなかった。
まあ、神代への怒りは同胞でも共有しているが。
それにしても、母にまで怒りを向けられてはたまらないのだ。
「以前ともに戦った私やカーティアを立ち会いの場に出せば、恐らく冷静に話をすることができるでしょう。 それでもライザが戦いを挑むようであれば、この命賭けてもお守りいたします」
「お願いします。 形なき身といえども、クラウド化しているサーバまで物理的に破壊されてはどうにもならないのです」
「は。 例え電子の霊であろうと、母は母です。 必ずや冷静になるまでライザから盾になると約束いたします」
とはいえ骨ではあるな。
あれが激高した場合、止めるのは同胞総掛かりでも厳しいかも知れない。
ましてや今ライザはウィンドルで神代の所業を直接調べているはず。怒りのボルテージは限界に達しているだろう。
怒りが炸裂したライザ。更にその仲間を止めるか。
アインを守るなら、この身など。
同胞の未来のためなら、この命など。
ガイアは覚悟を決める。
ライザはきっと冷静になってくれる筈だが、それでも万が一がある。
その万が一に備えて、ガイアは準備を始めた。
(続)
もはや空間の壁はライザに対する防壁になりえず
神代の根拠地にライザが乗り込む時が迫っています。
その時の為に。
猛り狂ったライザが、いきなり全てを破壊するのを避ける為にも。
同胞は準備を開始します。
同じ敵を持つという観点で、ライザと共闘が出来ると判断したが故に。
何よりも希望たるアインを守るために。