暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
サルドニカ編クライマックス。
権力争いに目が眩んでいるギルド長の目を覚まさせるために、フェデリーカは職人としてのプライドが残っている事に賭けます。
それは分が悪い賭ですが、それでももはやこれしかないのです。
序、それぞれの準備
枯れて水分が飛びきった木材を、釜に放り込んでエーテルで分解する。あたしは、順番に最後の仕上げを行う。
当世具足の最後のパーツを仕上げているのだ。
金属部分はむしろ得意分野。
更に、この間トレントのような魔物から手に入れたセプトリエンもある。これをトラベルボトルにセットして。内部で増やしてきた。ジェムをえげつなく食ったが、それでもそうするだけの価値はあった。
問題は内部にかなり凶悪な魔物が出たことだが。
それも、どうにか撃退して。生きて戻ってくる事も出来た。
はっきりいって、それが一番の苦労だったかも知れない。
いずれにしても、以前のバシリスクの体内から取りだしたセプトリエンよりも、純度が倍もある。
これを用いて、更に最高の金属。グランツオルゲンを強化する。
やはりセプトリエン圧縮の経緯は、今のあたしでもよく分からない。どうしてもこうなる前に爆発してしまう。
そして媒体として用いるセプトリエンは。
金属の魔術媒体としての性能をぐんと跳ね上げる。
グランツオルゲンは、それそのものを強大な金属として用いるのではなく。
ゴルドテリオン等と混ぜて、合金とすることで真の威力を発揮する。
そう、使っている内に理解出来た。
そのまま最後の仕上げをして。釜から引き上げる。
マネキンに着せている当世具足は、既に三着。セリさんが戻ってくる。外での薬草の世話を終えたのだ。
「セリさん。 出来ました」
「それがあのウィルタという戦士が着ていた。 兜は随分と変わっているのね」
「元々指揮官級の戦士が着るものらしいので、目立つようにしてあるらしいんですが。 そうする必要がないので、敢えて地味にしています」
「……」
セリさんに引き渡したのは、顔が綺麗に隠れるようにした兜。
当世具足の兜には色々なものがあり。それこそ本当にこれは兜なのかと小首を傾げそうなものもあるのだが。
セリさんのは、木を象ったものを兜の正面につけてある。
着方をレクチュア。
鎧の中には、下着の上からつけるようなものもある。特に金属鎧は、暑くて服なんて着ていられなかったものもあったようだ。専門の下着を着けて、その上から金属の関節部で皮膚を痛めないように専門の服を着て。なんて手順も必要だったらしく。
人間相手には役に立ったかも知れないが。
俊敏な上に凄まじいパワーを持つ魔物相手には、使い物にならなかったから、どんどん衰退していった。
現在残っているのは、以前パティに作った胸鎧などの、要所を守るためだけのものだったり。
皮などで作った軽鎧だが。
この当世具足は、それらのいいとこ取りだ。
勿論相応の重量はあるのだが。
それも魔術を散々組み込んで、あたしが強化してある。
着込んでみて、セリさんは悪く無さそうである。面頬をつけて、それで顔も隠すことが出来る。
指先なども、きちんと手袋になるパーツがあるので、それを身に付ける。
武器としては相変わらず杖だが。
見て分かる。
セリさんの魔力が、更に増幅されている。今までの装飾品にあわせて、この当世具足。これはかなり強力だ。
「貴方たちの文化の産物にしては悪くないわ」
「オーレン族はたしか皮鎧が主体でしたよね」
「ええ。 でもその皮を取る生物がほとんどフィルフサに殺し尽くされて、もう残っていないの」
「……」
リラさんがアンペルさんに出会った時に着込んでいたのが、そういうものだったそうだ。体に良くフィットする皮鎧。
それも、六十年ほどアンペルさんと旅をする内に壊れて。
何度も何度も修理して。
それで、数ヶ月前。
門を封じ、その向こうにいるフィルフサを殲滅する戦いで再会したとき。まだとってあった鎧の残骸を、あたしが修復した。
元に戻った鎧を着込んで、リラさんは一瞬だけ、ぱっと笑顔を浮かべていた。
いつも鉄面皮だったから、本当に驚いた。
だけれども、笑顔は一瞬だけだったが。
軽く外で、一緒に動いてみる。
悪くない感じだ。
セリさんの体格に合わせて作った当世具足だが、全身をくまなく覆っている訳ではなく、急所への攻撃を防ぐ仕組みになっている。
勿論魔物の攻撃をもろに食らったら耐えられないが、それは全身を守るフルプレートな金属鎧も同じ事だ。
一緒に動いてみる。
セリさんは基本的に植物魔術主力に戦う人だが、その気になれば体術も出来る。
以前聞かされた。
此方の世界に来てから、浄化の植物を探して。
その過程で、錬金術師を随分狩ったと。
やはり、エゴのまま好き勝手に振る舞う錬金術師は相当数いて。
オーリムに如何に侵略して。資源を奪い取るか。それをまだ研究している外道の輩もいたという。
そういう連中は、何人も殺してきた。
それには、植物魔術だけではダメで。相応の体術も必要だったと言う事だ。
「この肩の部分は、簡易的な盾になっているのね」
「東の方で使っている弓矢は凄まじい破壊力で、持ち運ぶための盾が使い物にならなかったらしいんです。 それでこういう、振り下ろされる刃物を防ぐための簡易盾が発達したそうです」
「なるほど。 最後まで古代クリント王国に抵抗し続けて、それで激しい弾圧を受けた文化だそうね」
「良く残ってくれていたものです本当に」
お互い苦笑する。
そして、あたしが更にこの当世具足を発展継承させる事も出来たことは、とても良かったのだろう。
セリさんは満足した。
それで、基本的に戦地はこれで過ごすという話をしてくれたので。あたしとしてもそれで満足すぎる程だ。
続いてクリフォードさんが戻って来た。
当世具足は楽しみにしていたようなので。セリさんが普段着に着替えながらも。試しているのを察したのか。
早速聞いてくる。
「ライザ。 そのロマンのある鎧、出来たんだな」
「はい。 クリフォードさん用にはそれですね。 兜はこれでいいですか?」
「おお……指定通りじゃねえか」
大喜びするクリフォードさん。子供みたいに満面の笑みを浮かべているのだろう。いつもマスクだから、目しか見えないが。
クリフォードさんは更に動きやすい形状の鎧が良いと言う事で、情報を集めて陣羽織というものにした。
これは更に軽装の鎧で、本当に人体急所だけしか守らない。その代わり、コートのように羽織るため、柔軟性が高い。機動戦を得意とするクリフォードさんには丁度良い装備である。
兜に関しては、縦一文字だけの飾りをつけている。
本当は鯰尾という変わった形の兜が良いとクリフォードさんは最初言ったのだが。実際につけて見ると、頭を柔軟に動かせない事が分かって、泣く泣く此方にしたのである。まあ作ったのはあたしだけれども。
いずれにしても、身に付けるまで指導して。それで、外で動いて貰う。
ブーメランが、更に力強く飛んでいる。
今までクリフォードさんは防具なんて着けていないに等しかったから、防具分の強化が上乗せされたのだ。
跳躍して、ブーメランを投擲する。
そして、受け取る。
問題なし。
ひゅうと、クリフォードさんが口笛を吹く。
「いいね、ロマンの塊みたいな防具だ!」
「気に入りましたか?」
「最高だぜ」
ブーメランにちゅっとまでしているのを見て、流石に気に入りすぎだなとあたしは少し苦笑いしてしまう。
ともかく、これで予定の分はおっけい。
後は、クラウディアの分だ。
東の地では、「武人の道は弓と馬」だったか、そういう言葉があるらしく。実の所、東の地の装備は弓ととても相性が良いらしい。
これに加えて、当世具足はそもそも固定砲台として戦闘するクラウディアには、防具として丁度良い、
今までは胸当て手甲だけでどうにかしていたが。やはりそろそろそれも刷新するときが来ただろう。
クラウディアが戻って来たのは夕方。
それまでに、あたしは凍らせておいた例の水の調査をしていたが。既に当世具足も完成させておいた。
クラウディアが、食材を仕入れてきたので。それを一緒に戻って来たフェデリーカと一緒に調理し始める。
サルドニカが明確に王都より優れているのは、新鮮な食材を手に入れられる所だろう。
王都は街道を通じて食材を入手していたが、どうしても新鮮なものは手に入れづらく。せっかくの農業区を軽視する愚かしい風潮もあって、食品は塩漬け砂糖漬け香辛料づけである事が多かった。
これに対してサルドニカでは幾つかのギルドがしっかり割拠した結果、ちゃんと街の一角に畑や厩舎が存在していて。それらできちんと新鮮な食糧が供給できる体制を整えているし。
何よりも、サルドニカ近辺の幾つかの街との距離が近く、傷む前に食材を手に入れる事が出来る。
食事に関しては、既に第一都市だなと。
クラウディアが笑顔で持って来た魚の包み焼きをいただきながら思う。この魚は、クーケン島で捕れた汽水域の魚に比べて若干味が違うが。普通に美味しい。
「ライザさん、健脚なだけでなくて、凄く食べますよね……」
「食べた分は全部消費してるから問題ないよ」
「それは分かります……」
フェデリーカが遠い目で言う。
まあ、あたしも魔力を毎日極限まで絞り出してエーテルにして調合をしているし。運動もがっつりしている。
今食べている分は、今日消耗した分だ。
食べ終えてから、クラウディアに当世具足をプレゼントする。クラウディアは、当世具足を見て、少し考え込んだ。
「色をどうにか出来ないかしら。 白くはならない?」
「これって植物染料で防御力を上げているんだよね。 白はちょっと難しいけれども、別の色だったらいけるかも」
「全体的に黒系統、もしくは赤系統の色になるのね」
「灰色系統ならいけるよ」
クラウディアは少し考え込む。
クラウディア用に作ったのは、かなり重装の当世具足だ。これはクラウディア本人の要望でそうした。
クラウディア自身が、そもそも機動力よりも投射火力を重視した戦闘スタイルなので、重装備がいい。
ただ今の時代、身動きできないのは論外なので、現状の機動力を重視しつつ、魔術による攻撃程度だったら跳ね返せるようにする。
それが要求事項だった。
それで、こういったフル装備型の当世具足にしたのだが。
ちなみに兜は「鍬形」と言われる、クワガタムシに似ているものだ。これに関しては、シンプルで良いそうである。
ただこれにも工夫をしてあって、クラウディアの生命線である音を阻害しないように、耳の部分を開けてある。
本来の兜にはない造詣だが。それもクラウディアは音魔術のエキスパートである事を考慮すると仕方がない。隙になるが、それはクラウディア自身でカバーしてもらうしかないだろう。
それらについて、説明もするが。
クラウディアは考え込んだ後、注文をつけてくる。この辺りは、流石にバレンツの事実上の支配人。
色々と難しい事情もあると言う事だ。
「ごめんライザ。 着色については、やはり灰色系統……それも出来るだけ明るい色に出来るかしら」
「分かった、調整するよ。 これってバレンツ主導での討伐作戦で着ていくための調整?」
「うん。 バレンツでもやっぱり、魔物の討伐作戦は主導ですることが増えていて。 私も時々、戦線に出るんだ。 その時に、ある程度目立った方が、味方の被害を減らせると思うから」
今のクラウディアの技術だったら、大概の射撃攻撃はいなせるし。無理に突っ込んできた四つ足の獣だったらそれこそ頭から尻まで串刺しに出来る。問題は肉弾戦だが、今のクラウディアならそもそも相手を接近させない。クラウディアでも接近を許すような相手は僅かで。そういう相手であるという判断も今なら出来るだろう。
とりあえず、着色については細かい指定を貰ったので、それについては調整する事にする。
一度当世具足を脱いで貰うが。
これは殆ど、普段着の上から着られる。
それでこれだけ軽いとなると。
金属鎧ほどの防御力がないとしても、対魔物戦ではこれが正解では無いのかと思えて来る。
あたしについては、まだちょっと正解が分からない。
足技を主力にしている事を考えると、この当世具足でもまだ重装に思えて来るのである。
いずれにしても、何かしら考えないといけないだろう。
被弾したときのダメージが洒落にならないのは。
フィルフサや、それに近い戦闘力を持つ魔物との交戦で、何度も感じていた事なのだから。
程なくして、皆がアトリエに戻ってくる。
そこで、フェデリーカがメモ帳を公開。あたしの研究がある程度進んだところで、出すつもりだったらしい。
すぐにタオが解読を始める。
「これで大当たりだね。 見て。 かなり細かい所まで研究が進んでいたみたいだよ。 硝子の方は溶かす事に成功していたみたい。 ただ魔石を滑らかに溶かす事が、どうしても上手く行かなかったみたいだね」
「やはり、まだ完成していなかったんですね」
「完成していたら、即座に公開していただろうからね。 ライザ、この研究の引き継ぎって出来るかな」
「……任せて」
研究の内容を見て、どうすればいいかはだいたい分かった。
というか、やるべき事は既にフェデリーカのお父さんがあらかたやっていてくれた、という感じだ。
ただ、フェデリーカのお父さん。先代工房長は、どうしても職人だった。
職人であり、街の政治的な調整をしなければならない立場だった。
だから研究にとれる時間も少なかったし。そもそも、研究そのものも文字通り総当たりでやらなければならなかったのだろう。
昔、人間の数が多かった時代。
タオが言うには、学術院のような場所はいたる所に存在していた。
それらは必ずしも俊英が集っていたわけではなかったのだろう。現在の学術院もそうであるように。
だが、それでも研究をする余力は社会に存在していて。
それは人間の力になっていたのだ。
その時代だったら、フェデリーカの父上も。この研究を完成させる事が出来ていた可能性が高い。
いや。そもそも。
この程度の技術は最初から存在していて。
こんな一生を掛けての苦労を、寿命を縮めてまでしなくても良かったのかも知れなかった。
三百万人も此処には住んでいたのに。
神代の人間は、一体何をしていたのか。
そういう怒りがわき上がってくる。
あたしだって、一応は神代の人間の血を引いているのだろう。いや、いま生きている人間全てがそうか。
だが、それはなんだか恥ずかしい事に思えて来る。
古代クリント王国に至るまで、人間は血で血を洗う争いを続けて来た。
これは羅針盤を手に入れて、各地の遺跡で残留思念を見ることで知った。古代クリント王国ですら模倣者に過ぎず。それも、他と似たような事をしていた国家が、ただ勝ち残ったに過ぎないという事を。
古代クリント王国は邪悪の権化だったが。
それでも、他のも大して変わらなかったのだ。
古代クリント王国がフィルフサとの全面戦闘で潰れてから。
人類は数十分の一まで撃ち減らされ。今でも増加の見通しは立っていない。
それなのに、人間は何か神代から良くなったのか。
変わったのか。
それは、否だ。
あたしもそれは理解出来る。
こういう研究一つを見るだけでも。
これだけ、一生を掛けて苦労して努力してきた人が、報われたか。認められたか。
やっと死んだ。
そうひそひそと笑っているギルドの人間達。
その姿が分かる。
羅針盤は、今でも使っている。
残留思念は、たまに確認している。
感応夢だって見る。
だから分かってしまうのだ。
人間の性根は、今も昔も変わっていないという事実を。
むしろ善行を積む人間がいたら。
そういう人間を優先的に貶めて、攻撃するのが人間という生物なのでは無いのだろうかと、あたしは思い始めている。
周りにいる皆は違う。
だけれども、皆は揃って変わり者揃いだ。
人間という種族という観点で言えば。
神代から古代クリント王国の破綻を経ても。なんら学習せず。それどころか、自己正当化と他者否定をずっと続けているのが人間ではないのか。
大きくあたしは溜息をついていた。
なんだか、とても無駄な事をしているように思えて来る。
各地であたしは業績を上げた。それも、バレンツがこうしてたまたま後ろ盾になってくれていなければ。アーベルハイムとたまたま連携をとれていなければ。全て魔女の仕業とでもされて。
むしろ迫害を受けたかも知れない。
あたしもそれで黙っているほど温厚じゃないから、当然その時はやり返していただろう。
そうしたら、人間は滅びていたのだろうか。可能性は、否定出来なかった。
「明日中には、この研究、完成させるよ」
「父が……一生掛けた研究だったのに」
「分かっていると思うけれど、ない時間から、必死に時間を裂いての研究だったんだよフェデリーカ。 それに元々フェデリーカのお父さんは職人で、研究者じゃなかった。 効率が悪かったのは、仕方が無かったんだよ」
「はい……」
フェデリーカが悔しそうに、顔を歪める。そして、何度も涙を拭っていた。
クラウディアが、フェデリーカの肩を抱いてつれて行く。あたしは皆に告げていた。
「フェデリーカもあたしもやる事がある。 明日、皆で周辺の魔物の掃討を続けてくれるかな」
「分かった。 俺がその作戦は指揮を執る」
ボオスが挙手。
今後の事を考えると、あたしの副官としての役割を果たす人間がいる。もっとこのチームは規模が拡大する可能性が大きいからだ。
そしてボオスは、クーケン島の次期指導者として経験を積まなければならない。
四年前までのチンピラの如き行動で、島をまとめられる訳がない。
それはボオスも理解しているのだ。
「分かった、今回は任せるよ。 みんな、異存はない?」
反対意見はでなかった。
あたしは、ボオスに周囲での掃討作戦を任せると。既に分かっている研究成果と。今後どうすれば良いかを、すぐにまとめ始める。
サルドニカが滅ぶか、次の段階に発展するか。
それが決まるときが、近付こうとしていた。