暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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フェンリル(本作では名前ではなく種族名です)を倒した結果、ライザ達は出来る事が増えます。

空間を自在に操作する桁外れの魔物ですが。

こいつがこんな所にいるというのは偶然ではなかったことが、後々分かってきます。


技術に罪なし
序、滝


隘路を抜ける。魔物の襲撃はなし。この辺りはフェンリルが完全に制圧下に置いていたらしい。

 

他の魔物は、近寄る事も出来なかった、ということだ。

 

周囲をそれでも確認しながら進む。

 

道がとにかく険しい。

 

これでは人が通るどころではない。

 

稚拙な作りの橋があって。

 

川に渡されている。

 

それも崩れかけだ。途中で補修して、先へと進む。フェデリーカは、壊れかけている橋を見る間に修復するあたし達の連携に目を見張っていた。

 

「建築用接着剤、硬化させるよ。 全員、手を洗って!」

 

「おっと、気を付けないとな」

 

「硬化!」

 

二つの液を混ぜることによって。

 

一気に硬化させる。

 

これも、少しずつ改良している。現在では軟化させるための液体も作ってある。橋がカチンカチンに戻る。

 

元々ちいさな橋だ。

 

補修はこれくらいで充分だろう。

 

フェデリーカが、顎が外れた様子で橋を見ている。もう、何が起きても不思議では無いという表情だ。

 

「フェデリーカ、行くよ」

 

「は、はい!」

 

「ふふ、凄いよね。 この建築用接着剤、私にとっても懐かしいものなんだ」

 

「そ、そうなんですね……」

 

そうだ。懐かしいものだ。

 

これを作って、それでルベルトさんを納得させた。

 

以降はバレンツにもこれは納品していて、各地でのインフラ作業で役立っていると聞いている。

 

少しでも世界のためになるのなら。

 

あたしはどんどん新しいものを作り出そう。

 

今の時代、人間は魔物に押され放題だ。このままだと、本当に滅亡してしまう。

 

かといって、人間が攻勢に出たら。

 

どうせまた古代クリント王国や。

 

奴らが模倣した神代の錬金術師集団のような輩が出てくるだけ。

 

あたしとしても、今後バレンツに流す技術は、色々考えなければならない時期が来ているのだが。

 

「周囲、問題ないぜ!」

 

「分かったクリフォードさん! 後は……」

 

先行していたクリフォードさんが手を振っている。

 

この辺りはクラウディアが音魔術で察知しきれないと言っていたくらい地形が複雑だ。

 

多分だけれども、今流れている川が本当に暴れ者で。

 

高低差が激しい地形で、何度も何度も流れを変えたのだ。

 

基本的には下り坂になっているのだが。

 

彼方此方でいきなり丘が出来ていたり。

 

いきなり谷が盆地に。盆地が丘になっていたりと。

 

とにかく訳が分からない地形である。

 

川も流れているが、この様子だと大雨が来るとすぐに流れが変わるとみて良いだろう。水害が頻繁に起き、流れも変わってしまう。

 

これぞ、暴れ川だろう。

 

見えてきた。

 

フェンリルが住み着いていたらしい場所だ。

 

大量の糞がこんもりと積み上げられている。タオが即座に行く。糞の状態は、その魔物の状態を知るのに必須だ。

 

セリさんも、植物魔術で調査に協力する。

 

タオが糞を崩して調べている間、フェデリーカに説明をしておく。

 

「汚いとか、そういうのは……」

 

「魔物の状態を知る事は、辺りの状況を知ることだよ。 命とどっちが大事?」

 

「う……」

 

「こう言うののやり方は、あたしも師匠の一人であるアガーテ姉さんって人から教わったんだ。 更に実践的に、リラさんという師匠からも教わったんだけれどね」

 

タオが手を振って来る。

 

見ると、糞は綺麗に消化されていて。

 

フェンリルが極めて健康的だったことが分かるという。

 

要するに、ストレスは微塵も感じていなかった、ということだ。

 

早い話。

 

周囲にフェンリルの敵になるような存在はいなかった、ということを意味している。

 

いたとしても、生息域が違ったのだろう。

 

また残骸を調べて見ると。

 

近くで襲われたらしい人間の死骸。

 

それ以外は、あらゆる魔物のものが混じっているようだと、タオは言う。

 

頷くと、あたしは糞を即座に焼却処分する。

 

残念だが、糞に混じっている人間の死骸は、こうして処分するしかない。一応崩してみたが。

 

身元がわかりそうな道具とかそういうものはなかった。

 

縄張りを示す意味もあったのだろう。

 

こういうのを「マーキング」という。

 

犬なんかは縄張りの彼方此方で小便や糞をするが。それは、排泄物に自分の情報が全部入っているからだ。

 

フェンリルの場合は、とんでもなく強い存在がいると、巣の近くにマーキングをするだけで充分だったのだろう。

 

寝床さえ邪魔者が入らなければ、それで良かったのだ。

 

後は、出向いて狩るのだから。

 

その奧に、ぺしゃんこに潰された複数の家屋。

 

かなり傷んでいたが。

 

金床や道具類などが、邪魔もののように避けられていた。フェンリルが、寝床にするために避けたのだろう。

 

ものの価値を理解していない人間が、分からないという理由で、貴重な資料や道具を片っ端から捨てたり焼いたりするように。

 

誇り高い戦士と思っていたが。

 

こういう所は、愚かしい人間と大差ないのだな。

 

まあ、期待しすぎか。

 

相手は所詮は、畜生だ。

 

フェデリーカに、道具類の確認は任せる。

 

この辺りが、集落だったのは間違いないが。水への対策だけして、それで満足してしまった印象だ。

 

周囲を見回した後、小さくため息をつく。

 

戦士もいたようだが。

 

おそらくだが、この先にある鉱山を探すための山師の集団と、その家族が中心になって此処に住んでいたのだろう。

 

サルドニカにいる人達は、発展中の都市にいると言う事で、気が大きくなっていて。

 

魔物に対する恐怖を忘れる者もいた。

 

命知らずと言いながら。

 

ただのもの知らずだった。

 

だから、こんな所にのこのこ出かけてきて。まとめてフェンリルに狩られてしまったということだ。

 

なんだか悲しい話だなとあたしは思う。

 

いずれにしても、集落を作るにしても。次は、相応の対策が必要になるだろう。

 

広場にキャンプを設営。

 

此処を中心に、周囲を調べることを皆に告げる。既にフェンリルの獣臭は周囲から消えている。

 

セリさんが掃除がてらに、複数の香草を植えたからである。

 

「よし、僕は予定通り一端戻って調査を開始するね」

 

「うん、よろしく。 出来るだけ専門家がそれはやった方が早いはず」

 

「こっちは俺に任せな」

 

「ええ、頼みます」

 

タオがサルドニカに戻る。既にアンナさんに話は通してあるので、これは問題ない。

 

元々タオには、これから資料の調査に注力して貰う予定だったのだ。これでいい。

 

クリフォードさんが、今後はこっちでの調査を担ってくれる。大丈夫。フィールドワークだったら、クリフォードさんもスペシャリスト。

 

ましてや今は、遺跡調査ではないのだから。

 

「それはそうと、ライザ。 ちょっと来てくれ」

 

「うん、何かみつけた?」

 

「ああ。 驚くぜ」

 

クリフォードさんが、親指で後ろを指す。滝か。

 

皆で、滝の方に行く。

 

大きな滝だ。それにしても、なんだか妙な造りのような。

 

手をかざして見ていて、あたしが思わず叫んでいた。

 

「あっ!」

 

「な、なんなんですかライザさん!」

 

「そういうことだったのか……!」

 

分かった。

 

分かってしまった。

 

この滝、あまりにもいびつすぎる。普通に川が流れて。高低差がある結果、自然に生じる滝じゃない。

 

あまりにも不自然に、地形的な断絶が起きているのだ。

 

地震などが原因で起きたものではないと、地形を見て断言できる。

 

これは、恐らく。

 

神代の人間が、意図的にこの辺の地形を滅茶苦茶にするため。暴れ川を、自分達で作り出したのだ。

 

それについて、説明はしておく。

 

レントが呻いていた。

 

「それでか。 この辺り、迷路みたいだと思ったら……」

 

「で。 ライザ、それは一体どうしてだと思う」

 

「可能性があるのは、この先にあるものの独占だろうね」

 

「独占……」

 

フェデリーカが呻く。

 

クラウディアが、眉をひそめていた。

 

この場にいるフェデリーカ以外の全員が、古代クリント王国の所業を知っている。更には、そいつらが模倣した神代の錬金術師集団についても。

 

あたしは少し考え込みながら。

 

地形を、手をかざして伺う。

 

案の場、ある程度の段階で川は落ち着いていて。湖の先に、安定した地盤が構築されているようだ。

 

いずれにしても、あの先に行くには、エアドロップがいるか。

 

エアドロップは今日は持って来ていない。

 

ただ、あの先で間違いは無いだろう。

 

そしてあの先は山岳地帯。

 

鉱山があるんだ。

 

「フェデリーカ。 あの辺りの山は、所有権はないんだよね」

 

「そもそも誰も到達出来ていませんので……」

 

「分かった。 多分あっちで主に採掘はすることになると思う。 それと、フェンリルほどではないにしても、相当に強い魔物だらけだろうね」

 

「ひ……」

 

フェデリーカが呻く。

 

あたしも、それには同情するが。

 

まあ、こればかりは仕方がないとしか言えないだろう。

 

そして、ほぼ確信できたが。

 

おかしいとは思っていたのだ。

 

神代の時代から、古代クリント王国時代まで。

 

人間はどうして魔物を圧倒できていた。

 

確かに人間が多くて、テクノロジーも高かったというのも理由の一つだろう。だが、特に神代の頃は。

 

そもそもフェンリルみたいな危険極まりない魔物なんで、絶滅させている筈だ。本来だったら。

 

たかが千年程度で、あんな巨大な魔物はそう好き放題に世界に拡がらない。

 

生物というのは、何万年という単位で世界に拡がっていく。そういうものであることは、あたしでさえ知っている。

 

だとすると。

 

ある可能性が浮上してくる。

 

神代の人間は。

 

ひょっとして、魔物を作り出して。それを何らかの形で利用していたのでは無いか、というものだ。

 

考えて見ればおかしかったのだ。

 

魔物の中には、名前の由来がよく分かっていないものがたくさんいる。

 

あのフェンリルだってそうだ。

 

それらの由来、名前の元は、混乱の中で失われた、としても。

 

今強大で怖れられている魔物の名前が、何に由来するか分からないと言うのも、おかしな話ではないか。

 

いずれにしても、警戒はしておくべきだろう。

 

あたしが想像している以上に。

 

神代という連中は、危険極まりなく。

 

そのエゴも。

 

肥大化しきって、世界をそれこそ飲み込みかねない程だったのかも知れなかった。

 

何よりあのフィルフサだって、神代に作られた生物兵器だった可能性があるのだ。

 

それを考慮すると、或いは魔物の中の、特に名前の由来が分からない連中も……となる。

 

実際エレメンタルは。元々星の民と言われる存在だった事が既に判明している。

 

他だって、本来の生命とは全く関係ない形で、後にこの世界に出現していてもおかしくはないのだ。

 

ともかく、周囲を徹底的に調査する。

 

クリフォードさんと連携して、地図を埋めていく。何度か雑魚を蹴散らしたが。やはりフェンリルの影に怯えているのだろう。

 

それほど強い魔物が来る様子はない。

 

流石にフィルフサの将軍に迫る実力の持ち主だったのだ。魔物の中では間違いなく最上級の存在。

 

この辺りに、同等の魔物がいる可能性はあまり高くない。

 

クラウディアが呼んでくる。

 

近付くと、そこには巨大な水晶の塊が存在していた。

 

水晶の塊なだけあって、トゲトゲした結晶だが。その大きさは、あたしよりもずっと。それこそ人間数人分は軽く堆積がある。

 

しかも純度も高い。

 

紫色にうっすら怪しく輝いている様子は、なんというか蠱惑的ですらあった。

 

「うわ、すっごいねこれ……」

 

「これ、集落を作る時にはサルドニカに運び込まなかったのか?」

 

「集落が出来て、フェンリルに滅ぼされるまで数ヶ月はあった筈です。 この水晶が放置されていたのはおかしいですね」

 

「なるほどな……」

 

ボオスに、フェデリーカが応じる。

 

フェデリーカもサルドニカの名目上の首長だ。本物の首長となろうと努力をしている筈で、こういう事にはきっちり知識もあるというわけだ。

 

レントを呼んで、掘り出してしまう。

 

水晶は水晶。

 

一部崩れてしまっているものはこっちで貰うが。

 

こんな巨大な結晶、此処に放置していても仕方がないだろう。

 

レントが掘り出して、それでボオスとクリフォードさんと一緒に荷車に乗せる。それで、一度サルドニカに戻る。

 

かなりの人数が、街道の復興に出ている。

 

修復に苦労している場所もあるようなので、それはあたしがすぐに手伝う。建築用接着剤の威力は凄まじく。

 

皆手慣れている事もあって、それぞれが十人分以上の働きをする。

 

あたしは石材を熱魔術で切りだし、それを等間隔にして積み上げる。男衆がそれを運んで行き。

 

クラウディアが丁寧に音魔術で周囲を警戒。

 

セリさんが植物魔術で幾つかの蔓を出す。

 

それによって、正確に計算が出来るようだ。その計算結果をボオスに伝え。ボオスが手慣れた様子で指示をして、石材を並べてしまう。

 

見る間にぼこぼこだった街道が直っていくのを見て、人夫達が目を見張る。

 

この辺りは稼ぎ場ではあるが。

 

魔物が周囲にいることもあって、皆命がけなのだ。工事の遅延は、それだけ死に近付くのである。

 

周囲を警戒する戦士達に混じって、あたしが戦闘する。

 

やっぱり人夫を狙って魔物が仕掛けて来る。戦士達は応戦しているが、どうしても守りが薄くなる。

 

これだけ安全圏が拡がると。

 

どうしても、例のメイドの一族の人達は足りなくなるし。

 

歴戦の戦士は彼方此方に分散することになる。

 

其処を狙って、エサを食いに来る魔物がいる。

 

そういうのには、徹底的に思い知らさなければならない。

 

丸焼けになった大きめのラプトルを見て、算を乱して逃げ出す小型のラプトル。

 

わっと戦士達が声を上げた。

 

そのまま、直ったばかりの街道をそのまま戻る。

 

サルドニカに入ると、水晶をフェデリーカさんにそのまま引き渡す。ちょっとものおしそうにしていたクラウディアだが。

 

元々あの集落はサルドニカなのだ。

 

引き渡しておけば、それだけ恩を売る事になるだろうし。

 

そもそもこれだけ巨大な水晶。

 

個人で管理するよりも、サルドニカという行政単位で管理した方が良い筈だ。

 

「宝飾ギルドを呼んでください」

 

「はい」

 

「100周年のモニュメントとならんで、この水晶は魔物から集落を奪還した記念として展示します。 加工をするように指示してください」

 

「分かりました」

 

職人がフェデリーカの声に駆けていく。

 

アンナさんが来て、それで見張りをするので。わいわいと様子を見に来ていた職人達は散って行った。

 

例のメイドの一族が、揃って腕利きである事は知られているらしい。

 

無体は出来ないと、悟ったのだろう。

 

アルベルタさんが来る。

 

相変わらずの鉄火肌。舐められたら終わりだから、化粧を駆使して舐められないようにする。

 

それが一目で分かる。

 

「錬金術師ライザどの。 フェンリルを討ち取った旨、聞いている。 サルドニカの民の一人として、感謝する」

 

「此方こそ。 それよりも、後数日でこの辺りの哨戒は終わります。 魔石ギルドの様子を、軽く視察させてください」

 

「……分かった」

 

今までの実績を考えると、実態を見せないというわけにもいかなくなった。

 

フェンリルを倒す前だったら、なんだかんだで断られていたかも知れないが、それもできなくなった。

 

アルベルタさんが飲んだ以上、サヴェリオさんも飲まざるを得なくなる。

 

これでいい。

 

あたしは頷くと、一度戻る旨をフェデリーカに告げると。クラウディアとボオスを残して、アトリエに戻る。

 

サルドニカで、二人はまだまだやる事があるのだ。

 

タオの方も、フェンリルを倒した事で、資料にアクセスしやすくなるはず。

 

さて、ここから。

 

魔物退治は一段落した以上。

 

サルドニカで、調査を本格化させる時が、来たのかも知れない。

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