暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
王都でもっとも資産を昔は持っていた公爵家が、屋敷を売りに出した。それを聞いて、王都の民がひそひそと話をしている。
侯爵になっているアーベルハイム家が関係しているのではないのか。
そういう噂が流れているようだった。
ただし、王都はどんどん良くなっている。
風通しが良くなり。目安箱というものが設置された。何を書いて入れてもいい。それで咎められることはない。
意見などをどんどん入れて欲しい。
王都をよくするにはどうすればいいのか。
どのような悪人が潜んでいるのか。
どのような賢人が燻っているのか。
そういった意見を、幾らでも入れて欲しい。そういう申し出が為されて。しかも意見を出した人間が分からないように、認識阻害の魔術を使えるものが雇われて。目安箱周辺を固めてもいた。
既に潜伏していた賊などが複数捕まり、首を刎ねられている。
悪徳商売をしていた商人が摘発され。資産の大半を没収されている。
それだけではない。
税が安くなり。
農業区が活性化して、食料品が安くなった。
生活のための物資が、どんどん民の所に降りて来ている。昔だったら貴族くらいしか着られなかった服なども、庶民の手に渡るようになり。更に本の流通も、どんどん増えている。
昔なんだかの貴族の不興を買っただとかで追放されていた学者が、学術院に戻って来ている。
気むずかしい老人だが、知恵は確かだ。
アーベルハイムにも何度も招いて、色々な話を聞かせて貰っている。
パティも、それらを目にして。
耳にして。
父による改革が上手く行っていること。
ライザさんが直してくれた機械が、王都を加速度的に改善していることを理解していた。
それでも、周囲に護衛をつけて歩く。
パトリツィア様。
そう声を掛けて、民の一人が来る。
護衛が警戒するが、パティは相手が非武装なのを即座に見抜いて。手を横に。剣を降ろすように指示したのだ。
「如何しましたか」
「アーベルハイムの令嬢であるあなた様に直訴したく!」
「火急の用件、ということですか」
「はっ……!」
地面に這いつくばる、みすぼらしい男性。
戦士だな。
そう判断したので、アーベルハイム邸に招く。男性はもと騎士だったらしく、話を聞いていくと、意図が分かってきた。
この男性は。
騎士の権力闘争から脱落した人物だ。
王都では既に腐敗が騎士階級にまで浸透していて。派閥だの何だのが先行して、魔物を撃退するために一番必要な剣腕が軽視される有様だった。事実、それで多くの人材を取りこぼしてきた。
ライザさんのいたクーケン島にも、そうやって王都が取りこぼした戦士がいると聞いている。馬鹿な貴族達はその人を負け犬とか嗤うかも知れないが。
実際には、見捨てられたのは王都で。
そんな貴族共は、どれだけいても何の役にも立たないのだ。魔物を相手に、連中に何が出来るというのか。
「騎士の一部が、貴方を襲撃する計画を立てているようです。 既に潰された貴族の利権に噛んでいた騎士達が、このままでは破滅だと……」
「分かりました。 事実かを確認し次第、対応します」
「は……」
「食事と湯を用意してください。 貴方も、騎士としてまた戦えますか。 そうであるならば、王都のために立ち上がってください」
はっと頭を下げる元騎士。
不衛生な衣服に頭だが。
それを、不愉快だとパティは思わなかった。
すぐに調査させると、どうやら本当だったらしいことが分かる。外にろくに出ず、魔物の討伐からも遠ざかり。王や有力貴族の周囲だけ「優秀に」護衛していたような騎士達である。
おとりになって出向いて、まとめて斬り伏せても良かったのだが。
捕らえれば、まとめて醜聞を吐かせることが出来る。
そうパティは判断。
お父様に相談して。許可を得たので。まとめて逮捕に動いた。
貴族の邸宅跡に群れていた騎士は十人ほどだったが、逮捕に出向いたアーベルハイムの部隊を見て仰天。
手向かおうとしたが。一人がパティに腕を即座に叩き斬られると、悲鳴を上げて逃げ惑い。
挙げ句、カエルのように這いつくばって降伏した。
その有様は。
直訴してきた騎士とは、同じ格好でも全く別で。
おぞましい程に見苦しかった。
後は尋問に回す。これで、更に醜聞を引っ張り出すことが出来る。
王都から、貴族を排除できるかも知れない。そもそも世襲制で権力や財産を受け継ぐ仕組みが、全うでは無いのだと、パティは思い始めている。
パティだって、実際にライザさんと一緒に様々な戦いを経験しなければ、今のような実力は得られなかっただろうし。
そのライザさんは、世襲全く関係なし。ただの農家の娘なのだ。それが、あの隔世の豪傑なのである。
血筋なんてものは何の意味もない。
そう、パティは結論していた。
パミラが戻ると、アインは丁度眠ったところだったらしい。いつも出迎えにきてくれるのに。
今日は盟友のガイド音声だけが迎えだ。
やがてコンソールの前に出ると。
盟友は話しかけてくる。
「パミラ、良く来てくれましたね」
「メインシステムへのハッキングの調子はどうかしら」
「そろそろ半分と言いたい所ですが、非常に頑強なシステムです。 多数の枝分かれしたシステムに権限を委譲しており、セキュリティの突破も一筋縄では。 それでも、全力で対応はしています」
「例の巫山戯た収集システムだけでもとめられればねえ」
それが一番最奥にあると聞かされて。
パミラも、そうかと嘆息するしかなかった。
幾つか、情報交換をしておく。
まず同胞だが、東の地にて門を発見した。これから状態を確認して、封鎖に掛かる。幸い、フィルフサの強力な群れは門の向こう側では確認できていない。
「あの辺りは古代クリント王国のもっとも強力な実験場だったかしらっけ」
「そうですね。 記録に残る限り、自分達に激しい抵抗をした東の民を苦しめる意図もあったのでしょうが」
「それにも耐え抜いた東の民は、今でも文化を継承することに成功していると。 皮肉な話ではあるわー」
「そうですね。 ただ、我等と連携しないと、その東の民も存続が厳しい状況です」
その通りだ。
同胞の補充はどうにかしてもらっているが、それでもやはり東の地での戦闘で命を落とす者が多い。
同胞でも倒されるのだ。
凶猛な東の地の民でも、多くが若いうちに死ぬ。それだけ、強大な魔物が多数いるのである。
「王都の様子はどうですか」
「アーベルハイムの改革は上手く行っているわよー。 出来るだけ流血は避けているしねー」
「それでも流血はあるのですね」
「王都が乱戦の場になるよりはましよー。 今まで暴利を貪ってきた連中が排除されているだけ。 それだけだしねー」
ふふと、パミラは笑う。
パミラとしても、あの手の輩に興味は無い。
前にいた世界で。
あの手の輩が、どれだけ無能だったか。それだけ社会に害を為したか。見て、良く知っているからだ。
「最低でも同胞五名が必要ね。 用意は出来る?」
「分かりました。 今リソースを回しています。 一週間後に戦線に立たせられるでしょう」
「……それで、「悪魔」が動き出しているようだけれども」
「恐らくは、収集システムの直下部隊でしょう。 ライザリンを狙っているのだとすると、或いは……我々の抵抗の主軸にライザリンがいる事に気付いているのか、それとも」
パミラには分からない。
所詮は狂った連中が考えたシステムだ。
ライザはどう考えても連中よりも優れた才覚を持っているが。
だからこそに、やっと打倒出来る機会が来たのだとも言える。
資料で見ているが。
此処に連れてこられた人間が、どれだけ無惨な死を遂げていったか。
神代の連中は、最初から最後まで。
搾取しか考えていなかった。
自分達以外の人間を蛮民としか思っていなかったし。
誰かしらの逸材を見つけた場合も、「神に近い我等の仲間に加えてやるから這いつくばって感謝しろ」等という風に考えていたのだ。
その挙げ句に。
いや、そこで今怒っても仕方がない。
順番に、対策を練って行くしかないだろう。
「ライザに、例のものを引き渡してこようかしら?」
「いえ、それは最後にしましょう。 同胞達の中には、まだライザリンを信用していない者も多いのです」
「まあ、錬金術師だものねー」
「はい。 錬金術師ですから」
ふっと、溜息が出る。
錬金術は力の学問だ。
それを、欲望が強い人間が手にし。エゴを振るう為の道具にしたとき。
それは文字通り、最悪の凶器になる。
良く知っている。
幾つもの世界を見て来たのだから。
錬金術で破滅してしまった世界もあった。
だから、パミラは最悪の場合は干渉する。それだけである。そしてこの世界は、その最悪に位置しているのだ。
後は、二言三言情報を交換して、それでこの場を離れる。
パミラは同胞の指揮官として。
世界中で、やらなければならないことが、幾らでもあるのだから。
(続)
王都に着実に血の雨を降らせるパティ。現実を見た彼女は、手段を選ばず腐った王都の改革に出ています。
そして東の地の話。
原作でも大太刀が出ていた事、パティが使っていたのがあからさまに居合いであった事から、その存在は確実だったのですが。3ではついに和式の鎧が登場した事で、アトリエシリーズにまた一つ日本文化が登場しました。
この和式鎧、簡単に作れる上に強い特性をつけやすいので、原作で重宝するんですよねえ。
本作ではせっかくですので、設定だけ原作に出ていた東の地を色々と登場させます。
お楽しみに。