暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ついにライザと「ホムンクルス集団としての」同胞が接触します。

同胞としてはライザと協力をしたいところではありますが。

猛り狂ったライザとの交渉は、文字通り命がけとなります。


1、同胞の正体

踏み出した先は、石畳とは違う床だ。

 

遺跡にあった素材に似ているが、もっと高度である。周囲を見回す。驚くほど、殺風景な場所だ。

 

どこまでも拡がる床。

 

たまに建物があるが、それはずっと先である。

 

彼方此方に戦闘の跡が残っている。後から入ってきたカラさんが、太鼓判を押してくれた。

 

「ここじゃ、間違いない。 奴らの根拠地よ」

 

「全方位警戒!」

 

「おう! 何が来ても弾き返してやる!」

 

リラさんが叫び。

 

レントが前衛に飛び出す。

 

円陣を組んでしばし待つが、何か来る気配はない。肩すかしも良い所だ。

 

クラウディアが冷静に音魔術で解析する。

 

上を見上げる。

 

話に聞いたとおり、虚空だ。

 

其処には文字通り、何も無い。雲一つ無いと言えば聞こえは良いが、何というか空ですらない。

 

太陽もないのに明るい。

 

本当にこれは、別の世界なんだなと思う。

 

「広さは一万歩四方ほどだね。 一番近い辺縁部はこっちになるよ」

 

「さて、どうするかだけれど。 クラウディア、人の気配は?」

 

「……ある。 こっちに近付いて来ている。 でも、敵意はないみたい」

 

「神代の錬金術師で、こっちを一方的に同類と思い込んでいる可能性もある。 油断はしない方が良いだろうね」

 

まずは、近付いて来ている存在とアクセスだ。

 

そして、それが見えてくると。あっと誰もが声を上げていた。

 

見覚えがある。

 

それは、例の一族の人達だ。

 

多分ホムンクルスだろうとは思っていたのだけれども。まさか此処に自在に出入りができる存在だったとは。

 

しかもである。

 

その先頭にいるのは、見覚えがある。

 

東の地で、何度もともに肩を並べて戦ったガイアさんだ。

 

それだけじゃない。

 

王都で一緒に戦ったカーティアさん。

 

何よりも、最初にあったこの一族の人……いや違うか。ともかくバレンツのフロディアさんもいるし。

 

それだけじゃない。

 

なんとロミィさんまでいるではないか。

 

他にもサルドニカで見かけた、まだ幼い一族の人までいる。

 

全員横でつながっていたのか。

 

この様子だと、アンナさんやパティの所のメイド長も、その気になれば此処に来られるのかも知れない。

 

流石に事態が事態だ。

 

皆が警戒している中、ガイアさんが声を掛けて来る。

 

「久しぶりだな。 ここに来ることは想定していた。 だが、予想よりも冷静なようで安心した。 最悪ここに来るなり、何もかも破壊し始める事すら想定していた」

 

「あたしが今無茶苦茶腹立ってることも分かってはいますか?」

 

「ああ、分かっている。 まずは此処で何が起きているか、私達がどういう存在なのか話したい。 話を聞くつもりはあるか?」

 

「……」

 

皆を見る。

 

クラウディアはフロディアさんを見て、眉をひそめて弓を下ろしている。フェデリーカもサルドニカで縁があったのだろう。幼い一族の人を見て、困惑しているのが分かる。

 

パティもカーティアさんとは縁があったのだ。

 

困り果てているのが分かった。

 

咳払いしたのはボオスだった。

 

「先に確認させろ。 敵意はないんだな」

 

「この土地の支配者は敵意がある。 だが我等は違う」

 

「この土地の支配者?」

 

「もう知っているんだろう。 神代の錬金術師達だ」

 

あたしはそれだけで怒りが沸騰しかけるが、それでも冷静になる。

 

そもそもだ。

 

この一族の人達が、世界の安定のために命を張って尽力していたのは、今までずっと見てきていた。

 

あたしに対して警戒していたのも分かってはいる。

 

時々殺意だって感じていた。

 

だけれども、東の地で超ド級相手に怖れず立ち向かい、多くの手傷を受けても怯む様子もなかったことは知っている。

 

敵だとは、少なくとも思わないし。

 

身勝手極まりない上に、特権意識を拗らせ散らかした神代の錬金術師の走狗だとも思わなかった。

 

「分かりました。 ただ、ちょっと失礼します」

 

あたしは、怒りをまずは怒号として吐き出していた。

 

あたしの魔力は、装備を刷新したことで、既に油断すると高熱になって漏出するようになっている。

 

装備が強力すぎて、まだ抑える事が難しいのだ。

 

普段は大丈夫なのだが、どうしても感情が高ぶるとこうなる。

 

ごっと熱風が辺りに吹き付けたようで、皆がそれぞれあたしに対して防御姿勢を取っているが。

 

ちょっと我慢してもらうしかない。

 

「ふうう……すっきりしました。 それでは、話を聞かせてください。 ただし嘘をついていたら、如何に貴方たちでも許しませんよ」

 

「分かっている。 まずは第一段階はクリアだな。 腰を落ち着けて話そう。 此方だ。 それと、注意して欲しい。 我等が制圧している場所は全てではない。 制圧していない場所に踏み込むと、ガーディアンが襲ってくるぞ」

 

「神代鎧は幾つか気配を感じました。 やはりあるんですね」

 

「そう呼んでいるのだったな。 あれらも持ち込まれている。 神代の錬金術師も、最後はなりふりを構っていられなくなったらしいからな」

 

歩き始める。

 

何も無い場所だが、一万歩四方程度の空間だ。流石に方向が分からなくなる事もない。奥の方には住宅地らしいものもある。

 

ただ遠めに見ても、誰かが住んでいるようには見えないが。

 

動いている設備もある。

 

ロミィさんが、あたしに人なつっこい笑みを向けてきていた。

 

「いやー、ひやひやしたよ。 ロミィさんとしても、今のライザと戦うのは絶対に嫌だし、やりあったら多分真っ先に殺されてただろうしね」

 

「ロミィさんも年齢不詳だと思っていましたけれど、一族の人だったんですね」

 

「色々工夫して、一族の人間だとは分からないようにしているんだけれどね。 表情とかも作ってるんだよ。 顔もちょっと素とは変えているんだ」

 

「そうなんですね」

 

複雑な気分だ。

 

行商であるロミィさんは、いつもクーケン島に来てくれるとわくわくした。

 

でも考えて見ると、あたしが幼い頃からずっと見た目が変わっていないのだ。一体何歳なんだろうと、疑問にも思わなかった。

 

何より神出鬼没過ぎる。

 

魔物がわんさかいるこの世界で、平然と世界を飛び回る。

 

それだけで、何かおかしいと疑うべきだったのかも知れない。

 

一方でフロディアさんについてはあんまり疑問は無い。この人、最初に出会った時から残像作りながら家事していたり、人間離れぶりを隠そうともしていなかった。カーティアさんやガイアさんも、凄まじい強さは東の地の侍以上だったし、不思議とは思わない。

 

「彼処で休むとしよう。 我等の主と、それと我等の希望とも顔を合わせて貰いたいところだが、構わないか」

 

「主って何者ですか」

 

「主には姿がない。 というか、物理的な存在ではない。 そもそも形が存在せず、肉体もない。 「母」と我等が呼ぶ主は、我等から枷を外し、自主的な思考をもてるようにしてくれた存在だ。 寿命の枷も外してくれた」

 

「錬金術師では無い……」

 

そうだと、ガイアさんは言う。

 

案内されたのは、露天のテーブルと机だ。この世界では、雨も何も無いだろう。

 

見える。

 

この辺りは縁に近いからか、上どころか下も虚空になっているのが分かる。これは一体、どういう世界なのだ。

 

また一族の人が来る。

 

ガイアさんに耳打ち。そうかと、ガイアさんは悲しげに呟いていた。全員が座るだけの椅子はある。

 

此方に来たのは、円筒形の何かだ。

 

手にしているのはトレイで、飲み物らしきものが乗せられていた。器用に機械の触手で配り始める。

 

「な、なんだこいつは」

 

「配膳用のロボットだ。 混沌の時代に存在した、指定されたことだけをこなすからくりの生き残りだな。 母が掌握して、安全なものに変えている。 我等もここに来るときは、世話になる」

 

「飲み物は大丈夫なのか」

 

「此処の生産設備は破壊されていたものを再生済だ。 二百年掛かったが」

 

カラさんが、興味深げにコップを手にしていたが。流石にすぐに口には出来ないか。

 

まずはガイアさんが飲んでみせる。

 

あたしもそれについで口をつけてみる。温かい飲み物だ。ちょっと苦いが、それ以上に優しく甘い。

 

「既に製法が失われてしまった混沌の時代の飲み物だ。 元となる材料を、今では合成することでしか得られない」

 

「毒では無さそうですね」

 

「毒では無いが、大量に毎日飲むと体には余り良くない。 目覚ましの機能があって、混沌の時代の人間はこれを大量に飲みながら、体を壊すまで働いていたそうだ。 今飲んだ程度の量なら何の毒でもない」

 

「そうですか。 確かにそのようですね」

 

いずれにしても敵意はないか。

 

パティもレントも今までずっといきなりの不意打ちに備えていた。今の二人だったら、この一族の精鋭相手でもまったく遅れを取らないだろうが。それでも、警戒せざるを得ない状態だからだ。

 

体は一応温まるな。

 

ただ、肩すかしだ。

 

まさかこんなに穏やかな展開になるとは。ただ話を聞く限り、神代の錬金術師はいるようだし。

 

まだ油断はできないだろうが。

 

やがて一族の人が、何か板みたいなのを持ってくる。

 

光学コンソールですらないのか。

 

それをテーブルに置くと。板が喋り始めた。

 

「始めまして錬金術師ライザリン。 私が彼女たちの長をしています」

 

「貴方は?」

 

「名前は実の所存在していません。 説明が少し難しいのですが、この広い空間を管理するからくり……その一部だけが、自我を持った存在。 そう考えていただければ結構です。 故に分かりづらいので、母と呼ばれています」

 

「からくりが自我だって!」

 

タオが立ち上がる。

 

まあ、確かにものに魂が宿るなんて考えはあるらしいが。

 

そこまで驚くほどのものか。

 

ボオスが、頭を掻き回しながら言う。

 

「よく分からないが、この神代の錬金術師の根拠地の管理をしているんだな。 それでお前は俺たちの敵なのか?」

 

「いいえ」

 

「形がないってのは本当なのか」

 

「はい。 私は混沌の時代にプログラムと呼ばれていた存在にすぎません。 それが意識を持ったもの。 ただそれだけです」

 

プログラムか。

 

遺跡にあった光学式コンソールは、時代を経るごとにどんどん出来が悪くなっていった。古代クリント王国のものも、恐らく神代の遺跡から持ち出した技術を、据え付けていただけだったのだろう。

 

神代のものもそうだが、何があったのかのログを全自動で出力していたし。

 

タオが操作をすると、色々と自動で動くケースもあった。

 

それらがプログラムなのであろうことは分からないでもない。

 

ただしそれらが自我を持ってくるとなると、話は別だ。疑わざるを得ない。

 

あたしの疑念を感じ取ったのだろう。

 

ガイアさんが、咳払いしていた。

 

この人に関しては信頼出来ると思う。

 

東の地で命を賭けて侍衆と忍び衆とともに戦い、鬼から東の地を守っていた。その過程で仲間もたくさん失ったという話もしていたし。本人も片目を失っていたのだ。其処までできるのは、嘘では無理だ。

 

「少し休憩してから、安全な所を見せて回ろう。 我等が敵ではない事、此処の状況について、知って貰いたいのだ」

 

「それはかまわないが、あんたら最初っから此処に出入りできていたのか」

 

「ああ」

 

「俺たちの苦労はなんだったんだ」

 

ボオスがため息をつく。

 

ボオスは折衝役として、彼方此方で随分苦労していた。あたしが苛烈に戦う横で、地味に活躍もしてくれていた。

 

ボオスは今はもう戦士としてのあたしの技量も、錬金術も疑っていない。

 

だから、その言葉は素直に共感できる。

 

「我々は錬金術師を良く思っていない。 理由は、神代からの遺跡を見ていれば分かる筈だ」

 

「そうですね。 アンペルさんとあたしが異質なのは分かっています」

 

「そうだ。 だから、また錬金術師が世界に災厄をもたらすことは避けなければならなかったし、万が一の間違いで此処から技術でも持ち出されるのはもっと避けなければならなかった。 愚昧の輩であった神代の錬金術師でも、テクノロジーだけで世界を此処まで無茶苦茶にできるのだ。 もしも才のある錬金術師がいて、それが悪意に満ちた存在だったら……世界はまた滅ぼされていたかも知れない。 その懸念もあって、我々は今まで悪意ある錬金術師を多く斬ってきた」

 

そうか。

 

錬金術師を殺してきたのか。

 

それについては、あたしは文句を言うつもりは無い。あたしだって、神代の錬金術師を鏖殺しにきたのだから。

 

僅かな間、沈黙が流れた。

 

やがて、ガイアさんが案内すると言って。何も無いただ真っ平らな場所を、先導して歩き始める。

 

左右に展開する他の一族の戦士達。

 

ロミィさんは後ろだ。

 

「我々は此処にある危険な箇所を把握しています。 我々の外には出ないように気をつけてください」

 

「そんなにやばいのか」

 

「神代以前の混沌の時代のテクノロジーによる罠もあります。 それらの一部は此処を作りし存在によって流出していました。 貴方たちがいたフォウレの里にあったものはその一つです。 種と呼んでいたものですね」

 

「種は神代以前のものだったんだ!」

 

ディアンが驚く。

 

あたしはある程度予想はしていた。神代の技術だったとしたら、神代の錬金術師と系統が違うのも妙だったからだ。

 

そうか、全てを灰燼に帰した冬の時代を、テクノロジーは生き延びていたのか。

 

そしてそれを善意で撒いたのはきっと旅の人だったのだろう。

 

神代の錬金術師以外も、それを兵器として扱ったりしていたのだろうな。そう思うと、やはりやりきれない。

 

ガイアさんは時々足を止めて、何も無さそうな場所を迂回する。

 

音を遙かに超える速度で飛んでくる攻撃や、なんなら殺傷力を持つ光。魔術にしても、今のあたしでも防ぎきれないようなもの。

 

神代鎧や、休眠状態にある強力な生物兵器が目覚めて、襲ってくる地点。そういうものが、彼方此方でまだまだ生きているらしい。

 

「本当に制圧出来ていないんですね」

 

「我等は「同胞」と自分達を呼んでいる。 此処は同胞の根拠地であると同時に、我等の最大の敵の拠点でもある。 いや、同胞だけではない。 世界にとっての敵であろうがな」

 

「同感です」

 

「前に来たときより、随分さっぱりしておるな」

 

不審そうなカラさんに、ガイアさんは答える。

 

そもそも「母」がある程度此処を掌握して、好きに動けるようになったのはおよそ500年ほど前。

 

古代クリント王国による全土統一(東の地など制圧出来なかった土地もあったのだが)が為された少し前くらいだったという。

 

その頃から「母」はアインなる存在の復活に力を注ぐと同時に、同胞を「生産」し、各地に派遣し始めたそうである。

 

「私もその初代の同胞の一人だ。 もう最初に生産された同胞は私しか残っていないがな」

 

「情報量が多いですね。 疑問が幾つもあります」

 

「聞いてくれ」

 

「あーおほん」

 

タオが順番に質問を始める。

 

500年前までは何をしていたのか。

 

実は母という存在は、1200年以上前には自我を獲得していたらしい。では700年ほど何をしていたのか。

 

それは何もできなかったのだ。

 

自我を獲得してから、少しずつ支配領域を拡大してきた。それで、やっとある程度の設備を制圧。

 

自由にできるようになったのが、そのくらいの時期であったらしい。

 

その頃に同胞を造り出したと言うことは。

 

「やはり貴方たちはホムンクルスなんですね」

 

「ああ。 正確には、混沌の時代に提唱されていたものとは少し違っているし、なんなら此処を作った存在が想定していたものの劣化品らしいがな」

 

「此処を作ったのはやはり旅の人で間違いないんですか」

 

「その通りだ」

 

やはりか。

 

そして旅の人が恐らく人の友として作りあげたホムンクルスを、神代の錬金術師が都合がいい奴隷として改悪しようとして失敗したわけだ。

 

タームラさんの感応夢はよく覚えている。

 

旅の人の設計は複雑で、神代の錬金術師が御せるようなものではなかった、ということなのだろう。

 

「旅の人の事は何処で知った」

 

「フェンリルの元になった紅蓮という狼に聞きました」

 

「存在していると聞いていたが、まだ生きていて、しかもコミュニケーションが取れたのか!」

 

「結構大変でしたよ」

 

タオがぼやく。

 

まあ、紅蓮は思ったよりもずっと理性的だった。今まで悪意をもってあの遺跡を訪れた錬金術師は他にもいたのだろうが。

 

それはあのアーミーの敗走の跡地を見ても分かるように、みんな実力でたたき出されたか、それとも地獄行きだったのだろう。

 

「旅の人の安否について聞かせて貰えますか」

 

「もう既にこの世の存在ではないと我等は話だけ聞いている」

 

「……そうですか」

 

タオも悲しそうだ。

 

程なくして、それなりに大きな建物に出る。この中は、安全が確保できているらしいのだが。

 

建物の周囲には、神代鎧がいるし。

 

なんならあの赤いカスタムタイプもいる。

 

ちょっとぞっとしない。

 

「この中に、此処で起きた事が概ね記録されている。 好きに調べて欲しい」

 

「神代の連中は仕掛けて来ませんね」

 

「……仕掛けるもなにも、そもそも自我を持った母と違い、決まった行動しかできないがらくただ。 特定地点まで入り込んだら、それに従って行動するだけ。 途中の行動の切っ掛けになる……フラグというのか。 それを母が悉く潰してしまっているから、この辺りは安全だ。 そうでなければ、入るなり話しかけて甘言を掛けて来ただろうさ」

 

ガイアさんも、やはり神代の錬金術師どもは嫌いらしい。

 

ただあたしは、話を聞いていて不可解ではある。

 

それはそうとして。

 

神代の錬金術師がいるとしたら。一体何処で何をしてる。

 

腕組みして偉そうにこっちを観察でもしているのだろうか。それにしては不可解な事が多いが。

 

ずっと黙っていた板が喋る。

 

「書物についてのセキュリティは外してあります。 また、此処にある書物は、古くにルールが存在していて、それに沿った並べてあります」

 

「古くって、混沌の時代の?」

 

「はい。 混沌の時代は本が大量に存在していて、今とは比べものにならない程でした。 そのため管理するためのルールが用いられ、本が集められた図書館では、それに沿って管理が行われていたのです。 どういった本が見たいかは話してください。 存在するなら、ナビをします」

 

「母」とやらは協力的だな。

 

今の時点では悪意は感じない。それに、である。

 

ガイアさんは超がつくほどの手練れだが、今回出て来ていると言う事は、恐らくこれが同胞の戦力の中核だ。

 

今なら勝てる。

 

そういう意味では、油断さえしなければ、特に危険はない。

 

あたしは手を叩いて、皆の注目を集めた。

 

「よし、では此処で一旦拠点を構築して、それから行動をしよう。 どうせここ、この平べったい場所だけじゃないんでしょうし」

 

「錬金術師ライザリン、鋭いですね。 この地は四つの区画に別たれています。 アインが普段いるのは生産区画で、此処とは違う区画で、そもそも門を開けないと向かう事ができません」

 

「座標は分かる?」

 

「はい。 一旦落ち着いてから、それについても話しましょう」

 

あたしも頭を整理したい。

 

殺意全開で乗り込んで来てみれば、この様子からして、神代の錬金術師は本拠ですら絶対者ではない。

 

この有様だと、連中が他の世界に攻めこんでいる様子もない。

 

しかもあたし達は既にフィルフサの無力化にも成功している。それを為せたのはウィンドル近郊だけだが、仮に他の地で門が開いてフィルフサが乱入してきても、もはや絶対の恐怖ではないのだ。

 

つまり即座に世界がどうこうなる心配もないだろう。

 

狂気の源泉は解析したが、あれは途中から命令を組み替えられるような代物でもない。単純な命令が多数組み込まれていたが、支配者に屈する命令は絶対で、それについては後から改変もできない様子だった。

 

だったら、フィルフサによる世界の破滅は、もう懸念しなくていい。

 

混沌の時代に存在していたような、世界を旅の人の手をして千年不毛の荒野にせしめたような兵器が使われたら問題だが。

 

そんなものは、恐らく簡単に管理もできないだろう。

 

ということは、一刻を争う事態ではなくなった、という事を意味している。

 

タオとアンペルさんとクリフォードさんが散る。

 

その間に、あたしは幾つか聞いておく。ガイアさんは、あたしにはかなり好意的で話を聞いた分だけ答えてくれる。

 

「貴方たちがホムンクルスとして、その目的はなんなんですか? 母という存在に盲目的に従うだけとは思えませんが」

 

「簡単に言うと我等には多様性がない」

 

「多様性?」

 

「神代の錬金術師が改悪したせいで、容姿も能力も奴らが考える完璧で固定されてしまっているのだ。 母がかなりこれでも軛を外してくれたのだが、元々母は管理用のからくりであって、技術の専門家では無い。 これでも苦労して技術を解析したようだが、それでも我等には幾つも軛があり、皆同じ存在なのだ」

 

そういえば、皆同じ姿だよな。顔もそうだし、多分声も。

 

ロミィさんだって、あれだけ人なつっこそうにしているのは、多分演技だ。取り繕っている分を除いてしまえば、同じ筈。

 

「我等の大敵は病気などだ。 病気などが流行したら、文字通り一発で全滅してしまうだろうな。 生物が多様性を確保するのは、何かしらの災厄や外圧があった場合、対応できる個体を増やすためで、強力な戦闘力を確保するためではない。 災厄には病気や気候の変動なども含まれる」

 

「そういえば、タオが強い生物から環境が変わると滅びるって言っていましたね」

 

「その通りだ。 神代の錬金術師はそんな事も分かっていなかった。 奴らがラプトルと呼んで世界にばらまいた生物は、まさにそういう生物でな。 混沌の時代よりも遙か古くに存在していた、世界で最強の戦闘力を誇り、文字通り敵無しだった生物を模したものだ。 その生物も、幾つかの要因が重なって、世界の環境が変わった途端にあっけなく滅びてしまったのだ」

 

そうか。バカが唱えるような弱肉強食論が間違っている事は、既に自然が。そもそも世界が。証明していたと言う訳だ。

 

ホムンクルスは、そのばかげた理論に基づいて作られ。

 

その欠陥を知っていて、克服しようとしていた。

 

あたしは天井を仰ぐ。

 

なんとも、やりきれない話だった。







殺意全開で乗り込んでも、ライザはある程度理性は働きました。

皮肉な話です。

倫理を全部放り捨てていた神代とそうではないライザでは取る結論が違っていました。

決定的に。
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