暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
アンナが集会に出向くと、既に同胞は集まっていた。
裁量は任されている。
だけれども、今回の集会は、重要だ。
錬金術師ライザリンが来たことによって、サルドニカは大きく動く。
たった百年の都市だが。
既に、腐敗が始まり始めている。
場合によっては、影から消す人間を選定する必要がある。
そのために、こまめに同胞の集会は行っているのだ。
特にサルドニカは重要だ。
王都が限界を迎えている。
現在の王族の無能さは筆舌に尽くしがたく、アーベルハイムへの権力譲渡を既に同胞で始めている段階だが。
その過程で大きな血が流れることは疑いなく。
その前段階でも、複数の貴族が粛正されたことで、それなりの混乱が生じている。
王が退位して、王族が権力から下りる事により、もっと大きな混乱が起きることは疑いない。
あんな国家を五百年もたせてきたのは。
人間がこのままだと魔物に押し切られて破滅するからだ。
そして今後の展望のためにサルドニカには裏から支援を入れて、潰れないようにしてきたのだが。
近年は少しずつ腐敗が進行していて。
テクノロジーの進歩と人間の復権よりも。
この場所の権限の独占を狙う連中が蠢き始めている。
そういうのは状況を見て消しているのだが。
それでも、流れというのは悪い方向に動き続けているものだ。
アンナはこのサルドニカの同胞のまとめ役である。
表向きは工房長の側にいる無口な秘書官だが。
実際の経歴と、表向きの経歴は全く別。
表向きはそれっぽいものを偽装しているが。
実際には激戦地であり。幾つも危険な状態の門が放置されている東の土地で戦い抜いてきた同胞の精鋭だ。
眼鏡を掛けているが、それは東の地の戦闘で、激しい戦いの末に目を傷つけてしまったから。
手術を受けてある程度視力を回復したが。
それでも、補助のために必要と判断して、眼鏡を掛けることにしたのである。
アルベルタとサヴェリオの側にも、手練れの同胞がついている。
今の時点で、この二人を消す動きは無いが。
アルベルタの長男の方が。技術が拙劣なくせに権力志向が強く。
状況次第では処分する事が、何度か議題に上がっていた。
この辺りは、同胞はとことんクレバーだ。
人間の無駄な権力闘争と、それで生じる無駄によって多数の人命やテクノロジーが失われてきたのを、五百年見て来たのだ。
それ以前の歴史についても、母によって情報をいつでも確認できるが、同じ事を人間はずっとやってきた。
人間と交配できるとしても、同胞は結局母と希望たるアインのために動く存在。
それについては、同胞である時点でずっと決まっている。
それには人間の破滅を避ける事が前提で。
今も、ほっておけばすぐに破滅する人間の世界を持たせる為に。
汚れ仕事は、全てやらなければならないのだ。
幾つか、情報を交換しておく。
「女好きのサヴェリオがライザリンに興味を示している様子は」
「いやないな。 ライザリンは容姿そのものはごく平凡だ。 サヴェリオの好みでは無い事もあるのだろう」
「もしも言い寄るようだと面倒だと判断していたが、その辺りは大丈夫そうだな」
「それよりもライザリンの動きが気になる。 奴がその気になれば、サルドニカなど半日で更地になる」
懸念するのは同胞の一人。アルベルタについている者だ。
懸念はもっともだとアンナも思う。
既にライザリンの戦力は、神代の錬金術師と同等かそれ以上。才覚で言うと史上最高という声すらある。
単純に人間が多くて、才覚がある人間を見つけやすかった神代の頃に最高の実力者が生まれなかったのは。
いつしかばかげた血統主義が横行し、実際に才能ある錬金術師を上手く発掘できなくなっていったのが要因のようだが。
ともかく、ライザリンが危険なのは、アンナも同意だ。
「奴も問題だが、側にいるクリフォードという男。 異常に勘が鋭い。 私の事にも気付いていたようだ」
「凄腕のトレジャーハンターだと聞いている。 同時に常人離れした勘の持ち主であるそうだな」
「最近では熱魔術の応用での周囲の探査をライザリンがしなくなっているそうでな。 音魔術のエキスパートであるクラウディアと、自分以上の勘の持ち主であるクリフォードを信頼しているのが大きいのだとか」
「エキスパートが増えれば増えるほど、有事での対応が困難になる。 いざという時は、この面子だけでは対応できないぞ」
その声に、アンナは然りと応える。
実際、此処に集まっている十名の同胞では、ライザリン達を倒す事は不可能だ。一人か二人を殺す事は出来るだろうが、それはライザリン達を敵に回すことになる。
母はプランCを指示した。
ライザリンは泳がせる。
あの地にライザリンが到着した時に全てを開示。
協力を仰ぐ。
上手く行けば、神代の呪いを全て打ち砕くことが出来る。
フィルフサも、もっとも上手に対応すれば、全部まとめて破綻させることが出来る。
だが、そう上手く行くか。
同胞の集会で指示を受けたときに、アンナはどうしても疑念を感じたのだ。
今の時点で、ライザリンは恐ろしい程我欲と無縁で、殆ど欲望らしいものを表に出さないそうである。
エゴが極端に少ないことが錬金術の技量につながっているのでは無いのか。
そういう説もあるが。
それ以上に、何か危険な臭いがするのだ。
「いずれにしても増援が必要だろう。 私の方で上に相談する」
「遅れてごめんなさいねー」
不意に声が割り込む。
この声は、コマンダーだ。
コマンダーであるパミラが、その場に姿を見せる。皆、敬礼をする。
コマンダーの実力、戦歴、皆が等しく敬意を向けるに相応しいものだ。母の友人である事も大きい。
「ライザへの対応についての話をしていたのかしら-?」
「は、コマンダー。 あの実力、この場にいる者だけでは、有事では対応できません」
「そう懸念すると思ってね。 今回は増援を連れてきていたのよー」
「感謝します」
姿を見せた数人の同胞。
いずれも、経験は浅いようだが。
同胞は、基本的に皆スペックは同じだ。
経験が浅くても、人間の生半可な戦士だの騎士だの程度に遅れを取るほど柔ではない。
東の地にて戦闘した経験を持つ精鋭を寄越してくれれば良かったのだが。新米でも充分過ぎる程だ。
感謝しなければならないだろう。
「増援は六名。 一旦、これで落ち着くかしら-?」
「そうですね。 皆生まれたばかりのようですが」
「一応はこれで我慢して?」
「……分かりました。 一旦、皆の研修に移ります」
アンナは頭を下げると、内心で舌打ちしていた。
これは戦力増強に見せかけて、恐らくサルドニカでの軽挙妄動を抑止するための行動だ。
つまり、アンナはまだそういう事をすると見なされている。
それがちょっとだけ、悔しかった。
多数の機械が動くようになって、王都の経済が明らかに活性しているが。その恩恵にあずかっているのは庶民ばかりだ。
それを不満に思う貴族もいるが。
既に三人が不審死していた。
パティは館の周囲を警戒に当たっている。
この不審死が、アーベルハイムのものによるのではないか、という風説が拡がっているのを知っていたからだ。
既にパティはお父様の指示で、少しずつアーベルハイムの仕事を代行し始めている。
騎士に正式になった事で、学園は抜けた。
無駄な時間を費やさなくて良くなったので、家の実務をこなすようになったのだ。
それでタオさんに教わった高等数学が、如何にお金の動きを読むのに大事か理解したのだが。
それはそれとして。
お父様から教わった色々な事情を吸収して、政治家として成長しなければならないとも考えている時期なのに。
こんな無駄な事を。
そう思いながらも、油断なく周囲を見回る。
無駄ではあるが、大した負担では無い。
ライザさんと一緒に戦っていた頃に比べれば、児戯に等しい。
一応アーベルハイムに忍び込もうとする輩を何度か叩きのめしたが。体に情報を聞くのはメイド長がやった。
それで何人かの貴族に対して、お父様が相応の処置を執ったそうだ。
王都から逃げていった貴族がいたが、それだったのだろう。
そのまま進めれば良い。
この王都は腐りきっている。
いずれにしても、改革は必要だ。手を汚さなければいけないのなら、汚すだけ。そしてそれに巻き込むのは弱者であってはならないのだ。
足を止める。
五人か。全員武装していて、一人は狙撃を狙っている。
大太刀に手を掛けると同時に仕掛けて来る。即座に飛来した毒矢を切りおとすと、隠れている四人に突貫。
もう、人を斬ることは。
なんとも思わなくなっていた。
無心で、一人目。袈裟に真っ二つ。流れるように、剣に手を掛けた二人目の首を刎ね飛ばし。
三人目は体を反転させながら、柄で鳩尾をつき。動きが止まった所で、鞘で延髄を強打して気絶させる。
四人目は剣を抜くのに間に合ったが、鞘で三人目を強打した瞬間にパティは踏み込んでいた。
一閃。
抜き打ちで、両腕と、なまくらごと相手を両断。
鮮血が噴き出し。
上下泣き別れになって、四人目が倒れていた。
こんなもの、フィルフサに比べればゴミ同然。相手にもならない。
恐らく必死に集めたダーティーワーカーだったのだろうが。フィルフサが出て来たら人類は終わりだというライザさんの言葉を、パティは本当だなと思うばかりだった。
そのまま、懐から取り出したナイフを投擲。
狙撃手を仕留める。
手応えは充分。
一人は敢えて気絶させた。
そして、屋敷の中から、メイド数人をつれてメイド長が出てくる。
「パティお嬢様。 良い立ち回りでしたね」
「まだまだです。 ライザさんに比べたら」
「良い傾向です。 常に更に先を目指すのは良いことですよ」
無言になる。
メイド達がてきぱきと死体を片付ける。
わざと殺さなかった一人は、メイド長が口をこれから割らせる。拷問なんて野暮な真似はしない。
口を割らせる手段なんていくらでもある。
メイド長がやっているのに何度か立ち会ったが、基本的に魔術で記憶を全て吐き出させる方針を採っている。
気絶させたのは襲撃班のリーダーだ。
やがて、メイドの一人が狙撃犯の死体も回収してきた。眉間にナイフが突き刺さって即死である。
奥の手として練習しているものだが。
魔物が時々使ってくる投擲武器に比べれば、ゴミみたいな威力である。
勿論クラウディアさんの矢にも、精度、速度、威力、全てで及ばなかった。
屋敷に戻ると、水を掛けて刺客への尋問へつきあう。
刺客はそれなりの手練れだったようだが。メイド長が口を割らせるのは速攻だった。すぐに意識を手放し、全てべらべら話し始める。
やっぱり王都の本当の支配者は、この人達。
そしてアーベルハイムは、腐敗堕落しきった王家の次に選ばれたに過ぎない。
そう、パティは理解しつつも。
それが民のために。魔物から人々を守るためになるのならと。
覚悟は、決めていた。
(続)
本作のパティは原作と違って、この時点で既にライザと連携して動いています。
無能な王都上層の粛正をしないと既に後がないと判断しているためです。
そしてその結果、原作とは裏腹に王都に血の雨を降らせることになるのです。