暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
人間は簡単に変わることはありません。少なくとも良い方向には。多くの人間をこれでも見てきましたが、基本的に大半の人間は幼児から本質が変わらないですね。ましてや他人に変われと宣う人間が、自分が変わっているのを見た事がないです。
それでも少数ですが良い方向に変われる人もいるにはいます。
そういう変化は、尊ぶべきでしょうね。
フェデリーカが、今までになく気合いの入った表情になっている。あたしも側で見ていて、この子が一皮向けたことは、一目で分かった。
まだ変われる年だ。
人間は、簡単には変われない。
殆どの人間は、生まれてから死ぬまで変わらない。正確には年を経れば性欲が追加されるけれど、せいぜいそれくらい。
いつまで経っても同じ人間は同じだ。
そんな中で、ごく希に変われる人間はいる。
フェデリーカはそうだった。
ただ、それだけの話だった。
工房長の館に入ると、即座にフェデリーカはアンナさんに指示。アンナさんは、即座に数人の部下に指示を出して。
慌ただしく館を出て行った。
セリさんには外の警備を担当して貰う。クラウディアも。
クリフォードさんは内部の警備だ。
勘が鋭いクリフォードさんには、至近での問題に対応して貰う方が良いだろう。音魔術のエキスパートであるクラウディアには、そもそも危険物を探知して、外で危険を排除して貰う。
工房の前にて、レントは陣取る。
そして、奥の方に、タオ、ボオスがそれぞれ展開。
そうすることで、何があっても対応できるようにする。
あたしはフェデリーカの補助だ。
これらについては、既に話をつけてある。レントが外で話をしているようだった。話している相手は、多分ウィルタさんだろう。
特に険悪な雰囲気はない。
「フィー、大人しくしていてね」
「フィー」
懐で、もぞもぞとフィーが動く。
もう完璧に人間の言葉は理解出来ている。ただ人間の言葉を発する事が出来ないだけである。
さて、後は待つだけだ。
「タオ、問題は無さそう?」
「大丈夫」
「ボオスは」
「右に同じ」
クリフォードさんは、鋭い目つきで壁を見ている。
さては外に何かいるな。
ただ、今の時点では放置しておいていいだろう。なお、クリフォードさんは当世具足がお気に入りになったようで、今日も着て来ている。
以前はコートだったから、かなりのイメチェンだが。それはそれとして、当世具足は既に実戦投入され。
実に使いやすいと、クリフォードさんは絶賛していた。
工房長の館に、人が入ってくる。
アルベルタさんとサヴェリオさん。
その取り巻きが数人。
更には各ギルド長だ。
「百年祭について重要な話があるということだが、間違いないだろうか」
アルベルタさんが言うと、それに対して舌打ちするサヴェリオさん。此処で先手を取りたかったのだろう。
だが、いずれにしても。
咳払いすると、フェデリーカはきっと二人を見た。
驚いた。
やっぱりこの子、相当ため込んでいたんだなと言うのが分かったからだ。
サヴェリオさんもアルベルタさんもどちらもそうだが、職人としては全うなのだ。だが政治闘争で権力遊びを始めると、とたんにダメになる。
それはあたしも見て理解していた。
ヴォルカーさんやパティのような例の方が希なのだ。
相手を好き勝手にさせる事が出来る権力。
これに酔ってしまう人間は、やはり多い。
この二人も、そうだったという事である。
「その前に、二人にこれを見せます」
「ふむ?」
「ライザどのの作った凄まじい品を見た後だと、大抵のものには驚かないですが」
「これは、ライザさんにはわずかな技術だけを提供して頂き、ほぼ全てを私が作りました」
二人が黙り込む。
そして、場に出て来たのは。
いわゆるスタンドライトだった。
ただし、硝子と魔石が非常に精緻に組み合わされている。そして、それを乱暴に上下に振ってみせるフェデリーカ。
勿論びくともしない。
更に、魔石の一部には取り外し機能がついていて。其処には魔法陣が刻まれている。
光らせるだけの簡単な魔法陣だが。
それを作動させると。
スタンドライトは、美しい虹色の輝きを、辺りに照らし出していた。
明るすぎず、暗すぎず。
灯りを周囲を覆う硝子で緩和することで、上品に仕上げているのである。
なるほど、これは凄い。
確かに高級な嗜好品としては、最高級の品になるだろう。
恐らく庶民の手には永久に渡らない品にもなるだろうが。
今、技術を磨くことに溺れきっているギルド長や職人達には、それこそ青天の霹靂の品である筈だ。
「こ、これは……!」
「硝子と魔石の接合! それも接合部分が全く見えない!」
「工房長。 触ってみてもよろしいか」
「壊さないように注意してください」
険しい目でフェデリーカが見張る中、アルベルタさんとサヴェリオさんがそれぞれ手袋をして前に出る。
そして、丁寧に触って、その度に感心していた。
これそのものが、そもそもそれぞれの。魔石と硝子の加工技術の粋を極めた品なのである。
恐らく、設計図を引いたのはフェデリーカなのだろうが。
原案はフェデリーカのお父さんなのだろう。
美しい光は上品で、そうしている間にも周囲を照らしている。アルベルタさんが、冷や汗を何度も拭っている。サヴェリオさんも、何度も真っ青になって、口をつぐんでいる様子だった。
「これを実行するのに必要なものをドゥエット溶液と言います。 製法は説明しませんが、試験的に用いるのに充分な量は此方で用意しました。 使い方のマニュアルも、それぞれのギルド用に準備してあります」
フェデリーカが、冷えた声で言う。
そうすると、アルベルタさんもサヴェリオさんも、一旦さがって、皆を抑える。職人達は、皆黙り込んでいた。
ギルド長がこれほど取り乱しているのだ。
ヤジなんて、怖くて飛ばせないのだろう。
「百年祭のために、ギルド長達に指示を出します」
「はいっ!」
「なんなりと!」
アルベルタさんとサヴェリオさんが、頭を深々と下げる。
理解する。
この時、名実共にフェデリーカはサルドニカの長になった。今までは人形に過ぎなかった。
だが、職人としての二人の本能を、こうして刺激する事に成功したのだ。
獣は強い相手にのみ従う。
そういうやり方を採った。
フェデリーカのやり方は、知的生命体のやり方としてはどうだったのだろうかとちょっと思うが。
それでも、少なくとも。
今まで完全に舐めていた二人を、従わせることには、これで成功したのだ。
例え背後にあたしがいるとしてもだ。
「これより魔石ギルド硝子ギルド、他ギルドも全てが協力して、百年祭の準備を開始しなさい。 百年祭の目玉になるモニュメントは、魔石ギルドと硝子ギルドが、この接合技術を用いて作るように。 双方に上下なし! 両ギルドの総力を挙げて、サルドニカの恥にならぬものを製作せよ!」
「はっ!」
アルベルタさんとサヴェリオさんの声が、綺麗に重なった。
それで、他の職人も理解したのだろう。
一斉に、フェデリーカに頭を下げる。それは、むしろ美しいほどの光景だった。
マニュアルを持って、アルベルタさんとサヴェリオさんが工房長の館を出ていく。先にマニュアルを吟味して貰い。後からドゥエット溶液を渡すことで、効率よく作業を行う。そういう流れだそうである。
あたしは椅子に座ると、無言になってしまったフェデリーカの側で、よくやったねと声を掛けたかったけれど、それは止めておく。
しばらくは、黙っておいた方が良いだろう。
フェデリーカはしばらく黙っていた。恐らく、力を使い果たしたのだと思う。あたしも無言で、立ち上がるまで待つ。
立ち上がれないかも知れない。
いずれにしても、ここからがサルドニカの正念場だろう。
「ライザさん」
「うん?」
「私、ついていってもいいですか? 恐ろしい神代の遺跡を調査しているんですよね」
「……」
ふむ、それは考えていなかった。
一緒に行動している間だけでもと、伝えられる事を伝えていたつもりだったのだけれども。
そう言ってくれるのは、とても嬉しい。
「フェデリーカは、もっと大きくなりたいの?」
「はい。 ライザさんと一緒に行けば、恐らくはもっと成長できると思います。 サルドニカは、当面アンナだけで大丈夫でしょう。 ギルドは陰湿な政治ごっこよりも、当面は技術の拡張に躍起になると思いますから」
「そう……」
「ダメ、でしょうか」
あたしは別に問題ない。
クラウディアは、にこりと笑みを浮かべた。そうか。クラウディアは賛成か。
他の面子で、反対しそうな人はいないな。
タオが、声を掛けて来る。
「ライザの技量だったら、多分一季節……いや二季節くらいかな。 それくらいで、調査は終わると思う」
「それだったら、多分大丈夫だと思います。 百年祭に、みなさんを招待できると思います。 それも、一番良い形の百年祭に」
「分かった。 反対意見は?」
「良いんじゃないのかしら。 テクノロジーの担い手がいるのは有用だわ」
一番問題を提起しそうだったセリさんがそう言うのでは、特に問題はないと判断して良いだろう。
なら、反対はなしと言う事で。
あたしはいいよ、と告げると。
ぐったりした様子で、フェデリーカは椅子で頭を抱えていた。
「分かってるんです。 ライザさんと一緒に行ったら、フェンリルとかこの間の魔物とか、もっと恐ろしいのと散々戦う事になるだろうって事は。 世にも恐ろしい世界の裏側を見る事になることも」
「分かっていても、見たいんだね」
「はい。 サルドニカの政治闘争を幼い頃から見て来て、大人って怖いなって思って来ました。 でも、それって所詮このサルドニカの中の権力を巡っての醜い争いで、子供の喧嘩の延長線上だって分かったんです。 気分次第で施政や人事を決める政治家なんて、子供のグループと同じじゃないですか。 「不興を買ったから職を追われた」なんて、バカみたいです。 ライザさんと一緒に行けば、多分そんなのよりもっと怖いのをたくさん見る事になって、それで……」
がくがくと、フェデリーカの足が震えているのが分かる。
やっぱりこの子。
なんだか嗜虐心を誘うな。
舌なめずりするあたしを見上げるフェデリーカ。びくりとあたしの眼光に身を震わせると。
それでも、必死に拳を固めて立ち上がっていた。
「お願いします。 私に、世界の深淵を見せてください」
「任された。 ただ、私と一緒に行くと言う事は……いつ死んでもおかしくないから、それは理解してね」
「はい」
「アンナさん」
頷くと、アンナさんが来る。
まあ、この様子だとフェデリーカの決意については悟っていたのだろう。アンナさんはフェデリーカの理解者だ。色々な意味で。
あたしとアンナさんで、幾つか話をしておく。
フェデリーカは疲れきってしまったようなので、先にアトリエに行って貰う。
「流石に無期限に工房長を連れ出すのは困ります。 戦死のリスクについては貴方たちがいる事を考えるとかなり抑えられるとは思いますが。 定期的に進捗の連絡をお願い出来ますか」
「分かりました。 バレンツ経由で進捗については状況をお知らせします。 期限は現時点で二ヶ月を予定しています」
「了。 此方でも、工房長の能力的な成長には期待したい所です。 貴方方との旅を短時間経験しただけで工房長はかなり成長を見せていました。 此方としても、これ以上の成長は望むところです」
なるほどな。
アンナさんは例のメイドの一族だが、その視点からしてもやはりフェデリーカは頼りなかったのか。
だとすれば、成長する事はサルドニカの事実上の支配者からしても好ましいと考えているわけで。
人形を置いてそれで支配しようとは、この人達は考えていないという事にもなる。
そういう観点では、人間の悪辣な大御所政治をやらかすような輩よりも、こっちの方が十倍もマシだ。
それに、フェデリーカがいなくてもサルドニカが廻っていたことを考えると。
この人達の実務能力は、実際に高いと言う事だと思って良いだろう。
ボオスとクラウディアに、後の始末を頼む。
あたしは、タオに必要そうな資料を集めるように指示して。アンナさんも、それに協力してくれるという事だった。タオも頷くと、資料のメモを取り始める。結局の所、此処ではあまり分かる事は多く無かったが。
それでも、幾つか分かってきた事がある。
少なくとも錬金術師が。アンペルさんも知っている人物だろうその者が、サルドニカに来たのは恐らく偶然じゃない。
門の存在、明らかに神代の手が入っている鉱山。それに神代の生物兵器。それらと無関係とは思えないのだ。
あたしとしても、現在四苦八苦しているらしいアンペルさんとリラさんに、手紙を書いて見たものをまとめておく。
アンペルさんはあまり自己評価が高くないが、百年間門を閉じ続けたり。暗殺者と一世代やり合い続けた経験は本物だ。
だから、意見は充分に聞く価値がある。
手紙を送り。
色々な処理を済ませている内に、一日が経つ。
タオも戻って来て、幾つかの資料を見せてくれた。それによると、「エミル」なる錬金術師に関する幾つかの資料が見つかったようである。
「それでどう」
「内容が断片的でどうにも結論はできないんだけれども。 ただ……エミルと言う人物は、ライザの言う通り、意図的にここに来たと見て良さそうだね」
「……やはりね」
「此処には何かがある。 だけれども、まず僕達がやるべき事は、あの群島の奥にある宮殿の調査だろうね。 幸いあの群島は、水に囲まれているし」
その通りだ。彼処だったら、もしもフィルフサがわんさか現れても、撃退は難しく無い。更に凶悪な存在が現れる可能性はあるのだが。
それはどうにかする他無かった。
ともかく、だ。
一つ、話しておくべき事がある。
「サルドニカの北での戦いをみんな覚えてる?」
「ああ」
「……色々な魔物が連携して襲いかかってきたよね」
「そう。 姿は見ていないけれど、あの翼と槍の魔物がいたのかも知れない」
それに、錬金術師エミルとやらが、ここに来たのは偶然ではなかった可能性が高い事を考えると。
此処には失伝した何かしらの情報があって。
そして、或いはだが。
二百年以上前にも似たような事があって。
その時にも、錬金術師が来たのかも知れない。サルドニカの元になった街の歴史は二百年以上あるという事だった。
その時にも。
錬金術師が関わっていたとしても、不思議ではないのだ。
それらを話している内に、ミーティングの時間が終わる。クラウディアが、咳払いをした。
「バレンツの方はもう終わったよ。 いつでも此処を発てる」
「よし。 じゃあ、明日にはサルドニカを離れよう。 アトリエの中のものの内、殆どのものは持ち帰るよ。 冷気魔術による保存を行っておくから、傷むものは無理に処理しなくてもいいからね」
「ライザ、そういうのどんどん進歩しているね」
「うん。 あたしも門を四回これでも閉じたからね。 その度に色々あったし」
フェデリーカは疲れ果てて、ぼんやり話を聞いているようだが。
いずれにしても、あまり期待はしていない。
とにかく、無茶な事が多くて疲れ果てたのだ。
今はこれでいい。
いずれ、逞しく育ってくれれば。それで問題ないと、あたしは考えていた。
最初から英傑だった人間なんかいないのだから。
全ての準備を終えて、アトリエを発つ。四台の荷車に荷物を分配して、それで皆で守りながら帰路を行く。
サルドニカ付近で、アルベルタさんとサヴェリオさんが待っていた。
二人はフェデリーカに敬礼して、それで幾つかの引き継ぎをしていたが。アンナさんが側にいたので、問題は無いだろう。
あたしにも、二人は話しかけてくる。
「ライザ殿」
「はい」
「我等二人からも、工房長をお願いいたします。 サルドニカは変わろうとしている。 新しい技術のおかげで、馬鹿馬鹿しい対立を皆が忘れて、それで必死にそれを解読しようと試みている」
そうか。
腐りきっていなかったんだな。
それはとても良い事だと思う。
サルドニカは発展している途上の街だったが。それでも、やはりそれには無理が来ていたのだ。
これでまた、サルドニカは更に先に進む事が出来るだろう。
勿論それだけではダメだが。
クラウディアと相談して、傭兵の仕事を斡旋するように話をしておいた。これからバレンツの斡旋で、サルドニカには傭兵が流れ込んでくる。
サルドニカの街だけではなく、周辺の集落を守るのに人手が足りていない。
それを補うための処置だ。
こういった傭兵達は食事だってするし生活だってする。
そういう食事を作る仕事や、生活をする仕事だって立派な仕事だ。
雇用が生まれて、それだけ経済が動く。
それでバレンツも潤う。
皆に良いことなのだ。
「全力を尽くして、フェデリーカさんが成長できるように機会を作ります」
「よろしくお願いします」
「偉大なる英傑に幸あれ」
そういって、恐らく最高級の品だろう。硝子細工の美しい腕輪と。同じく魔石細工の同じデザインの腕輪を貰った。
なるほど、これは鑑賞用の嗜好品だが。
しかしながら、錬金術に応用すれば。色々と出来そうだ。
敬礼をして、その場を離れる。
後は、港町まで行く。行きよりもずっと安全になっている。サルドニカに滞在している間、機械をたくさん直した。この辺りの集落にある機械も幾つも直した。それもあってか、あたし達を見て、手を振っている人も多い。
手を振り返して、この場を去る。
あまり長い期間はいられなかったが。サルドニカに良い変化をもたらすことが出来たのは事実のようだった。
気になるのは、アンペルさんとリラさんから返事が来ないこと。
サルドニカに門が存在していた事。
閉じられていた事。
それも手紙には記載したのだが、それに返事がなく、アクセスした形跡もないというのが不可解だ。
やはり、捕まってしまったのかも知れない。
ともかく、まずはクーケン島に戻り。群島奧の門を調べ直すしかないだろう。その間に、何か分かるのかも知れないのだから。
鍵を作って見る。
「思いついた」レシピで作った鍵は、あれから色々試してみたのだが。竜脈に使う事で、その力の一部を吸い上げる事が出来る様だった。
だが、どうにも微弱で、使った所で特に大きな効果はもたらすことがない。
しかしながら、これが神代の連中が何かしら仕込んできた悪さだったとしたら。
何かあると見ていい。
船が来ている。
クラウディアがきちんと案内してくれて。皆でクーケン島行きの船に乗る。タオが、港にあるバレンツ支部で手紙を受け取って、渋い顔をしていた。
「どうしたの?」
「王都の方で面倒ごとが幾つも起きているようだね。 僕の方でも進捗はパティに書いて送っているんだけれども。 パティの方も相当に参っているのか、愚痴を書いてきてる」
「それだけタオを信頼しているって事でしょ」
「うん。 博士号をとった以上、僕は婚約までのアリバイ作りだとかで、しばらくはアーベルハイムの側にいない方が良いらしいからね。 だから承知している筈なのに、ちょっとパティも甘えが出て来たのかな」
おや意外。
アーベルハイムのためを思って、考えるようになってきている。
パティの事が嫌いではないということは分かっていたが。それでも、こういう風に考えられるのは立派だ。
パティには指一本触れていないが、しっかり思っていると言う事なのだろう。タオなりに。
よく分からないものだ。
あたしはなんというか。
寿命を超越してから、人間的な欲がどんどん減ってきている。
真っ先に性欲がなくなったが。最近では食欲もコントロール出来るようになってきていた。
それを考えると、あたしはこれからどんどん人間ではなくなっていくのだろう。
そう思うと、皆の人間らしさが。
いつか、まぶしく見えてくる日が来るのかも知れない。
あの四年前の、乾期の冒険のように。
ただ、それはまだ先だ。
船に乗る。
ボオスは気合で耐えると言って、船室に。
必要がなければ呼ぶな、という事だった。
あたし達もめいめい船の各所に散る。
タオは回収してきた、エミルだとか言う錬金術師についての情報をまとめて整理するそうだ。
とにかく雑多な上に色々な視点で書かれているので、整理に時間が掛かるらしい。
他の皆も、自由にそれぞれ過ごし始める。
あたしは船室を貰うと、其処でフィーを膝に乗せて、ぼんやりと鍵を見つめていた。
この鍵。
未完成だとすると。
ふと思い出す。
硝子は、材料成分を熱して溶かして、そして冷やして形にした。硝子は個体に思えるが、エーテルに溶かしてみると、その性質が液体に近い事を理解出来た。
魔石は元からあるものを削り出す。
それは彫刻に近い技術だが。
この二つ、何かが気になる。
「そうか……」
「フィー?」
「この鍵、そもそもスカッスカなんだ。 作る時に何となくそう感じていたんだけれども、多分竜脈の力を吸収した後に鍵として固定化する時に、すかっすかだから力が逃げていくんだ」
魔石細工は彫刻だが。
下手に空気に触れる面積を増やさないように綿密に掘るし。なんなら掘り終えた後に特殊なニスを塗って空気に触れないようにする。
硝子細工も、下手に空気が入り込むと、気泡と言って残念な泡が出来てしまい、せっかくの透明度が台無しになる。
それと同じだ。
錬金釜は持ち込んでいる。
そしてあたしは、釜に地水火風の素材を放り込むと。エーテルに溶かして、要素を分解する。
鍵は魔力を吸収する。だが、それだけではダメだったのだ。故に、これから調整する。
その後固定化するために、魔力を「吸収」の性質。魔力を「保護」の性質。それに、状態を固定する「頑強な外殻」の性質を、それぞれ鍵に持たせる。
そうすることで、今までとは比較にならない性能を持たせることが出来るはずだ。
何度か練習している内に、夜になっていた。
クラウディアが呼びに来て、夜だと言う事に気付いたほどだ。
食事に行く。
「クラウディア、ヒント掴めたかも知れない」
「魔石と硝子を知った結果?」
「うん」
「良かった。 新しい技術に触れると、やっぱり色々と出来る事が増えるよね」
その通りだ。
技術に罪はない。使う人間がいつも悪用するのである。
あたしは食事を終えると、寝るまで研究を続ける。この鍵を完成させるのは、相当に手間だ。
だが、数日でやってみせる。
少なくとも、クーケン島に着くまでには。それくらい出来なければ、何か考えて仕掛けて来た傲慢な神代の何かに対して、鼻っ柱をへし折る事が出来るとは思えなかった。