暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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完全にモラルがない存在が、生き物に対してどう振る舞うか。

実際に様々な歴史が示しています。

人間が人間に対してさえそうです。

当然自分達を神に等しいと考えた連中が何をするか何て、決まりきっています。

今までライザ達はその成果物だけを見てきました。

此処では。

その過程も見せられることとなります。


3、肉粘土細工

研究棟に入る。

 

其処には多数の研究結果があった。分かりきっていた。それがどれだけ邪悪なものであるのかは。

 

セキュリティは既に完全に外されている。

 

ボオスは黙り込み。

 

フェデリーカは何度も涙を拭っていた。

 

外に出ているか。

 

そうフェデリーカに声をかけるが、首を横に振られる。

 

これからサルドニカで、色々と人間の深淵と関わらなければならない。今のギルド長二人は職人としてのプライドで動いてくれた。

 

今後はそういう人間がギルド長になるとは限らない。

 

世の中には、こう言う事をする。平気で出来る。そういう人間が幾らでもいる。

 

だから、見ておかなければならない。

 

そう、涙を流しながら、フェデリーカは言うのだった。

 

其処には培養槽があり。

 

浮かんでいるのは、多数の人間の幼児の頭が生えた肉塊だった。プレートがあり、神代の言葉が書かれている。

 

タオによると、「猿の花束」だそうだ。

 

つまり神代の錬金術師が作った芸術作品と言うわけである。

 

説明も書かれている。

 

実際にさらってきた「猿」。いうまでもなく人間の幼児だが。それを贅沢に材料に使い、その愚かしさを存分に表現した芸術作品なのだとか。

 

レントが前に出ると、培養槽ごとぶった切る。

 

そして、あたしが即座に荼毘に付していた。

 

ついてきていたホムンクルス数名が頷くと、焼き尽くされた灰を回収して、外に持っていく。

 

小妖精のあたしのアトリエの側に、既に墓地を作ってある。

 

生物兵器などの亡骸は荼毘に付し。其処に葬っている。其処へ、運んで行くのだ。

 

「神代の錬金術師の身内の品評会ではこういうものが喜ばれていたようだね」

 

「これをやった奴らと同じ生物であることが恥ずかしくなる」

 

タオの言葉に、ボオスが吐き捨てていた。

 

あたしも同じ気分だ。

 

別の培養槽には、巨大な何かが浮かんでいた。タオが苦労しながら説明を翻訳してくれる。

 

肉塊みたいに見えるが、どうも違うらしい。

 

「これは本来とてもちいさな生物であったものを、どれだけ巨大化できるか試験した結果のようだ」

 

「それも遊びか?」

 

「いや、違う。 旅の人による試験だったようだ」

 

「!」

 

旅の人の試験結果か。

 

どうやら簡単には壊せないような仕組みになっているらしい。周囲の「芸術作品」と比べると明らかに浮いている。

 

旅の人から神代の錬金術師が搾取の限りを尽くしたことは分かっているが。それでもその技術を無碍に出来なかったのか、技術を搾取するために残していたのか。

 

苦労しながら、タオが翻訳してくれた。

 

「ええと……かいつまむと、生物というのは「進化」なんて事はしなくて、実際には「適応」しているらしいんだ」

 

「どういう事だ?」

 

「そうだね。 例えばとても戦闘力が強い生物がいたとして、それが生き残るとは限らないってことさ。 混沌の時代のずっと前に、ラプトルと似た姿をした生物が、世界の覇者だった時代があったらしい。 でも、環境が変わったら瞬く間に滅びてしまったという話があっただろ」

 

「そういえば、そうだったな」

 

タオは苦労しながらも説明してくれる。

 

ちいさな島に住んでいる鳥は、飛翔能力を失うことがあるらしい。

 

これは飛翔すると言う行動は、とてもリスクが高く、鳥にとっては力をとても使う事であるらしいのだ。

 

飛翔しなくても良い環境であるのなら、飛翔という能力がなくてもいいし、ない方がむしろ有利。

 

飛べない鳥が不利というのはあくまで人間の主観である。実際にはその環境では、その方が生物として有利に立てたりするのだ。

 

そういう生物が他の相性が悪い生物と遭遇して、狩られてしまうケースも当然あるが、それは別に強い弱いという問題ではなく、単に環境の良し悪しの話であるらしい。

 

「生物は環境に沿って姿を変えていくんだ。 これが適応だね」

 

「そういえば……必ずしも戦士として強いだけの人間が出世するわけではないですね人間の世界でも」

 

「うん。 美人でも性格が悪いと嫌われて相手にされなくなったりするね」

 

「主観に寄る「強さ」なんてのは、実際にはあんまり役に立たないって事だね」

 

パティとクラウディアに、タオは頷く。

 

その上で、説明してくれた。

 

旅の人は、様々な「冬」で汚染された土地で生きてくための研究をしていたという。

 

これはその成果の一つで、本来はとても小さい生物が、大きい方が有利な環境ではどこまで大きくなれるか。

 

その実地試験だという。

 

この生物単体だけを使って、大きくなるように調整したらしい。

 

そしてその過程で、様々な事が分かったのだそうだ。

 

ただ、その結果を見ていて、タオの表情がしぶくなる。あたしが、すぐに思い当たった可能性を指摘してみた。

 

「これ、フィルフサの技術に悪用されたんじゃないのかな」

 

「ずばりその通りだよ。 旅の人は生きていくために、最悪土地を元に戻せなかった場合、其処で生きるための方法を模索したんだ。 その副産物が色々出た。 それらの多くは技術だけが抽出され、フィルフサの開発に使用されたんだ」

 

「そんな。 旅の人って、みんなが幸せに生きていくための技術でそれを作ったんだろ。 そうだよな、タオさん! それをどうしてそんな悪用できるんだ!」

 

「そうだよ。 でも、人間は悪用するときに、一番頭を使うことが多いんだ」

 

ディアンの言葉に、タオがそう告げる。

 

ディアンはぐっと拳を固めると、俯いてしまった。

 

それもそうだろう。

 

ディアンは単純な話で世界が回っていないことは理解しているだろう。それでも旅の人が、世界のために身を粉にして、しかも善意で動いていたことは肌で感じているはずだ。

 

善意の研究からあのフィルフサが作り出された。

 

それは、憤りを通り越して、最早力も抜けてしまう。

 

他にも見る。

 

人間を如何に弄くるか、面白おかしくやっている研究成果が展示されていた。苦悶の顔が浮かんだ亡骸が培養槽に浮かんでいる。脳内を操作して、如何に苦しみを与えるか、操作するか。

 

その研究成果だ。

 

そう楽しげに書かれている。

 

レントが一刀両断。

 

あたしが亡骸を荼毘に付していた。

 

クリフォードさんが、大きくため息をつく。

 

「普通だったら頭がおかしくなる。 空気を変えてきた方が良いぞ」

 

「いえ、見ます」

 

パティは気丈だ。

 

フェデリーカも涙ぐみながらも、口を押さえつつ頷いていた。クラウディアは悲しそうだけれども。

 

やっぱりあたしと同じで。

 

確実に欠落し始めている。

 

今度は何だ。

 

複数の生物を融合する実験についてだ。これはまた神代の連中の遊びかと思ったが、違う。

 

融合実験は内臓に限定されている。

 

「旅の人による実験だ。 ええと……錬金術で内臓を生成する実験は上手く行ったものの、このテクノロジーは実現性があまり高いとは言い難く、特に民間にまで流用するのは非常に難しいといえる。 混沌の時代にも実用化は部分的にしかされておらず、錬金術を用いても限られた人間しか救う事ができない。 しかし例えば畜産動物の体内で、人間の内臓などを培養する事に関してはどうか。 豚などは例としてあげられる。 豚の体内に人間の内臓を作り出す事は、それほど実力がない錬金術師でもできる」

 

「なるほど、ライザがやった奴だよな。 あれって旅の人クラスでないとできないって事か」

 

「そうなる。 私にもできる気がしない」

 

レントが呟くと、アンペルさんがそれを肯定した。

 

ただ、豚を使って人間の内臓を作ると言うのはどうか。

 

どうせ悪用しかされないだろう。

 

勿論豚を肉を捕るために飼育している身としては、豚が可哀想などと言う事は言えない。そもそも豚の方も、人間とある程度ギブアンドテイクの関係であるからだ。ただそれにしても、これは。

 

難しい。

 

人間という身からは判断が出来ないかも知れない。

 

あたしは適当な素材があれば、今はもうできてしまう。だけれども、旅の人は誰をも救いたかったのだろう。

 

だからこういう代替案を出したというわけだ。

 

「案の場この技術は、色々な意味で問題があったようだね。 近くにログが残されているけれども、別の動物の体内を利用して内臓などを生成する試験は、旅の人が見いだした世代の錬金術師には少数できる者がいたものの……それも少数。 それ以降の錬金術師は、とても手が届かなかったみたいだ」

 

「そもそも錬金術が出来ない奴までいたんだろ? 当然じゃねえか」

 

「……そうだね。 ただし、その過程で神代の錬金術師達は、生物同士を融合させる技術にそれを改悪したんだ」

 

その結果、超ド級をはじめとするあり得ない生物兵器が多数作り出された。

 

特にあたし達が幾度となく交戦してきた超ド級は、神代の錬金術師曰くの傑作兵器であったらしい。

 

これで猿共の集落と、虫だの草だのは全て焼き払って、美しいものだけの世界が作れる。

 

そんな寝言が、自慢げにログに記載されていた。

 

次。

 

とりあえず、もう超ド級は新たに生まれない。

 

この技術も漏出させない。

 

人間は過ちから学べるというのは、誰が口にした寝言であったのだろう。過ちから学べなどしない。

 

世界を焼き滅ぼし、「冬」を到来させてなお。まだ過ちを繰り返すのだから。

 

幾つかの展示を確認していくが、パティが斬ったり、レントが斬ったり。それぞれ処分もしてしまう。

 

此処には世界を救うための実用的な技術の研究所があって、旅の人はそれを精力的に進めていたのに。

 

その全てが、エゴの怪物達の砂場にされて。

 

挙げ句フィルフサが作られて、オーリムにまき散らされたなんて。

 

旅の人は、これははっきり言って化けて出て良い。

 

あたしだったら、末代まで呪っていると思う。

 

旅の人がどうやって死んだのか、どうして命を絶ったのかの直接経緯はまだわからない。神代の連中に体を開くように要求されて耐えきれなくなったのか、それとももっと卑劣な事をされそうになったのか。

 

いずれにしても、恨んで良いと思う。

 

助けを求めていい。

 

それをしていないなら、あたしが救うしか無い。

 

此処にある旅の人の研究は、どれも立派だ。どれも世界のためを考えて作られたものばかりだ。

 

だからその大半は、悪いけれど今の人類に開示できない。

 

それもまた、事実だった。

 

 

 

研究棟を順番に周り、その中の「成果」の大半を処分しなければならなかった。

 

研究棟を出て、フェデリーカが耐えきれなくなって、ついに失神した。パティが即座に受け止めると、背負って戻る。誰もそれを止めなかった。

 

よく頑張った方だと思う。

 

カラさんが、今までになく、怒りの籠もった口調で言う。

 

「ライザよ。 頼むからこれらの尊い技術を、二度と悪用させてくれるなよ」

 

「分かっています。 何が現れようと、絶対にさせません」

 

「一つ懸念がある」

 

ボオスが挙手。

 

あたしも頷く。

 

ボオスは咳払いすると、パティとフェデリーカが行った方を見やりながら言う。

 

「錬金術は才能の学問なんだよな。 ライザ以上の才能の錬金術師が、世界の復興をライザがやっている最中に現れて。 それで神代と似たような事を始めたらどうするつもりだ」

 

「成長する前に斬る」

 

あたしは即答する。

 

今まで、錬金術に触れてきて分かった事がある。

 

錬金術の最大の問題点は、才能だけが大事と言う事だ。全てが才能に依存する。それが問題なのだ。

 

やり方を教えれば、才能さえあれば際限なく成長が始まる。あたしがそうだし、アンペルさんだってそうだ。

 

あたし以上の才能の持ち主は、今までの歴史上でもいた可能性が高い。それはたまたま錬金術に触れずに命を落としたり、無縁な人生を送ったり。或いは神代の連中に消されたのかも知れない。

 

今後だって生まれる可能性が高い。

 

ただあたしのデータから子供を作っても、錬金術の才能が引き継がれる可能性は低いだろうなとあたしは見ている。

 

これに関しては、アンペルさんにしてもあたしにしても、錬金術師の親がいたわけでもないのに才能がある事。

 

親どころか先祖まで辿っても恐らくそれは同じであろう事。

 

それが根拠としてある。

 

旅の人に至っては人造人間だったようだし。混沌の時代が作りあげた一種のホムンクルスだったのだろう。

 

そう考えると、この才能は遺伝なんかしないのだ。

 

「錬金術師に関しては、相手を見極めて教えるつもり。 安易に力をひけらかす者、欲が優先する者、悪用を考える者、これらには絶対に教えない。 これは錬金術の問題ではなく、世界のため。 もしも自力で錬金術を発見するような規格外の人間が出る場合は、それは困る。 だから、監視網を敷く」

 

「監視網か。 当てはあるのか」

 

「ある」

 

此処にあるテクノロジー。今までの神代の遺跡で見つけたテクノロジー。それらを見て、あたしは学習した。

 

漠然とテクノロジーを見て来た訳ではない。

 

しかも、此処で更にその原理も具体的に理解した。

 

今では、此処のテクノロジーは、手が届く範囲にあるのだ。

 

錬金術を使用している人間を即座に割り出す、世界レベルの監視システム。それくらい、今なら余裕。

 

そしてどんな天才だろうが、育つ前だったら絶対に殺せる。

 

人間なんか、どんだけ強かろうが頭を砕けば死ぬのだ。

 

あたしの答えを聞いて、ボオスはそうか、とだけ答えた。もう止める意味もない。それを理解したらしかった。

 

タオが戻ってくる。

 

途中で気になる場所があると行って、離れていたのだ。

 

「ライザ、こっちに来て欲しい」

 

「何かみつけた?」

 

「うん。 非常に大事な事が分かったのと……僕やクリフォードさんだけでは開けられそうになくてね」

 

「封じられてるのか」

 

タオは頷く。

 

つれて行かれたのは、研究棟の一つだが。完全にがらんどうである。内部はロボットが綺麗にしているが、それだけ。

 

何も触られた気配がない。あまりに空っぽなので、あたしはえっと声を上げていた。

 

「これ、大事なもの?」

 

「見て、書棚とか。 歯っ欠けになってる。 資料を此処から持ちだしたんだ。 デスクなんかが幾つかあるけれど、使われた形跡も無い。 これ自体が、此処で何が起きていたかの証明だよ」

 

「……まさか、此処が旅の人の研究所?」

 

「そうだと思う。 旅の人が研究するために、此処を使っていた。 神代の錬金術師は、その研究物だけを搾取した。 少なくとも、今まで出て来た情報を総合すると、多くの人を人質にしてからはそうだよ。 此処は、その証拠そのものだ。 旅の人は熱心に研究を続けていたけれど、神代の錬金術師は何もしなかった。 基礎研究を一切しない……歪んだあり方が、此処なんだ」

 

気付いて、その空虚さにぞっとする。

 

確かにそういう話だったが、研究施設が一切使われず、成果物にしても既存の研究結果の組み合わせだけ。

 

さっきまで見て来たものは、旅の人が作りあげたもの以外は、いずれもが芸術を気取るだけのゴミだったり。或いは悪用されたテクノロジーの具現化だった。つまり、自分達で何か産み出そうとしなかった証拠が、この空虚な研究所なのだ。

 

流石に無言になる。

 

千年以上にわたる搾取の記録が、この虚無か。

 

更にだ。

 

ゴミ捨て場と思われていた場所に、タオが案内してくれる。何だかうずたかく色々物資が積み上げられている。

 

なんだこれは。

 

そう思ったが、すぐに考えを改めた。これ、空間魔術が使われている。封じ込められている。

 

爆弾で吹っ飛ばしても良いが、母に確認する。

 

確かにこの地点で、現在研究区が消耗している力の大半が使用されているらしい。ただ、管理区の権限だったので分からなかったとか。

 

「こじ開けてもかまわないですか?」

 

「……その前に、研究区、居住区、生産区のネットワークを物理的に管理区から外したく思います」

 

「どういうこと?」

 

「管理区の最高権限で此処が封じられています。 そうなると、此処を何らかの形でこじ開ければ、大典が目覚めます。 大典は最高権限を全域にわたって有していて、今までは此方の行動に興味を示していなかったから黙っていたに過ぎません。 もしも此方を敵と判断した場合、制圧した地域を一瞬で奪回される可能性があります」

 

そうなると、想像できない形で攻撃をしてくる可能性があるという。

 

だが、此処は明らかにおかしい。見過ごすことはできないだろう。

 

「管理区からエネルギーの供給はされているんじゃないんですか? それが遮断されて大丈夫でしょうか」

 

「はい。 しかし蓄積がありますので、10年程度はそれでどうにかできます」

 

「……分かりました。 具体的にどうすればいいか教えてください」

 

「同時にネットワークを物理的に外す必要があります。 また、これをやると、以降管理区でナビゲーションができなくなるでしょう」

 

上等である。

 

元々こんなに強力な内通者がいるだけでツキがありすぎなのだ。それが今更マイナスに触れても、問題など無い。

 

即座にデータセンターに移動。

 

指定されたケーブルを、物理的に外す。三区画で同時にやらなければならないので、母にタイミングをしていしてもらった。

 

ネットワークというのがケーブル一本で外れる事は、既に分かっている。ただ今回は、何カ所かを順番に外さなければならない。事前に外すケーブルを指定され。そして、息を合わせてそれぞれ残像を作る勢いでケーブルを外した。

 

瞬きの間にケーブルを排除し、これでどうか。

 

しばしして、いきなりバツンと音がして、データセンタが暗くなる。それもすぐに明るくなったが。

 

「成功です。 電源を切り替えました。 管理区からの干渉を物理的に遮断する事に成功。 空間魔術の制御喪失を確認。 いつでも開ける事が可能です。 ただし……管理区では最大警戒状態に移行したと判断してください。 今までとは比にならない抵抗が予想されます」

 

「問題ないですよ。 いずれにしても、全部ぶっ潰すつもりで来ましたから」

 

「……頼りになりますね」

 

此方こそ、である。

 

すぐに研究区に戻る。母の方も、完全に三区画を掌握した事もあり、色々な情報などを整理しているようだ。

 

同時に管理区からの今まで引き上げたデータの分析もしているらしい。管理区内に確保していた情報は、以降は使えないそうだが。

 

研究区に戻ると、空間の歪みが消えている。

 

レントが瓦礫をどかす。ディアンもそれを手伝う。皆で、瓦礫をどかす。

 

フェデリーカを寝かせてきたパティが戻って来て、そしてあたし達を手伝いに懸かった。

 

一度なんだかバツンってなりましたけれどと聞かれたので、苦笑い。

 

まあ動力は10年はもつらしいので、気にしなくていい。

 

その間にこの先を落とせなければ、いずれにしてもこの世界にガンが残る。そうなれば、この先が厳しいのに代わりは無い。

 

瓦礫をどけると、其処は他と大差ない研究棟だった。

 

これは瓦礫をガーディアンなどを使って運ばせて、しかも空間魔術で隔離したとみて良いだろう。

 

何が此処には眠っている。

 

だけれども、その疑問は即座に氷解する。表札が存在していたからだ。タオが読むと、其処にはホムンクルス研究棟と記載されていた。

 

「……タームラさんの裏切りが、余程腹に据えかねたんだろうね。 こんな事までして、封じ込めたんだ」

 

「まるで子供の癇癪だな」

 

リラさんが呆れる。

 

だが、癇癪を起こす大人なんて幾らでもいる。子供のまま心が成長しない人間なんて珍しくもない。

 

ましてや特権意識を拗らせ散らかした連中だ。

 

だからあたしは、どうとも思わない。

 

というか、これ以上神代の錬金術師に対する評価なんか、下がりようがない。

 

扉を開けて、中に入ってみる。

 

からの培養槽だ。

 

一緒に中に入ったガイアさんがぼやく。

 

「てっきり我等の先祖が入っているかと思ったのだが」

 

「……資料も厳重に封印されていますね」

 

「私が開けます」

 

資料庫にがんじがらめに掛けられている鎖を、パティが一刀両断、バラバラに切り裂く。この鎖だってグランツオルゲンだろうが、まあ使い手も武器の質も違う。切り裂くくらいは難しく無い。

 

タオとアンペルさんクリフォードさんが資料を持ちだし調べ始める。

 

あたしは培養槽を調べて、そしてコンソールを操作。

 

自分でも作れるくらいだ。

 

もうタオに頼る事もない……と言いたいが。神代の言葉はまだまだ理解出来ないので、それは母に支援して貰いながら作業をする。

 

ログを抽出。

 

それを元に培養槽に触れてみて、ああそうだったのかと概ね理解していた。

 

タオの方も、マニュアルを見て、それでため息をついていた。

 

「だいたい分かったよライザ。 細かい部分については調査がまだいると思うけれど」

 

「こっちもだいたい理解出来たかな。 これでホムンクルスに掛けられた「多様性がない」って軛、外せると思う」

 

「なっ! 本当か!」

 

「本当です。 まず戻って、皆で腰を据えて話しましょう」

 

流石に研究棟だ。

 

如何に神代の錬金術師が封じていても、資料を焼き捨てることはできなかったのだろう。システムが許さなかったというべきなのか。だからああやって、ヤケクソみたいに閉じ込めることしかできなかったのだ。

 

旅の人も悪意を知らない訳ではなかったのかも知れない。

 

ただそれ以上に、人間を信じていて、それが仇になったのだとすれば。報われない話である。

 

居住区に戻る。

 

ロボットの動きが、今までより更に効率的になっている。

 

運ばれて来ている亡骸を整理して、それを同胞の手が開いている戦士が運び出してくれている。

 

効率化された様子を一瞥だけして、拠点に。

 

同胞の主な戦士と、目を覚ましたばかりのフェデリーカと、みんなと一緒に卓を囲む。

 

まず説明をタオにしてもらう。

 

「やはりホムンクルスの技術は、旅の人が作りあげたものだったんだ。 正確には違うものだったらしい 本来はデザイナーズチルドレンプロジェクトというものだったそうなのだけれども、それを旅の人が世界に噴出したエーテルを利用して、つまり錬金術で改変した。 それがホムンクルスなのだそうだよ」

 

「旅の人に作られたとすると、やはりホムンクルスも神代の錬金術師に改悪を?」

 

そう聞いてきたのはガイアさんだが。

 

タオは違うみたいだと答える。

 

ホムンクルスは元々、人間とは違う方向から、世界に奉仕する高潔な存在を求めた旅の人が、倫理観と相談しながら作っていった存在であるらしい。

 

元になったのは旅の人そのもの。

 

つまりホムンクルス達は、旅の人と容姿が似ているし、生物的には血がつながっているのだとも言える。

 

そうなのかと、ガイアさんが声を上げていた。

 

他の同胞も、驚いたようである。

 

「問題は此処からだよ。 旅の人について、作られた存在だって事しか知らなかったよね僕達。 実は旅の人についても分かった。 旅の人は容姿は女性的だったけれど、実は女性どころか性別もなかったようなんだ」

 

「えっ……」

 

「冬が到来する混沌の時代の終わりに、世界を再生させるための希望として。 人工的な神として作りあげられたのが旅の人だったのさ」

 

クリフォードさんが、皮肉な話だとぼやいた。

 

つまりだ。

 

人が最後の良心をかき集めて作りあげた、人の手による神が旅の人であった。

 

そして旅の人は愚直に良心に従って、人を信じて世界を再生させようとしたというわけだ。

 

無償の愛で。

 

それはきっと、混沌の時代では鼻で笑われる程度の思想だったのだろう。

 

だけれども、鼻で笑っていた連中が文字通り世界を冬に閉ざして滅ぼしてしまった時に。誰かが気付いたのかも知れない。

 

自分達の価値観では、また滅びを招くだけだと。

 

だからきれい事の権化が作り出されたのだ。

 

問題は人間がわずかとはいえ生き残ったと言う事で。それがきれい事の権化とは決定的に相容れなかったと言うだけである。

 

「悲しい話だ」

 

アンペルさんが言うと、誰もが黙る。

 

それもそうだろう。

 

優しい人は、それだけで舐められる要因になるのが人間社会だ。旅の人は、用済みになったらどの道殺されたのかも知れない。

 

「ええと、此処からはあたしが説明するかな。 それで旅の人は、自分の手足となって世界を復興する中核として、分身を作るつもりだった。 それがホムンクルス。 でも、旅の人はきっとこんな世界でも助け合わない人々を見て、自分が特別ではないと思っていたんだろうね。 ホムンクルスについて、機能を調整出来るように設定したんだ」

 

「機能を調整って、どういう事ですか」

 

「作る際に、幾つかの設定をできるように柔軟性を持たせたんだよ。 寿命、身体能力、その他色々。 その設定変更機能を、神代の錬金術師は弄ったんだ」

 

フェデリーカの問い。答えがそれだ。

 

結局旅の人がホムンクルスを作ろうとする前に、プロジェクトどころではなくなってしまった。

 

神代の錬金術師による専横が酷くなり、まともに動けなくなったのだろう。

 

下手に動けば、各地の街を焼き払う。

 

そんな風に脅したのであれば、旅の人は動けなかったと思う。そういう存在だったのだ。

 

ホムンクルスは色々と試験的に神代の錬金術師が設定した。

 

寿命は最低限。

 

生殖は女性型のみ可能。

 

女性型は女性型しか産まない。

 

生まれてくるのは、全て同じホムンクルスになる。

 

そういう設定が行われた。

 

フェデリーカがまた吐きそうな顔をしている。

 

今までの情報が、全部線と線でつながっていく。つまり、世界を救うための助けとなるホムンクルスも、神代の錬金術師は人型の愛玩生物兼性欲発散用の道具兼、使い捨ての戦闘用の兵士として改悪したのだ。

 

このデータが後に母の手に渡って。

 

それをどうにかしようとして幾つかの設定を強引に弄った結果。男性型もたまに生まれるようになり。寿命についてはメンテをすれば半永久的な状態になった。

 

「待て。 聞かせてほしい」

 

「カーティアさん」

 

「我々は、軛から外れる事ができるのか!?」

 

「落ち着いて。 順番に話します」

 

それはホムンクルス達にとって、誕生以来の悲願なのだ。

 

それについては、がっつきたくなる気持ちだって良く分かる。

 

あたしは、丁寧に説明をする。

 

今後、ホムンクルスの生産設備に手を入れる。設定の変更方法は分かった。設定を変更することで、ホムンクルスに手を入れる事が可能だ。

 

拡張性と言う形で、病気環境などに対する免疫を新たに獲得できるように設定を変更する。

 

更にその獲得した免疫などを横に共有できるようにもする。

 

男性型の生殖能力獲得。

 

性格などにも変化が生じるようにも設定ができる。

 

それを聞いて、カーティアさんが、両手で顔を覆った。他のホムンクルス達も、涙を拭っている。

 

「世界のために動く基本的な性格。 それとエゴに関する希薄さ。 不正を絶対にしない。 これらは取り除かない方が良いでしょう。 しかし、以降ホムンクルスは、一つの何かしらの要因で全滅する恐怖から逃れられますし、多様性だって獲得できます」

 

「ああ! それだけでどれだけの幸せか!」

 

「いま生きている我々はいい! 後続の者達には、是非その設定を頼む!」

 

頷く。

 

そして、アインについてもこれで完璧にどうにかできる。

 

実はアインもホムンクルスの技術を利用して体を再構築した経緯がある。それで分かったのだが。

 

今のアインは、子供は作れるが、子供は恐らく確定で死産する。これは単に、そういう体の仕組みなのだ。

 

ホムンクルスの要素が半端に混じっていて、強引にそれを融合させた結果だ。

 

だからアインの体を、その点でも弄らなければならない。

 

まあアインが普通に結婚して、それで子供が作りたいというのであれば必要な要素であるが。

 

あの子はどちらかというと、ごく普通の子供だ。

 

此処に拉致され連れてこられた不幸な女性の子供。

 

だから、普通に生きたいなら、そうすればいい。その結果、誰か好きな人ができて、子供を産みたくなるのであれば。そうすればいいのだ。あたしは事前に、それができるようにしておくだけ。

 

「ええと。 順番は逆になったけれど……アインは大事にしてくれるんですか?」

 

「もちろんだ。 我等の希望であることに代わりは無い。 それに我等は奴らと同じにならないためにも、アイン様の生が終わるまでを見届けるつもりだ。 その子孫までは特別視するつもりはないがな」

 

ガイアさんが、涙を拭いながらそう言う。

 

頷く。やっぱりこの人達は、本人に自覚は無いだろうが。旅の人の高潔さを受け継いだ存在だったのだ。

 

あたしもだからこそ、背中を預ける事ができる。

 

データは母に教えておく。

 

これでもしも、あたしが敗れた場合でも。ホムンクルスを以降は調整した状態で作り出す事ができるはずだ。

 

それで事態を打開できるとは思わないが。それでもホムンクルスの悲願はかなう。

 

なんなら今のあたしなら、今生きているホムンクルスを再調整もできるのだが。彼女らは、この世界を守って生きていた自負がある。その人生までは否定したくなかった。だから後にそれは説明して、希望者にだけ措置する。

 

身近な問題は、これで全て解決したと思う。

 

後は、諸悪の根元を、焼き滅ぼすだけだ。

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