暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ついに滅び去った万象の大典の管理システム。

そして、冒険の締めくくりとなる、最後の処理を行う事になります。


3、冒険の終わり

朝、軽く体を動かしていると、リラさんがアトリエに戻って来た。

 

ライザ、と声を掛けて来る。

 

こんなに嬉しそうなリラさんは初めて見た。

 

「グリムドル近辺を確認したが、フィルフサは綺麗さっぱり消えていなくなっている! グリムドルのオーレン族達も、フィルフサがいきなり崩れ滅びていくのを確認したそうだ!」

 

「良かった。 ただ、フィルフサがいなくなるだけで、土地の汚染がなくなったわけではありません。 セリさんと今後は連携していくことになるでしょうね」

 

「ああ、分かっている。 ただ、言わせてくれ。 ありがとう。 これでオーリムは救われた」

 

良かった。確認できたのなら、もう言う事は無い。

 

ただ、まだリラさんとは話していないのだが。

 

今後もしオーリムに問題が起きるとしたら、人間との交流が失敗した場合だろうと思う。

 

実際問題、神代の連中がフィルフサを作ってばらまいたのが、全ての悪縁の元凶だ。いっそ今後は人間とオーレン族とで関わらない手もある。

 

だが、リラさんはアンペルさんと結婚するつもりのようだし。

 

ボオスだってキロさんと結婚するつもりだろう。

 

クリフォードさんとセリさんが上手く行くかは分からないが、いずれにしてもオーリムの未来はまだまだ予断を許さない。

 

これも、同胞と連携しながらだろうな。

 

そうあたしは思いながら、体を動かして。それで、朝食にしていた。

 

ちなみに確認したが、同胞は各地に門を私有しているらしい。これは元々神代の連中が居住区から各地に向かうために使っていたもので、母が時間を掛けて乗っ取ったものなのだそうだ。

 

まあそれを今後も使えば、更に各地に迅速に迎えるだろう。

 

いずれにしても、まだ万象の大典でやることがある。

 

アインを治療するのは、全てが終わってからだ。

 

何人かの同胞にも来て貰って、しばらくは此処で。小妖精の森で一緒に暮らしてもらう事になる。

 

それから様子が良さそうだったら、クーケン島の人間と一緒に過ごして貰う。

 

後は本人の希望次第。

 

人がたくさんいる場所が良いなら王都とかサルドニカとかにつれて行っても良いだろう。

 

ただあたしはアインに怖がられているから、本人の希望は同胞に聞いて貰うかも知れない。

 

まあ、別に良い。

 

あたしも誰にでも好かれるとは思っていない。

 

好かれなかったら、それもまた運命だ。

 

朝食後、軽くミーティングを終える。パティは髪が短くなってしまったが、ちゃんと切りそろえていたので。見苦しくは無い。

 

それに結婚後切るつもりだったらしいので、今更だそうである。

 

そもそもあの長い髪で戦えていたのは、戦士としての高い技量があってのこと。

 

今まで失わなかったのは、ただ運が良かったから。

 

それもあって、パティとしても、全てが終わって髪が短くなったのは、それもまた運命だと思っているらしい。

 

「動力炉は止めましたし、後は……」

 

「一つはまず神代の錬金術師どもを始末する」

 

さらりとあたしは言うけど。

 

フェデリーカは怖れない。

 

というか、フェデリーカはじっと覚悟を決めた目をしている。それはそれで何とも魅力的だ。

 

「多分母がもう見つけていると思う。 意識体だけになっているのかはよく分からないけれど、いずれにしてももう無害だよ。 エーテルの技術で霊体を捕獲することはできるようだから、気にしなくて良い。 依り代は躊躇無く破壊してしまって大丈夫だからね」

 

「どうしようもない連中だ。 さっさと斬ってしまおうぜ」

 

レントがぼやくが、違うな。

 

レントは多分、あたしが凄惨な制裁を加える前に、楽にしてやるつもりなんだろう。

 

あの子孫達の末路を見たら、そう感じてしまうのかも知れない。

 

子孫は子孫だ。

 

あたしは容赦するつもりなんぞ微塵もないが、まあ現地に行って決めればそれでいいだけである。

 

「もう一つは、昨日は言っていなかったけれど、多分旅の人のアトリエを見つけたと思う」

 

「!」

 

「100年くらいは人間として過ごすつもりだけれど、ひょっとしたらそっちに移るかも知れないね。 多分これが鍵になってると思う」

 

旅の人の杖を見せる。

 

感応夢の話もしておく。

 

旅の人は、子を産めと高圧的に要求してくる神代の錬金術師達を見て絶望した。そもそも女性的な見た目と言うだけで性別なんか旅の人には存在しなかったのだが。これは存在として完成体だったからなのだろう。完成体の生物は生殖なんぞ必要としないのである。

 

ともかく、高圧的な神代の錬金術師達を見て、もうどうにもできないと旅の人は悟ったのだろう。

 

そこで彼奴らを皆殺しにしていれば、こんな悲劇は起きなかったのかも知れないが。

 

或いは、人を殺せない機能でも搭載されていたのかも知れない。

 

「人類に対する大恩人で、自分らの先祖も助けて貰っただろうに。 本当にどうしようもねえ……」

 

「もうこれ以上評価が下がりませんね。 人間の最底辺がどういう存在なのか、知ったような気がします」

 

「ふふ、人間の最底辺はもっともっと下だよ」

 

クラウディアがさらりといって。

 

パティがぞっとしたようだった。

 

クラウディアも、あたし同様人間を止めてから、色々と変質している。まあ、あたしと一緒に世界を変える事を選んでくれたのだ。

 

あたしがどうこういうつもりはない。

 

「後は深手を受けていた同胞の戦士達用の治療に必要なものを持ったら、出かけよう」

 

「よし……今日で終わるか?」

 

「終わると思う」

 

「じゃあ、これが正真正銘、最後の冒険だな。 四年前の乾期から、回り道もしたけれど、随分長い楽しい夢だったように思う」

 

レントはそう言う。

 

誰かと結婚する事を決めたり。

 

誰かを好きになったり。

 

もう人間を止めたり。

 

此処にいる皆は、それぞれ新しい生が待っている。

 

それ以上に、ありとあらゆるものの命を玩弄して、全てを好き放題にしていた連中を滅ぼして。

 

世界の未来を造ったと言う事もある。

 

此処にいる全員が報われる権利がある。

 

ただ、腐り果てたときは。

 

あたしが討つ。

 

それは、もうあたしも覚悟を決めていた。

 

手早く準備して、エアドロップに分乗して群島に向かう。

 

群島はどうしようかな。沈めてしまおうかな。それとも。

 

奧の建物だけ隔離して、誰も入れないようにしておこうかな。

 

これから人生でもっとも不愉快な連中と接する事になるのは確定だから、今のうちに楽しい事を考えておく。

 

怒りを爆発させるのは。

 

最後で良いのだから。

 

 

 

居住区で同胞の戦士達と合流。

 

かなり数が減っているが、それは皆やるべき事があるからだ。

 

同胞の数はとても少ない。

 

世界を滅びないように支えてくれていた同胞達だが、その負荷は激甚。此処に数人来てくれているだけでも、よくやってくれているのである。

 

まず、重傷者の手当てから。

 

ガイアさんは両手両足を付け替えだ。ただ、今のあたしの義手義足は、本物とまったく変わらない。

 

手術も簡単にできるし、痛みもどんどん小さくなっている。

 

手当て、終わり。

 

ただ、体力だけはどうにもできない。今日は一日休んで欲しい。培養槽での回復があったとしても。

 

そう告げると、ガイアさんは培養槽の中から、ありがとうと告げてきた。

 

頷く。

 

ロミィさんを含む四人。その中の一人が、母のタブレットを手にして。それから管理区に移動する。

 

管理区全域を覆っていた灼熱は晴れていた。

 

辺りはロボットが行き交っているが、それらは元から此処にいた連中ではないようである。

 

元からいたのは、大典が入り込んでいる可能性があるらしい。

 

全て撤去したそうだ。

 

瓦礫だらけなのは変わらない。所々に死蝋化した死体があったが、それも片付けられていた。

 

「死体の跡が残っているね」

 

「墓もなしか。 世界で自分らが一番偉いと思い込んでいた連中が、子孫ごと滅びた跡地だな……」

 

「ライザ、葬ってあげるの?」

 

「いや、別にしておく。 此処で命を弄ばれた存在にとっては、割り切れないだろうしね」

 

クラウディアに、あたしはそう答えておく。

 

これは死者の気持ちを阿るのではない。

 

そういうけじめの付け方の話だ。

 

まあ、魂が存在しているらしいのは事実だし、地獄もあるのかも知れないが。

 

それについてはあたしはしらない。

 

「それで母。 見つけたんですか?」

 

「ええ。 合計で十二基。 既に大典が破壊された事には、気付けていないようです。 ずっと大典を自分達が操作していて、自分達に適切な優秀な肉体が来ないのは無能な人間しかいないからだと思い込んでいたようですね」

 

「そう」

 

もうこれ以上評価も下がらない。

 

だから、そうとだけしか言わない。

 

クラウディアはもっと下がいると言っていたが、いずれにしても神代の錬金術師に対する評価が上がることはないだろう。

 

案内されたのは、大典と交戦した塔のすぐ近くだ。地下部分に、格納されている空間がある。

 

其処では、硝子のシリンダの中に何かちいさな機械が収められていて。

 

あたしが足を踏み入れると、いきなりぎゃいぎゃい騒ぎ始めていた。

 

「なんだか騒がしいと思ったら、やっと来たか!」

 

「嫌だわ、猿を連れているわ! あのでくの坊は、何をしているの! 全部殺処分するように言っておいたのに! 臭いわ汚いわ!」

 

「それにしても酷いツラだな。 それでもここに来られたと言うことは最低限の錬金術の才能は持っていると言う事だろう。 やっとこれで新しい体が手に入るぞ。 長かったなあ!」

 

「最初は私だと既に決まっている! お前は二番目だ!」

 

勝手な事をほざきまくっているなあ。

 

まあ、いい。

 

殺す。

 

一基が話しかけてくる。

 

「貴様の程度の低い知能でも分かるように教えてやろう。 此処に猿とそれと大差ないお前が来られたのは、我等による試験を突破したからで、別にお前が優れているわけでもなんでもない! お前なんかがその肉体を持っていても何の役にもたたん。 さっさと此方に来い! その体を私に明け渡して、それで……」

 

あたしが、黙れとでも返そうとした瞬間だった。

 

先に動いた者がいる。

 

あたしは驚く。

 

最初に動いたのは、フェデリーカだった。なんのためらいもなく、一基を鉄扇で割り砕いていた。

 

悲鳴が響き渡る。

 

ぎゃあぎゃあ好きかって喚いている、神代の錬金術師の意識ども。それに対して、フェデリーカは涙を振りこぼしながら、鉄扇を振るう。

 

その技量は、ここまで来ているのだ。

 

こんなカス共、破壊するのには秒も懸からない。

 

「貴方たちが! 貴方たちみたいな人が! 貴方たちみたいな人がいるから、オーリムは滅び掛け、旅の人の世界再生は途中で止まり、多くの人達が苦しみ続けたんだ! たとえ貴方たちの同類が幾らでもいるとしても! 絶対に! 絶対に許さない!」

 

最後の一基を粉砕すると、ノイズは消えた。

 

粗く呼吸しているフェデリーカを、パティが後ろから抱き留めた。

 

「フェデリーカ、もう誰も喋っていません」

 

「ライザさんがおかしくなったのだって、この人達の……」

 

「フェデリーカ、良いんだよ。 あーあ、徹底的に苦しめてから抹殺してやろうと準備までしてきたんだけどな。 まあいいや。 此奴らが本格的に苦しむのは「抹殺してから」だし」

 

あたしは既に、母と話して魂の定着についてはテクノロジーを得ている。

 

それが、今蓋を開けた瓶だ。

 

其処に、今此処にいた十二匹の神代の錬金術師の魂と意識を吸収する。この中では、ありとあらゆる苦痛が続き、狂気に逃げる事もできない。

 

更に時間感覚を百万倍まで加速している。つまり事実上永遠に。この中で、地獄の底と同じ苦痛を味わい続ける訳だ。

 

此処にいた連中の声には聞き覚えがある。

 

旅の人に子供を産めとかほざいていた連中の声に混じっていた。

 

いずれにしても、旅の人を自死に追いやった連中の十二人が、こうして意識だけを残していたというわけだ。

 

ただしそれも大典に裏切られていたし。

 

実際にはただ此処で、延々と不毛な喧嘩を続けていただけなのだろうが。

 

本当に愚かであわれな連中だ。

 

実際に神はいるのかも知れない。だが、多分パミラさんみたいな例外を除くと、人間の事に興味なんかないのだろう。

 

でなければ、こんな連中を野放しにしない。

 

旅の人みたいな聖人に一番近い存在を、非業の死に晒させはしないだろう。

 

だったらあたしは。

 

働かない神に代わって。

 

魔王になるだけだ。

 

瓶を懐にしまう。

 

そして、皆を促して、旅の人のアトリエを確認する。中に遺体でも残っていたら、葬らなければならない。

 

ただ、旅の人の性格上。

 

悪用を避けて、遺体も残さなかった可能性が高いが。

 

 

 

離れた所。管理棟の隅に、アトリエがあった。

 

瓦礫だらけの中、全く壊れていない。というか、かなり粗雑に扱われていた筈なのに、傷一つない。

 

カラさんが、警告してくる。

 

「下手に近付くと死ぬぞ」

 

「どうやらそのようですね」

 

空間魔術だ。

 

本来は開かれていただろう此処は、空間魔術で封鎖されている。恐らくは、自分の死体だけでは無い。

 

アトリエにある重要な物資を、あのクズ共に渡さないための措置だったのだろう。

 

あと、奴らに死を確認させないためもあった可能性がある。もう出てこなくなったというだけで、旅の人は相応に神代の錬金術師達に影響を悪い意味で与えられたのだ。

 

今まで旅の人の研究成果をむしり取って高笑いしていた連中だ。

 

しばらくはテクノロジーもあるから、生活にも困らなかったのだろう。

 

だが、それもしばらくは、だ。

 

恐らくオーリムへの侵攻、東の地での失敗がなくても、いずれ神代の錬金術師は破滅していたはずだ。

 

この地にある全ての物的証拠が、その末路がそう遠くは無かった事を示唆している。

 

あたしは、旅の人の杖を向ける。

 

勿論これについては、神代の錬金術師も試したのではないか。それで開かなかったとすると。

 

善人だけ開くという条件なら、あたしはアウトだ。

 

それ以外の理由はなんだったのかはわからない。いずれにしても、旅の人のアトリエを守っていた空間の壁は、音もなく消え去っていた。

 

「……入ろう。 これは、靴を履かない家だね。 みんな、土足で上がるのは控えて!」

 

「旅の人のアトリエか。 少し恐れ多いな」

 

「ロミィさんはこんなところ入って大丈夫なのかな……」

 

「大丈夫ですよ。 敵意の類は感じないですし、皆さんを旅の人が拒む理由が無いです」

 

それだけ言って、ああと悟る。

 

多分だけれども、ホムンクルスを奴隷にするのでは無く、ともに歩むことを選んだから開いてくれたのだ。

 

それくらいの難しい制御は、お手のものだっただろう。

 

内部に入ると、死体は何も無い。手狭なアトリエだ。必要なものしか存在していない。

 

内部にあるコンテナは巨大で、釜も非常に優れたグランツオルゲン合金だ。他にも、埃も被っていない錬金術の道具が並んでいる。

 

これは、とても質実な場所だ。

 

研究は研究区で行い。

 

錬金術は、ここでやっていた。

 

そして恐らく、あれらはここに入れなかったのだろう。

 

見回して、クリフォードさんが呟く。

 

「実直すぎて人間味がないな。 可愛いものの一つも武器の類もねえ」

 

「そうですね。 多分個人の欲が完全に存在しなかったんだと思います。 そもそも作られた存在であったようですし」

 

「……俺には真似できない生き方だ。 今だってロマンを更に求めて行きたいもんな」

 

「人それぞれですよ。 悪党に堕落しなければ、それで良い筈です」

 

書棚。レシピと並んで、幾つかの手記がある。

 

ざっとタオが内容を見る。それは、神代の文字で書かれていて。同時に、更に古い文字の辞書も側にあった。

 

「……4000年前。 目覚めた頃から、旅の人はこまめに手記を書いていたようだ。 目覚めたのは、王都の北にずっと向かった先のようだね。 今はもう、何も残っていない廃墟みたいだけど」

 

「続けて」

 

「うん。 まずは各地の状況を見る。 ええと……独自の単語、恐らく冬を引き起こして、今も世界の各地を廃墟のままにしている兵器がばらまいた毒素だろうね。 それがたくさん大地を海を汚染しているから、それを少しずつ浄化しているってある。 それからは、世界を回り、生き残った生物や人間を集めつつ、生活出来る範囲を拡げていった事が書かれているね」

 

手記は幾つもある。

 

最初の手記は、こまめにつけられて、分厚い辞書のようにただ淡々と皆を救っていったことが書かれている。

 

紅蓮もその過程で側に侍ったようだった。

 

やがて街ができた。

 

アトリエを建てて、本格的に毒素の消去を開始。

 

海にも、毒素の消去をできるものを流し込む。これは一定時間で自壊してただの栄養になる。

 

海流に混ぜて流すことで、海全てを浄化できる。

 

だけれども、海どころか土の奥深くにまで汚染は入り込んでいる。

 

この世界の表層資源は尽き掛けていて、それが破滅の理由の一つにもなった。

 

だから錬金術を使って、劣化し果てた物資も元に戻していく。

 

自然から搾取するのでは無く、ともに生きる方法も皆に教える。

 

人間がこの世界を立て直さなければならない。

 

旅の人は、強い信念に基づいて動いていた。

 

ただし、人間を微塵も疑っていない様子がわかってしまうのだという。タオが、嘆息する。

 

「弟子ができたって喜んでる。 錬金術が使える。 これで世界をもっと効率よく救えるって」

 

「後の事を知っていると、喜べないね」

 

「うん……」

 

タオも悲しそうだ。

 

やがて、神代が始まる。

 

各地の都市には人が満ち始める。旅の人が惜しみなく技術を与え、生活を自分でできるように支援していった。

 

物資は足りているはずだった。

 

だが、すぐに身分制度ができ、勝手な事をする人間が増えていった。暮らせる土地を開拓していると、暗殺されかけた事もあった。

 

暮らせる土地が増える事を、喜ばない人間がいたと言うことだ。

 

文字通り、拒否するだけで暗殺者は弾き飛ばすことが出来た。

 

「この辺りから手記の更新頻度が減ってきている。 周囲にいる「弟子」が、悪さをしている事が記載されてる」

 

「聖人に寄って集って……」

 

「分かってはいたけれど、本当にひどい。 許せない」

 

タオがそういうのは、フィルフサの真相を知ったとき以来か。

 

生態系を回復させるため、大型動物を復活させたときも一悶着あったそうである。牛や馬を復活させて、どう育てるか、どう役に立ってくれるか。そう説明して一度街を離れて。十年ほどで戻った所、全部食べ尽くしてしまっていた。そういう愚かしい例が続出していたそうだ。

 

だから腰を据えて再生事業を始めたが。

 

やがて国家が出来はじめた。

 

弟子を自称していた連中が、其処に食い込んで、権力を錬金術を悪用して好き放題にし始めたのだ。

 

旅の人も知らない人間が、その頃建設し始めていた此処……後で言う所の万象の大典に出入りを始めていた。

 

優秀な錬金術師だと紹介されたらしいが。

 

錬金術なんて使えない人間の方が多かったらしい。

 

やがて、破滅は決定的になる。

 

何度か暗殺されかけて、その全てを弾き返してきた旅の人だが。

 

弟子を名乗る連中が、盗み出した爆弾を各地の街に仕掛けたのである。

 

彼等は既に、自分達以外の人間を猿と呼ぶようになっていた。

 

心を痛めていた旅の人に、彼等は突きつける。

 

猿共の巣を吹っ飛ばされたくなかったら、テクノロジーを全て寄越せと。

 

お前みたいな脳が花畑のはしためが持っていても、それは何の役にも立たないものなのだと。

 

悲しかった。

 

そう、一文に記載されている。

 

人質を取られたことで、旅の人と「弟子」達の力関係は逆転。

 

そいつらは各地にできた国家を乗っ取り、錬金術とその産物を利用して、絶対的な独裁を敷き。

 

自分達以外全てを奴隷とする、極めていびつな国家を作り上げた。

 

勿論混沌の時代にも、正解と呼べる政体は存在していなかった。

 

誰も平等という思想の文言で作られた国家が、実際には誰にも平等でない国家だった。そんな事実もあったらしい。

 

だがこれは。

 

主権国家だ。

 

そう旅の人は嘆いていた。

 

「主権国家?」

 

「混沌の時代に存在した最悪の政体であるらしいよ。 まあ神代の錬金術師達みたいなのが支配していた国なんだろうね。 資料がないから、僕にもなんとも言えない」

 

「潰れるのも当然だったんじゃないのかそれは」

 

ボオスが毒づく。

 

いい加減、皆殺気立ってきている。

 

此処には旅の人の魂はもうない。

 

エーテルを感じ取れるから、分かる。

 

人間離れしていく過程で、それが分かるようになってきた。熱魔術ほどの精度ではまだないが。

 

いずれにしても、旅の人は魂ごと自害したのだ。

 

「後は知っての通りだよ。 神代の錬金術師は、自分達全員の子供を産むように、旅の人に迫った。 それも、ただの箔づけのためだけに。 或いは、テクノロジーを産み出す金のなる木を、あらゆる意味で屈服させたかったのかも知れないね」

 

「反吐野郎だ」

 

「うん、同感だよレント。 旅の人の手記は、此処で終わりだ。 私は間違った。 人間に愛を向ければ、愛を返してくれる。 そんなのは大嘘だった。 無償の愛は、相手をつけあがらせるだけだった。 誰もに平等に接しても、誰も喜ばなかった。 世界を復興する事にさえ、権力欲を人間は優先させた。 誰もが生活出来るように作った設備は、一部の人間が悪辣な手段で独占した。 物資だってそうだ。 私は、これ以上あの者達が滅茶苦茶をしないように、これ以上何も残してはいけないんだ。 そう記載しているね」

 

誰もが沈黙する中、ディアンが手を振って来る。

 

あたしがそれを見に行くと、透明な剣があった。

 

そうか、ここで。

 

「透明な剣だ……」

 

「不老だった、下手をすると不滅に近かった旅の人が自害するのに使った剣だね。 でもこれは……」

 

触ると崩れてしまう。

 

恐らく、旅の人を滅ぼした事で、役割を終えてしまったのだ。それでも、此処に次が訪れるまで。

 

そう思って、残っていたのだろうか。

 

ふうと、溜息が出る。

 

全てこれで終わった。

 

旅の人のアトリエで、レシピを確認する。やはり今のあたしと同格かそれ以上の錬金術師だった事が分かる。

 

あたしは更に先に行く。

 

旅の人と同格になったら、世界を好き放題にしている人間をしっかり掣肘しながら、復興を進める。

 

甘くすればつけあがる。

 

それが教訓だ。

 

人間に慈愛なんぞ意味がないのだと思う。

 

与えれば与える程増長する。

 

事実、これだけの聖人が、食い物にされるだけだった。世界が滅びから立ち直れてさえいないのに。

 

ならば、人間に自由なんて与えるべきではないのかも知れない。少なくとも、悪行を働くことを許してはならない。

 

神が罰を与えないなら。

 

あたしが代わりに与えるだけだ。魔王として。

 

宿舎に戻る。

 

まずは、母にあの瓶を渡す。どういうものか、どう扱うべきかを説明すると、すぐに理解したようだった。

 

母としても、あの腐れ錬金術師どもには、相応の報いを与えたかったのだろう。

 

それでいい。奴らはそれくらいされてもまだ許されないのだから。

 

それと、その後の話をする。

 

「アインの治療はできるだけ急いで始めたいのですけれど、いいですか」

 

「分かりました。 手配します」

 

「ライザ、此処を拠点にするんだな」

 

「うん。 ただ、群島は沈めてしまうことに決めた。 さっき話したんだけれど、同胞は独自の門を持っていて、其処から来ているらしいんだ。 今は内側からロックを外したから、此処にはいつでも門を開けられる。 小妖精の森に門を集約して、以降はそこから出入りするつもりだよ」

 

此処の復興は、あたしとクラウディアと同胞だけでやる。

 

そう告げると、ボオスはそうかとだけ呟いていた。

 

さて、これで最後だ。

 

アインを治療するのは、此処でやる最後の事では無い。正確には、此処は以降世界復興の拠点として活用する。

 

旅の人の弟子を自称した神代の錬金術師どもが独占していた此処は、文字通り世界のためのものとなる。

 

それは人間のためのものではない。

 

世界のためのものだ。

 

人間をホムンクルスを利用して品種改良するつもりのあたしだ。人間が滅びようと、もう知った事では無い。

 

それでも、最大限穏当な手段で行こうとしているのだ。

 

感謝はしてもらわないといけない。

 

このままだと人間が世界を食い潰す確率は100%だ。しかもそれには確定で他の生物全てを巻き込むし、なんならオーリムまで巻き込む可能性が極めて高い。

 

それを避ける為にも、これは必要な処置なのである。

 

幾つかの事を決めると、後は一旦母と同胞に此処を任せて、群島に戻る。

 

群島は、時間差をつけて沈める設定にした。二度と浮き上がることはない。

 

その前に、群島にあるアトリエの解体をしておく。

 

皆に手伝って貰って、それもすぐ終わった。物資も最低限しか備蓄していなかったので、文字通りあっというまだ。

 

小妖精の森で、最後の門開けを行う。

 

セキュリティを自力で突破出来る今、此処から元万象の大典にアクセスするのは朝飯前である。

 

これで、アインも遅延なく此処に運んでくる事ができるだろう。

 

「僕はクーケン島に行ってくるよ。 これから群島が沈むから、それで影響が出るかも知れない。 群島付近にアガーテ姉さんと護り手を派遣して貰って、見物に来ている人を全員遠ざけて貰うね。 僕自身は、島の設定を変えてくる」

 

「よろしく。 じゃ、これで終わりだ。 夏の冒険、四年も続いたけれど……」

 

皆を見回す。

 

この中の誰一人欠けても、全ての邪悪を滅ぼす事はできなかったし。

 

何よりも万象の大典に存在していた、世界に対する最悪の爆弾を解除する事だってできなかっただろう。

 

あたしは頭を下げる。

 

ありがとう。

 

そうみんなに言った。

 

くれぐれも悪に落ちないようにね。

 

そう念も押した。

 

勿論、人間全くの善だけで生きるのは不可能だ。それでもやってはいけない一線は存在している。

 

此処にいる皆は、それを理解している。

 

あたしは、そう思っている。少なくとも今はだ。

 

簡単に人間が堕落することも知っているが、此処にいる皆は、堕落の果てをみた。だから、そうはならないと信じる。

 

かくして冒険は終わった。

 

そして、皆は。

 

それぞれの道に歩き出す。








邪悪は滅びました。本当の意味で全て。

人間はまったく変わっていません。世界を焼き滅ぼしたとしても。

ただし、少なくとも今の人間に世界をまた滅ぼす力はもうありません。あったとしてもライザが許しません。

世界の新しい時代が始まります。

皆が新しい道へ歩き出す時が来ました。
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