暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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魔石ギルドに続いて硝子ギルドにも足を運ぶライザ。

こっちも技術を学ばせて貰う事になります。

なお、硝子の作り方は現在のそれとあまり代わりません。装飾品の硝子を売りにしていますが、実の所量産品のが稼げているのも秘密です(笑)。これは魔石ギルドも同じだったり。

本作のライザは決して万能ではありませんが、空間把握という観点では屈指の才覚の持ち主です。

それが技術の解析と分析にも役立っているのです。


2、硝子ギルド

硝子ギルドに出向く。特徴は、かなり大きな煙突だろう。あたしは思わずそれを見上げていた。

 

大量の何かが運び込まれている。

 

一見するとただの石に見えるが、違う。あれは高熱で熱することにより、硝子の元になるのだ。

 

ギルド本部は、魔石ギルドと違ってかなり騒がしい。

 

ずっと硝子細工がたてる音が、がちゃがちゃと響いている。最初に出迎えてくれたサヴェリオさんに渡したのは、例の靴だ。

 

ほぼ完璧に仕上がったはず。そして、足のサイズにあわせて調整も出来るようにしておいた。

 

「これは素晴らしい。 色合いも、完璧に戻っているようだな」

 

「それは良かった。 婚約者を大事にしてあげてください」

 

「ああ、分かっているよ」

 

その婚約者らしいのが、奧で会計をしている。見ていて、なんとなくつながりがわかるのだ。

 

美人ではないが、真面目に仕事をする人らしい。

 

ルックスがいいサヴェリオさんには、女がたくさん寄ってくるのだろう。

 

だけれども、この人は多分、金を派手に使わせてくれることを目的にしているような輩よりも。

 

しっかりきちんと自分の事を理解して、一緒に道を歩いてくれる女の方が良かった。

 

そういうことなのだろうと思う。

 

職場を見せてもらう。

 

ちょっとした工場だなと、あたしは思った。

 

魔石ギルドでは、魔石をどう切り出すか、どう丁寧に扱うかが主眼だった。

 

だがこっちでは、まずは石を粉々に砕いて、派手にどんどん熱して溶かしている。そして溶かした後、用途に応じて様々な顔料を加えたり、温度を変えたりしているようである。

 

その過程で有毒ガスがどんどん出ているが。

 

何人かいる魔術師が空気を操作して、外に逃がしているようである。

 

「有毒ガスは垂れ流しですね。 規模が大きくなると、健康に被害が出るのではありませんか?」

 

「鋭いな。 俺たちの方でも、今対策を考えている所だ。 冷気魔術の使い手を雇って、即座にガスを冷やしてしまうとか。 或いは有毒ガスを水に一度流して、それを地面に埋めるとかな。 どれも上手くは行っていなくて、今後調整をしようと思ってはいるんだが」

 

なるほど、無策ではないのだな。

 

そのまま、見せてもらう。

 

溶かした硝子は文字通り飴色になっている。それを棒でとると、練り上げるようにして加工していく。

 

ふうと空気を吹き込んで、膨らませる。

 

あれは、危ないな。

 

もし間違って吸い込んだりしたら、肺が一瞬で焼ける。

 

「空気が逆流しないように工夫が必要そうですね」

 

「あの筒は硝子ギルドの技術の塊だ。 簡単には中身を見せられない」

 

「ふむ……」

 

硝子ギルドは、今の時代珍しく技術を発展させている、と自称している場所だが。

 

この程度の技術。

 

神代になかったとはとても思えない。

 

ともかく、他の技術も見せてもらう。

 

硝子の壺や容器などはこれはこれで面白い。硝子の容器は、強力な酸を保管できる貴重な品だ。

 

幾つか注文しておくか。

 

そう思いながら、奧に。

 

基本的に、魔石ギルドと違って、硝子ギルドはとてつもなく騒がしい。これについては、あたしも認める。

 

これは活力と判断するべきなのか。

 

それとも。

 

若い職人が、サヴェリオさんに話しかける。

 

「若!」

 

「おう、どうした」

 

そのまま、専門用語が飛び交い始める。しばしして、サヴェリオさんが指示を出して、若い職人はすっ飛んでいった。

 

今のは、と聞くと。

 

これが伝統的なやり方であるらしい。

 

「硝子ギルドでは、問題点があった場合は即座にギルド長に報告って決まっていてな」

 

「それは動きやすいですね」

 

「職人は基本的に横並びだ。 まあ見習いはまた扱いが違うんだが、そもそもとにかく扱いが危ないからな……」

 

ただ。先代までは此処まで風通しが良くなかったのだと、サヴェリオさんは言う。

 

まあ、何となく分からないでもない。

 

これだけ騒がしい職場だ。

 

殺気立つ奴だって多いだろう。

 

サヴェリオさんは、こう言う場所ではしっかり心を冷静に保って。動き続けなければならない。

 

どっしりと構えているという観点では、アルベルタさんと同じか。

 

硝子を型に流して、一気に冷やしている。量産しているこれは、多分窓などに使う硝子だろう。

 

貴族の邸宅なんかに幾つかあったのを覚えている。

 

ただ、これはどちらかというと高級品だ。

 

冷やして、それから枠をつけている。

 

流石に硝子が触るとかなり危ない事くらいはあたしも知っている。扱っている職人達は、分厚い手袋をしていた。

 

あたしはずっと眼鏡で光を遮っていて。

 

工房を出て、やっとそれを外した。

 

サヴェリオさんは、苦笑いする。

 

「それで錬金術師殿はどう感じ取ったかな」

 

「熱気があっていいですね」

 

「そうだよな」

 

「……もう少し色々見せてください」

 

覚えるのに必要なので。そう、内心で呟く。

 

ただ、それについては、前にも軽く話したが。話半分にしか思っていないだろう。あたしとしても、相手が真に受けるとは思っていない。

 

それでいい。

 

それで、本当に再現して見せた時に、相手に強烈な衝撃を与える事が出来る。一気に主導権を握る事が出来る。

 

ただ、それだけでは足りない。

 

もう一手欲しいのだが。

 

それはフェデリーカと要相談だろう。

 

続けて、硝子の加工について見せてもらう。

 

ふむ、なるほど。

 

硝子を板状に加工する場合、様々な形に切り取る事があるのか。確かに丸い窓とか、そういうものは色々とある。

 

それは熱いうちに文字通り斬るんだ。

 

刃物を使う場合も、魔術を使う場合もあるようだが。

 

基本的に職人は、刃物を使っている。

 

円形に切り取る場合は、完全に職人芸を用いているが。コンパスのような道具を用いてもいた。

 

色々なやり方を試している、ということか。

 

なるほど、これは興味深い。

 

どんどん魔石ギルドに追い上げている訳だ。

 

人間の創意工夫は、500年前に消え失せた。

 

これは魔物による大攻勢が始まって。古代クリント王国が終わってからというもの、人間は苛烈な攻撃で削り取られていったからだ。

 

人間の数は500年前の数十分の一。

 

だから、どこも人間は衰退している。王都ですらそう。

 

それなのに、此処には試行錯誤と創意工夫がある。

 

それは、発展する。

 

そして、これを捨ててはいけない。

 

だが、魔石ギルドとの諍いはいただけない。もう少し、まともに切磋琢磨できないのだろうか。

 

翌日も、技術を見せてもらう。

 

どろっと熱せられた硝子が流し込まれる。型に流し込まれた硝子は均一に薄くされて。それが順番に切り取られ。余った分はまた溶かされて、また型を取られる。

 

一連の作業はとても危険だ。

 

しぶきが掛かるだけでも危ない。掛かった場所によっては即死する。

 

此処で巫山戯た行動を取った奴は街から追放。

 

そういう決まりになっているそうである。

 

実際、若い職人が巫山戯て、此処で大声を出したり。作業中の職人を押したりして。それで即時で追放された事が何度かあるという。

 

しかもそうやって追放されたのは、ギルド長の息子だったりしたケースもあり。追放されるのはおかしいと喚いているのを、ギルド長も庇うことが許されなかったそうだ。ちなみに追放された後、その人物はほぼ助からないとか。

 

まあ、それもそうだろうな。

 

しぶきを防ぐために、常に魔術師が冷気の壁を展開しているが、それも負担がかなり大きそうだ。

 

皮肉な話で、魔石を使って魔力消耗を抑えている。

 

こういう現実があるのだから、少しは魔石ギルドと協調すればいいのに。

 

大規模な工場でも、フィーは説明をしっかり聞いて理解してたのだろう。絶対においたはしなかった。

 

あたしも懐から出すつもりはなかったが。

 

とにかく大人しくしていたので、非常に楽だった。

 

サヴェリオさんも、あたしにすら、見学の際に絶対に音を出したり職人の邪魔をするなと何度も言い聞かせてきた。

 

それだけ、此処は神聖な場所で。

 

ちょっとしたことで、本当に人が死ぬ危ない場所であったのだろう。

 

見学を終えた後、確認をする。

 

「あの辺り、機械を使っていますよね」

 

「流石だな。 見ただけで分かるのか」

 

「王都にある機械を全部修理したのはあたしなので」

 

「そうだったな。 話半分に聞いていたが、どうやら本当だと認識せざるを得ないらしい」

 

サヴェリオさんは嘆息すると、順番に説明してくれる。

 

どうも硝子を熱した後、均一に出すのがとても難しいらしい。

 

硝子は熱の操作が非常に難しいとかで、魔術で人力でやるのは絶体に無理。

 

機械を使って、非常に精密に温度を調整しなければならないのだとか。

 

機械を見ることは、今はダメだと言われた。

 

というのも、機械そのものの調子が良くないそうである。それはそうだろうなと、あたしも思う。

 

年中ずっと使っているのだ。

 

しかも、100年前から。

 

多分作られたのは500年以上前。

 

その時作られてから、修理の類はされていないだろう。百年前に、街を作るのに携わった錬金術師が手を入れたとしても。

 

街の様子からして、応急処置。

 

今のあたしより、多分その人の技量は下だったか。それとも機械に対しては、少なくとも劣っていた。

 

そうやって考えて見ると、幾つか改善点が見えてくる。

 

両ギルドは、共通してとにかくその凝り固まった思想をどうにかしないといけない。

 

そのためには、あたしが技術を見せるしかない。

 

もしも、この街を作るのに関わった錬金術師が、完成された技術を見せていれば。その後は、その錬金術師の技術をデッドコピーしていくだけの時代になっていたのだろう。それでも、サルドニカは発展したが。

 

しかしながら、現実はそうではない。

 

条件が幾つか整った結果、サルドニカは発展できた。

 

その結果、魔石ギルドも硝子ギルドも、それぞれのやり方で試行錯誤した。魔石ギルドは保守的に。硝子ギルドは急進的に。

 

いずれにしても、自分が正しいと思い込んでいるし。

 

相手が間違っていると思い込んでいる。

 

両方見てみて理解したが、どっちも間違っているし正しい。

 

いずれにしても、このままだとサルドニカは二つに割れて。最悪魔物に食い散らかされて滅びる。

 

魔物によって500年前の古代クリント王国滅亡時に滅ぼされた街には、サルドニカより大きな街なんてそれこそ幾らでもあった筈だ。

 

この街は安全なんてのは妄想である。

 

フィルフサに襲われでもしたら、それこそ数時間で更地になるだろう砂上の楼閣。

 

そういう意味では。

 

発展していても、極めて危ない場所なのだと言えた。

 

「どうしたんだ錬金術師どの。 難しい顔で考え込んで」

 

「一つ確認しても良いですか?」

 

「ん、なんだ」

 

「サヴェリオさんは、仮にフェンリルと同格の魔物がこの街の周辺に数十体いたらどうしますか?」

 

笑おうとして、サヴェリオさんは失敗する。

 

あたし達が、フェンリルほどでは無いにしても、この街の周辺にいて。街の戦士や傭兵が手も足も出なかった魔物を。街道で旅人を好き放題に食い散らかしてこの近辺をエサ場と認識していた魔物を。

 

全部片付けた事を思い出したのだ。

 

そんなあたしが、真面目に聞いているのである。

 

それは、当然表情だって引きつる。

 

「あたしは大まじめです。 仮にその場合、どう対応しますか?」

 

「に、逃げるしかないだろうな」

 

「逃げられると思いますか?」

 

「……」

 

完全に青ざめるサヴェリオさん。当たり前だ。フェンリルに食い散らかされた前線の集落の人達は、逃げようとして出来なかった。

 

あれは。フェンリルは何の理由かはわからないけれども、ただサルドニカにこなかっただけ。

 

サルドニカに乱入していたら、街が半壊……程度の被害で済んでいたら幸運だっただろう。

 

あたしは錬金術の装備で身を固めていることもある。王都を単騎で潰せると太鼓判を押されている。

 

そんなあたしでも、かなり危ないと感じる相手だった。

 

それでも、フィルフサの王種には当然及ばないし。強めのフィルフサの将軍にも及ばなかったと思う。

 

つまり「発展している都市」なんて、近くにオーリムへの門が開こうものなら、一日ももたないのだ。

 

そして、人間が今とは比べものにならないほどいた時代を終わらせたのはフィルフサだが。

 

アーミーがフィルフサとの戦いで壊滅していたとしても。

 

その後に、人間を文字通り殲滅して世界から駆逐したのは魔物なのである。

 

もしも、魔物がその気になったら。こんな街、多分即座に潰される。あたしがいても、守りきれるかは分からない。

 

そして嫌な予感を想起させる存在も、例の群島で見ている。

 

翼を持ち、槍を手にしたあの魔物は。

 

他の魔物を、明らかに使役していた。

 

あれから姿を見せていないが。もしも姿を見せていたら。それこそ想像を絶する災害に。それこそフィルフサが門を通るのと同等の災害に発展するはずだ。

 

何度でも、確認して。そうだとしか言えない。

 

サルドニカは。砂上の楼閣。砂上の楼閣の上で、人間が積み木遊びをしているに過ぎない場所なのだ。

 

やっと事態の深刻さに気付いただろうサヴェリオさん。

 

急進派の最大の弱点は、足下が見えなくなることだ。

 

ただ、これでいい。

 

少しは現状の危うさを理解して。人間が発展している数少ない街が。人間の手だけで発展できているわけでは無い事を知って貰う他無い。

 

そもそもあれだけ魔物がエサ場扱いして集まって来ているのに、今日まで発展できてきたのが不思議なくらいなのだ。

 

例のメイドの一族の支援か。

 

可能性はある。

 

だとすると、本当に何者なのか。

 

今のうちに、しっかり調べておかないといけないのかも知れない。

 

他にも視察をさせて貰う。

 

やはり硝子の材料となる石は、それそのものは殆ど粗雑に扱っている。ただし、混ざりものがないようにも注意しているようだ。

 

眼鏡をつけて、マスクをつけるようにと厳命もされている。

 

鉱山なんかと同じで、結構鉱物粉塵が致命的なのだろう。何人か雇われている魔術師が、空気の流れをコントロールまでしている。

 

こればかりは外に垂れ流す訳にはいかないのだろう。

 

最終的には水の中に流し込んで。その水も、排水に混ぜるのではなく。近くの土に捨てているようだった。そしてその土も、ある程度水を捨てた後は焼き捨てて。街の外に積み上げているようである。

 

なるほど。

 

幾つも参考になった。

 

サヴェリオさんに礼を言って、ギルドを後にする。

 

ちなみに女たらしという話だったが。

 

結局あたしの胸や尻や股をサヴェリオさんは見ている様子がなかった。あたしを怒らせるとまずいというよりも。

 

噂が先行しすぎていて。

 

実際には、そこまでのスケベ野郎ではないのかも知れない。

 

そう、アトリエに戻って感じ取っていた。

 

 

 

アトリエで皆と合流する。

 

タオも、魔石ギルドと硝子ギルドで資料を見せてもらって、それをまとめて戻って来ていた。

 

ボオスとクラウディアも戻って来ていたので、丁度良い。

 

軽く話をする事にする。

 

「魔石と硝子の技術。 方向性は違うものの、再現は可能」

 

「えっ……」

 

フェデリーカが驚く。

 

ここ数日、魔物退治の行脚を続け。既に残りカスばかりが相手とは言え、それでも連戦に連戦を重ねていたのだ。

 

疲れ果てていた様子だが。

 

それでも、やはりこの街の職人の名目上とは言え長なのだ。あたしの言葉には、色々と驚いてしまうのだろう。

 

あたしは頷くと、順番に説明する。

 

「魔石加工と硝子加工の仕組みは理解出来た。 それぞれのギルドがやっている職人芸はとても真似できないけれども、違う方向で技術再現はやってみせるよ」

 

「ほ、本当ですか」

 

「嘘を言うメリットは?」

 

「い、いえ……」

 

あたしは戦略的な力を持つ人間としてここに来ている。

 

それが、無責任に嘘なんてつけるか。

 

嘘をつくというのは、その発言に価値が無くなる事を意味している。

 

あたしにも、その程度の事は分かっている。

 

必要があって嘘をつく事もあるかも知れないが。

 

今は少なくともそうじゃない。

 

「具体的には、こういうのを作る」

 

フェデリーカに説明。

 

そうすると、フェデリーカは蒼白になり。それを本当に出来るのかと、あたしを見たが。あたしは頷いて、それに返すだけだ。

 

咳払いするクリフォードさん。

 

周囲の魔物の駆逐については、問題なく進んでいると言う事だ。ただし、まだ完全ではないという。

 

「例の立ち入り禁止の区画があるだろ」

 

「ええ、露天掘り鉱山の奧の、ですよね」

 

「あそこから魔物がやはり継続的に湧いてきているな。 思うに、あの奧にかなり強いのがいるぜ」

 

「……」

 

フェデリーカは黙り込む。

 

さては覚えがあるのかもしれない。

 

ただ、それについては後回しだ。

 

ともかく、順番にやる事をしていく。

 

次はタオだ。

 

タオは見る事が出来る範囲で、魔石ギルドと硝子ギルドの帳簿などを確認してきたという。

 

そうすると、露骨に不自然な点が見つかったということだ。

 

「この街が百年で発展し続けて来た理由がわかったよ」

 

「うん、聞かせてくれる?」

 

「経済ってのはね、人間の制御をほぼ受けつけないんだ。 時には風船みたいに膨らんで、一時期は良いけど破裂して多くの人間を巻き添えにする。 逆に、どんな理由にしても、いきなり冷え込んで、後になってその理由がわかったりする。 そういった人間の制御を超えた出来事が、サルドニカでは起きていないんだ。 魔石ギルドにしても、売り上げが下がったりしていない。 硝子ギルドはそのまま順当に上がり続けている」

 

これは異常な事だと、タオは言う。

 

タオは数学も学者レベルに出来るので、経済を帳簿などを見るだけでだいたい理解出来るそうである。

 

それで理解したそうだが、これはあり得ないと言う事だ。

 

「……多分、あの人達だね」

 

「……」

 

既にこの面子の中では。フェデリーカは除くが。

 

あのメイドの一族の影響力の大きさは、公然の秘密となっている。

 

その強さも。

 

ただ戦闘力が高いだけでは無い。

 

無能なロテスヴァッサの王族と貴族達がいるのに。ロテスヴァッサが五百年ももった理由。

 

それは多分、間違いなくあの人達だ。

 

それに去年。

 

王都を離れる前に、王都の警備の要だったカーティアさんという。メイドの一族の人から聞かされた話。

 

あれは寓話だったとは思えないのだ。

 

だとすると、あの人達の背後にいるのは、何らかの神か。それに近い存在か。或いは生き残った錬金術師なのか。

 

いや、錬金術師は恐らくないだろう。

 

この世界の錬金術師に、特に神代の頃に一人でもマシな人がいたら。

 

こんな風に、世界はなっていなかったのだ。

 

「俺たちの方でも、同じ見解だ。 調べれば調べるほど、サルドニカが内乱になっていないのは不自然過ぎるんだ。 一時期は、それぞれのギルドが自衛を理由に対人用の部隊を編成しようとしていたんだろう?」

 

「えっ。 それは初耳です」

 

「証言が得られたの。 だけれども、それを推進しようとしたギルド長が不審死して、計画が頓挫したって……」

 

「そんな事が……」

 

フェデリーカも聞かされていなかったのだろう。

 

サルドニカは百年程度しか歴史がない街だ。

 

年寄りには、そういった出来事を覚えている人がいるものなのである。

 

とりあえず、これでやるべき事は分かった。

 

「まずは硝子ギルドと魔石ギルドに、あたしの錬金術を見せる。 それで完全に、両ギルドのギルド長を黙らせる」

 

「二人は職人としてはかなりの凄腕です。 本当にいけますか?」

 

「ライザは根拠もなくこういうことはいわねえ」

 

レントが助け船をだしてくれる。

 

フェデリーカはしばし黙り込んだが。

 

頷いて、お願いしますと言う。

 

それだけで充分だ。

 

それで、フェデリーカの方でもやるべき事がある。

 

「フェデリーカ。 あたしが二人に影響力を持ったら、ギルド二つを和解させるための策が必要になるけど。 何か思い当たる節は?」

 

「ギルドを和解ですか。 ……」

 

「何か、あるんだね」

 

「お父さんが、ずっと悲願にしていたことがあります。 でも……私も、実はまだライザさんの錬金術を信じ切れません。 その、作ってくれた装備や、ライザさんの戦闘力については疑ってはいないんです。 でも、職人としては、やはり硝子や魔石については、それぞれの完成品をみないと……」

 

ま、それもそうか。

 

なら、まずはフェデリーカを納得させるところから、だろうな。

 

既に時間を見て、回収してきている魔石がある。

 

ルジャーダと言われる、この地方で最上級の魔石。赤紫の美しい輝きを放つものだ。

 

この魔石は、実の所秘めている魔力はそう大した事がない。

 

その上脆い。

 

しかし輝きがとても美しいこと。更に中々大きな塊が存在していない事もあって。

 

魔石ギルドでは、最高級の魔石細工にこれを用いる。

 

これのあまり大きくない、つまり価値があまりない欠片をそれなりに集めて来ている。

 

硝子については、得に問題は無い。

 

この辺りに採れる鉱石に、散々元になるものが詰まっているからだ。

 

これも素材はしっかり集めてある。

 

そして、幾つか、硝子ギルドで再現出来ていない色については把握した。故に、此処からはあたしの腕の見せ所だ。

 

「それで、どれくらいでその画期的な魔石細工と、硝子は出来そうですか?」

 

「明日には」

 

「……」

 

フェデリーカが貧血を起こしたようで。あわててクラウディアが支える。

 

色々起きすぎて、脳がフリーズしたらしい。

 

まあ、それについては別にどうでもいい。

 

とにかくあたしは、やり遂げる。それだけである。

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