暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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※万象の大典

原作同様幾つかの区画に別れています。

本作では居住区、生産区、研究区、管理区の四つになっています。

別次元の空間に作られた文字通り無敵の居城ですが。

それも使う人間しだいなのです。

これを作った人が健在だったら、話も違ったのですが……


3、何ももたらさず何も得られず

生産区を見て回る。

 

全体的に、此処が一番冷えているかも知れない。セキュリティを掌握した事でトラップなどはあらかた黙らせることができたようだが。そもそも物理的なトラップなどはなく、ガーディアンを呼ぶものが主体のようだった。

 

そのガーディアンも先の戦いで倒した。

 

確かに強いのがいたけれども、あれが全部神代鎧だった方が余程手強かったように思う。ただ、見回りに行っていたアンペルさんが、見つけて来た。

 

それは、明らかに数百年程度前の手帳だった。

 

つまり此処に連れてこられた錬金術師のものである。

 

入る事ができた錬金術師がいたことは分かっていたが、その手記だった。

 

とりあえず、皆を集めて解読する。

 

タオがさっと読んで、要点をまとめてくれた。

 

なんでもその錬金術師は神代から古代クリント王国の間にいた人物で、二十人ほどのチームを組んで此処に入る事に成功したらしい。

 

呼ばれた錬金術師が優秀だったと自負していたが、それはそれとして神代の遺物や、神代の錬金術師が残した手がかりがまだ多くあったのも要因なのだろう。此処まで来る事ができた。

 

できたのだが。

 

入口であの巨大な神代鎧に、他の仲間を皆殺しにされたらしい。

 

錬金術師もおかまいなしだ。

 

「ひどい……」

 

クラウディアが呟く。

 

その錬金術師も、神代の思想を受け継いでいただろう事は分かる。だから、あたしはあまり同情は出来ないが。

 

ただ、それで目が覚めたらしい。

 

錬金術師は引きずられるようにして歩きながら、手記に後悔の念を綴っていた。

 

それで目が覚めたのなら、まだマシだったのかも知れない。

 

神代が理想郷だったなんて嘘っぱちだ。そう書いた文章が最後になっていたそうだ。此処で手記を取り落とし、そのままつれて行かれたのだろう。

 

「神代の錬金術師がどんな連中だったのかは、出てくる情報でわかりきっていたはず。 余程テクノロジーに目が眩んでいたのか、それとも同類だったからあこがればかりが先行したのか……」

 

「どちらにしても、こんな場所、狂ってます。 できるだけ早く何もかも終わらせたいです」

 

ずっとフェデリーカは喋らなかったが。

 

ついに吐き出すように言う。

 

それはそうだろう。

 

もっとも精神的には中庸に近いし、良心的なフェデリーカだ。悪意の煮こごりみたいなものをずっと浴びていれば、それは色々神経に来る。

 

「タオ、それで他に何か分かってきた事はある?」

 

「データセンタは前と殆ど同じだったよ。 あと、リニアという輸送用のからくりも見てきた。 とてもではないけれど、動くところが想像できなかった」

 

「後であたしも見て来るかな」

 

「ライザだったら、あっさり再現しそうだな……」

 

ボオスがぼやいた。

 

まあ、それができるかは見てみないと何ともいえない。

 

ともかく、後は此処について、実地を検分していくしかないだろう。

 

何手かに別れて、確認しにいく。

 

居住区とほぼ同等くらいの広さはあるが、此処は名前の通り本当に生産をずっとしていたようだ。

 

あたしは足を止めて、ゴミ捨て場と書かれたものを見る。

 

ロボットが数体いて、此方を監視していた。落ちると危ないからだろう。

 

下には円形の……刃がついた羽が複数ついたものがあって。落ちたものを微塵に砕いてしまうようだった。

 

ロボットが話しかけてくる。

 

すぐに側にいたガイアさんが抱えていた板から、母が翻訳してくれる。

 

神代の言葉だが、勿論タオでなくても翻訳はできるのだ。

 

「錬金術師様、ゴミがあるのであれば処理いたします、だそうです」

 

「今はないかな」

 

「……分かりましたと言っています。 後で、現在の言葉に設定を書き換えるように処理をしておきます」

 

「……」

 

母は見抜いているのかも知れない。

 

あたしはこの万象の大典は、そのまま放棄するつもりは無い。

 

勿論神代の錬金術師のように悪用するつもりはない。

 

ただ、此処はあまりにも空間として異質。

 

人間がまだ持つべきではない技術とはいっても、テクノロジーに罪はない。だから、此処は見張り、封鎖するつもりだ。

 

色々解説を受けながら、見て回る。

 

此処は鋳造施設であるらしい。だが、素材がないので動かないという説明を受けた。素材として鉱石などを入れると、自動的に金物まで作ってくれるらしいが。まあ、錬金術と同じだ。

 

それを手動でやっているか、違うかくらいしか差が無い。

 

ただ操作手順が複雑だ。

 

それに、錬金術師しか動かせないプロテクトが掛けられているという。

 

「神代の錬金術師にも、錬金術師が使えない者が後になると多く出ていました。 それらの者は、此処で作業指示を突っぱねられていたのを確認しています」

 

「何が錬金術師だか。 偉大な血が笑わせるよ」

 

「血統にこだわるのは私には理解出来ません。 王だの皇帝だのは、世界の原初からそうだったわけでもなんでもなく、能力の優秀劣等も主観に過ぎない物です。 優生論という愚かしい学問が混沌の時代にはあったようですが、結局既得権益を持っているものの地位を保証するために悪用されていただけのようです」

 

「今もその時代も同じか……」

 

じっと機械を見ていたのはフェデリーカだ。

 

動かせそうだけれども、やってみると聞くと。少し考えてから、悲しそうに首を横に振っていた。

 

選ばれた人間しか使えないようなものは、機械として意味がないと。

 

再現性がない学問が、一部の人間にしか使えないのと同じだと。

 

「職人もしばし自分にしかできない技術をひけらかし誇りますが、その結果その技術は伝承されず絶えてしまう事がしばしばあります。 此処にあるのは、その見本のような代物ですね」

 

「そうだね。 誰にでも使えるようにもできるんだけれど、今の人間に使わせても神代がまた再現されるだけかな」

 

「ライザさん、人間ってどうなれば良いんでしょう。 混沌の時代が酷い終わり方をして、世界が滅び掛けて。 それで旅の人の尽力でやっと戻り始めたら、恩知らずにも程がある行動で全てが台無しになって。 悪い人がいるなんて簡単な話ではありませんよね。 悪い奴をやっつければ全て解決してくれるなんて簡単な話では……」

 

フェデリーカも分かっているんだろう。

 

あたしも何度か言ったが。

 

神代の錬金術師の同類はどこにでもいる。多分誰の心の中にもいる。

 

それを何とかしないといけない。

 

精神論なんかでは解決などしない。

 

それこそ、愚行の果てに何度世界を滅ぼしたという事実を知っていても、まるで恥なんか感じないような恥知らずは幾らでもいる。

 

それである以上。

 

人間には、ある程度以上の技術は与えてはいけないのだ。

 

少なくとも今は。

 

まてよ。

 

人間という生物を変更するのはどうだろう。

 

ガイアさんをちらりと見る。

 

何も古い人間を皆殺しにする必要はない。ホムンクルスの技術では、人間と交配ができるという話だ。

 

あたしもその気になれば人間を作り出すのは難しく無い。

 

今は錬金術でそれだけの事ができるようになっている。

 

だとすれば、もう愚行を犯さない人間に、少しずつ差し替えていく方法が使えるのではないのか。

 

天啓だ。

 

フェデリーカの肩を、あたしは満面の笑みで叩いていた。

 

「ありがとうフェデリーカ! あたしいい方法思いついたよ!」

 

「ら、ライザさん、なんだか凄く怖い目してます」

 

「んー?  どういう怖い目?」

 

「その、地獄の底みたいに濁ってます……」

 

そっか。

 

別にそれでもかまわない。

 

あたしは悪党になるつもりはない。悪党を一切の容赦なく滅ぼす魔王になるつもりはあってもだ。

 

それに神が人間に対して何の良い影響を与えもしないのも事実。

 

本物の神であるパミラさんだって、本来は幽霊のような存在になって世界を見守っていると言っていたでは無いか。

 

それが全てだ。そしてだからこそに、神は人間なんか救わない。

 

人間を救うのは恐らく人間でもない。

 

人間を知り、外から人間を変革できる存在だ。そういう意味では、世界を闇から蝕む魔王は、もっとも適しているかも知れない。

 

最初から、天啓は得ていたのか。

 

今、それで気付けたのかも知れなかった。

 

頭がやたらすっきりする。それだけじゃない。工場の仕組みも、見ていて把握できた。これは時間を掛ければ再現出来る。

 

次を見に行く。

 

それと、一通り安全確認を終えたら、補給や命を取り留めた同胞の戦士の本格的な医療もしないといけない。

 

此処にもまた。

 

数日は留まることになりそうだった。

 

 

 

一度アトリエに戻る。

 

あと二つ。研究区と管理区というのがそれぞれ存在しているらしい。管理区は中枢区とも言われていて、其処が敵の本丸だそうだ。

 

タオとアンペルさん、クリフォードさんは居住区に残る。

 

大量にある本を解析する必要がある。それに、この先には更に多くの戦力がいても不思議ではない。

 

今のうちに色々と準備はしておかなければならなかった。

 

なおリラさんもセリさんもパティもアトリエに戻ってくる。

 

こう言うときに浮ついた気持ちでいると死ぬ。それは良く理解出来ているのだろう。全員、相当な修羅場を潜った戦士なのだから。

 

薬を増やすのと、幾らかやっておく事がある。

 

フィーがボオスにじゃれついて遊んでいるのを横目に、幾つか調整をしておくものがある。

 

頭のネジが完全に飛んだ印象だ。

 

ここに来て、あたしは今までの抑えが全て外れたように思う。

 

人間をやめて随分経過しているのに。

 

今までは、結局人間の領域でしか思考していなかった。しかしながらあたしは今、人間の外側で思考し始めている。

 

まず作りあげるのは培養槽だ。

 

これはアインを回復させるためのものである。

 

アインについては彼処で暮らすのは辛いだろう。ちなみに「母」は此方に遠隔で通信できるらしい。

 

独り立ちする時が来ても。

 

少なくともそれまでは、アインの側にいることはできると思う。それ以降も、アインが会いに行けばいけるはずだ。

 

幾つかの部品に分けて、培養槽を調合していく。

 

レントに頼んで小屋を増設して貰い、其処に培養槽と関連機器をセットしていく。機械で動かすのではないが、原理は理解している。

 

動力に関しては、竜脈から吸い上げるのでは無く、大気中の魔力を用いる。てか、それで充分なのだ。

 

培養液についても、改良を進める。

 

サンプルは今までの遺跡にもあった。それを解析した結果、確かに問題が無い成分だったが、更に改良出来ることもあたしは理解していた。多分だけれども、これも旅の人から回収しきれなかった技術なのだろう。

 

旅の人とともにこの世界を復旧することを連中が一人でも考えていれば、今頃世界は変わっていたのだろうか。

 

いや、ダメだ。最初から旅の人の周囲はろくでもない輩ばかりが集まっていたという話である。

 

いずれはクズがズタズタにしてしまったのだろう。

 

そういうクズをまとめて誰かが処理出来ていれば違ったのかも知れない。だが、それも過ぎた話である。

 

培養槽の組み立て完了。

 

更に管理装置も調合する。

 

仕組みも分かっているので、調合もできる。てきぱきとやっていくのを見て、パティが唖然とする。

 

「なんだか更に凄くなっていませんかライザさん」

 

「すみません。 なんだか私が変な事してしまったみたいなんです」

 

さめざめと泣いているフェデリーカ。

 

なんで泣くのか分からないが。ともかく調合をハイスピードで済ませる。エーテルに溶かしたものも、今までよりも更に遙かに細かく調整出来る。その気になれば、タオが言っていた振動する紐も確認できるほどだ。

 

管理装置を据え付け。

 

光学式コンソールが普通に起動しているのをみて、ボオスが唖然とする。

 

レントはしばらく黙り込んでいたが、頭を振ると休みに行ってしまった。

 

「お前、完全に人間止めたんだな……」

 

「前からだよ。 正確には一年弱前くらいからだけど」

 

「そうだったな。 話には聞いてはいたが、初めて実感できたよ。 凄まじいな」

 

ボオスがぼやく。

 

ともかく、色々と調整する。

 

アインの体の問題は、幾つかあるのだが。そもそも体質的なものが殆どだ。近親交配で生まれながらに病気のある子供が高い確率で生まれるのは知られているが、神代の錬金術師はあのアインの髪の毛を調べた感じでは、下手すると親子や兄妹で繰り返し子供を作っていたのだろう。

 

特権意識を拗らせ散らかした挙げ句、優秀だと思い込んだ血統を保存しようとした結末がそれだ。

 

そこまでしても錬金術の才能なんか保全されなかったし。

 

なんならむしろ加速度的に衰えた。

 

アインには錬金術の才能は、調べて見て分かったが、おそらく無い。

 

そもそも錬金術の才能は、旅の人の例などを見ると、そうできるように作られたようなケースを除くと。

 

突発的に生じるものと判断して良さそうだ。

 

あたしからしてそうだ。

 

それに、旅の人が錬金術を教え、使えるようになった連中だってそうだっただろうし。

 

アンペルさんも恐らくはその筈だ。

 

「運動が得意な親」から「運動が得意な子供」が生まれる可能性はある。

 

だがそれは絶対ではないし。

 

その真逆のパターンもある。

 

ホムンクルスから多様性の話は聞いている。

 

そもそも主観に寄る「優秀」なんてものは、何の意味もないらしい。過去の世界で戦闘力において最強を誇った生物は、環境が変わってあっさり全滅したという話もある。

 

だとすれば、ただ生存に不的確な形質を取り除く。

 

それだけが必要だ。

 

アインの場合は肺機能と心機能に問題がある。これを改善しない限り、まともに生活は出来ないだろう。

 

コンソールを操作して、色々と調整をする。

 

アインの髪からデータを起こして、それで試験。これは失敗ができないことだから、丁寧にやる。

 

それでも、凄まじい効率で頭が動いているのが分かる。

 

「フィー!」

 

「ん、夜か」

 

それでも、フィーの声は届いた。

 

アンペルさん達の食事は、向こうでホムンクルス達が準備してくれる。あの三人、揃って生活力が低いので、それはありがたい話だろう。

 

クラウディアが作った料理を頬張りながら、体に栄養を補給しているのを理解する。なんというか、体の構成要素にどう栄養が行っているか分かるのだ。

 

フィーが、けふっとげっぷをしている。

 

あたしの魔力をいつも食べているフィーなのだが。げっぷをしているのは初めて見た。

 

「あれ、フィー、どうしたの?」

 

「フィー……」

 

「おなかいっぱい?」

 

頷かれた。

 

最近でもたまにドラゴンの素材から作ったトラベルボトルにつれて行っていたのだが。こんな風に満足になるのは初めて見た。

 

フィーの一族は、エンシェントドラゴンが世界を渡る時に、そのダメージを緩和する一族だ。

 

つまりエンシェントドラゴンの膨大な魔力を吸って平気な体をしているわけで。あたし程度の魔力で満腹するというのは。

 

いや、今のあたしは。

 

エンシェントドラゴンに近付こうとしているのか。

 

クラウディアが険しい視線を向けている。

 

「やっぱり、あの話して正解だったわ」

 

「うん?」

 

「ライザ一人に背負わせはしないよ。 もうこの世界、これ以上は後がないんでしょう」

 

まあ、その通りだ。

 

神代のアホ共がやらかしたせいもあって、冬の時代のダメージから回復しきっていない所に、更に生態系が無茶苦茶にされている。

 

抜本的な対策が必要だ。

 

それには、あたしだけでは確かに厳しいかも知れない。

 

「もう話しておくね。 みんな、私もライザと同じようになるつもり。 元々誰かと結婚するつもりもなかったし」

 

「うすうす勘付いてはいましたが、ライザさんと一緒にあるつもりなんですね」

 

パティは気付いていたか。

 

この子は聡明だし、気付いていてもおかしくなかったのだろう。

 

レントがため息をついていた。

 

「それもまた生き方の一つだ。 それでバレンツはどうするつもりなんだ。 身内経営なんだろう」

 

「養子を取るつもりだよ。 ただ優秀な養子がいるかは分からないし、お父さんとお母さんは私の子供がみたいって言うかも知れない。 その時はライザが人を作れるって話だから、私のデータと誰かのデータを組み合わせてもいいし、私そのものでもいいかな。 子供を作ってもらうつもり」

 

「ちょっと凄い話過ぎてついていけないですね……」

 

「この世界は、どちらにしても人間に任せておいても滅ぶだけであろう。 此処で我等が神代の悪影響を全て取り除いた所で、どうせ何度でも繰り返すであろうな。 ならば、誰かが人間を自主的に止める必要があるのであろうよ。 人間を監視し統制するためにな……」

 

カラさんが、そう言ってくれる。

 

だいたいカラさんの言葉通りだ。

 

其処で欲を残してはいけない。欲を残したままでは、奴らと同じになる。

 

あたしはもう覚悟を決めて、人間は止めた。

 

クラウディアもそれに倣う。

 

他に人間を止めたい人はいるか。聞いてみるが、皆視線を背けた。別にそれでもかまわない。

 

こんなのは、必要な者だけがやれば良い事だ。

 

「勘違いして欲しく無いから言っておくけれど、あたしは神様なんかになるつもりはない。 自分を神格化するつもりもない。 人間が馬鹿な事をした時に音速で飛んでいって相応の仕置きをする存在になるだけだよ。 それは混沌の時代のペテン師達が考えた都合良く権力者の権力を担保してくれる存在ではない。 願えば助けてくれる存在でも無い。 悪逆が生じたときに、誰も罰しないそれを討滅する存在だよ」

 

逆に言うと、それがいるだけで、世界はどれだけマシになるか分からないと思う。

 

それはそれとして。

 

オーレン族と人間の融和策については、錬金術で支援するつもりだが。

 

それについては、あたしのやりたいことの一つであっても。

 

全てに優先する事でもない。

 

皆には分かっていてほしいのだ。

 

何か欲しくて人間を止めるわけではないのだと。

 

皆、何度もともに戦い続けたのだから。

 

「分かった。 俺にも色々思うところがあるから、それについては正しいと思う。 止めはしない。 ただ、少しばかり寂しくはなるな」

 

「ボオスがそんな風に言ってくれるなんて、四年前には思いもしなかっただろうね」

 

「まだそういう事をいうか」

 

「今では懐かしい思い出だよ。 いずれにしても、後百年くらいは普通に人間として活動するから、それは心配しなくても大丈夫」

 

それは逆に言えば。

 

此処にいる面子でも、欲に溺れ権力に腐り果てたら、首をもらいに行くと言う事だ。

 

パティに言ったことは、嘘でもなんでもない。

 

あたしは、最初からそういうつもりでいる。

 

ともかく、これで皆に方針を開示した。

 

離脱するのも自由だと言う事も告げておく。

 

だけれども、一番困り果てていたフェデリーカでさえ、残ると即答した。

 

「あんな話を見せられて、此処までの醜悪を見て。 一人だけさっさと逃げるなんて、絶対に嫌です!」

 

「フェデリーカ、良く言ってくれました。 私も同感です。 神代の錬金術師は、私もチャンスがあったら斬ります」

 

パティは意外と乗り気か。

 

誰も人間を止めるとは、クラウディアを除いて言い出さなかったけれど。

 

それでも、離脱者も、誰もいないようだった。

 

それで充分だ。

 

手を叩いて、ミーティングをはしめる。

 

まだまだ、明日以降もやることは山積みなのだから。

 

 

 

人工臓器を作成して、瀕死状態だったホムンクルスの手術をする。

 

培養液につけて持ち込んだ人工臓器を、培養槽に使って生命をつないでいるホムンクルスの所に持ち込む。

 

幾つも作った。

 

培養槽に使ったままのホムンクルスに対して、手術はてきぱきとやっていく。

 

もう慣れたものだ。

 

エドワード先生の所に薬を持ち込んでいただけの頃と違い、今は野戦病院でのトリアージから簡易手術まで経験を積んでいる。

 

それにあたしの特技は空間把握だ。

 

手術に関しても、今では人体構造を完全に理解したと言う事もある。

 

どうすれば良いか、すぐに分かる。

 

時々苦しそうにしているが、痛み止めも万能ではない。

 

助手として、フェデリーカに手伝って貰う。

 

消毒液や、お湯を交換して貰うだけでも、随分と違うのだ。

 

「内臓類、縫合完了。 んー、人工臓器は予想以上に良く動いているね」

 

「此処までの手際とは……」

 

「手が届く範囲に救える命があるなら救う、悪がいるなら討ち滅ぼす。 それだけですよ」

 

「頼もしい限りです」

 

板ではなく、側の装置から母が話しかけてくる。

 

制圧した場所ならどこからでも監視できるし、どこからでもこうやって話しかける事もできるらしい。

 

人工皮膚で傷口を塞ぎ、増血剤も入れる。

 

更に縫合を続けて行き、体の致命的な臓器類の修復は完了。

 

バイタルに問題が無いことを母は告げてくるが、ここからが本番だ。

 

全身の痛みが、本格化する。

 

今までは限度を超えていたから痛みがある程度ストップしていたが、体の修復にともなってそれもなくなる。

 

まだ半分手足がなくなっている状態に代わりは無いのだ。

 

右腕の傷口が特に状態が良くない。

 

雑菌が入るのは防いだが、逆にそれしかできていない。血管の縫合は野戦病院で済ませてあるのだが、それしか出来なかった事が響いている。

 

切りおとすかとも思ったが、何とかする。

 

持ち込んでいる薬で回復させつつ、痛みはどうにか抑え込む。それでも苦しむホムンクルスの戦士を見ていると、胸が痛む。

 

それにだ。

 

これほどの戦士でも、半身が潰されるようなダメージを受ければ、それがトラウマになるのだろう。

 

声にならない悲鳴を培養槽の中で上げているのを見ると、できるだけ迅速に手術を終わらせないといけない。

 

手を洗って、消毒。

 

義手と義足をつける。

 

幻視痛がある事は先に告げるが、そもそも聞こえているかどうか。培養槽の補助機能で抑えてくれてはいるが、そもそもホムンクルスの戦士のスペックはザムエルさんとかの最上位層の人間を更に凌いでいる。暴れれば、内側から培養槽が破壊されかねないのである。

 

どうしても駄目な部分は切り取り、捨てる。

 

捨てた部分はフェデリーカに廃棄して貰う。

 

順番に作業を進めて、血だらけになりながらも、手術を終えたのは昼過ぎだ。その時には、ようやく痛みも一段落したのか。

 

ずっと苦しんでいたホムンクルスの戦士も、多少落ち着いたようだった。

 

「栄養剤です。 飲んでください」

 

「まだ体中が痛む。 変な風に体が動く……」

 

「大丈夫、手術は終わりました。 人工臓器と義手義足を使い、右側は義眼に変えましたが、もとの内臓やからだと変わらない性能ですし、痛覚もあります。 元に戻ったと思ってください」

 

後は、体が馴染むのを待つだけだ。

 

ただ、この戦いでは、復帰はできないだろう。

 

しかし命は拾ったのだ。

 

「後は私の方で対応をします」

 

「有難うございます」

 

「此方こそ、限りない感謝をさせていただきます。 同胞の戦士達は、アインと同じく私の大事な子らです。 一人でも無為に死なせたくはありません」

 

立派だ。

 

人間が何処までも腐り果てるのに。

 

元はただのプログラムという電子的からくりにすぎない、実体さえ持っていないこの存在が。

 

よっぽどそこらの人間なんかより立派なのだから、色々考えてしまう。

 

手術の後片付けをする。

 

フェデリーカも散々野戦病院で活動していたのだ。

 

今更モツを見たくらいで戻す程柔ではないが、それでも憔悴しきった顔をしていた。

 

一度、居住区の休憩用の家屋に戻る。

 

その帰路で軽く話す。

 

「大丈夫フェデリーカ。 ご飯食べられる?」

 

「ライザさんはぜんぜん平気そうですね……」

 

「平気だよ」

 

乾いた笑いをフェデリーカが零す。

 

離脱をしないのは立派だ。この子は、自分の信念で、立派に立っている。それだけで称賛に値する。

 

戦闘には元々向いていないだろうし、あの程度の血やモツでこれだけ疲弊するくらいに線も細い。

 

それでも戦えているのは。

 

芯が強い証拠だ。

 

休憩用の家屋に戻ると、タオが一心不乱にずっと読み物をしていた。クリフォードさんが、数冊本を持ってくる。

 

この人の勘は、本に対しても発揮される。持って来たのは、勘が働いた本だろう。

 

「此処のは持ち出しても良いだよな?」

 

「先も言ったとおり、内容によってはダメです」

 

「ああ、それは分かってる。 単純に技術書とかじゃない、俺のロマンが響く本だけだよ」

 

「一応、確認はさせてくださいね」

 

アンペルさんは。

 

ソファでタオルを被って寝転んでいる。コレは頭を使い過ぎたか。

 

今の年で知恵熱とは。

 

そうアンペルさんがぼやいているのを聞いて、あたしもちょっとだけくすりと来た。

 

パティがタオの所に薬を運んでいる。

 

タオも時々あたしが作った目薬を入れながら、本を読んでいるようだ。

 

強化魔術で頭の回転速度を上げているタオだが、それでも目の疲弊だけはどうにもならないのである。

 

「ありがとうパティ」

 

「タオ、それで何か分かりそう?」

 

「途中から此処についての情報に切り替えて調べているんだけれど……次には研究区に攻めこむんだよね」

 

「管理区は守りが堅いらしいからね。 研究区も制圧して、それで後顧の憂いを断ってから行く感じになるね」

 

タオが本から顔を上げる。

 

そして見回して、周囲にいる人数が限られているのを見てから、声を落としていた。

 

「酷いものをたくさんみると思う。 これは研究をまとめた資料なんだけれど、モラルを完全に捨てた人間が何をするのか、全て書かれてる」

 

「そう……」

 

「ただ、守りはそれほど堅くないみたいだね。 生産区は元々錬金術師達はほとんど足を踏み入れなかったらしくて、半自動の区画だったらしいんだ。 研究区は守りが堅すぎると、足を踏み入れるときに煩わしかったようで、意図的にセキュリティを削っているみたいだ。 誰も入らないという自信があったんだろうね」

 

オーリムやあたし達の世界にあった遺跡と同じか。

 

どんな優れたセキュリティも、バカが使っていたらなんの用も為さない。

 

此処でもそれは同じだった、ということだ。

 

生産区を確認していたレントが戻ってくる。

 

動かなくなっていた生物兵器がいたから、介錯をして来たそうだ。管理権限を母が乗っ取った事で、稼働出来なくなった生物兵器はそれなりにいるようで。動けないまま朽ちていくのを待っていたようだが。

 

哀れに思ってとどめを刺してきたとか。

 

そうとだけ、あたしは答えていた。

 

戦いは佳境。

 

まだ、続いている。

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