暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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4、サルドニカの裏側と

フェデリーカは、やっと虎口を脱した気がした。

 

ライザさんがとても恐ろしい側面を持っている事は分かっていた。想像を絶する戦闘力と戦闘経験は、修羅場を信じられないほど潜ってきた結果だ。

 

だが、フェンリルやあのトレントもどきと連戦して、その恐ろしさがどうも身に染みついてしまったようなのである。

 

工房長の館に戻ると、雑務をこなす。

 

タオさんの支援といっても、つきっきりで何かをするつもりもない。ただ、アンナに指示して、父の側近だった人達を集めては貰ったが。

 

昼少し前に、父の側近だった人達が集まる。

 

ほとんどは年老いた職人だ。残りはベテランの戦士が数人。

 

硝子ギルドも魔石ギルドも色々あってあわなかったり。戦士としてずっと過ごしていた人達。

 

この街では、戦士と職人は別の人種というくらい扱いが違う。

 

それで戦士達が不満から行動を起こさないのは、アンナやその仲間であるウィルタがちゃんと調整しているからだ。

 

戦士は戦士としての仕事を。

 

だから、それで廻るようになっている。

 

そうでなかったら、差別意識をぶつけられた戦士や傭兵はみんなサルドニカから出ていって。

 

それでこの街は、とっくに魔物に食い荒らされて滅んでいただろう。

 

そんな危うい場所だったのを、最近やっと気がついた。

 

確かに街から出るのはいつも命がけだった。遠くへ行商に行く旅に、何度も恐ろしい目にあった。

 

だけれども、それが自業自得の結果だったなんて。

 

どうしてもフェデリーカには思いつけなかったのである。

 

ともかく、父の側近達を集めて。軽く話を聞く。

 

父が死の間際に何をしていたのか。

 

それについては、研究という話しか出てこなかった。

 

「何しろ秘密主義が厳しいお方でありましたからな。 私は二十年も仕えてきましたが、それでも研究の内容については進展も含めて詳しくは話してくれなかったのです」

 

「俺も護衛は何度もしたが、立ち入り禁止の地域で水を採取しているくらいしか見ていないな。 それだけでも命がけだったが」

 

「どこか拠点は作っていませんでしたか」

 

「……人払いを」

 

不意にそう言ったのは、アンナと同じ一族の人だ。

 

彼女は戦士としてはかなりの古参で、ウィルタが街の北側を守っているとしたら。この人は街の南側を守っている。

 

基本的にアンナの一族の人はみんな性格も顔も同じなんだが。この人は、どうしてか寡黙である。

 

人払いをして、話を聞く体勢を整える。

 

イメキアというその戦士は、咳払いをすると話し始める。

 

「父君の研究を解析してどうするつもりですか」

 

「それは、工房長として判断を」

 

「この街は危ういバランスの上で立っています。 内容次第では、私としては貴方を斬らなければなりません」

 

一瞬遅れて。

 

背筋が凍り付くかと思った。

 

この殺気というのか。ライザさん達が敵に向けているのと同質のものだ。そしてフェデリーカの今の力では。

 

イメキアがその気になったら。

 

悲鳴を上げる暇すらなく、一瞬で首を刎ねられるだろう。

 

悲鳴が漏れそうになるのを、必死に口を塞ぐ。

 

心臓が飛び出しそうだ。

 

それでも、必死に心を落ち着ける。

 

フェンリルを前にしたとき。

 

あのとんでもない植物の化け物とやりあっているとき。

 

恐怖は、こんなものでは無かったはずだ。だから。とにかく、心の体勢を立て直すんだ。

 

そう言い聞かせながら、必死に呼吸を整える。

 

心臓はばくばく言っているが。

 

それでも、どうにか、なんとか相手の目を見る事が出来ていた。

 

「……父の研究は、硝子と魔石の融和を計るものでした。 百年祭を期に、この街を割って争い続けて来た不毛なギルドを、どうにかしなければなりません」

 

「……嘘は言っていないようですね」

 

「嘘なんて……父の願いは……」

 

幼いフェデリーカに。

 

父は職人の無骨な手で頭を撫でながら、いつもこのサルドニカの明るい未来について語っていた。

 

フェデリーカは一人娘で、職人の才能もあったから、余計に可愛かったのかも知れない。

 

だから、父は嘘を言っていなかったと思う。

 

サルドニカを、もっと人々が笑顔でいられる街にしたい。

 

今は硝子と魔石の対立が酷い。

 

このままだと、哀しみと憎しみが連鎖して。いずれ取り返しがつかない事になる。

 

血を見ていないだけで、喧嘩は日常茶飯事。別のギルドに行こうものなら、勘当なんて当たり前。

 

そんな街になってしまったサルドニカを、もっと平和で風通しがいい街にしたい。

 

そう父は、涙混じりに言っていた。

 

政争で毎日精神をすり減らして。

 

それで寿命まで縮めた。

 

父が死んだ時に、やっと死んだよと、半笑いで言っている職人がいたのを、フェデリーカも今でも覚えている。

 

どちらかのギルドの味方をしないのなら。

 

両方の敵。

 

そう考える輩がいる事を、フェデリーカは後で知った。それ以降、職人に作り笑顔で挨拶することは日常的にするようになったけれども。

 

本心からは、誰も信用しなくなった。

 

逆にそうやって心に壁を作らなければ。

 

フェデリーカは、とっくに精神を病んでしまっていたのかも知れない。

 

ライザさんみたいな豪傑が来た今が好機なのだ。

 

あの破壊的な力で、全てを改革すれば。きっと、父が喜ぶサルドニカを到来させることが出来る。

 

そう思うと、フェデリーカは、何度も涙を拭っていた。

 

「分かりました。 父君の研究については、ある離れた小屋にあります。 今から向かうので、ついて来てください」

 

「は、はい」

 

「ただし街の外です。 最低限の自衛はするようにしてください。 それと、私の関与は、どのギルドにも言わないように。 もしも私の関与が漏れた場合は、即座に斬ります」

 

ぞっとした。

 

何となく理解した。

 

イメキアが。サルドニカの闇そのものなのだ。サルドニカは、今まで多分何度も実際に分裂の危機があった。それを全部影で刈り取っていたのは、イメキアや、その前任者なのだ。

 

ギルドが作っていた他のギルドに対抗するための与太者による部隊とか。

 

そういうのが、一夜で失踪して、誰もいなくなったりしていた。

 

それを作るのを命じたギルド長が、心臓発作で死んでいた。

 

そんな事が何度もあった。

 

魔石と硝子の二つのギルドが致命的な激発を起こさなかったんじゃない。二つのギルドに所属している過激派が、事を荒げる前に魔物に殺されたり不審死したりしていた。きっとこの人が。

 

本人すら認識できないうちに、殺していたと言うことだ。

 

それも、仕方がない。

 

サルドニカが如何に危うい状態にあるのかは、フェデリーカも今はしっかり理解出来ている。

 

誰かが手を汚さなければならなかったのだ。

 

街を二人で出る。

 

そして、鉱山の一角にあるちいさな小屋に、イメキアと一緒に入る。其処には、ちいさな机と。

 

ちいさな手帳が遺されていた。

 

「……お父さん」

 

「すぐに戻ります。 その手帳は、懐に隠すように」

 

「はい」

 

イメキアは抜き身の刃みたいな気配だ。

 

この人の戦力は、柄の悪いギルドの下っ端の職人なんて、全員認識できないうちにみじん切りにしてしまう程のものだろう。

 

分かっている。

 

だからこそ。

 

この人が、ある程度認めてくれた今。

 

ライザさんとともに。

 

サルドニカの闇を、払わなければならなかった。

 

 

 

(続)






サルドニカの膿出し開始です。

ギルド長からも完全に舐められているフェデリーカは、自分で出来る事を最大効率で。

なおかつサルドニカを魔物の虎口から救ったライザの手を借りつつ実施する事になります。

それはある意味とても大きな借りとなってフェデリーカの双肩に乗り続けることになります。
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