暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
サルドニカの権力構造は単純である。
古参の魔石ギルド。
これは街の最初からあるギルドで。街の創設者が、魔石の加工法を教え。それが今に伝わっている。
魔石の加工は職人芸の世界で、細かい道具を使って人間の極限まで細部を拘りながら作り抜く。
魔石は極めて繊細な存在で。
力を入れると簡単に壊れてしまうのだが。
最初に固定した形から、如何にして削り出すか。
それが魔石の面白さだ。
そして色合いをどう出すか。
顔料などを魔石を固定する際に使い。それで色合いを出していく。それが魔石ギルドの技術。
各地に売り物として出すものもあるが。
実の所、魔石ギルドでの最大の外貨獲得の手段になっているのは、単純な魔石の加工。魔力を取りだしやすいように加工して、各地に売る。その結果、各地の街ではそれから魔力を吸い出して、魔術を使う際に活用したり。まだ生きている機械を動かしたりするのである。
結局の所魔石ギルドも、実用品を作らないと生きていけないのだ。
このため、過剰な細工の技術を得るために選別を繰り返し。
極限まで人間を絞り尽くすような細工をするのは、無駄なのではないか。
そういう声も上がって来たが。
近年では、伝統の言葉とともに。そういう不満意見は押し潰してきた。
ギルド長アルベルタも、その保守的方針を推進する一人である。
一方で硝子ギルドは、元から複数あったギルドの中で成り上がってきた新進のギルドである。元は革細工や鉱物加工などのギルドと大して変わらなかったのだが。近年硝子の素材になる様々な鉱物を熱で加工する事により、美しい色合いの硝子細工を作り出す事によって、ギルドは一気に大きくなってきた。
硝子の加工は様々に奥が深く、与える熱やその際の加工方法で、それぞれ虹色の輝きを作り出す事が出来る。
しかしながら、実の所硝子ギルドの最大の財源は。硝子に近い黒曜石というものの開発である。
この黒曜石は鋭さにおいて類を見ず。
主に刃物の刃部分や、鏃などにて活用されている。黒曜石のナイフは日用品としても類を見ない実用性を持っており。
実の所、硝子ギルドに関しても、外貨獲得の方法は実用品の輸出なのだ。
また、硝子は細かく凝れば凝るほど脆くなる傾向にあり。
芸術品よりも、頑強で様々な用途に用いる事が出来る実用品を作り、職人の負担を減らすべきでは無いかと言う声もあるのだが。
現ギルド長であるサヴェリオはそれらの声を押し潰し。
職人の誇りという言葉を使って周囲を丸め込み。
結果として、職人の技量が、実用品を作ろうとする工夫をしのぐというシステムを作りあげてきた。
奇しくも、保守、急進。どちらのギルドも。
結論として、同じ事を。同じ愚行に手を染めている。
どちらも主な財源は日用品。一部の金持ちだけが買うような嗜好品は、実の所滅多に売れるものでもないし。売ったところでそう長持ちだってしない。
職人だってずっと魔石を見続け極小の世界で細工していれば目を潰してしまうし、硝子を作る際の灼熱と毒を含んだガスを浴び続けていれば寿命を縮めてしまう。
実際、良い職人は長生きしないと噂が流れており。
事実、硝子も魔石も極めているとまで言われた先代の工房長は、事故で死んだものの。事故で死ぬ前、老人のように衰えていた、という現実もあった。
これらの事情は、既にボオスが集めて来ていた。
クラウディアも、同じ結論を出していた。
ボオスが見た所、現状を変えようとしている者はいないのか。
いない。
理由としては、これが既得権益になっているからだ。
現在特権を握っているのは、腕が良いとされる職人だが。それは硝子ギルドも魔石ギルドも、才能以上に「命を削っている」という理屈を口にしている。命を削って職人をしているのだから偉い。
そういう分かりやすい理屈というわけだ。
だが、それは多くの人材をつぶし。
実際に稼いでいる人間をないがしろにしている。
ボオスがそのいびつさを指摘すると。
ライザは、頷いていた。
「フェデリーカは分かっているのかな、それは」
「さてな。 あの娘はどうも職人寄りの思考の持ち主だ」
「……古い時代のアーミーの記録を、来る前に図書館でちょっと見たんだよね」
タオが話を振ってくる。
意味がある話だ。こう言うときに、タオが振ってくるのは。
だから、そのまま聞かせて貰う。
「古い時代のアーミー……神代の更に古い時代だけれども、基本的に最前線で戦う戦士が一番偉くて、影働きとか、経理とか、そういう事をやる人間はアーミーで人間扱いされなかったんだって」
「確かに構造は似ているな」
「うん。 命を削って職人をしている人間だけに価値がある。 この歪んだ構造は、どこから来たんだろう」
「さあな。 ただ、分かりやすいのは事実だ。 その分かりやすいという理由だけで、多くの人間をすり潰していることもな」
ボオスは更に調べてきた。
硝子ギルドと魔石ギルドの対立は凄まじい。
基本的にそれぞれは敵同士。
もしも相手のギルドの人間に娘なり息子なりが嫁いだ場合、家族の縁を切る。
それが普通だそうである。
それは、それぞれ街の反対側にギルドを置くわけだ。そうしないと、喧嘩どころか、とっくに集団での組織的な殺し合いに発展している。
現状の硝子ギルドと魔石ギルドは、少なくとも表向きは冷戦状態だが。
それでも、いつ発火してもおかしくは無いだろう。
ライザが考え込み。
そして、結論を出していた。
「今回のフェンリルの件で、多分資料の調査は出来ると思う。 タオ、明日からサルドニカの資料を徹底的に洗ってくれる?」
「分かった。 出来るだけ細かく調べて見るよ」
「よろしくね。 あたし達は、もう少し奥まで調査を進めて、更に危険な魔物がいるようならタオを加えて駆除に徹する。 ある程度目星がついたら、あたしがそれぞれのギルドの工房を視察するよ」
「何か考えがあるの?」
クラウディアの言葉に、ライザが頷いている。
此奴はバカっぽく昔は見えていたが。
今ではすっかり、幾つもの思惑を同時に進めている。
とんだ食わせ物だ。
先代のブルネン家の当主であるおばあさまが、此奴とは仲良くしておけと言ったわけである。
子供時代はあんなだったが、大人になってからは切れ者としての側面がとても強く出始めている。
はっきりいって無能な今のロテスヴァッサの王族なんぞよりも。
ライザの方が、この世界を引っ張って行く力は充分にある。
「それぞれの技術の基本を吸収できれば、あとはあたしが色々とアレンジできると思うね」
「ふむ?」
「その後は、あたしがフェデリーカと一緒に考えるよ。 あの門に書かれていた竜の紋様と、フェデリーカのネックレス。 無関係とは思えないし。 サルドニカにも、ひょっとすると……「門」があるかも知れないからね」
皆の緊張度が一段階上がる。
此処で言う後者の門とは、勿論オーリムへの通路のこと。つまり、フィルフサがいてもおかしくはないということだ。
その可能性は、出来るだけ潰したい。
それについては、オーリムの惨状を見て来たボオスも同意である。
「よし、此処まで。 残りは明日だね」
「ああ。 明日も早くなるんだろ。 俺はもう休ませて貰う」
「フィー」
「お前もよく寝ておけ」
フィーに言うと、ボオスは自分用の寝台に行く。
疲れが溜まっていることもあって、すぐに眠くなる。
これだけの人数がいるライザの仲間達だが。
恋愛関係がある人間は、百歩譲ってタオとパティだけ。しかもパティはこの場にいない。
不思議な仲間だ。
そう、ボオスは思うのだった。
(続)
ボオスはライザを認めています。自分とは違う強さと牽引力を。
苦いクーケン島での思い出があるからこそ、ボオスは強くなれたのだと言えます。