暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
サルドニカ二来てから大物との戦闘が続きます。
今度は邪悪なる植物の王との戦いです。
……余談ですが原作だと、イベントボスはだいたい最高レアの鍵を作れるんですよねえ。それで弱めにされているのかも知れませんね。
普通だと最高レアを作るのは結構手間だったりしますが。
タオにも、今日の探索には加わって貰う。
理由は簡単。
恐らく、接敵するのは今日か明日だからだ。
既に、相手の縄張りに踏み込んだ。その確信がある。あたしは周囲に、最大限の警戒をするようにいい。
皆も、それに従っていた。
クラウディアが音魔術を全開に、周囲を警戒してくれている。
クリフォードさんも、一言も喋らない。
丘の上に出ると、辺りにはあまりよろしくない空気が漂っている。これは毒性があるわけではないのだが。
出来るだけこの辺りにはいない方が良い。
そう、勘が告げてくる。
少なくとも、安全地帯ではないなこれは。
そう思いながら、周囲を警戒。フェデリーカにも、どこから魔物が。それもフェンリルなみのが出るか分からない。
そう告げてある。
丁寧に警戒しながら、進む。
また開けた場所に出た。奥の方に、霧が掛かっている場所がある。
多分彼処が水源だろう。
そして、見えてきた。
大きな塊。
いや、違う。
塊のように見えるが、あれは。
クリフォードさんが、叫んでいた。
「大物だ! 全員警戒しろ!」
塊が、動き出す。
それはいざ動き出すと、ばらりと全身がほどけるようにして、姿を見せていた。
多数の蔓と花で構成されたそれは、巨大な花束に見ようによっては見えるが。
その中心部に巨大な頭があり。その頭は、何かトカゲか。いや、ワイバーンやドラゴンに似ている。
ずるりと、多数の触手を動かし。
それが此方に来る。
明らかに敵として認識している。
詠唱開始。
全力でぶっ潰す。
「フェデリーカ!」
「は、はいっ!」
フェデリーカが舞い始める。それでいい。クリフォードさんが、ブーメランに手を掛けたまま、呟く。
あれはトレントか、それの亜種だと。
トレントについては知っている。
森の王と言われる、植物系魔物の長だ。
滅多に姿を見せる存在ではなく、何よりそこまで人間に対して敵対的ではないと聞いているのだが。
彼奴は敵意を剥き出しで。
何より、形状がおかしい。
トレントにしては動物的要素が強すぎると言うべきか。此方に這いずり来る様子も、エサを食おうとしている動物の動きそのままだ。
小さめの動物が、一斉に逃げ出す。
頷くと、クラウディアが、一斉に矢を放つ。それらが、敵に突き刺さる。だが、手応えが浅い。
とんでもない質量で、それで刺さっても大したダメージになっていないのだ。
矢が突き刺さると同時に、トレントらしい魔物が、口を開けて。とんでもない雄叫びを上げた。
文字通り、周囲を蹂躙し尽くすその雄叫びは。
昔だったら、一瞬で腰が抜けていたかも知れない。それくらい、危険な相手だと一発で分かるものだった。
踏み込みつつ、熱槍を投擲。
叩き込んだ熱槍はまずは小手調べだが。トレントらしいのは、触手を振るって、それを地面に叩き付ける。
レントが、驚きの声を上げた。
「何ッ!?」
「大丈夫、小手調べ! 今の、蔓に強い魔力が篭もってた! それで、魔術そのものを弾き返したんだ!」
「厄介ね。 少し時間を稼いで」
「分かってる!」
クラウディアが、魔力を全開に放出。
同時に、数十の人型が出現。クラウディア自身も、本気モードだ。バリスタみたいな矢を、速射し始める。
大量の矢の飽和攻撃を浴びつつも、トレントは此方に進んでくる。
そして、間合いに入ったと判断したのだろう。
ぐんと、空気が唸った。
レントが前に出て。大剣で必死にそれをガードする。振るわれたのは、ドラゴンの尻尾もかくや。それくらい巨大な蔓だった。弾き返したのはレントの絶技によるものだが、地面に罅が入る。
うおん。
そんな音を立てて、蔓がしなる。
それも一本じゃない。
クリフォードさんが叫ぶ。
「気を付けろ、想像以上に間合いが広い!」
「少し下がって!」
あたしが爆弾を投擲。
ローゼフラムを叩き込む。炸裂する灼熱が蔓を弾き返すが。次々に蔓が飛んでくる。
分かりやすい相手だ。
植物で出来た体とは言え、強い魔力を持っているから、簡単に炎上したりはしない。そして全身のタフネスと攻撃範囲で、相手を力で押し潰す。
文字通りのストロングスタイルと言う奴か。
こう言う相手が、得てして一番面倒だったりするのだが。とにかく、やるしかないだろう。
続けて、雷撃、冷気、風。爆弾を投擲して、相手に牽制しつつ、ダメージを与えていく。
とにかく、振るわれる蔓をどうにかしないとダメだ。
叫んで、蔓を破壊するように指示。
レントが必死に最前衛で受けている間に。タオとボオスが前に出て、隙を狙うが。やはり厳しい。
蔓は鈍重に動いているように見えて、先端部分の速度は見かけよりずっと早い。
鞭と同じだ。
鞭も先端部分の速度は、音を超えるとか聞いている。
セリさんが、詠唱を完了。
地面に手を突いていた。
覇王樹が、大量に辺りに生える。
それは、トレントを押し上げようとしたようだが。トレントは、それで殆ど小揺るぎもしない。
とんでもなく重いと言う事だ。
だが、振るわれていた蔓が、覇王樹で止まる。其処に、タオとボオスが。それにクリフォードさんが、今だとブーメランを投擲。
蔓を一本、引きちぎった。
更にもう一本を、レントが裂帛の気合とともに斬り倒す。
トレントは、それがどうしたと言わんばかりに蔓を振るうが。それも覇王樹で動きが鈍る。
あたしはその間に、詠唱を完了。
トレントの頭上から、熱槍二千をまとめた収束熱槍を、叩き込む。
詠唱もせずにシールドを展開するトレント。
なんというか、この辺りにいる魔物はちょっと常識外に強いな。そう思いながらも、あたしは叫ぶ。
「舐めるなああああっ!」
シールドをブチ抜き。
炸裂する熱槍。
初めて入るクリーンヒットだ。だが、全身が炎上しながらも、トレントは平然としている。
それどころか、燃えた体が次々と内側から砕けて、皮が剥がれていく。燃え滓になった体の表皮を一瞥もせず。
内側からみずみずしい緑の体が出現する。
頭になっている部分が弱点なのか。
いや、あれはなんだか違う。生命力を感じないというか。
だとすると、この巨大な質量を、崩しきらないと倒せないのか。
タオが叫んだ。
「この魔物、見た目よりずっと巨大だと思った方が良い! 蔓の質量も、桁外れだ!」
「そうね。 小山ほどもある相手だと認識した方が良いわ」
「厄介だな……!」
フェデリーカ。
あたしは叫ぶと。
指示を出す。
青ざめながらも、フェデリーカは頷き、舞いを変えた。その内容は。
魔力の増幅だ。
魔力の増幅そのものは、出来るには出来るらしい。だが、それぞれの魔力を増幅させる舞いというのは、他人を強化する事に特化した魔術でも、相当に難易度が高い代物らしい。
フェデリーカも苦悩しながら、舞いを練習しているのを何度か見た。
今のままではダメだ。
そう思ったのだろう。
サルドニカの首長として、今までずっと政治闘争の場で、ギルド長達と渡り合ってきたフェデリーカ。
操り人形である事を自覚しながらも。それに抗い続けようと、必死に努力を続けてきた彼女だが。
そもそも政治闘争で。
政治ごっこで、サルドニカを変えることは出来ない。
それに。魔物と戦い。周囲を調べ。新しい知識を得ることで、ようやく至ったと言う事である。
それは紛れもない成長。
まだ恐がりで、力を出し切れていないけれども。
それでも、フェデリーカは、しっかり踊りきる。
発止と、扇が綺麗に空中を斬る。止まる。
そして、フェデリーカは何度か、鋭いステップを踏んだ。
「ふるべゆらゆら……! 今です!」
「よしっ!」
覇王樹を粉砕して襲いかかってきた蔓を、レントが弾き返す。さっきより、かなり軽い感触だ。
トレントは更に背中から、複数の蔓を出現させるが。
出現させた瞬間、あたしが爆弾を投擲。
複数の爆弾を束ねて投げた事により、炸裂する火力が倍増。相手を、真上から押し潰しに掛かる。
新たに生えてきた蔓が、燃え尽きる。
「グオオオオオオオオッ!」
初めて、苦しそうな声をトレントが上げる。
だが、そのトレントが、足に見える蔓を伸ばして。そして、踏ん張り。更には、熱と圧力を、力尽くで吹っ飛ばす。
周囲に衝撃波が奔る。
分かっている。
相手は、実際には小山ほども質量がある相手だ。何度も形態変化をするくらいは、想定しないといけない。
総力戦だ。
あたしはハンドサインを出すと、更に詠唱を開始。
クラウディアも頷くと、フルパワーでの飽和攻撃を続ける。大丈夫。質量を戦闘時に増やせる魔物は存在しない。
相手が如何にタフでも。
内在する質量が次元違いでも。
それでも削りきれば、倒せるのだ。
「ギャオウ!」
トレントが吠える。
同時に、左右から今までの比では無い巨大で長大な蔓が生える。なまめかしく濡れているそれは、唸りを上げて襲いかかってくる。
林立している覇王樹を、文字通り鎧柚一色で蹴散らすそれは、レントを狙っていたが。
クリフォードさんが渾身のブーメランを叩き込んで、右側を僅かに遅れさせる。
レントは左側を、フルパワーで弾き。
振り返りながら、左側の蔓を弾き返す。
だが、頭上。
今度は、トレントが真上に何かを射出。それは、大量の棘だった。面制圧の攻撃に切り替えてきた。
あたしは詠唱を中断すると、爆弾を投擲。
炸裂させ、その爆圧で棘を薙ぎ払う。レントも、前衛に出ていたタオもボオスも飛びさがるが。
多数の棘が辺りに飛び散り。
その一部が、皆を傷つける。
フェデリーカが、悲鳴を上げた、擦ったらしい。薬を。そう叫ぶと、あたしは詠唱を再開。
クラウディアも、大魔術の詠唱に入る。
トレントが暴れ狂う。
もう一発、棘による制圧射撃をしようとしたが。
前に躍り出たレントが。渾身の一撃で、大上段からさっき生えた極ぶとの蔓を、叩き斬る。
更に、セリさんが詠唱。
前後左右から、魔法陣がトレントを包むと。一斉に鋭い棘のような根が、トレントに突き刺さっていた。
鋭い悲鳴を上げるトレント。
今のは、確かセリさんの奥義。前は上下に出現させた魔法陣で、相手を押し潰すような攻撃を出していたが。
それも進化して、前後左右からの猛攻に変わったという訳だ。
トレントの全身から、樹液みたいなのが噴き出し始める。それを強引に蔓でとめるトレント。
更に全身が膨れあがる。
だが、それは質量が本来の大きさに相応しいものへと形を変えていると言う事だ。つまり、密度が下がっている。
あたしは、皆に叫ぶ。
「相手が柔らかくなってる! 攻め立てて!」
「任せろっ!」
ボオスが前に。
上からの蔓。
続いて右。左。右。それぞれの蔓を紙一重で交わす。正面。タオが躍り出ると、双剣を振るって弾き返す。
その隙を潜って、ボオスが至近に躍り出ると。
両手の剣で、乱舞攻撃を叩き込む。派手に体を切り裂かれて。更にトレントが悲鳴を上げるが。
ボオスが飛び退く。地面の下から、連続して錐みたいな根が突きだして、ボオスを襲ったからだ。
今のを、良く見きった。
凄いな。
そう思いながら、あたしは詠唱を続ける。先に詠唱を終えたのは、クラウディアだった。
手にしている矢が、非常に巨大化する。弓も、魔力を極限まで吸い込んで、上下に大きく伸びた。
すっと呼吸をすると、クラウディアはそのドラゴンでも射貫きそうな弓を矢に番え。そして、澄み切った歌声で、詠唱の最後の一節を唱える。
「これが貴方への、最後の私からの歌!」
発射。
矢を放った時の音は、もはや爆音。
それが、美しい音で包まれ。指向性を伴って。矢とともに、トレントに飛ぶ。トレントは、蔓でクリフォードさんを追い払う事で、対応が一瞬遅れる。多数のシールドをノータイムで出現させるが。
それの全てを、クラウディアの矢が撃ち抜いていた。
「ギャアアアアアアアッ!」
それでも、トレントは屈しない。
全身を撓ませると。文字通り複層の壁みたいな構造になって、クラウディアの矢を受け止める。
なるほど、体の一部を犠牲にして、それでダメージを拡散させると言う事か。
面白い。
はじけ飛ぶトレントの体。
体の三割くらいが消し飛んだようだが、それでもまだしっかり原型を残っている。なんだかドラゴンっぽい頭は、綺麗に消し飛んだが、動くのになんら支障はないようだった。
あたしは、それに続く。
出現させた熱槍、二万五千。
フェデリーカの魔力強化によって、無理矢理絞り出した数だ。
それを一点に収束すると。
全力で踏み込みつつ。
相手へと投擲していた。
皆が、全力でトレントから離れる。
これはさっきの様子見とは根本的に違う、必殺の一撃だ。トレントは、今度は体を柔軟に動かして、変形させ。回避しようとするが。
熱槍はぐんと上空に軌道を変えて飛ぶと。
そこで炸裂。
十二の槍になって、トレントに降り注いでいた。
これには、トレントも対応できなかった。
熱槍が、全てトレントを穿つ。そして、文字通り、爆発するようにして、炎が拡がっていた。
その巨大な質量ですら、この熱槍の大火力は受け止められなかった。そういうことだ。
悲鳴が上がる。
それは複数の生物が、逃げ惑っているかのように思えた。
だけれども、どこかで一つの生物が上げているものなのだとも思えた。
膨らんでいくトレンドの体。
それが炸裂した。いや、破裂と言うべきか。
蠢く膨大な植物の残骸が、そのまま燃えていく。高原で、小山ほどもある質量が、今燃え尽きて行こうとしていた。
あたしは呼吸を整えて。それで、見る。
反応はクリフォードさんが早い。即応して、ブーメランを叩き込む。
断末魔の絶叫が上がる。
ブーメランが突き刺さったそれは、此方に歩いて来る。人間のようで、それでいて全く人間に似ていない、木の化け物。
多分これが、トレントのコアだったのだ。
それは、数歩歩くと。
ブーメランに串刺しにされたのを恨むようなおぞましい声を上げて、其処で倒れる。
そしてその場で、燃え尽きて行った。
トレントの残骸を崩す。
その過程で、明らかにおかしなものがたくさん出てきた。
骨だ。
トレントはそもそも植物の魔物だと聞いている。それなのに、此奴は色々と最初からおかしかった。
最前衛で攻撃をしのぎ続けたレントは、横になって怪我の手当てに注力して貰っている。
フェデリーカは、さっきの魔力強化のための舞いで疲れきったのだろう。
横になって、同じように伸びていた。
あたしとクラウディアで、敵の残骸を調べる。
やはり、おかしなところばかりだ。
「ねえライザ。 これ見て。 おかしいよ」
「うん。 どうみても消化器だね。 このトレントみたいな魔物、何かを食べていたって事だよ」
「セリさん、こういうのってあり得るの?」
「普通のトレントだったらないわ」
そうだろうな。
トレントは植物だ。食虫植物にしても、動物と同じようにして肉を食べる訳では無いのだ。
体の残骸を調べていて、更におかしなものを見つける。
これは、骨を金属で縫い止めているのか。
そんな事をしたら、激痛で苦しいだろうに。
やはりこれ。
生物兵器か何かだ。
それについては、今確信できた。
「ライザ!」
「うん、これ生物兵器だね。 神代の人間だと思うけれど、どうしてこんな……」
「それよりも、これ」
「!」
巨大な魔力の塊だ。
というか、これ。
間違いない。
前に手に入れた、バシリスクの体内から出て来たもの以上の純度。
どうやったら生成出来るか分からない、魔力の究極結晶体。
セプトリエンだ。
「まさか……」
このトレントっぽい魔物。
ひょっとして、これを作る為に生成されたのか。だとすると、何百年も掛かる事を想定していたはずだ。
そこまで文明がもつと神代の人間は考えていたのか。可能性はある。いずれにしても、はっきりしたことは二つ。
一つは、このトレントもどきは生物兵器。恐らくこの辺りで何かしらの用途があって配置されていた。
もう一つ。この魔力の塊も、恐らくは神代の人間にとって回収するべき目的だった。そうなると、この辺りは。
もう少し、調べる必要がある。
「フェデリーカ」
「はい……」
「この辺り、あたし達が当初考えていたよりもずっと闇が深い場所かも知れない。 この魔物、神代の生き残りだよ」
「……はい」
泣きそうな声が帰って来る。
そもそも、フェンリルや此奴と遭遇した時点で、普通の人間は100パー生還不可能だ。
あたし達でも。そう、フィルフサの王種を四体仕留めたあたし達ですら、これだけのダメージを受けた相手である。
多分、あたし達と例のメイドの一族以外で、これを倒せる人間はいない。それについては、断言してもいい。
神代は違ったのだろう。
これは防衛用の生物兵器だったのか、それとも家畜だったのか、それについては分からないが。
いずれにしても、この辺りは神代。
何かが行われていた土地なのだ。
待て。
そもそも、サルドニカ建設に携わった錬金術師。それも、関係があるように思えてきた。
エミルだったかいう名前だったと思うが。
其奴は或いは。
此処に何かあったのを、知っているのかも知れない。
「ライザ! 水源だ!」
「分かった!」
タオが呼んでいるので、そっちに行く。
確かに水源だ。というか、凄い色の水だな。すぐに用意してきたマスクをつける。タオも、気を付けるように周囲に促していた。
これは火山性の水か何かか。
この辺りは火山だらけだ。
近くには、溶岩を垂れ流している火山も存在している。年に何度も噴火するそうで、溶岩流があるから、近付かないように注意を促されているそうだ。
水については調べて見るが、別に硝子容器が溶けるような事はない。皮で作った水を回収するための袋でも平気だ。
ただ、それでも時間を掛けると溶ける可能性があるので、色々調べて見る。
途中で凍らせて、それも切り出す。
凍らせておくのが、恐らく一番安牌だろうな。
そう思って、あたしは凍らせ。
それを更に水の氷で覆って。
魔術で安定させながら、持ち帰る事にした。
アトリエに戻ったら、幾らでも打てる手がある。最悪の場合、トラベルボトルに放り込んでおく手もある。
いずれにしても、此処で何度か往復して、この源泉の水は回収しておくべきだろうと思う。
何よりも。
レントが相当に参っている様子だ。こんなにレントが手酷くやられたのは、以前の対フィルフサ戦以来である。
皆の手当てもしっかりしないといけない。
一度、撤収すべきだな。
そう、あたしは判断していた。
アトリエに戻る。帰路でも魔物が仕掛けて来たが、皆余裕がないので、対応は荒っぽくなる。
出会い頭にクラウディアがバリスタ射撃で鼬を消し飛ばすのを見て、フェデリーカは何も言わない方が良いと悟ったのだろう。
アトリエに戻るまで。
終始無言だった。
アトリエで休憩して、手当ても終えて。
それで、一段落したので、軽く話をする。
まず、あの魔物が生物兵器であること。それも神代のものだという事を説明すると、クリフォードさんは頷いていた。
「去年、王都近郊の遺跡にもそれらしいのが何体かいたよな」
「ええ。 それらよりも更に古い生物兵器だと思います。 強さが段違いだったのもありますが、使われていた技術が違ったと思いますので」
「それも高い方だよね」
「うん。 この近く、何かあったんだと思う」
サルドニカの南部に拡がる巨大な都市遺跡も気になる。
神代の頃から栄えていたとしたら、この辺りの鉱山にはやはり何かがあったのだと思う。神代の頃に三百万人も住んでいたのだとしたら。鉱山なんで掘り尽くしていてもおかしくない筈だ。
それが、どうして。
先に休んで貰ったレントの方を一瞥。
フェデリーカもかなり参っているようだが。
それでも、話についていこうと必死だ。
「フェデリーカ、話にあった硝子と魔石を溶かす液についての情報は他にないの?」
「その、父がしていた研究は、殆ど残されていないんです。 私が受け継いだのは、職人としての技で……」
「そうなると、或いはフェデリーカのお父さんは、フェデリーカを血で血を洗う政争に巻き込みたくなかったのかもしれないね」
「……そうかも知れません」
フェデリーカのお父さんの話は既に聞いているから、そうとしか言えない。晩年は、老人のように老け込んでいたと言う事だ。
それは魔物が原因では無いだろう。
「タオ、何か手がかりは無さそう?」
「少なくとも工房長の館は調べたけれど、それらしいものはないよ。 だとすると……」
「この辺りに拠点がないかな」
「そうですね。 父の側近だった人が何人かいます。 そういう人に話を聞ければ、或いは……」
ならば、そうするだけだ。
あたしは、明日はアトリエに缶詰だ。今当世具足についても最終調整をしているし、それも仕上げたい。何より一旦は回収してきた原液の分析をする。エーテルに溶かして分析してみれば、意外と面白い事が分かる可能性がある。
ただ、それでも何十年も研究していたのだとしたら。そっちを見るのが早いだろう。
メモとか、そういうのが遺されていれば話は早いのだが。
「そうなると、俺とクラウディアと、それぞれの支援で明日は別れる方がいいか」
「うん。 頼めるかな」
「僕は僕で、もう少し工房長の館を調べて見るよ」
「分かりました。 私はタオさんの支援に廻ります」
フェデリーカが挙手。
まあ、まだ住み慣れた館の調査の方が、気分も楽だろう。単独では勝てっこないような化け物と連戦したのだ。
それに散々血の臭いを嗅いだのである。
しばらくは、安全な場所にいたいという気持ちは、分からないでもない。
あたしは皆がそれぞれ行動を決めるのを見て。
それで、久しぶりに明日はゆっくり動けそうだなと思った。
完全に化け物同士の激戦に巻き込まれているポジションのフェデリーカ。
フェデリーカはこの作品で、今後もっとも苦労する事になります……