暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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※原作ライザ3と違い、本作ではフィーが今も側にいます。

この理由については、暗黒!ライザのアトリエ2をご覧ください。


1、怒濤の異変

その日は、朝からブルネン邸で怒号が飛び交う事態となった。

 

基本的にクーケン島の方針を決める村会は、最高指導者であるブルネン家の広い庭で行われるからだ。

 

相変わらず古老達が自分のお気持ちをぶち上げて。その取り巻きとともに、文句をつけ。

 

昔ながらの生活を重視すべきだと吠えたて。

 

あたしの作った装置による生活を否定しようとしたのである。

 

あたしは正面から受けて立つ。

 

「そもそもこの島が、古代クリント王国の錬金術師達がつくったもので、この島だって五百年程度の歴史しかありません。 それに、そもそも乾きの悪魔は四年前にあたし達が全部片付けました。 そういう状況で、なんの伝統を守ると言うんですか」

 

「そんな風に考えているから、作物の質が落ちるんだ!」

 

古老が喚く。

 

そうだそうだと、年寄りを中心とした古老の取り巻きが言う。

 

あたしは咳払いした。

 

「そもそもこの島の水がどうやって得られているか、古老達だって見た筈です。 たった四年前の事です。 この島の水は、汽水湖であるエリプス湖の塩水を淡水に装置で変えて、各地に提供されていたもの。 その装置が壊れた後は、余所から奪った水を無理矢理にひねり出していたものだった事を忘れましたか?」

 

「そ、それはそうかも知れないが! 伝統はそうやって軽んじてはいけないと言っているんだ!」

 

「守るべき伝統はそれはそれで良いでしょう。 しかし種が割れてしまった伝統に、なんの守る価値があるというのか。 例えばクーケン島から遠く離れると、強力な魔物がまだまだいて危ないから、行かないようにするとか、論理的に……」

 

「ええい、五月蠅い五月蠅いっ!」

 

感情で来るのなら。

 

こっちも暴力でいこうかな。

 

そう思った瞬間。モリッツさんが。現在、島の事実上の指導者であるブルネン家の当主が、割って入る。

 

「まあまあ、ともかく。 ライザ。 野菜の味の質が落ちているというのは、実は古老達だけの話では無い。 カールからも意見が上がって来ていてな」

 

「父さんから?」

 

「ああ、微妙にだそうだが……。 ただ知っての通り、ライザの作る錬金術の産物達とならんで、皆が作っているクーケンフルーツがこの島の貴重な外貨獲得のための切り札なんだ。 クーケンフルーツはただでさえ、冷気で凍らせて各地に運ぶ。 その過程で味は落ちる。 最初から味が落ちると、それの影響は更に強くなるだろう」

 

「ふむ。 分かりました。 それなら、淡水化装置の調整をします。 ただ……クーケン島一番の農夫である父さんと相談しながらになりますね」

 

お気持ちでぎゃいぎゃい騒いでいるお前らなんかしるか。

 

そうはねのけてみせると、まだ何か古老は言おうとしたが。

 

その瞬間。

 

どんと、島が揺れていた。

 

これは、何かあったな。

 

今も時々島の中枢に潜って状態をチェックしているのだが。もう島が流されている事はない。

 

揺れは短かったが。明らかに何かにぶつかった感じだった。

 

すぐに島の中枢に、モリッツさんと古老を連れて潜る。中枢への行き方は変わっていない。ブルネン家の敷地の一角から、島の地下に潜るのだ。

 

ごうごうと音を立てているのは、件の淡水化装置だ。何回か改良はしたのだけれども、それでも大がかりな装置である事は変わっていない。フィーが珍しそうにいつも見ているが。危ないから触らないようにと告げると、きちんとその言いつけを守る。出来た子である。

 

パイプが縦横に走る闇の中を行く。古老はひいひい言いながらついてくる。

 

島の中枢へは、矢印などをタオが設置してくれているから、誰も迷う事はないが。それでも危険はある。

 

モリッツさんが、古老をなだめながら、遅れてついてくる。

 

あたしは一足先に中枢につくと、光学式コンソールを起動。

 

タオほど即座には動かせないが、それでも順番にステータスを見ていく。

 

やっとモリッツさんが、追いついてくる。

 

「ら、ライザ。 どうだね」

 

「……今までに存在しなかった場所に暗礁が出来ていますね。 隆起したみたいです。 島の外で地震、起きていないですよね」

 

「そんなものは起きていない筈だが……」

 

「ふむ……」

 

地形の変化なんて、簡単に起きる筈がない。

 

大魔術の使い手だって、そう簡単にはできない。

 

魔術だけという括りなら、あたしとクラウディアが連携して、大雨をオーリムで起こしたけれども。

 

あれだって、奪われた水を戻しながらの作業だったり。

 

或いは余所から持って来た水を使ったり。

 

元から相応の水があったりして、やっと出来た事だ。

 

雨でさえそう。

 

地震を引き起こせる魔術師の伝承は残っているが、それでも暗礁が隆起するようなパワーの持ち主は。少なくともこの世界にはいないはず。

 

オーレン族の長老級になってくると、もの凄い魔術が使えるらしいが。

 

それでも出来るかどうか。

 

だとすると、考えられるのは。

 

無言で外に出て、警戒用の装置類をチェック。

 

案の場、数値に異常がたくさん出ていた。

 

クーケン島の南側の岸。其処から西にずっと行くと、以前は普通に海になっていた。その辺りが大規模な隆起を起こしているようである。その結果、多数の島が出現しているようなのだ。

 

アガーテ姉さんが来る。

 

護り手も何人かつれていた。

 

「ライザ。 遠出に出ていた護り手が、島が多数出現したと言っている。 何が起きたか分かるか?」

 

「いえ。 今、あたしも警戒用の装置からの情報を察知したところです。 この規模だと恐らくは……」

 

古代クリント王国の遺跡か何かか。

 

それとも更に古いものか。

 

恐らくは後者だ。

 

というのも、古代クリント王国は、このクーケン島を不完全な状態で作るのがやっとだったのである。

 

何らかの条件が整った事によって、隆起する多数の島。

 

そんなものを作れるとは思えない。

 

そうなると、神代か。

 

少し前から聞こえていた雑音。

 

あたしを観察している何者か。

 

一緒の存在でないと良いのだが。

 

「偵察が必要だな。 皆、クーケン島の守りを固めろ。 兎に角何が起きるか分からない。 緊急事態だ」

 

「はっ!」

 

「三人、私とついてこい。 ライザ、偵察に行くぞ」

 

「分かりました!」

 

流石はアガーテ姉さんだ。

 

モリッツさんが苦言を言う。

 

「今日はサルドニカの商会が様子を見に来る。 あまり慌ただしい事は……」

 

「商機より人命です。 その程度の事が分からぬか、モリッツ殿!」

 

「う……そうだな。 確かにそうだ。 すまなかった」

 

「偵察に出向いてきます。 何がいるかまったく分かりませんから、とにかく私達が戻るまでは島から出ないように。 サルドニカの商会や船については、モリッツ殿が引き留めておいてください」

 

軍事に関連しては、もうアガーテ姉さんが完全にクーケン島を取り仕切っている。

 

これは四年前の色々な出来事の結果、軍事の指揮を一本化すべきだという案が出て。それを村会一致で決議したからだ。

 

そしてそうなると。

 

護り手の長であるアガーテ姉さん以外に、まとめる人員はいなかった。

 

実はコレ、あたしのこれ以上の発言権強化を防ぐために、古老達が仕組んだらしいのだけれども。

 

あたしとしても、別に権力なんか欲しく無いし。

 

アガーテ姉さんは有能だし。

 

話も分かる。

 

だから、それでいいと、村会で普通に賛成意見を出した。それを見て、古老達が悔しがっていたのを、良く覚えている。そしてそもそも、アガーテ姉さんが島の為に動く人間であって。

 

古老達が好き勝手を言ってそれに従うわけでも無い事を。

 

古老達は忘れていたようだった。

 

あれは、痛快だったな。

 

ともかく、アガーテ姉さんと三人の護り手。それにあたしで、まずはアトリエに。装備類を渡す。

 

あたしが時々刷新して、皆に武器を引き渡しているのだが。

 

それ以外に、最悪の場合に備えて信号弾や、煙幕なども皆に渡しておく。

 

アガーテ姉さんの剣は、既にゴルドテリオンで作り、更にはグランツオルゲンで生体魔力にパンプアップを掛けるようにした強力なものだ。

 

アガーテ姉さんに渡したこの剣は、王都でも手に入るものじゃない。

 

他の護り手の戦士にも、力量に相応しい武器を渡している。

 

回復薬も揃えておく。

 

「フィーはつれて行くのか」

 

「あたしが気付かない事に気付いて、警告してくれたりするので。 足を引っ張ったこと、一度もないでしょう?」

 

「そうだな。 皆、準備は終わったか!」

 

「はっ!」

 

四年前は、此奴らは愚連隊同然だったような気がするが。

 

多分あのフィルフサ関連の動乱で、アガーテ姉さんも鍛え直しが必要だと判断したのだろう。

 

そういえば、使い手と言えばザムエルさんだが。

 

今日も朝からしこたま飲んで、家で寝ているという話だったか。

 

最悪の場合、ザムエルさんに島を守って貰うことになるが。

 

それについては、まあ仕方が無い。

 

あれでも、今でも相当な使い手だ。少なくとも、ちょっとやそっとの相手に不覚は取らないだろう。

 

準備を終えると、西に急ぐ。

 

荷車を護り手の戦士が引いて。残りの四人でフォーメーションを組んで、西への街道を走る。

 

この辺りの魔物は、あらかたあたしが退治してしまったので、もう危険なのはいない。湖岸にはパルマーの木が生えていて、そろそろ収穫時の実もある。パルマーは木材としても使えるし樹皮も使える。実も食べられる。

 

湖岸にたくさんあるパルマーの実は、古くから多くの人を餓えから救ってきた。

 

だから、斬りすぎないように取りすぎないように、皆からいつも注意が入るのだった。

 

「急ぐなら、洞窟を抜けますか?」

 

「今の時間は干潮だな。 急いで抜けるぞ」

 

「了っ!」

 

走る。

 

昔、皆と一緒に、リラさんの最初の試験を受けた洞窟だが。

 

此処もすっかり今では安全だ。

 

精霊王も去ったし。幾つも配置されていたゴーレムも、全て破壊しておいた。満潮に潮が流れ込む関係で、たまに大物の魔物が入り込む事もあるが。

 

それは全て警戒装置で確認して、あたしが駆逐している。

 

多少足下が濡れているが、気にすることもない。

 

一気に走り抜ける。

 

洞窟を抜けると、左手に聖堂が見える。

 

そう。

 

あそこから、四年前。

 

フィルフサが大挙して、この世界に押し寄せる一歩手前だったのだ。そうなっていれば。ロテスヴァッサなんてひとたまりもなく滅び去ってしまっただろう。

 

此処から北に行くと、廃村落がある。

 

この近所だと珍しいデルフィローズの産地だ。ある程度立派な屋敷も残っていたりするのだが。

 

屋敷周辺も屋敷の中も魔物だらけ。

 

既に魔物に潰された集落だ。

 

そういう集落はいくらでもある。

 

そして北の集落出身で、クーケン島に逃げてきた人達もいる。クーケン島にいる幾らかの人は、北の集落の出身者の子孫だ。

 

だが、今はそれにかまう暇もない。

 

「鼬、数は四!」

 

「蹴散らすぞ!」

 

「了!」

 

護り手の戦士達が散る。

 

なんだろうと様子を見にでてきた鼬。

 

人間よりかなり大きいそれらが、アガーテ姉さんの剣で先頭の一匹が両断されると。あわてて逃げ出す。

 

悪いが、人間を常に怖れさせておかないと。人間に平気で近付いてくるし。何なら舐めて掛かってくる。

 

そうなると食害が発生する事も多く。

 

場合によっては人間の血の味を覚えて、多くの人が殺される事になる。

 

逃げ散った鼬にはかまわない。

 

ただ、鼬の死体はそのままあたしが即座に炭クズに変えてしまう。

 

それが終わり次第、走る。

 

今回は、獲物を解体回収するどころじゃない。現地で一刻も早く、情報の収集が必要なのである。

 

「この先です!」

 

「何がいるか分からない! 総員、戦闘準備!」

 

「了!」

 

わっと、パルマーや、他の木が雑多に生えている中を抜ける。

 

そうすると、その光景が、眼前に広がっていた。

 

美しい海に、多数そびえ立つ島。中には、クーケン島と同程度か、それ以上に大きいものもあるようだ。

 

明らかに自然に起きた現象じゃない。

 

島の中には、小山のように傾斜が鋭いものもある。手をかざして、様子を確認するが。此処から見ても、かなり大きな魔物が散見される。

 

海は浅瀬が中心だが。

 

この辺りは、そもそもかなり深い海だったはず。つまり、海底そのものがせり上がってきたとみて良い。

 

これは、相当な異常現象だ。

 

「この辺りを航路にしている商船もあった筈。 大型船が入り込むと、多分船底を喰い破られます」

 

「分かった。 まずは一人戻れ。 島多数出現、商船は一度航路の見直しが必要。 覚えたか」

 

「はっ!」

 

「よし、モリッツ殿に知らせろ!」

 

若い戦士が一人。更に護衛にもう一人が戻る。

 

さて問題は、周辺の安全だが。

 

顔を上げる。

 

空から舞い降りてきたのは、見た事もない奴だ。

 

人間に似ているが、違う。

 

手足二本ずつ。体は青黒く、うっすらと体毛に覆われている。しかし猿よりはだいぶ人間に近い背格好だ。背丈はあたしと同じか、少し高いくらいだろうか。

 

背中に蝙蝠のような翼を、手に巨大な槍を持っている。何より、生命にあるもの……魔力を感じない。顔にある眼はがらんどうのようで、魚介類以上に感情が感じられない。口には乱雑な牙が映えているが、それが動いて何かを食べる所は想像できなかった。

 

着地したそれは、非生物的な動きで、此方を見やる。

 

ぐるんと動く眼球。

 

こっちが視界に入ったことは分かったが。

 

生物に見られた、という印象を受けない。

 

これは、或いは幽霊鎧。この辺りに良く出る、中身がない鎧の魔物……その正体は、神代から古代クリント王国くらいまでに生産された、自動兵器。それと同じものではないのだろうか。

 

いずれにしても、その姿は。この辺りで怖れられる「乾きの悪魔」とはまた違う。だが、またそれとは別の。

 

魔的な存在に思えた。

 

「な、なんだ此奴……」

 

「油断するな。 ライザ、これを見た事があるか?」

 

「いえ……初めて見る相手です。 魔物でもないと思います」

 

相手の数は六。

 

じっと此方を観察しているようで動かない。

 

敵ではないのか。

 

そう一瞬思ったが、考えが甘いことを思い知らされる。槍を掲げたそれらが、不意に何やら不協和音らしいものを出す。

 

同時に、辺りに魔物の気配が満ちる。

 

ぷにぷにが、這い出してくる。辺りに打ち上げられた魚の死骸を喰い漁っていただろう不定形の魔物が、多数此方に来る。

 

鼬もだ。

 

ラプトルも走鳥もいる。

 

いずれもが、目に狂熱を宿しているか。或いは敵意を剥き出しにしている。

 

アガーテ姉さんが前に出て、剣を構える。

 

「ライザ、いけるか」

 

「任せてください」

 

「お前は撤退。 アンノウンと遭遇。 魔物を操作する能力を持つ可能性あり。 そう伝えろ」

 

「りょ、了っ!」

 

護り手の一人が、背中を見せて走って逃げていく。

 

それを追おうとした魔物を、あたしが熱槍で焼き尽くす。火だるまになって踊り狂うその魔物が、地面で燃え尽きる前に。

 

他の魔物が、一斉に襲いかかってきた。

 

 

 

辺り全ての魔物が押し寄せてきているかのようだ。

 

去年の戦いから、あたしは鈍っていない。

 

だけれども、アガーテ姉さんしかいない状況で、これは厳しい。立て続けに熱槍を放って、次々に雑魚を蹴散らす。

 

だが、見える。

 

浅瀬から、次々に見た事がない魔物が姿を見せている。

 

それは幽霊鎧のようだが。以前見た、どんな奴とも姿が違っていた。いずれも塩水に沈んでいただろうに、腐食している様子もない。

 

つまり、最低でもゴルドテリオンやクリミネアなどの現在世界で流通していない金属で出来ている、ということだ。幸い此奴らは、此方を観察しているだけで攻めてこないが。極めて危険度は高いとみた。

 

翼と槍を持つ六体は、じっと戦闘の様子を見ているが、それだけ。

 

いや、時々目がちかちか輝いている。

 

あれは、何かしらの指示を出しているのか。

 

それとも、魔物を催眠する何らかの技術によるものなのか。

 

アガーテ姉さんが、大きめの走鳥を斬り捨てる。

 

どうと倒れる魔物を無視して、次々に次が来る。あたしは詠唱をしている暇もない。近付く奴から優先して、順番に倒して行く。

 

百を超えたくらいだろうか。

 

脇腹に一撃もらった。

 

吹っ飛んで、だがそのまま立ち上がる。針を引き抜く。

 

マンドレイクの一種だ。歩き回る植物の魔物。それが、毒つきの針を、他の魔物の猛攻に混ぜて放ってきたのである。

 

すぐに薬を塗り込み解毒もするが、動きが鈍る。

 

その隙に、数体の魔物が、飛びかかってくる。

 

辺りは魔物の死体と臓物だらけ。それが、魔物を余計に昂奮させているのだろう。

 

アガーテ姉さんも相当に厳しい状態の筈だ。

 

「撤退を!」

 

「やむをえん!」

 

血路を開こうと、即座に後退開始。だが、翼と槍持つ魔物がまた眼をちかちかと光らせると。

 

まるで人間に指揮されているように、多数の魔物が後方に回り込んでくる。ひっきりなしに来るこの状態、大技も使えない。爆弾を時々投げて爆破しているが、隣にいる奴が粉々に吹っ飛ぼうと、平然と魔物は次々に襲いかかってくる。この狂熱に満ちた目、まるで……洗脳でもされているかのようだ。

 

奥歯を噛みしめる。

 

誰か、仲間がもう一人か二人いれば。

 

そう考えた瞬間だった。

 

躍り出てきた、二刀の剣士二人。

 

そう。

 

それは、タオと。もう一人はボオスだった。

 

後方に分厚く陣を組んでいた魔物を、蹴散らして突破して来たのである。それだけではなく、数人の護り手もいた。

 

「遅くなったなライザ、アガーテ護り手長!」

 

「今日戻りだったっけ?」

 

「そうだよ。 手紙は送ったと思ったけどな!」

 

まあいい。

 

二回の門の封鎖作戦でフィルフサの王種を討ち取ったとき、ボオスはどちらにも参戦していた。

 

その時に、既にアガーテ姉さんを除く護り手の誰よりも強くなっていた。

 

二人が加わった事で、形勢が逆転する。

 

前衛が増えた事で、あたしの魔術を詠唱つきで展開する余裕が出来。たちまちに、敵の群れが崩れ始める。

 

だが、それを見ると。

 

空に浮かんでいた翼と槍を持つものは。無言で下がりはじめる。

 

そして、いつの間にか、何処にもいなくなっていた。魔物も、凶熱から冷めたようにして逃げ始める。

 

一体何だったんだ。

 

あたしは、薬を取りだすと、手傷を受けているアガーテ姉さんに渡し。自身でも、傷口を塞ぐ。

 

「フィー!」

 

早速ボオスに飛びつくフィー。

 

まあ、門を閉じるときも、こうだったな。

 

「頭に乗るな。 それよりも、無事か」

 

「手傷は受けたけど、許容範囲内。 それにしても、こんな数の種類も違う魔物が、一斉に来るなんてね……」

 

「あれは?」

 

最後の方で、海から出現していた幽霊鎧もどき。

 

それらは後方から戦況を見ていたが。やがて戦いが終わったと判断したのか、海に戻っていく。

 

タオが、すぐにメモを取り始める。

 

アガーテ姉さんが。大きく嘆息していた。

 

「話には聞いていたが、別人のようだなタオ」

 

「いえ。 ただ背が伸びただけですよ」

 

「そうか……」

 

確か、タオは来月だったかにパティとの婚約発表をするらしいが。それで浮ついている様子は全く無い。

 

というか、本当にどうでもいいのだと思う。

 

タオが興味があるのは遺跡と建築。どっちでも、結局論文を出したそうで。精査した学者が、度肝を抜かれていたそうだ。

 

タオは本当に学問が好きなのだ。

 

良い夫になれるかは分からないが。

 

ただ、パティを殴ったり浮気したりする事はないだろうとも思う。問題はパティが、タオがこう言う奴だと諦めて受け入れられるかだが。

 

それについては、まああたしの知るところではないし。

 

どうにかできることでもなかった。

 

護り手が後から来て、魔物の死体を解体し、回収していく。あたしもボオスも、それを手伝い。

 

ざっと地図をメモしたタオも、それを手伝ってくれる。

 

何度か湖岸まで荷車を往復させ。状態がいい毛皮や肉は回収し。あたしが使えそうだと判断した内臓や体内に蓄積された魔力が篭もっている石などは譲り受ける。半日掛けて大量の死体を片付けて。それで一度島に戻る。

 

船の上で、軽く話をした。

 

「それにしても、帰ってきていきなりこれか。 今、島の方でもてんやわんやだぞ」

 

「モリッツさんは何してるの?」

 

「父さんに全部押しつけやがって……。 ともかく、致命的な混乱にはなっていないが、サルドニカから来た商会が何が起きているか説明しろと噴き上がっているようだな」

 

「はあ。 じゃあ、あたし達が行きますか」

 

残念ながら、水を浴びる暇もなかった。

 

つまり、散々返り血を浴びたままということだ。

 

それだけで、何が起きたか分かるだろう。それに、今島には、どんどこ魔物の毛皮や肉が運び込まれているのである。

 

大規模な戦闘が発生したことは、誰にでも一目で分かる。

 

今の時代、例外的な匪賊の類を除くと、人間が戦う相手は魔物だ。

 

いずれにしても、立て続けに起こる怪奇現象。

 

また、新しい冒険が始まったのだ。

 

それをあたしは、存分に感じ取り。

 

そしてその先に神代の錬金術師ども。或いはその産物がいるだろう事も理解して。舌なめずりしていた。

 

あたしは四年前の出来事以来、どんどん好戦的になってきている。各地で人間の業を見続けたからだろう。

 

だが、それと同時に、悪しき存在を許さない心だって忘れてはいない。

 

もうとっくに作成して服用した、寿命を超越する薬の事もある。

 

あたしは、既に。

 

人間であることに拘りはない。

 

だが同時に。

 

世界に仇なす悪しきものは、絶対に許さない存在にも、なろうと心がけていた。

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