暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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原作ライザ3の特徴の一つがアトリエを自作して住み着く事ですが、これについては今まで似たようなシステムが幾つかのシリーズで存在していたので、別に目新しいことはないですね。

基本的に自分は採取素材の品質が上がるタイプ一択でした。

シリーズ恒例の沼要素である種に手を出すようになると、それすら必要なくなるかも知れませんが。


2、サルドニカの現実

街から出て、まずは南に。

 

サルドニカは南北に街道が延びていて、北の街道はかなり危険だそうだ。街のすぐ近くまで魔物が迫っていて、撃退がやっとだという。

 

その魔物の中には、「フェンリル」と呼ばれる危険な存在がいるらしく。

 

今まで何人も騎士や傭兵が倒されているのだとか。

 

「フェンリル?」

 

「聞いた事がある。 大型の狼の魔物だ」

 

「あたしのいる辺りや王都では聞かなかったね」

 

「ごく少数しかいないからな」

 

流石にクリフォードさんが詳しい。

 

順番に説明してくれる。

 

なんでもフェンリルというのは、そもそも名前の由来が分からない狼の魔物だそうで。非常に高い知能を持ち、基本的に口に巨大な魔剣を咥えているそうだ。

 

戦闘力はドラゴンに匹敵し、大半のワイバーンを凌ぐという。

 

ただ幸い、群れで行動する事はないそうだ。

 

他の魔物となれ合うことも基本的になく。フェンリルはいつも他の魔物や人間の血で赤く染まっているのだとか。

 

それは凄い大物だな。

 

そうあたしは感心しながら、王都の外に出る。

 

フェデリーカさんは緊張している様子だ。ちなみにボオスは残って。機械の視察に出向いている。

 

それが原因でもあるのだろう。

 

ずっとフェデリーカさんの側に貼り付いていた護衛二人は。今回はついてきていない。本当に機械類を直せる人間が来たと言う事で、街を事実上仕切っている二つのギルドは、今喧々諤々の大議論の真っ最中ということだ。

 

一番発展している街がこれ。

 

人間が魔物に押され放題になる筈である。

 

「実の所、フェンリルの駆逐だけが今回の最低目標でした。 王都近郊で多くの魔物を仕留めたというライザリン様だったら……」

 

「ああ、もう外で人目もない……ないよね?」

 

「大丈夫だよライザ」

 

「うん。 フェデリーカさんもライザでいいよ」

 

あまりにも親しくしているのを見せると、舐められる。

 

それもあって、最初は控えていたのだが。

 

フェデリーカさんは、見た感じ真面目にこんな街でもまとめようとしている人間だ。だったら、敬意は払いたい。

 

少し考え込むと。

 

フェデリーカさんは、頷いていた。

 

「分かりました。 ライザ様……いやライザさんと呼ばせてください」

 

「それじゃ、外ではフェデリーカと呼んで良い?」

 

「はい、お願いします」

 

やっと年相応の素直な笑顔が出たか。

 

ともかく、クラウディアが音魔術で周囲をがっつり監視して、クリフォードさんも警戒してくれている。

 

此処ならもう、心配は無いだろう。

 

何度か魔物に遭遇するが、容赦なく叩き潰す。

 

何度かの戦闘を経て、やがて見えてきたのは、大きな川。その中州にある、広めの土地である。

 

なるほど、これは申し分ないな。

 

あたしは、手をかざして、切り出せそうな石を探しておく。

 

大丈夫、これならいい。

 

更に、地盤も確認。

 

橋はちゃんと架かっていて、中州には行ける。

 

其処で地盤を確認するが、これは地盤をそれほど固めなくても大丈夫だろう。川も其処まで暴れているようではなさそうだし。

 

何よりも、岸から川に掛けて、随分と高低差がある。水中の危険な魔物に強襲される事もないだろう。

 

「よし、申し分ないかな」

 

「あの、何をするんですか?」

 

「アトリエを建てる」

 

「……」

 

絶句するフェデリーカさん。

 

あたしは釜を取りだすと、順番に調合を開始。みんな慣れたもので、てきぱきと動き始める。

 

レントが切り出してきてくれた枯れ木を、そのまま合板に変える。合板は組み合わせるだけで、強度を担保できる作りにする。

 

順番に合板に仕上げていく。

 

釜に満たしたエーテルで、要素を分解し。

 

必要な状態に組み替えていく。

 

それをてきぱきとやっていく。流石に作るのはこれで三件目(王都のアトリエは既にあったところに釜を運び込んだだけなので、アトリエ四号といえど実際に最初から作るのは三つ目である)。慣れたものである。みんなも、手伝いをきっちりやってくれる。

 

「ライザ、柱は此処で良いのか」

 

「そこでいいよ。 それと……」

 

「私も何か手伝いますか」

 

「うーん、そうだね。 舞いの固有魔術で、皆の力とかを上げて貰えるかな」

 

頷くと、フェデリーカさんは二つの扇を拡げると、舞い始める。

 

円運動を中心とした舞いだが、見ていてとても小気味が良いもので。確かに力が湧いてくるのが分かる。

 

なるほど、あたしもこれは調合がはかどる。

 

順番に、調合を進めて。

 

そして、土台から作り。

 

壁を造り。

 

柱と梁を組み合わせ。

 

窓もついでに組み込んで。

 

屋根を立てた頃に、丁度夜になっていた。

 

今回のアトリエは、少し広めに作ってある。フェデリーカの分の部屋もあるし、なんならギルド長が部下を連れて視察に来た時の事を想定してある。

 

空間把握には自信があるので。

 

これくらいは、まあお茶の子である。

 

中に案内する。

 

広々とした空間に、木張りの床。

 

錬金釜を中心に、機能的に並んだアトリエの構造。

 

奧にはコンテナも居間もある。

 

フィーが懐から出てくると、嬉しそうに飛び回る。

 

今回のアトリエは、暖炉にもいざという時に出来る装置として、セプトリエンを動力にしたコアを組み込んだ。

 

暖炉はあくまで余技。

 

本命は、このアトリエを守る防御魔術の展開だ。

 

セプトリエンより作り出したコアを基にしている防御魔術である。その辺の専業魔術師の攻撃魔術なんて、痛くも痒くもない。

 

魔物の群れを相手にすることを想定した強度だ。

 

「ふふん、どうよ」

 

「大したもんだな。 これで宿いらずか」

 

「そういえば、皆さん恋人とか……そういう関係ではないんですね」

 

「なんだよ藪から棒に」

 

レントが怪訝そうに聞くが。

 

フェデリーカさんは、意外と恋愛体質なのか。

 

レントの怪訝そうな様子で、すぐに察したのだろう。

 

まあ、若い男女が群れているだけで、そういう考えを想起するのは、むしろ健全なのかも知れない。

 

あたしやタオやレントの方が色々とおかしい事は、自覚はある。

 

「俺たちはライザと幼なじみで、ボオスや、此処には一緒に来ていないがタオも。 クラウディアも昔からの仲間だ。 クリフォードさんやセリさんは、最近に加わった大事な仲間だな。 恋愛関係で一緒にいるわけじゃねえよ」

 

「それは、なんとなく感じていました。 恋人と言うには距離があるなと思っていましたし」

 

「フェデリーカはそういうのに憧れる方?」

 

「はい、まあ。 今は正直それどころではないんですが、実は一時期許嫁がいたことがありまして」

 

なるほどねえ。

 

確かにお飾りのギルド長だ。

 

いてもおかしくはないだろう。

 

ただし、許嫁の方が大変だろうが。

 

「許嫁はどうしたんだ?」

 

「もう亡くなりました。 ただ、四歳の頃ですけど。 事件性はなく、流行病でした。 その頃はお父様がしっかりサルドニカをまとめていたので、サルドニカはこうではなかったんです……」

 

肩を落とすフェデリーカさん。

 

アトリエに入ってきたのは、ボオスだった。

 

疲れきった様子で、ソファに腰を下ろす。

 

「戻ったぞ」

 

「どうだったボオス」

 

「機械がかなりあるな。 とりあえず、リスト化して来た。 後々散々やる仕事だろうから慣れておこうと思ったが、みんな針みたいな視線を向けてきていやがってな」

 

まあ、それはお疲れ様である。

 

ボオスにしても、今後針のむしろみたいな権力闘争の場で生きていかなければならない覚悟は決めているのだろう。

 

これくらいは、どうにかしないといけないというわけだ。

 

クラウディアが、皆のお菓子を出す。

 

まあ、軽く食べて今日は寝るとするか。

 

タオも近々合流してくれる筈だ。パティも合流してくれると心強いのだけれども。まあ、それは厳しいだろうか。

 

さて、サルドニカでやるべき事はたくさんある。

 

機械を直す。

 

街を脅かしている魔物を駆逐する。

 

そして、あの群島の奧の島の扉。

 

彼処に刻まれていた紋章の謎を解く。

 

出来れば、この街の状況も。あたしが出来る範囲で解決したい。

 

それと、もう一つ。

 

「硝子と魔石、他にもめぼしい技術は覚えておきたいな……」

 

「職人としての技量を身に付けたいんですか? 修行は職人として行う場合、最低でも年単位は必要ですよ」

 

「んーん、理屈だけ分かれば大丈夫」

 

あたしが釜を視線で指すと、フェデリーカさんはうっと呻く。

 

この錬金術のパワーは。流石に一発で理解したのだろう。

 

あたしの特技の一つは空間把握だ。

 

これを用いて、技術さえ理解出来れば、再現は出来る。

 

ただし、この街の職人は、技術レベルが高い。

 

多分完全再現は、かなり数をこなさないと厳しいだろうとは思うが。

 

「あたしは機械を直す。 魔物を殺して街を安全にする。 その見返りとして、フェデリーカさんのその身に付けているネックレスの紋章と、それと技術を吸収させて貰おうかな」

 

「ええと、その。 この街にとって技術は宝そのもので、その……」

 

「それなら心配ないぜ」

 

ボオスが冷静に指摘する。

 

あたしが言うより、こういうのは錬金術師ではないボオスが言う方が良いだろう。

 

「錬金術師としてまっとうなのは、現時点でライザと、ライザの師匠であるアンペル師くらいしかいねえ」

 

「そうだね。 私の方でも、バレンツで調べて見たんだ。 錬金術師を名乗っている人間は、各地に少しだけいるらしいの」

 

そうなのか。

 

クラウディアの話は初耳である。

 

ただし、クラウディアはあまり嬉しくないオチについても話してくれた。

 

「でも、そういった人は詐欺師か、作れてもちょっとしたお薬くらいだけみたい。 ライザやアンペルさんが作るようなお薬の足下にも及ばない、その辺の薬師が作るようなお薬程度しか作れないみたい」

 

「なるほど……。 ライザさんは、お弟子さんを取ったりする気はないんですか」

 

「理由は今はまだ説明できないけれど、それどころじゃないかな」

 

「その様子だと、結婚したりという気も無さそうですね」

 

フェデリーカさんはふんふんと頷きながら、ずばりと言う。

 

まあ、その通りだが。

 

あたしは苦笑いである。

 

多分だが、フェデリーカさんはデリカシー云々の話ではなくて。戦略級の価値がある人材として、結婚という手段でコネを作る気がない事を理解したのだと思う。

 

顔を上げて、はっとデリカシーについて気付いたらしくて、謝られるが。あたしは別にそれでどうこうするつもりはない。

 

それよりも、先にやっておく事がある。

 

「フェデリーカさん。 とりあえず、あたしの要望をギルド長達に正式に通達してくれるかな」

 

「はい。 紋章の調査と、技術の視察ですね」

 

「うん。 それと、これを告げておいて。 あたしは技術は吸収再現できるけれど、職人達の経験までは再現出来ない。 多分職人芸に依存する細かい細工とかまでは再現出来ないから、それは安心して欲しいって」

 

「分かりました。 ライザさんの凄まじさは既に私の護衛をしていた二人がギルド長達に伝えていると思いますので、それで安心を得られると思います」

 

もう一つ。

 

ギルド長達を、此処に案内して欲しいとも。

 

多分だけれども、二人の手の者が、瞬く間にアトリエが作られた様子は、報告をしている筈だ。

 

それで話は早いのだけれども。

 

中を見せるのが丁度良いだろう。

 

これを短時間で作り出す。

 

それだけで、あたしが簡単に手に負えない相手だと、理解できる筈だ。

 

怖れさせておいた方が良い。

 

舐められたら終わりなんて界隈にいる人間には、それで丁度良いのである。

 

「分かりました。 私は一度工房長の館に戻って、それから対応します」

 

「それとフェデリーカさん。 ちょっと体のサイズとか色々測らせて貰うね」

 

「えっ?」

 

「装備品をフェデリーカさんの分もこしらえるよ。 その扇の仕組みは理解したから、あたしの方で戦闘用に作っておく」

 

そういうと、クラウディアとあたしで、ぱぱっとサイズを測ってしまう。

 

これはまた、随分としっかり体の管理をしているものだと感心する。食事制限とか、しっかりしている体だ。

 

筋肉もきっちりついている。

 

前衛で戦うタイプではないということだが。

 

これは武装次第では、多分戦えると判断して良いだろう。

 

さて、後はタオだ。

 

タオが合流するのは、二日くらいはかかるとみた。

 

それまでにやっておくのは、このアトリエサルドニカ支部の周辺の調査。

 

それで得られる素材の確認、諸々である。

 

王都近辺とも、クーケン島近辺とも。

 

今まで出向いてきた、つぶしにいった門近辺とも。更にはオーリムとも違う素材が手に入るだろう。

 

それはまた、あたしとしても、とても楽しみなのだった。

 

 

 

翌朝から、早速調査に入る。

 

ボオスはフェデリーカさんについて貰う。フェデリーカさんにもアンナさんという人が補助についているが。

 

あの人は例のメイドの一族だ。

 

あの一族は他でも見て確信したが、どうもあの一族そのものの利益のために動いている節がある。

 

本当の意味でのフェデリーカさんの友とは思えない。

 

フェデリーカさんは信頼している様子だけれども。

 

それでも、アンナさんの方がどうかは分からない。

 

パティの言葉を思い出して切なくなる。

 

パティはアーベルハイムのメイド長を、母親のように思っているという事だった。実際母親が幼い内に死んだパティにとっては、そう思っても仕方がないのだろう。出来ればヴォルカーさんと結婚して欲しいとも思っていると、以前一度だけ手紙に書いていたのだけれども。

 

ヴォルカーさんは、亡くなったパティの母親以外の女性には基本的に見向きもしないという事で。

 

その真面目さは。

 

多分パティと同じなのだろうと思う。

 

ただ。あのメイド長が、パティを娘のように思っていたかは、あたしからしてとても疑問に思う。

 

確かにパティに武芸を叩きこみ、あらゆる事を教え込んだ師ではあるようだけれども。

 

其処に情があるかは分からない。

 

幼い頃からずっとクラウディアと一緒にいた筈のフロディアさんが、クラウディアと離れてもなんともしている様子がないのと同じだ。

 

一族にとって害になると判断したら。

 

或いは、あのメイド長。

 

あっさりパティもヴォルカーさんも殺すのではあるまいか。

 

そういう懸念もある。

 

ともかく、調査を開始だ。クラウディアに音魔術で警戒して貰い、あたしは辺りを調べて回る。

 

良い感じだ。

 

特に赤い、炎みたいな花を咲かせる草が素晴らしい。これはいいなと思っていると、セリさんが興味を見せていた。

 

「面白い薬草ね」

 

「辺りにたくさん生えています」

 

「少し貰えるかしら」

 

「どうぞ。 取り尽くさないように気を付けないといけないですね」

 

そのまま、他にも探してみる。

 

蜂の巣を発見。

 

まずは煙でいぶして、蜂を気絶させる。このやり方は、クリフォードさんがとても手慣れている。

 

この辺りの蜂は、蓄える蜜の種類がクーケン島近辺と違うらしく、文字通り巣の色からして違う。

 

銀色だ。

 

少し蜜を味見してみるが、これはとても濃厚だ。

 

それも、強い魔力を持っている。

 

なるほど、これを素材にすれば、色々なものが作れそうだな。あたしは回収して、コンテナに入れておく。

 

蜂の子はそれはそれとして。蜂もそれはそれとして。

 

別々に採取。

 

これらも、素材として使えるかも知れない。

 

大きめの食虫植物も生えている。

 

虫などに反応してばくりと行く奴だ。

 

こういう世界だと、過酷な世界に適応して、食虫植物も凶悪になっている。セリさんが魔術で呼び出す奴みたいに、魔物をばくっといくような奴は。当然人間だってひとたまりもない。

 

「猛毒があるかも知れない。 気を付けろよライザ」

 

「分かってるよレント。 周囲の警戒を続けておいて」

 

「セリさん、何か問題があったら教えて」

 

「ええ」

 

クラウディアの歌声が心地よい。

 

周囲の魔物は、昨日の掃討戦の様子を見ていたのだろう。

 

遠巻きにこっちを見ているが、仕掛けて来る様子はない。

 

まあ、それで別にかまわない。

 

辺りにはぽつぽつと家があるのだが。魔物がその辺りまで我が物顔に出て来ている。

 

これは、魔物による食害が絶えないだろうな。

 

そう思って、もう少し駆除する事を、この時点であたしは決めていた。

 

午前中に素材の回収をある程度済ませる。

 

岩をハンマーを振るって砕いていると、遠くからフェデリーカさんが、数名の護衛と、ギルド長二人。他に大人数人を連れてくるのが見えた。

 

岩を粉々にして、鉱物などを回収しておく。

 

この辺り、ゴルドテリオンの素材に使えるゴルディナイトが普通に採れる。

 

このゴルディナイト、各地で調べて見たが、とにかく数が余り多くない。特に王都近郊では、非常に採りづらい。

 

恐らくだが、古代クリント王国までの神代の時代に取り尽くしたのだと思う。

 

この辺りは新しい都市だと言う事だし、質がいいのが残っている、ということなのだろう。

 

荷車に、手分けして荷物を運び入れて。ガンガン回収したものをアトリエに運び込む。勿論、取りすぎないように気を付ける。

 

取りすぎてもコンテナに入らないからだ。

 

魔石が結晶化している。それも、かなりクーケン島近辺とは性質が違う。

 

クーケン島近辺だと塔で採れた「聖石」もある。

 

魔石はとにかくたくさんあるようで。これは産業になるのも納得出来た。

 

昨日のうちに、採って良いものについてはフェデリーカさんに確認済みだ。先にボオスが戻って来て、アトリエの中を整理した方がいいのではと言うが。

 

これでいいと告げる。

 

別に散らかしてはいないからである。

 

もうギルド長一行がすぐ近くなので、一旦採取は終了。

 

ギルド長一行の護衛の戦士達は殺気立っている。

 

この辺りも、魔物は相応にいるからだ。ただ、あたし達が、大きいのはもう昨日のうちに掃除したが。

 

「遠くから見えていたが、これは……」

 

「昨日のうちに、これを作ったというのか!?」

 

ギルド長二人が、それぞれ驚く。

 

他の職人らしい大人は取り巻きかと思ったが、ボオスが耳打ちしてくる。

 

硝子ギルド、魔石ギルド以外の弱小ギルドの長らしい。

 

いずれも職人ギルドらしくて、そういった人間の技術も、主流では無いとは言え侮れないとか。

 

流石だボオス。

 

あたしのやりたいことをしっかり把握している。

 

あたしは、この辺りの技術をまるっと覚えておいて。

 

人類全体の為に役立てたいのである。

 

個人でどうにかするつもりはない。

 

「おはようございます」

 

「あ、ああおはようライザリンどの」

 

「これは、貴方たちがたった一日で立てたのか」

 

「正確には三刻半ほどですね。 同じようなものを建てた経験は何回もあるので」

 

絶句するギルド長二人。

 

それはそうだろう。

 

硝子ギルド、魔石ギルドと建築とは無縁とは言え。

 

今も大きくなり続けているサルドニカの顔役だ。

 

建築は素人とは言え、一日でこんなものが建つわけがないと分かっているのだろう。掘っ立て小屋だったらともかく、これはそうではないのだ。

 

中に案内する。

 

中のしっかりした造りを見て、二人はまた絶句する。他のギルド長達も、明らかに畏怖していた。

 

ひそひそと話している様子は、畏怖している事を示している。

 

それでいい。

 

ついでなので、錬金術も少し見せておく。

 

フェデリーカさんように、丁度いいと思って靴を準備していたのだ。

 

昨日叩き潰した魔物の皮。それにさっき取って来たゴルディナイトを用いて、順番に錬金術の素材として作りあげていく。

 

エーテルに素材を溶かして、要素を抽出。

 

順番に、再構築をする。

 

なめし革を作り。

 

インゴットを作り。

 

更にそれを成形して、順番にくみ上げていく。

 

靴はあたしも散々作っているので、手慣れたものだ。あたしの切り札の蹴り技にとっては、靴はとにかく大事だからである。

 

フェデリーカさんに促して、靴を履いて貰う。

 

足のサイズはしっかり確認してある。

 

フェデリーカさんはパティより少し背が高くて、足のサイズも少し大きい。更にまだ少し背が伸びて足が大きくなる可能性があるから、靴のサイズが調整出来るように、バンドもつけてある。

 

靴についての構造を見せて、履き方も説明すると。

 

どうも革細工ギルドの職人らしい髭を生やした中年男性が、生唾を飲み込んでいた。

 

靴底に金属片を取り込んで強度を増し。

 

それでいながら、その金属片が足の裏に負担を掛けないように、クッションをしっかり入れているこの靴。

 

あたしが戦闘用に使え。

 

多少尖った石を踏んだ程度では壊れないように、散々試行錯誤してきたものだ。

 

これについては、生半可な職人には再現させない。

 

「凄いです。 体が軽い……!」

 

「これは友好の印に工房長に差し上げます」

 

「あ、ありがとうございます! ただデザインが少し無骨ですね……」

 

「ふむ、どんなデザインがいいですか? 色とかも調整しますよ」

 

フェデリーカさんが、革細工ギルドの長らしい髭の男性を呼んで、ひそひそと話す。彼がすぐにデザインを描き下ろして見せてくる。

 

なるほど、これはお洒落だ。

 

図を見て、すぐに把握。

 

材料はあるので即座に作り直す。

 

再構築は錬金術の十八番。

 

即座にデザインを変えられると聞いて、他のギルド長も、目を丸くしていた。

 

「し、信じられん」

 

「この人についての話は半信半疑だったが、人間なのか!?」

 

「しっ! 失礼だぞ!」

 

魔人呼ばわりは流石に苦笑いだが。

 

まあ、それはいい。

 

つづいて染料だ。

 

幾つか手に入れてきた、その辺りの岩石や砂などを錬金釜ですり潰す。他にも植物由来の素材や、虫などもいれて、顔料を作り出す。

 

それで皮を変色させる。

 

この変色も、職人がやるように数日かけるのではない。

 

文字通り要素を浸透させることによって、皮そのものの色を変えてしまうのだ。

 

勿論、魔物の皮になってくると。特に鼬などの、それも強力な個体のものになると。鮮やかなコバルトブルーだったりして。その色が美しく、それを生かしたくなるケースもあるが。

 

今回はデモンストレーションだ。

 

敢えて色を変えて、その技術を見せる。

 

そして別にあたしは、全ての技術を見せている訳でもない。

 

この辺りは、あたしにとっては余技だ。

 

四年でフィルフサの王種と四回交戦して、その全てを叩き殺してきた。

 

その過程で身に付けてきた技術は、あたしにとっては既に手足と同じ。

 

この程度の技術であれば、別に見せても惜しくも何ともない。

 

靴が出来る。

 

さっきの無骨なデザインと比べ、かなり小型化している。その分魔法陣などを仕込むのが結構大変だったが。

 

鮮やかな赤が美しい。

 

この赤は、さっき蜂の巣を作っていた蜂から取得した色だ。

 

いわゆる警戒色だけあって、赤いのはとても鮮やかに採れた。

 

勿論靴としての強度も申し分ない。

 

あくまであたしが作るのは実用品である。

 

ヒールとかの装飾用の非実用的な靴は、それはそれで別の人に頼めばいいのである。

 

「工房長、履いてみてください」

 

「この鮮やかな赤、短時間で作り出し、しかも皮にしみこませたのか……」

 

革細工ギルドの長らしい男性が、目を輝かせている。

 

職人としての血が騒ぐのだろう。

 

フェデリーカさんが履いてみる。

 

さっきの戦闘に全振りしたデザインと違って、だいぶ女の子が履くのに相応しそうなデザインである。

 

クラウディアでも、お外で戦闘を想定しているときは、あたしが作った無骨な奴を履いているのだが。

 

まあ、このくらいの手間で、工夫できるのならそれもそれでアリだろう。

 

「すばらしい……ですね。 これは、皆負けてはいられないですよ」

 

「……確かにそのようだ。 ライザリン殿。 あなたの事は認めざるをえないようだ」

 

「既に多数の魔物を屠り去った実績も聞いている。 協力を要請したい」

 

ギルド長達は、アトリエに来る前は半信半疑だった筈だ。

 

それが、多少カードを見せただけで、これだけ態度を軟化させてくれた。

 

これでよし。

 

後は、順番に。

 

やるべきことを、やっていくだけだった。

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