暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
ライザは既に思考回路が人間から外れています。
故にその品種改良計画は容赦なく進められていくことになります。
それに抗議する資格は、この世界の人間には少なくともないでしょうね。
ありのままの人間性がどうのこうのというような寝言は、世界を二度も滅ぼしかけた種族が偉そうに宣って良い事ではありません。
植生を確認しながら、あたしは歩く。
概ね上手く行っている。
神代にばらまかれた侵略性外来生物。ラプトルや走鳥。それにサメは、殆ど駆除が終わっている。
これらの生物に罪は無いが。
明らかに既存の環境に悪影響を与える生物については、駆除するしかない。
ただ完全に滅ぼしてはおらず、一部は拠点で飼育している。もしも必要とされる場所が出たら投入するつもりだが。
ただそれも、生物としての設定を色々変更してから、になるだろう。
荒野の全てをこれで緑化できたと思う。
世界の半分が荒野だった。
だが、それも終わったのだ。
やっと、一段落出来たな。そう思って、あたしは伸びをする。
色々あった。
パミラさん以外の神に接触も受けた。どうやらあたしは、相応に着目されていたらしい。
あたしに着目する前に、旅の人をどうして助けてやらなかったと面罵したが。それも頭を下げられた。
神も全てを見ているわけでは無いし、万能でも全能でもないのだと。
それで彼方此方に助っ人に出向いた。
よくしたもので、あたしと同じように人間止めた錬金術師は、彼方此方で同じように呼ばれて世界の危機やらに対処したりもしているらしい。アンペルさんも巻き込まれたりしていたが。
まあはっきり言って、迷惑な話だ。
神が万能でも全能でもないのは、全能のパラドックスを越えられない時点で分かってはいたが。
どうやら思った以上に、自分の世界を管理できていないらしい。
もしもちゃんとした神がしっかり管理している世界なら、こんなに不幸な人は出無いのかも知れないな。
そう思ったあたしだが。
とある地獄で出会った……今のあたしでは及びもつかないとんでもない錬金術師は、そういった神も万能では無いし楽園を作れる訳では無いと言っていたっけ。
だとすると、人間がまず努力しなければいけないが。
残念ながら、人間は努力を嫌がる生き物だ。
尻の叩き方は色々あるのだろうが。
あたしは少なくとも、人間そのものには期待していない。
だから、品種改良した。
人が来る。
顕性の性質として、エゴを抑止し悪徳を喜ばず。そう改良したホムンクルス達を世界中にばらまいて、世界中の人間と交配させた。
今や世界の人間の全てが顕性としてエゴの抑止を受けている。
それは人間に対する冒涜だと、昔だったら口にする人もいるかも知れないが。
世界を焼き滅ぼし、更に他の世界にまで迷惑を掛けておいて何をいうかとあたしは返す。
今此方に来るのは、そういう調整を受けた人間達だ。
「ライザどの。 この土地の改良は終わったのですね」
「うん。 それでは、入植の準備を始めて。 くれぐれも互いに争わないようにね」
「承知しました」
顔役が声を掛けると、さっと手慣れた様子で、人々が散って行く。
人に個人差はある。
何が得意何が苦手。
だが、新しい人とも言えるこの種族は、エゴを優先しない。
まだたまに犯罪は起きるが、過去のように何をやっても自分を正当化したり。あらゆる犯罪を何とも思わないような人間は一人もいなくなった。
生き残っているのは、あたしとクラウディアで狩りつくした。
錬金術師も、少しずつ出て来ている。
だが、いずれもエゴを最優先しない。
それに才能も今の所、世界に問題を引き起こすような者は出ていない。
だからあたしは、基本は放置するようにしていた。
同胞の戦士が来る。
まだガイアさんたちは生きているし、未だに当時から現役の同胞戦士はそれなりの数がいる。
あれから。
万象の大典を潰してから八百七十五年。
今、人間は完全に入れ替わり、それで世界も変わろうとしているが。
それでも非力な人の盾になるため。
働いている同胞は存在している。
「ライザ殿。 お耳に入れたく」
「どうしたの?」
「かなり強力な魔物が発見されました。 現地の戦士達が大きな被害を出しています。 助力願いたく」
「分かった」
此処は任せて、即座に向かう。
今は多くの人の命が危険にさらされている。
だから、それを助けにいかなければならない。
門を潜った先は、地獄絵図だった。
街の中は破壊され尽くされ、散らばっている死体。それを囓っているのは、多数の首が生えている巨大な魔物だ。ヒドラに似ているが、もっと大きい。
此処はそれなりに大きな都市で、昔は第四都市と言われていた場所だ。
色々あって此処も調整して、今ではすっかり平和な都市に代わったのだが。この魔物は、どこから湧いた。
あたしを見る多数の目。四つ足だが、ドラゴンともヒドラともだいぶ違う。これはなんだ。
それは二本足で立ち上がると、凄まじい雄叫びを、多数の首から上げた。人間を食うために殺した訳では無く、殺すために殺した。そういう印象だ。
「クラウディアの助力はいらないかな。 負傷者をできるだけ救出して後退して」
「承知」
あたしは前に出る。
凄まじい魔力だが、だから何だ。
同時に多数の雷撃魔術を多頭蛇もどきが放ってくる。あたしはすっと息を吸い込む。それが詠唱だ。
雷撃が消し飛ぶ。
魔物が、それで今目の前にいる存在がなんだか初めて理解したらしい。おののき、明らかにさがろうとするが。
その時には、空間の壁を越えて、あたしは至近に。
そして、そのまま、抉り蹴っていた。
全身が真っ二つに砕けた得体が知れない魔物が、吹き飛びさえせず、その場で破裂して砕け散る。
異世界に呼ばれて力が制限されているときならともかく、最近はすっかり全力を出さなくなってしまったな。
自分用に調整したトラベルボトルの中で時々鍛錬をするのだが、それくらいだ。
地面でぐしゃぐしゃに潰れた魔物。
おおと、声が上がっていた。
「即座にサンプルを回収。 こいつ、ちょっと様子がおかしい」
「分かりました」
「負傷者には惜しみなく物資を出して。 あたしも治療に入るよ」
即座に負傷者の救助と、野戦病院の設置、トリアージを始める。
同時に聴取も実施。
あの魔物は、いきなり街の中に現れたという。手当たり次第に人間を殺し、制圧に来た戦士達を返り討ちにしたようだ。
確かに超ド級並みの強さはあったようだが、今の時点で人間に害がある超ド級は全部処理が終わっている。
だとすると、なんだろうなこれは。
死体を回収して貰って、あたしは助かる範囲の人間は全て助ける。今では義手義足をわざわざ作るまでもない。
そのままその場で再構築できる。
それくらい、エーテルの扱いには慣れた。
よくしたもので、クラウディアも大陸全土の音を拾えるくらいまで力を上げている。犯罪者を何処まで逃げても即時抹殺出来るクラウディアの技量があったから、ゴミ掃除は早く終わったとも言えるだろう。
血の臭いも。
死んで行くものも。
もう慣れた。
あたしは人間を止めて、人間性を捨てたが。
かといって、手の届く範囲の人間を救うのを止めたわけではない。
痛い痛いと嘆いている人を、痛み止めをし。失った手足を修復する。あたしにできる救助はする。
それが終わったら次だ。
全てが終わった時には、日が暮れていた。
休む暇はない。
回収したヒドラもどきを調べに拠点に戻る。
今では既に、門すら必要なくなっていた。そのまま空間を跳んで拠点に戻る。
研究施設では、ヒドラもどきの解剖と調査が進んでいた。
「どう、状態は」
「これは信じがたい事ですが、神代の生物兵器ですね」
「……!」
拠点にいるのは同胞のメンバーだけだ。
まだ人間は入れられない、と判断しているためである。
クラウディア以外の仲間がみんないなくなってからも、あたしは活動を続けてきているが。
だが、やっと人間の品種改良が終わった段階である。
油断はしない方が良いだろう。
そう思っていたのが、適中したようだった。
「どこから現れたのか分かる?」
「今調査中ですが、拠点で捕らえているのが、擬似的な門の形成が起きたという事です」
「門の形成となると、トラベルボトルか何かかな」
「或いはそれを使った錬金術師によるテロかもしれません」
可能性はあるか。
錬金術師は確認しているが、今の時点でそういう事をする危険人物は確認されてはいないとみていい。
しかし神代の関係者は全て葬った。
大典も完全に解析した後、この世界から文字通りコードの一行も残さずに屠った。
だとすると、なんだ。
解析をそのまま進めて貰う。
翌日。
また、大きめの都市でテロが起きた。
どうやらまだまだ、世界は安全ではないらしい。それで使われたのも、同じような魔物で。あたしが駆けつけるまでに、大きな被害を出す事になっていた。
テロが起きても、人々はある程度冷静だ。
混沌の時代は末期にはテロが横行し、それで人心が荒れ果てに荒れ果てたという話をあたしは既に聞いている。
これをやっているのは、その時代の事を知っている奴の可能性が高い。
あたしが駆けつけて、即座に魔物を屠りさる。
現地の戦士達が勝てない相手を、風のように現れて屠る同胞の事は既に知られているが。
あまり同胞に頼り切られても困る。
だから余程ヤバイ場合くらいしか出ないようにはしている。
如何に堕落しないように人間を品種改良したとはいえ、それでも堕落の種は撒きたくないのである。
数度のテロを鎮圧して、それで分析が出た。
拠点に戻ると、母が話しかけてくる。
アインが人間として生きるのを最後まで手伝い。大往生まで遂げるのを見届けたあたしに、母は既に全幅の信頼を寄せてくれていた。
「錬金術師ライザ。 結論が出ました」
「聞かせてくれますか?」
「貴方の予想通り、敵は何処かしらの隔離空間からあの魔物を繰り出しています。 魔物のデータは以前廃棄された試験中のもので、いずれもが殺傷力だけで操作性に乏しいプロトタイプと同型でした」
「なら神代関係者は確定ですね」
こっちも母にはまだ敬意を抱いている。
互いに必要な戦略的パートナーである。だから、情報収集についても、腹芸なしでいける。
その点では、今や人間世界を裏から牛耳っているクラウディアと同じだ。
「問題は居場所ですが……」
「恐らくですが、時間魔術を使って送り込んでいると思われます」
「!」
「時間魔術は旅の人がいた頃であれば、魔物に持たせる技術すらありました。 それを考えると、当時の技術を持つ錬金術師が、そもそも自身に時間魔術を用いた可能性があります」
なるほどな。
目端が利く奴がいたら、混乱を見て未来に逃げる事を考えたのかも知れない。
神代の錬金術師の中で多少は頭が回る奴が混じっていたら、万象の大典なんか長くは続けられないことくらいは分かっていただろう。
だから、自分だけさっさと未来に逃げた。
可能性は否定出来ない。
ただ、時間魔術はかなりのエネルギーを使う。もし移動するなら、自分だけ、それもそう長い時間を移動するのは不可能だ。未来はまだいけるが。過去は特に巨大なエネルギーを使用することが分かっている。
そうなると。
「恐らくは、自身の時間を極端に遅らせることで、未来へと自身を送り込んだ」
「同じ結論です。 もしもそうだとすると、現在の世界に対して対応力を見ている段階なのかも知れません」
「まあいいや。 神代の生き残りが相手なら、駆除を今度こそしっかりしないといけないし」
最後は独り言だ。
神代の錬金術師は根絶やしにする。
あたしの座右の銘である。
今回も同じだ。
今までのデータを洗い直して貰う。異界に身を隠していると言っても、この拠点ほどの設備を用意できる訳もない。
そんな事ができる奴だったら、もっと色々と悪辣な事をして、周到に立ち回れているとみて良い。
何かしらの此方の監視の穴でもついているとみて良い。
悪知恵だけは働く連中だったのだ。
得意分野とみて良いだろう。
そうして調査を続ける。
あたしが目をつけたのは星図だ。
これを使って、タオと一緒に座標を集めたっけ。今ではパティとともにアーベルハイム国の始祖として知られ。
アーベルハイム国の憲法を整備し、議会制度を開くための準備を整えた名宰相としても知られている。
晩年は戻って来たレントと一緒に、各地を視察して、それでアーベルハイム国の問題を洗い出し、今の安定の基礎を築いた。
あたしには、もう遠い昔の話だが、今でもこうして力をくれる。
気になったのは、星図に変化が出ていないと言う事。
そうなると、やはり。
そして、テロが起きた地点をもう一度確認して見ると、結論は出ていた。
翌朝、手練れとともに、現地に乗り込む。
現地は、古くには神代の国の首都だった土地。神代が終わる過程で滅び、その時に廃墟になった場所。
手練れの戦士と同胞の戦士とともに、其処を取り囲む。
やはりあった。
トラベルボトルだ。
躊躇なく破壊にいくあたしに、それは即座に尻尾を出していた。
周囲に出現する、形も定まっていないような魔物。一斉に襲いかかってくる。周囲の痕跡を直に見て理解する。
やはり時間魔術で、トラベルボトルそのものを未来に飛ばしたのだ。
最悪、人間がいなくなった土地を抑えて、神になるつもりだったのだろう。
神代の人間の考えそうなことである。
周りの魔物は、今までテロに使われた魔物ほどの強さはない。
というかこのトラベルボトルを携帯して、時間差で魔物が出現するように、各地で細工をしていたのだ此奴は。
ずっと眠っていた魔物が暴れるように設定だけして、それで自身は離れていた。
それで足が着かなかったのである。
歴戦の同胞の戦士達は、あたしが一緒に戦った皆ほどの強さはない。だが、あたしが作った装備で身を固めている。
戦況は圧倒的優勢だ。
あたしが手を出すまでもない。
まだまだ追加が出てくるが、平然としているあたしに、敵の方が業を煮やしていた。
「なんだ貴様は! 錬金術師のくせに、なんでそんな高価な装備を猿と人形に渡している!」
「そのものいい、やっぱり神代の錬金術師だね。 顔を見せたら?」
「猿に見せる顔など……くそっ!」
あたしがトラベルボトルに躊躇なく熱槍を叩き込んだので、ついに姿を見せる。
姿を見せたのは、皺だらけの老人だった。
トラベルボトルの閉鎖空間に隠れて未来に逃げたとは言え、時間魔術でトラベルボトルごと移動したのだ。
無理が出ない筈がない。
皺だらけの陰険そうな光を目に湛えた中肉中背の老人錬金術師。それがテロリストの正体だった。
そいつが出現して、あたしの熱槍を防ぎ切るが。
勿論加減した一撃だ。
防ぐだけで、奴は青息吐息である。
「殺す前に聞いてあげる。 動機は?」
「わ、私は錬金術師だぞ! 世界を好き勝手にする自由がある! 私は錬金術師である時点で、生態系の頂点にある! 生態系の頂点にある存在は、全てを好き勝手にする権利を有しているし、世界を好き勝手に変えて良い! 生物学的にも、それは証明されているんだ!」
「バカか貴方」
「なんだと猿が!」
勘違いも甚だしい。
生態系の頂点というか頂点捕食者というのは、生物の補食関係の頂点に確かに存在はしている。
だがそれは、食べるものがいなくなればあっと言う間に滅びるし。
なんなら環境が変わってもあっと言う間に滅び去る。
世界をもっともダイナミックに変えたのは、この星に登場した酸素を産み出すラン藻と呼ばれる存在で。
それはとてもちいさな、生態系の頂点などではなかった。
しかもラン藻がその後世界を支配したなどと言う事もない。
万物の霊長を気取った人間だって、自分を偉いと勘違いした挙げ句に、世界を焼き滅ぼし。旅の人に助けて貰わなければ確定で全滅していた。
その程度の生物だ。
「錬金術師が最強? 笑わせるね。 あたしは他の世界で実際に神やらもっと凄まじい存在を見てきたよ。 最強なものか。 だいたい錬金術師の中でも、神代の錬金術師なんて下も下。 あたしだって、他の世界の錬金術師の凄まじさには、瞠目していたくらいだ。 最強なんて抜かしている時点で、貴方は自分の進歩を止めている。 だいたい旅の人がくれた技術を搾取していただけの癖に、何が頂点だか」
「お、おのれ! 猿の分際で!」
猿猿と五月蠅い輩だな。
放り投げてくる爆弾を、対処する必要もない。
指を鳴らす。
それだけで爆弾を消滅させた。
空間魔術で圧搾したのだ。
あたしが地獄みたいな所であった錬金術師は、相手の存在次元を下げるというもっととんでもない事を思考するだけで実行していた。
つまりあたしの技なんて、まだまだということだが。
神代の錬金術師は、それを見て硬直する。
だが、喚きながら、最強だろう雷撃魔術を放ってくる。こんなもの、避ける必要もない。文字通り全てを焼き焦がすような火力だが。それも旅の人が作った装備による強化がかかってのこと。
此奴が強い訳でもなんでもない。
真正面から直撃を受けて立つ。
防御もしない。
それで、あたしが小揺るぎもしないのを見て。
錬金術師は、蒼白になっていた。
「ば、ば、ばかな! 化け物……!」
「知らないようだけれど、旅の人は今のあたしと互角かそれ以上だったんだよ」
「あ、あり得るはずがない! あんな愚かなはしためが、そんな強さだった訳がない! 私の魔術は、錬金術で強化した、世界を支配するに足るもののはずだ!」
「あの腐った万象の大典から、さっさと離れる判断をしたことだけは褒めてあげるよ。 だけれども、脳みそが腐り果てた優生学にそまった神代の錬金術師の枠を越えることはできなかったね貴方は」
一歩を踏み出す。
あわててトラベルボトルに逃げ込もうとする錬金術師だが。
あたしが既に、それは機能停止させた。
トラベルボトルが動かないのを見て、神代の錬金術師は散々馬鹿にしていた猿のような金切り声を上げていた。
「猿は貴方……いや貴方たちだね。 神代の錬金術師」
「おのれえええっ!」
掴み掛かってくる。
どうでもいい。
いずれにしても此奴は死刑だ。
此奴は恐らく、各地に魔物をばらまいて、テロで恐怖を誘発し。それを利用して、世界の王者になるつもりだったのだろう。
最初こそ初動が遅れたが、あたしがいなくても対応はできた筈だ。
あまりにも人間を舐めすぎている。
特権意識と身内での評価だけで生きてきた人間なんて。
こんなものである。
錬金術師の首を掴む。そのままつり上げる。身体能力が違い過ぎる。こんな枯れ木みたいな脆い体、それこそ砕くのになんの苦労もない。
あたしの体術は衰えていない。
そのまま、熱魔術で燃やす。
生きたまま松明になった神代の錬金術師は、凄まじい絶叫を挙げていた。
「わ、私は高貴な存在なんだぞ! 触る事など、ゆるさ……」
「死ね」
そのまま炭クズになった神代の錬金術師を、あたしは握り砕いていた。
周囲での戦闘も終わっている。
あたしに明らかに恐れを抱いている戦士もいるが、咳払いをしたのは、同胞の戦士だった。
「邪悪は討ち取られた。 此処で討たなければ、もっと被害が拡大していただろう。 それはお前達の家族や恋人だった可能性が高い!」
「そ、そうでした。 失礼いたしました」
「負傷者を確認し次第、撤収に入る!」
あたしが頷くと、同胞の戦士は戦士達をまとめて引き揚げて行った。
一部の同胞の戦士は魔物の死骸を集めて、拠点に持ち帰る準備をしていた。手際が良くて助かる。
あたしはトラベルボトルを拾い上げると、それだけで内部を確認できる。
内部は時間の流れを遅らせる時間魔術で満たされている、ちいさな世界だった。
これに入って、未来に飛んだのか。
バカみたいな事をやったものだな。
他の神代の錬金術師がいなければ、自分が一番になれる。
そう錯覚していたのだろう。
だが、老人になって外に出て見れば。
世界は奴にとって気にくわないものとなっていた。
だから壊そうとした。
それだけの、なんとも浅い奴だった。
直接、生身の神代の錬金術師と相対したのは実は初めてだった。だが、予想の範疇をまるで超えていない愚物だった。
こんな連中に世界は滅茶苦茶にされたんだな。
そう思うと、失った筈の人間性が哀しみを訴えてくる。
本当に人間を品種改良していて良かった。
ありのままの人間が素晴らしいと、無根拠な人間賛歌を垂れ流していた愚劣な生物は、もうこの世界にはいない。
神代は、これでやっと最後の一人が死んだ。
やっとこの世界は。
明日に向けて、歩き出すことができるのだ。
本拠に戻ると、クラウディアが来ていた。
一連の出来事は把握して、既に復興作業などの予算を出してくれている。
すっかり世界の裏方が似合っている。
悪辣な裏方だったら対立することになったかも知れないが。
クラウディアは極めてクレバーで合理的で、そして公平だ。
そして今も会いに来ると、お菓子を出してくれるし、お茶も淹れてくれる。
今ではすっかり流通するようになった砂糖を豪華に使ってくれるお菓子は。今でも、甘いと感じた。
「お疲れ様、ライザ」
「クラウディアもね。 後始末、それなりに大変だったでしょ」
「人間が無計画に増えなくなった頃から、管理はあんまり大変ではなくなったよ。 悪さをする輩も、露骨に減ったしね」
そういえば、最後に犯罪組織を潰した報告を受けたのは、三十七年前だったか。それもごくちいさなものだった。
茶菓子を食べながら、軽く話す。
「宇宙計画の打診が来てる。 そろそろ、ライザが世界に関与しなくてもいい時代が来ようとしているかもしれないんだ」
「もうそんな時代なんだね。 今の人類だったら、無作為に他の種族を襲ったり、屈服させようともせずに、融和を図れそうだね」
「うん。 タオくんが苦労して色々法律を整備してくれたからね。 悪さなんてできようもない」
「あいつは凄かったな。 多分人間史上最高の知恵者の一人だったんだと思う」
他の皆のことも思い出す。
レントは晩年まで各地を旅して、一人で世界を見てまわった。
結局結婚はしなかったらしい。
それでも、今でも各地にレントの伝説は、最強の剣士として残っている。
途中からは、義賊三人組と一緒に各地を回ったらしい。時にレント達の逸話は、喜劇として残っているそうだ。
パティはアーベルハイム国の女王として辣腕を振るったが、血縁での権力世襲をしないことを名言。
それを法制化して、以降もアーベルハイム国は優れた為政者を出し続けることになった。まあ、あたしもクラウディアと同胞と一緒に悪さをする連中を後ろから駆除してはいたのだが。
いずれにしても、今の世界の安定を作ったの表の立役者はパティで。最強の剣士の一人と言う点でも、レントとどちらが上かで今でも議論があるそうだ。
あたしから見ると、攻めのパティに守りのレントで、甲乙つけがたいが。
ボオスはクーケン島の名長老として過ごしたが、晩年は養子に後を託してクーケン島を去った。
以降はオーリムでくらして。
キロさんと最後まで仲睦まじく過ごしたそうだ。今も数人の子孫がいて、時々会いに行く。
リラさんはウィンドルの復興の過程で、キロさんの次に奏波氏族の長になった。
白牙氏族はもうリラさんしかいなかったし、それで良かったのだろう。
アンペルさんは許される範囲でウィンドルに技術を整備して、生活をある程度楽にした。まだウィンドルは復興の途上だが、それでもアンペルさんが残した技術は大切に使われていて。
オーレン族に対しては、時々あたしも技術的なアドバイザーをしている。
そろそろ、交配しても母胎に害が出ない特効薬ができると思う。
そうなったら、全面的な交流を解禁しても良さそうだ。
セリさんはオーリムの植生回復に一生を注いだ。クリフォードさんは生き残りを探しながら、最後までコンビを組んでいたらしい。
二人は結婚はしたが、子供は一人だけだった。
その辺りの理由はあたしにはよく分からない。仲睦まじい夫婦には見えていたが。
ディアンは立派な験者になってから、何度か会いに行った。
フォウレの里は、今では森とともに生きながら、それでいて立派な集落にもなっている。
都会でありながら、森と共存出来ている素晴らしい場所だ。
それを実現したのは、大人になってすっかり落ち着いたディアンが、あたし達と各地で見たものを生かしたから。
以降も、フォウレの里では、有望な人間に留学をする支援制度を組んでいるようである。
サルドニカは今は技術都市である。
フェデリーカがしっかり整備した技術基盤が今でも生きていて、職人の街が、そのまま技術の街になった。
フェデリーカが亡くなってから二百年後くらいには、自力で工場などの整備もできるようになり。
今ではあたしが出向かなくても、自力で自活できている。
その分与太者の類が一番しぶとく活動していた地域でもあったが。
あたしとクラウディアが念入りに駆除したから、今はもう平穏だ。
人間の品種改良が済んだ今となっては、今更湧くこともないとは思うが、それでもいざという時に備えてはある。
あたしは、油断するつもりはないし。
堕落もするつもりもない。
それは仮に人間が宇宙に出たとしても同じだ。
もしも人間がまた悪さを初めて、堕落する場合は。
全部まとめて叩きのめして、再教育する。
それが今のあたしの責任。あたしには、それができる力もある。
外の世界であった錬金術師によると、銀河規模文明くらいまでなら、単騎で制圧が可能だそうだ。
というわけで、人間には今後もしっかり今のままで過ごして貰うとする。
「さて、私はそろそろ行くね」
「お墓参り?」
「うん。 定期的に行っているんだ」
「みんな喜ぶよ」
頷くと、クラウディアは席を立つ。
あたしは見送る。
以前とは逆の構図だが。人間社会に関わっている濃度で言うと、今はクラウディアの方が上だ。
あたしは伸びをすると、幾つか進めている研究を、完成させる事にする。
技術は人間にさえ無作為にばらまかなければ。
どれだけ極めても問題ない。
何かとんでもない問題が起きたときのためにも。
あたしは錬金術を極めておく必要があるのだった。
神代のカス錬金術師の最後の生き残りとライザの戦いは、敢えて入れています。
直接対決をさせておきたかったからです。