暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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そもそも万象の大典と後に命名された場所は、本来は特権意識を拗らせ散らかしたアホ共が居城にするためのものではありませんでした。

「冬」の引き金となった戦争で完全に焼け野原となった世界を復興するための巨大な施設だったのです。

それを私欲のまま乗っ取り、世界を救う作業をしていた「旅の人」から全てを奪った者達。

それが神代の錬金術師達でした。


狂宴の跡地
序、研究区


生産区をあらかた回って、此処がどう動いていたのかはあたしも理解した。その結果は、あまり喜ばしいものではなかった。

 

此処は本来、此処を基軸にして世界で貧困に苦しんでいる人に、物資を提供するためのものだった。

 

そのため都市基盤になるような大型戦略物資を建造したり、或いは大規模な人員を支えるための食糧を生産したり。そういうシステムが作られていた。

 

旅の人が活動していたのは4000年前くらいの「冬」の終わりから、1800年くらい前の何らかの事でいなくなるまで。2200年ほどはみて良いだろう。その内周囲に寄って来た神代のカス共のせいでまともに動けなくなった時期を除いても、最低でも1000年くらいは此処をちくちくと作り、世界の再生に役立てていたとみて良い。

 

だからこそ分かるのだ。

 

後から、此処を乗っ取った連中が。

 

それらを全部自分のためだけに使った事が。

 

欲というものそのものは否定しない。

 

歴史を動かしてきたのは欲求である事も一理であるだろう。

 

だが、此処を乗っ取った神代の錬金術師は、際限のない欲を抱え。それを正当化する理屈を混沌の時代のタオ曰くの妄想本から引っ張り出し。あらゆる全てを自分達だけで独占した。

 

結果世界の復興は中途で止まり。

 

挙げ句に更なる破滅に襲われた。

 

此処はその歴史の生き証人だ。

 

母と連携して、システムを書き換える。

 

幸いにして、後付けされたシステムは稚拙極まりなく。今のあたしなら、簡単に壊す事ができた。

 

それを本来のものへ変える。

 

人間が今の状態では、ここは活用出来ない。

 

勿論ある程度の支援はあたしもするけれど。技術を考え無しに漏出させればまた神代が始まる。

 

あたし達の世界は。

 

もう一度破滅が起きたら、もう復興の目はないのだ。

 

それはさせてはならない。

 

だから、使えるようにだけ切り替える。これは、今やっておくべき事だった。

 

その過程でガーディアンの残骸も、全て処理しておく。

 

殆どが生物兵器だ。

 

どれももとはただの動物だった。中には人間が弄くられた末に、生物兵器に変えられてしまったものもあった。

 

だから廃棄はしないで、全て荼毘に付す。

 

これらも、犠牲者なのだから。

 

一通りが片付いて、それで一旦タオ達と合流する。三人の知恵者が、ある程度まとめてくれていた。

 

その話を聞かせて貰う。

 

居住区の図書館は、ずっとほったらかしであったらしい。

 

やはり致命的な事があって、神代の錬金術師達はオーレン族に負けた後、居住区に来ることはなかったようだ。

 

その存在すら、忘れてしまったのかも知れない。

 

だから、本は残っていた。

 

どれほど愚かな事が書かれている本であっても、焚書はするべきでは無いだろう。

 

タオが代表して、管理区と研究区。

 

残りの二つの制圧していない区について、分かった事を話してくれる。

 

「研究区は、「冬」で荒廃した世界を立て直すためのテラフォーミングを行うための区画であったようなんだ。 本来はね」

 

「その言葉に良い印象はないな」

 

ボオスがぼやく。

 

あたしも同意だ。

 

だが、これは本来、破滅的な状態になった世界に対して、旅の人が施した再生。どんな生物も住めなくなった土地を、豊かな緑の地に変えるための全てのためになることだったらしい。

 

事実旅の人が動けている間は、それらが彼方此方で行われ。

 

何も住めない土地だった場所に、命が戻った。

 

というか、そもそも調べた所。今存在している生物の多くは、保存されていたデータから旅の人が再生したものであるらしい。

 

それくらい「冬」は破滅的で、あたし達の世界を蹂躙し尽くした、ということだ。

 

利害の調整だのなんだのが上手く行かなかっただけで、とんでもない兵器を使って世界を壊した。

 

混沌の時代は、そういう時代だったという事である。

 

レントが呻く。

 

「そんな状態だった世界を、旅の人が直してくれていたんだな」

 

「面白い記述があって、ぷにぷには本来そういう世界の回復を行うために作られた生物だったんだって」

 

「あれ、結構危険な魔物だよな」

 

「うん。 元々はきちんと制御していればそこまで危ない生物ではなかったらしいんだよ。 でも神代の錬金術師が此処を乗っ取ってから、後は放置して、野生化してしまったらしいね」

 

何て事だ。

 

頭が痛くなるような事実が次々に明らかになる。

 

また、生産区には、混沌の時代以前に存在していた生物のデータが多数保管されていたのも確認。

 

牛や馬もそう。

 

これらは冬の時代に一度滅んでしまったらしい。

 

それを世界に再度定着させたのは、旅の人だったというわけだ。

 

「確かタオが言っていた、大きくて強い生物ほど、破滅的な異変には為す術がないって奴だよな」

 

「うん。 牛や馬もそうだし、大きな生物はほとんどが「冬」を乗り切れなかったんだ。 旅の人は世界を元に戻す過程で、猛獣なども含めて、敢えてそれらを復活させた。 それは生態系の再生そのものを意図していた、長期的な戦略によるものだったようだね」

 

「確かに捕食者がいないと自然は動かない」

 

ディアンが呟く。

 

パティも、多くの虫もそのようにして再生されたと聞いて。嫌だなと顔に書いたけれども。

 

仕方がないと受け入れていた。

 

「虫が嫌い」は仕方がない。

 

だが、「だから全て滅ぼす」ではダメだ。

 

神代の錬金術師みたいに、全てに対して有害だったら、滅ぼす事は必須になるだろうが。

 

人間から見て気持ち悪いだの嫌いだので滅ぼすようでは、それは人間こそが世界にとっての有害な存在になる。勿論その逆もしかり。人間にとって美しかったり可愛かったりするから世界に蔓延らせるなんて思考は、世界にどれだけ害を及ぼすか。

 

人間こそが侵略性外来生物の王と言えるだろう。

 

その思考の具現化が改悪されたフィルフサ。そして頂点が神代の錬金術師と言える。

 

「研究区は、とにかくそういう再生の研究を最初はしていたんだ。 だけれども、のっとられた後は……ラプトルや走鳥、今陸上で見かけられるサメなんかもそう。 超ド級もそうだし、悪魔もどき……観測者もそうだね。 ああいった魔物が、作られていく場になったんだ」

 

「言葉も出ません」

 

フェデリーカが俯く。

 

蘭などの研究も優先的に行われ、神代の錬金術師が身内で品評会を行った記録まであるという。

 

それは、今やる事では無い。

 

そういう正論も、彼等は笑って無視したのだろう。

 

どうしようもない連中であるのは既に周知。

 

話を進めて貰う。

 

「ただ幸いなことに、神代の錬金術師に取って大事な粘土……こね回して遊ぶための生物のデータは、手つかずに残っているようだね。 少なくともオーレン族による此処への反撃作戦直前の記録でそれがある。 だから、その後の弱体化ぶりを考えるに、状態は変わっていないと思う」

 

「まだ世界の半分は、人が入れない土地です」

 

パティが、敢えて言う。

 

分かっている。

 

そういった世界を再生するには、絶対に必要なデータだ。

 

そもそもあたしもまだ、どうして人が入れないのかは理解し切れていない。此処から、調査して理解しないといけないことだ。

 

「分かっている。 確実に回収しないといけないデータだな」

 

「はい。 お願いします。 世界を少しずつ変革するとしても……世界の半分が不毛の荒野という事態は、どう考えてもいいものではありません。 未来の為にも、復旧のためのデータは回収しないと」

 

パティの訴えは全うだ。

 

勿論アーベルハイムの次期頭領としての言葉なのだろうが、それを差し引いても。人類どころか、世界の未来の為にも大事だ。

 

セリさんが挙手する。

 

オーリムの生物のデータはありそうか、と。

 

残念ながらとタオが首を横に振る。

 

そう、と悲しそうにセリさんが視線を伏せていた。

 

生物というのは、一見良さそうなものでも、持ち込むととんでもない被害をもたらすことがある。

 

オーリムは神代の錬金術師と古代クリント王国と何よりフィルフサによって文字通り蹂躙され尽くした世界だ。恐らく、一からの再建になるのだろう。だからそれを少しでも楽にできるのならとカラさんは思ったのだろうが。

 

カラさんが言う。

 

「ウィンドルにまだいる生物から、世界に伝播させていくしかあるまいな」

 

「オーリムの全ての生物が、ウィンドルのものと適応するわけではありません。 管理は大変でしょうね」

 

「ああ、そのためにも生き残りのオーレン族を招集し、一箇所に集わせなければならん。 今後は多産を奨励して、人口を増やすことも考えねばな」

 

カラさんの言葉には含みもあるが。

 

まあ、それについては今はいい。

 

タオは頷くと、地図を拡げた。

 

研究区の地図は、既にかなりできていると言うのだ。

 

それは凄い。

 

ありがたい話だと思って、詳しい内容を聞かせて貰う。

 

「元々四つの区画は、本来は全てが同じ形状なんだ。 これは土台となる部分を、何らかの形で量産化する仕組みがあったんだと思う。 旅の人が生きていて、主導権を奪われなければ、もっと区画は増えていたのかも知れないね」

 

「なるほどな。 それで」

 

「研究区は全体的な戦力は多く無いはずだけれども、しかし調べる限り入口付近の守りが堅そうだ。 足を踏み入れると、いきなり激戦になると思う。 問題はそのままやりあうと、恐らくは周囲に被害が出る。 データがある研究棟への被害は、できるだけ避けたい」

 

「我等が盾になろうか」

 

ガイアさんが提案してくる。

 

だが、それはダメだ。

 

今後のためにも、ガイアさん達同胞ホムンクルスは、人間の未来に必要になる。というか、アインを希望だと同胞は言っているが、あたしに言わせればホムンクルスのテクノロジーこそ人間の希望だと考えている。

 

無駄な犠牲を出すわけにはいかないのだ。

 

「門を開けた後、こちら側に引きずり出せそう?」

 

「いや無理だろうね。 研究区だけを守るように設定されている筈。 生産区での戦いでも、生物兵器達は構造物を一切破壊しないように戦っていた。 神代の錬金術師も、それくらいの対策程度はしているとみて良いよ」

 

「だとすると、何とか戦いやすい場所に誘引するしかないだろうね」

 

「分かった、俺が殿軍になる」

 

レントが言う。

 

覚悟を決めた声だ。

 

恐らく最早、世界最高の防御戦の名手であるレント。それが盾になってくれるというのだから心強い。

 

あたしはしばし考えた後、タオに確認。

 

「戦いやすい場所の検討はついてる?」

 

「うん。 地図で言うと、この辺りだ」

 

「此処ですか。 物資集積場ですね。 今確認していますが、監視カメラなどからも、余計なものは置かれていないようです。 また此処は地下も重要施設がありません。 ただ……」

 

母の懸念を聞く。

 

此処の事に一番詳しいのは、かの存在だ。

 

だから、丁寧に打ち合わせはしなければならない。

 

「途中の経路に、うち捨てられた資材を多数確認しています。 排除しながら撤退戦をしなければならないでしょう」

 

「資材ねえ……」

 

「あまり見るのは止めた方が良いやも知れません」

 

だいたい見当はつく。

 

おぞましいものを散々見る事になるだろうとまでタオが言っているのだ。捨てられている「資材」が何かは、言われるまでもない事なのだ。

 

だが、それでもいかなければならない。

 

あたしが配置を決める。

 

「レント、最後衛で敵の攻撃を防ぎながらさがる。 その後ろでセリさん、クリフォードさん。 セリさんは植物魔術で壁を作って。 クリフォードさんは、奇襲を防いでレントの負担を減らして」

 

「分かったわ」

 

「任せておけ」

 

よし、次だ。

 

リラさんにも頼む。

 

「リラさんは、ガイアさん達と連携して、レントが防ぐ以外の敵をどうにか処理して欲しい。 最重要地点はレントが抑えてくれるから、他をとにかく防いで、本隊へのダメージを減らしてほしいんですが」

 

「任せておけ」

 

「お願いします。 カラさんは、大威力の魔術で、追撃してくる敵を牽制。 フェデリーカはひたすら神楽舞で支援と言いたいけれど……撤退戦で舞いながら逃げるのは無理だろうし、ひたすら身を守ることだけ考えて」

 

「うむ」

 

カラさんはそのまま答えてくれるが。

 

フェデリーカはしばし黙り込んだ後、絞り出すように答えていた。

 

「分かりました。 なんとかやってみます」

 

ちょっと辛そうだが、それでも頑張ってもらうしかない。

 

あたしが数日前から様子がおかしいと泣いているのを見ているから、ちょっと罪悪感がある。

 

あたしはただ吹っ切れただけなんだが。

 

まあ、それも慣れてもらうしかない。

 

「パティが前衛。 タオとともに、前に出てくる敵を最高速で斬り伏せて。 あたしはその直後くらいで、前後に火力支援をする」

 

「お任せください。 皆の剣となって道を切り開いて見せます」

 

「僕は速度だけしかこの中では役立てないけど、頑張るよ」

 

「タオは道案内も兼ねる。 母にだけやらせるわけにもいかないでしょ」

 

こういう勘違いもあるから、しっかり先に打ち合わせをするのが大事だ。

 

アンペルさんは空間魔術で、敵を牽制して貰う。特に空間魔術使いが出て来た場合は、アンペルさんの術に依って防御させると、かなり効果的なはずだ。恐らく出てくる筈だから、これは必須。

 

ボオスは前後どっちにも加勢できるようにしてもらう。

 

ディアンは重量級の相手が出て来たときに、前衛に加勢して貰い、一撃の重さを生かして貰う。

 

それを聞いて、ディアンはやるぞと叫んでいた。

 

クラウディアはフェデリーカの側で、音魔術での警戒と早期支援、それと狙撃だ。

 

同胞の戦士は、守りに自信がある面子を後衛に。攻撃に自信がある面子は前衛に出て貰う。

 

今回は、十四人が参加してくれる。

 

ただこの十四人は、普段破綻しそうになっている各地の集落やらを監視したり、守ったり。集落のガンになっている存在を排除したり。

 

場合によっては門を監視している人員だ。

 

それが来ていると言う事は、サルドニカで鉱山が襲われた時のような悲劇がいつ起きてもおかしくないと言うこと。

 

作戦はできるだけ速やかに、確実に行わなければならない。

 

このため、掃討作戦以外の時は、人員を最小に絞って貰っている。

 

この人達が、世界を今まで、魔物のエサにしなかった本当の意味での盾。こんな状態でも井戸の中のカエルになっていた王都の貴族だの王族だのなんかよりも、何百倍も人間を守ってきた本当の槍。

 

だから、今回の一件が終わった後は、報われないといけない。

 

同時に過度な負担も掛けられなかった。

 

「だいたいは分かったが、逃げる距離はどれくらいになる」

 

「三千歩くらい」

 

「きっついな……」

 

ボオスが嘆く。

 

だが、敢えてそういう役を買って出てくれている事は、あたしも分かっている。だから、それについては何も言わない。

 

フィーは懐で落ち着いた様子だ。

 

あたし達なら勝てる相手。

 

そう判断していると見て良かった。

 

恐らく、フィーの同族の亡骸も、またたくさんあるのではないか。そう思うと、悲しくなってくるが。

 

それでも、だからこそ。

 

弔いもしなければならない。

 

何よりも邪悪が粘土遊びをする場所に変えられてしまった研究区を。

 

旅の人が世界を救うための場所に戻さなければならないのだ。

 

「よし、作戦は決まった。 何か質問は」

 

質問はなし。

 

あたしが行くぞと声を掛けると。

 

おうと、強い返事があった。

 

心強い。

 

この面子であれば、今まで此処にエサに釣られて来た錬金術師なんて問題にもならない戦力がある。

 

かならずや。

 

全てを突破出来るはずだ。

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