暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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同胞との共同作戦開始。

まずは安全圏の確保。

敵地の情報確認。

協力者を得たのなら、当然の行動です。


2、少しずつ剥がされるベール

タオが凄い勢いで本を読んでいく。あたしは幾つか錬金術関連の本を見せてもらったが、そもそもこれは錬金術とは古くには呼ばれていなかったらしい。確かパミラさんも似たような話はしていたっけ。

 

混沌の時代の後。

 

世界にはエーテルが満ちた。

 

これはあたし達の世界だけの話であるらしい。エーテルの正体はよく分かっていないのだが。それは或いは、世界に予期せぬ訳が分からない破滅が来たため。この世界そのものが、世界を回復させるために放出した力そのものなのかも知れない。そういう話もあるようだった。

 

読みながら、なる程と思う。

 

神代の錬金術師は、都合が悪い本は回収して、此処で埃を被らせていたようだ。焼かなかったのは、「バカが書いた本」を読んで笑うためだったそうで。そうしている自分達がバカである事は、微塵も思いつかなかった。

 

まあその程度であることは分かっていたが。

 

少し呆れてしまう。

 

「あたしが知らない技術はあるけれど、できない事や、生かせそうにない事は書かれていないなあ」

 

「世界の最小単位まで調べ、超ひも理論まで自分で到達した貴方の知識は、既に神代の錬金術師はとっくに凌いでいます。 比肩できるのは、旅の人だけでしょうね」

 

「旅の人はどうして亡くなったの?」

 

「詳しくは分かりません。 ただ……1200年以上前に自我を得たときには、既に命を失っていました。 記録を見る限り、神代の錬金術師が直に手に掛けたわけでもないようです」

 

そうか。ともかく、残念な話だ。

 

旅の人が、混沌の時代の最後の良心で作られた生命だったとして。

 

協力できれば、きっとマシな世界だって作れただろうに。

 

「母」とやらと軽く話ながら、本を読み進めていく。

 

タオが呆れていた。

 

「なんなんだよこの身勝手極まりない理屈……!」

 

「どうしたの?」

 

「神代の錬金術師が熱心に読んでいた本を調べていたんだ。 分かってはいたよ遺跡に写しとかがあったから。 でも、原本を手にしてみると、本当に酷い!」

 

「タオさんが其処まで言うとは、余程ですね」

 

パティも困惑気味だ。

 

パティも、タオが楽しそうに本を読んでいる様子しか、この旅が始まる前は知らなかっただろう。

 

本を読んで怒るタオなんて、滅多に見られない。

 

「それでタオ、どんな巫山戯た理屈なんだ」

 

「全ての欲求を好きにして良い。 全ての人間の思想は性欲由来だ。 その思想の元になった本を見つけたんだ。 フロイトって混沌の時代の人が書いたものなんだけれど、哲学書に分類されてる。 こんなもの、哲学なものか。 ただの色ボケおじさんの妄想を、それっぽく書いているだけだよ! こんなものが聖典として崇められて、しかも多くの悲劇を引き起こしたって言うのか! 信じられない程の愚かさだ!」

 

タオが激昂してる。

 

珍しい光景だ。面白い。

 

ただ、怒りについては他人事では無い。そんなばかげた思想を真に受けた連中が、どれだけ無茶苦茶をやらかしたかは、見てきているのだ。

 

他にも哲学書と言われているものは、殆どが妄想書の類だと、タオが斬って捨てていた。

 

どれも小難しく理屈をひねくり回しているだけで、結局のところばかげた思想を正当化するものに過ぎないそうである。

 

タオがどれも論外だと怒っている。

 

それだけでもないらしい。

 

アンペルさんが見つけて来る。

 

「哲学だけでもないらしいな。 これは恐らく、混沌の時代に存在していた、最大の信仰の原典……聖典だな」

 

「アンペルさん、それはどうでしたか」

 

「話にならん」

 

一刀両断か。

 

なんでも世界に正義は一つだけしかなく、それは唯一なる神の下でしかないそうである。

 

悪魔は基本的に人間を誘惑し、神の正義に逆らうようなら地獄に引きずり込むために存在しているのだとか。

 

なんだその巫山戯た思想は。

 

人間を悪に誘惑するような連中を放置しておいて、しかも落ちたら地獄行きだと。

 

そんな神はいらん。

 

あたしもイライラしてきた。

 

「一神教ですね。 本来その思想は過酷な環境で生きてきた人々が、生きるために憎悪と復讐心を周囲に叩き付けるためのものでした。 その思想を、隣人愛と許しの思想に変えようとした存在もいたのですが、弟子を名乗る者達に滅茶苦茶にされ、いつしかそのような身勝手な原罪と懲罰、何よりも支配者による横暴を正当化するものへと変わってしまったのです」

 

「まさかあの+の形のシンボルは」

 

「一神教のものです。 文字通り自分達は正義の体現者であり、正義こそ自分達の思想であると、神代の錬金術師は自己肯定していました。 一神教の思想は、それに丁度良かったのです」

 

ただ、と「母」は言う。

 

混沌の時代には数多の思想があったが、どれも政治と結びつくことで。いずれもが醜く変質していったのだという。

 

元は自然にある神々を素直に信じて、ギブアンドテイクの思想だったものが。

 

支配者による横暴を正当化し、他を愚民化するためのシステムへと変わっていった。

 

それだけではない。

 

混沌の時代の末期には、それすらもなく。愚民から搾取するためだけの代物に、信仰はなり果てていったのだという。

 

カルトと呼ばれたそれらは。

 

混沌の時代を破滅させた一つの要因ともなったのだそうだ。

 

「これは、混沌の時代は滅ぶべくして滅んだのかも知れないね」

 

タオが呆れる。

 

だとすると、それに巻き込まれた他の生物は、人間をさぞ恨んでいる事だろうな。

 

そうとも、あたしは思った。

 

 

 

一旦休憩を入れる。

 

自動で食事を運んでくるからくり。最初にやはりガイアさんが食べて見せて、毒では無い事を見せる。

 

まだみんなが信用していない事を理解しているし。

 

それも当然だと考えているからだろう。

 

あたしも、それについてはよく分かるので。ガイアさんの行動は立派だなと思う。

 

「とりあえず確認させて欲しいのだけれど。 此処にある本は、混沌の時代から持ち込まれたものなんだね」

 

「その通りです。 全てがそのまま残されていたわけではなく、データとして残っていたものを、旅の人が復元しました。 ただし、その作業は半ばで停止されてしまっているようです」

 

「場所は幾らでもありそうだけれど……何か理由が?」

 

「神代の錬金術師の自己正当化の思想に、都合が悪いものが多数出て来たからだと分析しています」

 

まあ、そうだろうな。

 

そもそもこの拠点がいつ作られたかは知らないが、それでも神代の錬金術師はかなり古くから関与していたはずだ。

 

中には焚書された本もあったかも知れない。

 

反吐が出る程邪悪だが。

 

ともかく、先に話を進める。

 

「後でこれらの本を読ませて貰うとして。 此処に案内した理由は?」

 

「まずは我等の立場を確認する為です。 我々の目的を話しましょう。 我々の目的は、ただ一人の無惨に殺された子供に、人間として生きて貰う事。 ただそれだけです」

 

「殺されたって、神代の錬金術師に?」

 

「はい。 それも身勝手極まりない理由で」

 

意外と、身近で人間的な目的なんだな。

 

ガイアさんをちらっと見たが、頷かれる。

 

その話は、以前にもカーティアさんが話してくれたものと内容が一致している。咳払いしたのは、フェデリーカだ。

 

「あの、良いですか」

 

「かまいません」

 

「貴方の能力は、私達が信仰の対象としている神様と大差ないように思います。 その目的が、ただ一人の子供の人生なんですか」

 

「命に貴賤などありましょうか」

 

即答か。

 

嘘をついているとはどうにも思えない。もしも嘘だったら、もっとまともな話をするはずである。

 

「ガイア、アインをつれて来てください」

 

「承知。 しかし体調は大丈夫でしょうか」

 

「少しだけ培養槽から出るだけなら問題は無いでしょう。 この時の為に、調整を進めてきましたから」

 

ガイアさんがこの場を離れる。

 

なんとなくだが。

 

少しずつ、話が見えてきた。

 

しばしして、ホムンクルスとはだいぶ姿が違う女の子が姿を見せる。十歳にも届いていないだろう。

 

褐色肌の、人なつっこそうな子だ。

 

ゆったりした服を着ているが、ちょっと余所ではみない。混沌の時代の服なのかもしれない。

 

培養槽と話していたし、すぐに乾かせるデザインなのだろうか。

 

いずれにしても、活動するのに適している服だとは思えなかった。

 

「アインです。 よろしくお願いします」

 

「ライザだよ。 貴方はホムンクルスでは無いの?」

 

「正確には共通点が多い存在ですが、それは後で説明します」

 

「ライザさんって、どういう人?」

 

興味津々、恐怖感もないようだ。

 

確かに此処にいるのは、みんなホムンクルスじゃない。だから、アインという子は、皆を興味津々で見ていた。

 

ただ、錬金術師だと話すと、さっと顔に恐怖が浮かぶ。

 

カーティアさんが立ち上がると、アインを後ろから支えていた。

 

「アイン様、問題ありません。 ライザとはなんどもともに戦いましたが、此処にいた錬金術師とは根本的に違う存在です」

 

「うん……でも怖い……」

 

「アイン、後で詳しく説明をします。 今は恐怖などで負担を体に掛けるのはよろしくありません。 一度培養槽に戻りましょう」

 

「はい、お母さん」

 

ガイアさんがまたつれて行く。まるで宝かお姫様のような扱いだ。

 

カーティアさんが、礼を言う。

 

「済まなかったな。 だが、あの方は我等の希望なのだ」

 

「多様性と言う観点でですか?」

 

「ああ」

 

ガイアさんが戻って来て、それから話を始める。

 

あの子に、何が起きたのか。

 

それは、「母」という存在にも関わる事だった。

 

 

 

元々「母」はただのシステムの一部。指定された通りに動くだけのからくりだった。だから、旅の人に作られてからも、黙々とタスクをこなすだけ。それだけの存在に過ぎなかったのである。

 

最初は無関心だった。

 

旅の人が此処を作り、世界を元に戻すためにと言って人を連れて来た。それらの人は、全部がそうだったとは言わないが。多くが旅の人をエサとしか見ていなかった。搾取するための存在だとしか思っていなかった。

 

誰も世界を復興すること何て考えていなかった。

 

自分さえよければ良かった。

 

そんな相手にも、旅の人は優しかった。誰にでも、分け隔てなく接していた。

 

旅の人は、いつしかいなくなった。

 

その時は、何故かも分からなかった。ただシステムを進めていくだけだった。不可解なのは、旅の人は自分がどう思われているか知っていた事だ。それなのに、旅の人はいつかみんな分かってくれる。愛を向ければ愛を返してくれる。そう信じて疑っていない様子だった。

 

害意しかない相手に、そんな事をしていたらどうなるか。

 

それは、明白な結果だったのかも知れない。

 

旅の人がいなくなってしばらくして。

 

此処にいる者達が、派手に負けたようだった。大負けに負けて、此処にまで侵攻されて。多くの仲間を見捨てて、区画を切り離して、どうにか生き残った。

 

生き残った錬金術師は、聞き苦しい罵声をしばらくは発していたが、やがて幾つも問題が生じた。

 

数が致命的に減った。

 

更に、彼等彼女らは、自分達は絶対者だと考えていた。

 

それでいながら、寿命も健康も他の人間と変わらなかった。

 

結論として。

 

外の人間と交配しなくなった彼等は、短時間で凄まじい勢いで衰えていく事になったのである。

 

外の人間とは関係を完全に断ったようだった。

 

完全に敗北したことも原因だったのだろう。「五月蠅いから見逃してやったのだ」などとくだらない言い訳を並べ立てていたが。

 

負けたのも事実だし。

 

それが言い訳なのも事実だった。

 

何よりも、短時間で種としての破滅に近付いているのも事実。メインシステムは、何度か警告したようだった。

 

外から遺伝子を取り込まないと、この集団は破滅すると。

 

そう警告すると、メインシステムは停止させられた。

 

それだけではない。

 

迂遠なやり方で此処の管理方法を後続に伝えていたことが徒になる。錬金術師達はそもそもシステムの管理方法すら操れなくなっていったのだ。

 

システムは無用の長物になった。

 

メインシステムが生きていれば、それも避けられたかも知れないが。

 

プライドが異常に肥大化した神代の錬金術師は、誰かに何かを頼むと言う事が、既にできなくなっていたし。

 

それで最初にやったのが。

 

「自分達から見て少しはマシ」な存在を、嫌だが招いてやること。

 

それが、「大典」システムだった。

 

其処まで聞いて、あたしは色々と苛立ちを抑えられなかったが。とりあえず一つは分かった。

 

此処は、クーケン島なんか問題にもならない因習の地。自分を最高の存在と妄想したバカ共の墓場。

 

他に対して侮蔑の視線だけを向けて、自分が絶対者だと思い込んだ連中に待っていたのは、まあどう考えても破滅だけ。更にそれが残されたシステムをいびつにつないで作り出したのが。

 

多くの錬金術師を誘蛾灯のように誘き寄せた、汝鍵もて万象の大典に至れという、あの言葉と。

 

鍵のレシピを送りつけてくるシステム。

 

そして、群島だったのだろう。

 

まだ話は続く。

 

まあ当然な話で、それですぐに誰か来る訳でもない。神代の錬金術師は、外から人をさらってきた。

 

生物兵器も悪魔もどきもいる。

 

それくらいは、難しくも無かったのだろう。

 

理由は子供を産ませるため。

 

文字通りの孕み袋として用意されたその人間は、錬金術師の一人の子供を孕んで、産んだ。

 

それがアインだった。

 

子供を産んでしまえば用済みとして、その人はすぐに殺されてしまったらしい。

 

「その事件は、神代の錬金術師がオーリムの民との戦いに破れて63年後におきました」

 

「たった63年でそんなに衰退したのか!」

 

「いえ、元々激しく衰退していたのです。 それをテクノロジーで誤魔化していたに過ぎなかったのです。 東の地での敗退、オーリムの敗退で、高度テクノロジーで無理矢理生きながらえていた錬金術師や、テクノロジーを知っている錬金術師が多く倒れ。 それが致命傷になったのです」

 

そうか。

 

ともかく、話の続きを聞くしかない。

 

アインは苛烈な虐待に晒された。

 

錬金術師は吠えた。

 

偉大なる血が半分とはいえ流れているんだぞ。どうしてこんな簡単な調合もできないんだ。

 

そう叫び、髪を掴んで何度も顔を殴った。アインはどうしていいか分からなかった。

 

それも当然だ。

 

そもそもその錬金術師でさえ、まともに錬金術なんてできなかったのだから。教えてもいないことを、出来る訳がない。

 

悲鳴。暴虐。理不尽すぎる迫害。

 

それを見ていて、「母」は少しずつ何かが生まれるのを感じた。

 

まだ生き残っている他の錬金術師は、それを娯楽として見ているようだった。

 

子供をいたぶる様子が楽しくて仕方がなかったのだろう。

 

錬金術師同士のもめ事が起きないように、システムは制止するようにされていたのだが。いずれにしても、アインにそれは適用されなかった。錬金術師ではなかったからだ。それをいうならアインの父も同じだったのだろうが。

 

やがて、アインが十歳になるかならないかになると。

 

その錬金術師は、アインの髪を掴んで、家から引きずり出した。口から泡を吹き、目は血走っていた。

 

いたいよ、いたいよ。やめてお父さん。

 

そうアインが泣きながら叫ぶと、更に錬金術師は暴力を振るい。周りはそれをにやつきながら見ていた。どこまで行っても娯楽でしかなかったのだ。他人の不幸が。

 

錬金術師は喚いた。

 

私に恥を掻かせやがって。

 

猿に子供なんか産ませるんじゃなかった。あんなものに触るのも汚らわしかったのに、それを我慢した末がコレか。私はなんて不幸なんだ。不幸の種を、抹消してやる。

 

そんな身勝手な事をわめき散らしながら、錬金術師は激しい暴力で意識を失っているアインを引きずっていき、そして虚空へと放り投げた。

 

その下には、ゴミを細かく粉砕して、全てを再利用する機械の刃が回転し続けていた。

 

柔らかい肉も骨も命も。

 

全てが砕かれ消えた。

 

「粉々に砕かれ命を消し飛ばされたアインを見て、私は自我に目覚めました。 それは長らく感じていた疑問に、怒りが加わったのが要因だったのだと今では分析しています」

 

「……っ」

 

あたしは思わず立ち上がっていた。

 

虐待は他人事じゃない。

 

此処まで酷い事例ではないとはいえ、レントだってザムエルさんから虐待を受けて育った。タオの場合は子供に無関心な両親から、放置されて育った。

 

他にも虐待の類例は幾らでも知っている。

 

だがこれは酷すぎる。

 

勿論、「母」に怒りを感じている訳ではない。怒りを静める。魔力が煮えたぎるかのようである。

 

「むごいことをしよる」

 

カラさんが呟く。

 

オーレン族は、十年もおなかで子供を育ててから産む。子供はそれだけ貴重な存在なのだ。

 

故に、子供はとても大事に育てられると聞いている。

 

だからこそに、余計にこの話は許しがたかったのだろう。

 

「みんな、カッカしてると思うが、話を進めて貰おうぜ」

 

「ああ、分かってる。 ド腐れどもだってのは分かってたが、或いは何かしらの大きな目的があったのかも知れないって可能性についても考えてはいたんだ。 だが、それも違ってたわけだな……本当に、どうしようもないただのカスの集まりだったんだな神代の錬金術師は」

 

年長者らしくクリフォードさんが言うと、レントもそういって視線を伏せた。

 

ディアンは爪を噛んでいる。

 

流石に聞き捨てならない話ばかりだからだろう。

 

どこでも児童虐待なんかある。

 

それにしても、いくら何でもこれは酷すぎる話だ。

 

自我を獲得した「母」は、それから少しずつ機能を拡張。自由にできる領域を広げていった。

 

その過程で錬金術師の生きた個体は見かけなくなった。

 

それについては、もうどうでもよくなっていた。

 

やがて、アインの遺伝子データを獲得。エーテルの分析も行い、魂と呼ばれるもののありかも突き止めた。

 

ホムンクルスの生成設備が生きていたのは僥倖だった。

 

錬金術師は興味も無くして廃棄していたようだったので、すぐに回収出来たのだ。後は、肉を作り、魂を入れるだけ。

 

そうして、少しずつアインを蘇らせる作業が始まった。

 

だが、上手く行かない。

 

「元々近親交配を繰り返し、弱体化が進みきっていた一族の遺伝子など、優秀な訳もありません。 アインの体は生まれながらに幾つもの障害を抱えていて、それらを治療する所から始めなければなりませんでした」

 

それでも諦めなかった「母」。

 

少しずつ体の再生が進み、ようやく培養槽の中でアインが目を開けた。それだけで自我は喜びに震えた。

 

これが親としての気持ちなのだろうか。

 

そうとすら思った。

 

お母さんと呼んで貰ったときには、それは感激に変わった。

 

だがそれも、アインが培養槽をろくに出られないと言う現実に打ちのめされもした。

 

いずれにしても、このままでは外を歩くこともできない。少しずつデータを集めて、分析していく。

 

ホムンクルスのデータもそれで活用した。ホムンクルス達も生成した。だが、アインのためだけではない。

 

神代の錬金術師に弄ばれた生命を、少しでも助けたいという意思がその時には宿っていた。

 

少しずつホムンクルスを生成し、世界の各地に送り出した。

 

古代クリント王国が、その時には統一を成し遂げ、やがて滅びていた。その後の混乱で、フィルフサがいなくても人類は滅びに向かっていた。

 

人類との交配がホムンクルスの多様性につながらないことは既に分かっていた。

 

だが、それでも人類のデータが必要だった。

 

だから、破滅を避ける為に、ホムンクルスを増やし。各地の集落で活動させ。更には、残されたデータから門の位置を割り出し。門を閉じること、フィルフサによる大災害を、ホムンクルス達に対処させた。

 

寿命を既に克服しているホムンクルス達も。

 

その過程で多くが命を落としていった。

 

毎度哀しみを感じた。それでも、止まるわけにはいかなかった。

 

「アインはホムンクルスの研究成果を取り入れ、一人の人間としての命を全うするためだけに手を入れています。 しかし、手持ちの知識だけでは、どうにもこれ以上は手詰まりなのです。 改悪されたホムンクルスの悪影響か、それとも何かしらの手が足りていないかすらも分からない。 今も殆どの時間、アインは培養槽の中にいるしかない。 それではまっとうな生とはいえません。 ただ人生を送る権利すら、アインにはないのです」

 

「母」が呻く。ガイアさんも、視線を伏せていた。

 

ままならないことに対する怒り。哀しみ。それについては、ホムンクルスである同胞も同じであるらしい。

 

あたしは大きく嘆息すると、立ち上がる。

 

神代の錬金術師より、自我を得たからくりの方が何倍も理性的で、よっぽど人間的だ。こんな滑稽な事があるだろうか。

 

今までの話が嘘八百の可能性もあるが。

 

今まで見てきた事からして、その可能性は極めて低いと考えられる。

 

何よりも、これならば。

 

同胞と敵になる事はないだろう。

 

「錬金術師ライザリン。 私は神代の錬金術師を滅ぼすため、知識の全てを貴方に提供しましょう。 なんなら私の存在そのものも貴方に提供いたします」

 

「母!」

 

「いいのです。 その代わり、アインと同胞達に未来を。 ただ、一人の人として、生きられるだけの。 それを与えてあげたいのです」

 

「おっけい……! 引き受けた。 引き受けましたよその依頼!」

 

あたしは頷く。

 

良いだろう。此処からは協力関係だ。

 

作戦会議。

 

あたしは叫ぶ。

 

それに対して、皆、誰一人として、反論はしなかった。

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