暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ついにライザの手に渡るオリジナルの狂気の源泉。

二つの世界を文字通り滅ぼしかけた元凶。

その操作システムです。

これを効率よく破壊する事が出来れば。

世界に対する脅威は激減することになります。

最重要課題開始。

ライザの最大の目標の一つを、此処でクリア出来るかもしれません。


傀儡の糸は切られた
序、狂気の源泉の秘密


十と一つ確保した狂気の源泉。オリジナル品。

 

古代クリント王国が模して作った劣化コピーではない。本物の、これからフィルフサ王種に取り付ける事を想定していたものだ。

 

この道具の存在を、オーレン族も知ってはいたらしい。

 

しかし王種についているので手が出せないこと。

 

仮に王種を倒してもすぐに爆発してしまう事。

 

それもあって、どうにも出来なかったのだそうだ。

 

あたしとしては、それらが分かっていれば充分である。後の解析は、任せて欲しい。これを増やすためでは無く、滅ぼすための解析だ。

 

錬金釜にエーテルを満たし。

 

狂気の源泉を放り込んで、解析を開始する。

 

解析しながらなる程と思った。

 

これは、恐らくだが、古代クリント王国は何かしらの形で本物を一つ入手したのだとみて良い。

 

ただしそれは破損していたのだろう。

 

神代に近付けば近付くほど、その遺産は入手しやすくなったはず。現にクーケン島近辺の古城では、いわゆる古式秘具が幾つも落ちていた。あれらは古代クリント王国が入手して、後に空中都市にするつもりだったクーケン島に詰め込むためだったのだろうから。

 

破損していたものを、完全に修復した……つもりでいたのだ古代クリント王国の錬金術師は。

 

フィルフサの事はどうやって知ったのかは分からない。

 

それまでも自然門絡みで問題が起きていたのかも知れないし。もしくは神代の書物に魅力的な生物兵器とでも記載されていたのかも知れない。

 

古代クリント王国の錬金術師は、神代の錬金術師を神として崇めていたのだから。その言う事には魅かれただろうし。

 

自分達がそれに近づけるなら、大喜びでやっただろう。

 

幾つかの感応夢で、連中がどうしようもないカスであったことは既に分かっている。あたしの感応夢は妄想の類では無いのだ。

 

そして、致命的な事に。

 

実の所、古代クリント王国の錬金術師は、狂気の源泉を再現などできていなかったのである。

 

解析してみて、それが分かった。

 

あまりにも微細な仕組みだから、取りこぼしたか。

 

それともレシピでも入手しても、暗号を完全に解析できなかったのか。

 

もしくは自分の才能を絶対視して、それで間違いに気付けなかったのか。いずれの中のどれかだったのだろうが。

 

はっきりしているのは、前に調べた古代クリント王国製の狂気の源泉と。

 

明確に違う機能を、あたしは見つけていた。

 

なるほど、これは分からないだろう。

 

レシピなんかいらない。

 

確かタオの話によると、こういうのはリバースエンジニアリングというのだっけ。もう、それも難しく無い。

 

ともかく分かったのは。

 

これはある特定のものを持つものだけの言う事を聞く、という機能。

 

恐らくだが、神代の錬金術師どもは、それを自慢げに身に付けていて。それでフィルフサも従った。

 

だが、古代クリント王国の錬金術師達は、その存在を知らなかった。もしくは再現出来なかったのかもしれない。

 

技術を調べて行くと、その正体も分かってきた。

 

それはある合金だ。

 

グランツオルゲンをベースにしたもので、決して実用性が高いわけではないのだが、とにかく作るのが難しいもの。

 

難しいものを作れると言う事が、神代の錬金術師にはステータスになっていた。

 

だからそれを身につける事は、恐らく一人前の錬金術師になる、という事を意味し。技術は身内だけで独占していたのか、或いは証みたいなものとして世襲していたのかも知れない。

 

神代の錬金術師は恐らくだが、オーレン族との戦いで本拠の一部を放棄して逃げたくらいだから、その持ち物なんか残らなかっただろう。

 

東の地で初代征夷大将軍のタームラさんが何人か斬ったようだが、東の地はそもそもとしてあんな修羅の土地だ。土地「だった」。

 

神代以降の錬金術師がのこのこ入り込んで、神代の錬金術師の遺産漁りなんてできなかっただろうし。

 

大勢で押しかけても、それこそ返り討ちにされただけだ。

 

古代クリント王国もアーミーを出して返り討ちにされたという話である。統一国家でそれなのだから、それ以前の錬金術師だろうが、それ以降だろうが。結果は同じとみて良いだろう。

 

とりあえず、設計から合金は分かった。

 

順番に調合していく。

 

この過程で二日かかる。

 

今のあたしでも、解析からの再現は、それなりに大変だと言う事だ。それについて、文句をいう人もいない。

 

それだけは有り難いが、問題は此処からだ。

 

合金を調合する合間に、順番に他の狂気の源泉も調査していく。それで、見落としがないか確認していく。

 

やはり狂気の源泉は竜脈から力を吸い上げて、フィルフサに命令を下しているのが分かる。

 

その命令とは、主君以外全てを蹂躙して殺し尽くせ、だ。

 

あまりにも簡単な命令で、そして殺意しかない。

 

恐らくだけれども、紅蓮以外のフェンリルや超ド級なども似たような命令を仕込まれているのだろう。

 

ものによっては拠点防衛等もあっただろうが。

 

神代の錬金術師に取って「理想的な」生態系を作り出すために、それ以外の全てが邪魔だった。

 

それには人間も含まれた。

 

だから、そんな命令で良かったのだ。

 

確認できればいい。

 

この狂気の源泉に仕込まれている悪意の濃さにあたしは苛立ちで手元が狂いそうになるが。

 

いずれにしても連中は許さない。

 

今は怒りを蓄える時だ。相まみえたときには皆殺しにしてやる。それだけである。

 

合金を作りあげて、其処から実験をする。

 

これは失敗したら取り返しがつかない事になる。

 

まずは、フィルフサから身を守るための装備を作る。これだけで、どれほど被害が減るか分からない。

 

彼方此方に撒いておくだけで、フィルフサは動きを止めるだろうし。

 

この仕込まれている命令を見る限り、身に付けている者が止まれと指示をすれば、本当に言う事を聞く。

 

ただし神代の言葉でなければダメだな。

 

それもあたしは分かっていた。

 

解析を進めていくと、クラウディアが咳払い。一旦手をとめる。外が真っ暗になっていた。

 

かなり集中していたか。

 

フィーは眠っている。最近は心労も多かっただろうし仕方がない。

 

お茶にする。

 

軽く蜂蜜を練り込んだ焼き菓子をいただく。素朴で美味しい焼き菓子だ。黙々と食べていると、クラウディアに聞かれた。

 

「ライザ、順調?」

 

「問題なし。 良い感じでやれていると思う」

 

「ふふ、それは良かった。 進捗は、まだ聞かない方が良さそうだね」

 

「そうだね、もう二日くらいかかる。 だけれども、その成果はかなり大きなものとなると見て良さそうだよ」

 

理論は理解出来たが。

 

全てその通りにやれるかは別の問題だ。これはあたしも、爆弾を作りながら散々思い知らされた。

 

最初に作ったツヴァイレゾナンスなんか、今では完全に過去のバージョンである。

 

今空間操作爆弾を完成させた結果、敵を閉じ込めて、四つの爆弾の最大火力を密閉空間で叩き込むものができようとしている。

 

使えば相手を必ず殺す爆弾。

 

文字通りの必殺である。

 

ただそれも、何度か検証しないと危ない。

 

元々、ラヴィネージュをはじめとする爆弾は。いずれもが破壊力が大きすぎて、広範囲を巻き込みすぎた。

 

だから威力をそのままに、範囲をあれこれ工夫して絞らないと、危なくて使えなかったのである。

 

今はそれができる。

 

でも、できると思い通りに出来るには大きな差がある。まだまだ検証が必要になるのだ。

 

休憩を終えた後、調合に戻る。

 

何度か風羽氏族の戦士が接敵。その度に皆が出て行った。あたしは雷神の石を作って渡しておく。

 

手強そうな場合はあたしが出るが、そうでない場合は任せてしまう。

 

タオは更に座標を集める。風羽の戦士達と一緒に集めて回っているようで、理想的な数をそろそろ揃えられそう、ということだった。

 

統計に耐えられる数となると、相当な数なのだろう。あたしとしては、専門家に任せるだけである。

 

「ライザ」

 

「ん」

 

呼ばれたので振り返る。

 

声の感じからして緊急事態では無い。呼んだのはアンペルさんだ。幾つか進捗があったという事らしい。

 

あたしの方でももう少しで実験のための合金の量産ができる。

 

問題は、これはなんだ。

 

実は形も指定されていて、それが揃わないとフィルフサは従わないのだが。その形が、何なのかよく分からないのである。

 

これは×の字だろうか。

 

いや、×を縦にするし。厳密には+か。それも上の部分が少し短い。何かのシンボルなのだろうか。

 

いずれにしても、上下をはっきりさせないといけないし。

 

色々と面倒ではある。

 

だが面倒であっても、それがフィルフサを止めるのであれば、大いに意味があると言えるだろう。

 

しかし何だこれは。

 

宗教的なシンボルにも見えるが、傲岸不遜の神代の錬金術師が、そんなもの崇めるだろうか。

 

何かの皮肉か。

 

それとも自己神格化の象徴なのだろうか。

 

いずれにしても、これが正解だ。ともかく作って、配る。タオにも見せたのだが、知らないといわれた。

 

知っていたのはクリフォードさんだった。

 

「これ、見覚えがあるぞ。 神代の遺跡で崩れた廃墟の中にあった紋章だ」

 

「本当ですか。 僕が見た資料にはなかったですね」

 

「多分だが、失われた信仰の象徴だと思うな。 ただなんというか……何でそれを神代の錬金術師が? 自分達を神のように神格化していたのは確定なんだろ。 他の権威なんか必要なのか?」

 

やはりクリフォードさんも不審がる。

 

ともかく、これで恐らくはいけるはずだ。狂気の源泉全てに、これに反応する仕組みが組み込まれていた。

 

ただし絶対は無い。

 

フィルフサ相手に試験をしてみたいところだ。

 

数を揃えたので、皆の分だけではなく、奏波氏族の戦士達にも配る。効果があったら、劇的に状況を改善出来る筈だ。

 

それともう一つ。

 

狂気の源泉は、遠隔で爆破できることも分かった。

 

一種の自壊装置なのだが、それについても発動の仕組みを解析済だ。ただこれは、近付かないといけない。

 

爆破すればそれが取り付けられているフィルフサの王種は瓦解する。元々知能なんて持つような存在では無いし、動物ですらないのだ。無理矢理結合させられているのが、爆ぜてしまうというのが正しいだろう。

 

カラさんに、皆を集めて貰う。

 

そして、向きなどを説明しながら、合金製のシンボルを配った。すぐに使い路がなくなるといいのだが。

 

まあ、素材が素材なので錆びないだろう。無理に壊そうにも、オーレン族でも苦労する筈だ。

 

オーレン族の戦士達は、あたしが作ったというと信頼してくれたが、形を見て小首を傾げていた。

 

精霊とともにあると公言するオーレン族はどちらかというとシャーマニズムといわれる原始信仰にちかいものを持つとタオが分析しているのを聞いた事がある。つまり信心深い訳だが。

 

それはそれで、別の信仰に拒絶感もないようだ。

 

この辺りの思考は、身体能力と同じで明確に人間より優れている要素だと言える。その分繁殖力が低すぎるのだが、まあそれはそれ。今はおいておく。

 

ただし、そんなオーレン族でも。こんなものがフィルフサに効くといわれても、何とも不可解だという様子である。

 

あたしもそれは同じなので。しかたがない。

 

「これは本当にフィルフサに効果が?」

 

「神代の錬金術師がどうしてこの形を選んだのかは分かりません。 間違っても何かを信仰することはなかったでしょうし、あったとしても自分達自身だったでしょうし。 いずれにしてもこの合金とこの形状。 この二つにフィルフサは反応するように設定されています」

 

「ひょっとして、自分は神という意思表示なのかも知れないな」

 

ボオスがぼそりという。

 

ありうる話だ。いずれにしても、生きているのを捕まえたら殺す前に全て聞き出すが。ともかく、一つずつ実験と行く。

 

まずはこれでフィルフサが沈静化するかどうか。

 

勿論危険極まりないので、実験はあたし達と、奏波氏族の精鋭で合同任務とする。

 

奏波氏族の精鋭にも来て貰うのは、実地で現実を確認する為である。

 

あたし達だけだと、確認のために何度手間にもなる。

 

それはあたしとしても、危険度を増すだけだし、よろしくないと考える。

 

まずは、風羽氏族の戦士が見つけて来た、フィルフサの群れに近付く。この群れは規模がそれほど大きくないが。

 

そもそもフィルフサは王種を中心としており、小型の個体だけで存在はしない。

 

小型の群れがいることは、王種もいるのだ。

 

群れを確認。

 

将軍はいないが、大型個体が一体いる。雨も降っていないから、本来ならそれなりに苦労する相手だが。

 

あたし達に気付くと、群れは一斉に戦闘態勢に入る。

 

ではやるか。

 

皆に戦闘態勢を取って貰うと、あたしが前に出る。これは作ったのがあたしだからである。

 

作った人間が責任を取るのは、当たり前だ。

 

前に出て、シンボルをかざす。

 

途端に、フィルフサの群れがすっと動きを止める。

 

「おおっ!」

 

「本当だ。 信じられない!」

 

近付いてもフィルフサは動かない。タオが神代の言葉で単純な命令を幾つか下す。恐らく通じる命令についても、あたしは解析済だ。その全てを、フィルフサは解釈して動いていた。

 

これはフィルフサが考えているのでは無い。

 

頭脳である王種を介して、命令が通っているとみて良いだろう。

 

側まで近付いても攻撃してこないのを見て、奏波氏族の戦士達が顎が外れそうな顔をしている。

 

咳払い。

 

手を叩いて、もう一度説明する。

 

形状だけでも合金だけでもダメ。相手に対して見せないと効果がない。

 

あたしができるだけ生産して配るが、それでも過信は絶対にしないように。そう説明して、まだ呆けている様なので。

 

カラさんが、本当に雷を落としていた。

 

近くに直撃する雷で、やっと跳び上がる奏波氏族の戦士達。

 

「明日の皆の命が掛かっておる! しゃんとせい!」

 

「はっ! 総長老!」

 

「ライザよ、それでこのまま王種も黙らせることができるのか」

 

「はい。 タオ、例の指示を」

 

頷いたタオが、指示を出す。

 

王種を呼べ。

 

それだけだ。

 

しばらく待つと、この辺りのフィルフサを管轄している王種が本当に姿を見せる。そして、どうしてこの辺りのフィルフサの王種が見つからなかったのか、納得が行った。

 

ちいさな、虫くらいの大きさのフィルフサが、彼方此方から凄い勢いで集まってくる。それが合体して、見る間に王種へと変わっていく。

 

甲殻が本体である。

 

それは分かっていたのだが、それでも衝撃的な光景である。ただ、中核部分は極ちいさなフィルフサで、それも地面に潜っていたようだ。

 

これは見つからない訳だ。

 

気配にしても、地面の奥深くにいられたら、どうにもできなかっただろう。持久戦向けのフィルフサとして開発されたわけだ。王種はそれぞれが全てカスタムタイプだが、それにしてもこれは。

 

やがて、王種が一双の鎌を持つ巨大な蟷螂のような姿になるが。

 

身構えるオーレン族の戦士達の前で、あたしがシンボルを掲げる。王種はあっさりと膝を屈した。

 

まさか、これほど簡単に。

 

所詮は生物を使った機械。

 

それも、神代の錬金術師は恐らくホムンクルスで以前手痛い失敗をしている。だから、徹底的に逆らえない事に重点を置いたのだ。

 

面倒な行程を経ないと作れない合金。

 

更には古代の信仰のシンボル。

 

二つが揃わないと止められない。だから自分達以外にはとめる事ができない。そういう事だったのだろうが。

 

そんなもの、奴ら以上の技術で解析してしまえばどうにでもなるのだ。

 

タオに、皆に言葉を伝えて貰う。

 

奏波氏族の代表の一人である戦士が前に出て。そして神代の言葉で王種に指示を出す。

 

崩壊せよ。

 

そう告げると、本当に王種が溶け始め、周囲に集まって来ていた将軍まで崩壊していく。

 

違う。

 

無理矢理殺戮兵器にされていたフィルフサが、もとの姿に。もとの生態に。戻って行っているのだ。

 

おお。

 

感涙。驚愕。それでその言葉しか出ない。

 

フィルフサの群れも瓦解していく。そして、役割を終えた王種についていた狂気の源泉が、爆発して果てる。

 

オーレン族の戦士が、生唾を飲み込んでいた。

 

「今まで数限りない犠牲を出し、千三百年も戦って来たおぞましい難敵が、こんなにも簡単に……!」

 

「キロさんが向かった地点が分かるなら、すぐにこのシンボルを届けて欲しい!」

 

ボオスが呆け気味の奏波氏族の戦士達に若干焦り気味にいう。カラさんも早くせいと叫ぶと、あわてて何人かがウィンドルの集落に戻った。

 

これでフィルフサは。

 

一つの世界を滅ぼそうとしていた狂気の生物兵器は。

 

完全に無力化されることになった。

 

あまりにもあっけないその幕切れだが。しかし安全装置を悪用した結果であって。皆の努力と苦労がなければ、とても此処にはたどり着けなかっただろう。あたしはあくまで、最終的な一押しをしただけだ。

 

アトリエに戻る事にする。

 

遺跡から回収した資料を解析する。その後は、この近辺のフィルフサを掃討する作戦に参加。

 

セリさんには相談がいる。この辺りに例の浄化植物を植えるのに専念して貰うか。決戦に来て貰うか。決めて貰う。

 

セリさんも、リラさんも、目頭を擦っている。

 

それはそうだろう。フィルフサの打倒は悲願だったのだ。それほどの敵であったフィルフサが、こんなにも簡単に倒せるようになったのである。

 

あまりにも感極まると、笑顔なんて浮かばないんだな。

 

あたしは、それを見て悟っていた。








千数百年世界を脅かし続けた生物兵器。

その無敵時代が終わりました。
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