暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
原作だと何故かクソ雑魚にいきなり苦戦するシーンから始まるライザ3。
まあチュートリアルの都合とはいえ、ちょっと怠けすぎじゃないですかね(笑)
とはいえ、原作でもすぐに実戦の勘を取り戻していく事になりますが。
実際問題、原作ライザ3のライザの体術は凄まじく、アクロバティックな体術と豪快な蹴り技は一見の価値があります。
港で騒いでいる商会や商人の元に、あたしが出向く。
そうすると、さっと狂熱が消えた。
皆、押し黙るのが分かる。
大規模な魔物との戦闘が発生し、それをあたし達が叩き潰してきた事は、理解出来ただろうから、だ。
「ええ、すみません。 クーケン島で錬金術をしているライザリン=シュタウトです。 今、クーケン島の西側の偵察から戻りました。 見ての通り、数百を超える魔物と肉弾戦をする事になりました」
にこりと笑うが。
大量の血を浴びた状態でそれをやれば、相手を恐怖させ。静かにさせることを、あたしは知っていた。
ボオスが何か言いたそうにしているが。
ともかく、今は黙らせることである。
「偵察の結果、未知の魔物に加え、クーケン島の西側に広大な浅瀬と、未知の島々が出現していることが分かりました。 極めて危険ですので、絶対に近寄らないように最大限の注意をしてください。 商船を使っている商人の方は、座礁の可能性がありますので、航路の再検討をお願いいたします」
「そ、そんな……」
「コホン。 ともかく、このような現象は前代未聞で、調査をするにしても時間が掛かりますし、このちいさな島の戦力で調査など出来るかは非常に疑問が残ります。 商人の方々は、それぞれ自衛を心がけてください。 以上です」
それだけ告げると、ボオスに交代。
後から増援に来てくれたボオスは。
ブルネンの人間だと告げて、一人ずつ商人と話をし始める。
あたしはと言うと、一度家に戻る。
風呂に入って、返り血を流したかったからだ。出来れば服も綺麗にしたい。だがそれはアトリエに戻らないといけないし、後回しである。
やる事を、一つずつ順番にやっていかないといけない。
アガーテ姉さんと、タオと軽く話す。
「護り手の方で、例の群島に行く人間が出ないように封鎖をしておく」
「お願いします、アガーテ姉さん」
「ああ。 任せておけ。 それであの奇怪な島々はなんだか見当はついているのか?」
「実は……」
タオが分かるらしい。
話をそのまま聞く。
タオによると、百年ほど前。
大きな地震があって。それで何かしらの出来事があったらしい、という事だけは記録に残っているそうだ。
その頃は、そもそも聖堂を超えた先なんていけたものではなかったし。禁足地になっていた筈だ。
更に言えばクーケン島が交易の過程に存在する島として、存在感を発揮し始めたのはごく最近の事。
それまでは古老みたいなのが力を持っていて。
排他的で、よそ者を寄せ付けない島だったのである。
つまり百年だか前に、何かしらの事が起きて。例えばあのような島が出現していたとしても。
クーケン島では記録に残らなかったのだろうと思うと、タオは締めくくった。
「なるほどな。 流石に王都にいってきただけあって、言葉の一つずつに説得力が出ている。 以前は想像力の翼を羽ばたかせるばかりで、地に足が着いていなかった」
「すみません、僕もそうだと思います。 ライザ、僕はこれから島の状態をチェックして、被害が出ていないか細かい部分まで確認しておくよ」
「よろしく。 一応あたしの方でもみたけれど、大きな被害は出ていないと思うよ」
「動きが速いね。 みんな手際が良くなってる」
その場で別れて、一端あたしは家に。
家の前に荷車を着けて。そして、父さん母さんに軽く魔物とやりあってきたとだけ告げて。風呂に入る。
リラックスのためではないから、すぐに風呂から出る。
野宿にももう慣れっこだ。
だが、それでも風呂には入れるときは、入れるように心がけてもいた。
人間にはもう拘りはないが。
品性を放り捨てる気も、あたしにはない。
もう何十年かしたら、クーケン島は離れるつもりでいる。
ずっと同じ姿のままいたら、きっと迷惑を掛けるだろうし。何より此処は、拠点としては人類の活動地点の中心地からかなり離れている。
彼方此方を調査して回るには、クーケン島は必ずしも適していないのである。
風呂から上がると、下着だけ替えて、服を着直す。
さて、次に行くのはバレンツだ。
荷車はそのまま家に預けて、すぐにバレンツに。
バレンツにも、何人か商人が来ていた。足が速い(腐りやすい)商品を、此処で捌けないか相談しているようだった。
フロディアさんが、あたしが来たのを見て。
最近雇ったらしい人に、商人達の対応を任せる。
この人、以前知り合いの行商であるロミィさんの所で下働きをしていたらしいのだが。
クーケン島で修行するように言われて。結局バレンツで雇われることになったらしい。
なんだかマイペースな人で、それが故に相手のペースに引きずられることもないそうだ。
フロディアさんに、すぐに早馬の手配を頼む。
そうくるだろうと思っていたらしく、フロディアさんもすぐに準備をしてくれた。
手紙を出す相手は、基本的に全員だ。
レント、クラウディア。この二人は絶対。
多分パティは今忙しいので来られないから、状況だけは知らせる。
クリフォードさんとセリさんは、まだ王都にいる。だから二人は出来れば来て欲しい所だ。
そしてアンペルさんとリラさんだが。
少し前から、連絡が取れなくなっている。いずれにしても連絡網に手紙は出しておく方が良いだろう。
一つずつ、順番に作業をこなす。
こう言うときだからこそ、余計に丁寧にやらなければならない。
全員分に状況を知らせ、此方に来て欲しいと手紙を出して。
それでアトリエに戻る。
消耗した物資もあるし、回収した物資のコンテナへの納入もある。
作業をしていると、タオが来た。
「ライザ。 わ、アトリエの中、前とまったくおなじだね」
「背が伸びたし、小さく見えない?」
「いや、そんなこともないよ。 それよりも、幾つか伝言を貰ってる」
「うん。 そうだろうね。 順番に聞かせてくれる?」
タオが言うには、しばらくはボオスはモリッツさんと一緒に商人への誘導作業を行うそうである。
何でも西の浅瀬の出現によって、何隻かの船が航路変更をせざるを得なくなったそうで、それに対する説明などが必須になったそうなのだ。
それに関してはクーケン島に責任が無い事。
別の航路は、既に発見されたものがあるので、それを使って貰うしかないこと。
それらを、商人達を集めて説明会をしなければまずいらしい。
また、足が速い商品については、出来るだけクーケン島で買い取れるように手も回すという。
それである程度、混乱が纏まるだろうとボオスは言っていたとか。
「さっそく王都で学んできた事を生かしているね」
「ボオスは勉強よりも、コネの作り方と、人心掌握術を学んできた感じだね。 勿論勉強も頑張っていたよ」
教養だけではない。
語学や数学などで、ボオスは一生懸命頑張っていたそうだ。
現在ロテスヴァッサ王国……まあ実態は首都だけしか勢力は及んでいないのだが。ともかく人間の勢力圏で使われている言葉は三つ存在していて。それらの全てを、少なくとも聞き取りは出来るようにしたそうである。
三つも言葉を。
大したものである。
タオは、既に失われてしまった言葉を含めて、既に十を超える言葉を使えるらしいので。それを考えると凄まじいが。
まあタオの場合は、王都の学者が仰天するオツムの持ち主なので、それはもう仕方が無いと言える。
「それよりも、タオ。 論文の関係で、王都に貼り付いていないとまずいんじゃないの?」
「王都まで一週間くらい今の僕でも掛かるんだけれども、現時点で論文などの精査に一月は掛かるんだ。 それにアーベルハイム卿が色々手回しとかしないといけないらしくてね」
「ふーん……」
「それにこの時期が一番面倒くさいらしくて、アリバイ作りの為にも王都を離れておけ、だそうだよ」
ああ、なるほど。
まだアーベルハイム卿は、ロテスヴァッサの権力を掌握し切れていない。
面倒なスキャンダルを起こしたくない、ということか。
ただ、とタオは付け加える。
「論文についてはアーベルハイムの面子も掛かっているらしいから、一度タイミングを見て王都に戻るよ。 博士号の授与式には出ないといけないからね」
「なんだかなあ。 ただ箔を付けるだけなのに」
「一応、禁書も読めるようになるから、僕としてはそれだけで充分に+だよ」
「そろそろ聞こうと思っていたんだけれど、パティはどう思ってるの? タオとパティの事だし、まだ手は出していないだろうけど」
遠慮のない仲だ。
結構生々しい話も、そろそろしておくべきだろう。
タオは少し考えてから、答える。
「色々面倒だし、まだそういうことはしていないよ。 それとライザにも協力して欲しいんだけれども、僕とパティの婚約の話は、出来るだけ外ではしないでね」
「それは大丈夫」
「うん。 まあ真面目な話をすると、僕もパティの事は悪くなっていないよ。 ただ、恋愛小説に出てくるような甘酸っぱい関係には今後もならないだろうなとは思う」
「そう……」
まあ、この辺りは。
あたしもレントも共通している事だ。
恋愛結婚は最高みたいな事を恋愛小説の類では書いているようだが。実際には女を金蔓としか考えていないようなツラだけいい男がもてたりと、恋愛感情なんてものは全く当てにならない。
たまに女友達に話を聞いたりするが。
パートナーとして優位性が高いだろう優しさとか真面目さとかの要素について、必要ないと言い切る子も普通にたくさんいる。逆にツラがいいだの笑顔か可愛いだの、そういう事で男を選ぶ子はとても多い。
要はその時の気分で子供まで作って将来を考える相手を決めている訳で。
そういう意味では、人間は古くから全く進歩していない。
その場の気分で作られた子供が、恋愛とやらが冷めた後にどういう目にあうかは、レントなどで実例をあたしは知っている。
だから、そういうのにはやはり興味は持てない。
恋愛に夢を持つのは結構だが。
あたしにはどうでもいい。
それだけのこと。
それと、あたしが人間を止めることは、既に仲間の内では共有している。既に薬も飲んでいるし。
あたしは自分の腹を痛めて子供を産むつもりはない。
ただし、子供そのものは錬金術で作ろうと思っている。
今後、人間という生物を少しでもマシにするために。普通だったら禁忌とされるような研究も必須と思うからだ。
このまま魔物による攻勢を押し返しても、神代や古代クリント王国時代の悲劇を何度でも何度でも滅亡するまで人間は繰り返すだろう。
精神論だの演説だのでそれをひっくり返すのは不可能。
どんな優秀な為政者が出ようが優れた政治的システムが出ようが、どうやったって人間はその穴を突こうと必死に頭を使う。
いたちごっこになるのは確定だ。
だったら、人間そのものを変える。
それが、フィルフサによって壊滅したオーリムの惨状を見て。
その復興を、自分で手伝っているあたしの結論。
フィルフサだって、人間が馬鹿な事をしなければ、彼処まで好き勝手に大繁殖しなかったのである。
それどころか、まだ確定はしていないが。神代の生物兵器の可能性だって高い。
このままの人間を許容して、人間賛歌だのを無責任に歌うようだったら。
あたしが魔王になって、人間の敵になる。
それだけの事だ。
まあそういうわけで、あたしもそういう考えなので。
タオの思考を、責めるつもりは無い。
パティもその辺は理解はしているだろう。
「じゃ、ライザ。 僕はクーケン島に戻るよ」
「いってら。 あたしは護り手と一緒に、魔物の異常行動を引き起こしたあの翼持つ魔物を調べておく」
「うん。 僕も実家の本を見ておくよ。 今になって見ると、色々書き記されているものが多くてね」
タオがアトリエを出ると。
フィーが小首を傾げる。
「フィー?」
「んー? どうしたの?」
「フィー……」
なんとなくだが。
最近はフィーの言いたいことが分かるようになってきている。
多分、もっと連携しないのかとか、他の仲間はとか、そういう意味だろう。
大丈夫。
「他のみんなの内、レント、クラウディア、それにセリさんとクリフォードさんは近々来てくれるよ」
「フィー!」
「クラウディアはきっとまた綺麗になっているね。 レントはもう背も伸びないだろうかな」
フィーが嬉しそうに飛び回る。
もう、意思の疎通は問題ない。
あたしは、時間を見て、複数あるトラベルボトルを調整しておく。
一つは完全にフィー用の、ドラゴンの素材を取るためのもの。
もう一つは不完全だが、セプトリエンを回収するためのもの。
後は、今まで集めた良質な鉱石。植物素材。それぞれを採れるものを、一つずつ用意してある。
残念ながら、まだトラベルボトルは完全再現出来ていない。細かい所の技術の解析が終わっていないのだ。
終わったら、調整が出来るし、なんなら生産も出来るだろうが。
まだその時ではなかった。
ともかく、セプトリエンを回収し、それでグランツオルゲンを作っておく。
今、このグランツオルゲンの品質を強化する研究をしているのだが。それがどうにも行き詰まっている。
セプトリエンの質を上げられないのだ。
何より、である。
視線を感じるようになってから顕著になった。どうにも内容が聞き取れないのだが。変な雑音みたいなのが。研究中にも聞こえるのである。普段も聞こえるが、集中していても聞こえるのだ。
これが邪魔で仕方が無い。
そして、なんだか鍵みたいなものを作らせようとしているように思う。レシピの内容について呟いているのだが。
まだ声があんまりはっきりしていないので、どうしても聞き取ることは出来なかった。
皆が来るまで、後四日かかる。
その間に、やれることはやっておかなければならない。
研究が終わった後、前線の様子を見に行く。
護り手が検問を張って、野次馬を追い返していたが。この検問は、防衛線も兼ねている。
最近はウラノスさんが裏方に回った事もあって、あたしが護り手のナンバーツーだ。戦士達が、あたしが出向くと、敬礼する。
年長者も多いので、あたしは基本的に戦士達には敬語で接するようにしていた。
「どうですか? 魔物の様子は」
「あれから特に動きは無いですね。 もう一つ先の検問も含めて、襲撃を受けてはいないです」
「あの槍と翼を持つ魔物は」
「目撃されていません。 魔物を操る魔物……とても危険なのは確定ですし、見つけ次第知らせます」
頷く。
その後は、幾つかある検問を確認しておく。
護り手は殆どが此方に来ていて。
残りはアガーテ姉さんと少数が、クーケン島の守りについている。
こう言うときは火事場泥棒が出るものだが。
既にアガーテ姉さんが対策をしていて。
何よりアガーテ姉さんの監視網は鋭く。既に何人か、捕まえたようだった。
あたしは彼方此方を歩きながら、確認をしておく。
あの不可解な魔物は、姿がない。
タオがあの後言っていた。
古い時代。
神代の宗教に存在していた。悪魔という概念の存在に姿が似ているという。
乾きの悪魔と言うのは、クーケン島の伝承にも出て来て。それの正体はフィルフサだったのだが。
悪魔といっても、漠然とした姿しかどうにもイメージできないのも事実で。
何か悪さをする邪悪なもの、くらいな印象でしかなかった。
だが、数少ない神代の資料を見たタオによると。
古い時代は悪魔に対する明確なイメージがあったとか。
多くの場合は人間に似ていて、翼を持ち、時には多くの目を持つ。
何よりもその力は圧倒的で、単独で軍隊に等しいとか。
顔は人間のものだったり、動物のものだったり様々。
ただ、ヤギのような角を持つ事が多く。
淫蕩の存在であることが多いとか。
それの対として、天使という存在も信じられていたとか。
こっちも今では、漠然としたイメージしかないが。
天使は悪魔と同じように人型をしている事が多く。
翼は白く神々しく。
中性的な容貌を持っていて。
人間を見守り。助ける存在なのだとか。
まあ、そんなものが存在していたら、この世界はここまで酷い事にはなっていないのだろうが。
いずれにしても、あの槍と翼の魔物は、悪魔と言うのに近いと言うのはあたしも理解出来たし。
何よりも、魔物を操るという特性は。
極めて危険極まりない事も、理解出来ていた。
いずれにしても、深追いは禁物だ。
四人が追加で来てくれる予定だが。
そうなれば、かなり話が変わってくる。
今の時点でも、ボオスとタオがいてくれれば、戦力的にはだいぶ向上しているが。
遠距離戦と探知のスペシャリストであるクラウディアと。
勘によって敵の察知が出来るクリフォードさんがいるだけで、敵の奇襲、包囲攻撃は避けられる。
何より前衛が増えれば、あたしも大火力の魔術を詠唱つきでぶっ放す事が出来るし。
戦闘も、それ以外も格段に楽になるはずだ。
前線の見回りを終え。
此方を伺っている魔物を蹴散らして仕留めておく。
アトリエに戻ると、エアドロップを調整しておく。
前のはアンペルさんとリラさんにあげてしまったのだが。新しく作ったのだ。
浅瀬が多い島々を巡るのに、エアドロップは必須。
泳いで渡るのは流石に論外。
着衣泳が出来るのと。
水中で魔物とやりあうのは全く別の話である。
最初に威力偵察をしたとき。
わんさか魔物に襲われたように。
水中には魔物がわんさかいるのは確定。
浅瀬になって、大型の魔物は入り込めないだろうというのはあるが。
そんなものは希望的観測だ。
頭足類のでっかい奴とか、浅瀬とかには大喜びでエサを求めて入り込んでくるだろう。そんなのに泳いでいるときに襲われて、助かる自信は無い。
他にも準備は幾つもしておく。
例えばローゼフラムだが、更に上の爆弾を幾つか試作している。
「伝承の古き王」との決戦で用いた、熱、冷気、風、雷撃、全てを同時に叩き込む爆弾についても。
今はツヴァイレゾナンスと名付けて、調整をしている最中だ。
それも準備をしておく。
ただこれはコストが大変掛かるので、あまりたくさんは作れないし、戦闘でどかどか投擲するのは現時点では現実的ではない。
今は、ともかく。
動けるようになるまで、準備をしなければならなかった。
アトリエの戸がノックされる。
このノックはアガーテ姉さんだな。
そう思って顔を出すと、やはりアガーテ姉さんだった。
「ライザ、忙しいところすまないな」
「何が起きました?」
「古老達が水の問題はどうなったと騒いでいてな」
「今父さんと相談して、水の調整をどうするか決めている途中です」
分かっていると、アガーテ姉さんはうんざりした様子で言う。
なるほど、あたしが直に進捗を言わないと納得しそうにないと言う事か。
ボオスやモリッツさんが、クーケン島にとって極めて大事な商人との交渉の矢面に立ってくれているのに。
老人達は、己のお気持ちを振りかざして。
それで何よりも優先されると思い込んでいる。
古老にしたって、回復魔術の達人だったから、古老にまでなったのに。それも年老いればこれか。
なんとも、情けない話だ。
「頼めるか」
「分かりました。 じゃあ、データで殴りに行きますね」
「……やり過ぎないようにな」
あたしは試験的に準備した水を持って、アガーテ姉さんと船でクーケン島に戻る。面倒だが。どうせ皆が来るまでは動けないのである。
家によると、父さんに声を掛ける。
そして、準備しておいた水を、何種類か持っていく。
古老達がブルネン邸で待っていて、ヒスを起こしていたが。父さんの顔を見ると、流石に黙る。
父さんが島一番の農夫であることに、異論を持つ者はいないのだ。変人である事も知られているが。
「水の状態についてですが、現在調整をしていると話しましたね。 これが、調整の結果作った水です。 父さん、味について比べてみてください」
「どれどれ。 ふむ……」
元々が、オーリムから略奪した水だったのだ。
塩水を淡水にして、それがあっさり再現出来た時点で満足すればいいものを。
クーケンフルーツの味が僅かに落ちた程度で騒ぎ立てて。
工夫をして味を戻そうとどうして考えない。
苛立ちが募るが。
ともかく、父さんに品評して貰う。
「ええと、これが現時点で出ている水だね」
「流石は父さん」
「古老も文句を言うなら比べてみてください」
「う、うむ……」
あたしにはほぼ分からないが。
ともかく、微調整した水を四つ飲んで貰う。父さんはそれらの全てに、細かい違いを指摘してくるので、メモを取っておく。
それにしても凄いな。
こんな些細な違いを、良く理解出来るものだと、本当に感心する。
この辺り、何かを極めた人間だ。
極めた人間は何人か見た事があるが。父さんは間違いなくその一人である。
「ライザ、この水が一番良いと思う。 これをもう少し甘くしたら、更にいいのではないだろうか」
「ふーむ……。 わかったよ父さん。 これをベースに、更に微調整をしてみるね」
「うむ」
「ということで、現在調整作業は進めています。 文句は、ありませんね?」
あたしの機嫌を損ねたら。
最悪、水そのものが干上がる。
それを知ってはいるから、古老もあまりギャーギャー喚くことも出来ない。
うっと呻くと。わかったわいと呟きながら、引き下がる古老。
こんなのに時間を取られている暇はないのにな。
そう思いながら、あたしは島の地下に移動して。
まずは、父さんが一番良いと行った状態に。淡水化装置のパラメータを、設定し直すのだった。