暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
対フェンリル戦です。
誰でも魔術が使えるこの世界。
フェンリルが使うのは、空間操作です。それもアンペルさんが使う奴の比では無い強力な代物です。
今後本作では空間操作、時間操作をしてくる魔物がわんさか出て来ます。
それが大前提で、フィジカルも凶悪極まりない。
そういう連中がライザの相手になるのです。
サルドニカ北での戦闘は熾烈を極めた。
三日掛けて前線を押し上げたのだが。橋の先は複雑な地形になっていて、川が入り組んでいる事もある。
簡単に進める状態ではなく。
廃棄されている集落も、周囲を警戒できるように塔が基本的に配置されていた。その塔も、殆どが破壊されており。
この辺りが、すっかり魔物のエサ場になっていた事が分かる。
たくましい商人の中には、サルドニカの北側で激しい戦闘が行われ、多くの獣肉や毛皮が仕入れのチャンスだと言う事を理解している者がいて。
門近くにバザーを開いて、それで商売を始めている有様だ。
その中に、見知った顔を見て苦笑する。
ロミィさん。
クーケン島にも時々顔を出していた、小柄な女性の商人である。王都でも会ったっけ。
ロミィさんも、あたしを見て苦笑い。
最近は商会が更に大きくなってきているらしく、バレンツの傘下に入ることを検討しているそうだ。
いずれにしても、魔物が来る可能性がある。
その警告はして、毎日北門から出る。そして、少しずつ戦線を押し上げる。
ギルド長達は、その様子を街の街道から見ている。
魔物に怖れるしかなかったサルドニカの人々は、連日強力な魔物が沈んでいるのを見て、それで奮起しているらしい。
戦士用に装備を作る革細工ギルドや鉄鋼ギルドが、頑張っているようだ。
硝子ギルドと魔石ギルドだけがサルドニカではないというように。
そしてそれは、健全な事だと思う。
過剰な競争は却って力を削いでしまうが。
こういう健全な競争の範囲なら、むしろ力を増す事につながる。
あたしも安心して、どんどん魔物を撃ち倒す。
ただ、あいつらとの。
フィルフサとの戦闘経験があるあたし達でも、この辺りの魔物は油断出来ないとは、感じていたが。
東の地は更なる激戦地だと聞く。
それは恐ろしい場所なのだろう。
丘に出た。
ここから先は更に地形が複雑だ。
川が流れ込んでいて、池が複数出来ている。
地形が隆起していて、視界が悪い。
此処が、問題になっていた隘路の入口だ。様子を確認。クラウディアが音魔術で探っているが。
やがて、大きなため息をついた。
「ダメね。 地形が複雑すぎて、音が届ききらない」
「クラウディアがそんな風に言うのは初めてだな」
「うん。 ごめんね。 池とか滝とかあって、どうも届く音が複雑すぎるの」
「とりあえず、地図から起こそう。 現在ある地図と一致しているか確認して、それか……」
タオが止まる。
いや、全員が止まる。
この気配。
一人だけ気付けていないフェデリーカの手を、セリさんが引く。即座に全員がバックステップ。
来る。
そいつは、あまりにも堂々と接近して来る。
そして、うなじが逆立つ程の威圧感が、びりびりと体を圧してくる。
間違いない。
これが問題のフェンリルだ。
「ど、どうしたんですかみなさん」
「フェデリーカ、多分逃げた方が良い。 まっすぐ後ろに下がって、ウィルタさんの方へ逃げろ」
「! フェ、フェンリルですか」
「間違いない。 この強烈な気配、僕達が知っている最悪の魔物の……それもかなり強い奴に近い」
タオがそう告げるが。
フェデリーカさんは、ばっと扇を構える。
戦う、というのだ。
まあいい。
支援型のフェデリーカさんだ。
守りきれば問題ないだろう。
あたしは、深呼吸すると。
皆に指示を出す。
「いつも通りに。 隙を見て、あたしが最大火力を叩き込む」
「分かった。 どうやら、久々に冷や汗ものの相手みたいだな」
「向こうも此方を伺っているようね。 散々魔物が蹴散らされているのを感じて、興味を持ったみたい」
セリさんがぼやく。
まあ、向こうから出て来てくれればそれはそれでいい。
それにしても、真っ正面から来るこの凄まじい気迫。
これは周辺にて敵無しだから、なのだろう。
奇襲とか、する必要もない。
だが、格上と戦うことがなかったせいで、結局カスに落ちた奴をあたしは知っている。
だから、それが必ずしも良い事では無いと、教えてやるだけだ。
不意に、事態が動く。
いきなり。目の前に巨大な。
白い毛皮の。口に剣を咥えた。毛を逆立てた、巨大な狼が出現していた。背丈はあたしの三倍。体の長さは、更にその倍。
魔物としては大の中、くらいの大きさだが。
この威圧感、尋常では無い。
一瞬のにらみ合いの後。
狼が。
フェンリルと呼ばれるそれが、不意に躍り上がった。
レントが仕掛けるが。
いきなりフェンリルの気配が背後に。とっさにセリさんが展開した覇王樹を、腕の一振りで全部吹っ飛ばす。
何となく分かった。
此奴の能力、さては空間移動か。
それも、魔術を詠唱すらせずにそれを出来る。
セリさんを庇って、クリフォードさんが前に。振り下ろされた前足を、ブーメランで迎撃。
発止。
激しい激突とともに、クリフォードさんが吹っ飛ぶ。
側面に回り込もうとするタオ。
だが、フェンリルがまた残像すら作らず別の場所に移動。
今度は真上か。
ぞくりと、背筋に悪寒。
あたしは、フェデリーカを抱えて必死に跳ぶ。
次の瞬間、地面が両断される。
おそらく数百歩分の地面が、真っ二つに切り裂かれ。遠くで、二つに割られた樹木が。倒れるのが見えた。
どっと冷や汗が出る。
フェデリーカが、完全に硬直している。
これは、まずい。
ギアを上げていく。フィルフサの将軍、それもかなり強い奴と同格。ドラゴンの、それなりに年齢を経た個体並み。こんな魔物がいたなんて。
だが、それでもだ。
少しずつ分かってきた。
此奴が使っているのは、アンペルさんと同じ空間操作。
空間操作で自分を移動させ。
空間を操作する事によって、相手を防御すら許さず切り裂く。
隙は。
しかけるレントとボオス。
レントの一撃を剣で受け止め、ボオスに対して後ろ足で蹴りを叩き込むフェンリル。更には、後方から飛んできたブーメランを尻尾ではたき落とし、いきなり移動する。
今度は、セリさんの真横か。
だが、即応するあたしが、熱槍を叩き込む。
ぐわんと空間が歪んで、熱槍が散る。
空間操作か、これも。
多分防御するよりも、空間をねじ曲げて熱槍を届かないようにしたのだ。
だが、その直後に、追撃を仕掛けてくる訳では無い。ゆっくり此方を伺うように動き、そして背後を狙って来る。
なるほど、少しずつだが。
分かってきた。
セリさんが飛び退き、フェンリルを囲むように食虫植物を出すが。フェンリルが数株を斜めに切り裂き。その攻撃を回避する。
クラウディアの矢が、数本直撃するが、毛皮に阻まれて貫くにはいたらず。
大きめの矢を構えると、即座に消えるフェンリル。
「畜生、やりたい放題かよ!」
「タオ!」
「分かってる! みんな、この魔物の能力は空間操作だ! 魔物特有の強力な魔力をふんだんにつぎ込んで、空間を跳んで、空間を切って、空間を壁にしてる!」
「なるほどな、合点がいった!」
今度はクリフォードさんとレントの間に出現したフェンリルが、二人同時に前足後ろ足でけり跳ばす。
二人とも、剣とブーメランで受けきるが、それでも吹っ飛んで受け身を採る有様だ。
凄まじすぎるのだパワーが。
あたしは前に出ない。タオが仕掛けて、斬撃を叩き込む。五月蠅そうに追い払いに掛かるフェンリル。
やっぱりな。
恐らくだが、フェンリルは詠唱せずに空間操作の魔術を使っているが、それには制限がある。
制限なしだったら、横薙ぎにあたし達を一発で全滅させている。
多分だが、あの空間操作は縦か斜めにしか使えない。
それだけじゃない。
また空間を跳ぶフェンリル。
だが、その時。
あたしの熱槍が、フェンリルの毛皮を直撃していた。
あたしの背後に出た所を、即座に狙ったのだ。
慌てた様子で飛び退くフェンリル。炎を振り払う。
やはりな。
連続での空間操作は使えない。今のを防がなかったのは、防げなかったのだ。
攻撃の直後も、空間操作をせずに、身体能力で此方の攻撃を防いでいた。要するに、空間操作という大魔術を連発は出来ないし。ためも必要になるのだ。
唸りながら、体勢を低くするフェンリル。
その時、その背中に。
クラウディアの矢が。突き刺さっていた。
さっき、直上にクラウディアが矢を放っているのを見たが。
それが、ホーミングして突き刺さったのだ。
ギャッと悲鳴を上げると、フェンリルが空間転移。
今度は、そっちか。
フィーが、懐の中で向きを変える。
それで、だいたいの位置が分かる。
それに、クリフォードさんも段々相手の動きが掴めてきたようである。この辺、歴戦の勘という奴だ。
空間を跳んだフェンリルに、再びあたしの熱槍が炸裂する。
フェンリルは炎を弾きながら飛び下がり、頭を振る。この様子だと、余裕がないとあの空間切断は放てないな。
そのまま、タオが追いすがる。
ボオスも、長剣で斬りかかる。
フェンリルは、其処で。
動きを止めた。
凄まじい魔力が放出されて、二人が吹っ飛ばされる。
此方まで、物理的圧力を伴うほどの魔力が、叩き込まれてくるほどだ。
がっと、地面に頭を叩き付けるフェンリル。
それが詠唱だと気付いた時には、もう遅かった。
全員が、空中に投げ出される。
これは、恐らくだが。
地面に、空間操作の魔術を叩き混んだ。それで、辺りの地盤を、突き上げるように滅茶苦茶にしたのだ。
吹っ飛びながらも、あたしはフィーの動きに沿って、詠唱を開始。熱槍十本が限界か。来る。即座に熱魔術の使い方を切り替える。
吹っ飛んで身動き取れないあたしに。全力で突っ込んでくるフェンリル。
凄まじい魔力を放ち、全身が真っ赤に燃えているかのようだ。
だが、あたしは熱操作で、空中機動。
攻撃を、間一髪でかわす。
地面に降り立ったフェンリルに、クラウディアが多数の矢を乱射。それが突き刺さりまくるが、フェンリルはそれでも屈しない。凄まじい速度で走り始める。
今までは様子見。
こっちを敵として認めて。
全力で戦うつもりになった、ということだ。
面白い。
その全力、最初で最後にしてやる。
あたしはそのまま、詠唱を続行。地面に着地。タオがレントと一緒に、フェンリルに斬りかかる。フェンリルが空間操作で、二人を明らかに明後日の方向に弾き飛ばす。其処に、立て続けにクリフォードさんのブーメランが襲いかかるが、今度は身体能力で回避して見せる。
でかいのに、なんて速さだ。
「フェデリーカは見に徹して!」
「は、はいっ!」
頭を抱えてふるえているフェデリーカに叫ぶ。
フェンリルも、フェデリーカを敵だと思っていない。後回しでいいと思っている。
セリさんの食虫植物による地中からの攻撃を残像を作りながら回避するフェンリル。つまり、力をため込んでいると言う事だ。
頷くと、ボオスが前に出る。
そして、抜き打ち一閃。
二刀のうち、サブウェポンの短剣で、フェンリルの喉から背中に掛けて切り上げていた。
見事な一撃だが、まずいと判断したのだろう。
フェンリルが空間を跳ぶ。
次、真後ろ。
振り返り様に、あたしは踏み込む。
フェンリルが、あたしを見たとき。
熱槍十五を収束させたものを、踏み込みながら全力で叩き込む。吹っ飛ぶフェンリル。火だるまになる。
其処に、更にクラウディアが、バリスタみたいな矢を叩き込む。
「クラウディア、セリさん! 避けて!」
「!」
矢ごと、あの空間斬撃が切り裂く。それは、クラウディアとセリさんを巻き込んで斬る所だった。
だが、この瞬間。
決定的隙が、生じていた。
「捕まえたぜっ!」
空から飛び降りてきたレントが、地面を打ち砕くほどの凄まじい斬撃をフェンリルに叩き込む。
空間切断は、アンペルさんでも苦労していた術式だ。
それをこうぽんぽん連発して。しかも、あたし達からダメージまで受けている。
それで、隙が出来ない筈がない。
ついに、完全直撃が入る。
背中から脇腹に掛けて切り裂かれたフェンリルは、内臓をばらまきながらも、それでも咥えた剣を振るってレントに反撃を仕掛ける。
だがその時には、あたしがフェンリルの死角に。
そして、踏み込み。
フェンリルが、危険を察知した瞬間。
渾身の蹴りを叩き込んでいた。
フェンリルの下あごが、砕けるのが分かった。
剣を取りこぼすフェンリル。
後方に跳ぶ。
だが、其処は。
セリさんの攻撃範囲だ。
即応したセリさんが。全身に蔓を巻き付ける。フェンリルは一瞬だけ、蔓ごと切り裂くか、それともと判断しようとしたようだが。
その時にはタオが追いすがり。
その二刀を、傷口に叩き込み。
一瞬遅れてクリフォードさんが、頭からブーメランをブチ込んでいた。
ついに、蹈鞴を踏むフェンリル。
蔓を全部まとめて、空間切断で吹っ飛ばしたのが最後の頑張りだっただろう。内臓を垂らし、血を噴き出し。
そして、大きく息をついているフェンリルの前に。
あたしが歩み寄る。
「良い勝負だった。 今、楽にしてあげる」
頭から流れ出る血を拭いながら、あたしが語りかけると。
フェンリルは、砕かれた顎で。
それでも、にやりと笑ったように思えた。
上空に作りあげた熱槍を収束して、そのまま串刺しにする。
最後の断末魔は。
上がらなかった。
横倒しになったフェンリルの死骸。レントが、無言で首を切りおとしていた。
ボオスが腰を下ろす。
頭をぐしゃぐしゃとかきむしっていた。
「まったく、命が幾つあっても足りないぜ」
「でも、今までで最強の敵ではなかったな」
「……それもそうか」
「い、今までどんな相手と戦って来たんですか」
完全に腰が抜けているフェデリーカさんが、そう突っ込む。
なお粗相をしてしまっていたが、誰もそれは責めない。仕方がない。範囲攻撃でみんな吹っ飛ばされた時に、恐怖で粗相をしてしまったらしい。クラウディアが物陰につれて行く。
まずは手当てからだ。
レントは無言で、ウィルタさん達に首を届けに行く。レントも無傷とは程遠いのだが、それでもまずは手数が欲しい。
薬を塗り込む。
これは、肋骨をやられたな。
そう思いながら、回復促進の薬も入れる。
昨日見つけた炎みたいな草もそうだが。この辺りには薬効が強い薬草が多く。薬はかなり優れたものを作れる。
顔を赤らめて戻って来たフェデリーカの手当ても済ませる。まだ脳内物質が出ているから良いが。
手当てを急がないと、痛みで動けなくなるはずだ。
指の手当てをする。
フェデリーカはさっきの範囲攻撃に巻き込まれて、右手の薬指と小指がグシャグシャに折られていた。
それがきちんと治る。
「指の感じは問題ない?」
「は、はい。 きちんと動くと思います。 でも……」
「ああ、あたしは気にしないで。 このくらいはしょっちゅうだから」
顔を拭いて、血をとるのは後回しだ。
次。
セリさんもかなりやられている。横にして、手当てを。
程なく。ウィルタさんが何人かつれてやってきた。流石に倒れているフェンリルを見て、戦士達が絶句していた。
「こ、こんなとんでもない化け物だったのか!」
「誰も勝てないわけだ……」
「貴方たち、周囲を警戒。 今、このフェンリルを倒したライザさん達は、手当ての最中です」
「はっ!」
さっと戦士達が散る。
ふと気付く。
例のメイドの一族の人が混じっているが、どうも動きがウィルタさんや王都にいたカーティアさんなんかと比べると鈍いな。
まあいい。
同じ顔でも、経験の差とか色々あるのだろう。
ともかく皆の手当てを進めていく。
やがて、日が傾く前くらいには、フェンリルの皮を剥ぎ。肉を削ぎ。内臓を分別することにも成功していた。
腹の中にはそれこそ何でも入っていた。
もう痛み始めていて凄まじい臭いだったが。人間の髪の毛の残骸らしいものも。
それについては、引き渡しておく。
他は、全て燃やす。
仮に人間の肉だったとしても、これはもう見分けがつかない。この髪の毛も、誰のものか分かるかどうか。
毛皮については、これはとんでもない。
今まで大物の鼬の毛皮を使っていたが、それが霞むほどだ。魔力の含有量が尋常じゃない。
咥えている剣も、これは多分だけれどもフェンリルが何らかの形で生成したものだと見ていい。
剣としてはあまり使えそうにないが。
手にするだけで、じんわりと暖かい。
これはひょっとするとだが。
グランツオルゲンに混ぜることで、純粋な強度を跳ね上げる事が出来るかも知れない。まだセプトリエンが低品質な事もあって、グランツオルゲンは完成には程遠い状態なのだ。
骨については、そこまで貴重でもないか。
肉も燻製にしてみたが、それほど美味しいものでもない。
サルドニカ側に引き渡しておく。
多分、燻製にして傷まないようにすれば、縁起物か何かとして話題にはなるだろう。ただ、人を喰らった魔物の肉だから、あまり食べる事はおすすめ出来ない。倫理的な問題よりも、よく分からない病気になりやすいのだ。
内臓を漁っていたら、案の場出てくる。
これは素晴らしい。
高密度の魔力結晶。多分バシリスクの体内から出て来たのに近い質だ。
残念ながらセプトリエンには届かないが。
それに近い代物である。
これは使い路があるだろう。
陽も暮れ始める。
クラウディアに促されて、一度戻る。クラウディアとボオスは、後でアトリエに帰るという事だった。
「ひょっとしてギルド長達と話が?」
「ああ。 そういうことだ」
「クラウディアは大丈夫だろうけれど、ボオスは平気?」
「これでも鍛えて来たんでな。 それとさっき飲まされた毒みたいなののおかげで体力は戻ってるよ」
ボオスに思いっきり嫌みを言われる。
まあ、かなり濃いめの栄養剤を無理矢理飲ませたが。
ボオスも主に味的な意味で割と頭に来ていたらしい。効果を上げるとどうしても味はおざなりになるので、それは勘弁して欲しい所である。
フェデリーカが、ふるえる手を上げる。
「その、それだったら私も」
「ダメ。 今回は私達に任せておいて」
「その様子だと、気を抜いた瞬間に気絶するだろ。 良いから、今日は休んでおけよ。 あんな化け物の圧を間近で浴び続けたんだ。 無理をすると精神に傷を受けて二度と戦えなくなるぞ」
「そういうことだ」
レントもそういうので、フェデリーカはそれじゃあお願いしますと肩を落とすのだった。
仕方がない。
戦闘経験が違い過ぎるのだから。
だけれども、フェデリーカはあの圧を受けながら、それでも耐え抜いた。とても今後の見込みがあると思う。
だから、今後は頑張れば良い。
生き残ったのだ。
頑張る機会はいくらでもある。
実戦に次はないと良く言うが。
実際の所、歴戦の戦士同士の戦いになると、引き分けることはよくあるそうである。必ずしも次は無い、という事はないのだ。
フェデリーカは支援専門と言っていたが、あの舞いは戦闘に応用できる筈。やりようによっては、前衛も張れるかも知れない。
いずれにしても、まだまだ経験が浅いと言う事は伸びしろが大きいと言う事なのである。
ともかく、アトリエに戻る。
街の中央広場では、顎を砕かれたフェンリルの首が飾られて。それをサルドニカの人々がわいわいといいながら囲んでいた。
サルドニカを怖れさせ続けた、フェンリルの死。
中には石を投げている人もいる。
此奴に家族を殺されたのかも知れない。
それだったら、そうする権利はあるだろう。あたしは、止めるつもりは無い。ただ、仇であるフェンリルは死んだのだ。
それ以上は、必要ないとも思ったが。
アトリエにつくと、後は順番に風呂に入って。それで夕食にする。この辺りに住んでいる魔物で、比較的おいしいのは小型の鳥だ。小型といっても翼を拡げると三歩ぶんはゆうにあるが。
それでも肉はあく抜きさえすればちゃんと美味しくなる。
牛の肉とかも、さっきバザーで仕入れておいた。
それらで、料理をセリさんが作ってくれる。風呂の後で、がつがつと食べさせていただく。
フェデリーカは完全に青ざめてベッドで死んでいる。
これは明日くらいまでは使い物にならないだろう。
食事も腹に突っ込んで、それですっきりする。横になると、懐からフィーが出て来て、周囲を飛び回る。
「フィー……」
「手強い相手だったね。 でも、助かったよ」
「フィー! フィーフィー!」
「あの素早い対応、フィーの支援もあったのか」
フィーも確実に成長していると言う事だ。いや、まて。
あのエンシェントドラゴンの西さんが門に関係していて。フィーもそれに関与している種族だったとしたら。
空間操作は、むしろとても種族的に適正が高いのか。
いや、なんともいえない。仮説の域を出ない。仮説はあくまで仮説だ。胸にしまっておくことにする。
しばしして、クラウディアとボオスが戻ってくる。
そして、幾つかの打ち合わせをした。
「ギルドとしては、フェンリルが住み着いていた集落の辺りまで、前線を押し上げて欲しいということらしい。 硝子ギルドも魔石ギルドも同意見だそうだ」
「別にかまわないけれど、フェンリルと同等の魔物がいても不思議じゃないよ。 前線を押し上げるつもりなら、ウィルタさんと同等の戦士が、常に貼り付くくらいの覚悟がいるだろうね」
「それについては同意見だね。 私としても伝えておいたよ」
「僕としては、もう少し先まで探索しておくのは悪くないと思う。 どっちにしても、奧を調査すれば、どんな魔物がいるか調べられるだろうし」
それもそうだ。
滝の向こうは徐々に標高が下がっていって、やがて洞窟に出るそうである。
その洞窟が、例の古代に使われていた鉱山らしい。
だとすれば、珍しいものがたくさんあってもおかしくない。探してみる価値は、存分にあるだろう。
ボオスの頭にフィーが乗るが。
ボオスも、ため息はつくが追い払おうとはしなかった。
もう、信頼関係があると言う事だ。
後は、休む事にする。
流石にあのフェンリルなみのが群れているとは思わないが。フェンリルが何かに追われて、人里に近付いた。
その可能性は、否定出来ないのだから。