暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
ついに原作でのラストダンジョン、万象の大典への突入開始です。
このためにライザ達は徹底的な準備と、後顧の憂いの排除もしてきました。
世界を脅かす怨敵への決戦のために。
今、ついに決戦が始まろうとしています。
序、準備完了
全ての準備を終えた。
あたしは皆の装備を確認して、最良の状態に仕上げた。勿論みんな戦士だから、武器の手入れくらいは自分でしている。あたしがするのは、武器そのものの強化である。
特にボオスのギミック武器は手入れが大変なのだけれども。今まで以上の剣を格納できるようにした。
これが結構大変で、扱えているボオスが結構器用である事が分かる。
皆にも思い残すことがないようにしてもらったのだが。
そうしたら、リラさんに思ってもいない事を言われた。
アンペルさんと結婚するつもりらしい。
アンペルさんはそれを聞いてびっくりしていたので、リラさんが言い出した事と言う訳だ。
あたしとしては咳払いして、注意事項について覚えているか確認して。
それで問題ないと言われた。
どうもリラさんも、アンペルさんがハーフらしい事はうすうす勘付いていたらしい。それで昨日聞かれたので、アンペルさんの同意の下話したのだが。
それで決意を決めたようだった。
「人間と婚姻するつもりはないが、奇縁で生まれたアンペルとならかまわない」
そうリラさんは言うが。
実の所アンペルさんは若作りしているがもうかなりの年配である。
リラさんは逆に肉体年齢はあたしと大差ないらしいので、ある意味年の差婚になるわけだが。
まあ、リラさんはその気でも、アンペルさんがどうかは分からない。
いずれにしても、ずっと門と戦い続けた二人だ。
互いの事は良く分かっているのだろう。
それと、セリさんとクリフォードさんも似たような事があったようだった。
とりあえずどうするのか聞いたのだが、クリフォードさんはこの戦いの決着がついたら決めるとしたのだとか。
ちなみにクリフォードさんは、セリさんと婚姻したら、オーリムに移住するそうである。
パティは許可を出していたが。
アーベルハイムは優秀な戦士を失うことになるな。
まあその分は、あたしから何かしらの形で埋め合わせをしたいが。
いずれにしても二組、いや三組か。オーレン族と人の婚姻が決まったわけで。あたしとしては不幸にならないように色々としなくてはならない。
六人分の髪の毛は貰っているので、まあ問題は無いだろう。
母親に掛かる肉体的な負担は、人間とオーレン族の間に壁となっている。それを壊せるのなら。
ただ、人間とオーレン族の間の壁は他にも色々ある。
文化の違いもそうだし、人間の種族的性格から言って、オーレン族との大々的な交流は難しいだろう。
アンペルさんにしても、リラさんと婚姻した後はどうするつもりなのか。
錬金術師として此方の世界に留まるのか、オーリムに向かうのか。
なお、前に髪の毛を調べたが。
多分アンペルさんは、200年を越えては生きられない。
リラさんより確定で早く亡くなる。
それについても、リラさんは覚悟を決めなければならないわけで。色々と難儀なことになるだろうなとあたしは思っている。
タオとパティは問題ない。
この一件が終わったら、王都に来て欲しいと言われている。
まあすぐにいけるかは分からないが、会いに行ったら二人に子供ができている可能性も高い。
レントは何処かに旅に出るらしいし。
クラウディアはバレンツの頭取に数年以内に就任することが確定のようだ。
ディアンはフォウレの里で種拾いのナンバーツーに。いずれデアドラさんが験者になった時に、種拾いの長になるだろう。
フェデリーカはサルドニカの長として幾らでも仕事がある。
あたしは。
もう人間を止めてるし、これ以上特に考える事もない。
だからそれぞれの人生については、あたしが関与することでもない。あたしが関与できるのは、オーレン族と人間の合いの子が生物的に不幸にならないようにする。ただそれだけである。
武器の手入れは二日かかった。
皆の装備を根本的に手入れして、最後の戦いに備えての強化をした。あたしの戦闘用杖もそうだ。
賢者の石……正確にはいにしえの賢者の石か。これについても、大いに活用させて貰った。
結果は大正解だった。
どうしても結論が出なかったセプトリエンの完成型と言ってもよい代物だったのである。それは最強の金属ができる。
今までのグランツオルゲンが完全に過去になった。
軽く強くしなやかで、絶対に錆びない。
更にこれをベースにハイチタニウムを組み込むと、ハイチタニウムの唯一の欠点だったもろさが完全に克服された。
ただしそれでも無敵の金属と言う訳では無い。
皆にそれぞれ、新しく新調した武器を使って慣れて貰う。
カラさんも、新しい杖で、いつも以上に凄い魔術が出せると喜んでいた。カラさんは、実はこの戦いが最後に出られる本格的な戦いかも知れないらしい。
まだすぐに寝込むようなわけではないが、もう年なのだ。
魔術の出力は、今後どんどん落ちていく。
オーレン族は長生きだが、衰え始めると酷い衰え方をするらしい。
そういえば、各地で孤立しているオーレン族を救助したとき、明らかに老人とあたしから見ても分かる人もいた。
ああいう人が、そうだったのかも知れなかった。
「武器の方は問題無さそう?」
「問題ないどころか、これは……この戦いが終わったら封印します。 多分普通の使い手が持ったら、確定で人斬りになりますから」
パティが大太刀を振るってから、そんな事を言う。
今手にしている間も、暗い欲望が……人を斬りたいという欲望がわき上がってくるのが分かるという。
戦士の本能で、どうしても凄い武器を手にすると嬉しくなる。
これはそういった感情の最上級のもので、生半可な使い手では抑えきれない程だということだ。
そうか。
いわゆる魔剣や妖剣と言われる類のものを作ってしまったか。
でも、この戦いには必要なのだ。
パティもそれは分かっているから、「今までの」大太刀を「この戦い以降は」使いたいと言う。だから、あたしもその要望に応えて作っておいた。
変更するのは武器だけでは無い。
皆の装飾品も全部手を入れる。
いにしえの賢者の石はどれだけ使っても足りないが、それは今までため込んだジェムでどうにかする。
それに加えて、服の調整だ。
オーリムの蜘蛛糸と、東の地の絹を用いた最高の服を、全員分しあげる。
ただしこれも無敵の防具では無い。
あくまで受け流す事に終始して欲しい事と。空間魔術は受けたら耐えられない事も皆に伝える。
何度も、念入りに。
結局、空間魔術は空間魔術でしか防御出来ないし。それも壁を作って防ぐのではなく、逸らすくらいしかできない事も分かった。
もっと凄まじい錬金術師だったら、空間魔術を身じろぎさえせず防御することも出来るのかもしれないけれど。
残念ながら現時点でのあたしには無理だ。
皆の装備を一新して、それで更に一日。
調整に皆で訓練をして貰って、もう一日。
その間に、アンペルさん、タオ、クリフォードさんに見落としがないか、最後に資料をチェックして貰う。
何しろ世界を渡るのだ。
どれだけ備えていても、備えすぎにはならないだろう。
何もかもが片付いた。
それで、ようやく。
最後の挑戦に、皆で出向く。
群島に出る。
エアドロップ二つに分乗して、最奥の島に行く。もう悪魔もどきは出ない。全て倒してしまった。
あれが魔物をまとめて操作してきたのも、そういう能力に設定されていたからなのだと、解剖した今は理解出来る。
あれらもある意味犠牲者だったのだとも。
エアドロップに、いるかが追従してくる。興味津々の様子だが、そろそろこの群島からは離れた方が良いかも知れない。
特にトラブルの類はなく、最奥の島に到着。
アトリエに一度寄って、荷物の整理はしたが。ここ数日で整理は終えていたので、形だけだった。
このアトリエは、空にしてしまう。
結局門は小妖精の森のアトリエに作ったし、残念ながらこれでお役御免である。
拠点を作る為のテストケースとしてよく機能してくれた。
このアトリエがなかったら、サルドニカやフォウレ、東の地、ウィンドルのアトリエも彼処までスムーズには作れなかっただろう。
最奥の島に上陸して、点呼。
全員いる。
さて、此処からだ。島の奥に進むが、ガーディアンの類はなし。奇襲を仕掛けて来る気配もない。
汝、鍵もて万象の大典に至れ。
そんな声が聞こえる。
今まではぼんやりした声だったのが、今までに無い程クリアに聞こえた。勿論他の誰にも聞こえていない。
「呼んでる奴が何者か知らないけれど、あたしが間近まで来ている事に気付いているね、これは。 声が今までになくクリアだよ」
「その声、神代の錬金術師の奴らのものなのかな」
「いや、違うと思うね」
ディアンに即答。
というのもこの声、はっきり聞こえるようになって来て分かったのだが。人間が呼びかけてきている感じでは無い。
魔物が魔術を使うときに、触手を振動させたりして音を出す。或いは人間の言葉を喋ってみせることがあるが、それも口をぱくぱく動かして喋るわけではなかったりする。
そういった「作られた言葉」の、更に拙い奴に聞こえるのだ。
人間の言葉を模倣し補食する魔物も存在はするらしいが、そういうのは魔物の中では弱い方である。
今いる魔物は、そんな事をしなくても人間に圧勝できるので、必要としていないのである。
そういうような、出来の悪い言葉に聞こえるのだ。
「ひょっとするとこの呼びかけ、機械仕掛けかも」
「機械が喋るのか! 機具が喋るようなものなのかな」
「神代の技術なら可能な筈だよ」
タオが補足してくれる。
あたしも同意見だ。いずれにしても、この声の望み通りに行ってやろう。ただし、貴様等全てを灰燼に帰すために。
宮殿に踏み込む。
恐ろしい程に静かだ。
既に星図の調整はしてある。
石碑の数字はフェイク。
世界を示す数字だけをゼロにする。
この調整が結構面倒くさかった。それにしても旅の人は、恐らく何も関係無く、最初に何も無い空間に出向いて拠点を作ったのだろうな。
それを思うと、今のあたしでもまだまだ及ばない相手だ。
もう少し自衛に心を砕いてくれれば。
それだけが、本当に惜しくてならない。なんども思う。
宮殿の階段を歩く。その間も、皆は周囲を最大限警戒してくれている。あたしも一歩ずつ、丁寧に階段を踏んで行く。
此処で苦労するのはこれで最後だ。
階段を上りきり。
渡り廊下の最奥にある、開かれたままの扉。それを、レントとディアンに頼んで、一度閉じて貰う。
閉じて良いのかと聞かれたが、無言で頷く。
神代の錬金術師は、オーリムでコテンパンに負けてから、自分達の世界に行くための扉に何重ものセキュリティを掛けた。
それまではセキュリティなど必要としていなかったが、それが必要になったからだ。内心で、自分は無敵では無いとようやく悟ったのかも知れない。
それでいながら、何故か錬金術師を招こうとしている。
今までの記録から見るに、時代に隔絶した才能の持ち主を。
だが、血統主義の神代の錬金術師が、どうして在野の錬金術師を。そこがとにかく、気になる所だ。
まだ分からない事は多いから、要注意して先に進まなければならない。
鍵を取りだす。
完全体となった鍵だ。
今まで、此処を通って万象の大典に出向いた錬金術師もいただろう。だがそれは、恐らく神代の残した情報がまだあって。「模範解答」に到達出来たから、やれたことだったのだとみて良い。
それ以降の錬金術師は、意図的に廃棄されたり、或いは戦乱で失われたこともあって。神代の情報なんてろくに得られなかった。
国家ぐるみであっても、得られないような情報もたくさんあった。
今回あたしが此処にいるのは、周囲に世界レベルのスペシャリストが集った故。
あたしだけの力では無い。
錬金術は才能の学問だ。
だがそもそも錬金術に触れられないで一生を終えた人もいるだろう。
あたしが史上最高の錬金術の才能持ちだとはとても思えない。
パミラさんによると別の世界にはもっととんでもない錬金術師がいるという話だし。
そもそもこの世界だって、昔は今とは比べものにならないほど人がいた。そういう人の中には、あたし以上の才能を持つ人が幾らでもいたはずだ。
それらから、機会を奪ってきたのが歪んだ血統主義だ。
血統なんか何の意味もないことは、あたしが良く知っている。
今此処にいるのは。
数多の運と仲間に助けられたから。
ただそれだけが理由だ。
血統なんぞ関係無い。
神代の歪んだ血統主義を、今此処で蹴り崩す。
座標確認良し。
問題なし。
一応ダブルチェックする。問題なし。クロスチェックもする。これもまた、問題なし。
また声が聞こえてきた。
鍵もて万象の大典に至れ。
五月蠅い。
かなり声が大きくなってきていて、苛立ちの方が強い。
今までの全ての蓄積をもって、作りあげた鍵を、扉に差し込む。
次の瞬間。
膨大な知識が、頭に流れ込んできていた。
なるほどね。
知識欲でここに来た連中を、これで魅了するつもりなわけだ。
ふわふわと浮くような感覚。
これは覚えがある。
誰でも持っている欲求。性欲に近い。これは男性の錬金術師なんて特にひとたまりもなかっただろう。女性でも一瞬で感覚が狂うはずだ。
凄まじい快楽が本来だったら全身を駆け巡り、ふらふらとこの奧に釣られてしまうのだろう。
それくらい、あまりにも強烈だったのだが。
あたしはふっと鼻で笑う。
生憎此方は既に人間を止めた身だ。性欲はとっくになくなったし、子を腹で育てることにも、男と寝ることにも興味が無くなった。
欲そのものはまだある。
食欲はあるし睡眠欲だって。
だが、それも制御出来る範囲だ。あたしは人間を止めてから、色々なものを失ってきたが。
それを後悔したことは一度もない。
ありのままの人間が素晴らしいなんて寝言は、神代の愚行を見て嫌と言うほど間違いだと理解出来た。
今更人間に戻る気も無い。
深呼吸すると。
一喝。
纏わり付いてきていた、凄まじい知識欲をかき立てる情報が消し飛ぶ。それらはよく見ると、ただの収奪しただけの知識ばかり。
神代の連中は、他者から奪うことにばかり特化していた。
知識も技術も同じ。
だから新しいものを独自に作り出す事ができなかった。
手持ちの知識と技術を用いて、何かしらに当てはめることしかできなかったのである。
それがアンペルさんの思想と決定的に違う事。
あたしの師匠から受け継いだ、異質な錬金術に。
こんなくだらん誘惑は効かぬ。
ばちんと音がして、あたしの周囲で魔力が何度もスパークする。生唾を飲む音がした。フェデリーカだろう。
「ラ、ライザさん?」
「舐めてくれたものだね。 あたしを知識欲で誘惑して、まともな判断力を奪おうとして来たよ」
「何とも悪辣な罠だな。 神代の錬金術師の思想を受け継いだ錬金術師には、文字通りひとたまりもないだろう代物だ」
アンペルさんが呆れる。
あたしは鍵に手をかざすと、更にもう一押し。
それで、ついに。
扉が、真の意味で開いていた。
扉が開いた先には、門ができている。その先の気配は深海でもない。というか異質だ。魔力が全くこの世界とは質が異なるのだろう。
「覚えがあるぞ。 間違いない。 奴らの根拠地の気配よ」
カラさんが太鼓判を押してくれる。
ならば、後は行くまでだ。
あたしは一歩を踏み出す。
あたしを支えてくれた仲間達が、それに続いていた。
ついに、神代の本拠地に踏み込む。その先にあるもの全てを、灰燼に帰し。この世界とオーリムに千三百年混乱と殺戮をもたらした元凶を滅ぼすために。