暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
原作だと恐らく最初にフェンリルと遭遇するのがサルドニカ北ではないでしょうか。
幸いただの狼の魔物ではなく、他とは桁外れに強い事だけは救われます。
フェデリーカにとって、父は唯一の家族だった。
別に悲劇だった訳でもなんでもない。母は早い段階でなくなった。500年以上前はともかく。今は簡単に人が死ぬ。母もその一人だった。流行病だったらしい。
サルドニカも、数年ごとに流行病が猛威を振るう。その度に偉い人間だろうが、屈強な戦士だろうが。関係無く死んでいく。
母は死んだ。
フェデリーカは生きている。
それだけだった。
周囲にも親がいない子供は珍しく無かった。そのためか、養子制度が発達していたのだが。
それでトラブルも多発して。
いつしか、ある程度社会的地位がある人間しか養子を取らないようになったし。
もしもそれで悪さをするような奴がいた場合。
何故か、いつの間にか死ぬという噂が流れていた。
理由はわからない。
ただ、この街では因果応報がある程度機能しているのは事実のようだった。
父も、かなり早い段階で死んだ。
幼い内から、フェデリーカも分かっていた。
父がずっと、ギルドが仲が悪くて、それで心を痛めている事は。
それで、父はその不和をどうにかしようと、手を打とうとしていたのだが。
それでもなかなか、上手く行かず。
ずっと研究していることも、どうにも完成が遠いようだった。
ライザさんに、それを話そうか。
ベッドの中でぼんやりしながら、フェデリーカは思う。
幼い頃に、少し年上だった許嫁が同じように流行病で死んでから。
フェデリーカに許嫁や結婚の話は来ていない。
この顔ももう殆ど覚えていない元許嫁も、そもそも孤児だった。
これについては、権力闘争の一環だ。
何処かしらのギルドの人間と婚姻すれば、それだけ工房長の立場が公平ではなくなる。
かといって、どこの馬の骨とも分からない奴と結婚したら。いきなり工房長がそいつに好きにされる可能性がある。
だから、牽制し合う、
そういう事らしい。
もしもフェデリーカが結婚出来るとしたら。
それは硝子ギルドと魔石ギルドの力関係が決定的に崩れたときだろうと思う。
もしくは。サルドニカのこのいびつな発展に新しい形が示されたときだろうか。どちらにしても、遠い未来に思える。
いや、違う。
ライザさんが来てくれた。
この人の凄まじいパワーは、フェデリーカには太陽のように思える。
この人がきてたった数日で、今までどうにもできなかった事が、幾つもどうにかなってしまっている。
だけれども、まだ足りない。
街にとって最大の外敵であるフェンリルをどうにかしたとき。
きっとギルド長も、ライザさんの実力を今以上に認める。
その時かも知れない。
もしも、動くとしたら。
起きだすと、ライザさんが声を掛けて来た。
「フェデリーカ、体調は問題無さそう?」
「はい、大丈夫です」
「顔を洗ってきて。 今日は街の北側を、更に色々と掃除して回るよ」
「はいっ!」
そう言われると、気合だって入る。
ぱんと顔を叩くと、すぐに水周りに。流石に皆慣れている。朝一番遅かったのはフェデリーカだった。
これでも10の頃から気を張って、
ずっと戦い続けて来たと思ったのに。
この人達は、修羅場のくぐり方も、人生経験も、それこそ次元違いだ。
フェデリーカなんて、まだぬるい人生だったのだろうと思う。
すぐに身だしなみを整える。
ライザさんは朝の体操も済ませたらしく。今は調合をしている。てきぱきと調合して、どんどん当世具足のパーツを作っているのが分かる。
それも二人ぶん。いや、三人分か。
あれは漆という染料を塗り混んだり、木材を何ヶ月も乾かしたりと、すぐに作れるものではないと聞く。
それが錬金術とライザさんの前にはこうだ。
そう思うと、生唾を飲み込んでしまう。
ウィルタが当世具足を着込んでいるのは、街の守りの要を担うに相応しい戦士だからであって。
地獄と言われる東の土地で戦い続け、生き残ってきた猛者だからだ。
軽く、外で舞いの練習をする。
足だけは引っ張れない。
見届け役だけではない。
しっかり戦闘で貢献したい。
多分ライザさんは、意味もなく危険な討伐行脚にフェデリーカを同行させたりはしないはずだ。
恐らく。
ギルド長達に、フェデリーカが一人前だと見せるために。
敢えて。
ただ、それは期待しすぎかも知れない。ライザさんなりに、フェデリーカを見極めようとしているのかも知れなかった。
体を温めて戻る。
すぐにミーティングが始まる。
この人達は。しっかりミーティングをして情報の共有をしている。それで、連携を更に密にしている。
良く堕落した組織内で行うような無駄な朝礼とかとは違う。
重要な情報をそれぞれが惜しみなく出して。
それで、しっかりそれぞれの強さに還元している。こういうやり方は、フェデリーカも見習いたい。
地図を拡げたのはタオさん。
クリフォードさんと、二人で知的活動を担当している。
この人が来てから、確かにぐっと色々分かりやすくなった。
王都で庶民から学者になったという知恵者だと聞くが。確かに話を聞いていると、それも納得出来る。
本なんか読むと即座に暗記できるようだし。
頭の出来が根本的に違うのだと分かる。
「橋については、もう問題ない。 次はこのまま降ってこの先にいこう。 この先に、フェンリルが潜んでいる集落跡がある」
「いよいよだな。 クリフォードさん。 一応、これ以上の情報はないんだよな」
「残念ながらな。 元々狼の仲間は群れで力を発揮する動物だ。 だが、フェンリルは違う。 単騎で最強の生物だ。 だから、狼と戦うつもりでは無い方が良いだろう。 それくらいだな」
「まったく、とんでもない化け物が世の中にはまだ幾らでもいるものだな……」
ボオスさんが呻く。
この人は、立場が近い事もあって、フェデリーカも親近感が湧く。
地図の上で。指を走らせるタオさん。
「この辺りに注意しよう」
「だいぶフェンリルのいると想定される場所から遠いが」
「この辺りは見通しが悪くて、敵の奇襲を受けた場合撤退が難しい。 敵も人間より立体的に奇襲が出来る」
「そこは……」
思わずフェデリーカは、口を塞ぐ。
確か、そこが逃げる避難民がフェンリルに襲われて、多くが死んだ場所だったからだ。
それについては、証言が残っている。
口をつぐむフェデリーカを見て。
タオさんは腕組みしていた。
「なるほど、そういう事件がもうあったんだね」
「はい」
「だとすると、変更だね。 此処、それに此処だ」
隘路の入口と出口をタオさんが指す。
ライザさんも、それに頷いていた。
「警戒する前と、その後の気が緩む瞬間を狙って来る可能性が高いと」
「そういうことだよ。 フェンリルという魔物がどれくらい強いかは分からないけれど、もしも狼がとても大型化した生物だとすると、非常に知能が高い可能性が高い。 単純な戦術くらいは使ってくる可能性があるね」
「魔物が戦術を使うんですか!?」
「侮っちゃダメだよ魔物は」
ライザさんが釘を刺してくる。
フェデリーカは思わず口をつぐんでいた。対魔物という観点では、この人は多分世界でもトップクラスのスペシャリスト。王都最強の戦士でも多分及ばない。
各地に一族がいるという、アンナと同じ一族の戦士でも、ライザさんには一歩及ばない雰囲気がある。
だとしたら、その言う事は聞くべきだ。
職人は実力主義。
フェデリーカもお父さんから、ずっと技術を叩き込まれた。お父さんが命を落としてからも、自分で技術を磨き続けた。
お飾りの工房長とはいえ、それでもギルド長達がフェデリーカを工房長にしているのは。技術的にその名を汚さないからだ。
そういう事もあるから。
フェデリーカは、実力のある人物はどういう存在であろうが、尊敬する習慣を身に付けていた。
勿論ライザさんは錬金術師としても凄まじい。
少なくとも、未知の存在を怖がり、迫害するようになってはおしまいだ。
フェデリーカはそんな風になるつもりはない。
「とにかくどんな相手かまったく分からない。 皆、気を付けて出向くよ」
「とりあえず、まずは露払いからだな」
「うん。 無理をしないで進もうね」
レントさんが立ち上がり。
ライザさんが頷くと、皆すぐに戦闘態勢に入っていた。
すごいなこの人達。
本当に、百戦錬磨なんだ。
そう、フェデリーカは間近で思い知らされていた。
流石は職人の街。
サルドニカ北の橋は、既に修復が終わっていた。あたしはその様子を見て、何度か頷かされる。
技術はどれも見て吸収しておきたい。
橋から降りて見ると、川に大きな鉄柵が植え込まれていた。
大型の水中の魔物があらかたいなくなったタイミングで、こうした処置をして。更には、柵には魔術的な防御も仕掛けてあるようだ。
魔石が幾つか埋め込まれていて、それで強力な防御魔術が仕込まれているようである。まあ、雑魚ならそれで退けられるだろう。
橋の方は、要所を金属で修復し。
また、何かしらの硬化剤を用いているようである。
他にも何カ所か、要所にてこみたいな構造が入っている。
いずれ多分、この橋は根本的に崩して作り直すのだろうが。これで当面は大丈夫だろう。
橋の修復の技術を見て、吸収する。
こういう技術の吸収は、いつも楽しい。
タオは本を読むと内容を今ではすっかり暗記できるらしいが。
あたしは空間把握力がどんどん増していて。
今ではこうやって、ものの造りを即座に覚えられるようになっていた。
「よし、覚えた」
「あ、相変わらず怪物じみていますね……」
「ライザと一緒にいれば、こんなの驚かなくなるよ」
「はい……」
フェデリーカが青ざめている。
まあ、刺激を受けてくれればそれでいい。
ギルド長達は、あたし達の事は報告を受けているはず。それでフェデリーカを放置していると言う事は。
或いは、心のどころかで、野心以上にサルドニカを大事にする気持ちがあるのかも知れなかった。
橋の奧には、廃集落があって。
その辺りまで、前線をサルドニカの警備は押し上げたようだった。
人夫が行き交っているが、廃集落の辺りにはラプトルが彷徨いていて。警備の戦士達が緊張した様子でそれを見守っている。
ウィルタさんがいたので、敬礼。
今日はもう一人だけ、例の戦士がいた。多分戦線が拡がったから、この一族も一箇所に纏まっていられないのだろう。
「どうですか様子は」
「この先の集落にラプトルがおよそ三十。 大型のボスに率いられていて、此処の面子だと倒せても大きな被害が出ますね。 昨日追い払われた魔物も、かなりの数が周囲に集まっています」
「分かりました。 駆逐します」
「お願いいたします」
ウィルタさんが、叫びを上げる。
アララライ、と聞こえた。
戦士達も同じように声を上げる。
こういったいわゆる「ウォークライ」という奴は、場所によってかなり違うと聞いている。
タオはこういうのにも知識がある。
東の方では「えいえいおう」とか「えいとうとう」とか叫びを上げるらしいし。
寒冷地の方では「ウラー」とか声を上げるらしい。
名乗りなどと同じで、こういう「ウォークライ」というものは、戦闘状態に自分を切り替える合図になる。
戦士として鍛える人間は使うことがある。
クーケン島ではただおおっとだけ声を上げていたが。
それで、随分と戦意がたぎったものだ。
あたしもアガーテ姉さんに教え込まれて、それを覚えた。
いずれにしても、後ろは大丈夫だろう。ウィルタさんは例のメイドの一族だ。生半可な魔物に遅れはとらない。
一線を踏み越えると、案の場ラプトルがわらわら出てくる。
かなり大きなラプトルの群れだが。この程度なら問題はない。
昨日倒し損ねて逃げ散った魔物。
それに、昨日かなりの魔物が倒されて、その縄張りを狙って来た奴。
それらが、わんさかいるのが問題なのだ。
「今日は先に進めるかちょっと怪しいかな……」
「とりあえず、総力戦だ! 最初から飛ばしていくぞ!」
「おおっ!」
弱気なタオを、レントが激励。
皆で雄叫びを上げる。
わっと襲いかかってくるラプトル。
先頭の一体がレントに躍りかかる寸前に、セリさんが地面に手を突き、地面を喰い破って食虫植物がラプトルを跳ね上げた。
かなり巨大な食虫植物だが、ラプトルはそれに食いつかれても抵抗するくらいの大きさである。
そこを、レントが右に左に斬り倒す。
凄まじい速度で襲いかかってくる何か。
タオが即応。
激しく弾きあって、互いに吹っ飛ぶ。
見ると、鼬だ。
かなり美しいコバルトブルーの毛皮をしている。
続いてもう一匹。
クリフォードさんが対応、弾き返す。
四方八方から、鼬が高速で仕掛けて来る。
「気を付けて、次は三体同時!」
クラウディアが叫ぶ。あたしが一体を蹴り砕く。それぞれはそれほど強くは無いが、速度に特化した種類か。
やっぱりサルドニカはエサ場と見なされているんだ。
戦士達がそれなりにいるとしても、これでは消耗が激しいはずである。色々な魔物が、エサを求めて来ているのだから。
まてよ。
こんな状態で、どうして発展できている。
やはり、あのメイドの一族か。
そうなると、王都だけじゃない。
この世界、人間のあり方を。あの一族が、ある程度掌握しているとみるべきなのではないだろうか。
ともかく、今は戦いを続ける。
激しい飽和攻撃を迎撃。
一発、直撃を貰って吹っ飛ぶ。受け身を採って跳ね起きるが、防御を喰い破られて派手に傷を受けていた。
飛び退いた鼬が、口を真っ赤にして唸るが。
即座にクリフォードさんのブーメランが、頭上から鼬を叩き潰していた。
「まだ来る!」
「なんだありゃあ……」
レントが呻く。
それは巨大な半円形をした魔物だ。鱗……いや違う。あれは虫と同じキチン質だとみていい。
それがもそもそとこっちに来る。
魔物が、そいつを避ける。
ああ、なるほど。
この猛烈な臭いが要因か。
地面に叩き落とした鼬にとどめを刺していたボオスが飛び退く。レントが、前に出ていた。
長さはレントの背丈の三倍はある。半円形だから、高さもその倍近くにまで達している。
赤黒いそれは、文字通りの移動要塞だ。
だが、フェデリーカが動く。
激しく舞う。
フェデリーカの汗が飛ぶと、それだけ強烈に能力強化が掛かるのが分かる。
ふいに、要塞型の魔物がまるまると、高速回転を始める。そして、突貫してきた。
セリさんが即応して覇王樹を展開するが、それをブチ抜いて来る。ただし、速度は落ちて。
レントがフルスイングした大剣と、魔物が激しくぶつかり合う。
「おおっ……!?」
フェデリーカの舞いを受けて、更にあたしの装飾品の強化を受けているレントが押されるだと。
この辺り、相当に凄い魔物がいるな。
あたしが詠唱開始。
同時に、クリフォードさんが前に飛び出し、巨大なブーメランで、二点から押さえ込みに掛かる。
凄まじい火花が散っているのが見えた。
まだ襲ってくる鼬は、ボオスとタオが対応。あたしは目を閉じて、詠唱に全力を投じる。クラウディアが矢を連続して放っているのは、多分他の魔物を牽制するため。セリさんが、うっと呻いた。
多分鼬の攻撃で、傷を受けたのだ。
やっぱり、この辺り魔郷だな。
そう思いながら、あたしは詠唱を完了。
ぱんと、胸の前で手を合わせる。
二万の熱槍を収束。
レントと、クリフォードさんが、息を合わせて飛び退いていた。
踏み込む。
あたしの切り札である蹴り技と。
魔術の集大成である大火力熱槍の合わせ技。
投擲する大熱槍。
そろそろ正式に名前をつけてやりたいが、まだ術式の再構成途中だ。多分クエーサーと言う名前になるだろうが。
それはそれとして、今はぶっ放す。
全力で投擲した収束熱槍。
それに対して、巨大な球体になっていた魔物は、今度は真横に超高速回転を開始する。それが詠唱になっているのは分かる。
その詠唱が、恐らくは防御術。
それも、壁を作って受け止める系統ではなくて。
攻撃の指向性を逸らす斥力系のものだという事も。
だが、直撃。
激しく逸らす力が働くが。
残念だけれども、魔術の大火力を極限まで磨いた今のあたしの熱槍。
小手先の技で、防ぎきれるほど甘くは無い。
一瞬の拮抗の後。
熱槍が球体の魔物を貫通。
炸裂していた。
思わずフェデリーカが耳を塞いでいる。
爆発音がとどろき渡り、街道だった場所に熱の放射が容赦なく地面を抉る。遠くでキノコ型の雲が上がり。
そして、多数の魔物が巻き込まれていた。
クラウディアが、声を掛けて来る。
「周囲の敵勢力、沈黙したよ」
「ふう……」
厄介な敵だった。
そのまま、薬を取りだすと、皆の手当てを始める。あたしも対応出来ないくらいの速度で動き回る魔物か。
結構危険だな。
薬をねじ込む。
傷を治すだけではなく。免疫力を高める意味もある。
魔物の牙や爪には、どんな病気を誘発するか分からない恐ろしさがある。そういった病気を打ち消すためだ。
フェデリーカを見ると、苦笑いしていて。そしてへたり込んでしまう。見ると、何カ所か抉られていた。
すぐに横にして、手当てをする。増血剤も飲ませる。
後方でも戦闘をしていたらしく、ウィルタさんが来る。
そして、直線上に抉られている地面を見て、絶句していた。
「これはまた、派手にやりましたね」
「切り札を切らざるをえない相手でしたので」
「……周囲の魔物の気配はありません。 更に前線を押し上げられそうです」
「戦士をもっと雇った方が良いと思います。 この先には例のフェンリルがいると思いますから」
頷くウィルタさん。
フェデリーカが青ざめたまま、予算は出しますと言って。頷いて、ウィルタさんが一度戻る。
あたしは建築用接着剤の提供について考えながら。
自身の手当ても開始していた。
その間に、タオがさっきあたしがぶちぬいた球体の魔物の残骸を拾ってくる。
「ライザ、見てこれ」
「さっきの奴の装甲?」
「うん。 どうも昆虫と同じ成分に、更に金属を加えているようだね」
「金属を体内に取り込む生き物か。 魔物ってのはすげえな……」
レントがぼやく。
クリフォードさんが何か言おうとしたようだが、止めて横になる。
ボオスが荷車を手に、手伝ってくれというと。セリさんが、今回は手伝うようだ。
これは、簡単には進めない。
分かっている。
あの魔物、わざわざ出て来たと言う事は。
奧にいるフェンリルの強さはそれ以上とみて良い。
魔物は基本的に、強くなれば強くなるほど狡猾になる。
さっきの球体の奴、あたしが切り札を切るくらいの強さはあった。フィルフサの雑魚よりは強かったと思う。
弱めのフィルフサの将軍並みか、それに近いかも知れない。
そう思うと、あたしは無言になる。
近隣で頂点ですらない魔物がこの実力だ。フェンリルがドラゴンに近い強さを持つという話。
話半分ではないと思ったからだ。
手当てが終わり、体力が戻って来たので、魔物を捌き始める。クラウディアが始めていたので、それを手伝う。
フェデリーカには、寝ていて貰う。
今の戦闘は、相当に厳しかっただろう。貧血を起こしているようだし、まだ動かない方が良い。
そのまま毛皮を剥ぎ、肉を燻製にして、牙を爪を剥がして。使えそうなものはどんどん回収していく。
周囲を見ると、今まで見た事もない薬草がかなり生えていた。
この地方の薬草はあまり知識がないようなので、セリさんにも渡して解析して貰う。あたしはあたしで、錬金術で解析するが。それはそれぞれの得意分野を担当する、というだけの事だ。
何回か荷車を往復させて。
薬をそれなりに使って、回復を済ませる。
まだ昼少しか。
「よし、この傷んだ街道を直して、それで今日は戻ろう」
「随分と慎重だね」
「まだしばらくあるでしょ。 それでこれだけ強いのが出てくるとなると、はっきりいってサルドニカの周囲にはまだまだ強い魔物がいるとしか結論出来ない。 だったら丁寧に進んでいくしかないよ」
「確かにそれもそうだ」
タオも納得してくれる。
あたしは伸びをして、それで荷車に建築用接着剤を積みに一度戻る。
フェデリーカはアトリエに残して、休んで貰う。
さっきの戦闘を一緒に経験しただけで今日は充分だ。