暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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※フェンリルについて

近年ファンタジー系の作品で頻繁に登場するようになったフェンリル。

ついにアトリエシリーズにも出て来てしまって色々無言になります。

フェンリルはいうまでもありませんが北欧神話に登場する強力な狼の魔で、あの悪神ロキの子。つまり種族名では無く個人名です。しかも最高神オーディンを最後に食い殺してしまうと言うとんでもない強大な魔。一神教のルシファーなんぞよりずっと魔としては格上なんですわ。狼の魔物くらいに考えていませんか?狼は狼でも、国の二つ三つを瞬く間に滅ぼす存在ですよ。

本作ではそういうことで、せっかくなので、「なんでフェンリルが種族になっているのか」にも理由を持たせています。


王狼咆哮
序、視察


近場にある魔物の群れはほぼ片付いた。後は遠出をして処理をする予定だ。あたしは、一段落した所で、サルドニカに戻る。

 

職人や戦士達が、持ち込んだ肉や皮、爪や骨までも。魔物の死体が、競りに掛けられている。

 

活気は凄いな。

 

少なくとも王都のバザーよりも活気はある。

 

勿論いいことばかりではないけれども。

 

それでも、熱気だけに関しては、此方が王都より上だ。

 

クリフォードさんがぶつかってこようとした男を即座に捻り上げて。警邏に引き渡す。喚いていた其奴は、フェデリーカさんが見ているのに気付いて、ひっと声を上げて。以降は大人しくつれて行かれた。

 

ただのスリだが。

 

流石に工房長に現場を見られて。しかも抵抗したとなれば。

 

罪がぐっと重くなる。

 

だから堪忍したのだろう。

 

「凄い手際ですね」

 

「まあな。 こう言う都市にはあの手のがいるから、慣れたもんよ」

 

クリフォードさんは、バザーに興味深々のようだが、それでも油断はしていない。

 

タオが手を振る。

 

なるほど、これはいい。

 

書店だ。

 

ざっと中身を見せてもらうが、かなり面白そうな本がある。幾つか見繕って買う。フェデリーカさんが見ているからだろう。

 

ぼったくる事もできないようで、商人は相応の値で売ってくれた。

 

まずは収穫だ。

 

さて、一度アトリエに戻る。

 

途中で、岩などを崩して、鉱石を回収する。この辺りの鉱石を分解して調査して、爆弾などに生かしたいのだ。

 

それを見て。フェデリーカさんが苦言。

 

「ライザさん、分かっていると思いますけれど、無限に採掘はしないでください……」

 

「大丈夫。 これでもあたしも自然の仕組みは理解しているつもりだからね。 自然のバランスを崩すようなことは、余程必要でもない限りはしないよ」

 

「分かりました。 大丈夫、ですよね」

 

「……」

 

まあ、此処でなら。そういう必要は無い。

 

以前、何度かの戦闘で。フィルフサとの戦いに、文字通りの天変地異を用いなければならなかった。

 

敵の数、規模、それに戦力。

 

全てで勝てる要素がなかったからだ。

 

だから地形が変わるレベルの水害を引き起こして、それで対処しなければならず。

 

その後始末も大変だった。

 

今は力もついてきて、戦闘でのカードも増えた。

 

だから、破壊的なことをする事は、だいぶ減った。

 

それでもまとめて殲滅は時々するが。

 

それも、必要な時だけだ。

 

アトリエに戻る。

 

タオがさっそく本を読み始める。クリフォードさんも警戒しなくて良くなると、同じように本を。

 

レントは大剣の手入れを開始。

 

一人でいる時は、どうしても手入れが雑になるらしい。あたしが油を渡して、それで丁寧に刀身を整備し始める。

 

ゴルドテリオンで基本を作り。

 

グランツオルゲンで補強していると言っても。それでも、やはり手入れが必要なのである。

 

あの豪快な立ち回りの裏には。

 

細かい武具の手入れが必須なのだ。

 

ボオスは疲れたらしく、あたしが渡した栄養剤を口に入れていて。

 

セリさんは、外に用意した畑に。

 

畑で、例の植物の更なる強化を果たすのだろう。

 

黙々と研究をしているようだった。

 

クラウディアはお料理を開始。

 

それらの様子を見ていて、フェデリーカさんが呆れ気味だ。

 

「意外とみなさん、自由時間は勝手ばらばらなんですね」

 

「フェデリーカさんも好きにしていて良いよ」

 

「は、はい。 その、周りに街の者がいないときは、さんを外して貰えますか。 貴方みたいな豪傑にさんをつけられると、恐縮してしまって」

 

「そう。 じゃあ遠慮なく。 フェデリーカも、色々お料理の好みとかがあったら言ってね。 味付けとか、料理そのものとか」

 

料理そのものはクラウディアがやるが。

 

キッチン周りを作ったのはあたしだし。

 

調味料なんかもあたしが作っている。

 

クラウディアいわく、あたしが作る調味料は他の数倍の値段で捌けるらしい。まあ、要素から調査して、そこから組んでいるので当然とは言えるが。

 

それを贅沢に使うのだから、それはまあ美味しいだろう。

 

そしてクラウディアも、家事としてではなく。趣味で料理をやっている。

 

だから、上達が逆に早いらしい。

 

好きなものは、どうしても上達が早くなる。

 

そういうものらしかった。

 

実際問題、どんだけやっても料理が下手な女性もいる。

 

そういう家の人間から相談を受けたことがあって。

 

あたしが見にいったら、そもそも技術的な問題だったことが何回かあった。

 

好きでないと上達はしない。

 

そういうものなのである。

 

「よし、こんなものかな。 フェデリーカ、ちょっと使って見て」

 

「はい。 これは扇……ですか」

 

「竹を調整して作って見た。 今使っているものは、ちょっと傷みすぎているみたいだし、それを調整して欲しいとも言えないでしょ」

 

「は、はい。 それは……まだ勇気がいります」

 

竹そのものは、あたしも知っている。あまり多くは生えていないが、それでも彼方此方で見かけるからだ。

 

幸い手持ちがあったので、それを用いて扇を作って見た。なお、絵は無い。その代わり、びっしり魔術をゼッテルに仕込んでいるので、増幅用の道具としては充分な筈だ。

 

舞いを舞ってみて、フェデリーカが不思議そうな顔をする。

 

何度かやってみて。眉を下げていた。

 

「ごめんなさい、どうもしっくりこなくって」

 

「調整するから教えて。 重すぎる? 軽すぎる? 大きすぎる? 小さすぎる?」

 

「ええと、この持つ場所が……」

 

「ふむ、よしきた」

 

フェデリーカの扇を確認して、それで調整。

 

大丈夫。

 

一発で上手く行くとは、あたしも思っていない。どうも持ち手の具合が良くないらしい。形状を同じにしてみるだけではだめか。

 

重さなどのバランスを取ってみる。

 

何度か調整をしてみて、それでフェデリーカが、不意に動きが良くなる。

 

「あ、これです! これがしっくりきます!」

 

「なるほど、問題は形状じゃなくて重さのバランスなんだ」

 

「そ、それが分かるんですか?」

 

「みんなのための装備をそれだけ作って調整してきているからね。 一応、それなりに経験は積んでいるんだよ」

 

後は、細かい部分の調整もする。

 

打撃武器としての調整も出来ると言うが、フェデリーカは首を横にぶんぶんと振る。

 

なんとなく分かる。

 

この人は職人だし、硝子細工にしても魔石細工にしても、恐らく指先だけではなく全身のバランスが大事になっている。それでも手指をどうしても負傷するのだ。

 

ちょっとだけ話は調べて見たが、硝子細工も魔石細工も高熱を扱い、それでいながら人間の感覚の限界を攻めるような細工を行う。

 

このため良い腕の職人は若いうちから良い腕だし、感覚が掴めない人間は何歳になっても才覚を発揮できないとか。

 

才能が全ての錬金術に近い世界である。

 

幸い、現時点では血筋でギルドの役職を決めるような事はしていないらしい。

 

まだ実力主義がギルド内での席次を決めている内は、まあ工芸の街としての腐敗は遠いだろう。

 

それでも、あのギルド長達のぎらついた野心に満ちた目は。

 

若干心配にはなるが。

 

クラウディアが、両手をあわせてフェデリーカに笑顔を向ける。

 

「そういえばフェデリーカさん」

 

「クラウディアさんも、呼び捨てで良いですよ」

 

「分かったわ。 フェデリーカ、祭というのは。 ギルド長達が火花を散らしていたようだけれど」

 

「……街が設立百年にまもなくなるんです。 その際に、街の力と技術力の威信を賭けたモニュメントを作る話があって」

 

いいのか部外者にそんなことを話しても。

 

いや、恐らくこれは、フェデリーカがあたしを信じてくれているのと同時に。

 

後ろ盾になってくれる事を期待しているのだろう。

 

あたしは今の時点で、サルドニカに何も要求しない強力な第三勢力だ。現時点での要求は、個人レベルの調査と技術の吸収だけ。

 

しかもギルド長達は、再現を出来ると思っていないだろう。

 

今のうちに。フェデリーカはあたしという強大な力を後ろ盾にして、サルドニカを立て直したいのだとみた。

 

こういうのばっかり鋭くなって、あたしもなんだか嫌だな。

 

そう思いながら、続きを頼む。

 

「予想できるかも知れませんが、硝子ギルドと魔石ギルドが水面下で火花を散らしている状態です。 今の時点では血を見ていませんが、それでも喧嘩は日常的に起きている始末でして」

 

「ふむ……」

 

「ライザ、戦闘に出るとき以外は、俺たちがちょっとサルドニカで動いてもいいか」

 

ボオスが挙手。

 

クラウディアも頷いていた。

 

なるほどね。

 

そういうのは、この二人にやって貰う方が良いと。

 

クラウディアも、あたしへの仕事は自分を通せとギルド長に言っていた。大口顧客であるバレンツの現在の事実上の統率者の言葉だ。ルベルトさんが現在は楽隠居の状態と聞いているから。

 

それだけ、大きな話にもなる。

 

ギルド長達も、クラウディアにあまり舐めた真似は出来ないと言う事だ。

 

ましてやあたし達がサルドニカに来るまでに始末してきた魔物は、今までサルドニカの戦士や傭兵がどうにもできなかった存在ばかりなのだ。

 

既に戦力という観点でも、あたし達をギルド長はないがしろにできないのである。

 

「分かった。 任せるよ。 ただし、気を付けてね」

 

「任せろ。 一応念の為に、自動で魔術のシールドが出るように装飾品を強化しておいてくれるか」

 

「ボオスさん、流石にそれは……」

 

「現時点では血を見ていないだけだろう。 これから更に過熱すると、俺らに殺意が向く可能性があるんでな。 クラウディアは慣れっこだろうが、残念ながら俺はまだ荒事の経験が此奴らほどは無い。 手は打つべきだ」

 

ボオスの自分に対する評価は意外と低いが。

 

まあ、それだけ街の内情が危険と言う事だろう。

 

あたしは頷くと、幾つか強化用の装飾品を作っておく。

 

それで、一段落した所で、明日の事を決める。

 

「鉱山の方はだいたい主な魔物は潰したかな」

 

「あれだけ広いと、ただ報告が上がっていないだけで、まだまだいそうだけれどな」

 

「それについては、あたし達が警戒している相手を潰した事で手が開いた戦士達に任せるしかないね」」

 

クリフォードさんの慎重な言葉に、あたしがそう返しておく。

 

これだけ魔物だらけなのに、鉱山ではかなりの人夫が働いている。

 

職人として脈なしの人間には、これしか仕事がないのだ。

 

鉱山で働く人間のための炊き出しなどをしている人間もいるらしいが、どうしてもこの街では職人の方が上らしい。

 

そういうのが嫌になって出ていく人間もいるとか。

 

発展していく街の、現実が此処にある。

 

どんな仕事をする人も等しく立派だ。あたしはそれを彼方此方見て来て知っている。

 

それが、仕事をする人間が社会的な地位が下がるとか。優先して汚いものを片付ける人間が馬鹿にされるとか。

 

そういう風潮をどうにかしないと、多分人間は駄目なままだろうと感じる。

 

魔物にこれだけコテンパンに押し込まれても、人間は変われていない。

 

なんとか、どこかで手を打たなければ。

 

このまま人間はきっと滅びてしまうだろう。

 

ありのままの人間が素晴らしいとか。

 

人間性がどうのこうのとか。

 

そういう寝言を言っているからこう言う事になる。

 

今、王都やサルドニカで好き放題にバカやっている連中なんて、これ以上もないほど「人間性」に満ちているはずだ。

 

その結果が、これなのだから。

 

「手を分けるか。 誰かしら鉱山の方を回るとか」

 

「いや、街の北側には例のがいるらしいし、それが動く可能性もある。 今までは動いていなかっただけで。 魔物の機嫌次第では、いつ縄張りを変えてもおかしくない」

 

「フェンリルですね……」

 

「そう。 魔物も機嫌次第で動きを変える。 此処にいるとか決めつけるのが、一番危ないんだよ」

 

フェデリーカにあたしは頷く。

 

フェンリルはあたし達もほぼ未知の相手だ。クリフォードさんに、先に知っているだけの情報は聞いたが。そもそも強すぎて、戦って生還した人間が殆どいないそうである。

 

熱帯地域の方が生息数は多く、密林の中にかなりの数が存在しているのでは無いかと言う噂もあるらしいが。

 

それも、そもそもまともに確認できていないので、憶測の域を超えないとか。

 

流石にフィルフサの王種より強いと言う事はないだろうが。

 

それでもフェデリーカを守りながらの戦闘となると、簡単にはいかないだろう。いずれにしても、手を抜くという選択肢は無い。

 

入念に準備をしておく。

 

タオが加わって更に手数が増えたのは有り難いのだが。

 

それだけで勝てる相手か。死者を出さずにやり過ごせるか。

 

例えフィルフサの王種を倒して来た実績があっても。

 

油断だけは、してはならないのだ。

 

そのタオが挙手。

 

「フェデリーカさん。 いいかな」

 

「さんは必要ないですよ」

 

「いや、僕は婚約者がいるから、一応距離はとっておきたいんだ。 色々と面倒だからね」

 

「あ、そういうことですね。 分かりました。 お願いします」

 

タオに対してちょっと顔を赤らめるフェデリーカ。

 

まあ、本能的なものだろう。

 

此奴が結婚式まで絶対にパティに指一本触れないし。なんなら年頃の男子が何よりも大事に考える性行為なんてそれこそどうでもいいと思っているような奴だと知ったら、フェデリーカはどう思うのだろうか。

 

まあ、どうでもいいが。

 

「ざっと見せてもらったけれども、先代までは工房長は随分としっかりサルドニカを回していたみたいだね」

 

「……すみません、私が不甲斐なくて」

 

「そもそもフェデリーカさんがサルドニカの工房長に就任したのは10歳で、しかもお飾りとして丁度良かったからだよね。 それでもしっかりやれているんだから、それは胸を張っていいよ」

 

スパンと真実を言うタオ。

 

まあ、それもそうだ。

 

血縁で工房長に就任したんじゃない。

 

下手な人物を工房長にすると、対立が始まっていた硝子ギルドと魔石ギルドで血を見る事態になりかねなかった。

 

だから適当な人物が工房長にされた。

 

それだけのことだ。

 

フェデリーカもそれを知っている。タオも、クレバーにそれを指摘しただけで。フェデリーカもそれは分かっている。

 

まあ、言葉選びはつらめで。レントも流石に無表情になっていたが。

 

タオはこう言う奴だ。

 

それに、こう言う奴だからこそ。

 

今後腐りきった王都を改革していくアーベルハイムの。次期当主になるパティの夫として相応しいのだろうとも思う。

 

「先代はそもそも世襲でなくて、先々代工房長の弟子だったみたいだけれども。 先代は、誰か弟子を取っていなかったのかい?」

 

「ええと……。 父は弟子を取ってはいました。 ただみんな、硝子ギルドか魔石ギルドの息が掛かっていて。 それぞれ短期間でギルドに返されていました」

 

「なるほどね……」

 

「もうその時にはギルドの対立も表面化していて。 特に先代の魔石ギルドの長は、現在のアルベルタよりもずっと強硬的で、もっと悪辣でした。 それもあって、父はずっと心を痛めていました。 反発を受けながらも両ギルドの改革に着手して。 政治闘争が得意だった人物よりも、アルベルタを魔石ギルドの長に推薦したのは父です。 アルベルタは職人として優れていて。 それで……」

 

なるほど。

 

タオが聞いてくれたおかげで、話が分かってきた。

 

百年で腐敗したんじゃない。

 

この様子だと、フェデリーカが生まれる前から、この都市は危うい所を行ったり来たりしていたのだ。

 

だとすると。

 

アンナさんといったか。フェデリーカの側についていた、例のメイドの一族の人。あの人の存在を思い出す。

 

王都同様に。

 

恐らく、この都市サルドニカを回してきたのは、実質上はあの一族だ。

 

それでも、強権的に支配するのではなく。

 

裏側からなんとなくそう仕向けて、可能な限り穏便に事態を動かしてきたのだろう。ダーティーワークもやったのだろうが。それでも、死ぬ人数を最低限にしてきたのだろう。

 

あの人らに警戒されているのは、あたしもなんとなくは分かっている。

 

だけれども、やはり一度は話をするべきだな。

 

そう、あたしは考えていた。

 

他にも幾つかの話を確認して、それで今日は休む事にする。

 

フェデリーカも、アトリエに泊まることにした。

 

大丈夫。それぞれの個室はあるし。風呂も水周りもしっかりしている。男女用に風呂も分けた。

 

流石に一人ずつ順番に風呂に入ることにするが。

 

フェデリーカも安心できるように、パーソナルスペースはしっかり切り分けてある。

 

これを短時間で作ったのかと、なんどもフェデリーカは感心して。

 

それで、疲れたのか。

 

すぐに眠りに落ちていた。

 

寝てしまえば、表情もあどけないものだ。

 

あたしはフィーに促されたので、眠る事にする。ちょっとだけ見ると、タオは本をまだ読んでいた。

 

サルドニカを、少しでも分析し。

 

出来れば竜の紋章について、調べておきたいと思ったのかも知れない。

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