暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
世界を滅茶苦茶にし続けた外道集団神代の最後の拠点、万象の大典。
其処を滅ぼしフィルフサも全滅させたことで、やっと全てが終わりました。
冒険が終わり。
それぞれの人生が始まります。
序、それぞれの冒険の終わり
王都という呼び名も、もう長くは続かないかも知れない。とにかくアスラアムバートで、あたしは見届ける。
一応晴れ姿のタオとパティ。パティは髪を少し整えただけで、騎士姿で結婚式に出ていた。
非武装のタオとは対照的な姿だ。
パティが学生時代から巫山戯た貴族を叩きのめしてきている事は周知なのだろう。一応結婚式は誰でも入れるようにはなっていたが、同胞の戦士達が目を光らせていた。
結婚式そのものはそれほど長くは続かない。
指輪を交換して、誓いの言葉を述べて、それで終わり。
ヴォルカーさんがタオを家に迎え入れる宣言をして、解散となった。
食事をして、それであたし達も切り上げる事とする。
タオもパティとも此処でお別れだ。
王都まで一緒に戻る最中も、二人は指一本触れなかったようである。本当に生真面目である。
タオはそれこそ結婚なんかどうでもいいだろう。そういう奴だ。だから、パティがその気なら押し倒せば良かったのだけれども。
パティが鋼鉄の意思を持っているのは昔からだ。
まあその分、結婚してからたくさん子供ができそうだなと、あたしは下世話なことを考えたが。
性欲は綺麗になくなった今も、こういう思考は普通にできる。
それはそれとして、人間との接点を持つのには重要だからだ。
立食で軽く二人と話す。
今後の連絡先についてだ。
バレンツを中心に、緊急招集などの合図は決めておく。まあ全員が出られるかは分からないけれども。
フィルフサが滅び、神代の錬金術師も滅び。万象の大典も滅んだ今、世界を即座に脅かす存在はいない。
門が開きっぱなしになっていても、むしろ人間が勝手に侵入して好きかってする事を警戒しなければならない。
そして門の位置も、既に管理区で把握した。
あの動力炉で全て把握できたのだ。
後は一部を除いて全て閉じて。
来るべき時が来るまで、人間には触らせない。
それでいいと、皆が同意した。
今の段階では、人間がオーレン族と仲良くやっていくのは不可能だ。それについては。オーレン族の方ではなく、人間に問題がある。
それをわざわざ言わなくても分かるから、言わない。
それだけだ。
「じゃあ、俺は一人旅と行くよ。 しばらくしたらクーケン島に戻るかもな」
レントが結婚式を抜けると、そう最初に言う。
あたしも頷くと、行ってらっしゃいと手を振って送り出す。
レントは去年はあたし以上のスランプだったが、今ではもはや世界最強の猛者の一人である。
剣術使いとして、パティと死合ったらどっちが勝つのだろうか。
あまり見たくないなと思う。
まあ、その辺の魔物に遅れを取る事もないだろう。
何しろ、空間魔術すら弾いたのだ。
あたしは王都のアトリエに門を作ると、入口を封鎖して、自分以外には入れないようにする。
この中で、それぞれ解散となる。
まずディアンを送っていく。
ディアンはこれから種拾いのナンバーツー。この若さでナンバーツーだ。いずれデアドラさんが験者になって。そしてデアドラさんも隠居したら、円熟したディアンが験者になることになるだろう。
ただ、此処からは組織を回す練習だ。
組織というのは、少人数でも動かせない人間は動かせない。
ディアンはできるのか分からないが。
いずれにしても、これから戦闘よりも色々学ばなければならない可能性が高い。
既にフォウレの里は移転がほぼ終わっている。
今後はウィンドルからの災厄竜風が村をなぎ倒さないように、竜脈からそれた地点に村を構え。
竜脈近くは、危険区域として警戒する方針でフォウレの里は動くと決まったようである。
験者とデアドラさんと話すと、そういう話をされた。
いずれにしても、具体的なプランがあるのは良い事だ。
「そうだ、ディアン。 告げておくことがある」
「なんだデアドラ姉」
デアドラさんは、さらりと言う。
結婚するそうだ。
相手は港町にいる戦士だが、入り婿になって貰う。新しい血を入れるために必要な事らしい。
戦士としての手腕よりも経営の技術を買っているそうで、完全な政略結婚だが。
ただしっかり人物を見て、悪い相手では無いと判断したそうである。
験者が蕩々と告げる。
「験者には数年後にはなってもらう。 子供を孕んだ場合は即座にかな」
「おお、おめでとうデアドラ姉!」
「ああ。 ありがとう」
デアドラさんは必要な事しか喋らず、殆ど笑う事もなかったが。その時だけは、ちょっとだけ笑っていた。
後は、フォウレの里は歩いて行けるはずだ。
問題は侵略性外来種が悪さをすること。
つまり余所から悪い連中がちょっかいを出しに来ることだが。
フォウレの里に、同胞の戦士が一人入る。
それにネメドでも元々数人活動していたらしい。
同胞は各地で犯罪組織とかが大きくなる前に駆除するような仕事もしていたらしく。今までその手の輩が大きな力を持たなかったのも、同胞の助力が大きかったらしい。ならば、安心だ。
ディアンと別れる。
ディアンの背は、結局余り伸びなかったな。
だが、それでも戦士としてはチンピラ同然だった最初から、別人のように成長した。パワーだけならレント以上かも知れない。
「ライザ姉、あんたの強さ、俺はずっとフォウレに語り継ぐよ。 太陽の神の加護を受けた、炎の戦士ってな」
「大げさだな。 でも、ありがとう。 ああ、悪さをしたらその炎の戦士が仕置きに行くって話も追加しておいてね」
「分かってる。 じゃあ、ライザ姉に悪い意味で世話にならないように、俺も努力するよ」
握手して、フォウレを離れる。
次は、ウィンドルだ。
此処でカラさんが離れた。カラさんは、人間の結婚式に興味津々だったが。ウィンドルに戻ると、一気に力が抜けるのが分かった。
あわてて隣でセリさんが支える。
「大丈夫ですか、総長老」
「大典との戦闘付近では寿命の前借りをしておったからな。 皆に不甲斐ない姿は見せたくなかったのだが」
「摂理の範囲でなら治療しますよ」
「ああ、そうしてくれ。 ただわしは、恐らくもう百年と生きぬだろう。 急激に老けていくだろうな」
リラさんとセリさん、それにアンペルさんとクリフォードさんは一旦此処に残る。
なんでもセリさんかリラさん、或いはキロさんのどちらかを次の長老にするかカラさんが悩んでいるらしい。
氏族なんて作った者勝ちだと言う話だ。だからもとの氏族などどうでもいいのだろう。
あたしは咳払いすると、幾つか話はしておく。
「それでは、二人とも、分かってますね」
「ああ、分かっている。 ただアンペルが、結婚を受ける気があまりなさそうでな」
「私はどうしようかしらね。 クリフォードと婚姻するのはそんなに悪い気はしないのだけれども。 気乗りはしないわ」
お互い逆方向で上手く行かないものだな。
苦笑させられる。
カラさんは先に戻る。オーレン族の戦士達に、土産話をするらしい。
さて、フィーだが。
あたしは此処で告げる。
「フィー。 あんたの同族はどうしようも無いから、あたしが一から調合するよ」
結局。
万象の大典にも、フィーの同族の卵はなかった。神代の錬金術師どもが最後の一体まで殺し尽くし、調べ尽くした結果だ。
卵すらも、たまたま残ったものが各地に散った。その一つが、王都近郊の遺跡で感応夢や羅針盤で姿を見た同族だったのだろう。
フィーが恐らく最後の一人だ。
だとすると、もう繁殖はできない。
幸い、フィーの同族の生物的情報は手に入れた。ホムンクルスの技術と同じで、文字通り調合して再生する事ができる。
同じようにして、色々なオーリムの生物を調合していく事になるだろう。
ただ一辺にたくさんを調合するのはなしだ。
少しずつ元に戻る自然に合わせて、調合していく事になる。
フィーは説明を聞いて、頷いていた。
此処で仲間と暮らすことはない。
あたしと一緒にいる。
そういう意思は強いようだった。
「リラさん、セリさん。 長い間、お世話になりました」
「此方こそ、もはや全てで私を越えたお前を見るのは誇りだ」
リラさんがそう言ってくれる。
リラさんに叩き込まれた基礎の基礎は、応用発展となって、あたしの血肉となっている。リラさんがいなければ、もっと早くに死んでいただろう。
「おかげで復興がはかどるわ。 勿論、時々来るのよね」
「ええ。 ウィンドルは特に」
「そう……」
セリさんが、ちょっと含みのある笑みを浮かべる。
この人は物静かだったなずっと。
でも、時々鋭い殺意が篭もっていたし。戦闘でのやり口も容赦が無かった。植物魔術の応用性は高く、戦略的にとても皆の助けになっていた。
アンペルさんが少し疲れ気味だ。
リラさんの事は悪く思っていない。それはあたしだって知っている。恋愛対象であるかは微妙と言うだけだ。
門をもう探し廻る必要もない。
ただ、燃え尽き症候群という奴だろう。それに、アンペルさんは若く見せているが、もう結構な年なのである。
「ライザ、私はしばらく考える事にする。 もう若作りをする必要もない。 それに、ずっと門と戦い続けて来た人生だった。 それも終わってしまった今、何をしたいのか、自分で考えたいんだ」
「良い事だと思います。 ロテスヴァッサの錬金術師達に人生を滅茶苦茶にされて、それからずっと苦しみ続けて来たんです。 十年やそこら、ゆっくりしても誰も文句は言わないでしょう」
「そうだな……。 それでもしも気力ができたら、リラの思いに答えようと思う」
「その時は声を掛けてください。 不幸にならないように、処置をします」
アンペルさん。リラさんと並ぶ、もう一人のあたしの師匠。
すぐにアンペルさんを越えたとあたしを評してくれたが。
錬金術の才能はともかく、人間としてどうだったかは分からない。
クリフォードさんは、これから風羽の戦士達と一緒に各地を巡って、オーレン族の生き残りを探して回るそうである。
それもいいだろう。
この人の勘は、オーレン族すらしのぐのだから。
「神代のカス共の真実を知った今では、遺跡に興味は薄れ始めていてな。 少なくとも各地で潜伏して生きているオーレン族は、みんな助け出しておきたいんだ。 一旦ウィンドルに集まって貰って、其処から再起って形になるんだろうな」
「血を濃くしすぎないためにも、それが必要でしょうね」
「ただそうなるとグリムドルでボオスとキロが上手くやれないかも知れないな」
「どうせキロさんもクリフォードさんと同じで、当面戻れないですよ。 それにボオスだって」
オーレン族の存在自体。
人間が受け入れる訳がない。
そもそも古代クリント王国時代の連中は猿なんて呼んでいたし。
神代の連中に至っては、自分ら以外を全て猿だと思い込んでいた。
今後も、人間はあたしが手を入れなければ代わらない。
何度だって神代の愚行を繰り返す。
ボオスは皆の中で一番苦労するかも知れない。
ただそれは、ボオスの選んだ道。
そしてクリフォードさんも、その次くらいに大変かもしれなかった。
「セリは結局俺の求婚を受けてくれていない。 だが、いずれ了承させてみせるさ」
「情熱的ですね」
「俺はロマンに生きる男だぜ」
「そうでしたね」
少しだけくすりとした。
これでウィンドルを離れる。
壮健なカラさんの記憶は、これで最後になるかも知れない。多分今後は加速度的に老けていくだろう。
あたしのことも忘れてしまうかも知れない。
老いとはそういうものだ。
だが、それが本来の生物の形。
そして、老い切る前に、カラさんはやりきったのである。
続いて、サルドニカに出向く。
此処でフェデリーカとはお別れだ。
フェデリーカは頑張ってくれた。精神的に戦士向きではなかったのに、最後の最後までよくやってくれたと思う。
サルドニカのギルド長二人が出迎えてくれたので、二人にフェデリーカがどれだけ活躍したのか、話を軽くする。
二人とも、喜んでくれていた。
フェデリーカはもう操り人形では無い。
これからは立派に活躍出来る。
多分サルドニカを大いに発展させるだろう。それだけの実績を積んできた。
ただ、どうしても心に影が落ちた。
あれだけの人間の真実を見続けたのだ。それは仕方が無い事なのだろうと、あたしは思う。
ぴかぴかになったサルドニカ。
あたしが工場とか機械とか、全部直したのだから当然だ。
経営も健全化している。
今後はロテスヴァッサ王国が、アーベルハイム国になるのかはよく分からないが。そのパートナーかもっとも有力な経済都市として、活躍していくだろう。それが新たな腐敗を産むだろうが。
金に寄ってくるカスは、全部駆除する。
「ライザさんは、もう完全に外から世界を見ていますね」
「これは仕方がないよ。 人に混じって生きていくのは、もう無理だと判断して良いからね」
「……はい」
悲しそうだが、まあそういうものだ。
フェデリーカは、婚約者でも迎えるつもりらしいが。ただ、自分の子孫を次のギルド長にするかは考えていないらしい。
血統主義の邪悪さを散々見てきた後だ。
全てをエゴの下で独占する思想が血統主義だと分かっただろう。
だから、それでいいのだと思う。
フェデリーカとも別れる。
そして、クーケン島に戻り。そこでボオスとも別れる事になった。
ボオスは冒険に本格参加したのは今回が初めてだが、それまでも後ろで支援を続けてくれていた。
今回の冒険でも調整役をずっと続けてくれていた。
それだけで充分過ぎる程だ。
「しばらくはクーケン島の側に住むんだな」
「うん、そのつもり」
「クラウディアはどうするんだ」
「私は一旦バレンツに戻るよ。 あと、お父さんとお母さんとは数年距離をおいて、アリバイを作るつもり」
そうかと、ボオスがちょっと寂しそうに言う。
理由は簡単。
クラウディアの子供をあたしが調合するからだ。
クラウディア自身はもう子供を産める状態じゃあない。だからそうする。
ただバレンツをずっと支配するつもりかどうかというと、どちらかというと大御所政治をするつもりのようだが。
今後はバレンツを裏側から支配し。
世界の経済を監視しながら、場合によっては同胞と連携して悪を射貫いていく事になるだろう。
皆の中で、唯一あたしと同じ道を選んでくれた。
ただそれだけでも、充分だ。
「ボオスこそ、まずはどうにかキロさんと結婚出来る状態にならないとね」
「父さんにはすぐに婚約者が出来た事は伝えるつもりだ。 ただ、結婚は早くても十年後と告げたら、泡をふいて倒れるかも知れないが」
「周りはどんどん結婚していきそうだけれど、耐えられる?」
「俺は自制心には自信がある。 というか、色々あったからな。 何があっても自制するし、何よりキロさん以外の女には、もう興味も無いよ」
そうか。
それは立派なことだ。
我欲を神聖視する人間は、そういう言葉を聞くと鼻で笑うかも知れない。だが、あたしは。
こういう生き方こそが、いずれ人間を進歩させると思うのだ。
後は、アトリエでクラウディアと軽く相談してから、別れる。
クラウディアとはこれから緊密に連携しながら、世界を変えていくことになる。
あたしは培養槽に行くと、まだ調整が終わったばかりで体力を使い果たして眠っているアインを見やって。
パラメータを確認して、問題ない事を調べておく。
母が常に側で監視しているから問題は無いだろうが。
それでも、やることをやったからには、あたしに全責任がある。
体を治したら、まずは同胞の戦士同伴で、少しずつ他の人間に慣れていく必要があるだろう。
まだ自分で何をしたいかという強い自意識は、アインには宿らないと思う。
武芸を同胞は教え込みたいようだが、それだけが人生じゃない。
アインがどう生きるかを、あたしはこれから、後押ししないといけない。
例え嫌われていてもだ。
それと。
「フィー?」
「ん、分かってる」
コンテナから、フィーの同族の情報を集めた資料を取りだす。
まずはフィーの一族を調合するところからだ。
元々宥めの精と言われるフィーの一族はドラゴンの亜種である。寿命については、それこそ下手するとオーレン族より長いだろう。
情報を精査した限り、卵生ではあるのだが。どう性成熟して卵を産むのかは、実際にみないと分からない。
数を揃えて、それで様子を見るしかないだろう。
それと、これからはウィンドルにたびたび足を運んで、セリさんと相談しながら生態系を復興していく事になる。
各地で生きていたオーレン族の生き残りとも話をして、少しずつ生物を戻していく事になるだろう。
それだけじゃない。
まだまだ世界にある、人が入れない土地。それらの復旧もしなければいけないが。人間はある程度数を抑えておいて、少しずつ品種改良し。それが充分になったら居住地域を増やすか。
考えている事は多い。
パティには悪いが、タオの知恵もかりないといけないだろうな。
ふっとあたしは笑った。
冒険は終わった。
だが、あたしには。
まだまだやる事が、たくさんあるのだと、こう言うときに思い知らされるばかりだった。