暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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元々年配だったカラさんは、最終決戦で力を使い果たしていました。

それもまた人生です。

長い長い時を生きるオーレン族にも終わりがあるように。

時間が経つ事で、人は色々失っていくものです。


2、更地からの再生

ウィンドルに出向く。

 

カラさんが、すっかり弱っていた。寝床から起きだす事もできずに、柔らかい食べ物を口にしている。

 

あたしが来た事を聞くと。半身を起こそうとして、咳き込む。

 

延命措置ができると何回か話をしたが、拒否された。

 

やるべきことはやった。

 

摂理のまま生きるのが望みだと。

 

「久しぶりだのうライザよ」

 

「二年ぶりですね。 人々の様子は」

 

「もう出歩くことも出来ぬからな。 魔力もすっかり衰えたから、ひなたぼっこしながら様子を見るくらいしかできぬよ」

 

「……」

 

そんな不便な体でも。

 

本望だというのだろう。

 

カラさんは、また咳き込む。咳には血が混じっている。

 

もって数年だな。

 

あたしも一応、摂理に反しない程度の薬は持って来ている。だが、カラさんはもう老人として死ぬつもりなのかも知れない。

 

カラさんはやりきったのだと、何度か口にしていた。

 

千三百年前の神代の錬金術師との大戦を勝利して、生き延びて。

 

その後は、ずっとフィルフサと戦い続けて来た。

 

フィルフサがオーリムからいなくなった今は、復興の時代である。戦いの時代の長であった、カラさんは邪魔になってはいけない。

 

本当だったら、あたしが持ち込む薬もいらないそうだ。

 

本当にストイックな人だなと思う。

 

「新しい長老は、また飛び回っているんですか」

 

「ああ。 やっと結婚したばかりなのにな」

 

「そうですね」

 

新しい総長老。

 

キロさんのことだ。

 

グリムドルで数百年、単独でフィルフサと戦い続けた最強のオーレンの戦士は、今やウィンドルでの顔役となっている。

 

あたしと顔が利くこと。

 

更にセリさん、リラさんが両翼になっている事もあって。

 

すっかりオーリムの主軸だ。

 

ボオスと結婚したのは、去年のこと。

 

ボオスが予言していた十年を超えて、十五年がかかった。その間、モリッツさんは完全に心労で禿げてしまった。

 

なお、ボオスが養子を連れて来て、その子がブルネン家の跡取りになっている。

 

その子は、あたしが調合した。

 

人間の調合は、既に色々な所でやっている。

 

禁忌と言うべきなのだろうか。

 

だが、腹を痛めた子だろうが、愛情を注がない親なんてなんぼでもいる。その逆もしかり。

 

あたしはしっかり親を選んでそういう調合した子を預けるし。

 

なんなら同胞の間で育てて貰う。

 

ボオスはしっかり子育てをして。今ではすくすく育っている血がつながらない孫を、モリッツさんは相応に可愛がっていた。

 

それはそれとして、やっとキロさんと結婚出来たボオスは。

 

グリムドルで、単身オーレン族との交易をやっている。

 

まだ他の人間をグリムドルに入れるのは早い。

 

そう判断しているようだが、その考えは正しい。どうせ悪巧みしかしないのだから。

 

車いすに乗って、カラさんと外に出る。

 

リラさんもセリさんも忙しくて姿はない。

 

なおセリさんは四年前に、リラさんは三年前に結婚した。それだけ時間が掛かった。

 

アンペルさんもクリフォードさんもよく我慢できたなと思うが。

 

リラさんはもう子供がいる。

 

幸いあたしの調合した薬もあって、母子ともに寿命を縮めることは無さそうだ。

 

カラさんの家の外に出ると、美しい空と、更に拡がり続ける緑が見える。

 

緑羽氏族が中心になって、どんどん生態系を復活させているのだ。動物も、あたしが調合して、少しずつ多くなってきている。

 

完全に滅んだ動物も再生させることができる。

 

だが、いきなり大量に入れると生態系は壊れる。

 

状況次第では間引きもいる。

 

その辺りは、専門家に任せていくしかない。

 

「また緑が拡がったのう……」

 

「あたし達が先に潰していたフィルフサのテリトリからも、順調に緑が拡がっているようです」

 

「良かった良かった。 まさかわしが生きている間に、この光景が見られるとは思わなかった」

 

カラさんは、多分もうよく辺りが見えていない。

 

それでも、魔力を感じたり。魔術の支援で、世界に緑と命が満ちているのを感じているのだろう。

 

オーレン族の戦士も、心配そうに見守っている。

 

ずっと最前線で皆の指揮を続けたカラさんの衰弱。

 

世界を好き放題にしてきた邪悪の撃滅で、命を削りきった。名誉のことだとわかっていても、悲しいのもまた分かる。

 

車いすを押して、高台に出る。

 

オーレン族の戦士も護衛に来ているが、多分いらないだろう。

 

無害な動物しかいない。

 

無造作に増えすぎないように、緑羽氏族が丁寧に植物の管理をしている。嫌な臭いを放つものもあるし、不気味で奇怪なものもある。

 

だがそれらも、必要な植物なのだ。

 

頼まれて調合した生物はそれだけではない。

 

フィーの同族が飛んでいるのが見える。

 

まだ十数匹だが、あたしが調合した。フィー自身もあの中に混じっている。基本はあたしの所にいるのだが。

 

ああして仲間に混じって暮らす事も増えていた。

 

一つ前の竜風の時は、あの子らの数が足りなかった。そして分かったのだが、宥めの精、つまりフィーの同族は。

 

エンシェントドラゴンが世界を渡る時に放出する力を得て、卵を孕むのだ。

 

つまり完璧な単為生殖をする生物だった事になる。

 

雄雌の区別がある事は一応分かってはいるのだが。

 

しかしながら、それも魔力で周囲と交流したり、エサが魔力だけの生物だ。恐らく魔力を交換する事で、互いの要素を交換。それで子を産むのだと思う。

 

新しく産まれた子も含めて、あの数だ。

 

更に今後追加する予定である。世界が復興するに従って、ちょくちょくドラゴンも姿を見せているらしい。

 

ドラゴンの相手は奏波氏族の役割だ。

 

今後はそれに集中できると、カラさんが笑う。

 

だが、力無くひゅっと声が漏れるだけだった。

 

「そなたと一緒に戦ったのはわずか十数年前であったな。 それがもう夢幻に思えて来るよ」

 

「あたしも、たった十数年でみんな代わっていくから、色々と思うところもあります」

 

「結局そなたは人間を捨ててしまったからな」

 

「ええ。 ありのままの人間ではできないこと。 それをやるためだけです」

 

カラさんを連れて、家に戻る。

 

延命のものはいらないということだが、苦しみや痛みを緩和する薬は調合している。それでももう長くはもたない。

 

奏波氏族の戦士達は、カラさんを延命したいと時々頼んでくるのだが。

 

本人がいらないという。

 

キロさんという新しい総長老が出現し。

 

更にはボオスとの婚姻で、新しい時代が出来るかもしれないこの状況だ。

 

今更老人が出張る訳にはいかない、というのだ。

 

本当にストイックな話である。

 

そう話していると、ボオスが来た。

 

すっかり口ひげが似合うナイスミドルになっている。クーケン島には今や破落戸なんか近よりもしない。

 

流通の中継点としてクーケン島は繁栄しているが。

 

近付いた破落戸が一人も生きて帰ってこないという話もあって。こういう所に入り込む山師も破落戸も、もういない。

 

「ライザ、久しぶりだな」

 

「久しぶり。 どう、クーケン島の状態は」

 

「おかげさまでな。 クーケンフルーツだけに頼っていた時代も終わって、今ではすっかり重要都市の一つだ。 お前が作ってくれた産業のおかげもあって、更に豊かな時代が来そうだ」

 

「豊かは結構だけれども、分かっているね」

 

ああと、ボオスがにっと笑う。

 

ボオスは私財をほとんど蓄財していないし、部下達の不正も一切許さない。

 

お堅い人だ。

 

そういう声もあるが、それくらいでないと組織はあっさり腐る。

 

旅の人が、甘やかした結果カスどもをつけあがらせた事例を見ているからなのだろう。ボオスはあくまで島全域に利潤が行くように常に考えているし。それでいながら努力が無駄にならないように工夫もしている。

 

富の格差が大きくなりすぎないように工夫をするのが大変だ。

 

時々そう苦笑しているのを見る。

 

「キロさんとの結婚式は見にいったけれど、オーレン族式にしたんだね」

 

「郷には入れば郷に従えだ。 キロさんのこっちの立場から言うと、俺よりもずっと社会的地位が上だって理由もあるがな」

 

「どっちにしても、上手く行っている?」

 

「ああ。 お前が色々手配してくれているおかげで、不幸になる事もないだろう」

 

クーケン島にも、あたしが手配した同胞の戦士が根付き始めている。

 

世界で確実に顕性遺伝としての人間の悪性の排除が拡がっているが。これが予想以上に効果がある。

 

悪党はあたし達がどんどん駆除しているのが大きいのかも知れない。

 

人間にとって必要だったのは、高い知能だの筋力だのよりも。

 

悪性を憎みエゴを抑える事ができる自制。

 

そうだったのだと、実績を見ていて大いに理解出来る。

 

勿論それでありながら、新しい価値観とかが入ってきたときに、柔軟に対応できなくても困る。

 

それについても、色々と順番に工夫している。

 

あたし自身は、今は「拠点」とだけ名付けた、もと万象の大典で殆どの時間研究をしていて。

 

支援用に調合した同胞の研究者と一緒に、旅の人が残した研究成果をどんどん形にしている。

 

神代の連中が歪めた成果物が、本当に劣化コピーだったのだと、作業をしていて思い知らされるばかりで。

 

必要と判断した成果物は、クーケン島やサルドニカ、王都などにどんどん卸していた。

 

それでいながら、進歩しすぎないように監視する事も大事だ。

 

ボオスも、それは手伝って貰っている。

 

カラさんはもう休んだので、ウィンドルのあたしのアトリエで軽く話す。

 

「レントは最近会った?」

 

「今はウィンドルにいるらしいな。 残念ながらあっていない」

 

「そっか」

 

ザムエルさんとレントのお母さんはよりを戻した。

 

それについては、ボオスは知らないかも知れない。

 

その後レントは、もう完全に独り立ちして、各地で強力な魔物の生き残りや、悪党を斬り続けた。

 

同胞との連携すら拒否して、何かを忘れようとするように。

 

そしてこの間、大きな手傷を受けてあたし達の所に来た。

 

治療を終えた後、ぼやいたのだ。

 

いい関係になった女に不意を突かれた。

 

俺が全滅させた盗賊団の生き残りだったらしくてな。俺ともあろうものが痺れ薬を入れられて、ざっくりだ。

 

治療を終えると、レントはウィンドルに行くと言って姿を消した。

 

この様子だと、ウィンドルでも孤独に旅をしているのかも知れない。

 

分かっている。

 

レントはもう覚悟の上でそういう生き方を選んでいる。

 

子供が欲しいとも思わないようだ。

 

なんなら同胞の戦士でもと話をしたのだが、苦笑いされるだけだった。

 

この様子だと、あたし達の誰とも、もう会うつもりはないのかも知れなかった。

 

「じゃあ俺は行く。 キロさんとは結婚しても中々会えないが、それでも今は大きな心の支えだ。 それにやりがいもあるしな」

 

「頑張りな」

 

「ああ」

 

ふっと、ボオスは笑った。

 

すっかり傲慢だった頃の顔はなくなり。

 

今では、貫禄と威厳がそれに置き換わっていた。

 

 

 

荒野に出向く。

 

普通だったら、いるだけで命が危ない場所。混沌の時代には、多くの破壊兵器が使われたのだが。

 

それらは大量の毒を世界にまき散らした。

 

人間が世界を滅ぼすのに使ったのは、水爆といわれるものだったらしいのだが。更に凶悪な中性子爆弾というものや、試験的に反物質爆弾といわれるようなものまで使われたらしい。

 

特に反物質爆弾は、その気になれば世界そのものが滅ぶほどの代物だったらしく。

 

それを平然と使うくらい、混沌の時代の連中はアホだったという事である。

 

この荒野は、水爆とやらの汚染で、今でも人が直に入るのは避けた方が良い場所……だったのだが。

 

あたしが先に、その毒素をだすもの。放射性物質だったか。

 

その崩壊を加速させるものを撒いて。

 

復興ができる状態になった場所だ。

 

神代の抗争でも水爆に近い火力の爆弾が用いられたことは分かっているが。それは旅の人の技術を最大限悪用したもの。

 

幸いにも、世界を汚染する代物ではなかった。

 

あたしは、つれて来ている同胞の戦士達とともに、土を耕す。完全に土は死んでいる。

 

土というのは、途方もない月日を掛けて作りあげるものだ。それを混沌の時代に恐ろしい勢いで搾取した。

 

混沌の時代が破綻する前にも。

 

その搾取は、既に取り返しがつかない状態にまで落ちていたらしい。

 

それを思うと、あたしは溜息が出る。

 

ともかく、手を動かす。

 

生真面目な同胞の戦士達は、誰も文句も言わずに仕事をしてくれる。しばし仕事をしていると、聞き覚えがある声がした。

 

「ライザ」

 

「!」

 

顔を上げると、タオだ。

 

すっかり中年になったタオは、既にアーベルハイム国の王夫である。子供をパティとの間に八人も作ったが。

 

その全員があまり見込みがないらしい。

 

結局去年、あたしが頼まれた。

 

今後血統による相続は、特に王を血統で決める事は止めるらしいが。

 

そのハシリとなる行動で、あたしに子供の調合を頼んで来た。

 

まああたしも、それで文句は無い。徹底的に設定をした子供を調合した。

 

親の良い所なんて子供は似ない。似る事もあるが、むしろ悪い所の方が似る。

 

実際、もう成人しているタオの最初の子なんて、知性のかけらもない。パティの武芸なんて微塵も受け継がなかった。

 

ただし国王としてではなく、芸術家としては才能があるようである。

 

芸術家として支援はするが、国王の座は与えない。

 

そうパティは明言しているようである。

 

他の子らもほぼ同じである。

 

「手伝いに来たよ」

 

「ありがとう。 ああ、その人達が」

 

「うん。 例の、ね」

 

アーベルハイム国では、戦士の育成を進めている。完全に腐敗しきった騎士団は一度解体。

 

新しく新規のシステムで、実力のある戦士を抜擢するようになった。

 

その中には荒々しいものもいるが、戦士の手綱を取るのはカーティアさんで。それで荒くれ達もまったく逆らえない。

 

今ではしっかりアーベルハイム国は、アスラアムバート近辺の治安を確保する事に成功している。

 

「王都の警備は優秀」なんて揶揄されていた時代が嘘のようである。

 

パティの辣腕と、現実的な案を出したタオの尽力の結果だ。

 

そして連れてこられた戦士達は、いずれも工兵としてここに来ている。戦士の中には、工兵としての経験を積む必要があるケースもある。

 

タオが手を叩いて、即座に戦士達が動き出す。

 

指定した位置にテントを作り、あたしが支給した道具で地面を掘り返し始める。

 

其処に、荒れ地でも逞しく根付く草を順番に植えていく事になる。

 

わずかに土地に残った栄養を、この草が吸収し。

 

土に変えていくのだ。

 

土が出来はじめると、細かい生物から順番に土地に入れていく。そうすることで、既にかなりの土地の緑化を済ませてきた。

 

タオは手にしたトレイに何かを忙しく書き込みながら、指示をしている。

 

「それ、新しい論文?」

 

「うん。 僕も現実に使える論文を書きたくてね。 建築様式の中で現実的なものをピックアップして、現在に蘇らせるべきものを選別しているんだ」

 

「そっか。 上手く行きそう?」

 

「やってみないとなんともね。 完成形は既に目にしているから、いずれあれらが普及するようにはしたいけれど、僕が生きている間には無理だろうね」

 

まあ、それもそうだ。

 

皆と会うと、クラウディア以外とはどんどん年が離れていく。

 

タオも既に老境に足を突っ込み始めた。

 

クーケン島のアガーテ姉さんは、少し前に亡くなった。最後は子供達に囲まれての往生だった。

 

騎士をやめてクーケン島に戻ってきてくれて良かった。あの人がいなければ、とてもクーケン島はやっていけなかっただろう。

 

今ではアガーテ姉さんの手ほどきを受けた戦士達が、たくさんクーケン島にいる。

 

それがボオスの指揮で同胞の戦士達と連携して、悪党を一人も生かして帰していないのだ。

 

「この辺りは川があったみたいだね」

 

「まずは土を作って、地盤の安定が先だよ。 ちょっと上流の方で、今の時点では川をせき止めてる。 土地の汚染の浄化は、世界規模で同時並行でやっているけれど、自然の回復力だけではとてもね」

 

「ライザももう戦闘以外でもすっかり世界の第一人者だ」

 

「そう言ってくれると嬉しいけれど、この作業を殆ど孤独なままやりつづけた旅の人は、大変だっただろうなと思うばかりだよ」

 

あたしは孤独は全然平気な方だ。

 

王都での戦い出向く少し前、あたしは明確なスランプになっていたが。あれも今は知っている。あたしのことを危険視した母に、リミッターを掛けられていたらしい。

 

ただし、あたしは自力でそれをブチ抜いた。

 

あたしを殺すかどうかで、同胞は相当に揉めたらしいが。

 

それも神代の錬金術師の所業を知っていれば、それは納得も出来る話である。

 

工兵候補の戦士達が働いてくれることもあって、作業はどんどん進む。やがて今日予定していた作業は終わった。

 

あたしは最優先で働いていたから、誰よりも耕した。

 

雨が降り始めるが、この現状の土地では、とても保水することはできない。雑草なんて馬鹿にした言葉があるが。

 

それがない土地は、ただ無惨に土が押し流されていくだけなのだ。

 

「此方で休憩を」

 

「ありがとう、助かる!」

 

「それにしても、こんな荒野が緑の土地に代わるのか?」

 

「王都の北なんか、前は砂漠だったんだろ。 それが今ではすっかり花畑だぜ」

 

戦士達が話しているのが聞こえる。

 

そうだったな。

 

砂漠の緑化のために、王都のゴミを使って、土を肥沃にした。その結果、砂漠は今や緑の野だ。

 

ただ、北の里に人を入れるのは好ましくない。

 

緑化の前に、同胞の助けも借りて、遺跡は完全に解体して拠点に持ち帰っている。

 

無作為にばらまかれたテクノロジーは、危険なだけだ。

 

今の人間には、まだ渡せないのである。

 

土地がこんなだから、気候も安定しない。

 

もう雨は去った。

 

タオが指示をして、戦士達がまた働き始める。その間に、手伝いに来たバレンツの給仕達が、食事を作っていく。

 

酒も出る。

 

あたしはいらないけど。

 

酒を出すと、戦士達の仕事に対するモチベが露骨に上がる。まあ、そういうエサで釣るやり方も、害がないならいいだろう。

 

それに問題を起こすとカーティアさんに殺される。

 

それが分かっているから、戦士達も問題はできるだけ起こさないようにきちんと躾けられている。

 

なかなかの鬼軍曹である。

 

「この様子だと、この辺りは一年くらいでどうにか開拓できそうだね」

 

「そうだね。 ただ入植はまだずっと先だよ。 それについては、パティにも伝達しておいて」

 

「うん、分かってる。 ……確認しているけれど、人の入れ替わりは確実に進んでいるから、安心して。 この様子だと、千年かからずに、人間全員に血が行き渡るかも知れない」

 

「そっか。 突然変異が出るかも知れないから、時々更にお代わりを入れるとしても、千年後が本番かな」

 

千年後。

 

その時には、もうクラウディアしか仲間はいないだろうな。

 

人間をあたしと一緒に止めたクラウディアは、既にバレンツの頭取……ではなく、頭取を「息子」に任せて大御所に移行している。

 

昔は無邪気で優しかったクラウディアだが、今では毒竜とか渾名されるもの凄く恐ろしい存在として認識されていて。

 

まあああいう界隈では、それでいいのだと思う。

 

予定をだいぶ前倒しして、開拓が進む。タオが戦士達を集めて、明日の作業について説明。

 

それが終わると、酒を配っていた。

 

食事もしっかり美味しいのが出る。

 

混沌の時代の記録によると、アーミーの食事はまずいことで有名で、それが負担になっていたらしい。まあ全部がそうではないのだろうが、そういう場所も確かにあったのだろう。

 

今はしっかりしたものを、戦士達に出すようにしている。

 

少しだけでも、昔よりましな状態にしたい。

 

あたしは、ギリギリの時間まで開拓を進める。

 

自分で実際に手を動かさないで、世界なんて変えられるものか。

 

誰かを顎で使って偉いと思い込むのはチンピラの思考だ。

 

あたしはそうはならない。

 

次の日も、朝一番に起きて土を耕す。

 

世界を少しでも、元に戻すために。

 

自分だけが良ければいい。そんな風に考える愚劣な輩を、少しでも減らしていくためにもだ。

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