暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
神代の根拠地、万象の大典最深部への突入開始。
最後の戦いが始まります。
序、魔界最深部
先に打ち合わせを済ませた。
相手はもう警戒態勢。足を踏み入れればどう迎撃してくるか分からない。
混沌の時代の兵器やらで応戦してくるかも知れないし。空間魔術や時間魔術で殺しに来るかも知れない。
門を開けた瞬間、逆になだれ込んでくる可能性もある。
だから、入念に打ち合わせをした。
まず入口付近の安全を確保する。
これが絶対だ。
タオが地図を起こしている。これについては、母の情報と、以前アインが杖を入手するために侵入したときの視覚情報を参考にする。
それによると、酷い瓦礫だらけの状態は、入口付近で既にそうなっているという。
また、管理区はそもそもとしてセキュリティが堅いのもあるのだが、構造体がどこにどうなっているかも分からないと言う事で。
文字通り手探りになるし、奇襲だってどう対処するか、それぞれに任される事になる。
ともあれ入口だ。
ガイアさんが、最初に行くと言う。
それで即座に戻れるようなら、何かしらの危険はない。
ガイアさんは言う。
「我等同胞の希望もアイン様の希望も見えた今、少なくとも最も危険な任務は私が買って出る。 レントどのの力を疑うわけではないが、最前衛は任せて貰いたい。 如何なる卑劣な罠があるか分からない状態だ。 誰かが捨て石にならないとまずい。 それは貴殿等の誰であってもならないのだ」
「ガイアさん、本当に良いんですね」
「ああ。 むしろすがすがしい気分だ。 同胞には新しい世界と、多様性においても未来が開けている。 そのための道を更に開くためだ。 最後の世界の癌を討ち取るためなら、私が盾になる」
そうか。
では、頼むしかない。
レントはいいのかと視線を送ってくるが、実際問題時間魔術や空間魔術で着地狩りをされたら対処のしようが無いのである。
頭を下げて、あたしからも頼む。
他にも数名の同胞の戦士が決死隊を買って出てくれた。皆、ベテランもベテランの戦士ばかり。
一人が言う。
「私はロテスヴァッサで散々人を斬った。 腐敗貴族の中で度を超した行動をしている者、錬金術を不用意に蘇らせて蓄財をしようとしていた者、他にも愚かしい行動に手を染めていたものを。 ダーティーワークが私の人生だった。 だが、今回は違う。 光のために戦える」
「先鋒は任せられよ。 空間魔術も時間魔術も連発は不可能だ。 最悪の場合にも、貴殿等が倒れる事はない」
頷く。
あたしは、鍵を門に刺す。
そして、門を開いていた。
即座にガイアさん達数名が飛び込む。
固唾を飲む一瞬。
しばしして。
呆然とした様子で、ガイアさん達が戻って来た。
完全に肩すかしを食らった顔だった。
「安全……だったんですか?」
「ああ。 入ってくれれば分かる」
「分かりました。 レント、パティ。行くよ。 他の皆も順次続いて」
「おう」
レントが最前衛で、門に飛び込む。続けてあたしとパティ。更に続いて、皆が。
そして、其処で見たのは。
もはや研究区の惨状よりも凄まじい。
アインの視覚情報の時よりも、更に荒れ果てた、管理区の姿だった。
見回すが、殺気も何も無い。機械類も動いていない。形のある建造物は一つも残っていないのではないだろうか。
クラウディアが音魔術を展開。
そして、断言していた。
「私達以外に心音はなし。 機械の駆動音も極めて少ないみたい」
「つまり生きている錬金術師はいないということだね」
「どれ、わしも調べる。 周りを固めてくれ」
カラさんも探知魔術を展開。
また。固まっているところを狙われるとまずい。即座に散開して、周囲を調べる。
「スタンドアロンの端末」に「最低限の情報」だけを入れて、母もきている。タブレットというらしい端末は、ちかちか光って情報を収集していたが。
やがて、結論を出していた。
「迎撃戦力、存在しません。 これは、以前よりも更に荒れ果てています」
「わしの探知魔術にも何も引っ掛からぬ」
「とりあえず、何が此処で起きているか、調べないといけないね」
散開して調査するのは悪手だ。勿論一発で全滅するような事態は避けなければならないから、ある程度は散開するが。
此処は敵地で、何があるか分からない。
分散して探索して、各個撃破される愚だけはおかしてはならない。
周囲を見回すが、この瓦礫は何だ。派手に崩されているというか、まるで規則性が見えないというか。
「ライザ!」
アンペルさんが手を振って来る。
すぐに皆が集まる中、アンペルさんがアレをと指さした先には。
テントらしきものがあった。
テントと言っても崩れ果てた瓦礫の中で、それだけが異質と言うだけ。他にも何もかもが崩れ果てている場所だ。
家もなければ、施設もない。
そんな中で、襤褸切れだけ組み合わせて、作られた掘っ立て小屋。
近付いて見ると、其処には。
死蝋化した死体が幾つか。
腐る事さえなかったのだ。
此処には、腐る要因となるような細かい生物も存在しなかったのだろう。
散らばっているのは書物か。
どれも錬金術の書物とみて良い。だが、極めて乱暴に扱われていて。それどころか、暖を取るのに火にくべていた様子さえあった。
なんだこれは。
「おい、アンペルさん。 これは一体何だ。 神代の錬金術師共は、どうしてこんなことを……」
「手記を見つけた」
クリフォードさんが、散らばっている本の中から手記を見つけ出す。
ガイアさんが、周囲の警戒をしてくれる中。
あたしも、積まれている本を見た。
どれも暗号化されていて、全く読めた内容ではない。恐らく暗号の解読も含めて、子孫に要求していたのか。
いや、こっちの本は普通に神代の言葉で書かれているが。
この書き殴られ方はどうだ。
タオが内容を見て、それで呻く。
「これ、ライザがやってる錬金術とは比べものにならない、アトリエで何度も聞かされた初級も初級の内容ばかりだよ。 書き殴られているのは怒りの言葉だね。 どれも実現できない。 本当はこんなの嘘っぱちじゃないのか、ってね」
「錬金術は才能の学問だからね。 出来ない人は何をやっても無駄なんだよ。 どうやらアインを惨殺した奴だけじゃなかったみたいだね。 基礎的な錬金術もできなかった人間は」
「……皆、一度此処を離れよう。 色々と……ロマンとは真逆なことが分かった。 その上で、多分目的もできたと思うぜ」
クリフォードさんが。ほろ苦い口調で言った。
あたしは、死蝋を一瞥すると。
皆を促して、一度門から、生産区に戻るのだった。
念の為に門は閉じておく。
理由としては、母の発言によると、それだけ管理区の支配をしている「大典」が非常に強いという事。
それによって、制圧地域の方に小火が起きると面倒だからだ。
とりあえず戻る。
幾らかの本は回収してきたが、本当に暖を取るためだけに扱われていたようだ。それもこれは、どれも神代の錬金術師達が自分で書いた本。
旅の人が書いた本ではないとみて良いだろう。
連中にとっては神格化した自分を示すような代物だった筈。
それが火にくべられていたのはどういうことなのか。
生産区から居住区に戻り、クリフォードさんが話す。
あたしのも含めて、皆の視線が集まる中。クリフォードさんは。淡々と結論から言った。
「結論としてだが。 オーレン族への侵攻をしかけて反撃を受けてから、100年ももたなかったみたいだな、神代の錬金術師どもは」
「続けてくれ」
「神代の錬金術師共は、壊滅的なダメージを受けた。 其処から立ち直れなかったんだ」
クリフォードさんが、淡々と破滅の詳細を話してくれる。
そもそもあの管理区は、「錬金術士では無いと使えない」施設ばかりだった。それが仇になったのだ。
居住区は危険もあって足を踏み入れられない。
管理区で生活しようとしていた錬金術師達は、システムに拒まれたのである。
錬金術士で無い方にお出しできるサービスはございません。
そう言われ。食事も水も、誰も供給されなくなった。
「機械にさえ、錬金術が使えない事を見透かされたのか」
「ああ。 それでもまだ初歩的な錬金術を使える者がいる間は生活が出来ていたようだがな。 それもすぐにいなくなった。 まあ近親交配で血が濃くなればそうなるよな。 予想通り、親子兄妹で当たり前のように子供を作った結果、まともな子供なんか生まれなくなった。 あそこにいたのは、最後の一家だったようだ」
他の奴はみんないなくなった。
恨み節とともにそれが記載されていた。
息子は随分前から動かなくなっている。多分病気だが、どうにもできない。勿論もう死んでいる。そんな事は分かっているが、現実を見たくない。
錬金術師以外は全部猿だ。権利などある訳がない。
そう先祖は決めて、機械にもそう設定した。機械はそれを忠実に守った。だから水も食糧も、治療もしてくれなかった。錬金術ができれば、機械は言う事を全て聞いてくれる。なんでもしてくれる。その逆だ。錬金術なんかできない人間だけになったら、機械は俺たちをただの猿としか見なくなった。全部身から出た錆だ。俺たちはバカな先祖の尻ぬぐいを、生まれた時から障害だらけの身で受けなければならなかった。
今日も先祖が残した偉大なレシピを燃やして、残っている食糧を細々と囓る。それもなくなったから、先祖の死体を囓る。それで腹を下して、妻が死んだ。妻は妹だった。息子は死蝋になっている。俺もその内死ぬだろう。
この世界を出たい。
そう息子は言っていた。
だけれども、機械共はそれすら許さなかった。
その機械共も、どんどん壊れてる。奉仕する相手がいないだとかで、大典とか言う狂ったシステムが誤作動を起こしまくってるんだ。
多分明日は迎えられないだろう。俺は元々足が殆ど動かなかった。食糧だって取りに行けない。
妻と息子の死体を食うのだけは嫌だ。
先祖は大典とともにあるとか言う話だったが、そいつらのせいだ。
旅の人って世界を救った存在をずっとバカにし続けていたらしい先祖だが。その報いが全部俺たちに来たんだ。
眠くなってきた。
悪夢がこれで終わるのだ。
良かった。
俺もそっちに行く。
それで、手記は終わっていた。
クリフォードさんが、顔を上げる。あたしは、言葉が出なかった。
「灰燼に帰しに来てみれば、全部死んでたし、機械も狂って暴れていると。 ライザ、どうするよ」
「……そうなるとあたしを呼びつけたのは大典なのかな。 どっちにしても迷惑極まりないシステムだし、破壊しないと」
「俺は其処まで即座には切り替えられん。 此処には邪悪の権化が今でも高笑いしながら居座っていると思っていた。 だから、戦いのモチベーションがあった。 だがな、此処にいたのは悲惨な運命を辿った子と、それで自我を得た機械。 世界を守ってきたホムンクルス達。 それと狂った機械が残っていたか。 でも、気持ちを整理できん。 此処にはロマンがない。 微塵もだ」
「そうだな……俺も正直、何から守り、何を斬れば良いのか気持ちの整理がつかない」
クリフォードさんが、がっくり肩を落としていた。
レントもである。
神代の悪行は、此処までで散々見せつけられてきた。
だが、その末路は。
自業自得にも程がありすぎる、哀れすぎるものだった。
「ライザ、大事な事がある」
「アンペルさん」
「管理区の動力炉はまだ稼働している。 止めるにしてもなんにしても、確認が必要だ。 今この手記を見たが、まずい事が書かれている」
恐らくアンペルさんは、既に神代のカス共が全滅していることを悟っていたからだろうか。冷静だった。
そして、恐ろしい事が告げられる。
「動力炉の詳細がわかった。 此処の動力炉は、元は世界に生じている余剰の力を僅かずつ集めて、それで稼働していたんだ。 だが、旅の人を幽閉した神代の錬金術師どもが設定を弄った。 今では各地の竜脈と直接つながっていて、その気になれば世界を数日で枯らすこともできる程に吸い上げができる」
「!」
「なんじゃとっ!」
「すぐに設定を変えましょう。 後は位置ですが」
入口付近で迎撃はなかった。
だが、流石にその動力がどうなっているかは分からない。
皆を叱咤する。
すぐに、また戻ると。
あの哀れすぎる末路について考えるのは後だ。今はとにかく、世界を破綻させかねないものを、一つずつ処理しなければならない。
へこたれている皆は多い。
同胞の戦士達ですら、唖然としていた。
だが、世界が終わりかねない危険極まりない代物がまだ生きているのだ。それをどうにかしなければならない。
最悪の場合は破壊するか。
いや、待て。
竜脈と直接接続しているのなら、或いは。
「とにかく設定を確認しましょう。 竜脈と接続しているのなら、ひょっとすると……」
「ひょっとすると、なんだライザ」
「オーリムのフィルフサを、此処から全滅させられるかも」
「!」
ボオスが顔を上げる。
あたしも今更隠しても仕方がない。説明をする。
フィルフサは竜脈経由で狂気の源泉の動力を得ている。恐らく神代の錬金術師は、高みの見物をしながら、片手間に世界を滅ぼさせるつもりだったのだ。
ただ、それすらもできない状態になった。理由はわからないが。さっきの手記にあった破滅が、想像以上の速度で進んで、操作できる者がいなくなった可能性もある。
東の地でも神代の錬金術師はオーリムと並行で行動していたようだし。操作できる人間を、タームラさんがその時斬ったのかもしれない。
或いは此処に乱入したカラさん達オーレン族が、知らない間に殺していたのかも知れない。
いずれにしても、狂気の源泉のシステムを把握した今のあたしなら。オーリムの竜脈とも接続している動力源をいじれるなら、こっから全部自爆させることが多分可能だ。王種がそれで全滅する。
王種が全滅すれば、フィルフサはそれでおしまいだ。
正確には狂った生物兵器としてのフィルフサがおしまい。全て地に帰る。ただの寄生生物に戻り、無害な存在へと戻る事ができるのだ。
「魅力的な提案ですが、動力源を今触るのは危険だと思われます」
「詳しくお願い出来ますか」
「管理システム大典は、まだ稼働しています。 それは確認済みです。 動力を弄られるとなれば、恐らくは全力で抵抗してくるでしょう。 まずは大典を破壊しないと、危険すぎて動力の設定変更は推奨できません。 一体どんな抵抗をしてくるか、想像もできないのです」
母はそう淡々と言う。
だが、あたしはむしろそれを聞いて、にっと笑っていた。
みんな心が折れかけている。
それは敵が強大だったからじゃない。
あまりにも惨めで哀れすぎて、存在しなかったからだ。
「敵性勢力は感じ取れなかったわ。 生物兵器ではないのかな」
「大典の詳細はデータが残されていなかったのでわかりません。 もしも防衛機能がついているとしたら……それは恐らく、旅の人が危急時に設定したものでしょう」
「そうすると、神代鎧とは次元違いの相手になるかも知れない?」
「何とも言えませんが、あれらより弱いとは考えにくいでしょうね」
これでいい。
クラウディアも、今の話を聞いて、ぐっと顔を上げていた。
クリフォードさんも。
レントも。
心が折れかけていた皆が、頷いている。
此処での事は、それを片付けたあと、ゆっくり考えれば良い。
勝って笑って、それで。
それぞれの未来に進めば良いのだ。
冒険を終わらせよう。
其奴を倒せば、後は事後処理になる。それは時間を掛けてやっていけばいい。
最悪でも、此処を脱出する時間は余裕を持って取る事ができる。
ただ、確率が百分の一であっても。これ以上の狼藉が起きるのは許されない。
神代の錬金術師の馬鹿騒ぎに、これ以上世界をつきあわせるわけには行かないのだ。
「逆に考えよう。 多分その竜脈動力源に近付けば、大典とやらは動く。 そこで決戦を挑める。 ……何処を攻撃したらまずいか、その「スタンドアロン」の体で指示をお願いします」
「分かりました。 錬金術師ライザ、貴方に私の、アインの、同胞達の未来を預けます。 お願いいたします」
皆も頷く。
戦いが始まる。
このチームでの、最後の戦いが。
それは、フィルフサとの、いつ終わるかも分からない絶望的な代物とは違う。
今後の展望が見えている、明るい。
希望に向かう戦いだった。